剣姫と白兎の物語   作:兎魂

56 / 60
二人は杯をかたむける。


56 白兎のお礼5

トンっと持っていたカップを机に置くとベートはレフィーヤと共に出会った世界樹の精霊の話をした。

 

「ベートさん本物の精霊に会えたんですか!?その姿を見ることができる人は世界中でもほとんどいないということをおじいちゃんに聞いたことがあります。精霊と共に戦った英雄達もいたという話ですが......」

 

「ああ、そこで世界樹の滴をもらったんだ。ただそこでそいつが気になることを言ったんだ」

 

「気になること.....ですか」

 

ベルは首をかしげた。

 

「クラネルの一族とヴァレンシュタインの一族に精霊たちの血を分けた。精霊はそんなようなことを言っていた。その言葉をきいてお前は何か思うことはあるか?」

 

ベルは少し考えた後これまでであった人の中で自分に対して世界樹とつながりのあるような内容をいわれたことがあることに気が付いた。

 

「そういえば豊穣の女主人のリューさんに大樹を見上げているような感覚になる、とかフレイヤ様に森林浴をしているような気分になるみたいなことは言われたことがあります。後はいい匂いがするとか癒されるとか?」

 

自分で言っていてよくわからなくなってきたがそもそもベルは自分の両親が誰なのか

確証がない。もしかしたらという思いはあるがまだ自分の中でもやもやしている状態だ。

 

「まだ、誰にもいってないことがあります。そもそもあれはもしかしたら夢だったのかも、僕の妄想が形になっただけなのかもしれないですけど......」

 

ベートはじっとベルの方を向き黙ってベルの話を聞いてくれている。

 

「僕がミノタウロスと戦った時に使ったスキルがあります。そのスキルは家族の絆です。あるキーワードを唱えることで生命力を代償に器の限界を突破する技だと教わりました」

 

「生命力!!??体力、精神力じゃなくて生命力か。それがおまえのあの姿ならそんな技2度と使うなといいてえところだがな。それと、教わりましたってのはどういうことだ?」

 

あの真っ白い空間での出来事、夢の中の出来事のように徐々に記憶から薄れていることもあるがただいえることはあの場所で英雄とあったことだ。

 

ゼウスファミリアの英雄、ダグラス・クラネル。会話したことは覚えている、でも内容はもうほとんど思い出せない。スキル発動に必要なキーワード、そして代償が生命力ということ。そしてひどくなつかしい感じがしたということぐらいしかもう思い出せない。

 

そんなことをポツポツと語るベル。ベートは腕組みをし目をつぶったまましばらくの間無言でいたがベートは自分も一度だけダグラス・クラネルと会ったことがあるということを話し出した。

 

「俺はガキの頃一度だけあの英雄に助けられたことがある」

 

ベルは驚いた顔をしたがベートの話の続きを待った。ベートの表情は当時の事を思い出してか辛そうだ......

 

隻眼の竜の襲来、両親が目の前で死んだこと。自分の弱さを呪ったこと......

 

「俺は強く、誰よりも強くなりたかった。両親の教えを忘れるくらいに強さに執着したんだ。それがあるスキルを生んじまった」

 

トントンっとベートは自分の胸を叩いた。

 

「俺の中に獣が住んでんだ、そいつを使ったことが遠征の時に一度だけあるがその時は仲間を、家族を皆殺しにしそうになった。フィンやガレスに止めてもらえなかったら俺はとんでもねえことをしていたな」

 

その時は遠征で初めて49階層 大荒野へと足を踏み入れた時だったとベートは語る。

 

事前にその階層での知識は得ていたはずだった、だか大量の敵、リヴェリアの詠唱が間に合う前に壁役の崩壊、仲間の負傷、一か八かの賭けだったが仲間を護る為に俺は獣になったと。

 

「実戦で使ったのはその時が初めてでな、自我を失うほどの狂化と強化だとは俺もロキも他の奴らも思わなかった。自分以外のその階層にいる奴らを皆殺しにしそうになった。洒落にならねえだろ」

