九章 来て来て
①楊牧場
早朝、王宮を出た鬼百合とユウを乗せた馬車は大した荷を積んでない事もあり命達より早かった
命達より一刻遅く出たにも関わらず朝食を摂ったのは同じ場所で
ーなんや知らんけどアホ共がついてきよる…ー
落ち着きの無い翔は王宮から出てからこっち、馬車から飛び出しては木の実のついた枝を持って帰ってきてたが…
その姿に一目惚れの魔物達が翔の後をつけ互いに牽制しあっている
「鬼百合様、先程から私の翔ちゃんの後をつけ回すあの不快な者達は何なのですか?」
そう、不快感も露に言うのを聞いて
ーなぁ鬼百合…ボクっていつの間にユウのモノになったんや?ー
そう呆れて聞く翔に
(さぁな、ユカの奴もお前事を気に入ってたから先に所有権を宣言したって所だろう…
翔ちゃんは私の子よっ!って感じゃねえのか?)
鬼百合そう言われてやはり呆れた感じで
ー何でやねん?ー
そう突っ込みを入れる翔には構わず
「気にするな、あの程度の奴等にどうこう出来る様な翔じゃねぇんだからよ?」
鬼百合がそう答えると方眉を跳ね上げ
「私が申しているのはその様な事ではありません
あの様な者達に翔ちゃんの周りを彷徨く事自体不快だから何とかして頂きたいのです」
鬼百合を睨みながら言うユウを見ながら
(いつかこいつが母親になった時こいつの子供…特に娘に惚れた男は大変だろうな?)
そう思う鬼百合だった
ーそろそろみこンたぁが昼飯喰うた所やけど鬼百合ンたぁはどないするんよ?
こっから先は牧場までそないな場所無いンやけどな…ー
そう言う翔に鬼百合は
(そうか、昼飯にはちと早いがどのみち買った弁当だけじゃ足らんから大した違いはねぇか…)
そう翔に言うともなく考え
「ユウ、直にみこ達が昼飯食った見晴らしの良い場所に着くそうだから飯にするか?」
その鬼百合の言葉に溜め息を吐いて馭者に
「この先に広場が有るそうですから少し早いですけどお昼の休憩にしましょう」
そう声を掛け馬車が止まるのを待ってお茶の支度を始めるユウだった
大盛弁当四人前を下ろしユウが湯を沸かしている間馭者と鬼百合は馬の世話をしている
暫くしてまた木の実のついた枝を持って帰ってきてた
ただ今度は自分用ではなく三人に食べてもらう為の物だろう翔にはおおぶりな山桃で甘酸っぱい香りが漂ってくる
「翔、済まんな…」
と、鬼百合が言って受けとるとユウは
「翔ちゃんのもちゃんと用意しましたからね」
そう言って一つの手皿には水もう一皿にはクッキーを砕いたものと一粒ずつ解した草の実が乗っていた
それらを啄みながら
ー牧場とその先の街の間に起こるチュー怪異の噂どう思う?ー
翔に聞かれた鬼百合は
(みこ達が通った時は何も起こらなかったンなら何かの見間違いとかじゃねぇのか?)
鬼百合は面倒臭そうに答えると
(んなこたぁない、みこンたぁが通った時は隠れとったみたいやからね…
具体的にわかってたわけやないけど四人の巫女達もその気配には気ぃついとったけどみこが全く気にも止めとらんから黙るとったみたいなンやけど…)
そう言われてさすがに
(わかった、取り敢えず牧場の用事を片付けてからだな…)
そう言われて翔も
ーわかった、鬼百合もそのまんま闘気押さえとってや?
そないな力持っとる様には思えんけど用心に越したこと無いー
そう答える翔に鬼百合は
「なんに対する用心だ?大した事無い奴等なんだろう?」
と聞き返すと
ーせや、大した奴等ちゃうから窖に潜られたら面倒なんや
精霊の清浄な霊気は隠し切れへンからみこも自分が今出向いてもって判断したんやろねー
そう言われて
(成る程…本人が気付かなくとも魔力に抵抗力を持つ者は居る
が、その鍛えられてないそれでさえ上まれねぇ程度の奴等なんかもな…
わかった、ソイツ等が怯えて窖にま潜り込まれねぇよう気ぃ付けるぜ)
そう話合っていたのを馭者とユウは知らなかった
もっとも相変わらず翔の様子を伺う魔物達の存在に不快感を隠さないユウはそれ所じゃ無かったのも有るのだけど
馬車が牧場の敷地に入りその長閑な風景を眺めながら
「こんなにも長閑な所で育ったから旨い肉になるんだろうな…」
と、鬼百合は欠伸をしながら呟くとユウも
「一度だけと言うのは惜しいですから又訪れたいものですね」
そう話しているうちに馬車は牧舎の前に止め馬車の前に立つ老婦人に
「貴女がお絃さんですね?
