二章風が吹く
①お舟に揺られて
早朝にも関わらず観月の出港の刻を間近に控えた大公家は喧騒に満ちていた
重要機密扱いの火と水の精霊の巫女達並びに花の娘の存在、さらに最重要機密扱いの人魚姫の出現といつまでも隠すわけではないものの色々政治的な思惑から公表を控えている事案が山積みとなっている
もっともそのその当人達は政治的な…平たく言えば大人の事情をあまり理解してはいないのだけど目立つ事を忌避しているの は間違いない
そんな少女達を気遣う千浪が
「真琴、これを…」
と言って以前真琴に渡した物と同じ小刀を渡し受け取った真琴は
「 ユイさんユウさんにユカさんにチサちゃん、そしてミナさんも護身用にこれを持っていってよ…まぁそうでなくても軽くて切れ味が鋭いから結構重宝するんだよ?」
真琴がそう言うと
「真琴ちゃんが持ってるのと同じのだよね?」
そうチサに聞かれた真琴は
「そうだよ、千浪さんから貰った奴なんだ、翼にもはいこれ」
と言われ
「観月様とみこちゃんには?」
と、翼が微かに沸き上がった疑問を口にすると
「観月様が護身用の刃物を持たねばならぬ様な状態には私達が致しません」
そう建て前をユイが言い
「翼、仮にみこにリンゴの皮を剥きたいからって言われたからってナイフを渡そう何て思う?」
そう真琴に聞かれた翼は日頃の壊滅的に不器用な命を思いだし
「た、確かにお二人には「えっ、えっリンゴあるの?」」
それまでぼんやりしていた命の反応にあきれなながらも苦笑いを浮かべた翼だったのだが…しかしそれにしても…
と思い皆の視線が命に集まるのを気にも止めないその命の服装はユカが悪戯に作った海兵隊の制服命バージョンとでも言うべき物で…
勿論左の胸には海兵隊の隊章が縫い付けてある本格的な一着だ!
当然の事ながら皆が孟反対するのをダメなら行かないとまで言い出したからさしもの観月も渋々了承した…否、せざるを得なかったのだ
そんな命の姿を出迎えた提督が目を丸くしながらも嬉しそうに微笑み歓迎の意を表した
勿論命の姿を見て驚いたのは見送りに集まった一般市民も同じで噂に聞いていた謎の少女、真琴の妹の姿に驚いていたが注目も集めていた
その一方で初めての船旅に意識が飛んでいるみこはその自分に対し集まっている沢山の視線には全く気付いていなかったので苦にはならなかったようで
阿と波頭の二人に荷物を持たせさやついでながら命自身は鬼百合の肩の上に腰かけていて甲板に上がった途端にマストをとっとっとっと駆け上がるとアンダートップに腰掛けて気持ち良さげに歌い始めた
白い服を着て白いマントをなびかせる命の姿はまるで白い鳥のように見えその歌声は小鳥の囀りの様にも聞こえた
その歌声のお陰で昨夜のパーティーの際、帆風が愚痴った事情のため不機嫌だっ乗り組み員達の機嫌はすっかり良くなりいつもはただただ慌ただしい出航時…
それが思いがけない天使の歌声?と思える命の歌声のお陰でとても楽しい一時になり愚痴っていた事などすっかり忘れてしまっていた
島を離れ航行が落ち着いてきたこともあり帆風が観月の案内がてら甲板に上がると潮風にマントと長い髪を靡かせ遠くを見ながら鼻唄を歌う命とその姿を嬉しそうに見まもるチサがいた
「みこ、チサ…帆風が船が初めての二人を案内したいそうですがどうしますか?」
観月にそう言われ好奇心の塊のチサの目が輝いたけど潮風に吹かれていたい命は首は小さく横に降り
「ここにいたい…」
と、静かに答えたので帆風としては本音を言えば命も連れていきたかったのはやまやまだった
だけど本来なら帰還後の半休に行われる甲板の掃除や砲台の手入れをする乗り組み員達の連れてかないでくれっ!
