剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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ベル君は女の子です


54 白兎のお礼3

扉から出たベルは恥ずかしさのあまりか、頬を染め涙ぐみながらなんとかスカートの裾を下げようとしている。ふとした瞬間に下着が見えてしまいそうでなんとも心もとない......

 

この部屋からみる景色は絶景だ、部屋の大きな窓から外を見下ろすと町の明かりが宝石のように光り輝いている。この部屋を予約することができるのは神たちの中でも数人だ。しかし、今!目の前にはそのすばらしい景色さえ霞むほど美しく初々しく思わず抱きしめたくなるような存在がいる。

 

「ベル、こっ...こっちにいらっしゃい」

 

ガタッと少し大きな音を出して席を立ち薄紫の扇子で口元を隠しながらベルに向けて手招きした。

 

美の神フレイヤの動揺......鏡でみる姿と実際にこの目で見る姿ではやはり違う。おずおずと近づくベルからふわりとよい香りがする......

 

「ベル、あなたはいい匂いがするわねぇまるで森林浴をしているようだわぁ。......薄緑色の光、加護なのか、それとも精霊の血なのかしらねぇ」

 

最後の方は自分に言い聞かせせているような聞き取れないほどの声だった。

 

「ええと......」

 

フレイヤの目の前まで行くと直立するようにとの指示を受けた。スカートを手でおさえながらではあるが。その様子をみたフレイヤはベルの体をつま先から頭のてっぺんまでゆっくりとベルの周りを歩きながら見つめる。ロキもフレイヤと同様にグラスに注がれた酒を一口で飲み干すと至近距離で見つめた。

 

「この耳と尻尾がええんよなぁ......そういえば耳はええけど尻尾はどうしてるん?」

 

「ロ、ロキ様!」

 

ロキはベルの背後にするりと回り込むとベルの尻を撫でる......

ロキのセクハラのスキルは常人をはるかに超える域に達している、ベルの視界から瞬時に消え相手が本気で嫌がるぎりぎりを狙ったセクハラ.....すごい力だ。熟練度はレベル6を超えるだろう......

 

「黄昏の館に帰ったらリヴェリアさんに相談します......」

 

ぼそっと呟いたベルの一言を聞きロキは冷や汗を流しながらパッと両手を上にあげて降参した。リヴェリアママの折檻はロキでも嫌らしい、団員の一部にはご褒美と感じる者もいるようだが......

 

「でも、そうねぇ。その尻尾はどうやって着けているのかしら」

 

ロキのように直接触るようなことはしないが見つめられ続けるというのはそれだけで今のベルにとっては恥ずかしさで死にそうだった。

 

ほぅとため息をつくフレイヤの熱い視線にベルは身震いする。なんというかねっとりとした粘液の中にいるような......蛇が餌を前に舌を出している様子が頭に浮かぶ。

 

「さあ、そろそろ食事にしましょうか。今日は一応その為に呼んだのだから」

 

先ほどと同じように手を叩くと前菜がテーブルへと運ばれる。

 

「あの、僕そろそろ着替えても...」

 

「ダメよ」

 

「ダメやな」

 

「......はい」

 

せっかく正装をしたものの結局着替えたままの恰好で食事を口にする。ベルの苦手を知ってか知らずかはわからないがアルコールは控えめで程よく体が温まるように配慮されている。しばらく談笑しながら食事を取り、和やかな雰囲気の中最後のデザートを口に運んだ。実際コースの内容はかなり考えこまれていて体の回復に効果のある特殊な食材がふんだんに使用されており順を追って摂取することで体を癒す物まであった。

 

「ベル、口にあったかしら」

 

「はいすごくおいしかったです。なんだか体の調子もいい気がします!」

 

それはよかったとフレイヤはほほ笑んだ。そういえばお金はっというベルをフレイヤが止める。

 

「今日は私が招待したのだから気にしないでちょうだい。もちろんロキもよ......ベル、まだ私を楽しませてというお願いは有効かしら」

 

その言葉にビクっと体を硬直させる。無理もない、ベルは女装趣味があるわけではない、ただ女装姿が似合いすぎて、初々しくて、反応がかわいいだけなのだから。

 

「だ、大丈夫です。次は何をすれば......」

 

「これで最後よ、食後に軽く運動はいかが?」

 

フレイヤが手を叩くとオッタルが現れる。扉の向こうに待機していたのか、先ほどの服装のままだ。あまり見ていたくない......

