ソードアート・オンラインーEverlasting oathー 旧バージョン、1、2話欠損 作:ゆぅ駄狼
今は12月24日。
俺が入学してから一年経った後の12月。
俺はとっくに二年生になっている。
この日は一人で静かにクリスマスイブを過ごそうと思っていた。
…………俺には友達って呼べる奴がいねぇからな。
今日は親父さんもいない。
ああ、因みに俺は親父さんと二人暮らしだ。
親父さんって言っても義理だけどな。
炬燵で暖まっていると外の方がドタドタとやけに五月蝿くなってきた。
大方予想は出来るけどな。
ピンポーン。
そんな感じにインターホンが鳴る。
俺はそれを無視する。
ピンポーン。
ピンポーン。
今日の飯は何だろうな………。
親父さんのことだからチキン…………多分ケーキは大量に買ってくるよな。
ピンポーン。
ピンポーン
ゴンゴン。
ピーーーーーンポーーーーーーン。
もう7時かよ。
通りで暗いと思ったわ。
親父さんが帰ってくるのは9時だから暇だな。
「ちょっと、何で無視するの?」
「うお、何勝手に人ん家上がってんだよ。ちゃんと居留守使ってただろうが。」
「寒かったよぉ〜照〜〜」
「うぜぇよ。抱きつくな、出て行け」
「うにぃ………」
俺に横から抱きついてきている奴は佐藤鈴菜。
人の家に勝手に入る不法侵入者だ。
取り敢えず、ウザいから振り払った。
すると、ガチの涙目で俺を見てくる。
「そんなに乱暴にしなくてもいいじゃん………」
「うるせぇな。要件があるなら早く言え、無いなら出て行け」
俺は不機嫌そうな顔をし、場の空気に圧をかける様に言った。
こうすれば大抵の奴らは気まずい感じだと思い、"やっぱり何でもない"と言って離れていくからだ。
俺は面倒臭いと言わんばかりの引いた目で鈴菜を見ていた。
「…………………照……その………えっと………」
何かを言おうとすると辞め、また何かを言おうとすると辞める。
その繰り返しをしていた。
しまいには涙目になって俯き、黙ってしまった。
俺は溜息を一つついた。
鈴菜の頭に手を乗せ、クシャクシャっと撫でた。
すると、鈴菜はゆっくりと顔を上げた。
"諦めた"という表情をした俺を見て、にぱっと笑った。
………これが欲に言う、甘い空間って奴か。
何とも思わねぇな。
俺にとっちゃ親父さんといる時とまるで同じ感覚だ。
そう思いながら鈴菜の方に目をやった。
気味が悪い。
頬を赤く染めて、もじもじとしながら笑っている。
「何笑ってんだよ、気色悪い」
「………女の子にそんな事言ったら駄目なんだよ?」
「はいはい、何で笑ってたんでしょうか?」
「手だよ♪この手♪」
鈴菜は自分の頭に乗っている俺の手を指差した。
最近の女はこの程度で喜ぶのか?
