闇と影   作:春の雪舞い散る

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えぇもうニブイ男でホレた女性は大変ですよ


ニブイ男

①にぶちんは気付いたか?

 

非公式ながらも真琴…王子(?)の初訪問に大喜びの伯爵家(主に孫娘達を中心にメイド達)の上に翔も来てくれたのだから嬉しくないわけがない

しかも…翔が着ているのは前回の訪問時譲り受けたフェアリーのドレスでただの飾り羽が魔力により本物の羽の様に羽ばたかせ翔んでいるのだ

鬼百合は再会の挨拶もそこそこに剣斗(女騎士の正装)と媛歌を伴い白夜の国に向かい暫しの滞在

因みに剣斗が持たされた滞在中の服は王女宮の侍女の制服で途中ユカ達の馬車から麦についての事情を説明と剣斗の事情を話し…

「ほなみ、鬼百合様に同行してケイティのサポートをしなさい

麦は到着後に鬼百合樣と共に帰国し草の実の精樣と共に聖霊とその巫女を目指す修行をなさい

デザイナーの勉強については当面はユミに相談すれば良いと思いますがいずれ観月樣から何らかの指示がありましょう」

そう言って見送られた

 

白夜の国に降り立ち

「アタイは麦を送るついでに王妃も連れて帰る」

そう言って飛び立った鬼百合と麦を見送り控え室で侍女の制服に着替えほなみに髪を整えてもらったケイティ

媛歌を先頭にほなみ、ケイティと続いて謁見の間に入室し献上品を国王の近習に手渡すと

「………」

口をぱくぱくする媛歌の代わりに

「お初にお目に掛かります…そう申しております」

ユミに読唇術を学んだほなみは霊力を使わなくてもその程度の事は聞き取れたからそのまま通訳を買って出た

「貴女は三度目の訪問ですね?」

王妃の問い掛けに

「はい、ユカ様の訪問に際し同行者の中では命様にお仕えさせていただくのが長いのと…

麦や小明と言う者達の様にデザイナーの助手として同行する為ユカ様の側を離れられない者でない私は侍女のお務めの経験の浅い少女騎士の手助けを任されました…」

そう言われて頭を下げるケイティを見て

「確か霊獣は二騎翔んできて一騎は折り返し飛び去ったのは何故?」

そう聞かれ

「未々未熟者の私の指導と道中の媛歌樣の護衛を兼ねて同行くださいまして落ち着く間すらも惜しんで次のお役目を果たしに行かれました」

そうケイティが告げると

「あの方は中途半端に休むよりお役目をさっさと済ませてゆっくり勤務後のお酒を楽しみたい方ですから私達からしたらお茶の一杯でもと思いますが…」

そうほなみに言われて

「もしかするとユウ様と親しい鬼百合樣と言われる方ですね?お酒好きと言う事は」

そう王妃に聞かれ

「命様の従者の騎士様でお酒好きと言われるのはあの方しかいませんから…

勿論お強い方は他にもいらっしゃいますが…皆様口を揃えてこう仰います…

鬼百合と一緒にするなっ!と…」

そう言って溜め息を吐くなみに

「愉快な方…でも尊敬してるのでしょ?」

そう聞かれたほなみは

「それは勿論です、命様のお側に行きたい…お仕えしたい、でもそれにはどうすれば良いの?

そう悩んでいた私達の手を取り私達を命様の元へ案内してくださった方で

なんか悩みが有ったら聞いてやるからいつでも言ってきなっ!

