剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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皆でお昼寝をして元気は満タンだ。


30 ダンジョンへ

昼寝の時間はロキが襲来したことにより終了した。黙って一緒に寝ればいいものを大声で萌えーと叫びながら飛びかかったせいで危険を察知したレベル5の面々に撃退された。

後に両頬に手形をつけてリヴェリアに泣きついているロキが発見されたが更に話を聞いたリヴェリアにデコピンをされたのはいうまでもない...

 

翌日 フィンの執務室

 

フィンの執務室にはロキ、フィン、リヴェリアがおり書類に目を通していた。そこへ完全武装をしたベルとアイズが入室した。余談ではあるがアイズとの訓練が激しすぎてベルの防具兎鎧(ぴょんきち)は既に3代目である...

 

「フィン、今いい?」

 

書類に目を通していたフィンが顔をあげ二人の様子を確認して微笑んだ。

 

「その様子を見るとこれからダンジョンに行くようだね。アイズもいることだし問題はないだろう」

 

「そやなー今のベルのステイタスなら全く問題ないな、後はモンスターと対峙する経験だけや」

 

二人の様子をみていたリヴェリアは一度部屋を出ると様々な種類のポーションが詰まったポーチを持ってきた。

ベルは耐異常のアビリティがない為、毒や麻痺といった異常に対抗することができない。アイズはそのことを失念していた為、体力やケガを治療する為の物しか用意していなかったのだ。そのことを見ただけで察知したリヴェリアはさすがといえるだろう。

 

「アイズ、上層といえど油断するなよ。何が起こるか分からないのがダンジョンだ。ベルは私の座学をよく理解してくれている、後は適切に無理をしながら実践を積んで来い」

 

そういうと二人の頭を撫でた。二人は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった...

 

ダンジョンに行くという報告をしにきた二人だが全て先読みされてしまった為、行ってきますという言葉だけのこしてバベルへと向かうことにした。

 

バベル

 

バベルにはこれからダンジョンへ潜る冒険者で溢れている。様々なファミリアの団員達がソロであったりパーティーを組み挑むようだ。その中でもアイズの姿はひときわ目立つ、数少ない第一級冒険者でありその容姿は非常に美しい...しかしアイズ...ロキファミリアに対して嫉妬する者もいることを忘れてはいけない。無論アイズが直接狙われる可能性もあるが、他の団員...ベルが狙われる可能性もあるのだ。

 

ベルと共に担当者であるエイナの元まで行きこれからダンジョンに潜ることを報告する。

 

「これはクラネルさん、ヴァレンシュタイン氏、ようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

エイナは先日調べた件のことは保留としいつもの微笑を浮かべながら応対していた。

 

「ええと、これからアイズさんと一緒に初めてダンジョンに行ってきます!」

 

ベルの元気な声と笑顔で他のギルド職員も思わず頬が緩む。

 

「リヴェリア様からご指導を受けていると思いますが、決して無茶な冒険はしないようにしてくださいね!」

 

「大丈夫、ベルの実力なら上層は問題ないと思う...ただもしも...ベルに手を出そうとする冒険者がいたらロキファミリアが、私が許さない...」

 

どこからか二人に向けられた視線、それは決して友好的なものではなかった。視線には気が付くことができても誰からかまでは感知できないほど一瞬であったがアイズとしては見過ごせないものだった。自分一人なら問題ないがベルが一人の時に手を出されたらと考えただけで心の炎が黒く暗くなりそうだった。故にギルドにいる全ての者に対して警告したのだ。ベルに手を出せばロキファミリアが、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインが相手になると。

 

その場にいる全ての者を凍らせるような声音だった...

 

「アイズさん?」

 

ベルの紅い瞳を見つめると心が安らぐ...今すぐにでも抱きしめてもふもふしたい気持ちを無理やり抑えてベルの手を握った。

 

「大丈夫だよ、それじゃあ行こうか」

 

はりつめた空気はアイズが気を緩めると同時になくなり普段通りの賑わうギルドに戻っていた。妙な視線も今は何も感じない...

 

ダンジョン一階層

 

「ここがダンジョン...!」

 

(あれ?...僕この場所を覚えているような気が...)

