「ならユミは観月様の指示の有った物を八人を指揮して用意して、私は受注と納品の確認を急ぎます」
そうユキが言うと
「それが八人にとって美月正スタッフとしての初仕事って訳ね?」
そう言って一人頷くユリに向かって
「それが妥当なところでしょうね」
と、皆の意見が一致した
久し振の大公領で過ごす休暇なので取り敢えず真琴と翼に鬼百合からの預かり物を渡すのと命達の様子を土産話をしに訪ねることにした
「と、まぁそんな感じで二人とも毎日を楽しんで過ごしているよ」
勿論あくまでも帆風が見てきた範囲内の話に過ぎないがそれでも会えずに過ごした日々の事を多少なりとも知れて嬉しくもありホッとしている真琴と翼
そんな二人の様子を見ながら
「土産…とはちょっと違うが鬼百合殿と柳水殿、それと俺の二人の部下の四人からのプレゼントでみこやチサ、観月様に美月のスタッフ達とお揃いだから遠慮なく受け取ってくれたら皆喜んでくれると思うよっ♪」
そうあくまでお気楽な調子で言われたけどやはり気にしないではいられない真琴が翼を見ると自分を見て頷いてくれたので各々受け取ると
「有難うございます、何かお礼を考えないとですね?」
笑顔でそう言う真琴に
「鬼百合殿達はともかく俺の部下達になら気を遣わなくて良い
みこやチサ、観月様達と楽しい船旅を経験したし鬼百合殿と酌み交わした楽しい酒宴
何より出港の際にチサが持たせてくれた手作りのクッキーは皆で大喜びで食べたものさっ♪」
その話を聞いた真琴が
「焼いたのはチサ…だよね?みこがそうゆーのをするのは想像できないんだけど…」
そう聞くと
「ユウ様に習って焼きましたって言ってたよ、ユカ様とミナさんの二人は最近美月のお仕事が忙しくて不参加でしたと聞いてるよ」
と、真琴が感じてるだろう疑問を先回りして答えると
「翼様、真琴…明日のお菓子作りのお題ですがパウンドケーキ作りにしようと思いますがそれで宜しいですか?
宜しければ支度は私達がしておきますからお任せくださいませ」
そう言われて初めてのお菓子作りに期待と不安の二人が中々寝付けない夜を過ごした
ユキとユミの指導の元始まったパウンドケーキ作りだけど真琴に翼、非番の大公邸と公女宮の侍女が六人と公女宮の侍女四人集まって始まった
しかしさすがに初心者ばかりが12人をユキとユミだけでは面倒を見きれず手間取っていると心配顔で調理場を覗いていた公女宮の下働きの女達がその事態を見兼ねて助け舟を出してくれた
そのお陰で当初の予定より多くのケーキが焼け命達に手土産を持っていってもらえるほどだった
そしてケーキの仕上がり具合と現状を鑑みて公女宮の侍女達を美月の見習いスタッフに、大公邸の侍女達を公女宮の調理補助と言う名目での移動を観月に推薦する事を決め…
それが承認され次第大公邸の侍女の人事変更を要請してもらえるよう進言も併せてする事にした
天候にも恵まれた出港の朝、ユキとユミにも千浪から預かった刀子を護身用に持たせ護衛役の千浪と共に船に乗り込んでいき
帆風に差し入れ用と命達への土産用のパウンドケーキと吽から預かった鉤爪と千浪から預かった鬼百合から譲り受けた一対の短剣を帆風に預けた
因みに鉤爪は突撃隊隊長に預け短剣は自らが預かる事にして自分が持っていた二本のカットラスと突撃隊隊長が持っていた手斧と青竜刀を真琴に手渡し真琴もそれを受け取った
船の出港を見送った真琴は今回直接孤児院に向かいシスターの伴奏で歌の稽古をする事になった
二度目の訪問となる真琴への質問は主に未だ会った事の無い命に対するものが多く命について説明する事にした