と、言う心の叫びが聞こえてきそうな視線の前に諦めてチサだけを案内した
それでも船の事を全く知らないチサが好奇心に任せ知らない事をあれこれ聞いて教えてもらうと素直に…時に目を丸くして驚き教えてくれる者を尊敬の眼差しで見られて悪い気がする者はない
不幸にして命の歌を聞けなかった者の心を癒したチサも又意識せず乗り組み員達のアイドルになっていた
足元がガヤガヤと賑やかになってきたのに気付いた命が鬼百合の姿を見付けて
「鬼百合何してるの?」
と聞くと
「見てわからんのか?魚釣りしてるんだよ
釣った魚は船が買い取ってくれるから小遣いかせぎだな」
と答えると
魚釣りと小遣いと言う初めて聞く単語に首を捻っていると
レムから聞いた二人の生い立ちを思いだした鬼百合は魚釣りや小遣いを知らなくて当然かと思い
「そうだな…取り敢えずまぁこうやって静かに釣糸垂れてて針についた餌に食い付いたら釣り上げるのが釣りで提督が魚の価値に応じて褒美をくれんだよ」
その鬼百合の説明で理解出来たのかそうでないのかがよくわからない命の反応だけど
「ふーん…で、その魚釣りってどう面白いの?」
と命が聞くとそれを聞いた釣り好きの乗り組み員達が銘々に釣りの楽しさを語り
「まぁそいつについちゃ何でもそうだがやってみん事にはその良さはわからよ…みこ、お前…歌を歌うの始めっから楽しかったか?」
そう言われて首を横に振り
「そだね、最初は仕方無しやってたな…歌詞覚えられなかったしお歌が上手なまこちゃんと比べてダメダメなじぶんがヤでいつも泣いてた…辛いって言って
うん…鬼百合教えて、みこやってみるから」
とニッコリ笑って答えると喜んで釣り竿を用意する乗り組み員達
そこに船を一回りしたチサが帆風と共に戻ってきた笑顔の命を見て
「みこちゃん何してるの?」
そうチサに聞かれた命は
「鬼百合がお魚釣りを教えてくれるんだって、チサちゃんもやる?」
と誘われ聞いたことは有ってもやったことは勿論見たこともないチサが返事に迷って帆風を見ていると命の支度をしている男が
「みこちゃが使うのも船の備品だからチサちゃんも遠慮しなくて良いよ」
とチサに教えると帆風も笑顔で頷き
「物は試しってゆーからなっ、やってみなよ?チサっ♪」
と、鬼百合にも言われて
「わかりました、やってみます」
そう答えたから
「そうか、なら取り敢えずこれでやってみな」
そう言われて鬼百合がそれまで使っていた釣り竿で釣り始め支度の終わった命も仕掛けを投げ込むとそれを待ってましたと言わんばかりに乗り組み員達の竿がしなりだした
釣り上がった魚を見て一番乗りを果たした男が
「良型のホシカイワリだぞ…」
そう呟くと次から次に同じサイズの魚が上がり入れ食い状態に
そしてチサの竿が大きくしなり命の竿は一度小さくしなり続いて竿を持つ命の身体ごと海に引きづり込みそうなしなりをみせ慌てて鬼百合が手助けした
勿論チサの方は帆風が手伝って上がったのは花鰹と呼ばれる魚のそれは大公領ではとても珍重されてる魚で勿論観月の好物でもある
「凄いなぁ…チサちゃん、こいつなら観月様の今夜の食事にお出しても恥じない一品だよ」
そう一人が言うと別の男が
「親父を呼んでくるっ!」
そう叫んで船長室に走って行きチサを驚かせた
一方、巨大魚との格闘に飽きた命は竿を鬼百合に押し付け再びアンダートップに腰掛け暫く鼻唄を歌っていたけどすくっと立ち上がるとどこからか現れた蒼い銛を投げつけその巨大魚を仕止め鬼百合も一気に釣り上げたその魚は大マグロで
「多分最初の小さい引きはホシカイワリでそいつに食いついてきたんだろうな…」
そう言って呆然とする船乗り達を気にせず
「鬼百合が一等賞だね?御祝いにその銛あげるよ
アクエリアスちゃまのご加護が有るから戦いでも凄い力を鬼百合に貸してくれるはずだよ?」
そう言われて
「そいつは有り難いがこいつの褒美はどうするんだ?」