俺はスッと手を戻した。
手を戻すと鈴菜は、あっ、っと少し寂しげな声を小さく出した。
ショボンとしている鈴菜を見て、また溜息を一つついた。
「お前、こんなので喜ぶのかよ…………別にいつでもしてやるよ。減る訳じゃねぇし」
「ん…………ずっとしてて」
「面倒だな…………」
俺が手を再び鈴菜の頭に置くと、猫の頭に手を置いた時の様にコクンと一瞬頭を下げた。
そのまま頭を撫でてやると物凄く気持ち良さそうにしている。
可愛………いくねぇな。
「小学生か…………こんなの他の奴にしてもらえよ」
「っと言いつつちゃんと撫でてくれてるじゃん」
「優也とか和人とかにしてもらえよ」
「それは無理かな〜。優也君はちょっぴり怖いし、和人君には彼女いるしね〜」
「マジかよ。最近、和人がやけに惚気話を出して来ると思ったら………」
「照は優也君と和人君と仲良いんだっけね」
「…………別に仲良くなんてねぇよ」
「たまに話すじゃん」
「お前の言う友達がわかんねぇ………」
会話に紛れて手をスッと戻してみた。
「えぇ………」
「なんだよ、その絶望を目の当たりにした様な表情は」
ジト目で鈴菜を見ると暴れ出した。
小さい子供が手や足をブンブンと振る様に暴れまくっている。
そのせいでさっきから炬燵の足に物理ダメージが入って揺れている。
炬燵の上に置いてある蜜柑が右へと、左へと転がる作業をしている。
「暴れんなっつーの」
「えーーーーーーーー。だって照が悪いんだよー?」
「なんもしてねぇから」
「手だよ!」
「いい加減疲れる。ってか何しに来たんだよ」
俺が鈴菜に此処に来た理由を聞くと、忘れていた。という顔をして、てへぺろを繰り出した。
ほんの少し殺意が湧いたのは言うまでもない。
そんな俺を他所に、鈴菜は用件を言う。
勿論、てへぺろをしたまま。
「今日はクリスマスイブなんですっ!」
「そうだな」
「そんな日に………こんなに可愛い女の子が男の子の前に現れたっ!」
「ほほう」
「と言うことはっ!」
「コンビニで雑誌でも読んで来るか」
「」
唖然としている鈴菜を放置して上半身の服を脱いでタンスの中から暖かそうな黒い服を取り出した。
因みに下はボンタンみたいな感じのダボダボのやつだ。
どうでもいい話なんだけどさ。
前に着替えをしていたら下半身の服を脱いだ瞬間に馬鹿が家に不法侵入して来たんだよね。
馬鹿と言った瞬間に鈴菜の頭の上に下向きの矢印が付いていたのは気のせいだろう。
長財布を後ろポケットに突っ込んで、財布に付いていたチェーンをベルトに繋げた。
「ちゃんと戸締りして大人しくしてろよ」
「蜜柑………」
鈴菜は悲しそうな顔で炬燵に入り、黙々と、何と無く蜜柑の皮を剥き始めた。
可哀………そうではないな。
俺は玄関に行き、扉を開けた。
開けて見ると目の前には12月ならば見慣れた光景が広がっていた。
「クリスマスイブか……………」
昔はこんな日も一人だったんだよな。
ふっと鈴菜の顔を頭の中に浮かんで来た。
帰りにシュークリームでも買って行ってやるか。っと呟こうとした。
不意に俺の背中に何かが抱きついた。
「分かった分かった。取り敢えず離せ」
「寂しいから私もいくー!」
後ろから抱きついていたのは鈴菜だ。
白いマフラーに白いコート。
俺とは正反対の色だ。
…………全然離れようとしない。
これでは前に進めないので取り敢えず持ち上げてみた。
いわゆるおんぶと言う奴だ。
身長は俺の方が結構大きく、鈴菜の方がちっこい。
それに鈴菜は軽すぎるから俺は、筋肉使ってんのか?俺。っと思う程である。
俺が筋肉ダルマなだけかもしれねぇけどな。
「わわっ…………」
慌てている声を無視して無言でおんぶする。
何気に喜んでいるのか、少し俺の背中ではしゃいでいる。
「暴れるなよ」
「照ってデカイね」
「お前がちっこいだけな」
「そうだね…………私は小さい存在だから、大きい照がずっと守ってよ」
「………………………」
俺は鈴菜をおんぶしたまま歩き始める。
俺はコンビニではない方向へ向かった。
何故なら鈴菜が、あっちに行こうよ。と指差して言ったからだ。
雪が降る道を歩いていた。
地面を見ると除雪車が通った跡、横を見て見ると山上に積もられた少し大きな雪山。
「ねぇ、照」
街灯に照らされた、雪の降る静かな道で白い吐息を出しながら俺の名前が呼ばれた。
「何だよ」
「私はね。照が大好きだよ。すっごくっ。照は、どうなのかな」
何時もの様に明るく、俺を茶化す様に聞いて来た。
だけど、そんなに風に聞いて来ても俺には分かる。
これが真剣な事くらい。
ーーー俺は………………。
「俺はお前が嫌いだ」
俺に出来るのはこれ位だ。