そう笑って言ってもくださりました鬼百合様を私達は姉の様に思ってますし尊敬もしてます」

そう誇らしく語るほなみを可愛く思う王妃だった

 

謁見の間において顔合わせと四人の准騎士候補達の同行理由を告げたけの正騎士の承認が決まり命から預かった大樹と同じギャフと大樹から預かった木工ナイフと彫刻刀セットを渡し昇進を祝福した

 

その後に真琴は衣装作りの打ち合わせに入り翔とセレナは昼食の支度の手伝いをするため厨房につめている

厨房のお手伝いをしていると酒屋を始め慰霊祭で知り合った者達が翔の訪れを聞き付け厨房に集まり再会を共に喜びあっていた

伯爵家の料理の他、下働きの賄いや兵達の食事の支度もあらかた終わり…

気は進まないけど月夜以外の孫娘に取り囲まれた真琴が迎えにきたのを見てぷくっと頬を膨らませ顔を背けるのを苦笑いしながら翔頬を両側から人指し指で押して

「ぷっ…」

と、頬を膨らませていた空気を噴き出させて真っ赤になった翔が言い訳を始める前にダイニングへと連行した

 

伯爵家及びその周囲の者のたけに対する評価は高く若くして霊獣の騎士のたけは幼い子達には夢であり憧れの存在だから人気者

独学ではあるけど横笛が得意で月夜にねだられ夜毎笛を吹くたけとその音色にうっとりする二人を温かく見守る周囲の者達

そのたけと再会の准騎士候補の四人の前で翔が真琴に向かい

「あ、あんな…まこお兄ちゃん差し置いて気ぃ引けんねんけど…」

そう申し訳なさそう言ってからロッド、サイ、シン、千に向き直り

「あ、あんな…あんたら指笛吹けるんやったら吹いて呼んだりぃや…」

そう言われて顔を見合わせた四人は

「あ、あれ…だよな?」

ロッドがそう呟き他の三人も頷いて指笛を吹き鳴らすと四人の前に炎馬が降り立ち

「あ、あんなみこお姉ちゃんからの伝言やからよー聞いてや

ユカ達が着いたらサイとシンはシャーとペーと交代してユカの護衛して

シャーとペーはロッドとタヅナと共にたけの指揮下に入ってこの地の守護に当たってね…ってゆーとった…」

そう言われ頷く四人に

「ユカの到着迄は僕とたけの二人で修行を見るけど翔、修行場所として結界内借りたいんだけど良いかな?」

そう真琴に言われ

「そない水臭い事言わんでもお兄ちゃんがつれてきたらエーからね、んで後で頭をえー子やゆーて頭撫でくりまわしてくれたらそんでえーんからねっ♪

霊獣も呼んでお稽古してかめへんからねっ♪」

そう笑って言われたから

「そうゆー事だから暫くは僕がちょっとしごいてあげるよっ♪」

そう笑顔で言われ大樹の修行の後の様子を見ていた四人の顔は軽くひきつっていた

「取り敢えず早速お稽古しなはれ、ボクも魔鎧で飛ぶお稽古するさかい…」

そう言って結界の扉を大きく開き中に招き入れ魔鎧を呼び出し装着して飛行訓練とアットレーの操作を始め真琴も指導を始めることにした

いつに増して旺盛な食欲のたけを見て驚くやら呆れるやらの伯爵が

「何かあったのかね?」

そう問われたたけに代わり

「折角こちらに来ましたから魔剣白炎竜の正当な主になってもらうための修行を始めてもらいました」

そう言われて驚き真琴を見て

「貴女が指導をなさるのか?」

そう伯爵に問われて

「未々修行中の身ではありますけどこれでも魔剣士の先輩として大樹の修行もみましたよ?」

そう言って笑うと

「真琴様の走り込みにようやく追い付けるようになりましたから…

もっとも…息ひとつ乱れない真琴様に比べ俺達の修行不足は…」

そう言って苦笑いするたけに

「まぁ魔導師として、戦士として物心着く前から修行をしてきた僕との差はやむを得ないよ」

