ソードアート・オンラインーEverlasting oathー 旧バージョン、1、2話欠損 作:ゆぅ駄狼
ーーーここは………?
独特な消毒液の匂いとカーテンで隠されているベッド、更に学校にいるということ。
此処は保健室だ。
「右頬が痛い………」
カーテンで分け隔たれているベッドの上で自分の頬を優しく触った。
頬の痛い部分を少し押しみると刺さるような鋭い痛みが襲って来た。
痛みが襲って来ると反射神経が反応し、瞬間的に頬から手を離した。
「これは………多分、口の中を切ってるのかな?」
頬に手を当て、溜息を一つつき、ベッドから立ち上がり、カーテンを開けた。
薄々不思議に思っていたのだけれども、一体誰が俺を運んでくれたのだろうか。
ーーーカーテンを開けるとすぐそこに居た。
「コクン……………………コクン…………ガタン!……………痛い……………」
「何やってんのお前」
「あ………おはよう……………」
頬をさすっている俺を見て、天使の様に微笑んだ。
………俺を運んだのは琴葉だろうな。
いや、きっと先生に言って運んでくれたんだろう。
「俺はどのくらい寝てたんだ?」
「結構長い間………もう暗い……」
「……………へ?」
まさか、もう夜だというのか。
…………そのまさかだった。
窓がカーテンで覆われ、そのカーテンを取っ払うと輝かしい満月が顔を覗かせていた。
確かに部屋の中をよく見るとかなり暗い。
流石に電気を付けて欲しいと思った俺がいる。
ーーーあれ?
「待て、先生達はどうした」
「………帰った」
「あぁ………質問を変えよう、何で先生が誰もいない………ってこの学校、今、俺達だけ?」
「………………うん」
やだ怖い。
取り敢えず明かり付けましょうよ本気で怖いから。
キョロキョロと周りを見渡し部屋の明かりを付けるスイッチを見つけた。
すると…………
ガシッと琴葉に腕を掴まれた。
「電気付けると…………………………出る…………」
え、何が?
「見つかって…………殺される…………………」
怖い。
怖いんですけど。
何が怖いって、目付きがガチなんですよね。
これは出ますね。
「嘘だろ…………?」
「………………嘘」
「怒」
俺達は保健室を後にし、学校から出る為に玄関へと向かった。
向かっている途中、ふと思った。
ーーー何で、こいつが隣を歩いているんだろう。
「どうしたの………?」
…………琴葉が隣を歩いてることなんてどうでもいいじゃないか。
俺は頭をぶんぶんと横に振った。
少しだけ今思った事が散った気がした。
「いや、何でもねぇよ」
そっと"ユウキ"の頭に手を乗せた。
くしゃくしゃと撫でてやると不思議そうな顔をしていた。
ーーーまただ。
ーーーまただ。
ーーーまただ。
ーーーまただ。
「あ…………れ……………………………………」
気が狂いそうになって来た。
こいつはユウキじゃない。
そう言い聞かせる。
あれ。
じゃあ。
こいつは。
誰?
「あ、…ああああ…………うぁあ………………あうああ…あうああ…あうああ…」
他人から見たら精神異常者にしか見えないだろう。
でもさ、薄々気付いてたんだ。
ーーー狂ってる事に。
「あれ…………ユウキ………だ…あ」
「……………………?」
琴葉は首を傾げていた。
ユウキが人の名前であることには気付いていたのだろうけれども、周りを見渡しても優也と琴葉以外、誰も存在しない。
「ユウキ……………ユウキ……ユウキユウキユウキユウキユウキユウキユウキユウキユウキユウキユウキ」
「ゆぅ…………く……………………!」
優也の目は虚ろになり、口元が笑っていた。
琴葉は危険を感じたのか、俺から離れ、走り出した。
「あ………れ…………何で逃げるんだよぉ」
俺はずっと、"ユウキ"の走り去って行く姿を見ていた。
ーーーもう、この時には俺は異常者だった。
ハァ………………ハァッハァッ…………ハァハァ…………………。
琴葉は優也から逃げ、何処の教室かもわからない所に逃げ込んだ。
「……どう…………しちゃったの………………?」
琴葉にとって今の優也は恐怖そのものだった。
今までの優しい気配は無く、何をするか分からない人に変わっていた。
「………叔父様に…………………っ!」
携帯を取り出し、優也の叔父さんに助けを求めようとした。
だがーーー。
足音。
この学校には誰がいる?
