剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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素材を持ち寄り調合へ


49 ベルの為に1

【シルとアーニャ】

 

グランドカジノで目的の物を入手したシルとアーニャはいち早くベルが寝ているディアンケヒトファミリアの治療院へと到着した。

 

治療院の中で団員達の報告を待つロキの元へシル達が到着しベルの寝ている部屋へと通される。

 

部屋に置かれている大きなベッドの上には苦しそうに顔をゆがめるベルが寝ていた。その腕には針が刺さっておりその針からエリクサーの入った袋が繋がれ少しずつ常に回復できるように配慮されていた。

 

「ロキ様、ベルさんの容体は......」

 

シルがその痛ましい姿に口元を覆いながらロキに問いかけた。

 

「見ての通りや、容体は悪化する一方やな。今はなんとかエリクサーで保っとる、やけどこのままじゃ後数日もつかどうか......いざとなったらウチが......」

 

ギリっとロキは歯を食いしばった、ベルへの気持ちとベルをこの状態にした闇派閥、それに組した者達への怒りでロキはすでに我慢の限界がきている。この件が片付き次第盛大に制裁を行うつもりだ。

 

「にゃー......白髪頭苦しそうにゃ......」

 

普段テンションの高い能天気なアーニャの耳と尻尾もへんにゃりと垂れ下がっていた。

 

「ロキ様、私にまかせてください」

 

「シル、なにするつもりや?」

 

シルは小箱からアルテミシアの葉を取り出し口に含んだ。

 

「にゃ?せっかくとってきたのにシルが食べちゃったにゃ!」

 

口に含んだままベルの元へとゆっくりとした足取りで近づく。

 

(ベルさーん、失礼しますねー?)

 

んぅーーちゅうーッッッ......

 

 

ぼうっと額に魔法陣が浮かび上がりベルの体に淡い光が吸収されていく、ビクンとベルの体が一瞬跳ね上がり少し穏やかな表情になる。

 

「シル今のは......大丈夫なんか?......ってか口にキスするかと思ったやん。こっちまでドキドキしたわ!」

 

ハンカチで口を拭うと朱に染まった頬で満面の笑みを浮かべたシルは振り返った。

 

「役得ですね!。これでもうしばらくは大丈夫ですよ!」

 

唇に指をそわせ頬を染めるシルはなんともいえない妖艶な魅力を放つ、吸い込まれそうなオーラを放っていたがしばらくするといつもの様子に戻った......

 

「シル!今のはいったいなんにゃ!?」

 

「秘密!誰にも言っちゃだめよ?」

 

ペロっと舌をだしながら指をアーニャの鼻先にちょんと触れさせた。

 

(やっぱりシルが一番おっかないにゃ-......)

 

アーニャは乾いた笑みを浮かべながら冷や汗を流した......

 

「シル、すまんなぁ......何か礼を」

 

「それではベルさんの初めてをもらってもいいですか?報酬ならそれで充分です!」

 

「いや-......それはあかんやろ!?本人寝とるし、ウチがかってにOKだしたりしたらアイズたんや皆にウチがぼこぼこにされてまう......それはベルが元気になってから本人と交渉してやー」

 

「初めてってなんにゃ?にゃ?」

 

よくわかっていないアーニャをよそに二人は笑いあった後シルとアーニャは治療院を後にした。

 

治療院を出た直後ふらつくシルをアーニャが支えた。

 

「ごめんねアーニャ、私少し疲れちゃったみたい......」

 

「にゃ!大丈夫かにゃ!?すぐ店まで運ぶにゃ!」

 

二人は役目を終え豊穣の女主人へと帰っていった......

 

 

 

【ロキファミリアの仲間達】

 

オラリオの町中を駆け回り素材の確保に奔走するロキファミリアの団員達。

 

「このリストの素材を売ってくれ!」

 

「調合できるやつはいないのか!」

 

「誰かこれを先に持って行ってくれ、俺は他の店をあたる」

 

各々がベルの為に奔走する姿は鬼気迫るものがある。皆がダンジョンから血だらけで抱えられて治療院へ急ぐ姿を目撃している。ソーマファミリアがかかわっているらしいこともすでに耳にしていた。本来ならすぐにでもぶちのめしに行きたいところだが今はベルの治療が先決ということもあり我慢している者がほとんどだ。

 

入手した素材は治療院へと集められ高難易度の調合が行える限られた者たちで必死の作業が行われていた。次から次へと来る素材、調合の難易度、疲労はたまる一方だ......