私は観月様の使いでこちらを訪れたユウと言う者です」
そう言って手を差し出し握手する二人を見ながら
「ユウ…もしかして美月のデザイナーのユウさんですか?」
そう驚く嫁のニナに
「はい、確かに私は美月でデザインを任されている者ですが?」
と、答えると
「何といきなり美月の方が…しかもこんなにも早く訪れるとは…」
と、驚くお糸に
「命様のお世話の責任者を任される程の春蘭の推薦ですしこの子が春蘭からの手紙を運んできてくれたのも要因ですが…」
そうユウが話すのを聞いた孫娘のミミが
「その子ってお姉さんが飼ってる子なの?」
と、聞かれたユウは
「いいえ、この子の主は命様で命様のお使いで私達の元に居ます」
そう答えると
「じゃあミミ、みこちゃんのお友だちだからその子に触っても良い?」
と、言うのを聞いた翔が溜め息を吐いてミミの差し出した手に止まるとチチチと鳴いて見せ頭を撫でさせ喜ばせた
「お姉さん、この子何て名前なの?」
そうミミが聞くと
「翔ってゆうから私は翔ちゃんと呼んでますよ?」
と、言われて
「じゃあミミも翔ちゃんって呼ぶからよろしくね、翔ちゃん」
そう言われて再び溜め息を吐いたがそれがわかるのは鬼百合だけで
「じゃあ私はお祖母さんとお話があるからミミちゃんは翔ちゃんをお願い出来ますか?」
そう聞かれ
「うん、ミミに任せてっ♪」
ミミがそう答えたので鬼百合にも
「鬼百合様もご自分の欲しい物を見せて頂いてはどうですか?」
そうユウが言うのを聞いた嫁のニナが
「それでは貴女が騎士様達の仰ってた鬼百合様ですか?」
そう言われたので
「あぁアタイが鬼百合だがそれがどうかしたか?」
そう聞かれたニナが
「騎士の瑞穂様達が大酒呑みの大喰らいと仰ってましたからどんな大男の方なのかと思ってましたから…勿論私達から見れば充分大きい方ですが…」
と言ってユウと並ぶ鬼百合を見て
「お二人がそうして並んでいると天棚機姫命様と守護者十羅刹女様のようです」
そう言ってうっとり二人を見つめるニナになんと言えば良いのかわからない二人だった
毛糸と保存状態の良い牛革等の買い付け契約を交わし今回在庫の半分を買い取ることにし一括の現金で払うことにした
毛糸製品に関しては峠の街に名手が居ると言われて後日街に行く話に決まり…
鬼百合は取り敢えず今夜は持って来た魚を刺身にして漁師達の濁酒を出すと牧場の女達は肉を焼き男達は自分達の濁酒を出して呑み比べた
その結果刺身に合うのは漁師の濁酒で焼き肉に合うのは自分達の濁酒だと言う結果になり共にどんどん消費されていった
ー勿論気ぃ付いとるやろ?ー
と、言われて
(ユウに気付かれる程度のやつ等だろ?)
面倒臭そうに答える鬼百合に
ーそないな事言わんと余興代わりに懲らしめたろ?ー
と、意地悪く言う翔に
(八つ当たりか?)
そう聞くと
ーそんなん当たり前やろ?ボク完全に玩具扱いやン?ー
そう愚痴ると
(逃げるか拒否すりゃ良いだろう?)
と、言われて
ーアンタには話とらんかったかもやけどボク、人間や精霊に危害加えられん縛りがあるから無理なンよ…
例え自己防衛の為やとしてもねー
翔にそう言われて
(成る程…でどうするんだ?)