と聞かれて不思議そうに
「釣り上げたのは鬼百合だから鬼百合のだよ?」
と言われて溜め息を吐くのを提督と一緒に甲板に上がってきた観月に
「そんなを事みこに言ったところで言うだけ無駄ですよ?鬼百合…どのみちその魚の価格ならみこに管理できるわけ有りませんから預かって私達が管理するだけの事」
そう言われて
「ならアタイが言う事は何もねぇな…少なくも管理を任して構わねぇんならな」
鬼百合が溜め息を吐いてそう答えると観月も
「そう言う事ですからユイ、二人の釣果のご褒美の管理任せますよ」
と言うのを聞いた鬼百合がお前も丸投げかよと思ったがなにも言わなかった代わりにチサが
「観月様、私が一人で…」
と言い掛けるのを帆風が咳払いで止め小声で
「俺は勤務中だからその褒美を貰ったらサボった事になるんだから俺を助けると思ってご褒美もチサ一人で貰ってくれないか?この通り」
そう言われても未だ考え込むチサに事情を察した観月が
「本国で行われる歓迎のパーティで必ず帆風と踊って上げなさい、その方が遥かに嬉しいのですからね?帆風にとってはですねっ♪」
そう言われて夕べの帆風の言葉を思い出し自分も四人の娘達の兄になったような気のする帆風の目は優しくチサもやっと
「有難うございます…帆風…お兄さん…」
はにかみながら言ったチサのその一言が何より嬉しい帆風だったがいきなり目の前に差し出された
その騒ぎも収まり再び釣りを再開した鬼百合とチサに乗り組み員達
チサと命達のようなラッキーは二度となかったがチサを筆頭に鬼百合達はホシカイワリ以外にクラサーや島鯵を釣り上げチサは初めての釣りを楽しみ鬼百合達は上陸後の小遣いをたんまりと稼いだのだった
釣果は久々の大漁で干物にしておけば魚に関しては補給の必要が無いくらいだった
そして日が落ちて不運な当直以外の乗り組み員以外の宴会が始まった
ユイは観月と提督の為の料理を用意して
ユウ、ユカ、ミナは料理長以下食事当番を手伝って宴会料理の支度をした
見習いの乗組員達は今日の釣果のホシカイワリを捌き干物の準備をし宴会を迎えたのだ
今夜の宴会は特別だった
特別な肴に命の歌、花の娘から提供された数種類の新鮮な香草に草の実達… 本来なら有り得ない、軍艦でロンドを踊れるのだから…
普通の神経の持ち主なら男達だけでロンドを踊りたいとは思わないし少なくもこの船にはそう言った趣味嗜好の者は居ないのだから
そう言うわけだから久し振りの休暇が潰れて文句たらたらだったハズの乗り組み員達が命達を誘ってロンドを一緒に舞う事を誰も止められなかった
しかも、その踊りの輪の中に観月も加わりたいと言いだし
「 嫌いなのではなく、公女という立場上出来なかっただけで今宵この場ならその様な事を気にする必要が有りますか? 」
そう言われて
「 有りません、我々乗組員一同は観月様のご参加心から歓迎いたします 」
帆風が代表してそう答えると皆も口々に歓迎の言葉を叫んだ
そう、乗り組み員達にとり本当に特別な一夜になったのだった
そんな賑わいの中ただ一人不機嫌さを噴き出している者が居た
『 依り代よ、何故我を貪り喰らうこの獣… くっ、殺す… ギャーっ、食うなっ! よ、寄るな、触るなっ、あっち行けっ! 獣風情がずーずーしい、私の視界から消え失せろっ! 』
山羊を見てそう心の叫びを上げて取り乱す花の娘の姿を唖然と見守るしかない船乗り達だった
翌日の非番の者も朝から釣り三昧で、勿論釣果は爆釣でさすがに釣れ過ぎたので本国近くで漁をしていた漁師に引き取らせ市場に出荷させた
軍艦で釣った物を兵達が市場に出せないからで代金は後で魚市の落札価格によって決まるのも両者の暗黙の了解になっている
そうこうする内に昼過ぎになりいよいよ本国が見えてきて
「 二人共この港の入り口付近は潮の流れが早いから落ちないよう気を付けるんだよ?