 

「なんやぁオッタルと戦えとでもいうんかぁ?」

 

食事中にいい酒だと何度も進められロキは現在ほとんど使い物にならない。

 

「そのとおりよ!といってもオッタルにはベルにケガをさせることは禁止だと厳命しているから安心してちょうだい」

 

まさか、現在のオラリオ最強である猛者に組み手をしてもらえるもらえるなんて......でもベルはここには正装をしてきているので運動ができる状態ではない。

それに今はリヴェリアママから訓練を止められている。

 

「あの、フレイヤ様。今日僕動くのに適した服装ではないんですが」

 

ベルの言葉をにこにこして聞いているフレイヤは話を続けた。

 

「ベルには勝てたらこれをあげるわ」

 

フレイヤは一冊の本を机の上に置いた

 

英雄譚が好きなベルはその本を見て心を躍らせた。ところどころ破損しているようではあるが古めかしい表紙には英雄アルゴノゥトという文字が書いてある。これは最近都市外の古代遺跡からヘルメスファミリアが発見した手記で複製されたものでもない。古代の時代から保存されている唯一の本ということだ。

 

ほぁぁぁと感動で声にならないベルは目を輝かせその本を眺めている。

 

「読んでみたい?じゃあオッタルに勝つことね。制限時間は3分よ。勝利条件は......そうね、ベルのスカートの中が私に見えたらベルの負けよ」

 

「......はい?ちょっと待ってください!え!?この恰好で動くんですか!?ここで!?それにスカートの中身って」

 

フレイヤは続ける。

 

「ベルが勝利したらこの本を、ベルが負けたらその恰好のまま黄昏の館へ帰ってもらいます。もちろん歩いてよ!」

 

フレイヤが心底楽しそうにベルに向かって片目をつぶった。それと同時にオッタルが動き出す。

 

「ベル・クラネル。......諦めろ。フレイヤ様は今酔っておられる」

 

「それじゃあ、用意スタート!オッタル、お願いね」

 

パン!と手を打つと更にお酒の入ったグラスを口へと運ぶ。隣のロキもケガさせんようにやるんやったらええわ!などといって助けにならない。

 

立ち上がったベルにゆっくりと近づいてくるオッタル。しかも服装がベルの顔がプリントアウトした物だ。レベル差云々は関係なく恐怖を感じる。

 

「ひっっ!!」

 

ゆっくり手を伸ばすオッタルだがベルがいつものように動こうとするとひらひらとスカートがめくれてしまいどうにもうまく動くことができない......その様子を楽しそうにお酒を飲みながら眺めるオラリオ最強派閥の神たち。

 

(ロキ様は......ダメだ。自分でなんとかしないと、相手を観察するんだ)

 

恐怖に打ち勝ちじっと観察する......

オッタルにはいろいろと制約が課せられているらしいことがわかる。

 

1、ゆっくりとしか歩いてこない

 

2、片手しかつかわない

 

3、ベルにケガをさせるようなことはしない

 

おおまかにこの3種類だろうか。自分が激しく動けないことを加味してゆっくり動いてもフロアの隅に追いやられない限り逃げ切れるはず。

 

逃げること2分30秒このままいけば問題なく逃げ切れそうだ、フロアをぐるりとまわり今は最初にいたテーブルまで帰ってきている。

 

「オッタル!」

 

「はっ!」

 

まだベルとの距離はかなりあるはずだったがいきなりベルには反応することができない速さで片腕を振り上げた。

 

ブォォォ!!

 

ものすごい上昇気流がまきおこりロキとフレイヤの前でスカートがめくれ上がる。

 

「!!ッッシル!これはどういうことなの!?なぜベルは私が用意した下着を履いていないの!」

 

部屋の隅で完全に気配を断ってペルセウス作の奇跡の道具【カメラ】なるものでベルの写真をこっそり撮っていたシルを呼んだ。

 

「ベルさんにさすがに勘弁してくださいと涙目で懇願されたので。あの姿でそんな顔をさらたら私は断れません!」

 

神フレイヤに気圧されず自分の意見を貫くシル。かっこいいと思うがすっと先ほど撮ったであろう写真を渡していたことは気にしてはいけない.....