と、聞く鬼百合に
ー取り敢えず鬼百合はボクを呼んだらえーねんー
そう言われてふーんと思いながら
「翔っ!」
と、鬼百合が呼ぶとミミの手から離れた翔が牧舎の屋根に隠れて矢をつがえる男の弓の弦を切りバランスを崩した男は無様に転げ落ち
同じく木の枝から狙いを定める男が乗る枝を一瞬にして切り落とした為
男がその事に気が付いたのは腰を強かに打ち付けてから
その二人が鬼百合や男達を射殺したら女達を襲うつもりの野盗達は完全に出鼻を挫かれ
元々大した盗賊団でも無い野盗達はユウの護身術にすら歯が立たなかった
が、このユウの大立回りは暫くの後にユウの立場を一変させる事になるとは本人も含め未だ知る者はなかった
ミミ達子供が眠るのを待ち翔に
「観月に野盗の群れを捕らえたから引き取りに誰か寄越してくれと伝えてくれ」
と、伝言を頼み再び宴会に戻った
そしてその翌日の夕方近く護送班として現れたのは女神の騎士団の三人で共に斬刃とモリオンが到着しモリオンが
「私は美月の依頼で取り引き先である貴方達の警護を任された者
本来自分達の国民を守るべき騎士団が本来の役目を果たさない今一々評議に掛けるのもまどろっこしいと考えた結果故気にする事はない」
そう言われて
「峠の街の者達は…」
と楊が聞くと
「その辺りは口下手な私が話すよりユウ、観月様から貴女宛にと預かった物です」
そう言って渡された手紙を読み
「明日の朝私は鬼百合様と峠の街に行き毛糸製品の視察に行き可能なら美月の注文する品の作成ができないか交渉にいきますから
その結果次第でもう一人駐在員を派遣していただきます」
そう言ってもらったのでホッとした
その夜は女神の騎士団達も旨い焼肉と鬼百合が持ち込んだぶどう酒
モリオンが手土産代わりに持って来た麦酒を楽しみ翌朝斬刃と護送の任務に着き鬼百合達が乗ってきた馬車も観月の買い付けリスト通りの物を買い積み込み王宮に帰っていった
鬼百合は斬刃が置いていった馬に股がりユウと共に峠の街に向かう途中噂の
怪異のが起こると言われて居る所に近付くと確かに異様な気配がし始めた
ユウだけがその気配に警戒したけど翔と鬼百合はそのちゃちな妖気に呆れて言葉がなかった…
「ユウ、この先から怪しい気配がするからお前は翔とここで待て、アタイは少し様子を見てくる」
そう言ってわざと見当外れの方に行き
翔もユウの隙を突いて様子を見に行く振りをしてユウを誘導し気配を完全に消した鬼百合がユウの後をつけた
(さて、あんまり期待出来んがどの程度の奴が隠れてるんだ?)
鬼百合がそう考えているとその者達はあっさり釣られた
ユウの背後からこっそり襲い掛かろうとしていたそれはあっさりユウに打ち倒された
幻覚で混乱させて相手を襲うのがそれらの手であるけど本国に来る時に千浪から護身用だと渡された小刀の魔力がユウを守ってくれたから冷静に対応できた
逆にその事態に焦った小魔達が一斉にユウに襲い掛かったけどそれを待っていた翔と鬼百合の二人(?)に挟み撃ちにされ一網打尽だった
取り敢えず峠の怪異はその後現れる事がなくなり忘れ去られたが…
それでも多分あの二人が怪異の元を断ってくれたのだろうと言う噂は一部ではいつまでも語られた
峠の街に訪れ先ず町長宅に向かい楊から預かった町長からの借金返済の金を渡し
ユウは牧場の毛糸や牛革、ガチョウにアヒルの羽毛等の売買契約を結んだ事を話し
この街の編み物の名手の腕次第では注文品の作成を頼みたいと伝えた
その夜街で買い集めた物を翔に観月元に届けさせると観月に
「命様の元に来て欲しい」
と、春蘭からの伝言を伝えられて仕方無いからそのまま命の元に向かった
翔は不機嫌だった…
チサの顔を見ることも出来ずたらい回しの様にお使いの連続に
春蘭にも荷物を持って王宮に戻って欲しいといわれたからだ
荷物は映見の描いた羊に股がる命、鶏に追い掛けられる命、ご神木の前の演舞台で踊る命の絵を二枚ずつの計六枚
ミナが完成させた騎士風のワンピースの試作品と型紙
急いだ方が良い物と嵩張る物を減らす為運んでもらった
それに母が又新しい薬草や香草の利用法を模索しているとも聞いていたから命のお供をする自分達が持って歩くより有効活用できる
そう判断したからだが実際栽培出来ない物が多かった為とても喜んで受け取った
と、聞いたのは未だ先の話だけどそんな感じで荷物運びでこき使われた翔の機嫌は頗る悪かったけど大好きなチサが起きて待っていて
「お疲れ様、翔ちゃん」
そう言ってくれたから
ーまぁええ、チサ様の顔に免じて許したるわ…ー
そう呟いてチサに甘える翔だった
明けて翌日の夕方護送車は海軍寮に入り野盗達は敷地内に有る牢に入れられ後日前衛基地の有る島の矯正施設に送られる事になっていた
