⑤ 公女宮の主人
この大公家には絶対もと言える暗黙のルールが存在する
女性の訪問者はまず何をおいても公女に訪問の挨拶をせねばならない
だったのだけど、当然の事ながら社交界に縁の無い真琴がそれを知るはずはなく…
居合わせる侍女も、余り気の回る方では無くただ不安そうに眠っている命と治癒の魔法を使う真琴を祈るように見守っているだけだった
それでもただボーッと呆けているわけではなく、滝のように汗を流し治癒魔法を妹に施す真琴の着替えと入浴の支度
そして、入浴後の軽食や飲み物などはすでに準備してあり区切りの良いところで休憩すると約束を取り付けていた
侍女と阿が見守る中ひたすら治癒魔法を掛け続ける部屋に一向に挨拶に訪れない訪問者に業を煮やした公女自らかお出ましになった
それでも真琴は公女に気付く事なく懸命に治癒魔法を掛け続けついに魔力が尽きる…即ち真琴の精も根も尽き果て命の横に崩れ落ちた
力なく横たわり大きく喘ぐ真琴に
「 貴女の妹ですか? 」
その公女の問い掛けでやっと訪問者の存在に気付いたけど、霞む視界は相手の顔を認識できない真琴は
「 は… はい、僕… いいえ私の唯一人の家族である妹の命で私の名は真琴… 魔導剣士です… が、失礼ですが貴方様は? 」
かろうじてそう訪ねる真琴に
「 私はこの地を治める大公の娘、観月です 」
そう名乗る観月に
「すいません、この世界の事を何一つ知らない私は貴女の事も知りませんでしたからだらしない姿をお目にかけ申し訳ない事をしました」
そう詫びて尽き果てた気力を更に絞り出そうとあがき身体を起こし命の胸に両手をかざし
「申し訳ないですが私は未だ命の治療を続けます…えっ?」
「脈拍が異常に早く不規則
おまけに魔力もとうに尽き果てているのではありませんか?」
自分の手首を握りそう告げる公女の言葉に
「真琴ちゃん、一段落したらお風呂に入り食事を摂ってくれるって約束をしてくれましたよね?」
侍女がそう言って真琴を見詰めるとその背後で阿も頷くのを見て
「う、うん確かにそう約束したけど公女様がおみえになられてるのに中座するって失礼極まりない…よね?」
そう答える真琴がはっきり言って入浴を嫌がってるにも関わらずその言葉を鵜呑みする侍女は
「汗臭い方がもっと失礼ですよ?」
と、言っている事は当たり前なのだが真琴の言葉の意味を読み取れない侍女のその珍妙なやり取りを苦笑いで聞きながら
「ならば貴女の状態を見れば一人では入浴も儘ならないでしょうから私も一緒に入りますし…」
観月の視線に応え
「私が貴女の入浴のお手伝いをしますから取り敢えずこの冷たい飲み物を飲んで落ち着いては如何ですか?」
そう言われて勢いを得た侍女が何かを言おうとしたのを視線だけで制し
「真琴…でしたね?貴女の入浴の間に命の方も汗を拭きシーツを変え服を着せておきますから心配は要りません」
そう言って部屋に居た侍女を見て
「貴女もそのつもりで支度をしてあるのでしょ?」
観月にそう言われて不安そうに
「は、はい…仰る通り支度は整えてありますし…こちらにいらっしゃる騎士様に命様のお着替えを手伝っていただけるようお願いもしてあります」
その侍女の答えに満足そうに頷き観月の後ろに控える侍女達も感心するように声をあげ目を細めその中の一人が
「観月様、私が彼女を手伝ってもよろしいのでしょうか?」
との問いに振り返る事無く
「任せます」
と、だけ答えた観月たったけど言外に
「磨けば光る逸材、彼女の指導も併せて任せます」
そう、言ってるのを読み取りその上で
「承知しました」
そう答え命の側に近付いた
脱衣室に案内され侍女の助けを借り服を脱いだ真琴の身体を見て息を飲む観月と侍女達
それも無理はなくあばら骨を始め痩せ細り骨が浮き出ているにも関わらず艶やかな肌の真琴の身体は不自然を通り越して異様と言っても良かったのだから…
勿論先程握った真琴の手首の細さからある程度の予測はついていたが観月の予測を遥かに越えていた
「この身体を見られるのを嫌がってたのですね?
