剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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洞窟のなか耳障りな音が響く...


41 僕は幸せでした2

ガリガリという音が聞こえる中、3人は動けずにいた。砂煙の中から先ほどとは比べほどにならない殺気が放たれ追撃することを許さなかったのだ。

 

瓦礫を押しのけ現れた牛人(ミノタウロス)は腰の袋から魔石を取り出し噛み砕いていた。噛み砕く度にその巨体から蒸気のようなものが立ち上っており威圧感が増していく。

 

我に返ったベルが遠距離から魔法による先制攻撃を仕掛けた。

 

「ライトニングボルト!ライトニングボルトォォ!!」

 

ベルが牛人(ミノタウロス)に向けて魔法を放った。魔石を食べ終えた奴は腕を前に差し出すとベルの魔法を片手で受け止めた。その手にはやけどひとつない...

 

「なんなんだよ...こいつ」

 

リリーは手にしていた大剣を地面に落としがくりと膝をついた。刹那も同様に奥の手であるミスリルの糸を完全に断ち切られたことにより恐怖で愕然としていた。

 

ベルは二人に一瞬視線を向けると単身敵に向かっていった。

 

作戦などない、3人の力を合わせた攻撃でも勝てない相手......それでも二人の前に立っていたかったのだ。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

ベルは一人強者である牛人(ミノタウロス)に立ち向かった。白狼を構え勇敢にも敵に向かって突進していく、牛人(ミノタウロス)は圧倒的優位になったことを自覚しているようでベルの攻撃を軽くいなし必死の形相で攻めている様子を見て先ほどと同じように笑みのようなものを作っている。

 

(硬い...)

 

先ほどまでは傷を負わすことができていたのに今はいくら攻撃しても大したダメージを与えられていない。硬質化した皮膚が全ての攻撃を防いでいた。

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

魔法で強化した速力で目の前に振り下ろされた大剣をかわし背後に回った。そのまま脇腹に切りかかるがガシッと腕を掴まれそのまま力任せに地面に叩きつけられた。

 

腕で頭をガードするが圧倒的な力の前になすすべもなく地面を転がった。

 

「ああ゛っっ」

 

ヴモォォォォォ!!

 

勝利の雄叫びなのか、大剣を高々と突き上げ大咆哮を挙げた。大剣を肩に担ぎなおすとゆっくりとした足取りでリリーと刹那の方へと歩みを進めた。

 

「「うっっあうっっ」」

 

二人は死の恐怖と殺意の前ででがたがたと震え立ち上がることができない

 

「っっまだだ!!」

 

動きがいつもより鈍い...おそらくすでにベルは相当なダメージを負っているはずだ、血が大量に流れ視力もほとんどないだろう、それでも尚牛人(ミノタウロス)と対峙した。その様子に優位な立場である牛人(ミノタウロス)は初めて一歩退いた。

 

「ベル...おまえ怖くないのか......死ぬんだぞ......」

 

ベルの背中に声をかける、そう刹那とリリーが見ているのは常に背中だった。どんなピンチの時でも必ずベルが皆の前に立っている......

 

 

「......怖いです。でも、僕はあきらめ...ません。皆さんと生きて地上へ...かえ......ごふっっ」

 

内臓までかなり損傷しているのだろう、片膝をつきベルが吐血する。

 

牛人(ミノタウロス)は先ほど自分が退いた理由がわからなかったが本能的に危険を察知したのだろう。ベルが吐血した瞬間に大地を強く蹴り渾身の一撃をベルに放った。

 

ドゴォッッ

 

壁まで吹き飛ばされたベル、それでも這いずりながらも3人の前に立とうとしていた。

 

刹那とリリーは立ち上がった、ベルのこんな姿をみて立たなければもう仲間とは呼べない。

 

「ベル、もし拙者がこいつを倒せたら......一日でいいでござるから拙者と二人で出かけてほしいでござる...約束でござるよ...」

 

刹那は重い甲冑を脱ぎサラシ一枚となった。重い防具は必要ない、一撃でも食らえば致命傷。それなら防御を捨てて特攻するしかもはや方法はない。

 

「ベル、お前はいい男だ。男相手にこんな気持ちになったのは初めてだ......最初はアイズさんといちゃいちゃしやがって気に食わなかったけどな。今は...その...す...結構気に入ってるぜ!」

 

ベルに手持ちのポーションを振り掛けたあと2人は覚悟を決めた。

 

「「あたしたちは偉大な神ロキ様の眷属!仲間......惚れた男の為に死ねるなら本望!

刺し違えてでも...お前を倒す!!」」

 

「ダメです...二人とも...くそっっ動けぇぇぇぇ!!」

 

 

ベルの目の前では二人の少女が牛人(ミノタウロス)と激闘を繰り広げていた。

 

紙一重で敵の攻撃をよけながら刀を振るう刹那、自身の力の限りを尽くし大剣を振るうリリー。二人の気迫に牛人(ミノタウロス)は怯み攻めあぐねていた。

 

しかし......一瞬でも気を抜けば死ぬ、そんな極限状態をいつまでも続けることはできない、次第に攻め込まれることが多くなっていった。

 

ビキッ

 

「刀にひびが!!」

 

鋼鉄の皮膚に刀が負け刀身の中ほどから折れてしまう。

 

「リリー!!」

 

ぶしゅっと刹那の手から血が滴る...

 

刹那は折れた刀を握り先ほどリリーが大剣で突いた場所と同じ場所に突き立てた。僅かに刺さる刃...

 

「後を、お願い......ごめん...ベル」

 

全身全霊で突き刺した刹那にできた隙を見逃すはずもなく牛人(ミノタウロス)の拳が腹部に突き刺ささる。

 

ズンッと衝撃が刹那の体を突き抜け膝から崩れ落ち沈黙した......

 

「刹那ぁぁぁ!!お前の思いは無駄にしないから、くらえ!」

 

ギリッと握った拳を牛人(ミノタウロス)の胸の刃に叩きつけた。ブシュッと先ほどよりも深く突き刺さる刃。だが......魔石までは届かない......

 

(これでもだめなのかよ......)

 

牛人(ミノタウロス)の大きな手ががしっとリリーの頭を掴みぎりぎりと力を込めていく。

 

「あ゛あ゛あ゛...まだ...だ」

 

頭を握り潰されそうな中リリーは最後の力を振り絞り指を目の中にねじ込んだ。

 

ヴモォォォォォ!!

 

「ざまあ...みやがれ」

 

片目を潰された怒りから咆哮をあげリリーを地面に叩きつけ足を振り上げた。

そのまま踏み砕くつもりだ...

 

(立て...立てよ...ここで立ち上がらなくていつ立ち上がるっていうんだ!訓練したんだ、あの夢のようにならないように...今度こそ仲間を護れるようにって...)

 

自分の無力さにベルの目から涙が溢れる......

 

(何を捨てればいい、僕の何を捨てればあいつに勝てる...先の事はいい。今、あいつに勝てるなら...僕はどうなってもいい!)

 

瞬間、ベルは光に包まれた...

 

 

 




皆様お久しぶりです。そして読んでくださりありがとうございます<m(__)m>

展開を考え込んでいたら書くのが非常に遅くなってしましました...申し訳ありません<m(__)m>

次こそは早くかけるように頑張ります。

はたしてこの牛人にベルたちは勝てるのでしょうか...

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