(そんな...また、私は見ていることしかできないの...)
目の前で死に向かっているベルを救うことができない絶望...
(そうだ...あの時も私は...ただ見ていることしかできなかった...私はあの時から何も変わっていない)
リヴェリアとレフィーヤの必死の治療は続いているが、ベルの意識は深い闇の底へ底へと沈んでいく。
「ベル...」
アイズは自身の手を見た、触れていた部分は血で濡れている。
「ベルの血が...血?!!」
アイズははっとし顔をあげた。
アイズの脳裏に浮かんだのはある言葉だった。ベルとヘファイストスファミリアに行った時の...
「初代クロッゾは精霊の血を受けて瀕死の重傷から回復した」
(そうだ、たしかにあの時そう言っていた!)
「リヴェリア!短剣を貸して!」
「アイズ、そんなものどうするつもりだ!?」
アイズはリヴェリアから短剣を受け取ると自分の手のひらを切りつけた。アイズの手の平から血が溢れる。
「リヴェリア、私には精霊の血が混ざってる。私の血を使えばベルは治るかもしれない」
「アイズさんに精霊の血が!?」
レフィーヤは目を白黒させているが切り替えてベルの手当を続けていた。
アイズはベルに自身の血を少しづつ飲ませた。しかしまだ変化は見られない...
(お願い...お母さん...どうか、どうかベルを...)
アイズの涙がベルの頬にポタポタと降りかかる。
ベルに変化はみられ...
「ベルーーー!!てめえは...てめえはアイズの英雄になるんだろうがぁー!こんなところでくたばってんじゃねぇ!」
熱い言葉だ、仮面の男にけりをいれつつベートが洞窟内に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。ベルの中、暗い闇にひとかけらの光が灯る...
(英雄...そうだ僕は...あの時誓った)
敵と戦う仲間達がいる。
(仲間...そうだ僕は...仲間を護りたかった)
アイズの泣く声が聞こえる...
(涙...そうだ僕は...アイズさんにもう泣いてほしくなくて)
【英雄になると誓ったんだ】
ベルのスキル
体が死んでいく感覚の中スキルの力により細い糸でベルの命は繋がっていた。ベルの誓が弱まればその力も弱く糸も細く弱弱しくなる。しかし、ベートの声が、アイズの涙がベルの心に働きかけた。アイズの精霊の血は母親であるアリアより薄く治癒する力はないはずだった。ただベルは同じ両親をもつ家族、ベルの中に眠る精霊の恩恵とアイズの血が反応しベルの生命力をわずかだが回復させることに成功した。
光るベルの体を見るとベルの白髪に僅かに金色の髪が混じっていく...
「リヴェリア!」
リヴェリアはアイズの方を向くとうなずいた。
「レフィーヤ!ここで全魔力を込めろ、今しかチャンスはないぞ!」
「はい!」
リヴェリアとレフィーヤの回復魔法が僅かに復活した生命力に反応し体の傷を塞いでいく...
「よし!っっよし!これで止血はできるぞ!」
ベルの状態を確認したアイズは立ち上がった。
「リヴェリア...ベルをお願い、私...もう自分を抑えられそうになイ」
すっと剣を抜くとリヴェリア達に背を向けた。
「二人とも下がって、後は私がやル」
「ああ?何をいっ...!!」
「......!!」
ベートとティオナがアイズの方を見て固まった。尋常ではない殺気がアイズから放たれている。その怒りはベートの怒りを鎮め、ティオナの狂人化を解くほどだった。
「お、おお」
「わ、わかった」
二人は冷や汗が流れるのを感じた。
「お、おいバカゾネス。アイズのあんな顔みたことあるか?」
「...ない。アイズが本気で怒ってるところなんて今まで一度もみたことないよ」
食人花を一掃したフィン達もアイズの様子を見て大きく息を吐いた。
「彼らは触れてしまったんだ。剣姫アイズ・ヴァレンシュタインの【逆鱗】に...」
あまりの迫力におされたベートとティオナはベル達の元へと下がった。ベート達が引いた瞬間を狙い大量の
アイズは目を伏せて静かに詠唱した。
アイズが風を纏うがいつもとは違う...
「黒い...風?」
アイズを包むのは黒い風、アイズのスキル
アイズの一振りで食人花は跡形もなく消し飛んだ。
「な...なんだと...?」
仮面の男が後ずさりしつつ更に食人花を呼び寄せる。
「いくら抵抗してもかまわなイ、いくら逃げてもかまわなイ。私の大切な人を傷つけた罪は重イ...キエテ」
「やれ!その女を殺せ!