その一方で荷を積んだ馬車は酔仙亭の前で荷を下ろし酔仙亭の女将が仕切り卸売りが始まった
勿論女将に対する代償は同行に漏れたマイ、マキ、マナ、マユの四人が演舞台で舞い…
特に命の稽古の時間に共に稽古をしていたマイは太夫に
「座敷でお客様の前に出しても恥ずかしくない位には踊れるよっ!」
そうお墨付きを貰って居るから女将も喜んで迎え入れた
更に留美菜とりんの友達の漁師の娘達が配膳の手伝いに来てくれる事も決まっていたから卸売りの代行を喜んで引き受けた
ただ残念な事に今日の荷は完売し酔仙亭の分は残らなかったけど…
明日の朝荷馬車を送り出せば明後日には又荷が届き且つ二台の荷馬車の内一台は自分の店用だから焦る必要はない
何にしろ不安だった道中の安全を毛糸を運ぶ美月が人魚姫の騎士達の警護して守ってくれる今この話に乗らない方はない
ただこの幸運を一人占めするのもどうかと思い彼女の店の在る呑み屋街、通称酒仙境で肉を取り扱う店に声を掛け仲間に入れた
手数料は荷馬車の馭者と護衛の騎士に牧場で呑む酒壷一壷を参加者で出し合う事
なので今王都の中でも一、二を争う盛況ぶりだ
王都の経済復興は今や確実な物へと変わりつつあった
その変化をユウの元に翔が伝言に飛び翌日斬刃は峠の街駐在員として
喧火は輸送車警護として牧場に向かう事になった
斬刃が峠の街に着き鬼百合とユウは牧場に戻った翌日二人は馬で王宮に戻り翔は一足先にチサの元へと帰っていった
②宴の夜に
命達も今夜で六泊目で予定通りに明日の夜を最後に次の町を目指す事になった
「明日の夜の宴会場の予定は空いてますか?」
春蘭に聞かれた宿の親父が
「やはり当分予約の入る見込みはありません」
そう答えたので
「では明日の夕方から貸し切らせて頂き命様の踊りや歌を披露し入場料代わりに宿の前の店の料理を召し上がって頂くのはどうでしょうか?」
と親父には全くの想像外の申し出に勿論親父は飛び付いた
「それは弟も喜ぶ申し出ですが…」
そう言って考え込親父に
「何か不都合でもあるのですか?」
そう春蘭に聞かれ
「その場合短時間で弟の店で捌き切れるのか?
王都で一、二を争う料亭を売り切れ御免の札を出させる人魚姫様の集客力を考えると…」
そう不安を口にする親父に
「その店は売り切れになら無いよう店の前に屋台を呼び総菜屋に声を掛け協力してもらってますからね?
勿論私達も色々協力させてもらいますから頑張りましょう」
と、言われて
「わかりました、弟と明日の予定を決めてきます」
そう言って飯屋の裏口に向かった
そして最後の夜を迎え命は早朝の稽古を歌から踊りの稽古にし午前中謡華に稽古を着けて貰い
昼食後最後の野外ステージに立つ予定で留美菜達五人は午前中はいつも通りで午後からは夜の宴会の料理の下拵え
野外ステージから戻った命の入浴と着付け等色々あって忙しい
ミナはミナで枚数三十枚限定でエプロンの販売をし売り切れ次第留美菜達を手伝うため朝からエプロンの作成を急いでいる
「明日の朝この町を出るから今日で最後なんだ、ごめんねっ!
でも、いつか又きっと来るから楽しみにしててね
その前に今夜はみこ達がお泊まりしてた大きなお風呂の在る宿屋でこの街最後の舞台をやるからご飯代掛かっちゃうけど新しく覚えた歌のお披露目するから良かったらきてね
じゃあ又会う日まで…」
そう言っていつものように舞台から姿を消した
宿に戻り先ず飯屋に向かうと客が数人と飯屋と宿の親父達が居て話をしていたけど命に気付き振り向く二人に
「きょーまで美味しいご飯と素敵なお風呂をありがとおございました
お蔭でみこすっかり元気なったよ
それにおじさん達がみこの事内緒にしてくれたから舞台を楽しみながら
お歌と踊りのお稽古にしゅーちゅー出来てホント楽しかったよっ♪
だからおじさん達にこれ」
そう言って春蘭が二人に渡したのは二枚の絵で飯屋の親父に渡したのは命の指定席で笑顔でお椀を持つ命
宿の親父に渡したのは湯から跳ね上がり振り向いた人魚姫の命を各々描いた物で
「親父さんの苦労が報われた絵だね」
そう言ったのは宿と飯屋の常連客で老婆の伴で来ている若い女性客で
「所で人魚姫様がお気に入りの料理ってなんですか?」
そう聞かれた命は
「ンとね、みこ猫舌だから冷たいスープだよ」
命がそう答えると
「それってお品書きに無い料理ですよね?」
と飯屋の親父に聞くと困った顔をして春蘭を見ながら
「薬草や香草に詳しいそちらのお嬢さんに協力していただき身体の弱い人魚姫様の為の料理だから今のところ店に出す予定は…」
と言う言葉に春蘭が
「命様のお昼の残りが有りましたら味見していただき反応が良いようでしたら明日からお品書きに書き加えてはどうでしょうか?」
そう言われた親父が居合わせた三人の客に出すと味見した三人は各々に