弱々しく頷く真琴に
「貴女の溢れるばかりの生命力があればしっかり食事を摂り十分に睡眠をとればまたまだ成長期の身体は遅れを取り戻せますが…」
そう言って言葉をと切らせる観月に
「命そうじゃない…ですね?」
真琴の言葉に頷き
「酷なことを言うようですが命の身体には生命力はおろか生きたいと言う欲求…意思すら感じられません」
その主の言葉に焦る侍女達に首を横に振って
「良いんです、その事なら私も本人から直接言われて知ってるしそんな事を言ってるみこがどうしたら生きたいと思ってくれるのかって悩んでますから…」
その真琴の独白に
「医師でない私には解りませんが真琴ちゃん…命ちゃんは何故生きてたくないと言ってるのですか?」
そう聞かれた真琴は
「私達は何故知らず物心つく前から迷宮で動く石像に育てられました
命はその全ての原因が自分にあり私はその巻き添えなのだと…
そんな自分が私の側に居る…生きてること自体が罪であり決して許されるはずがないのだ…
そう言って生きながらにして生きる事、自分が存在する事を忌み嫌い否定しながら生きてきました
ただ私達が捨てられた原因の黒き魔力が命の死を望む思いと裏腹にその不摂生にして不健全な生き方が更に魔力を高めた結果命は死とは程遠い魔導師の高みへ押し上げたのです」
真琴がそう告げると
「本人には遺憾なのでしょうが私達からすれば良くぞ無事に辿り着いたと喜ぶべき事ですが…
真琴ちゃん…今貴女に言えるのは貴女が辛そうな顔をしてたら自分の存在が貴女を苦しめた…
そう思ってる命ちゃんが今尚貴女を苦しめてる事実を知って生きたいと思いますか?」
侍女のその言葉に衝撃を受けた真琴が
「な、なら私はどうすれば…どうしたら良いと言うのでしょうかっ!?」
悲痛な声をあげてそう聞かれた侍女は
「貴女が生きてる事を楽しむことで笑顔でおいで…私と一緒に生きてっ!
そう言わなければ説得力無いと私は思いますよ?」
そう教えられて
「頑張るって…歯を食い縛るだけが頑張る訳じゃないって事なんですね…」
そう呟いて苦笑いする真琴に
「女神の岩戸隠れと言う話を知ってますか?」
観月のその問い掛けに疑問を持ちながらも
「いいえ、残念ながら知りませんが?」
真琴がそう答える
「そうですね、余りにもの古き神代の物語ですから知ってる者の方が少ないでしょうが…」
そう言って入浴後の休息をとりながら
「先ほどの話の続きですが…」
そう言って古より伝わる神代の話を風呂上がりに再開する公女々
「その昔…破壊の衝動に身を委ねる弟神達に大いなる怒りと深き悲しみに沈み岩戸に隠ってしまわれた輝神に呼応し天空の輝神もその姿を隠してしまい大騒ぎになった神
如何なる説得にも応じず耳を貸さない神々が困り果てていると笑いながら歌の女神が
ー歌いましょう、輝神の怒りを鎮めるために楽しい歌をー
その言葉に続いて舞の女神もー
ー舞いましょう、輝神の悲しみを癒す希望の踊りをー
そして二人の女神が声を揃えて
ーせっかく暗くなった今この時こそ宴の時です、共に浮かれ騒ぎましょうー
その二人の女神の誘導で始まった宴は輝神の本質を突いた二人の女神の目論みどうりいつのまにか岩戸から抜け出した輝神が主役となって大騒ぎになった
…それが私の知る神の岩戸隠れです」
そう言って溜め息を吐く公女に
「 そうですね、岩戸に隠ってしまいになられた女神様と自分の殻に閉じ籠ってしまいアクエリアス様の声にも耳を貸さないみこ…
今の命が何に興味を示すかは解らないけどまず私が楽しまなきゃ命の気は引けませんよね?」
やっと納得した真琴に笑顔がでると内心
(観月様、かなり話がずれてますよ…大筋は間違ってはいませんが…)
と、言う苦笑いは胸にしまい
「先ずさしあたってですが観月様、真琴ちゃんの衣装、私が揃えて宜しいでしょうか?」
そのユイの発言を聞いて
「ユイ、抜け駆け反則」
と、言われたユイが
「デザイナーの貴女達は真琴ちゃんや命ちゃんのドレスをデザインすれば良いじゃないですか?