「普段のみこ…僕や一部の人達は命の事をみこって呼んでるんだけどみこはね、かな…かなの目から見てもみこちゃんって言ってお姉さんになった気になって面倒を見たくなる子なんだよ
実際に八歳のチサと居るみこを見れば誰だってチサの方がお姉さんにしか見えないんだからさっ♪」
そう言って笑う真琴だった
その一方で翼は
「シスター、お久しぶりですがお元気そうで何よりです」
そう言って抱き付いてくるサエを嬉しそうに見ていると遅れて入ってきた翼の顔を見て驚いていると
「はい、和泉の女神の依り代である観月様の代理人で水の精霊の巫女である命様の姉の一人の翼様です
私は観月様不在の美月を預かるユマ様から翼様の御世話を任され今朝は翼様をこちらに案内する役目を任されました」
そう言われ更に驚くシスターに
「翼って言います、味に自信無いですけど昨日焼いたパウンドケーキを味見して頂けたら嬉しいです」
そう言って差し出すと
「親と死に別れた私達も又こちらにお邪魔させて貰って良いでしようか?」
そう言われ中の様子を覗き見てた子供逹が翼に群がり
「じゃあ私達翼様逹の事をお姉さんって呼んで良いですか?」
そう聞かれて
「私や真琴は良いけどチサは未だ八歳ですし真琴の双子の妹のみこちゃんは…」
と言い淀むと
「水の精霊の巫女の命様は許してくれないんですか?」
と悲しそうに聞かれて翼に代わりき
「会えば分かるけど真琴ちゃんと双子って信じられない位に幼く見える命様は皆から見てもみこちゃん…
なんですよ…つまりお姉さんって言うより命様の方が妹の様にしか見えませんから皆がお姉さんって呼ぶのはちょっと違うと思いますよ?」
そうサぇ言われ驚く子供逹に
「水の精霊の巫女の命様とみこちゃんは別人にしか見えないし…命様って言われるよりみこやみこちゃんって呼ばれるのが好きな子なんですからね」
翼がそう言うと
「じゃあ私達もみこちゃんって呼んで良いですか?」
翼にもそう言われてそう聞くと
「みこちゃんはそう呼ばれるのが好きですよ?
自分の事をみこって呼んでる娘なんですからね」
そう言われ歓声をあげる子供逹だった
チサが覚醒を始めた翌朝命には勾玉を六個、鬼百合に四個ずつ渡すと受け取った鬼百合が早速隠し腕に埋め込んでもらうと四人の戦士を呼び出した
深紅甲冑を身に纏った剣士の両刃の剣を装備した修羅にいかにも喧嘩屋っぽいその名も喧火
拳闘士の闘炎(ブラスナックルを装備)に海賊風の出で立ちのコロナはカットラスの二刀流の使い手だ
チサ達の連休初日は前回同様に留美菜達の居る岬に行き鬼百合は柳水とモリオンを誘って漁の手伝いに回った
前回の事を海兵隊の友人から酒を酌み交わしながら聞いた本国海軍の下士官逹
その内の運良く非番の者逹が同行したので岬は今回も賑わって居る
勿論前回以上に画家逹も増えていて待望の人魚姫の姿をスケッチした
沖に出た命を出迎えてくれたのは岬の少女達のリーダーの留美菜の母親で勿論皆喜んで迎えてくれた
二度目の漁の命は前回以上に上手にこなし魚も良型を仕留め前回以上に早めに漁を切り上げる事になった
今回は足が早く競りに出してる間に味が落ちてしまう貝を命に持たせ海女逹は漁港に向かい命も岸に戻り少女逹と過ごした
翌日命はいつもの様に楽士と過ごしチサ逹は明日訪れる帆風逹海兵隊の為のお菓子作りをする事になり今回はアップルパイに決まった
前回のビスケットが好評で興味を持った侍女逹が休日返上で詰めかけ厨房の下働きの女逹も
「アップルパイか…うちの子供逹にも食わしてやりたいよ…」