 

「ベル?どうかした?」

 

茫然と立ちすくむベルを心配してアイズが声をかけてくる。

 

「いえ、なんでもありません!大丈夫です!」

 

(僕今日が初めてダンジョンに来たはずなのにこの感覚はなんなんだろう...)

 

「じゃあ行こうか、探索をしながら上層に出現するモンスターと戦っていこう。最初の内は今のベルの実力から考えて少し物足りないかもしれないけど、厄介なモンスターもいるから私と一緒にいる間に上層に出現するモンスター全種類と戦って慣れておいて」

 

アイズの話が終わると同時にゴブリンが出現した、数匹がこちらの様子をうかがっているのがわかる。

 

「ギィィ」

 

「ギャッギャ」

 

何やら話し合いが終わったようでこちらに向かって走りだした。

 

「...遅い...?」

 

アイズの方に目をやると微笑しながら無言で頷かれた為、その反応を確認した瞬間に走り出した。地面をけりゴブリンに接近するとすれ違いざまに一閃...その動作一つで目の前の2匹を瞬殺した。

後方に残っていたもう2匹が腕を振り上げ襲ってくるがその動作一つ一つが非常に遅く感じる。最小限の動作で攻撃をよけると回し蹴りを放ち2匹とも壁に叩きつけた、魔石を残しゴブリンは灰となって消えた...

 

ベルの感覚は正しい、ここ数日の間アイズやベートといった第一級冒険者に指導を受けていた為感覚が鋭くなっているのだ。そもそもアイズ達より強い存在など上層にはいない...

 

「ベル、モンスターを倒したら魔石は必ず拾っておいて」

 

「はい!リヴェリアさんから教わりました。モンスターが魔石を食べてしまう場合があるんですよね?」

 

ベルが実技だけでなく座学もまじめに取り組んでいることがわかりアイズは嬉しそうだ。

 

「よく勉強しているね、モンスターが魔石を食べるとその味を覚えて他の魔物を襲いだすの。そうすることで強化種という存在になる。強化種はそのモンスターより遥かに強い能力を持っていて昔多くの犠牲が出たことがあるみたい。たしかその時はフレイヤファミリアが討伐したはずだけど...」

 

「そうなんですか...取り残しがないようにちゃんと拾っておきます!」

 

今現在倒したゴブリンの魔石をバックパックに収納した。

 

「今日はこの調子で12階層まで行こうか、10階層を超えると大型のモンスターも出てくるから気を付けてね。魔石は後でギルドで換金できるから」

 

この後順調に階層を進み、ウォールシャドウやキラーアント、オークなどを撃退しつつ仲間と連携して動くことをベルは学んで行った。基本的にはアイズがその他大勢を担当しなるべくベルと敵が一体一で戦えるようにうまく調整を行っていた。きちんと適切に無理をして初めてのダンジョン探索は無事に終了することができた。

 

(黄昏の館に帰ったら私がいない間のパーティーは誰がいいか考えないと...今のところ候補はあの三人かな。そうしたらそのパーティーでも連携の訓練もしないと...)

 

二人はギルドで報告をした後じゃが丸君を買って仲良く食べながら黄昏の館に帰還した。

 

 

黄昏の館 フィンの執務室

 

「ところでリヴェリア、よくアイズとベルの訓練を覗いているようだけどベルを見て何か思うことはないかい?」

 

資料に目を通していたリヴェリアが固まった...

 

(気配は消していたつもりだったのだが...)

 

「そうだな、実際に私が相手をしている訳ではないからなんともいえないが。強いて言えば技術が身につくのが速すぎるような...あれではまるで...」

 

「ベルの肉体が技術を思い出しているかのようだ...じゃないかい?」

 

実際にベルと手合せをしたことのあるフィンもリヴェリアと同じ感覚を感じていた。

 

「もしかしたらやけど...あの手紙にダグラス・クラネルの体を器にしたって書いてあったやん?ダグラス・クラネルの肉体、要は何百、何千、何万という戦闘経験を体が覚えているのかもしれんなー。それにベルのスキルの力も関係しとるやろ。誓い(ルフテ)か...すさまじい力やな。それだけベルの想いが強いっちゅうことやけど...この調子やと皆に追いつくんもそんなに遠い未来やないで」

 

三人が顔を見合わせ頷いた。まだ年若いベルがこのまま真っ直ぐ進んで行けるように全力でサポートすることを改めて誓った。

 