先生達はもう帰ってしまった。
生徒は他にいる筈がない。
いるのは琴葉と優也だけ。
と い う こ と は。
教室の戸はゆっくりと開いた。
其処にいたのはーーーー。
「あ〜、忘れ物しちまったよ」
「……………!」
「あ?お前は………………」
「助けて…………優也君がおかしくなっちゃった…………………」
ーーー其処にいたのは藤林照だった。
「優也と仲良くしてた女だよな?」
「助けて…………怖い……………」
「…………どうしたんだよ」
琴葉は震えながら事の説明をした。
倒れていた優也を保健室に運んだ事。
起きた頃に暗くなっていて優也と琴葉しか学校にいなかったこと。
突然、優也が狂い出したこと。
それらを聞いて照は動き出した。
琴葉の手を引いて。
「逃げるぞ。……………優也が…………本当に腐るなんてな…………取り敢えず、今の優也は危険だ」
「危険…………?…………ゆぅ君は何も持ってないよ……………?」
「ちげぇよ、俺が危険でも無く、お前が危険ってわけでもない。優也が危ないんだ」
「………?」
「行くぞ…………」
照は琴葉の手を引いて玄関までの道を辿って行った。
照と琴葉は一年生だ。
そして、この学校は四階建てで一年生は一番上の階に教室がある。
照がこの教室に忘れ物を取りに来たということは、此処は一番上の階であることが分かる。
さっきまで優也と琴葉は一階の保健室から少し出たところ辺りにいた。
となれば遭遇する確率はかなり高い。
「………貴方はどうやって…………」
「ん?あぁ、どうやってこの学校に入ったってか、玄関は開いてなかったし………適当に学校の窓鍵掛け忘れてるとこねーかなーって思ったら、あったから入れた。警備が甘いよなこの学校」
「…………………」
「でも、出る時は玄関からがいい。そっちの方が早いし内側の方は鍵穴タイプじゃないからすぐ出れる。先生にバレたら説教だけどな」
「……そう……………なんだ」
「んじゃ、こっちもいいか?」
「?」
「お前"達"、何がしたいの?」
それを聞いた琴葉は首を傾げた。
照がした質問は琴葉には全く通じなかった。
その質問は琴葉だけに対しての質問では無かった。
「…………まぁいいや」
「え……?」
「学校出るぞ」
そう言うと照は玄関に向かって走り出した。
琴葉はそれを追いかけて行った。
四階から三階、三階から…………二階に降りた時だ。
月明かりに照らされ、一つの影が見えた。
ヒタヒタと廊下に鳴り響く二人の足音以外の足音。
足音を聞いて照はそっと手を琴葉の前に手を出し、待て、と言った。
「………………確か………藤林君です………よね?」
「…………あ?」
「っ………何で……ゆぅ君が……危ないの?」
「……………SAO事件の事については知ってんのか?」
「一応…………」
照はふーんと言うと一呼吸し、話し始めた。
「優也、あいつが壊れるなんて………分かってたんだよ。いずれはこうなるって……………。俺はさ、人殺しを殺す、殺人鬼だった。ある日、ユウヤっつープレイヤーの殺人依頼が来た。依頼主は俺のギルドのメンバーだ。そいつの話だとギルドの副リーダーがユウヤに殺されたって言うんだよ。本気であったまに来たんだ。ユウヤっていうプレイヤーは次の階層のボスを討伐するっつーから青龍連合?だっけな、それに紛れて殺してやろうと思ったんだ。ボスにやられたって事にすればいいと思ってさ」
「……殺人………鬼」
「………………でもよ、簡単には殺せなかった。ユウヤには大切な人がいた。ユウキっていう女の子がな。あいつを殺す機会なんて幾らでもあったんだよ。でも、俺には出来なかった。あいつらが………"似てた"んだ」
「似てた……………………………………!」
突然、琴葉は顔色を変えた。
何故なら、照の後ろに人が立っているからだ。
その人は照と同じ位の身長だった。
琴葉が顔色を変えたのに対して、照は全く動じなかった。
寧ろ、後ろに誰がいるのか分かっている様だった。
「走れ!!!!!!!!」
叫ばれた事により琴葉は体をビクっとさせたがすぐに階段を降りて行った。
照はまだ、後ろを振り返らなかった。
「結局かよ……………………………………………………優也」
琴葉は玄関まで走り、辿り着いた。
玄関を急いで出ると一台の高級車が校門で止まっていた。
何処かで見たことのある高級車だ。
そう思っていると中から男が一人、出てきた。