 

コンコン

 

治療院の扉がノックされる

 

「ここかい?ベル・クラネルの為に治療薬を作っているのは」

 

帽子をかぶりひょうひょうとした態度の神が一人の女性と共に部屋へと入る。

 

「ロキ、恩を売りに来たよ!」

 

そんなことをいう神に向かって連れの女性がバシっと頭を叩く......

 

「ヘルメス様、またあなたはそんなことをいって......神ロキ、申し訳ありません。後できつくいっておきますのでお許しを」

 

ヘルメスファミリアの団長でもあるアスフィがヘルメスの頭をがしっと掴み一緒に頭を下げた。

 

「気にせんでええで、今は調合ができる人材がほしかったところや。報酬の件は言い値でええ」

 

「冗談さぁ。僕と君の仲じゃないか!それに旅のついでにあの人に会ってきてね。孫をよろしくと頼まれたのさ」

 

被っていた帽子を片手で持ち胸に当てると軽くお辞儀をするヘルメス。

 

「気色悪......また知らない間に旅にいっとったんか。ってかウチとおまえにそんな仲はないわ!それよりあのエロじじいは元気にやっとったか?」

 

「......まあその話は後日また話そうか、今日のところはうちのアスフィが頑張ってくれるからさ!」

 

 

ヘルメスの様子に少しひっかかるものを感じたロキだが今問いただしてもこの男が素直に話すわけはないと判断し放置することにした。

 

 

「すまんなぁじゃあ調合の方まかせるで」

 

「お任せください、神ロキ。誰か私に調合のリストを」

 

治療院にいた調合師からリストを受け取ると一瞬目を見開きクイっと眼鏡をあげると指示を出した。

 

「難易度の高い素材は私に任せてください。寸分の狂いも許されない作業です。間違いなく調合難易度はSを超えるでしょう」

 

アスフィーの一言で他の調合師も気合を入れ直し作業を再開した。

 

【ベート・レフィーヤ】

 

風をきりひたすら走るベート達はようやく目的地であるレフィーヤの故郷へとたどり着いた。

 

ベートが足を止めると全身から汗が噴き出す、そのまま大の字に草むらに倒れ込んだ。

体が燃えるように熱い......全身を襲う疲労と長時間走り続けたことによる痛みに顔をしかめながらベートは世界樹を見上げた。

 

世界樹と名のつく大樹は世界各地にあるがこの集落の世界樹はひときわ大きく、別の世界に入り込んだような気分にさせられる。

 

「ユグドラシル、この世界樹はそう呼ばれています。神々が下界に降りてくる遥か昔、英雄達と共に戦った精霊が住むと里には伝えられています。世界樹の滴はその精霊が世界を憂いで流す涙なのだと......」

 

ベートの背から降りていたレフィーヤが世界樹を眺めるベートに対して説明をするが......

 

「そんなもんどうでもいい!速く目当ての物とってこい!」

 

「は、はいーーー!」

 

パタパタと村の入り口に走るレフィーヤ。その姿を見送りベートは目を閉じた......

 

穏やかな時間が流れるエルフの里、外界との接触を極力拒み森と共に生きることを望むエルフ達が多く住んでいる、レフィーヤは村の長がいるであろう世界樹の根元にある祭壇へと走った。

 

祭壇は上質な木材で作られ意匠が施されており年代を感じさせる。祭壇の両脇には常に警備の者が立ち、世界樹を外敵から守っている。迷宮内ほど強くないにしろ外の世界にもモンスターは存在する。世界樹に害をなす可能性があるものは排除するのが彼らの使命だ。

 

「長老様!」

 

祭壇には長老の他に里の上役が何人か集まっている。

 

「レ、レフィーヤ!久しぶりだのう.....すまんが今は少し......」

 

「イイヨォ、コノコナラダイジョウブ。ナニカヨウガアルミタイダシネ」

 