出来れば観月様は勿論二人共船室に連れていって貰うのが一番安全なんだけどね… 」
と、言われて苦笑いで返す鬼百合達と船室に入る気など更々無い命とチサの表情に溜め息の帆風
歌の祭典迄未だ日にちが有るにも関わらず予想外に早い観月の訪問に沸く王都市民が港の入り口にある堤防にも数多く集まっていた
その様子に悪い予感の観月が
『 何も起こらなければ良いのですが… 』
と、そう思った矢先にそれは起こった
じゃあ僕は命ちゃんが我に返った時未だ僕が居たら不味いだろうからここは退散する事にしよう」
そう言って笑顔を残し立ち去りその後暫くして我に返った命に
「あれ?まこちゃんはいつから居たの?みこ、全然気が付かなかったよ…」
そう苦笑いを浮かべて言う命を見ながら真琴は
「少し前だけど一生懸命お歌の稽古してたから気付かなかったみたいだね」
そう言いながら
(十六夜様と遭遇した前後の記憶を削除して心の安定化をはかることにしたんだな…)
そう考えて内心苦笑いする真琴だった
何故自分が同席しなければならないならないのか理解出来ない命にとって苦行に等しい晩餐も終わりに近付き
「みこ、最近観月様にお歌聞いてもらったこと有る?
今朝のお稽古聞いたけど大分上達してたから大公様や睦月様に如月様にも聞いていただいたらどうかな?」
そう言われてビクッと震え弱々しく首を振り
「まこちゃんみたくお上手じゃないみこのお歌聞かされたって誰も喜ばない、迷惑なだけ…」
消え入りそうな声で言う命に理由はわからなくても真琴が今この場で命に歌わせたがってる事に気付いた翼とチサは
「そんな事ないよ、みこちゃんの可愛い歌声を迷惑な人なんて言う人なんて居るはずないよ?
未々社交界に慣れない私はいつもみこちゃんの歌に癒して貰ってるんですからね」
そう翼が言えば
「お勉強の後にみこちゃんの歌を聞くと午後からも頑張ろうって思えるんだから自信持って」
そう言いその理由は十六夜の為だろうと推測した美月のスタッフ達は
「みこちゃんの側に居て沢山聞いてるミナとユカの二人が本当に羨ましくてたまには代わって欲しい位ですよ?」
とユイが言うと同調して頷くユウ、ユキ、ユマ、ユミ達
そして優しく包み込むように命の身体を抱き締めながら
「私も命様のお歌を聞くのは大好きですからいつものように歌ってください…」
そう囁くように言われて
小さく頷くと静かに歌い始めた
最初の曲はミナと花摘をしてる時をイメージしながら歌い(イメージ曲は松任谷由美の守ってあげたい)
次いで二曲目はしっとりとした曲を歌い(イメージ曲は帝国歌劇団奇跡の鐘)
そして三曲目は軽快に歌い(イメージ曲はパリ歌劇団ボヤジュー)
そしてラスト四曲目はおもいっきり弾ける曲で盛り上げた(イメージ曲は激、帝国華撃団)
普段は落ち着きはらった大公、穏やかな睦月、観月の前では大人しくしている如月も大いに盛り上がった
観月の指示で大公家の使用人逹が集められ時ならぬミニコンサートに沸き上がった夜になった
聞いていた人達が喜んでくれたの
が余程嬉しかったのか笑顔で涙を流していたけどそんな命に観月が
「まもなく私はチサを連れて歌の国の本国に向かわねばなりませんがみこもついて来ますか?」
そう問われてそれまで真琴と離れるなど夢にも思わなかった命は
「行かない、まこちゃんの側に居る…離れ離れはヤっ!」
小さい声では有るけどハッキリと拒絶すると
「みこ…僕達だっていつまでも子供でいられるわけないんだから大人にならないとね…」
そう諭すように告げられた命は
「みこは大人になんかなれないしなりたくもないもんっ!」
そう言って目をつぶり下を向く命の肩を震える肩を抱きながら
「…うん、確かにそうだね…大人になったみこの姿は僕にも想像できないよ…でもね…だからこそ僕は早く大人になってみこを守って上げられるよう大人にならなくっちゃダメなんたよ…」
真琴にそう言われて
「生まれてきちゃダメな子のみこにはまこちゃんの側以外に居場所は何処にも無いから…なんにも出来ない要らない子のみこは誰も用は無い」
歌っていた時の輝きを失っている瞳は暗く淀んでいて居たたまれなくなったミナが
「そんな事有りません私は命様の事が大好きですし私にとって恐らく最後のご奉仕が命様のお世話になって幸せな時を過ごさせて頂きました」
命にとりその告白は衝撃だった
側に居てくれるのが当たり前で身の回りの全てをお世話してくれるミナは既になくてはならない存在になっていた
そのミナが自分の前から居なくなるなど考えたくもない事
が、命のその様子に気付かない鬼百合が
「みこ、お前の事が好きなのはミナだけじゃない…な、大公?」
そう声を掛けられた大公は穏やかな笑顔で
「観月達の様に妹と呼ぶのは無理があるが娘や姪を見る様にお前達を見守っている」
大公はそう答えながら命と真琴の二人を連れて初めて言葉を交わした時の鬼百合の台詞を思い出していた
「それにね、みこ…一緒にはいけないけど僕や翼だって後から行くんだよ?