「やぁ…………琴葉じゃないか」
「須郷………さん?」
「いやぁ…………優也君に会いたいと思ってね………自宅に行ったら優也君はまだ帰って来てないって言われてね。学校に来てみたら………案の定、ね」
「助けて…………ゆぅ君が………………おかしく……………………」
琴葉が車から出てきた須郷に助けを求めると須郷は顔を歪ませて笑った。
「ククク………………優也君がおかしくねぇ………………狂っちゃったのかぁ………………僕の予定通りだよ……………琴葉?」
「は……はい……?」
「お前はもう必 要 無い」
立ち竦む琴葉を手で殴る様に退かし、校舎へと向かって行った。
琴葉は退かされた勢いで地面にペタンと座り込んでしまった。
「また、一人?」
高級車の運転手は眉一つ動かさずにサイドミラーからその光景をじっと見ていた。
須郷は校舎に入る為に玄関に入り、土足で上がり込んだ。
「へぇ…………………」
再び顔を歪ませて笑った。
須郷が見た先には二人の人影がいた。
人影は優也と照だった。
優也はアザだらけになり、血だらけになっていた。
これは生きているのか?という位に酷かった。
照はアザだらけになっている優也を担いでいた。
照は須郷を認識すると興味は無いといった目で見ると、そのまま須郷の横を通り過ぎた。
「………待ちなよ、藤林照くん」
「…………何で……俺の………………………」
「さぁ………………一体なんでだろうねぇ………ソードアート・オンライン、最高の殺人鬼、だっけ?」
「………俺になんか様か?あ?」
「そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ〜。でも、用があるのは藤林君じゃなくてそっちの、優也君さ」
「見てわかんねぇのか?今こいつは営業中止で面会謝絶なんだよ」
アザだらけの優也を須郷に投げ渡した。
おお、っと言いながら須郷は優也を受け止めた。
「これは…………凄いことをするね…………」
「は?こうなったのはお前らのせいだろ」
「………何を言ってるんだい?」
「俺は知ってるんだぞ?お前が優也の心を壊す為にあの女と接触させたのも、優也を利用してることも、お前が汚い人間だって事もな!」
ーーー照は取り返しのつかないことをしてしまった。
須郷は片手で顔を覆い、やれやれ……と言った。
次に見たのはーーー悪意に満ちた笑顔だった。
「おいおいおいおいおいぃ?殺人鬼は黙ってろよぉぉ?屑の人間が僕にそんな口を聞いていいと思っているのかぁ?」
ガサゴソと自分のスーツの内ポケットから携帯を取り出した。
慌ただしくガチャガチャと携帯を弄り、息を荒くし、ニヤついた不気味な顔をしながら携帯の画面を照るに向かって見せた。
「……………す………鈴………菜………………?」
携帯の画面に映ったのはSAO事件で死んだ筈のーー佐藤鈴菜だった。
病院の服を着用し、ベッドで安らかに寝ていた。
画面を見てしまった照は頭に血が上り、須郷の服を掴んだ。
「てめェ…………鈴菜に何しやがった!?オィコラァ!!!」
「全く………目障りな屑だなぁ…………見たら分かるだろう?死んだ筈の佐藤鈴菜は生きている。この娘は僕の会社の社員である男の娘だったんだよ。いいか?よーーーーーく聞きたまえよ?僕の会社には茅場先輩がいた。そして佐藤鈴菜の父である佐藤先輩は茅場先輩と仲が良かったんだ。まさか………親友に娘の命を弄ばれるとは思っていなかったんだろうね。家に帰って見ると、この娘はナーヴギアを被っていたらしいんだ。その日、ニュースでSAO事件の話が流れ、佐藤先輩は血の気が引いたらしいよ?いやぁ……………気づかなかったよ。佐藤先輩が茅場先輩のサブPCを盗み出していたなんてねぇ………」
「…………どういうことだよ」
「まだ分からないのかい?頭の悪いガキは嫌いなのだけれどね…………特別に、簡単に教えてあげるよ。佐藤先輩は自分の娘を助ける為に、サブPCで一時的にソードアート・オンラインをハッキングして、自分の娘だけを助けたんだよ!」
「………………………鈴菜は生きてる」
「もっと簡単に説明してあげようか?しょうがないなぁ!そう!あの糞先輩は他の人は見捨て、自分の娘だけを救ったんだよ!一時的ならしょうがないとでも思ったかい?まさか!仮にも僕達は研究者だ!この僕ならソードアート・オンラインに閉じ込められた人間を半分は確実に救う事が出来た!本当に………………ククク………………」