「さっぱりして食欲無い時でもこれなら食べられます」
「冷めてるんじゃ無くこの温度になったら美味しくなるよう考えてあるんですね?」
「消化も良さそうで本当に優しい料理ですね?」
等の声を聞いた春蘭が
「皆様の仰ってた事全てが命様にキチンとお食事を摂って頂く為の工夫ですからね」
そう言われた命は
「そうなんだ、春蘭って大変なんだね?」
と、まるっきり他人事の物言いに溜め息を吐く春蘭は勿論他者が居なければ説教の嵐だった事を自覚した方が良さそうな命かも知れない
そんな頭の痛い春蘭も一応
「これでおわかりでしょうけど女湯を貸し切らせて頂いたのは命様ですが温泉に入るのも今日で最後になります
ですので今日は貸し切りにせず素顔の命様に接していただこうと思います…女性限定で」
そう言われた女性の客達は
「あらまあ大変、急いでお風呂の支度をしなくっちゃ」
と、言って勘定を済ませると部屋に戻って行った
「命様、お風呂場で走ってはいけませんって春蘭さんにきつくいわれたでしょ?」
留美菜にそう言われた命は
「春蘭居ないもーんっ♪」
と、留美菜を振り返って見ながら言うと
「命様っ、走っちゃダメっ、危ないっ!」
「前を見てくださいっ!」
「あっ!?命様前に人がっ…」
そう言い掛けた時には先客にぶつかり受け止められていた
その女性に対し留美菜が代表して
「命様が大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
そう言って頭を下げると
「このお嬢様にぶつかられた位でどうこうなるような柔な鍛え方はして無いから平気だ、お嬢様にも何も無いから安心おし」
そうその女性に言って貰いもう一度頭を下げると
「春蘭さんにお風呂場では走らない、お湯に浸かる前には身体をちゃんと洗って下さいって言われたでしょ?
私が綺麗に洗って差し上げますから大人しくしててくださいっ!」
そう言われた少女が渋々座ると他の少女達が甲斐甲斐しく世話をする姿は微笑ましく思って見守っていた
「はい、命様…泡も綺麗に流し終わりましたから先に…
だからお風呂場では走らないで下さいっ!」
その留美菜の叫びは虚しく響き命は綺麗な放物線を描き温泉の中に吸い込まれていった
その呆れた行為を見てさすがに
(後で春蘭さんに報告しなきゃダメですね…)
そう溜め息を吐く留美菜だったけど様子を見守っていた女性が少女が飛び込んだ時の異様な程の飛沫のたたなさ
潜っままいつまでも浮き上がらない少女とその事を全く気にしないで身体を洗う少女達に不安を覚え自らも湯に顔を浸けると…人魚が泳いでいた
(ま、マジ?)
そう思って水面から顔を出し留美菜達に
「に、人魚が現れたっ!」
そう叫ぶと呆れた留美菜が
「申し訳ありませんけど貴女はもしかして歌う人魚姫様の噂をご存知ないんですか?」
そう聞かれて
「い、いいや一応しってるが…人魚姫と言うのは単なる物の例えで本当に人魚になるとは思って無かったから…」
そう言って口隠っているとその騒ぎで命が入っている事に気付いた他の客達が一気に流れ込んだ
「あ、いたいたっ…人魚姫様がいらっしゃるわよ」
「本当に可愛らしいお顔立ち…」「あの蒼い髪と瞳が水の精霊様の巫女の証しなんですってね」
「なんまいだなんまいだ…」
「本当に顔小さいね…」
「舞台の上と表情が全然違うんだね…」
と、皆好き勝手に言い拝む者までいたけど命に
「皆ちゃんと身体洗って入らなきゃダメだよ?」
そう言われそれを聞いた留美菜が再び溜め息を吐くのだった
その命にお腹の大きい女性とその母親らしい女性が命に向かい
「あの…姫様にお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
そう言われ何?と言った表情の命に母親らしい女性が
「まもなく産み月を迎える娘のお腹を姫様に擦って頂き安産を願って欲しいのです」
そう言われそのお腹に手を翳し
「生命の始まりの母なる海に合い通じる胎内の海にて産まれる時を待つ子と共に母体である貴女にアクエリアス様のご加護が有りますように…」
命がそう告げると命とその女性がまるで水の中に居るような霊光に包まれやがて光が消えると
「お産の時にはアクエリアス様に祈ればきっと守って下さいますよ」
そう言って一歩踏み出すと足を滑らせびったーんっ…と派手な音を立て尻餅を着き
「い、痛い…」
と、呟く命に
「命様…お尻を水風呂で冷やしてきた方が良いですよ?」
留美菜にそう言われ
「うん、そうする…」
そう答える命
そんな命に一人の少女が近寄り
「私もアクエリアス様に祈れば早く泳げるようになりますか?」
そう聞かれて
「うん、祈りは大切だけどそれだ
けじゃダメなのはわかるよね?
