剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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二人は冷や汗を流しながらひた走る......


39 運命の日

全力で走って黄昏の館まで帰還したベルと刹那。門の前に誰か立っているのが遠くからでもわかった。

 

「あれは......刹那さん、用意はいいですか?」

 

冷や汗を流している刹那はひきつった笑顔でベルの問いかけにうなずいた。

 

二人は走った勢いのままザザーっと仁王立ちしている二人の前に滑り込み東方の国で使用されるといわれる謝罪の最上級の技を繰り出した。

 

「「すみませんでしたぁぁーー!!」」

 

土下座をする二人を見下ろしながら般若の形相のリリー、ため息を吐きながらも安心したような表情のルナ、二人はいったいどれだけ長い間二人のことを待っていのであろうか......

 

「顔あげな」

 

二人が顔を上げると頭上に愛ある拳が振り下ろされた。

 

ゴツッゴツッ

 

「とりあえずこれで許してやろう。全く......何時間待ったとおもってんだい、二人いるんだからどっちかが連絡にくるぐらいできただろう」

 

「「ご、ごめんなさいーー」」

 

涙目になりながら二人は謝罪を繰り返した。

 

「まあいい、後でどうなったかちゃんと教えなよ。とりあえず中に入ってシャワーでも浴びてきな」

 

ダンジョンから直接ヘスティアのホームへ行き、更に花壇の手入れや屋根の修理、たった今スライディング土下座したことにより二人は埃だらけだ。

 

「待ちわびたぞ、ベルが倒したキラーアントのドロップアイテムと魔石はヴェルフに渡す分以外はすでに換金しておいた。後で皆で分けるとしよう」

 

「ありがとうございますルナさん!」

 

「うむ」

 

腕組みをしつつルナは頷いた。

 

黄昏の館の中へと入りシャワーで埃を落とした二人は先ほどあったことを二人に全て話した。

 

「ファミリア間の問題もあるから一応ロキ様に報告しておいたほうがいい。この時間なら部屋にいると思うからこれから報告に行こうか」

 

ロキファミリアに直接喧嘩を売る勇気のある者はほとんどいないが、何か問題が起こる前に報告するのが無難だろう。子供思いのロキのことだ、仮に何か問題が起きてもうまく立ち回るだろうが。

 

 

黄昏の館ロキの私室

 

「ロキ様、今よろしいでしょか?」

 

扉の外からの声にロキが反応し資料を読む手を止めて返事をした。

 

「ええよー、入ってきー」

 

「失礼します」

 

ベル達のパーティ4人がロキの私室へと入室した。

 

「おお、リリー達やんどうしたん?何かあったんか?」

 

4人は顔を見合わせ当事者であるベルが一連の騒動をロキへと報告した。

 

「ん、皆お疲れさんだったなぁ。基本ファミリア間の問題は不干渉やけど皆の行動に間違いはないで、その子がどこのファミリアか気になるところはあるけどとりあえずええわ。それと皆今日の夜は空いてるんか?」

 

「僕は自主練以外は特に用事はありませんが」

 

「ウチ...私たちも特に予定はありません」

 

それを聞いたロキはニパっと笑った。

 

「ベルと刹那が世話になった神に借りを作るんもあれやし、今日の夜皆で豊穣の女主人でも行って礼でもしよか。もちろんウチのおごりや!それでええか?」

 

「僕たちのことでもありますしロキ様にお金を出していただくのは......」

 

「何ゆっとるんや、子供が世話になった者に対して親が礼をするのは当然のことや。気にせんでええ」

 

 

ロキの気持ちに心が温かくなる4人

 

「「「「ありがとうございますロキ様」」」」

 

四人は頭を下げた。

 

「堅苦しいなぁーそもそも様なんてつけなくてええんやでー?何かつけたいならそやなー......ロキちゃまとかロキたまとか......