そう呟くのを聞いたユウが
「それなら侍女の娘逹には料理に不馴れな娘も居ますからその娘逹の手伝ってあげていただき一緒に作りませんか?」
そう言われ
「え、ほ…ホントに良いのかい?」
と、躊躇う相手に笑顔で頷くユウに向かい厨房以外の下働きの女逹もどっと流れ込みその手を握ると
「あたしらに出来ることはなんでも言っとくれよっ♪」
そう笑顔で答えた
アップルパイが焼き上がり下働きの女逹は子供逹のおやつに…
チサは国王夫妻に十四夜と十六夜にユイ
それと直前に国王と面談していた海軍の将軍も招かれた午後のお茶に出すと喜ばれ
「宜しければお持ち帰り下さい」
そう言って残りの分を包むと将軍に持ち帰ってもらった
後日将軍に
「孫逹も喜んでましたよ、チサちゃん」
そう言われ照れながらも嬉しそうに笑うチサだった
ミナとユウが焼いた分は明日来る海兵隊にとっておきりんは今回も岬の友達にマイとマキは楽士寮で過ごす命逹と午後のお茶を共に楽しみ
何人かの侍女逹は海軍の休憩所に差し入れて残りは下働きの男や侍女逹のおやつになった
それまでには無かった明るい笑い声が広がる王宮だった
食事を終えマナと三人の見習い侍女逹も命逹の部屋に呼ばれる事を言われ荷物を纏めるように指示された
それによりユキとユミ、ミナとりん、マイとマキにマナ、見習いのスー、スエ、スズにあきの十人が侍女の部屋で同室
鬼百合、阿、千波、ユウ、ユカが騎士の部屋と割り振られた
王妃の望む王宮の改革それは今始まったばかりでもきっと望む形に育ってくれる…
そう願う王妃だった
翌日からは三人を含む侍女見習いの侍女達も午前中はチサとりんと同じ部屋で学ぶ事になり
午後からは礼儀作法とダンスを学ぶ事になった
しかしその夜遅くの事
鬼百合、不味い事態になったっ!」
珍しく王宮に居る鬼百合に焦った声で阿が話し掛けると面倒臭そうに
「大変ってのはどれくらい大変なんだよ?」
その緊張感の乏しい声に
「夕方風の精霊に関する情報が入ったと吽から連絡が有ったのは話したな?
その情報を頼りに真琴と翼の二人がレムが目を離した隙を突いて探索に向かってしまったんだ」
そう言われて渋い顔をして
「真琴はともかく翼までたぁどぉなってやがんだ?」
そう呻くと
「鬼百合、まこちゃんと翼ちゃん助けに行くけどどうする?」
そう言われて驚いて顔を見合わせる鬼百合と阿に再び
「行くのをか行かないのはっきりなさい
私は別段困らないし一人の方が早いのですからね」
そう断言すると
「勿論私も連れてってくれるよね?みこちゃん?」
チサが言うと瑞穂が
「当然私も同行する」
そう答えれば柳水も
「水の精霊の巫女の元に集いし我等が同行しなくてどうする?」
そう鬼百合と阿に言うと斬刃とモリオンも頷き
「だな、水の精霊の巫女よアタイ達を導いてくれ…」
鬼百合がそう言い阿も
「見苦しい姿を見せて申し訳ありません」
そう詫びていると
「阿はチサを、瑞穂はみこを頼む
観月には残ってもらいこの事態を王や王妃に報告してほしい」
そう言ってりんを見て
「勿論魔力や霊力を持たないりんは連れてけねぇのは分かるな?」
本当は「連れていって下さい」そう言いたいけどそれを言える程の愚か者ではなく
自分がついていってもただの足手まといなのは分かるりんは努めて明るく
「鬼百合さん、みこちゃんをちゃんと連れて帰ってくれなきゃダメですよ?」
そう言われて
「勿論瑞穂に抱かれて帰ってくるさっ♪」
そう鬼百合が陽気に答えると
「自分がと言わないのが如何にも鬼百合らしいですね?