みこだって最初はお歌覚えれないしすぐ側にお上手な人が居たからお稽古辛かったんだよ?
何度も止めたいって思ったし…
だから貴女も挫けず頑張ってね…」
そう言われ感激した少女が
「有り難うございます、人魚姫様…もし良かったら今日の記念に握手してもらえませんか?」
そう言われた命は
「みこでよければ喜んで…」
そう答え差し出された手を握り興奮する少女の後ろに握手の希望者が並んでいた
結局留美菜に
「そろそろ上がってお支度をしないと…りんが着物を準備して待ってますよ?」
と、言うと女性達も
「私達も上がって良い席を取らないとねっ♪」
そう言って皆も上がり始めた
会場の準備が整い…勿論命の着付け
も既に終わっている
第一幕の歌、女神と共にと水の精霊への奉納の踊りの間は飲食を控えて貰うため春蘭のお茶が用意された
女神と共にを歌い水の精霊への奉納の踊りを舞い命が一旦下がり料理や飲物の提供が始まる
料理は食べ放題の為大皿に盛られた料理が各テーブルに配られ始めた
留美菜とりんが用意した鍋は欲しい者が取りに行く事になっているけど
無くなるまで列が途切れることはなかった
ミナが販売したエプロンも三十枚はあっと言う間に完売し会場が落ち着くのを待って二幕に移る
二幕は海や航海を必要とする海などの無いこの辺りには縁の薄い航海の安全祈願と航海の無事の感謝を奉納する踊りを中心に魅せ
干した香草や薬草を母に届けて欲しいと手紙を添えて送り
急いだ方が良い物と嵩張る物を減らす為運んでもらった
それに母が又新しい薬草や香草の利用法を模索しているとも聞いていたから命のお供をする自分達が持って歩くより有効活用できる
そう判断したからだが実際栽培出来ない物が多かった為とても喜んで受け取った
と、聞いたのは未だ先の話だけどそんな感じで荷物運びでこき使われた翔の機嫌は頗る悪かったけど大好きなチサが起きて待っていて
「お疲れ様、翔ちゃん」
そう言ってくれたから
ーまぁええ、今回だけはチサ様の顔に免じて許したるわ…ー
そう呟いてチサに甘える翔だった
明けて翌日の夕方護送車は海軍寮に入り野盗達は敷地内に有る牢に入れられ後日前衛基地の有る島の矯正施設に送られる事になっていた
その一方で荷を積んだ馬車は酔仙亭の前で荷を下ろし酔仙亭の女将が仕切り卸売りが始まった
勿論女将に対する代償は同行に漏れたマイ、マキ、マナ、マユの四人が演舞台で舞い…
特に命の稽古の時間に共に稽古をしていたマイは太夫に
「座敷でお客様の前に出しても恥ずかしくない位には踊れるよっ!」
そうお墨付きを貰って居るから女将も喜んで迎え入れた
更に留美菜とりんの友達の漁師の娘達が配膳の手伝いに来てくれる事も決まっていたから卸売りの代行を喜んで引き受けた
ただ残念な事に今日の荷は完売し酔仙亭の分は残らなかったけど…
明日の朝荷馬車を送り出せば明後日には又荷が届き且つ二台の荷馬車の内一台は自分の店用だから焦る必要はない
何にしろ不安だった道中の安全を毛糸を運ぶ美月が人魚姫の騎士達の警護して守ってくれる今この話に乗らない方はない
ただこの幸運を一人占めするのもどうかと思い彼女の店の在る呑み屋街、通称酒仙境で肉を取り扱う店に声を掛け仲間に入れた
手数料は荷馬車の馭者と護衛の騎士に牧場で呑む酒壷一壷を参加者で出し合う事
なので今王都の中でも一、二を争う盛況ぶりだ
王都の経済復興は今や確実な物へと変わりつつあった
その変化をユウの元に翔が伝言に飛び翌日斬刃は峠の街駐在員として
喧火は輸送車警護として牧場に向かう事になった
斬刃が峠の街に着き鬼百合とユウは牧場に戻った翌日二人は馬で王宮に戻り翔は一足先にチサの元へと帰っていった
②宴の夜に
命達も今夜で六泊目で予定通りに明日の夜を最後に次の町を目指す事になった
「明日の夜の宴会場の予定は空いてますか?」
春蘭に聞かれた宿の親父が
「やはり当分予約の入る見込みはありません」
そう答えたので
「では明日の夕方から貸し切らせて頂き命様の踊りや歌を披露し入場料代わりに宿の前の店の料理を召し上がって頂くのはどうでしょうか?」
と親父には全くの想像外の申し出に勿論親父は飛び付いた
「それは弟も喜ぶ申し出ですが…」
そう言って考え込親父に
「何か不都合でもあるのですか?」
そう春蘭に聞かれ
「その場合短時間で弟の店で捌き切れるのか?