 

それもあってか他の団員達と距離を置いたりソロでダンジョンに潜るようにしてたんだがな、そういうとふっとベートはベルの方を向いて笑った。

 

「どっかの誰かさんのおかげで俺は両親の教えを思い出せたんだ、......感謝してる」

 

「ベートさん.....」

 

「まあ、お前に精霊の血が流れていようが誰の子供だろうが関係なく俺たちロキ・ファミリアの家族だ。そこは心配すんな。それとスキルの話はロキと話すのと幹部達にも相談はした方がいい。生命力ってだけで危険な感じしかしない。それにおまえの性格上多用する可能性があるからな」

 

今日の夜ステイタスの更新するならその時に手があいてる幹部は集合だな、とつぶやいたベートはカップの中身をグイッと飲み干した。

 

「僕、もっと強くなってもしベートさんが暴走したら僕が止めます!!」

 

鼻息荒く立ち上がったベルの額をビシッ弾くとベートは笑った。

 

「そういうことは訓練で俺から一本でもとってからいいやがれ!」

 

ガタッと立ち上がったベートは机に金貨を数枚置くとベルを連れて黄昏の館へと帰還した。

 

黄昏の館へと着くと大量の食材が届いており食堂へと運ばれていた。最近では食材は調理担当になった団員達がロキ、幹部達、団員達の順番に食べたい物を聞き献立を作成している。そうした献立を作成した後対応する店へと注文を出し納入されるという流れだ。故に今日の調理担当の団員の頭には?マークが浮かんでいる。

 

「すみません、その食材多分僕が原因です」

 

ベルが今日の調理の担当の団員に頭を下げさ先ほどベートと一緒に商店街に行った話をした。

 

とりあえず保管できるものは保管しそれ以外の食材に関して鮮度が悪くならないうちに優先的に使用することにした。

 

「あら、もう来ていたの」

 

ティオネがエプロン姿で食堂へとやってきた。

 

「あ!ティオネさん。先ほどまでベートさんと食材の買い出しに行っていたので収納ついでに早めに支度をしていました」

 

それじゃ団長に食べてもらう料理を作りましょ!と鼻息荒く調理場に立つティオネ。何を作る気なのかはわからないがいきなり包丁を握り締めると振りかぶってダン!!とまな板の上にある巨大な肉の塊に叩きつけた。

 

「ちょおっっ!!ティオネさん何を!?」

 

「何ってこれから肉じゃがを作るのよ。ベルにレシピを教えてもらおうかと思ったけれで少し自分でも調べてきたわ!意中の男性には肉じゃがをって週刊オラトリア【女性誌】を読んだの。ベルは私の調理が間違ってたら指摘して頂戴」

 

そういうと再度包丁を振りかぶりダンダンとぶつ切りにしていく。

 

「待ってください!危ないです!!」

 

はしっ!と後ろからしがみつくようにしてティオネを止めるとベルは冷や汗を流した。ティオネの調理中に誰も近寄ってこないのはつまりはこういうことなのだろう......

 

そもそもレシピはどこにあるんですか?という質問に対してとりあえず肉と野菜をこの黒い水【極東の調味料醤油】で煮込めばいいんでしょ?レシピ通りに作ったら私の味じゃなくてレシピ作った人の味になるじゃない!とある意味正解のような言葉を聞きなるほどっとおもうところはあるものの、まずはレシピ通りの物を作ってそこから味見をして材料などでレシピに差をつけてはとなんとか納得してもらった。

 

えーととりあえず包丁の持ち方からですが......とベルはひとつひとつ丁寧に作業を教えていく。普段の遠征中では誰が料理を作っていたんだろうと心配になる......