仕方ありません、私とて同行したいのは山々ですが…こちらの事は任せなさい」
観月も溜め息を吐きそう答えたが嵐だけは
「私は連れていってもらえるのだろうな?」
と言われた鬼百合が
「女神の騎士団団長が和泉の女神の依り代から離れるわけにはいくまい?」
そう言われて
「ならば私も言うがみこは勿論土地勘の無いお前達だけでいってどうする?」
そう言われて言い返せない鬼百合に構わず
「今のこの王宮は私がアクエリアス様とフレア様の加護を得て張り巡らした結界に守られてますから余程の敵が襲って来ぬ限り問題はありません
嵐、頼みますよ」
そう巫女に言われてはそれ以上の事は言えない鬼百合はやむ無く
「巫女にそう言われちゃ仕方ねぇが…お前は嫌だろうが柳水頼むぞ」
そう言われて黙って頷きお姫様だっこで嵐を抱き上げると一行は港に向かった
泣きたいのを堪えるりんに
「取り敢えずお茶を飲んで落ち着いたら報告に行きます
りんはお湯の仕度を、マイは国王に、マキは王妃に面会したい旨を告げてきてくださいマナは器と茶葉の準備任せますね」
そう言いながら
(りん、遠慮は要りません…暫く泣いてきなさい)
そう思いその小さな背中を見送りミナを見て
「頼みますよ…」
そう声を掛けるとりんを追い掛けるミナを見送る観月
そして…二人きりの給湯室でそれまで押さえていた涙が堰を切って溢れだしミナにすがり付き泣くりんだった
④風の精霊
普段はあまり人気の無い夜の桟橋なのに青白く輝く月明かりを頼りに夜釣りを楽しむ者逹が居た
暗がりから音も無く現れた戦士に驚いた男逹
しかし一行に命の姿を見付け様子を伺っていると背中のリュックから得体の知れないものを出しそれを海に放り投げ
海水に浸かったそれはみるみる巨大化しいつの間にか服を脱いだ命も海に飛び込みその得体の知れないものに呑み込まれた
様子を見ていた男逹が腰を抜かしているとそれの背中とでも言うのか天窓の様に開き
中から命が何事も無かった様に手招きすると戦士逹もそこから乗り込むと信じられない速度で港を後にした
そのあまりにもの信じられない光景を目の当たりにした男逹は幻を見たのだろうと思って忘れる事にした
最初は船体と言うべきか…それが波を切る音が聞こえていたがやがて聞こえなくなり静かな波の音が聞こえるだけになり…
「みこ、一体これはどういう事だ?波を切る音が聞こえないばかりか船体に当たる揺れすらしねぇんだがな…」
一同の疑問を鬼が聞くと
「この子は既に水上ではなく低空ではありますが海面の上を飛んでるからですよ
一刻程で大公領に着きますが港に入る前に海面に降りますがその時は指示しますから衝撃に備えなさい
それまで身体を休める様に」
そう言われて胡座をかく戦士逹と各々の精霊に向かい祈る命とチサ
その命の目が開き
「鬼百合、水に落ちるよ…」
(この物言いはみこか…)
そう思いながら
「みこ、落ちるじゃなく降りるな…意味全然違うぞ」
そう言われても理解出来ないみこは鬼百合に
「そーかな?似たよーもん…」
自分で言っておきながら着水時の衝撃でよろつき鬼百合に抱き止められる命
「あはは…桟橋に吽逹が居るんだよね?ぺんちゃんお願い」
そう言われて進路を変えたらしく遠心力に振られそうなチサを阿が抱き止めた
桟橋で待っていた吽逹が乗り込むと嵐に
「聖なる和泉…がキーワードらしいが私達には何の事やらさっぱり…
真琴と翼は何やら思うところがあるらしく急いで救出に向かおうと言ってたのをレムが鬼百合逹を待つよう言ったのだが…」
そう苦々しく言うと
「聖なる山に在る聖なる和泉に入り口が有るらしいよ?」
不意に命に言われて驚きながらも
「それならば心当たりが有る…
みこ、港を出たら西に進路を取り最初に在る河を遡らせて欲しい」
そう言って再び目を閉じる嵐
「だって、…お願いねぺんちゃん」
命もそうとだけ言うと口を閉ざし物思いに耽った
元々然程大きいとは言えない大公領の在る島の川はすぐに川幅が狭まり
「ぺんちゃんがそろそろ限界だって言ってるよ?」
そう言われてやっと目を開いた嵐が
「右岸から上陸する」
その声で右岸に寄ると今度は扉が現れ命がそれを開くと命の身体を小脇に抱え
「お前を水に入れるとめんどうだからな」
そう言って川に入り
「そこそこ深く流れも早いから阿はチサを柳水は王女を頼む」
からかう口調の鬼百合に
「今はそんな馬鹿言ってる場合ではない」
吽にたしなめられ
「ふんっ」
と鼻を鳴らす鬼百合にかまわず
「山頂が平になっている山が分かるか?