だからほんの少し離れるだけなんだから我慢できるよね?」
そう聞かれて
「ホントに来てくれる?離れるのはちょっとだけ?」
そう確かめずには居られない命に笑ながら
「僕だって余り長く会えないのは嫌だし女神の祭典に出なきゃいけない僕はどうしたって行かなきゃいけないんだからね」
その言葉を聞いた命は
「なんかまこちゃんてお兄ちゃんみたい…
やっぱり妹はお兄ちゃんのゆー事聞かなきゃダメなんだよね?」
そういきなり話を振られた観月は逆に兄達に言うことを聞かせていたから
「ええ、まぁそうですね…」
と言葉を濁し三兄妹の事を知るも者達は笑いを噛み殺していた
そんな事を知らない命は小さく頷くと
「分かった…自信無いけどちょっとだけ頑張ってつよくなる」
そう呟き
「観月ちゃま、みこも連れてってね…チサちゃんも一緒なんだから多分大丈夫…だよね?」
そう言いながらミナを一瞬見たけど命の決意を喜んでるだけなのを見て目を伏せる命だった
その様子を見ていた大公父娘は互いの顔を見て頷き合っている事は勿論命は気付いていない
そして十六夜が嬉しそうな顔で真琴に頷きかけていることも勿論気付いていない
「命様のお床の支度をしに参ります」
そう観月に告げ退出するミナの後ろ姿を切なそうに見送る命だった
その後暫くしてから阿に抱かれ寝室に向かうみこを見送り
「ミナを命付の侍女として連れていけるか?」
と言われた観月は
「折角行くと言ってくれた命の気が変わらぬように是非とも連れていくべきですしそろそろ公女宮に呼んでもよい良いくらいですから何ら問題有りません
ただこの慌ただしい中わざわざ所属変更せずとも大公邸所属のまま命付で私の預かりとすれば良いと思います」
そう聞いた大公は
「分かった、そのように処理しておく」
大公がそう告げるとその夜の晩餐はお開きとなり使用人達は仕事をしに各々の持ち場に戻った
ただその事を未だ知らない命は真琴とミナの二人と別れる不安からミナに手を握られても涙が止まる事が無く…
その様子を見た真琴が
「ミナさん…みこに添い寝して抱き締めてあげて
それ程に不安なんだからね、僕と貴女が一度に自分から離れるって事はさ…」
そう言いながら溜め息を吐く真琴に
「私なんかがその様なことしても宜しいんでしょうか?」
そう言うミナに
「精霊の巫女であるみこに遠慮してるならそんな必要はない
今ミナさんが手を握っているのは精霊の巫女の命じゃない、本人が言った通りに貴女に甘える事しか知らない幼く弱いみこなんだからさ
それともみこなんかと添い寝なんてしたくないの?」
そう言われ慌てて命の布団に入り頭を抱き締めると命の涙は止まりミナの胸に顔を埋めて微笑んでいた
真琴すら初めて見た嬉しそうに微笑む寝顔
日頃の疲れがたまっているミナもすぐに寝息をたて始めたのみた真琴は事の次第を観月に知らせると
「ミナをこのまま命付きにして本国に同行する様に手続きしてますから安心しなさい」
そう言われさすが観月様と思って安心して部屋に戻り眠りに就く真琴だったが
「やはりミナは常に命の側近く控えさせる必要がありますね…」
微笑みなからそう呟く観月だった
翌朝その事を知らされた命が喜んだのは言うまでもなく玄関迄ではあるけど十六夜の見送りに現れる程だった
勿論ミナの背中に隠れてでは有るけど昨日の朝は自分の姿を見て意識が跳んだ事を思えば格段の進歩
本当の笑顔はこの次会う時の楽しみにすれば良いと思える十六夜だったから
「チサちゃんとの再会を楽しみにしてる、みこちゃんはその時に本当の笑顔を見せてくれたら嬉しいな
翼ちゃんは母上のお供で社交界に顔を出してくれたら喜んでくれるよ?