長老たちの影に隠れて小さな女の子がいる。透き通るような肌、薄緑色の髪と目をした不思議な子供だ。

 

「あの......その子はいったい?」

 

「こら、レフィーヤ!この方は......」

 

トコトコとレフィーヤに子供が近づく。

 

「ヒサシブリダネ。ワタシノコトワスレチャッタ?昔はよく遊んであげたのに」

 

レフィーヤの前まで来るといきなり大人の姿になった子供。同時に気配が変わった。

 

「え......まさかこの感じは、精霊!?」

 

世界樹、ユグドラシルに住む精霊。正確に言えば思念体のようなものだと長老たちは言う。里の長達しかしらない極秘事項だ。気配を変え気まぐれに現れては里を見て回るのが趣味のようだ。

 

「私の肉体は今はこの樹の一部のようなもの、過去の戦で無理をしすぎたからね。天界の神々がくるまではこの世界は混沌としていたの......」

 

じっとレフィーヤの瞳を覗き込むようにして眺める精霊、魂の底まで見透かせれるような感覚に襲われる。

 

「なるほど、クラネルの一族の子を救いたいということね。それにヴァレンシュタインの一族も一緒なのかしら。懐かしいわぁ......一緒に戦った仲だもの。血を分けたというべきかしら」

 

本物の精霊を前にして固まるレフィーヤ、そんな姿をおかしそうに精霊は眺めている。普段から神たちと接してはいるが神威を開放していない神たちは一言でいえば変人、変態が多い。おそらくこの目の前にいる精霊は精霊たちの中でも上位の存在。大精霊と呼ばれる存在だ。

 

「あ......あの、その」

 

あたふたと取り乱すレフィーヤに優しい笑顔を向けると頭を撫でた。

 

「世界樹の滴が必要なのでしょう?それとお友達も呼んだからそろそろ来るころね」

 

「貴様何者だ!?」

 

祭壇の入り口に向かい弓を向ける。殺気だった様子にレフィーヤが振り返るとそこにはベートがただずんでいた。

 

「ベートさん!?どうしてここへ!?」

 

「あ?呼ばれたからだよ。さっきの声はあんただろ?」

 

ベートは精霊の方に視線を向けた。

 

「貴様、精霊様に向かってなんという口のきき方を!」

 

殺気立つ皆を精霊は手をあげて抑えた。

 

ベートは里のエルフ達の殺気をものともせず精霊に話しかけた。

 

「世界樹の滴をくれ」

 

「世界樹の滴はとても希少なもの。この里で使用する分ですら最近では取れなくなっている。外部の物にくれてやる分はない」

 

長老と一緒にいたエルフの女性が無表情に答える。

 

「ここにいるやつら全員ぶちのめせば手に入るだろ?」

 

世界でも数少ないレベル5、ベートが今本気でここの里を滅ぼすつもりで戦えば問題なく皆殺しにできるだけの実力差があるだろう。

 

「強大な力を持つものによる無慈悲な攻撃、ベート・ローガよ。お主は自分がされたことと同じことをこの里にするつもりなのか?」

 

ビキッとベートの動きが止まった。ベートの脳裏には過去のトラウマが鮮明によみがえる。

 

「てめぇ......」

 

「おまえの心の闇は深い、家族を、仲間を目の前で失った深い絶望、力のなかった自分への怒り......弱い者、力のない者への苛立ちはすなわち自分への苛立ちなのだろう」

 

歯を食いしばりうつむくベートを心配そうに眺めるレフィーヤ。ベートの過去を知る者はロキファミリアでも数少ない。

 

「おまえはなんの為にここに来た?誰の為にここに来たのだ。世界樹の滴は無理やり奪うことは絶対にできぬ」

 

ぎりっと歯を食いしばったベートは大きく息を息を吐き出した。そしてベートの次の行動にレフィーヤは自分の目を疑った......