あれがみこの言った聖なる山で本来依り代不在の和泉の女神が住みし聖なる和泉の在る場所でもある」
その話を聞いた鬼百合は
「山頂に在るのか?」
そう言われて
「あの山は死火山でいつの頃からか水が溜まり始め今では年間を通し変わらぬ水位を保っている」
すると今度は阿が
「雨水が貯まったのであれば和泉の女神には相応しくないはずでは?」その疑問を嵐に問い掛けると
「雨季と乾期がはっきり別れるこの島に在って乾期で水位が下がらないのだから水源はあるはず
ただそれを調べるのは不敬故あえて調べ無いのがこの地の掟だ
最も今回はその不敬も水の精霊の巫女が同行してるから問題ないだろうがな…」
その説明がされてる間真琴の魔力を探っていた命が
「居た、まこちゃんの魔力を捉えた
翼ちゃんとレムの二人からのみこの魔力も感じる…鬼百合、あっち」
そう言われて命の指差す方向に歩き始める一行がしばらく進むと岩山が有り
「この先にまこちゃんと翼ちゃんが居るから先に行くね」
そう言ってすーっと岩山を飛び越える命の姿が見えなくなるまで唖然と見送る一同に構わずまっこちゃーん、助けに来たよぉーっ♪」
図上から聞こえてくる命に続いて舞い降りる命の小さな身体を受け止めると
「みこ、例えみこだろうと僕達の決意は変わらないっ!」
そう言って翼と頷き合うと
「???、何ゆってるのまこちゃん?レムもウィンディー様の救出に行くから気合い入れてよ?」
気合いが微塵も感じられない命に真琴も思わず
「みこ、みこが一番気合いいれなよ?ってゆーかボク達の事止めに来たんじゃないの?」
そう言って翼と二人命を見詰めていると
「お二人を説得しに来て…いえそれ以前になぜこの場に命様が…」
レムがそう言うと今更ながら驚く三人に
「今はそんな事なんぞどうでも良いだろ?水の精霊に導かれたで納得しな
つかこっちはみこがまこちゃんと翼ちゃんが大変だから助けに行くけど行かないなら一人で行くと騒いで大変だったんだからなっ♪」
そう言って笑うと
「それに川に居た時にはまだ感じ取れなかったウィンディー様の霊気を微かに感じます
しかもかなり弱っていらっしゃいますから救出を急いだ方が良いと思います」
チサの言葉に命も頷き
「真琴…来なさい、沙霧は翼を頼めますね?命様にチサ様…私達を風の精霊の元にお導き下さい」
レムの言葉に驚く真琴は
「レム、反対だったんじゃないの?」
そう言われて穏やかな笑みを浮かべ
「私は事実確認と鬼百合逹を待つよう言ったのですよ?