特に命ちゃんはレディメイドの服はサイズが合わないでしょうから…
全ての服がオーダーメイドでないといけない上眠っていてさえ神秘的な姿の命ちゃんの衣装はいつにも増して気合い入れ無いとだめなんじゃないの?」
そう言われて改めて命を見る人達に
「命は精霊の巫女だから…約束したんです水の精霊アクエリアス様と…我が巫女と花の娘を守るって…」
観月と侍女達の表情が一変し
「貴女達は水の精霊様と会われしかも命は精霊の巫女…それに花の娘っ!?
ならば真琴、私達に頼りなさい…
この地は和泉の女神様と水の精霊様とが守りし水の都と呼ばれしこの地を納める大公家に訪れた水の精霊の巫女様…
精霊からの贈り物である神泉花と謳われし花の娘…
私達はこの出会いが運命であると思いますから命の笑顔、私達にも見せてください…私達もその為の努力は一切惜しみません」
観月がそう言うと控えていた三人の侍女達も頷いた
「え、ですが…」
その展開についていけずに焦る真琴の声は全く聞き入れられず
「真琴と命の二人は例え父大公がなんと言おうとも公女宮並びに美月が保護しますっ!」
その力強い宣言に寂しそうな顔をする大公邸の侍女に
「貴女、名前は?」
観月にそう聞かれた侍女は
「わ、私の名はミナと申します…」
そう小さな声で答えると
「ミナですね、判りました…ユイ、ミナを二人の専属に固定するよう大公に進言を
ユカは当面ミナの支援(指導)を任せユカますから折角命の側付きになるのですから目が覚めた時の為の衣装の準備を色々進めておきなさい
ユウは真琴に社交界のマナーやダンス等々指導を任せますが…ただで施しを受けるのは気が引ける、そう言言いたそうな顔ですね?」
―その心配は要らない、二人の恩人の貴女達には多大な恩義が有りそれはこれから始まります―
一同の前に姿を表した花の娘がそう言って頭部を飾るバラの花ラビアンロゼを蔦ごと引き抜くと
ー些少ですがお納めください…ー
そう言って公女に薔薇を渡すとそのまま意識を失ってしまった花の娘の身体を抱き止めながら
「全く…なんと言うむちゃを…花の娘が命の…霊力の根幹たる花飾りをむしり採るなど自殺行為も甚だしい…
真琴、貴女にはモデルスタッフであり公女宮の見習い侍女を勤めてもらいますから気にしないように
ただ…命が目を覚ました時に、美月のモデルスタッフを引き受けてもらえるよう説得に協力してくださいね…」
そう言われて
「わ、私なんかがモデルだなんて…そんな自信ありません…」
そう言って狼狽える真琴を見ながら
「真琴本人はこういってますが美月が誇るコーディネーターとデザイナー二人の意見を聞かせて上げなさい」
そう観月に言われて
「今から真琴ちゃんのコーディネートを考えると思うと当分は寝る間も惜しいくらいです」
ユイが嬉しそうにそう言えば
「私は当面命ちゃんの衣装を優先しますが真琴ちゃんの為のドレスについては思い付いた時にその都度デザイン画を書き留めておこうと思います」
ユカもそう言い
「私も水の精霊の巫女様に相応しいドレスとモデルスタッフならダンスパーティーのレギュラーになりますから…
真琴ちゃんの為のパーティードレスを急ぎ作りたいです」
そう言われて驚く真琴に
「と、言う事ですがなにか質問は有りますか?」
面白そうに笑う観月は更に
「真琴、貴女が社交界デビューを果たせばどんな騒ぎになるのか貴女には想像もつかないでしょうね」
そう言われて確かに全く想像のつかない真琴が不思議そうな顔をしていると