 

「「「「いえ、それはちょっと......」」」」

 

「まあ、ええか...じゃあウチもこの書類片づけるわ、ベルはミア母ちゃんとこいって7時に席予約しといてや。んで刹那はその世話になった神さんとこ行ってその件を伝えておいてや。リリーとルナはそやなーウチの護衛を頼んで一緒に行こか。こんな感じでどや?」

 

「わかりました。では私とルナは6時30分にお迎えにあがります」

 

「では僕はこれから豊穣の女主人に行ってお待ちしています」

 

「拙者は教会に迎えにいってくるでござる、その後ヘファイストス様とヴェルフにも声をかけてみるでござる」

 

 

「よっしゃ、決まったな!んじゃ各自解散!」

 

4人は頭を下げて部屋を後にした。

 

(ん、そういえば神さんの名前聞くの忘れてたなぁ。そんなお人よしな神だれやろ......教会か......)

 

 

豊穣の女主人

 

「こんにちわーミアさんいますか?」

 

豊穣の女主人の扉をあけ夜の営業の準備をしていた店員に声をかけた。

 

「ミア母さんなら下ごしらえ中だけどあんたは?」

 

「僕は...」

 

「ベルさーん!来てくれたんですか!?」

 

店の奥で掃除をしていたシルが一直線にベルの元へと駆け寄って手を握った。

 

「ルノア、そういえばあなたはクラネルさんがここで働いていた時別件でいませんでしたね。一時的にではありましたが彼はここで働いていたんですよ」

 

ルノアと呼ばれた人間(ヒューマン)の少女の肩にリューが手を置いた。

 

「ニャーいいところに来たにゃ!」

 

「ニャッ掃除と下ごしらえ手伝うにゃ!」

 

クロエとアーニャも掃除をする手を止めてベルの頭をぽんぽんたたいた。

 

「え!?知らないのあたしだけ!?しかもリューまでそんな顔するなんて......」

 

他の男にみせる無表情とは違い僅かだが優しい顔をしているのがわかる。

 

「うるさいねー、夜の仕事まで時間もないんだからさっさと仕事しな!」

 

店内の騒がしさからミアが仕込みの手を止めて奥から出てきた。

 

「おやベルじゃないか、今日は一人でどうしたんだい?」

 

「今日の夜ロキ様達と数人でここで食事をとるので場所の確保をしておいてほしいとのことで来ました。えと、忙しいようでしたら時間まで僕お手伝いしましょうか?」

 

かわいい店員たちに囲まれ挙動不審なベルが助けを求めるような瞳でミアをみる。

 

「ベル、人に好かれるのも才能の一つさね、じゃあ仕込みを手伝っとくれ。ロキ様のとこでどれだけレベルをあげたかみせてみな」

 

無論レベルとは戦闘ではなく料理のだ。黄昏の館でもよくベルは料理をしている。大食漢が多いロキファミリアの厨房で培った経験は豊穣の女主人の厨房でも発揮できるだろう。

 

「え!?ミア母さんがこの子を厨房に!?ベルっていったかしら。あんたは一体何者なの!?」

 

豊穣の女主人では基本的に下ごしらえも料理もミアに腕を認められた店員のみが調理をしていた。その厨房にただの少年をいれるとは思えない......

 

「ええと僕はロキファミリアの新人で......」

 

「そういうことじゃなくて!」

 

「いいんだよ、ルノア。あたしがこの子を気に入ったんだ。腕もいいしね」

 

さ。仕事に戻るよ、そういったミアはベルを引っ張って厨房へと入っていった。

 

まだ頭に疑問符を浮かべているルノアであったがとりあえず仕事に戻った。

 

ここの職員は皆何かしらの事情を抱えている。ルノアの警戒はもっともなのかもしれないが一番警戒心の高いリューの態度を見て様子を見ることにした。

 

夜の営業までの時間でルノアの不安は解消することになる、皆のベルに対しての表情、態度。そして最初ベルに対して警戒したルノアに対してもベルはほかの店員と変わらず接し何より紳士で優しかった。一言でいうなら純粋、そしてベルの笑顔は不思議と心が癒されるような感覚がした。

 

 

「ベルー!そっちお願い!」

 

「はい!ルノアさん!」

 

その様子を見ていた他の店員は思わず笑みを浮かべた。

 