別に嘘はついていない。
一度も好きだと思った事がねぇし、ドキドキするとかそんな感じもないしな。
ただ、此処でしっかりと言わないとまたこいつは俺に近づいてくる。
実際、俺には近付かないで欲しいんだよ。
俺よりいい奴なんて五万といる。
ずっと一人だった俺にいきなり近寄って来たのは同情だと思っていたしな。
丁度いいんだよ。
俺ははっきりと聞こえる様に言い、鈴菜の事は気にせずに歩いた。
「そっか」
俺の背中から重みが無くなった。
背後ではザッザッっと雪を踏んで歩いていく音がした。
五月蝿いのは消えたか。
本当に鬱陶しいんだよなあいつ。
やっとーーー。
ーーーまた一人になれたのか。
「こっち方面にコンビニあったっけな」
周りを見渡し、こんな静かなところでは無く、賑やかにワイワイとやっている交差点の方へと出て行った。
………いるのはカップルばかり。
それに混じって家族で外に来ているのがちらほらいる位か。
俺は下ズボンのポケットに手を突っ込んで道の先にあるコンビニに向かった。
ガヤガヤ……………。
……ガヤガヤ………。
…ガヤガヤ…………………。
何だ?
うるせぇな。
……………何だあの集団。
周りが皆、一点を集中して見ている。
その一点を見て見るとたちの悪そうな集団が目に見えた。
人数は大体…………30………40か?
身長は俺より少し小さい位か?
最初に見て思ったのがまず、面倒臭そう。
次に思ったのは面倒臭そう。
その次に思ったのが、俺の方に向かって来てんのか?っという事だ。
ピアスにネックレス、グローブまで決めている。
何故か俺の方を見てずっと近寄って来る。
心当たりはいくらでもある。
高校生になった今でも他の学校から"最強"と言うだけで狙ってくる奴らがいる。
多分、こいつらもその類だ。
「俺はコンビニ行って雑誌読んで親父さんの買ったチキン食って寝るんだよ」
愚痴を言っても何も起こらずに、不良集団が俺の目の前まで来た。
思っていたとおり、俺の目の前で止まった。
でもどうしてだ?
何時もなら凄い睨んでメンチ切って来るはずなんだけどよ……………。
目の前で止まるまでは予想通りなのだが、今回は少し違う。
喧嘩を売りに来た様には見えない。
俺がずっと不良集団を見ていると、その中のグループリーダーなのか、茶髪の男が口を開いた。
「藤林照さんっすか?」
「俺の事はやっぱり知ってんだな」
「マジで藤林さんだ!!!!」
突然、歓喜の声が上がった。
俺に会えて嬉しいだとかで凄い握手された。
俺殴りに来たと思っていたけど………検討違いだったらしい。
「こんな日に集団で俺をカツアゲにでもしに来たのか?」
「なわけないじゃないですか!俺達は藤林さんの強さを十分承知してます」
「……………別に強くなんてねぇよ」
「何を言ってるんですか、宮ヶ原中学最強。中学の殆どの奴らを一人で撃退。これの何処が強くないって言うんですか?」
「確かによ、腕っ節だけはいいのかもしれねぇな………でもよーーーー」
最強なんて…………嬉しくもない。
だけど、俺は最強でいないといけないんだ。
俺が負けると次は俺に勝った奴が一人になってしまうからだ。
泣いて弱さを見せれば良かったタイミングを逃した俺の責任。
自分でも気付かない程、目の前の集団が怯えるくらいの気迫が出ていたらしく、俺に話しかけて来たリーダーが息を呑んだ。
周りの連中も今までに感じた事のない強い気迫に、俺は、俺達は、何かをやらかしてしまったのか。と冷や汗をかきながら照をジッと見ていた。
「最強はずっと、一人なんだよ」
それは俺が一番理解出来る。
「俺は喧嘩なんて好きじゃない」
俺は自分を守っていただけだったんだ。
それをてめぇらみてぇな不良共に。
「普通にしていたかっただけなのによォ」
今も求めているもの、それは"普通""平凡""平和"。
それはもう手に入らないもの。
唖然として集団が聞いてる中、リーダーの男はさっきとは違い、怯えることは無く、悲しげな表情で俺を見ていた。
俺はリーダーと面と面を合わせ、目を一切離さず、俺に出来る一番の優しさで提案をした。
「喧嘩とか不良とかさ、そんなもんやめちまえよ」
「俺達は……………」
「ならさ、お前ら不良のやり方を尊重して俺がお前と怠慢張って俺が勝ったらお前ら全員殴り合いの喧嘩は一切しない事、俺が負けたらお前らはずっと今のままでいられる。それとついでに俺もお前の下についてやるよ」
「!?」
集団は俺の口から出た言葉が信じられないと思い、騒ぎ始めた。
リーダーの男も最初は驚いて目を丸くしていたが俺が真剣に言っているのだろうと理解し、頷いた。
「ちょ、和磨さん!?