「まぁそれについていけないところがありますからその時が来れば解るのだからその時を楽しみに待ちなさい…」
観月の話まを聞きながらうつらうつらとする真琴を見て阿に向かい
「頼めますね?」
そう聞かれた阿は
「この程度の事などいちいち聞かずとも命じてくれれば良い
二人が世話になるのなら、貴女方も我々の守るべき対象になるのだから力仕事荒事は遠慮なく使ってくれれば良いのだからな」
表情を変えること無く言う阿に
「二人の為協力しあいましょう、勿論貴女にも期待してますよ」
そう答えミナにも声を掛ける観月と観月のその言葉に頬を紅潮させ感無量のミナ
命を中心に動き始めた運命
本人達は未だ知らない知らない事だけど闇の勢力への人類の反撃の狼煙は今上がった
その翌日は真琴を連れ主に美月のスタッフを中心に公女宮の主要人物に紹介しつつ必要な物を揃えさせた
食事は取り敢えず自分達の部屋でミナ、ユカ、ユウに鬼百合と阿に白浪と共に済ませ
そして…夕食前に日課の素振りを済ませ浴室で汗を洗い流すと夕食も六人と摂ることになった
一夜が明け、早朝大公宮の庭を走り回り素振りと瞑想行を終えて部屋に戻ったのは夜明け間近の頃
「二人の少女達が回復したから貴女の仲間達も二人を連れてこちらに来ると連絡が有りました」
観月が鬼百合にそう話してるところで
「だそうだ、良かったな真琴」
鬼百合がそう声を掛けると
「貴女達のお友達?」
そう観月に聞かれ
「いいえ、ぼ…私が二人を見付けた時には既に瀕死の状態でしたから話した事も有りません
ただ抱き合って倒れている二人を見て私達と重なって見えたから助けたい、助けよう…そう思ったんです
だから二人の事は名前すら知らないんですよ…」
そう寂しそうに話す真琴に
「その事に関しては二日後の昼過ぎにはこちらに着きますからそれからの事
どのみち二人の事は考えてあげる必要があるのではなくて?」
を鬼百合にそう問い掛けると
「あぁ、この島の月影の国側の人間のたった二人の生き残りだからな…
恐らくは頼るべき親類縁者は一人も居ねぇんだろうな…」
そう言いながら辛そうに首を横に振る鬼百合だった
話に聞いていた予定通りに午後のお茶の時間の少し前に着いたレム達はそのまま謁見の間に通されており
(ある程度待たされるのを覚悟していたのだが…)
内心そう考え驚いてるレムの前に大公と公女が現れその公女の脇に控える一人の少女の存在に驚いた…
清楚なドレスを身に纏ったその姿を見たその場の一同がどよめき感嘆の声をあげていた
勿論レム達もその例に漏れず真琴は真琴でその人達の反応に面食らっていた
言葉にすれば
「え…何この反応は?」
そんな感じだろうがそれを気にする者はなく
「この地に封印されし守り神たる和泉の女神、そして精霊達を闇の封印から解き放ちたいと願うのはそなた達か?」
大公が訪問者達に対し形式通りに問い掛けると
「我等はむ賢公の誉れ高き大公閣下に偽りは申すはず有りません
我々はすでに一人の精霊の救出を果たし尚且つ仲間の一人がその巫女に選ばれました」
そう形式通りに答えると
「して、その精霊の名は?」
勿論大公自身は知っていても家臣に知らしめる為に更に問い掛ける大公に
「水の精霊アクエリアス…そのお方はそう名乗られました」
その答えを聞いたと言うより大公家の重鎮達に聞かせた大公は
「あいわかった…が、これだけの話であれば私一人が決められる事ではない
評議に掛けるのは勿論本国側…陛下にも報告すべき案件故に暫くの刻が必要だがその間そなた達はどうするのかね?」