そう言って再び笑顔を見せ翔の真琴頭を撫でる真琴と気持ち良さげに目を閉じている翔は時折リクエストに答えて飲物を冷やしている

厨房の仕事をあらかた終えダイニングに運び始める頃真琴が迎えに来て何も言わずに翔の頭を撫でると撫でられた翔の顔はへにゃっ…と緩み

「さぁお着替えして食事のお招きに預かるよ?」

そう言われニコニコ顔で頷く翔の身体を抱いて部屋に運びシルクのピンキーエンジェルに着替えさせて連れてきたのだ

しかし、在る意味前回の訪れよりもっとも変わっていたのが食べ物の嗜好でお父ちゃん(鬼百合)の影響丸わかりな酒の肴を好む様になっていたことだ

ただ…困ったことに咀嚼の意味を理解出来てない翔は基本的に丸呑みが多く何度注意しても元魔鳥の翔が理解する気があるはずもない

そもそも鳥の姿の時は強力な顎の力は少女の姿の時はからかい過ぎて癇癪を起こした翔に何度も噛みつかれた真琴曰く

「本人は力一杯噛み付いてるみたいなんだけど全然痛くないんだよねっ♪

まぁその姿が可愛いから余計に構っちゃうんだけどさっ♪」

と、その真琴の報告を受けた為命と違う意味で食事の世話をする者が気を付けねばならない悩みの種である

たださすがに本能的に小魚の煮干しは口の中でふやかしてから飲み込んでいるらしく小魚によるトラブルはなかった

 

夏が短い伯爵領は実りの秋を迎えようとしていた

命の訪れより作物の成育もよくなり今年は実りの秋と呼ぶに相応しく白夜の国に回せる量が増え

その分加工品の材料となる鉱物資源の輸入量や白夜の国の特産品である馴鹿の肉や皮、皮製の輸入量が増え加工品を歌の国への輸出は勿論首都でも売れる為景気は上向き始めている

そもそもの発端の歌の国の大公領の経済の牽引役となった繊維業界と好漁続きの漁業と突然現れた四人の美少女達が商人達を呼び滞っていた物流と人を動かし

人魚姫、水の精霊の命が沈滞していた歌の国の人を目覚めさせ冬眠から覚めた獣の身体の血流が活発になるように経済と言う名の血が巡り始め

最初は留美菜の父親とその下で働く漁師が受けた恩恵が徐々に広がり翠蘭太夫との出会いで王都の漁師達が…

翠蘭太夫との出会いは界隈の酒場とその酒場界隈の関係の深い者の懐を潤わせその状況を見て放っておかない他国の商人達

彼等が売りた物を持ってきて持ち帰れば売れるものを買い更に循環がよくなっていった

命が巡業で通った町…残した足跡からはその土地土地により異なるが様々な恩恵がもたらされて芽吹いていたしその時出会い命の元に集まった少年少女達は着実に力を着けつつあった

 

 朝食が終わり、魔鎧を呼び出し装着した翔は何か良い物無いか探し回っていてそれと出会った

 

 ズタボロのハルピュイアと、散乱する風蜥蜴の遺体と怯える少女達を見付けた翔は少女達の前に降り立ち

 

 「 動くなっ! これ以上好き勝手なことはさせたらんっ! 」

 

 そう言われたハルピュイアは翔を一瞥して、ゆっくり起き上がると明らかに折れているだろう両翼で浮き上がり飛び去ろうとしたけれどそれは叶わず墜落して身体を強かに打ち衝け再び意識を失うのを見た少女の一人が 

 

 「 だ、大丈夫!? 」

 

 そう言って駆け寄るのを見て

 

 「 え、あれ? ソイツもコイツらの仲間なんちゃうの? 」

 

 そう問い掛けると聞かれた少女は

 

 「 よくわからないけど今にも襲ってきそうな風蜥蜴にいきなり飛び掛かったの… 」

 

 そう言われて理解出来ない翔が

 

 「 え、何で? 」

 

 そう呟いて戸惑っていると

 

 「 魔族だからって皆が皆、闇の者に従う訳じゃないしね… それにその子をよく見てみなよ?