「あれがベルさんのすごいところだよね、リュー」

 

「そうですね、最初の警戒心が数時間でウソのようです。ここの店員は並みの警戒心ではない。その警戒を解くのは容易のことではないはずですから」

 

「誰にでも優しさを運ぶ風、全てを包み込む人柄......か」

 

様子を眺めていたミアがボソっとそんなことを呟いていた。

 

 

しばらくして開店の時間になりダンジョンから帰った冒険者などで店内はにぎわってきていた。

 

ギィっと扉をあけツインテールの少女とポニーテールの少女、そしてフードを深く被った少女も同時に入店した。

 

「ここかい?ベル君との待ち合わせの店は!」

 

「ヘスティア様、りりもいるのであまり目立つ行為は......」

 

「りりなら大丈夫です。よく覚えていませんがこのように身を隠すのはなれているような気がします。それにせっかくのベル様のお誘い、逃すわけにはいきません」

 

記憶をなくして目が覚めたばかりなのでゆっくり休んでいるのが正解だろう、そこはベルたちも配慮すべきところだったかもしれないが、仮にりりの姿を知っているものがいても神ロキと食事をしているところを見た後にわざわざ狙う馬鹿なやつもいないだろう。ロキもこれ以上その子が被害にあわないように無言の圧力をかけるつもりで今回の食事会を提案したのかもしれない。

 

「いらっしゃいませ、ヘスティア様お持ちしておりました。こちらへどうぞ...リリ大丈夫?」

 

「リリは大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」

 

ちなみにヴェルフとヘファイストスは二人仲良く食事をする予定のようで今回の宴会は欠席だ。

 

ベルは豊穣の女主人で働いていた時の制服で3人を出迎えて席へと案内した。今回は店の中央のテーブルではなくあまり目立たないが入口や店内のほかのテーブルからロキが座る席がよく見える絶妙な位置を予約してあった。

 

「ベル君かっこいいじゃないか!」

 

「ベル様......」

 

「......いいでござる!」

 

なるべくりりを周囲から見えにくい位置に座らせ神様達は隣通しのほうが話しやすいかと思い、隣通しに座ってもらうことにした。

 

「それではロキ様達ももうすぐいらっしゃると思いますのでもうしばらくお待ちください。僕もロキ様が来られましたらこちらの席に参りますので」

 

では、といい一礼をして厨房の方へと戻っていった。

 

「刹那君、君たちのファミリアはなんて羨ましいんだ......!そういえばまだ君たちのファミリアの名前を聞いていなかったね。君たちの主神は誰なんだい?」

 

「拙者たちの主神様は...」

 

「「「いらっしゃいませー!!」」」

 

「これはロキ様、ようこそおいでくださいました」

 

近くにいたシルがロキの相手をしているようだ。

 

「げっっあれはロキじゃないか......」

 

「ええと......もしかしてヘスティア様、ロキ様と仲が悪いんですか?」

 

「うーん、あまり会いたくない神の一人ではあるかな」

 

そんな話をしているときょろきょろと店内を見渡していたロキとヘスティアの目がバチッとあった。

 

「おお!?ドチビやんけ!久しぶりやんか。相変わらず無駄にでかい乳しおって......ん?」

 

込み合っている店内の中をするするとすり抜けヘスティアと同じテーブルに気まずそうに座る刹那と目があった。

 

「刹那、まさか世話になったんはこのドチビか?」

 

刹那は無言で頷いた。

 

「おやおや、ロキじゃないか。相変わらずかわいそうな胸をしているね。まあ今は君にかまってられないんだ。今日はこの刹那君の主神と食事をする予定でね」

 

ポンッと刹那の肩に手を置いたヘスティア。

 

ピキッ

 

「あ、あのヘスティア様」

 

おろおろと刹那はロキの後ろに控えているリリーとルナに視線を投げかける。

 

そんななかムキーッとロキがヘスティアの頬をつまみ叫んだ。

 

「刹那もベルもウチの子供やーーーー!!」

 

「な、なんだってぇー!?それは本当なのかい?刹那君?」

 

「ほ、本当でござる......」

 

ヘスティアもロキに負けじとロキの頬をつまみながらもみあいをしている。

 

「あ!ロキ様!」

 

店の奥にいたベルがロキの来店を知り奥から手を拭きながら予約席のほうへとやってきた。ベルの声に反応して瞬時に争うのをやめる二人......