と、そう大公に問われたレムは
「先日先のりしこちらでお世話になっている仲間の容態が良くならねば身動きはとれません
それにこの二人の少女達は我々と違い戦士ではありませんのでこの先連れ歩くのはどうかと思いますから…
二人が落ち着くのを待って今後の身の振り方を考える時間と場所を与えてやりたい…宿屋か何かを世話していただける有り難いのですが」
レムのその言葉を意外に思った大公は
「我が城内に留まろうとは思わないのかな?」
そう問われたレムは
「所詮余所者に過ぎない我々は、その様な身分を弁えない振る舞いは出来ないし閣下のお許しをいただいたら女神や精霊の捜索に奔走する我々に宿の必要は無いのですから」
大公の問い掛けに対してそう答えると
「ならば東にある私個人の小屋を提供しよう
あれは私個人の所有する物だから遠慮は要らんし大抵の物は揃ってるから…
ミサ、客人達の案内と接待、以後の連絡役を任せる…
では客人達に旅の垢を落として貰い我等はこれより評議に移る」
そう言って退出を促されたレムは
「閣下のご厚情感謝いたします」
そう謝意の言葉をのべミサの案内で謁見の間を退出した
あてがわれた部屋で入浴を済ませ
二人の少女達はミサと呼ばれた侍女の用意してくれたシンプルなドレスを着てミサの手も借りて髪を整えている
そんな一行の元に、真琴の魔力が近付くのに気付き覗き窓から様子を伺っていると真琴と侍女を従えた公女の姿が見えた
侍女がドアを叩き
「お客様にご相談があり参りましたがよろしいでしょうか?」
その声にレムが頷くのを見てドアを開ける吽
「どうぞお入りください、公女殿下」
と、恭しく頭を下げると軽く頭を下げると観月をレムが席にエスコートし
その後を真琴と侍女がついて歩いていた
しかし、観月はまるで珍しい物でも見るかの如くへあちこちを見て廻り始めたので…
実際に座ったのは真琴だけで、侍女達は真琴の後ろに控えていたけどレムがお茶の支度を始めたのを見てそれに代わって支度した
「観月様、お茶の支度が整いました」
侍女がそう声を掛けると真琴の隣に腰を下ろし真琴に話を促した
「初めまして、僕の名は真琴…君達とこうして話をするのは初めてだね?」
真琴が二人にそう声を掛けると
「私の名は翼でこの子はチサ、血は繋がって無いけど妹です」
不安げな表情で互いの手を握り合う二人を、あ不躾な言い方をすれば品定めをする観月が納得して真琴と侍女に微笑みながら頷くと
た、
「僕は寝込んでいるみこ…妹の事があるから観月様のお世話になるって決めたけど二人はどうしたい?
暫くしたらレム達は女神様や精霊様の捜索でここには殆ど居られないと思うのだけど…」
そう言われて泣き出しそうな表情で
「それでも私達にはもう帰るところも行く宛も無いし…頼る人なんかももう居ません…」
そう答えると
「なら僕達の部屋に来ない?部屋には未だ空いてるベットがあるのだから一緒に暮らそう
僕達も君達と同じでお互いを除けば身寄りはないけど二人が一緒に居たいって望んでくれるのなら戦士の皆や観月様、美月や公女宮の皆さんが僕達に手を差し延べてくれるからね」
そう言って微笑む真琴に
「元々親の居ない私は平気…でも、翼ちゃんは…家族をみんな…
だから私は強くなりたい、翼ちゃんみたいに泣く人が居なくなるように守れるモノになりたい…強くなりたいっ!」
そう涙を流しながら訴えるチサと呼ばれた少女に
「いつまでも泣いているだけじゃおばあちゃんも安心して成仏できませんよね?