 

訓練所

 

「おらぁーー!」

 

どごぉぉぉん

 

「がーはっはっは、いい動きじゃがまだまだ甘いわい!」

 

がきぃぃぃん

 

現在訓練所は貸切中である、正確にいえば危険すぎてレベルの低い団員達がいたらとばっちりで死にかねないからだ...この場にいるのはガレスを始めベート、ティオネ、ティオナだ。ガレスが中心になって定期的に第一級冒険者の腕前を見るのが恒例になっている。

 

「ベートのやつ最近やたら張り切ってるよね?今日だってここであんなにやったら訓練所の修繕費すごいかかっちゃうよ」

 

「あんたはいつも全力でやるせいで毎回壁とか床とかボロボロになってるじゃない...」

 

前回訓練所をボロボロにしたせいでリヴェリアに怒られるティオナの顔が脳裏に浮かんだ...

 

以前までのべートなら一人でダンジョンに潜り鍛錬を行うことが多かったがベルが来てからというものなんだかんだ文句を言いながらも数人でパーティーを組むことがあるようだ。今回ガレスが相手をしているがその様子から見ても本気で取り組んでいることがよくわかる。

 

「次は2対2じゃ、ティオナとベート。ティオネと儂じゃ!」

 

「おい馬鹿ゾネス、足引っ張んじゃねえぞ!」

 

「そっちこそ足引っ張らないでよね、ボッチ狼!」

 

ぎゃーぎゃー言い合っておりチームプレーは期待できそうにない...ようにみえる。

 

「あの二人大丈夫かしら...」

 

 

今回は防具の一部にマークをつけその部分を攻撃されたら負けというルールである。単純に殴り合いや切り合いになるとこの訓練所では狭すぎる為、こうしたルールを決めてトレーニングを行っている。

実力が拮抗したもの達が戦う場合重要になってくるのがチームワークである。故に圧倒的にベート、ティオナペアが不利だと思われた...しかし!

 

「なっ!ベートがティオナの補佐役をしている!?」

 

先陣をきって攻めるティオナを上手くサポートして、ティオナの長所を最大限に生かしていた。細かな動きをベートが担当することによってティオナが自由に動けるようになる。仲間を信用していないとこのような動きはできない。

 

ガレスは長年の経験から瞬時に対応することができたが、ティオネはほんのわずかだが動揺してしまいその一瞬の隙をつかれマークに攻撃を受けてしまった。今回はベート、ティオナチームの勝利である。

 

「いえーい!」

 

ティオナがハイタッチをしようとして固まった。

 

「あ...そういえば今日組んでるのベートじゃん...でもなんかすごく動きやすかったんだけど」

 

「てめえの動きは馬鹿で単純だがらな、俺が本気になれば動き合わせるのなんかわけねえんだよ」

 

ぎゃーぎゃー

 

「さっきまであんなにいい感じに戦ってたのに...それにしてもベートがあんな動きするなんて想定外だったわ」

 

「ふむ、ベート。最近やけに気合が入っていたようじゃが何かあったのか?」

 

ベートは汗をぬぐいながらぶっきらぼうに答えた。

 

「ベルの野郎があんだけ気合いれてんだ、俺たちが気合入れないわけにはいかねえだろ」

 

ベートのしっぽがゆらゆらと揺れている...

 

「ツンデレ狼」

 

ぼそっとティオナ呟いた。

 

「うるせえぞこのド貧相女が!」

 

ティオナが自身の胸をみて涙ぐんだ...

 

「ベルとアイズにいいつけてやるーー」

 

ぎゃーぎゃー

 

「がっはっはっは、全くお前さんたち大分ベルに感化されてきとるのお」

 

「そうね、ベルのあのひたむきさな姿勢を見ていると私も頑張らなきゃって思うわ」

 

ロキファミリアでベルの存在がとても大きくなっていく...

 

 

 




読んでいただいている皆さんありがとうございます。

ベル君はどんどんロキファミリアになくてはならない存在になっていきますね。

ちなみにエイナさんは原作ではベル君と呼んでいますがこの世界では二人の距離感が違うのでクラネルさんと呼んでいます。

その内活動報告でアンケートやりますのでそちらもよろしくお願いいたします<m(__)m>

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