 

「お待ちしておりました。ロキ様、こちらの方が今回お世話になりましたヘスティア様です。ヘスティア様、僕の所属しているファミリアの主神様のロキ様です」

 

「おおベル、その恰好似合ってるで!ああ、ドチ...ゲフンゲフン、ヘスティア。今回は[ウチの]ベルと刹那が世話になったようやなーありがとなー」

 

後半はかなり棒読みである......

 

「いやいやベル君や刹那君みたいないい子たちがまさか君のファミリアだなんて思わなかったよー。ベル君たちにはすごくよくしてもらったよ!」

 

うぬぬぬぬ

 

ぐぬぬぬぬ

 

軽い嫌味の応酬で徐々にヒートアップする二人。ベルたちが見ているのにもかかわらずドチビ、やロキのコンプレックスを刺激する類の言葉の応酬へ。次第につかみ合いに発展してしまう。

 

「あのーもしかしてお二人は仲が悪いのでは......?」

 

ベルがとても悲しそうな、捨てられた子犬のような瞳で二人を見ていた。

 

「そ、そんなわけないやん!ウチら天界にいるころからの神友やで、な!ヘスティア!」

 

「う、うんそうだよ!僕とロキは超仲良しさ!」

 

そういうと肩を組んでにっこりほほ笑む二人......

 

小声

 

「ドチビ、一時休戦や。ベルのあんな顔見たらウチ耐えられんわ」

 

「ロキ、僕も同じ意見だよ。とりあえず今日は仲良く飲もうじゃないか」

 

ぼそぼそと二人で話すロキとヘスティア。ちなみにリリは常にベルの事をロックオンだ......

 

「よかったです。お二人が仲が悪かったらどうしようかと思いました」

 

二人が落ち着いたところで軽く自己紹介をし食事会が始まった。

 

「ほな、一回仕切り直すとしよか。ええかー!」

 

皆それぞれの席についたところで料理とグラスが配られた。

 

「では、ロキ様お願いします」

 

「ほな、ウチから一言。今回はウチの子供たちが世話になったそうやな、まあ、あれや。一応親として礼は言っとかないけんからな。おおきにな。んで、リリルカっていったか?記憶喪失らしいやん?どこのファミリアに所属してたかわわからへんけど、とりあえずヘスティアのところにいるならそれでもええわ。ただ、自分がどこのファミリアに所属してたか知りたくなったらウチのところにくればええ。じゃあ堅苦しいのはこのへんで終わりや、皆グラスもったかー!?いくでー、カンパーイ!!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

カチーンとグラスを鳴らし杯に注がれていたお酒やジュースを飲み干す。

 

ちなみにロキとヘスティアはエール。リリとルナはジュース、ベルはミア特性カクテル。刹那とリリーは火酒を飲んでいた。

 

しばらく雑談をしつつ盛り上がる宴会。

 

 

「なんやぁーベル。エールは飲まんのかぁー?」

 

ヘスティアと飲み比べをしているロキはすでにかなり酔っぱらっている。何杯も一気飲みをすれば無理もないが。

 

「僕あまりお酒に強くないようで......ミアさんに度数の少ないカクテルを作ってもらってます」

 

「そうなんかぁそういえばアイズたんも酒に弱かったなぁ。酒が弱いのは血筋なんかなぁ......」

 

そういった瞬間ロキは我に返った。ベルが気づいていなければいいが......