私も強くなりたい…いいえ強くならなきゃナニも守れないんですよね…ただ泣いているだけじゃ…
私も力が欲しい、大切な人を守るちからが…」
そう答える二人に真琴は
「瀕死の二人の命を繋ぐにはみこの黒い勾玉に頼る他はなく勾玉の魔力を取り込み生き長らえた二人は言わば魔導師のみこの眷族かみこの弟子…
勾玉二人を導いてくれるから焦らずに頑張ってよ、既に二人はみこの試練を乗り越えたンただからさっ!」
そう言って二人を励ます真琴を見ながら
「わかりました、貴女達の適正を見極めた上で二人に然るべき修行をさせましょう
この二人の身柄も公女宮でお預かりしても宜しいですか?」
そう観月に問われたレムは
「私に反対する理由も公女殿下の提案より良案が出せませんし…
それに何より二人もそれを望むならば…と、しか言えませんが真琴の言うように命様が二人を導いてくれましょうから頑張りなさい
公女殿下、どうか四人の事をよろしくお願いします」
そう言って頭を下げると他の戦士達もそれに倣って頭を下げたので
「共に精霊の巫女と歩みましょう」
そう言われた真琴が頷くと、あらかじめ指示を受けていた阿が命の身体を抱き上げて浴室に入った命の身体を抱く阿と甲斐甲斐しく世話するミナ
そして、三人を見守る人達の目の前でそれは起こった
蒼く輝く霊気が命の身体から溢れだしその身を包み込み人魚へと姿を変えたのだ
人魚になった命が目を閉じたまま
「我が名はアクエリアス…司祭の血を受け継ぎし者達よ…」
そう呼び掛けたのだ
勿論真琴と阿はそれがアクエリアスであるのは気付いたし他の者達もその容易ならざる事態である事には気付いた
「生きる事を拒む命の魂は、私の声に耳を貸すことなくより深き心の闇に引きこもってしまったことを詫びねばなりません…」
それがアクエリアスの第一声だった
「それはある程度覚悟していたから、仕方有りませんが…
それでも未だみこは自らの命を断とうとはしない、違いますか?アクエリアス様…」
その真琴の問い掛けに軽く頷き
「真琴、予想通りに命のこの世の未練は貴女です…許されるのならば貴女の側に居たい…貴女に甘えたい…そう願っています」
アクエリアスのその言葉に
「つまり僕がみこにどこにも逝かないで傍に居て、みこが大好きだから僕を独りにしないでってそう強く願えば生きていてくれる…かも知れないんですよね!?」
思わずそう叫ぶとアクエリアスも
「恐らくは…私にも断言は出来ませんが命が貴女を…貴女の赦しを求めているのは紛れもない事実なのですからね…」
アクエリアスが言葉を選びながらそう告げた
「解りました…僕が何をすれば良いのかまではわからなくてもみこが僕に躊躇わずに抱き付いてくれるようになれるように努力します
お姉ちゃんなんだから、みこに躊躇わせてちゃ…遠慮させていちゃダメなんですよね?
なら、僕はみこが精霊の巫女の務めを果たせるように力を貸したいし…
何より、精霊の巫女の自覚はきっと生きる理由になるに違いないしその運命に押し潰されてしまうくらいならとっくに自らの命を断ってますよ
だから観月様、阿さんと他の皆さんも僕に力を貸してください、みこが生きたいと思ってくれるように…
双子の僕ですら未だ見たことの無いみこの笑顔を見せてくれるように…」
苦笑いを浮かべる真琴に観月は
「そしてその笑顔を早く私達にも見せて…私達にも向けて貰いたいものです」
そう告げると
「解りました、私も自ら選んだ巫女の指導…水の精霊の務めを共に果たす努力を致しましょう」
そう言って気配を消すと元のあどけない寝顔に戻ったけどその口許は微かに笑っている事に一同は気付いた
命の目覚めにより態勢が変更される事になり、ミナは完全に命の専属となりユカは命達四人の服を製作の傍らミナの指導
ユキは三人の勉強を教えユミは礼儀作法と実務、ユウは三人にダンスの指導をする事になった
勿論その四人の穴を埋めるべく人事異動も発表され数名ほどスタッフ見習いに公女宮の侍女から選抜されたのだった
真琴の朝は早い…隣のベッドで眠る命の手を握り締めかしづく様にベッドに凭れ眠るミナにブランケットを掛け
(ミナさん…又夕べもここで夜を明かしたんだな…)
そう思い見詰めるミナの寝顔に疲労の色は隠せないけど充足感に満ちた寝顔だった
なかなか言葉を発しない命だったけどミナとユカの献身的なお世話を受けて最初に発した言葉はミナ、ついで
ユカ、まこちゃんで世話する二人を喜ばせた
眠る間すら惜しんで奉仕を続けだった甲斐が…しかし逆にチサ、翼の後になった観月のがっかり感は相当なものでユカやユウ、ユキ、ユミ等は苦笑いを堪えるのが大変な位だった