黒い風を纏うアイズは暴風を巻き起こしながら全てを薙ぎ払った。
「うあ゛あ゛ぁぁーーー!」
「まずいぞ、誰かアイズを止めろ!このままではアイズの心が先に壊れてしまう!」
アイズを中心として暴風が巻き起こり周囲に誰も近づくことができない。
「おいおい、これじゃ近づけねえぞ!」
「アイズー!」
「アイズ!しっかりしなさい!」
アイズに仲間の声は届かない...黒い風に包まれただ荒れ狂う人形のようだ。
その時...
「うっ...」
「ベル!意識が戻ったのか!?」
ベルの意識が戻ると同時にロキファミリアの団員達を光が包み体の中に光が吸収されていった。
「これは...ベルのスキルか」
家族の絆は仲間のステイタスを引き上げることができ、ベルとの絆が強いものほど効果は大きく上がる。周囲を見渡すとやはりアイズが一番多くの光を纏っている。黒い風に包まれたアイズの動きが止まった...
(あたた...かい...光...ベ...ル)
すっ...とアイズから力が抜け黒い靄のようなものが浄化されていく、動きの止まったアイズめがけて食人花が襲いかかるがフィンの投げた槍の一撃で壁に縫い付けられ動きを止めた。
仮面の男はやっと酒の魔力が抜けてきたのか、ロキファミリアとの戦力差が大きすぎることに気づき一度撤退を決意した。
「
一瞬でできた隙を狙い仮面の男は再度食人花を呼び出すとベル達に向けて大量に向かわせているうちに、ひとわき大きな個体の食人花に自分の食わせるとダンジョンに穴をあけ潜って逃げて行った。
「あの野郎!」
「ベート!追うな!この状況ではとても追い付けない。今はベル達を地上へ!」
穴に潜っていった仮面の男を追うつもりでいたベートだったが、フィンの指示で踏みとどまった。
「アイズ、大丈夫か?」
「う...ん。大丈夫」
「ベルの止血も終わった、リリーと刹那とルナを連れて地上へ急ぐぞ」
重傷を負った4人を抱え全速力で地上へと向かう...
ソーマファミリアの二人はミスリルの縄で縛られたままティオネに強制的に引きづられていった。
バベル
フィン達と別れたガレス達は順調に正規ルートを進み地上へと帰還した。
「ロキファミリア!?もう遠征から帰還したのか!?」
バベル内がざわざわするがロキファミリアのピリピリした雰囲気を感じ取り静まり返った。
「ここは狭い、バベルの外で待機するとしよう」
「皆、団長たちが帰ってくるまでバベルの外でまつっす!」
バベルの外へ出ると遠くからロキがはしって来るのが見える。
「おーい!おかえりぃーー!」
務めて普段通りにふるまっているが全速力で走ってぜぇぜぇと息を切らせている。
「なんじゃロキ、そんなに息を切らせて。珍しいこともあるもんじゃな」
「んーなんちゅうか...嫌な予感がしてな。今日あたり帰ってくる気がしたんよ。んでアイズたん達はどこにおるん?」
18階層でのダンジョンの振動とそれを感じ取った幹部たちが探索に向かったことをロキに伝えた。
「んーそやなー...ラウル!エリクサー買ってきてくれんか?最上級のやつや!ウチが支払うから証文だけもらってきてやー」
「え!?エリクサーっすか?いいっすけど...」
「今日ウチの子供達の中でダンジョンに行ってるのはリリー達のパーティーや、今頃上層を探索中やと思う」
(((!!!)))
「ガレスさん!俺たちもいますぐ上層を探索しましょう!」
団員の一人がガレスに進言した。皆も上層まできている間に死亡しているパーティーを見てきている。
「フィンからは待機せよとの命令じゃ、それに上層程度ならあやつらの感覚器官をもってすればすぐに見つけられるじゃろ。わしらは帰ってきた時に備えて準備をしておくことじゃな」
「「「はい!」」」
「じゃあ自分ダッシュでエリクサー買ってくるっす!」
「ウチは中入ってまっとるわ、他になにか情報ないかさぐりいれとく」
......
十数分後...
ダダダダダダッッッ
「どいてくれ!通してくれ!」
ベル達を抱えたアイズ達がダンジョンから帰還する。周囲にいたギルド職員や冒険者ががその様子を見て軽く悲鳴をあげた。
抱きかかえているベル達は全員血まみれ、殺気立っている様子を見ると何かあったのだろう...