「何頷いてんすか!相手はあの藤林照ですよ!?」
「んなもん分かってる。でも、この人は真剣なんだよ。此処で俺が答えないでどうすんだよ」
「で、でも………」
「藤林さん」
リーダーの男、和磨と言う男は俺の前に手を出した。
握手なのだろう。
俺はその手を取らなかった。
俺が勝てばすぐに俺とこいつらは他人だからな。
「馴れ合いはいらないだろ」
「……………そうっすね、でも、自己紹介はしときますよ。俺は………杉浦和磨です」
「………場所はこの先にある路地裏を通った先の公園でいいよな」
「はい」
俺と杉浦、そして集団は公園についた。
公園は本来、楽しむ場所の筈だが今は違う。
緊迫した空気が雪の降る冬の空気と混じり合い、誰もが近寄り難い空間を作った。
公園の真ん中には一対一に面と面を向けている俺と杉浦。
集団は外野で、静かにこれから始まる喧嘩を見届けるだけだ。
お互いに拳を握った。
「「…………………」」
「「オラァァァァァアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!」」
最初は間違いなく同時に走りだし、顔面に拳を入れようとした。
「がァッ!?」
「甘いんだよ杉浦ァッ!!!」
お互いに顔面に拳を入れる。
未来予知のみたいなもんだ。
相手が自分に合わせて顔面に拳を入れて来るなら、それは何処に拳が入るのか分かると言う事だ。
なら、単に顔面に入らない様に顔は相手の拳を避ければいいだけだ。
俺は一切、手加減はしない。
殴った事で吹っ飛んで行く相手の体を飛ばさない様に強引かつ乱暴に掴み引っ張った。
そして、無理矢理引き寄せた相手を御辞儀する様な体制にし、背中に手を回した。
俺は膝を思いっ切り入れた。
「うがぁっ!!!」
腹に膝を入れられた杉浦の意図ではない、胃の中、肺の中の空気を吐き出す感覚に口と目を大きく開いた。
だが、流石はリーダーと言うところだろうか。
杉浦はお腹を守ることはせずに、背中に伸ばされた腕を掴み、一本背負いをした。
「地形を把握してんのかお前」
「なっ……………!」
「対応はいいけどな、もっと考えろよ!!!」
杉浦の一本背負いは確かに決まった。
では何故、照は無傷なのだろうか。
答えは照が言った通り、地形が関係していた。
今は真冬、しかもクリスマスイブ。
殆どの家庭は家でクリスマスパーティーや買い物などを楽しんでいるだろう。
その為、公園に来る者は殆どいないのだ。
つまり、雪降る中の今日は子供達は雪遊びはあまりしないから雪が積もっている箇所が幾つもある。
照は雪のクッションで無傷だったのだ。
その後はーーーー。
ずっと俺が一方的に杉浦を殴り続けていた。
杉浦は血だらけになってふらふらしていて、立っているのがやっとではないだろうか。
照はと言うと、顔面に一発拳を食らって口を切っているだけであった。
………流石に俺は拳を握るのを辞めた。
最初は疑問符を浮かべていた杉浦もすぐに拳を握らない意味を知り、俺を睨んで来た。
「勝った気にでもなったつもりっすか?」
「立っているのがやっとのお前がこれ以上何するって言うんだ?」
「自分の事は自分が一番分かるんで、藤林に何が分かるんですか?」
「へぇ…………」
「早く拳握って、俺を殴り倒してくださいよ。まさか、自分からこう言う状況を提案しといて逃げるんですか」
「お前………いい加減死ぬぞ?俺だって人殺しになりたくねぇんだよ」