取り敢えず記憶の回復の目処が全く見えないことも有り
「歌を覚えるのが言葉の回復に役立つのでは?」
との医者の勧めに従う事にした観月の指示でユウ、ユカ、ユキ、ユミの四人が交代で教える事になり会話はともかく歌の歌詞は徐々に覚えていった
阿と吽の二人はその名が示す通りにある程度の距離を置いても意思の疎通が取れる
それ故今現在の事だか阿と鬼百合と沙霧以外の…吽、白浪、千浪、レムは嵐の部下達の案内で和泉の女神及び精霊の捜索に出ている
その吽と連絡が取れなくなった事を沙霧と話合っている所に真琴を肩に乗せた鬼百合を従えた観月が二人の前に表れ
「皆さんの救出に向かいましょう……
勿論、水の精霊の巫女も同行するはずですし私も同行せねばなりません」
そう言って、鬼百合に向かって頷くと鬼百合も頷き返し
「まずはみこを迎えにいく」
そう告げて命の眠る部屋に向かう一同だけど観月の言葉通りにいつもなら夢の中に居るはずの時間であるにも関わらずベッドの上で座って待っていた
そして訪れた一行に向かって静かに頷くと、阿に向かってその白い手を伸ばすと阿も黙って命の小さな身体を抱き上げその阿の向かって
「阿に聞きますが連絡が途絶えた場所は勿論解りますね?早速そこに案内しなさい」
穏やかに命ずる命に、誰も異を唱えること無くその指示にしたがった
強いて言えば鬼百合が沙霧に頷き掛けると沙霧も黙って観月を抱き上げた事位だろう
三人の女戦士達は音もなく姿を消して残されたユカはミナに命達がいつ戻ってきても良いように支度させ自らは大公に報告すべくその元に向かった
異様な熱気を放つ洞窟の入り口の前に降り立つ三人の女戦士
降り立つと同時に下ろされた真琴と観月に向かって鬼百合は
「この熱気はさすがに厄介だがどうしたもんかな?」
全く考える気の無い鬼百合がそう呟くと阿に向かい
「洞窟の入り口正面に私を向けしっかり支えなさい」
そう告げ静かに目を閉じ気を高めると両手に水の精霊の霊気が集まり霊力が高まって行き…
―八青龍陣っ!―
八つの頭を持つ青龍が、命の両腕から現れ洞窟内の奥深くに向かった
が、思った程深くないらしいその奥に突き当たり邪気に満ちた熱気はその邪気が払われ次第にその温度を下げていった
やがて、なんとか人が活動出来るところまで温度が下がると中から千浪に伴われた嵐の部下三人が中から出てきて命の前に膝まづくと
「精霊の巫女様、お迎えに上がりました」
そう言って恭しく頭を下げると鷹揚に頷く命の様子を微笑みを浮かべ見守る観月が
「巫女様をレム達の元に案内しなさい」
そう告げられ何故公女がここに?一瞬そう考えたものの鬼百合が公女の気紛れに付き合う筈もなく精霊の巫女が意味無く同行を許す筈もない
つまり、自分達の預かり知らぬ理由があるのだろうからそれなら別に自分達がとやかく言うべき問題ではない…それが四人が出した結論だった
その一行にそれまで黙っていた命がいつの間にか手にしていたツインランサーを阿に向け
「この子達が貴女の力になってくれるでしょう、受け取って下さい」
そう告げられ見慣れないその武器に戸惑う阿に
「このツインランサーは分離式使い慣れるまでは分離すれば貴女にも扱いやすいはず」
そう告げると抱かれていた状態から阿の頭部に股がり肩車の体勢になり阿の手を自由にして手に取らせた
ツインランサーは命の言う通り分離したパーツの内側に腕を入れるとトンファーの様な握り手があったのを確認した阿が装備すると小さく頷くと
「さぁ参りましょう」
そう告げる命だった
千浪を先頭に洞窟内を進む一行
「さすがにあの呪文を受けて動ける闇の者は居ないみたいだな…」
溜め息混じりにそう呟く鬼百合にちらっと視線を向けるだけの一同に改めて
「阿よ、差し支え無ければお前さんが今まで持っていた武器…嵐の部下に与えてやっちゃどうだ?」
と言われ驚き
「勾玉の魔力宿りし物をか?」
驚いた阿がそう聞き返すと
「すぐに使いこなすのはさすがに無理だが…この探索隊に選ばれたのは伊達じゃない、そうだな?巫女よ…」
命にそう聞くと
「その通でさすが司祭の里に縁の深い歌の国大公領に住まいし者達ですね、そうでない者達に比べると魔力への適応力の高さを感じます」
そう穏やかに告げたから
「観月、お前に聞いていいのかわからんが渡しても構わねぇな?」
今度は観月にそう問い掛けると
「事態は既に私達にも関係ない話では有りませんし…如何に力不足とは言えいつ迄も守られてばかりでは男の沽券に関わりますね?