王都で一、二を争う料亭を売り切れ御免の札を出させる人魚姫様の集客力を考えると…」
そう不安を口にする親父に
「その店は売り切れになら無いよう店の前に屋台を呼び総菜屋に声を掛け協力してもらってますからね?
勿論私達も色々協力させてもらいますから頑張りましょう」
と、言われて
「わかりました、弟と明日の予定を決めてきます」
そう言って飯屋の裏口に向かった
そして最後の夜を迎え命は早朝の稽古を歌から踊りの稽古にし午前中謡華に稽古を着けて貰い
昼食後最後の野外ステージに立つ予定で留美菜達五人は午前中はいつも通りで午後からは夜の宴会の料理の下拵え
野外ステージから戻った命の入浴と着付け等色々あって忙しい
ミナはミナで枚数三十枚限定でエプロンの販売をし売り切れ次第留美菜達を手伝うため朝からエプロンの作成を急いでいる
「明日の朝この町を出るから今日で最後なんだ、ごめんねっ!
でも、いつか又きっと来るから楽しみにしててね
その前に今夜はみこ達がお泊まりしてた大きなお風呂の在る宿屋でこの街最後の舞台をやるからご飯代掛かっちゃうけど新しく覚えた歌のお披露目するから良かったらきてね
じゃあ又会う日まで…」
そう言っていつものように舞台から姿を消した
宿に戻り先ず飯屋に向かうと客が数人と飯屋と宿の親父達が居て話をしていたけど命に気付き振り向く二人に
「きょーまで美味しいご飯と素敵なお風呂をありがとおございました
お蔭でみこすっかり元気なったよ
それにおじさん達がみこの事内緒にしてくれたから舞台を楽しみながら
お歌と踊りのお稽古にしゅーちゅー出来てホント楽しかったよっ♪
だからおじさん達にハイっ!」
そう言って春蘭が二人に渡したのは二枚の絵で飯屋の親父に渡したのは命の指定席で笑顔でお椀を持つ命
宿の親父に渡したのは湯から跳ね上がり振り向いた人魚姫の命を各々描いた物で
「親父さんの苦労が報われた絵だね」
そう言ったのは宿と飯屋の常連客で老婆の伴で来ている若い女性客で
「所で人魚姫様がお気に入りの料理ってなんですか?」
そう聞かれた命は
「ンとね、みこ猫舌だから冷たいスープだよ」
命がそう答えると
「それってお品書きに無い料理ですよね?」
と飯屋の親父に聞くと困った顔をして春蘭を見ながら
「薬草や香草に詳しいそちらのお嬢さんに協力していただき身体の弱い人魚姫様の為の料理だから今のところ店に出す予定は…」
と言う言葉に春蘭が
「命様のお昼の残りが有りましたら味見していただき反応が良いようでしたら明日からお品書きに書き加えてはどうでしょうか?」
そう言われた親父が居合わせた三人の客に出すと味見した三人は各々に
「さっぱりして食欲無い時でもこれなら食べられます」
「冷めてるんじゃ無くこの温度になったら美味しくなるよう考えてあるんですね?」
「消化も良さそうで本当に優しい料理ですね?」
等の声を聞いた春蘭が
「皆様の仰ってた事全てが命様にキチンとお食事を摂って頂く為の工夫ですからね」
そう言われた命は
「そうなんだ、春蘭って大変なんだね?」
と、まるっきり他人事の物言いに溜め息を吐く春蘭は勿論他者が居なければ説教の嵐だった事を自覚した方が良さそうな命かも知れない
そんな頭の痛い春蘭も一応
「これでおわかりでしょうけど女湯を貸し切らせて頂いたのは命様ですが温泉に入るのも今日で最後になります
ですので今日は貸し切りにせず素顔の命様に接していただこうと思います…女性限定で」
そう言われた女性の客達は
「あらまあ大変、急いでお風呂の支度をしなくっちゃ」
と、言って勘定を済ませると部屋に戻って行った
「命様、お風呂場で走ってはいけませんって春蘭さんにきつくいわれたでしょ?」
留美菜にそう言われた命は
「春蘭居ないもーんっ♪」
と、留美菜を振り返って見ながら言うと
「命様っ、走っちゃダメっ、危ないっ!」
「前を見てくださいっ!」
「あっ!?命様前に人がっ…」
そう言い掛けた時には先客にぶつかり受け止められていた
その女性に対し留美菜が代表して
「命様が大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
そう言って頭を下げると
「このお嬢様にぶつかられた位でどうこうなるような柔な鍛え方はして無いから平気だ、お嬢様にも何も無いから安心おし」
そうその女性に言って貰いもう一度頭を下げると
「春蘭さんにお風呂場では走らない、お湯に浸かる前には身体をちゃんと洗って下さいって言われたでしょ?