その場で半回転し、睨んで来ている杉浦に背中を向けて公園の外側へと歩き始めた。
集団は照を止めずに、公園内では照が雪を踏む、ギシギシという音だけが聞こえた。
杉浦は去ろうとしている照を数秒見続けた。
そして、ゆっくりと口を開き、語りかけた。
「俺の勝ちでいいんすかね」
「……………そうだな。俺が棄権するんだから、そういうことになる」
「棄権するんなら俺達が不良を続ける以外にももう一つ、追加で条件があるんすけどいいっすか?」
「あ?」
此処で杉浦はもう一つ条件があると言ってきた。
集団の奴らも何の条件を出すのかは理解できていなかった。
「藤林さんの近くにいた女、取ってもいいっすか?」
近くにいた女………それはきっと鈴菜の事だ………。
取ってもいい、それは俺には全く関係の無い話だ。
取りたきゃ勝手に取ればいい、俺はそう思った。
「勝手にしろよ」
丁度さっき振った奴なんてどうでもいい。
好きって訳じゃないんだからな。
「凄い女っすよね。振られたにも関わらず泣きもしないだなんて」
「は?」
「鈴菜さんは本当に凄いっすよ」
「鈴菜を知ってるのか?」
「当たり前じゃないですか………俺は宮ヶ原中学出身ですから。藤林さんと鈴菜さんの事は知ってますよ」
「………俺を苗字、鈴菜を下の名前で呼ぶって事は面識があるのか?」
「勿論ですよ。元々俺も一人だったんですから」
"一人"俺はその言葉に凄く敏感に反応した。
だが、それと鈴菜と何の関係があるんだ?
「何が言いてぇんだよ」
「一人でも、それでも仲間は作れるんですよ」
「……………」
「藤林さんが卒業した後、俺は中学二年生でした。俺は藤林さんに憧れていました。藤林さんに向かって行く先輩方そして俺と同年代の奴ら全員を全て一人で薙ぎ倒し、更には他の中学の奴らをも潰して行く藤林さんに」
…………憧れる?
俺は憧れになる存在なんかじゃない。
結局は糞共と同じ暴力で事を解決していた。
解決したつもりになっていただけだ………。
「一時は全員、丸くなりましたが………藤林さんが卒業した後、宮ヶ原はまた荒れました」
「…………そうか」
「俺は悔しかった。藤林さんの今までの頑張りを全て無駄にされて、キレそうでした」
「悔しがる必要なんてねぇだろうが」
「今の藤林さんは分からないでしょうね」
「……………」
「俺は………藤林さんがいなくなった後、俺が荒れている原因を丸めようとしました。そして、俺は宮ヶ原最強になれました。ですがーーー」
「俺は一人になってしまいました」
「一人?んじゃよ、お前を見守ってくれてたあいつらは何だ?下僕っていうのか?」
「あいつらは俺の仲間ですよ。俺は当時、最強になれた後はずっと一人でした………悲しいですよね。喧嘩が強いだけで誰も近付かなくなるなんて…………でも、そんな事は些細な事だったんですよ」
「些細な事…………?」
「はい、俺はそれを鈴菜さんに教えて貰いました」
杉浦は口から垂れていた血を拭いて言った。
一人なんて些細な事だって。
それを教えてくれたのは鈴菜だと。
鈴菜はわがままで面倒で、うるせぇけど…………優しい奴だった。
きっと、何処かで杉浦と出会い、一人だったこいつを救ったのだろう。
同情だ…………そんな風に思ってたけど本当は気付いてた。
あれはあいつなりの素の優しさなんだと。
杉浦はそれを受け取り、俺はそれを受け取りはしなかった。
俺にはどうすればいいのか分からなかった。
「藤林さん…………本当に鈴菜さんを取ってもいいんですか?」