しかし二人の精霊の巫女様逹が風の精霊の霊気を感じると言い鬼百合達も居る
ならばここまで来てるのに引き返す必要等ありません
命様も救出に向かうと仰った今の私はその意向に沿うのみ…さぁ行きましょう」
そう言われてレムに身を委ねる真琴を見て
「んじゃ、風の精霊の救出をサクサク片しかりらはさささてみこを連れ帰らにゃ王妃が心配するからな
取り敢えず山頂目指しゃ良いんだな?みこ」
そう聞かれた命が頷くのを見て首根っこ摘まむと指定席に座らせ
「さぁ行くぜ」
そう言ったが言った本人も別に返事を期待したわけではなく気持ちを切り替えるため言っただけで皆返事より行動でその意思を示した
一刻程掛け山頂まで駆け上がると鬼百合が
「何もねぇみたいだが?」
山頂を見回し溢す鬼百合には目もくれず
「ペンちゃんお願い」
命が背負うリュックがモソモソ動いて又謎の生物が現れ湖に入ると今度はすぐに形態変化で来た時と異なる姿になり
やはり胴体に扉が現れ命が開けると一同が乗り込み
水の鞭で真空の刃を回収すると力尽きその場に倒れ込む命だった
八青龍神と黒い炎の剣の激突により酸素の発生及び一酸化炭素が水に溶け込み貴女達が活動するのに差し支えが無くなりました
今こそウィンディーの救出の時ですー
そう告げられ上陸を果たした一行は上陸地点から左手に真琴、吽、柳水、斬刃、千浪、黒狼、闘炎、コロナで真琴は装備していた左右炎剣をコロナに渡し自らは黒炎竜を呼び出し装備
吽は焔の爪を闘炎に託し代わりに命から白竜牙…白竜の牙を両の拳に装備した
真ん中にチサ、鬼百合、阿、修羅、喧火モリオン、白浪、黒豹、に別れ
「レムよ、翼、嵐、瑞穂、沙霧はペンでみこを迎えに行ってくれ…嫌な予感がするからな」
鬼百合にそう言われて各々に進路を選んで歩き始めるのを見送り
「私達を命様の元に案内してください…貴方なら命様の霊気を感じ取れますね?」
そうレムが声を掛けるとそれに応える様に方向転換し移動を始めた
暫くしてアクエリアスの話してくれたらしい小島が見付かり
「命様が倒れている…」
浅瀬まで寄せてもらい慌てて駆け寄る一行
「辺り一面に漂う血の臭いの元が判らない
命様の身体には傷ひとつ無いし炎の剣以外の敵が居たと言う話も聞いてない…」
考え込むレムに
「みこが抱えるこの剣は?」
そう嵐に聞かれてレムが確かめ
「真空の刃…の様ですがなぜ命様が?」
レムがそう呟くのを聞き
「今はそんな事等どうでも良いだろう?
炎の剣は回収したからレムは命様を、嵐はその真空の刃を持ってぺんに戻れ
ぺんの中で翼が命様の身を案じて居るのを忘れるな」
そう沙霧に言われてぺんに戻り自分のマントを外し
「私が手伝いますから命様に服を着せてください
それが済んだらこの上で休んでもらいますから」
そう言って命に服を着せる二人に
「みこが意識を失って居る現状でこの後私達はどうしますか?」
そう嵐に聞かれてレムが
「ここまで来る途中敵の気配は一切感じることが無かった事から多分ここには水棲の魔物は居ないと判断し翼に命様を任せてこの中で待機してもらいます」
レムのその言葉に
(ここまで来たのに最後の最後に留守番しなくちゃいけないの?)
そう思ってぎゅっと目を瞑る翼の膝枕で横になっていた命が目を覚まし
「レム、それじゃ意味ないんだよ…みこと違って冷静沈着な筈の翼ちゃんが何故拘ったの?
何故まこちゃんがレムの反対を押しきってまで翼ちゃんをここに連れてきたの?