 

 その子は亜種?変種?雑種?とにかく本来持ってるはずの闇の魔力を全く感じ無い… 悲しいくらいにね 」

 

 そう言って治癒魔法で傷を塞ぎ痛み止の処置と骨折の治療を済ませると少女達を見て

 

 「 家まで送るけど歩ける? 」

 

 そう言われたけど真琴に見惚れていた少女達の反応は一拍遅れて

 

 「 え、あ、はい… その子が助けてくれなかったら 」

 

そう呟く少女に

 

 「 別にアンタ等助けたわけやない、恨みのあるコイツらに仕返ししたっただけなんやから礼を言われる筋わ無い

 

 それと… あのまま死にたかったボクの命助けてもろてほーんま要らん事してくれて感謝しとるわっ! 」

その恨みがましい物言いに顔色を変えた翔に

 

 「 翔、落ち着きなさいっ! 」

 

 そう翔に声を掛け

 

 「 君は人間は嫌いじゃないの? 」

 

 そう問い掛けると

 

 「 ほたら何でアンタさんはボクの怪我直してくれたんよ? 同族達にすら仲間と思うことさえ許されへん出来損ないのボクなんか?

 

 まぁ別に隠しだてせなアカン様な秘密の話や無いから話したるわ…

 

 以前心優しい人間に飼われてた… 生まれてこのかた唯一のボクの理解者、ボクをかわいごーてくれた方がおったんよ…

 

 勿論基本的には人間なんか… 光の側の者なんぞ信用しとらんし大嫌いやったけど今は嫌いな奴に人間とかの種族や光とか闇とかの所属とかなんかそんなんどーでもえーやろ?

 

 光の側の者からは闇のもンやゆわれ追い回されハーピィスラグて呼ばれて下等な魔物達にまでバカにされてたボクに仲間なんかおらへんのやからね…

 

 まぁそんな訳やからどっちゃでもえーわ… おひいさん守ったってゆわれとってその約束ひとつ果たせんかった役立たずは生きとる資格無い…

 

 でも… 自殺とかしたらあの世で説教… は、あり得んやろな? あの方は天に召されとるやろしボクは間違いなく地獄に落ちるんやからね…

 

 まぁえーわ、話の続き聞きたかったら後でしたる… 又死にぞこなってもーたんやから取り敢えずちぃーとばっかし寝る 」

 

 そう言って、あっという間に眠りに就いた自称ハーピィスラグの身体を抱き上げると取り敢えず翔の結界内で休ませる事にして少女達を村まで送り届けてから戻る事にした

 

 ー なぁおいアンタ、あのお人って精霊の巫女なんやろ? 大切な話し有るから伝えてもらいたいんやけどえーか? ー

 

 そう言われて

 

 ( はぁ? なんでお前みたく敵か味方かもわからんよーな奴に顎で使われなアカンのや? )

 

 そう言われて笑いながら

 

 ー あはははっ、アホやなっ♪ ボク自慢や無いけど動かれへんし直接話し掛けられる程の魔力無いんやから誰かに頼むっきゃ無いやろ?

 

 それからゆーとくけどボクは元々この世界のモンちゃうし塵カス扱いされて生きたボクには闇のモンにゃ恨みしか無い

 

 おまけに光のモンから塵虫みたく忌み嫌われ生きてきたボクが紛れ込んだこの世界の光と闇のどっちにも与する義理はないばかりか己れの無能さで死なせてもーた弥生媛の仇…

 

 一匹でも多くの闇のモン道連れにしたんねんっ!