「……………俺は……」
「貴方は一人じゃ無いんですから、ずっと一人だと思い込んでいただけなんですよ」
俺は…………ずっと一人だと思っていた。
でも……………気付いたら"二人"になっていた。
…………
…………………
………………………
…………なんだよ。
ずっと二人一緒だったのかよ。
「藤林さん…………鈴菜さんを宜しくお願いします」
「……………分かった」
照は鈴菜の元へと向かって行った。
杉浦と集団の仲間達はずっと、走り去って行く照の背中を見て微笑んでいた。
ーー杉浦達は闇に消えて行った。
あぁ………なんて不幸なのだろうか……………。
時間が戻ればいいのに…………。
やっと一人じゃないって気付いたのによ………………。
何でこんな事になるんだよ………………。
なぁ………………鈴菜………………。
「鈴菜ぁぁぁぁぁあぁぁあああああああああああああああ!!!!!」
俺は杉浦と別れた後、鈴菜の家へと向かった。
家にいるだろうと思い、嫌いだなんて事を撤回しに。
俺が…………俺があんな事を言わなかったらこんな事にはならなかったんだ。
嫌いだなんて言わなかったら………鈴菜は"事故"にあうことなんてなかった筈なんだ。
「鈴菜……………鈴菜………………聞こえてんだろッ!?目ぇ開けやがれ!!!」
鈴菜の家の近くには交差点があった。
家に帰ろうとしていたんだろう。
鈴菜は自動車に轢かれてしまったのだ。
既に警察は駆けつけ、救急車の音が凄く五月蝿い。
警察が事情聴取をした所、車に乗っていた男は飲酒をし、居眠り運転をしてしまったと言い、目を覚ますと目の前に人がいたと言っていた。
救急隊員の人達が鈴菜を連れて行こうとしても俺は離せなかった。
鈴菜の声を聞くまでは絶対に。
「鈴菜…………俺…………お前の事………嫌いじゃねぇんだよ………………嫌いって言ったから……そうやって起きない振りしてるんだろ………おいっ!!!」
鈴菜を揺さぶっても全く返事は無かった。
気付いたら俺の目からは涙が溢れていた。
救急隊員はそんな事は気にせずに自分達の仕事を全うしようと鈴菜に手を掛けた。
「触んじゃねぇぇぇえええええッッッッ!!!!!」
俺は叫びながら救急隊員の手を振り払った。
俺の叫びに怯んだのか、救急隊員は少しの間、動けないでいた。
鈴菜はもう……………助からないのか………………?
なぁ………………鈴菜ぁ…………………
「………な……………か………な………………い…………………で…………………………」
「ッ!」
今……確かに鈴菜が………………。
「…………て………るは………なか………な……い…と……………おもって……………た…………………」
鈴菜の方に目をやると虫の息だが鈴菜が口を開いていた。
目を開いていたが瞳は虚ろになっていた。
「…………わた………し………が………て………るの………ため………に……なこうと………おもっ………てたのに…………………な…………」
「もういいからよォ……………もう喋んなくていいから……………死んじまうぞ!!」
「…………てる………?」
「………………?」
「…………………だ………い……すき…………………………」
次に鈴菜に会ったのは"佐藤鈴菜"と刻まれた雪の降る夜の墓石の前だ。
俺は大声で泣いた。
吠える様に。
狼の如く。
長い時間泣き続けた。
俺はこの時間を大切にした。
鈴菜がくれた、俺が失っていた、弱さを見せるタイミングだったから。