翼ちゃん…聞こえたんでしょ?翼ちゃんを呼ぶ声が…」
命に問われ頷く翼を見詰め
「済まない、翼…私の目には未だに貴女の事を寄るべ無い少女のままでした
貴女も又チサと同じく命様の勾玉を身に宿した特別な存在である事を忘れてました…」
そう言って詫びるレムに翼は
「私達に帰る場所…待ってる家族が無いのだから謝ること無いし今の私達には真琴とみこちゃん、レムさんや鬼百合さん逹に大公家の皆さんがいます
そのレムさんが本気で私達の事を心配して反対したのは分かってますから…」
そう翼が話終えると
「沙霧はこれを使いなさい、それと翼を頼みますね
嵐、一応炎の剣を持っていきなさい
さぁ行きましょう、命様…風の精霊ウィンディー様の元へ」
レムがそう言うと
「ぺんちゃんはここで待機、みこ達が戻ってくるまで休んでてねっ♪」
そう言ってレムに抱えあげられると左の道を進むことにした
途中全く敵に会うこと無く狗の獣人が古びた祠の前でおろおろと狼狽えていた
その獣人がレム逹に気付いて
「あ、貴女逹何故こんな所迄来て…アイツ等に見付かったら酷い目に合わされますよ?早くここから立ち去りなさい」
獣人がそう言って立ち去る様に促していると
「こら牝狗、飼い犬の分際でなに勝手なことしてんだ?」
「侵入者は殺すか捕らえろと言ってあるはずだ」
全く気配を感じさせず現れた人狼逹が口々に言うのを聞いて怯える狗の獣人を見ながら
「全く…俺達の手を煩わせやがって出来の悪い戌っころはよぉ~っ!後でたっぷり仕置きしてやるから覚悟しておくんだなっ♪」
そう言われてガクガク震える獣人とその相棒を蔑む目で見るもう一人の人狼に
ー青竜牙っ!ー
そう唱え青竜の牙が二人を引き裂いたけど不死身の人狼の再生能力は凄まじくあっという間に傷が消えてしまった
「何て怖いお嬢ちゃんだろう?顔に似合わない凶悪な呪文をいきなりぶっ放しやがってよ
俺達じゃなきゃ確実に死んでたぜ」「……」
騒ぐ者と眉間にシワを寄せ考え込む者と異なる反応の二人を見て
「ふーん、じゃあもっと素敵な呪文を見せてあげるね」
ー双頭の黒炎竜っ!ー
2つの竜頭が人狼に襲い掛かり人狼逹の身体を燃やしているにも関わらず
「甘いなお嬢ちゃん、俺達の再生能力を舐めてもらっちゃ困るぜ」
と不死身故にか鈍い相棒に
「ま、待て…この炎、俺達を喰らってやがるぞ?」
そう言われて炎を見て
「この黒い炎に見覚えが…まさか…アイツは何十年も前に死んだはずだぞ…
それにこんな小娘に使えるほどちゃちな呪文じゃ…」
「そんな事今さ…ら」
その言い掛けた言葉を最後に二人の人狼は跡形もなく燃え尽きた
「容赦無いねみこちゃん…」
そう翼が言い嵐も
「何もそこまでしなくても…」
そう嵐に言われて
「見なさい」
そう言って嵐の額に指を当てると嵐の身体が恐怖と怒りに震え
「まさか本当にこんな…」
そう言って今度は怯えた目で命を見る獣人を見ながら口ごもる嵐に
「私がその様な嘘を言ってどうしますか?
悪い予感がしましたからみこを下がらせたのは正しかった…」
既に今話している相手がみこでない事は気付いて居る嵐が
「みこは見ていない?」
と言われて
「当たり前だ、無垢なみこ…清浄な精霊の巫女の汚れを知らぬ二人に見せるべき物ではない」
そう言い放つと嵐も
「私ももう見たくありません」
と、答えるのみの嵐に構わず
「汝に問う、この地で静かな眠りに就くのと我等と共にここを出て己の運命と戦う試練の…棘の道を選ぶのか…」
そう問われ震える獣人に掛ける言葉が見付からずただ見守るだけの翼に弱々しく笑い
「私は長い間アイツ等に小突かれ濃き使われ玩具の様に扱われ生きてきたから生き続けるのが辛かった
でも…許されるならばもう一度太陽の下を走り回りたい
楽しい時には笑い悲しい時には泣きたい…そんな風に生きたい」
そう命に訴えると
「わかりました、では暫く待ってもらうが…翼、開封の時が来ました…祠の前で祈りなさい、他の者も翼の為共にウィンディーに祈りなさい」