私が綺麗に洗って差し上げますから大人しくしててくださいっ!」
そう言われた少女が渋々座ると他の少女達が甲斐甲斐しく世話をする姿は微笑ましく思って見守っていた
「はい、命様…泡も綺麗に流し終わりましたから先に…
だからお風呂場では走らないで下さいっ!」
その留美菜の叫びは虚しく響き命は綺麗な放物線を描き温泉の中に吸い込まれていった
その呆れた行為を見てさすがに
(後で春蘭さんに報告しなきゃダメですね…)
そう溜め息を吐く留美菜だったけど様子を見守っていた女性が少女が飛び込んだ時の異様な程の飛沫のたたなさ
潜っままいつまでも浮き上がらない少女とその事を全く気にしないで身体を洗う少女達に不安を覚え自らも湯に顔を浸けると…人魚が泳いでいた
(ま、マジ?)
そう思って水面から顔を出し留美菜達に
「に、人魚が現れたっ!」
そう叫ぶと呆れた留美菜が
「申し訳ありませんけど貴女はもしかして歌う人魚姫様の噂をご存知ないんですか?」
そう聞かれて
「い、いいや一応しってるが…人魚姫と言うのは単なる物の例えで本当に人魚になるとは思って無かったから…」
そう言って口隠っているとその騒ぎで命が入っている事に気付いた他の客達が一気に流れ込んだ
「あ、いたいたっ…人魚姫様がいらっしゃるわよ」
「本当に可愛らしいお顔立ち…」「あの蒼い髪と瞳が水の精霊様の巫女の証しなんですってね」
「なんまいだなんまいだ…」
「本当に顔小さいね…」
「舞台の上と表情が全然違うんだね…」
と、皆好き勝手に言い拝む者までいたけど命に
「皆ちゃんと身体洗って入らなきゃダメだよ?」
そう言われそれを聞いた留美菜が再び溜め息を吐くのだった
その命にお腹の大きい女性とその母親らしい女性が命に向かい
「あの…姫様にお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
そう言われ何?と言った表情の命に母親らしい女性が
「まもなく産み月を迎える娘のお腹を姫様に擦って頂き安産を願って欲しいのです」
そう言われそのお腹に手を翳し
「生命の始まりの母なる海に合い通じる胎内の海にて産まれる時を待つ子と共に母体である貴女にアクエリアス様のご加護が有りますように…」
命がそう告げると命とその女性がまるで水の中に居るような霊光に包まれやがて光が消えると
「お産の時にはアクエリアス様に祈ればきっと守って下さいますよ」
そう言って一歩踏み出すと足を滑らせびったーんっ…と派手な音を立て尻餅を着き
「い、痛い…」
と、呟く命に
「命様…お尻を水風呂で冷やしてきた方が良いですよ?」
留美菜にそう言われ
「うん、そうする…」
そう答える命
そんな命に一人の少女が近寄り
「私もアクエリアス様に祈れば早く泳げるようになりますか?」
そう聞かれて
「うん、祈りは大切だけどそれだ
けじゃダメなのはわかるよね?
みこだって最初はお歌覚えれないしすぐ側にお上手な人が居たからお稽古辛かったんだよ?
何度も止めたいって思ったし…
だから貴女も挫けず頑張ってね…」
そう言われ感激した少女が
「有り難うございます、人魚姫様…もし良かったら今日の記念に握手してもらえませんか?」
そう言われた命は
「みこでよければ喜んで…」
そう答え差し出された手を握り興奮する少女の後ろに握手の希望者が並んでいた
結局留美菜に
「そろそろ上がってお支度をしないと…りんが着物を準備して待ってますよ?」
と、言うと女性達も
「私達も上がって良い席を取らないとねっ♪」
そう言って皆も上がり始めた
会場の準備が整い…勿論命の着付け
も既に終わっている
第一幕の歌、女神と共にと水の精霊への奉納の踊りの間は飲食を控えて貰うため春蘭のお茶が用意された
女神と共にを歌い水の精霊への奉納の踊りを舞い命が一旦下がり料理や飲物の提供が始まる
料理は食べ放題の為大皿に盛られた料理が各テーブルに配られ始めた
留美菜とりんが用意した鍋は欲しい者が取りに行く事になっているけど
無くなるまで列が途切れることはなかった
ミナが販売したエプロンも三十枚はあっと言う間に完売し会場が落ち着くのを待って二幕に移る