 

「ええと......アイズさんも?血筋ってなんですか?」

 

ベルも多少酔っているとはいえ聞き逃せない単語に思わずロキに聞き返した。

 

「あー......あれや。ベルとアイズたんって似た雰囲気のとこあるやん?だからもしかしたら同じような体質なのかもしれんなってことや」

 

「あ!そういうことなんですね!」

 

ふむふむと顎にてを当てて納得している様子のベル。対照的にロキは自身の失言に内心冷や汗をかいていた。今のベルにはまだ伝えるにははやい。それがロキと幹部たちの共通認識だった。

 

「そうそう、ベル君!そういえば君はどんな子が好きなんだい?君はなかなかの色男だからね。もてるんじゃないかい?」

 

ヘスティアのその発言にピクッと豊穣の女主人にいる数人が反応した。

 

「そそそそんな、僕がモテるなんてそんなことありませんよ。皆さんにはよくしてもらってますがロキファミリアには僕なんかより強くてかっこいい人達がたくさんいますし......」

 

お酒のせいなのか、それともこの手の話は苦手なのか。ベルは顔を真っ赤にしている。

 

「ベル君!君は勘違いをしているぜ!君の優しさわ周りの人の心を温かくしてくれる。それにふととした瞬間に見せる凛々しさは反則級だぜ!」

 

うむうむと頷く者数人......

 

「それに相手がいないのなら僕ならいつでも大歓迎だぜ!いつでもこの胸に飛び込んでおいで!」

 

そういうと両手を広げてウインクをした。

 

口をパクパクさせ硬直しているベル......

 

「ドチ...ヘスティア。その辺にしときいや。ベルが困ってるやろ。それになぁ、ベルに手を出したらアイズたんが黙ってないで」

 

「ん?やっぱりアイズ君とベル君はそういう関係なのかい?まあオラリオには妻が一人でないといけないなんて決まりごとはないからね!特に問題はないさ!」

 

そう、オラリオにはそんな法律はない。本人達が納得しているのならば何も問題はないのだ......

 

数刻後、皆仲良く酒をのみ宴会は終了した。ベルはヘスティアとリリを教会まで送り酔いつぶれたロキはリリーが背中におぶって黄昏の館まで帰還した......

 

それから数日間自主練をしつつ他の三人とダンジョンに潜りクエストをこなしつつ訓練をした。そして運命の日はやってきた......

 

 

「さあ、今日もダンジョンに行くよ。皆準備はいいかい?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「行くでござる!」

 

「うむ、我も準備はよいぞ!」

 

武器の手入れは万全、回復薬も人数分しっかりと用意してダンジョンへと向かう4人。隊列を組んで下へ下へと向かう。

 

しばらくして......

 

「皆さん、ダンジョンがすごく静かな気がしませんか?というよりモンスターがあまり出てこないような?口ではうまく説明できないんですが何かすごく嫌な感じがするというかもやもやするというか......」

 

今現在の階層は9階層、

 

 

本来ならもっとモンスターが出現してもおかしくはないはずだがそれがいつもよりかなり頻度が少ない。ベルはあの悪夢が脳裏によぎり背筋に嫌な汗をかいていた。

 

「少しこの階層を調べてみよう。この階層には何か所か広いルームがある。端から回ってみよう」

 

「わかりました、リリーさん」

 

他の二人も異存はないと頷き改めて隊列を組んだ4人は現在地から一番近くにあるルームに足を踏み入れた。このルームの入口は二つ、鋭い岩が多くあり身を隠す場所がたくさんある。一番奥まで行ったところで入口から何かが近づいてくる気配がした。

 

「リリーさん!」

 

「わかってる、皆気配を消して隠れるんだ」

 

ぎちぎちぎち、キシシ......

 

一匹のキラーアントがルームの中に侵入してきた。単独のようだが何かを探しているようにも見える。

 

「なんだ、キラーアントじゃないか。すぐに片づけよう」

 

リリーが大剣を手に立ち上がった。

 

「...!何か様子がおかしいです!待ってください!」

 

ベルの静止が一歩遅れキラーアントに気が付かれてしまう。

 

 

瞬間

 

ギィーーーーーキィキィ!!