獣人に向かいそう指示して膝間付く翼の肩に両手を置き祈り始める命に呼応して小さな筈の祠の中で強風が吹き荒れ祠の壁を内側から叩き付ける音がし始め翼の祈りが高まるにつれ強風は暴風となって吹き荒れついに祠を砕き…
「感謝します…我が友アクエリアスとその巫女及びその従者逹よ
そして我が呼び声に応えし者よ…
貴女が今この場に居ると言うことは私を受け入れ我が巫女となる意思の表れそう介錯してよいのだな?」
そうウィンディーに問われ
「いいえ、私の方こそ貴女様の導きを求めてここに来ました…風の精霊ウィンディー様のお導きを求めます」
そう答えると
「翼、ウィンディーに左手を差し出しなさい」
命にそう言われて差し出すとウィンディーは翼の手を取り口付けを落とす
するとウィンディーは風になり翼の身体に入り込み翼の背中に黒い翼が現れた
「翼、目的は果たしましたから鬼百合逹にぺんの所に戻る様に伝えて下さい
真琴には阿が
吽を通して知らせてくれるでしょう
嵐、炎の剣を翼に預けて下さい
敵の気配はありませんが万が一に備えお守り代わりに持って行きなさい
今の貴女なら炎の剣が応えマジックアイテムとして力になってくれますからね
修羅に会ったら彼女に預けるとワタシが言っていたと伝えて下さい」
そう言って翼を送り出し
「貴女の決意を見せてください、黒いこの勾玉で…」
そう言って命の勾玉を渡し
この勾玉が貴女の闇と穢れを吸収し浄化してくれます
この試練を乗り越えた時貴女は生まれ変わります」
そう言われて差し出された勾玉を受けとると心臓の上に押し当てると勾玉は獣人の身体から邪気を吹き出させ
その邪気を全てを吸収すると獣人中に吸い込まれていった
後には裸身の乙女が立ち尽くしていたけど崩れ落ちる寸前を嵐に抱き止められ
「これを掛けてあげなさい」
そう言われて渡されたマントを身体に掛けると
「その者は私が連れていく、レムは命様を頼む」
そう沙霧が言うと
「そうですね、私もそろそろ限界ですからみこと代わるので頼みますね」
そう言って目を閉じると立ったまま眠っていたからその身体を抱き上げぺんに戻り仲間を待つ事にした
手探り状態の来る時と事なり船脚自体は早いが意識不明の二人を抱えた皆の気は重かった
山道を駆け降り川を下り桟橋で真琴達が降りると意識を取り戻した命が
「チサちゃん、みこのリュックからチサちゃんに渡したのとおんなしの入ってるから翼ちゃんにも渡してあげて」
そう言われて数珠を一式取り出し翼に渡し翼が身に付けると
「翼ちゃん、ウィンディー様に祈って」
そう言われて翼が祈り始めるとチサの時同様に翼の身体から霊気吹き出し数珠を染めると十個の碧の霊玉が現れそれをチサにひとつ渡し真琴には三個渡し
「真琴は真琴の分と大公様に頼まれた武具の強化に使って」
そう言って命に残りの六個を預けると
「みこ、アタイも欲しいが沙霧、お前さんもその霊玉を受け入れちゃどうだ?」
そう鬼百合が言うと碧の霊玉自らが沙霧の元に行き受け入れを求めたから」
「公女宮に戻り次第受け入れる」
とだけ答えた
「それなら真琴ちゃん、私のフレア様の霊玉も役立てて」
そう言って朱い霊玉を六個渡すと命も
「未だ有るかもだけど…」
そう言って真琴に20個と翼に渡しその三人がくれた霊玉を寂しそうに見る真琴に気付いたレムが
「確かに霊力の無い真琴には霊玉を産み出せませんが白魔法の魔力を吸った白い勾玉が有りますね?」
レムが言うと命も
「うん、みこもまこちゃんの勾玉大好きだよ」
嬉しそうに言うと
「真琴ちゃんの白い勾玉って物凄く綺麗だもんね」
チサも言うと
「実際に真琴の勾玉はお守りの装飾品として大公領内ではかなり人気が高いんですよ?」
そう笑って言われて照れる真琴は白い勾玉を出し翼とチサにひとつづつ渡し命に六個渡し
「歌のレッスンもそろそろ最終段階に入る頃だからもう少しだけ待っててね…みこ」
そう声を掛けると
「うん、みこも良い子にして待ってるからねっ♪」
そう再会を誓いあい真琴達は公女宮に帰り命たちも本国に向けて出航したのは夜明け間近い頃だった