せやけどアンタかてわかるやろ?ボクにそないな事出来るよーな大した力無いんは… せやから敵の敵のアンタ等に遺体から読み取った情報を教えたんねん…

 

 ただまぁ自分でゆーのもなんやけどボクの読み取れんのははっきり言ってザコしか無理やし…

 

 はっきり言ってアホなボクには読み取った情報の意味わからへんから誰に聞いてもらわなおそらくは役に立つかどうかもわからんのよ… ー

 

 ( ……… )

 

 そう言われて考え込む翔に

 

 ー翔、何か弥生って名前が聞こえたんだけど何で今この場でその名前が出てるのさ? ー

 

 そう言って両者の念話に割って入ってきた真琴に

 

 ー ボクの唯一人の理解者、歌姫様から預かった大切なおひいさんの弥生様や …

 

 この世界に紛れ込んできたボクがおひぃさん守るんに手ぇ貸してくれはりそうな魔力感じてこの地の上空で探し回っとたらいきなし竜魔鬼と風蜥蜴が襲ってきて逃げ回っとる内に …

 

 所詮は出来損ない… スラグのボクには命より大切やゆいながら守れへん… ホンマ最低の塵くずなんや

 

 せやからボクはアイツ等が闇の口から出てくる瞬間を狙ーて自爆したんねん

 

 あそこやったら種火 ( 自分の自爆 ) 放り込むだけで大爆発引き起こせるからかなりの数を道連れににしたれる… ざまぁみろやで ー

 

 そのハーピースラグの言葉が聞こえた真琴が

 

 ー その歌姫の名は真琴ってゆーんじゃないの? ー

 

 そう言われて大きく目を見開いて暫く黙り込み

 

 ーな、何でそん名を …ー

 

 そう言って驚きを隠せないハーピィスラグに

 

 ー 弥生は生きてるしこの国の王家で手厚い保護を受けて暮らしてるし歌姫と舞姫も蘇った… 精霊の巫女として新たな命と霊力を得てね…ー

 

 そう真琴に言われて

 

 ー…そっか… これで思い残すことは何も無くなったんやね…

 

 せやったら派手な最後飾ったれるな… 塵カスの最後っ屁や

 

 歌姫様とおひいさんの事、ホンマよろしゅー頼んます… お二人の事助けたってください…

 

 それとボクの事は絶対に歌姫様には言わんといてください… もう歌姫様に会わす顔無いよって…

 

 アンタ等がボクの事忘れてさえいてくれさえしたら、そんで全て丸く収まるんやからホンマ頼んます

 

 歌姫様にはもうボクみたいな疫病神の塵カスなんぞ近寄らせたらアカンてアンタ等かて思うやろ? ボクかてそう思う、つかボクやったら絶対に近寄らせへんのから… ね?

 

 まぁそんな事よりボクがアンタ等とおうた所からちょい行ったとこに口を開く予定らしいんよ…ー

 

 魔界側から掘り進めとるみたいらしいんやけど… 勿論下っ端のソイツは詳しいことは知らんかったみたいなんやけどなんやこの地の闇の口が塞がれて使い物にならんらしいんやわ…

 

 って事が今んとこわかっとる情報で後わかっとるキーワードは… 月夜 ( つきよ ) …なんやけどボクには何の事やらさっぱり… ー

そう言って溜め息吐くと

ー それはつきよじゃなくつくよ… じゃないのかな? ー

そう言われて

ー ……う~ん… せ、せやった… 最初聞いたんはつくよ… やった… まぁボクには大した違いわ無いからてテキトーに覚えとったけどつくよってなんやねん、夜に何突くんよて一人ボケ突っ込みして笑てたん思いだしたわー

そう言って笑うハーピィスラグに構わないで

( どうやら伯爵様は勿論女王様に報告しないとダメみたいだね… )

そう考えながら

ー わかった、その件に関しては急いで体制を整える…で、君は今からどうするつもりの? ー

そう真琴に聞かれたハーピィスラグは

ー 魔力をちいとでも溜めといてボクの身体をボム化してそん時を待つ…

んで、後ひとつ頼みたいんけど闇の口めがけて放り投げて欲しいんやけど…

多分… つか間違いなくボム化したら二度と身動きとれへんよって放り込んでもらわな何ともならん思うんよ ー

そう言って初めて言い辛そうに口ごもるがそんなのお構いなしに

ー それはボクに任しとき ー

そう翔に言われ

ー うん、頼むわ… 最後位は派手に飾らせたってや… ー

そう笑って言って眠りに就くハーピィスラグを冷ややかに見る翔と溜め息を吐く真琴の二人

 