 

隣のティオネからの圧力に耐えながら、まな板の前に立ちグイッと袖をまくると丁寧な手つきでトントントンっと材料を切っていく。ひらひらリズムよく動くエプロンはかわいらしく調理場を覗き込んでいる他の女性冒険者に女子力とはなんなのかを教えているようだ。

 

細かい手順、多い工程にイラつきそうになるティオネには団長の「おいしいよ!ティオネ!」という笑顔を想像してくださいと何度も何度も根気よく説得を試みた。

 

しばらく時間が立ち不格好ではあるが愛情たっぷりの料理ができあがる。最終的にはティオネ一人でなんとか完成までこぎつけることができた。額に汗をかきながら頑張るティオネの気持ちはきっと団長にも届くだろう。大げさに巻いた指先の包帯はこの際見なかったことにしようとベルは思った......そもそもレベル上位の人には通常の刃物は通らないという噂を聞いたことがあるがレベルが上がると体にそのような変化もでるのであろう......

 

調理場を貸してもらったお礼に豊穣の女主人で作ったことのあるまかないをそこにいた人達にふるまいベルは一度自室へ行き刹那との買い物に向かった。刹那のお願いはミノタウロスとの戦いで失った武具の買い物だった。本来ならばデートの誘いをしたかったようなのだが、自分の実力不足を痛感していた刹那はベルから一本とったらデートの約束を取り付けると心に誓っていた。

 

「ベル、ヴェルフは今忙しいんでござるよね?」

 

「そうみたいです。僕も用事があったんですが少し時間を置いてから会いに行こうかと思ってます」

 

ならバベルにある武具を扱う店に行こうとベルと並んで向かう。今日は折れてしまった刀を新調するつもりのようだ。

 

「刹那さんの刀ってかっこいいですよね」

 

男なら憧れるような感じですねと刹那に笑いかける。たしかに刀、日本刀という言葉を聞くと浪漫を感じる。僕は刀はうまく扱えないので、と続ける。

 

「ベルも刀使ってみるでござるか?刀はどちらかといえば切り裂く為の武器でござるが」

 

刀は扱うのに専門の訓練が必要になりそうなので、正しく切らないと刃こぼれすると聞いたことがありますからとベルが答えた。そういえばっとベルは自分の武器である白狼を手に取る。

 

「刃こぼれしてるでござるな、あのミノタウロスと戦ったせいでござるか」

 

「この白狼は椿さんにもらったものなんですよ」

 

刹那は目を見開いた。

 

「まさかヘファイストスファミリアの団長の椿さんでござるか!?あの御仁は拙者が使う刀を打たせたら世界一といわれてる刀を扱う物達にとって神のような存在でござる。いつかはあの御仁が打った刀を使ってみたいというのが拙者の夢でもあるんでござるよ」

 

この白狼ただでもらってしまったんですが......

ぼそっと呟いた言葉を刹那は聞き逃さなかった。

 

「ただでござるか!?」

 

「ええ、なんでも試作品だからあげるみたいな感じでくれました」

 

「ベルはまだあまり自分で武器とか選んだことないんでござるな」

 

通常では自分でいろいろな武器を使って選んで自分の好みの職人を見つけることが普通だ。

 

「ヘファイストスファミリアの団長の作品値段みてみればわかるでござるよ......」

 

そんな会話をしながらバベルの中へ......

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

そして大分更新が遅くなり申し訳ない<m(__)m>

長くなりそうなのでいったんここで区切ります。次回から続きルナと魔法について、ステイタス更新、アイズとガチデート 神会で修羅場、工場をぶっつぶせ! こんな感じですすめていきますのでお待ちください!

ちなみに私のこの話の書き方なんですが

・脳内執筆
・ざっと本文かく
・読み返してにくづけ
・読み返してにくづけ
みたいな感じでかいております。

そして前回お話したプレゼントしたいって話ですが
ベル君のふたつ名を正確に当てた方に小説を書こうと思います。もちろんかなり順番待ちになってしましますが。ちなみに二つ名のヒントは小説の中に結構出てますのでさがしてみてください。

もしくわ週一でこの話更新してくれみたいなことでも大丈夫です。できるかどうかは要相談ですが笑
いろいろなメッセージなどもいただいておりますが全部返信はしますので気軽にどうぞ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。