「ベル!それに皆も!なにがあったん!?」
「ロキ、我らはディアン・ケヒトの治療院へ急ぐ。詳細はフィンに聞いてくれ!」
「雑務その他はウチにまかせえ!いくらかかっても構わん!頼んだで!」
4人を抱えた皆がバベルの外へと走り去った。
外へ出ると整然と整列するロキファミリアの仲間たち。ベル達の姿を確認すると全員から殺気が放たれた。
「何かあったようじゃな。中にフィン達がいるはずじゃ」
ガレス達が中へと入るとバベル内は尋常ではない雰囲気になっていた...
リヴェリア達に遅れてフィンとティオネが男二人を連れてバベルへと入る。
「フィン!そいつらは!?いったいなにがあったんや?」
ミスリルで縛られている二人はゆっくりと近づくロキにひぃぃと悲鳴を上げている。
フィンが先ほどおこった内容をすばやく伝えた。
「なるほどなぁ...なあおまえら...」
ビキッとロキの額に血管が浮き上がる...
「誰の子供に手だしたんかわかっとるんか?」
ロキの怒りによって神威が僅かに解放された。
バリンバリンバリン!!
開放と同時にギルド内にある魔石灯が一斉に割れる。
「なぁ、聞いてるんか?...戦争や...お前らには死ぬより辛いことがこの世の中にはぎょうさんあるっちゅうことを教えたる」
神威を開放するロキの肩に手を置く者がいる。
「なんやぁフレイヤ。今のウチに冗談は通じないで?」
後ろを振り向くことなくロキは答えた。
「そんなことしないわ」
フレイヤは傍にオッタルを控えさせたまま縛られている二人に向けて言った。
「あなたたち...あの子の光はまだまだこれから強くなる。こんなところであの子の光りを断つことになったら...ただじゃおかないわ」
二人は泡を吹いて気絶した...
「この件に関して私たちは全面的にロキに協力するわ」
なにかあったら言ってちょうだい、とオッタルを従え戻っていった。
ちっと舌打ちをするとロキは立ち上がった。
「神会を開く。オラリオにまだ闇派閥との関わりがあるやつらがおるかもしれん。フィン!面倒事は全てウチが引き受ける。ベルを頼むで、とりあえずそいつらはギルドの牢へ幽閉しとこか」
ギルド職員の手によって連れて行かれる二人...
「「「団長!!我々はいつでも行けます!!」」」
団員達が声を挙げる。
「フィン、相手はどこの馬鹿じゃ。儂が消し飛ばしてくれる!」
「まずはベル達のケガの治療だ。今治療院へ向かっている、何かあれば追って連絡があるだろう。ひとまずは皆黄昏の館へ帰還しよう」
治療院
ディアン・ケヒトファミリアのアミッドが4人の治療にあたっていた。
リリー、刹那、ルナは最上級のエリクサーを使用し輸血を行い容体も安定してきたが...
「この少年は...彼になにがあったのですか?おそろしく衰弱しています。私の回復魔法でも回復しない...これ以上手を打ちようが...!そういえば十数年前、ゼウスファミリアがまだ健在のころ特殊な回復薬の調合に成功したという噂を聞いたことがあります。生命力を回復させることができるとか...その時の情報を誰か知っていればすぐにでも調合が始められるのですが...」
「そんな...」
「オラリオ中探してその情報探ればいいだけだろうが!どこかしらで材料調達はしているはずだ、当時の事を覚えている奴もいるかもしれねえ。泣き言いう前に動くぞ!アイズとレフィーヤは何が起こるかわからねえ、ここにいろ」
一人考え込むリヴェリアはベルの髪をひと撫ですると立ち上がった。
「私は見当がある、先にそちらに行かせてもらう」
ベートとティオナは情報共有の為一度黄昏の館へと向かう。
豊穣の女主人
「いらっしゃいませぇー、これはリヴェリア様ようこそ...あの何かあったんでしょうか?」
シルがリヴェリアの表情から何かあったことを悟り表情を変える。
「シルか、ミアはいるか!?大至急確認したいことがある。このままではベルが死ぬ」
(((!!!)))
豊穣の女主人の皆が反応をしめした。
「少々お待ちください!すぐ呼んできます!」
......
いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。
今回は早めに書くことができました<m(__)m>
感想、評価ありがとうございます。この調子でお気に入り2000人
評価人数70人目指して頑張ります!
次回タイトル 【豊穣の女主人出陣】です
次回もできる限りはやめにかけるようにがんばります<m(__)m>