娘を連れて歩くのが母上の夢だったからね
真琴ちゃん、女神の祭典については役員に名を連ねる僕が受け付けた
だから後は観月が書類を持ってくれば良いようにしておくから来てくれるのを楽しみに待ってるよ」
と言われた真琴は
「泉美様と観月様に恥を掻かせない様に頑張ります」
そう答えると
「阿とミナは命を頼みます
真琴とチサは朝の勉強を、翼は今朝の勉強は休みで私と港まで十六夜の見送りに向かいます」
そう宣言するとユマは翼に同行し吽が警護役で同行する事になった
その夜正式に出航日がきまり観月の秘書にユイ
命の世話役にミナ
ミナのサポートとチサの指導にユカが選ばれ
全体のサポート役としてユウが選ばれ女神の騎士団を名乗る嵐と部下の内の三人に鬼百合と阿が同行する事になった
そしてまたしても命にとっての難題発生
「みこ、出航前日の壮行会を兼ねたパーティーで貴女の社交界デビューを飾って欲しいのですが勿論出席してくれますね?」
そう言われ青ざめた顔で
「みこにはまだ早いよね?」
そう言ってミナに救いを求めるとミナより先に
「まぁ確かに体力的には未々無理があるかな?」
と真琴が言えば
「未だまともに歩けませんしね」
と阿も言い
「真琴が歩き始めても何をするでもなく日長膝を抱えて踞ってましたし歩き始めたのもこちらに来てからですからね…」
とレムも言うと
「阿には申し訳無いけどその夜はみこの側から離れずミナに手を貸してもらえますね?
勿論入退場のエスコート(抱き上げて)も任せます」
そう言われホッとする阿と複雑な表情のユカだった
「取り敢えず今回は顔見せだけでも果たして欲しいのですから宜しいですね?」
そう言われてさえ言い訳を考え言葉の出ない命に
「みこ、僕達より年下のチサちゃんだって出てるし翼は観月様に代わって社交界に参加してるんだよ?
それにね、みこ…大勢の人達がみこの登場を待ってるよ…」
その背中を押すように
「確かに早すぎることはない、アタイの知る限りじゃあ観月が社交界デビューしたのはチサよりもさらに早い六歳だと聞いている」
その言葉を聞いて逆に
「人は人、真琴…貴女は大事な事を忘れている…
貴方達は鬼百合と出会う前に話をした事のある人間がいますか?対人恐怖症にも等しい命様にとって見知らぬ人間が多く集まるパーティーに出ることが恐怖以外の物でしかない事を?
逆に言うと同じ環境で過ごしてきたはずの貴女が真逆の反応をしている事の方が私には驚きですからね?」
そう言われ頭を掻きながら
「そうなのかな?そう言われても余りピンとこないんだけど…」
レムにそう言われて苦笑いの真琴に
「芯の強い貴女には今の命様は理解出来ないでしょうし私自身理解できるとは言えません…ですが真琴、貴女が初めてのパーティーで踊る気になった気持ちを教えてあげてはどうですか?」
そう言われた真琴が命の顔を見て頷き
「みこ、今の大公様のお屋敷に敵なんか居ないんだから安心して…仮にいきなり襲ってきたってレムや鬼百合さん達がみこに近付かせなんかしない
それにね、みこ…今の僕達を守ってくれる人はもっといるんだよ?
大公様、睦月お兄さんに如月お兄さん観月様にユカさん達美月のお姉さん達やその方達にお仕えする皆さんもいる
僕や翼、チサちゃんだっているんだから辛かったら辛いって言えば良い……
それにね、みこ…何よりも皆がみこの事を愛してるんだから…ね、ミナさん?」
笑って言われたミナが慌てているのを見て笑いの渦が巻き起こる一同だった