 

突然キラーアントがけたたましい鳴き声をあげた。

 

 

「ウソだ、ありえない!あれはあいつらが瀕死の時の仲間を呼び集める時の叫びじゃないか!!」

 

更にどこか遠くのほうからヴモォーーという鳴き声が響いてきた。

 

(今の鳴き声は!?いや、この階層にやつがいるなんてそんなはずがあるもんか......)

 

「今獣の雄叫びのような声が聞こえませんでしたか!?」

 

「いや......それよりまずは目の前のあいつを!」

 

「今すぐに奴の息の根を止なければ、我らには退路がないぞ!」

 

ルームの奥にいたため入口からキラーアントの大量が押し寄せれば逃げ場はない......

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

「ライトニングボルト!」

 

ベルの魔法による速攻、鳴きつづけていたキラーアントの頭を吹き飛ばし一瞬のうちに敵を片づけた。

 

しかし、

 

 

ザザザザザザ、ガサガサガサ

 

入口から大量のキラーアントがルームに侵入し地面を埋め尽くした。様子を見ているのかすぐに襲ってくる様子はない。

 

「まさか、さっきの奴は斥候!?」

 

「の、ようでござるな。それにこのキラーアントを見るでござる!」

 

あきらかに通常の個体とは異なる、異形......皆に緊張がはしる。

 

「まさかこいつら強化種か!?」

 

リリーが驚愕の声をあげた。1匹2匹ならまだわかる。しかしこの大群全てが強化種なんてあるはずがない異常事態だ。誰かが意図的に育てたなら話は別だが......

 

キィキィ!

 

ギィー!

 

様子を見ていたキラーアントの群れが一斉に4人に向かって襲いかかってきた。通常の個体より鋭利で長い顎でこちらを切り裂くつもりだ。

 

「ルナさん!下がってください!」

 

後衛職のルナにはこのキラーアント達の圧力には耐えられない、ベルが雷で強化した白狼で目の前の一匹を切り裂いた。

 

ザシュッ

 

(倒せたけど,いつもの手ごたえじゃない......)

 

ハァ!

 

刹那も間接部分を狙い刀で切りつけた、ベルの時と同様に切り裂けはするがいつもなら一撃で絶命させることができたはずなのに切りつけたキラーアントは怯みはするもののまだまだ死にそうもない。

 

「いつもより黒くて大きくて硬いでござる、手が痺れるでござるー」

 

「「......そうですね」」

 

その発言はちょっと...

 

チッ

 

このパーティー唯一のレベル2であるリリーの力をもってしてもこの大群を捌ききることができない。大剣の剣脊でまとめて吹き飛ばすことはできても次から次えと襲いかかってくる敵にじりじりと押されてしまっている。

 

「ルナさん危ない!」

 

キラーアントが他のキラーアントの背に乗りジャンプをしてベルたちの背後にいたルナに襲いかかった。

 

並行詠唱のできないルナはその場を動くことができないでいる。眼前にキラーアントが迫る。

 

うぐっっ

 

「ごほっっ...ルナさん大丈夫です...か?」

 

「ベル!お前我を庇って...傷が深い、早くこれを!」

 

ルナが襲われる直前に体を滑り込ませたベルは回避することができず胸を貫かれた。

傷口から大量の血液が流れ出て地面を赤く染める。

 

「リリー、刹那少しだけ前衛をお願い!」

 

「なるべく早く頼むよ!こっちもそう長くもたない......」

 

前衛の二人も必死の形相で敵の攻撃を防いでいるがかなり厳しいようだ。

 

「だい...じょうぶ...です。急所は...はずれて」

 

ルナはバックパックからポーションを取り出してベルの傷口に振りかけた。痛みが痺れに変わり、そして徐々にその痺れもなくなり傷口も完全に塞がった。

 

「ベル、あなたは本当に......バカなんだから。でも、ありがとう。もう少しだけ私を守ってくれる?」

 

「はい!僕が、僕たちが守ります!何度でも!」

 

ルナはベルの言葉にやさしい笑みを浮かべた。

 

キャラづくりをしていない素の状態のルナ。素の状態を見せるのは最大級の信頼の証でもあった。口だけではない、自らの体を盾にして自分を守ってくれたベルを、そしてロキファミリア入団当初からいつも一緒にいてくれたリリーと刹那を.....