「それがどうかしたかよ。俺がそんな程度で怒るとでも思ったか?これまで俺は酷いことをして来た。親が自分の子供を守りたいのは当然だろ」
「ノー!ノンノン!本当に頭の悪い屑だよ君は!この娘は今、誰が保持していると思う?」
「そんなの………親に決まってんだろ」
「普通、ならね。実はサブPCを持ち出した所が監視カメラに映っていてね」
………流石に頭の悪い俺でも気がついた。
この男、まさか。
「まさか、という顔をしているね?そう、そのまさかだよ!その映像は言い様によってはSAO事件の加担者に見えるじゃないかぁ!」
「俺が………何をやってたのかもしっ「そうだ!」
「本当は君は使わないと思ったのだけれども、やけに図に乗った事をしてくれるじゃないか。君も利用させて貰うよ」
「誰がてめェなんかの言うことを聞くかよ」
「そうそう、この娘は君に好意を持っていたようだね。ナーヴギアをつけた状態でずっと君の名前を呼んでいたよ。僕は今、ナーヴギアを使って記憶に関しての研究をしている。試しに、この娘の記憶を弄ってみようか?」
照は何も言えなくなってしまった。
それと同時に驚いていた。
この土壇場で知ってはいけない事を知ってしまった。
照と鈴菜では釣り合わない、そう思いずっと鈴菜を拒んで来たのに。
好かれないために拒んで来たのに、本心を知ってしまったという絶望感。
ーーー照の脳内には一つの選択しか無かった。
「………………何をすればいいんだ?」
「クク……………物分りが良い犬は嫌いではないよ」
二つの影と偽者は夜の闇へと消えて行った。
ーーー何処だここ。
やけに眩しいな。
俺は今、目を閉じているけど瞼越しに眩い光が目を貫通して来た。
ゆっくりと目を開けて見たがーーー。
「また知らない天井かよ」
俺は溜息をついて再び目を閉じた。
「おい、寝るなよ」
「……………照!?」
「うぉ!俺じゃ悪いかよ!」
「何で照がいるんだよ!」
「何でって……………覚えて無いのか?」
「人を記憶喪失みたいに言うなよ。ゲッソリしちゃうだろ?つーかお前……!前に殴られた所まだ痛いんだぞ!?」
「………あぁ、すまん」
俺は殴られた頬を指指しながら照に痛いアピールをした。
体を起こして周りを見渡すとーーー。
「何処だ?」
「ここはレクトっていう会社の仮眠室だよ」
「レクト………レクト、ああ!須郷さんの会社か」
「…………何も覚えて無いのか?」
「はぁ?」
異様に俺を記憶喪失みたいに言うものだから反論しようとした。
だけど、照は仮眠室にある鏡を指差して黙っていた。
乗り気ではないけど鏡に向かった。
鏡を見て見ると、何もな………………………。
「な………なんだ……何でこんなにアザだらけに?」
自分の顔を見て見るとアザだらけの自分がいた。
自分のアザを認識すると鈍い痛みが顔中に襲いかかった。
「お前………………やっぱり覚えてないんだな」
「照…………俺に一体…………………」
「優也、お前………………」
俺の身に何が起きたのかが分からなかった。
そういえば、俺は保健室から出た後どうなった?
確か…………………ユウキ!
「おい、照!ユウキ、ユウキは見なかったか!?」
「…………………………そんなのいねぇよ」
「何言ってんだよ!俺と一緒にいたんだよ!!」
「ならよ………………その保健室でお前にずっと寄り添っていたのは誰だよ」
「はぁ?そんなのユウ………………キ……………?」
「お前と一緒にいたのはユウキか?違うだろ。お前と一緒にいたのは違う女だ」
「う……………ぁ…ぁ…ぁ…………………あ………う……………」
頭がかち割れるように痛い。
心が砕けるように痛い。
俺はユウキといた。
ユウキと居たんだ。
ユウキだ。
俺の中でプッツンと何かが切れた。
「あぁぁぁあ"ああああ"ぁぁぁぁぁぁ"ぁぁあぁあぁぁあぁ"あああああ!!!!!」
ガラガラと扉が開く音、暴れる優也を取り押さえる大人達。
優也を無理矢理取り押さえ、注射で何かを優也の中に入れた。
安定剤だ。
暴れる優也は徐々に意識を閉ざして行った。
でも、何故、安定剤がすぐに出せたのか。
既に用意されていた様にも思える。
開いたままの扉から一人の男が入って来た。
「駄目だよ〜。壊れた物を更に壊すなんて」
「…………………なぁ、お前は分かってるのか?」
「何がだい?」
「壊れた物は完全に元通りにはならないんだぜ?」