それならば渡される武具を受け取り使いこなせるよう鍛えなさい」
そう観月が告げると嵐も
「うむ、そう言う話しならば私からも頼む、是非とも渡してやってくれ…そしてお前達も巫女様の加護を得た武具を使いこなせるようになって巫女様や公女殿下をお守りできる騎士になれっ!」
そう言いながら頭を下げるのを見てようやく阿も頷いて嵐に拳鍔を渡し嵐もそれを部下に手渡すと鬼百合も
「それなら嵐よ、こいつら残り二人に渡してやんな」
そう言って腰に挿した二本の太刀を嵐に渡すとそれらを受け取って三人に手渡しそれを受け取った男達も決意を新たに改めて観月に忠誠を誓った
命と再会した吽が開口一番
「済まない、この熱気から身を守るためとは言え連絡が取れぬ状態に陥るなど不覚をとった…」
と詫びると
「貴女達が無事なら何の問題もありません
逆にこれだけのトラップを必要とする場所を発見したのだから苦にする必要もありません、ご苦労様」
表情を変えること無く吽に答える命
に対し吽は尚もしつこく
「で、ですが…と言い淀むと」
溜め息を吐き
「貴女がそこ迄気にするのであれば次に活かせば良いのです、戦いはまだ始まったばかりなのですから悔やむ暇が有るならそれを取り返す為の努力をなさい、解りましたね?」
命はそう言うとはっきりとこの話はここまでにしなさい…そう言う雰囲気を隠すこと無く表し
「それよりまだ発動してないトラップが在るようですから今度こそ油断無き様頼みますよ」
命の一言で一同に緊張の色が走り命を見ると
「敵の気配自体はもうありませんから水の精霊の封印が失敗に終った事に未だ気付かぬ敵は和泉の女神を解放しようとする者が現れるなど夢にも思ってないのでしょうね…八封陣…ですか…」
命の指差す方を見ると八つの小さな祠とその中央に在る少し大きめの祠が見えた
― 八青龍神っ!―
再び解き放った青龍達が祠を砕き結界を構成していた物達を浄化した
「レム…回収を任せます
公女殿下と真琴は私に続きなさい」
そう告げると二人がついて来るの確かめること無く祠に近付く命
「殿下は祠の前で膝ま付き祈りなさい、私はその左後方に立ちますから真琴は殿下の右後方に立ち殿下の右肩に左手を添えて祈るのです」
そう言って自らは観月の左肩に右手を添え祈り始めた
祠の前は静まり返りやがて淡い光が三人を包み洞窟内を埋め尽くしたその時祠は砕けちり最後の封印の鍵が姿を表した
火の精霊フレアその人だ
「私は水の精霊の巫女を仰せつかった者…フレア様、私の声は届いておりますか?」
それまで目を閉じていた火の精霊がゆっくりと目を開け
ー待ってましたよ、アクエリアスも息災の様で…
和泉様にもご迷惑をお掛けして面目次第もございません…ー
そう言って詫びるフレアに
「時が惜しいし和泉様にお目覚めいただくのが先だと思いますよ?フレア様…ご助力願えますね?」
そう言って振り返り観月と真琴を見て
「和泉様の開封を行いますが公女殿下…こちらに」
そう言って出掛けにミナが命に掛けてくれた肩掛けを足下に敷きそれに膝を着け祈らせると真琴が観月の右後ろに立ち左手を観月の右肩に添えさせ祈らせ…
自らは観月の左後方で宙に浮き右手を観月の左肩に添えて祈り始めるとフレアも三人に併せて祈り始めた
四者の祈りが高まり光が集まり始めやがて人の姿を取り始めるのを見守る鬼百合達の視線を気にする事なく観月に向かい