 

「必ず守ってみせる!」

 

ルナは自身の眼帯を右手で引きちぎると同時に左手で杖を構え詠唱を始めた。

 

【天上に輝き空をあまねく照らすものよ、永久に陰らぬ至上の光よ

 

 我は願う、暗き世界に祝福を、

 我は願う、闇を消し去る輝きを、

 我は誓う、我と汝の力をもちて全ての陰りを打ち払う

 

 輝く空の欠片よ此処へ

 光のささぬこの場所へ

 

 天空より降り注ぎ全ての悪しき者に清浄なる光を】

 

 

 

「ルナさんのあの瞳は!?」

 

ルナの眼帯の下には燃えるような赤紫色の瞳が。同時に眼帯をとった瞬間にルナに魔力が漲るのが感じとれた。

 

「あれは...義眼さ」

 

「義眼ってなんですか?」

 

「作られた眼ってことだ。あれはディアンケヒトファミリアとペルセウスの合同作品なのさ」

 

ルナの一族はエルフの中でも魔力に秀でた種族だったが純血至上主義の一族でもあった。しかしルナの母親は人間と恋に落ちルナが生まれた。ハーフエルフとして生まれたルナと母親は追放、人間であった父親の面影がある片目はその時に潰された。オラリオまで逃げてきたところをロキに助けられたことがルナの入団した経緯だった。

 

当初は人間不信だったルナもロキファミリアの温かさと同じような境遇だったリリーと刹那のおかげでここまで精神的に回復することができたのだ。素の自分は本当に信用した人にのみ見せ、普段はあのキャラを演じでいることが多い。以外にあのキャラも今ではノリノリな部分もあるのだが......

 

ルナの魔力が詠唱に練りこまれ魔法陣が展開されていた。美しい光がルナから放たれはじめる。キラーアント達も脅威を感じとったのか、攻めることをせずジリジリと後退していった。

 

「皆、下がって!」

 

ルナの声に3人はルナの傍まで後退した。それを目で確認するとルナは杖を振り下ろしす。

 

破邪の光槍(ホーリーレイ)

 

キラーアントの大群の上空に巨大な魔法陣が展開されそこから光の槍が降り注いだ。

逃げまとう余裕もなく超高速の光の槍は強化種であるキラーアントの硬い殻を軽々貫通し全ての敵を殲滅することに成功した。

 

うおーーーっとルナの元に皆が駆け寄った。

 

「すっすごい威力です!あれだけいたキラーアント達が一瞬で!!」

 

「ルナ、よく頑張ったね」

 

「さすがでござる!ルナ、その眼帯をとったってことはもういいんでござるな?」

 

はぁはぁと荒い息をつくルナだがその表情は満足そうな顔をしている。

 

「うん、もう大丈夫。え......!!皆逃げっっ」

 

ヴモォォォォォーーーーー!!

 

ルナの魔法により俟った砂埃が静まると、そこには牛人が槍を構えていた。

 

牛人、ミノタウロスの大咆哮を受け瞬時に振り向いた3人のすぐ横をミノタウロスが放った槍が知覚速度を遥かに超えた勢いで通り過ぎ、ズドンという音とともに4人の背後の壁を槍が貫通しかなり奥深くまで突き刺さっていった。

 

......あぁ...ごふ....

 

 

「え...そんな...ルナさーーーーん!!」

 

ベルの絶叫がダンジョンに響いた......

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。そしてお久しぶりです。
更新大分おそくなりまして申し訳ありません<m(__)m>

前半は宴会、後半はいよいよこの時がやってまいりました。

前半ではりりとリリーが同じような名前で少々わかりにくいかもしれません汗

ルナさんの魔法がさく裂しましてね。ただ......

この作品には私、兎魂独自の設定がありますのでその辺はご了承ください<m(__)m>


今回も挿絵はにゃうあさんに書いていただきました。お気に入りの一枚です。

次回は早めに更新します&遂にミノさんとバトルです

これからもよろしくお願いいたします!


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