 

ベートは膝をおり頭を下げたのだ。

 

「助けてやりてえ奴がいる......そいつは仲間を救う為に自分の命をかけた。死なせたくねえ大事な俺の家族だ。頼む、世界樹の滴を譲ってくれ」

 

ボウっと世界樹が淡く光だしベートの目の前に世界樹の滴が一滴落ちる。

 

「はやく持って帰っておやり。おまえの大事な家族とやらに。あの黒龍を古代の時代仕留めきれなかった我々にも責がある。これはその詫びだ、受け取れ」

 

世界樹の滴をしまう隙をつきぐいっと顔を近づけ唇を合わせた。

 

「......は?」

 

「ジャアマタネーバイバイ」

 

石化したように固まった皆をおいて子供の姿に戻ると世界樹の幹をすごい速度で昇って姿をけした。

 

真っ先に回復したベートが自身の口を服の袖でグイッと拭きもう用はないというかのようにレフィーヤを引っ張り里の外へ走った。

 

「こっこら待て!」

 

追いかけようとする皆を長老が止めた。

 

「待ちなさい、あの者は精霊様に認められたのを皆も見たであろう。世界樹の滴が落ちたのがその証拠。我々も少しずつでも歩み寄る努力をしなければいけない時代になったようじゃ、ほっほっほ」

 

長老はやさしくほほ笑んだ。

 

里の外

 

「あ、あのわたし見たこと聞いたこと誰にも言わないので!」

 

「......乗れ。オラリオに戻るぞ」

 

背を向けたベートに乗るレフィーヤ。

 

「あの......いえなんでもありません」

 

(ベルの為に頭をさげたベートさん、すごくかっこよかったです)

 

そんなことを考えていたレフィーヤだがまたいきなりトップスピードで走り出すベートに悲鳴を上げる。

 

「初速だけもっとゆっくりぃぃぃぃぃーーー!!」

 

全速力でオラリオへと二人は帰還した......

 

【アイズ達】

 

アイズがマインドダウンで気を失っている間にミアが生命の泉から採取した花を持ち地上へと向かっていた。階層主を倒す為大分無理をしたアイズはリヴェリアママの背におぶさっていた。

 

「リヴェリア、私もう歩けるよ?」

 

「さんざん無理をして心配をかけたバカ娘は黙ってもうしばらく私の背にいろ!」

 

背にアイズの体温を感じながら子供の頃のようにアイズを背負うリヴェリアは本当にお母さんのようだった。

 

「あの......ミアさん達もありがとうございます」

 

ミア達の方を振り返りお礼をいうアイズ。

 

「あたしがかってにやったことさ。気にしないでおくれ。それにベルはうちの元従業員だからね、死なせるわけにはいかないさね」

 

バトルアックスをかつぎ豪快に笑う姿を見てアイズは思う。

 

「あの......ミアさん、昔、私が小さい頃に......」

 

「ベルが元気になったら二人で店においで。そこで昔話でもしてあげることにするよ。ま、事前にロキ様達の許可をちゃんともらってからだけどね」

 

アイズも思い出したはずだ。ミアがどこのファミリアに所属しどんな人物であるのかということを、アイズは黙ってうなずきそっと自分の目をぬぐった......

 

「にゃーそれにしてもきつい遠征だったにゃ、リューは報酬は何にするにゃ?」

 

殿を走るリュー、ルノア、クロエの声がダンジョン内に響く。

 

「私はクラネルさんが元気になればそれで充分です。ほしい物もありませんし」

 

「ホントにないのかにゃ?」

 

「......そうですね、しいてあげるならクラネルさんと一緒に働く時間は心地よいものでしたので。また少しの間働けたら嬉しく思います」

 

にやにやとその様子を眺めるルノアとクロエ。その視線に気が付きリューはそっぽを向いた。

 

「あなたたちの報酬は高難易度です、今ヴァレンシュタイン氏に許可をとっておいた方がいいのではないですか?」

 

「私に?私にできることならいいよ?」

 

アイズが振り返り3人の言葉に耳を傾けた。

 

「「元気になったらベルを(少年を)一日貸してほしい!!」」

 

「ダメ」

 

即答......二人の報酬交渉は続く......

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

更新大分遅れました申し訳ありません<m(__)m>

おかげさまで評価、お気に入りどんどん増えておりますありがとうございます<m(__)m>

次回ベル君の為に続きです。更新をお待ちください。 

活動報告書いたのでよければコメントお願いします<m(__)m>

PS
ダンメモ始めました、兎魂という名前いたらよろしくです笑
ID 1408628807

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