未確認の情報ではあるけれどという前置き付きで伯爵は勿論その日の内に女王にも報告がなされ当然の事ながら歌姫の耳にも入り…

真琴に同行して伯爵領を訪れると

「 翔っ、問題のハーピィスラグに会わせなさいっ! 」

物凄い剣幕の歌姫を連れてきた苦笑いの真琴に「案内してあげて 」 と言われて怯えてチラチラ見ながら案内する翔の視線を気にすることなく

「 起きなさいっ、翔っ! 」

そう歌姫が叫んだが深い眠りに落ちているもう一人の翔… ハーピィスラグは目覚める気配がなくそれを見て溜め息を吐く歌姫に

「 こいつも翔って名前なんやね? 」

その不思議そうに呟く翔の問い掛けに

( やはりこの娘は気付いてませんでしたか… )

そう思っている歌姫に代わり

「 歌姫がボクで有り舞姫がみこであるように歌姫の翔なんでしょ?同じ訛りの言葉で喋る二人の翔は(同一人物)? 」

そう言外の意味も含めて真琴に聞かれた歌姫は

「 はい、私達は一目見てすぐにわかりました… 姿形は違えど根本的なモノの考え方に相違ありませんから… 」

そう悲しそうに答える歌姫に

「 歌姫の翔は気付いてたし翔、お前も気付いてるんだよ… 自己嫌悪でもう一人の自分を否定してるんだからさ 」

そう真琴に言われて驚いた翔が

「 …せやね… 一目見た時からなんやよーわからへんけどこいつが嫌いやった… まるで自分を見てるようでメッサムカついてた… そっか… 通りでこいつ初めて見た時からムカついた訳や… 」

そう話していると歌姫の気配に気付いたハーピィスラグの翔が目を覚ましてもぞもぞと動き出すのに気付いた歌姫がその首根っこを掴むと自分の顔の前に持ってきて

「 何処に行くの? 翔… でもそうですね、紛らわしいですから今から貴女の名前はコードになさい、そう呼びますがそれで宜しいですね? 」

そう歌姫に言い渡されコードには拒否権は認められて無いらしくあうあう言いながら頷いていた

そのコードを見ながら歌姫が真琴に

「 真琴… この身体じゃもう長くありませんね? 鬼百合さんが私達にしてくれたみたいにみたいに勾玉か霊玉を埋め込みこの壊死し始めている両翼を切断したらどうなりますか? 」

「 両翼がどうなるかはわからないけど本体は新しい力と姿をを得るだろね 」

そう答える真琴に

「 コードどうしますか?新しい力を得て強くなりたいとは思いませんか? 」

そう聞かれたコードは

「 ちょこっと考えさせて欲しいんやけど… 」

 

 そう答えると

 

 ( ボクにとって翼失うて死ぬんと変わらんやん? どない力目覚めたかて翼の代わりにはなれへん… そんなんやや… 絶対ややっ! )

 

 そう結論付け

 

 「 ボクが死んだらボクの身体勝手使えばえーやん? ボクは翼失のーてまで生き延びたい思わん… 歌姫様、今までホンマお世話なりました

 

 一族からも見捨てられた、出来損ないのボクを生きててえーって… そーゆうてくれはったんは後にも先にも歌姫様だけ…

 

 せやから残りわずかなこの命… 歌姫様の為最後の一花咲かせてもらいます

 

 多分、これが今生の別れになりますよって… お達者で、今度こそ幸せになれるとえーですね 」

 

 そう答えると再び魔力を蓄える為眠りにに就くコードに

 

 ( バカっ… 貴女が私達を最後まで支えてくれたからここまでこれたのよ?