 

「なるほどなぁそうやって尻尾をつけとるんやなぁ」

 

尻尾取り付け専用にシルが開発したベルトをどさくさにまぎれてスカートを持ち上げしげしげと眺めるロキ。プルプルと震えるベルは後で必ずリヴェリアママに相談することを心に決めた。

 

「残念だったわねぇベル。でも頑張ったご褒美にもう少しレベルがあがったら読ませてあげるわ。でもその時は一人で私の部屋に来なさいね。でもこの手記はおそらくSクラスの極秘文書よ」

 

またパンッとフレイヤは手を叩いた。

 

「さあ、目の保養もできたし随分楽しませてもらったわ。それじゃあ今日は解散としましょうか」

 

それとロキ!そういうとフレイヤはロキに金で作成された会員カードを手渡した。

 

会員No000と書いてある。

 

「なんやぁ......!?こんなもんいつのまに作ったんや」

 

「神会でこの話をしようかと思っているの。他の神達にこの子に手出しさせないわ」

 

神フレイヤ、神ロキがトップに君臨する白兎を見守る会がこの時結成された。ロキファミリア団員は無条件で加入可能、その他は面接をクリアした者のみ加入可能だ。

 

入会特典はベル・クラネル隠し撮り......ベルの写真だ。今日のベルの姿はプレミアになるだろう......

 

酔って歩けないと駄々をこねるロキを抱きかかえフレイヤとの強制的なかけに負けたので着替えもせずに入口の扉を開ける。

 

「ベル!おかえぃ......!!」

 

「ベル、この服豊穣の女主人のだよね!似合い過ぎだよぉ!!

 

「ベっっベルおまえ......がはぁ」

 

吐血はしていないがベルの姿を見た瞬間ブワッとしっぽが膨れ上がった。ガンガン壁に頭を打ち付けているベートをよそにアイズとティオナはロキを弾き飛ばし無言でベルを抱きしめた。

 

「アイズさん、ティオナさん、ベートさん......僕、ロキ様達に辱めを受けました......」

 

「「「あ?」」」

 

ずずずずと黒い気配と共にすさまじい殺気がロキに向けて放たれる。

 

「ちょっっちょいまちいぃ3人共!ベルもなんとかいってやぁ」

 

ベっとロキに向かって舌を出す。ベルにしては珍しくロキに少しばかり反抗した。が、しかしその顔を見ていた他の3人にも癒しと萌えという大ダメージを与えた。

 

アイズは両腕を抱きしめはぁはぁと荒い息を吐きながらぶるぶると震えている、何かを必死に耐えているようだ。

 

ティオナにも会心の一撃が入り、地面に倒れ込みダンダンと地面を拳で叩いている。ミシッメキッという音とともに地面に亀裂が入る。

 

よろよろとふらついたベートは吐血した......

 

「あの、僕これからこの服装で黄昏の館まで帰らないと行けないんですが。一緒にきてもら」

 

「「「まかせて、まかせろ!!!」」」

 

ベルの言葉を遮り返事をするとベルを囲うように立ちロキをゲシッと足蹴にすると4人仲良く黄昏の館まで帰還した。

 

帰還途中ベートが先頭を歩き周囲を威嚇してベルの方へ視線が極力いかないように対応してくれている。

 

「これ、お前を抱きかかえて屋根の上走った方がよくないか?」

 

ベートがそんなことをいう、たしかにもっともだと思う。

 

「ベートさんは......少しにやけているのがちょっと......」

 

アイズの言葉にベートは自分の顔をごしごしとこすりまた眉間に皺を寄せながら前を向く。

 

「すみません、フレイヤ様との約束で歩いて帰らないといけないので」

 

律儀に約束を守り黄昏の館まで帰ったベル達であったが、着替える前に他の団員達に見つかり大騒ぎになったことはいうまでもない......

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます<m(__)m>

今回はそこそこ早めに更新できたかなと、本来であれば週1か2週に1回くらいはあげたいんですが......そうしないと話が進んで行かないので兎魂も困ります笑

遂にお気に入りが後500人くらいで3000まで行きます。私のような素人の作品をたくさんの人に読んでもらえてすごくうれしく思います。もっとうまくかけるように精進いたします。

評価の方も現在106人の方がしてくれています。本当にありがとうございます。

お気に入り3000人

評価150人くらいをまた目標にして頑張って更新していきたいと思いますのでまた楽しんで読んでいただけたら幸いです<m(__)m>

後数話はお礼&制裁でその後くらいから話をお祭りの方へと進めたいと思います。

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