 

 お願いだから、少しで良いから私の気持ちを考えてよっ! )

 

 そう心の中で叫ぶ歌姫のその想いはコードに届く事は決して無くその時は無情に近付いてきた

 

 未だ月夜の想いに気付かないたけと、侯爵家の姉妹の様に積極的に自分の想いを相手にぶつけられない月夜なので二人の関係に進展は無い

 

 勿論、たけとて可愛い月夜に騎士の誓いを捧げるのは吝かではないけど月夜に対する気持ちに個人的な感情はない

 

 強いて理由を上げるなら好感の持てるお姫様を守るのも騎士の役目… そして今闇の者から狙われている月夜を守れなくて何が騎士だよ?と…

 

 だからと言ってたけが月夜に無関心と言うわけでもないが、やはり三歳年上でたけから見たら大人な月夜が好意的なのはやっぱり弟みたいな感じなんだろう…

 

 そう勘違いし、お姉さんを守れなきゃダメだろ?

 

 そう考えてるたけが、月夜の悲しくもちょっぴり嬉しい現状…たけの鈍さには溜め息しかでないけど誠実さの無い美辞麗句をつらつら並べ立てる軽薄な輩よりは遥かに好感が持てる

 

 何より供の騎士として自分に恥を掻かせない様に暇を見付けては騎士長の指導を受け寸暇を惜しんで努力するたけを悪く思う者はない

 

 そう、それは月花とて同じで最初は妹の恋を冷ややかに見ていたけど孫達の中で一番聡明で…

 

 聡明すぎて祖父の自分に対する期待がなんなのか嫌になるくらいわかりすぎてしまう自分が嫌いだった月花もたけの登場が自分の運命をも変えるかもしれない

 

 たけが義弟になれば運命が、なにかが変わりそう… その思いが日増しに強くなってきているだけにグズグズしている月夜がじれったい月花だった

 

 その日の夕方、若月の営業を終えて戻る途中のユカの一行が到着しユカに現状を伝えた真琴と

 

 シャーとペーに命の伝言を伝えた翔

 

 二人に吹かせた指笛に応えたのは水馬で、広目天と増長天とチームを組み伯爵領の港の治安が任され暫しの休暇の後に港町に赴任することとなった

 

 取り敢えず、帰還者達を労いの料理を出してゆっくり休んでもらうことにした

 

 明けて、翌日の朝早く結界の中で修行する騎士達と踊りの稽古をする巫女達

 

 そんな中、真琴にこっそりと

 

 「 ボクが憎まれ役やるけどボクが熾火の勾玉埋め込んでもちゃんと出来るやろか? 」

 

 そう言われて

 

 「 翔の中に居るフレア様とチサの霊力を信じなよ? そしてその二人に信じてもらい力を貸してもらえる自分をね、歌姫にはボクから伝えておく

 

 コードは治癒魔法で癒してる間なら気付かないから頼むね 」

 

 そう言われてその隙を狙い熾火の勾玉を本体に埋め込み壊死した翼は簡単にもげ落ち片翼熾火の勾玉に吸収された

 

 生まれ変わったコードは翔より更に二寸ほど小さく不器用で魔力は内在しているけど塞き止められた様に全く使えない状態

 

 ( 切っ掛けさえ有れば変わるんだろうけど… )

 

 そう言って見守る真琴だったけど取り敢えず伯爵家の孫達には 「 翔の妹のコード 」 と紹介し様子を見る事に

最初はぶちぶちと文句たらたらなコードも真琴に

 

  「 歌姫にはコードが了解したって教えてあるからね… 」

 

 そう言われて事実歌姫にはそう教えてあるからコードの心変わりを歓び

 

 「 私の気持ちをわかってくれたのね? 」

 

 そう涙を流して喜んでいたのでその現状を受けいれるしかなく

 

 翔と真琴を睨んでたけど徐々にその事を忘れていったが翔曰く

 

 「 所詮アイツもボクとおんなし鳥頭やねんからねっ♪ 」

 

 そう笑って言われた真琴とても複雑だった


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