ソードアート・オンラインーEverlasting oathー 旧バージョン、1、2話欠損 作:ゆぅ駄狼
ボクは独りぼっち。
あくまでこの家の中では。
親しい人は皆いなくなっちゃった。
ボクもいなくなる筈だった人間の一人だった。
"
これのせいでHIVに感染。
悔しくて、悲しくて、許したくなくても感謝しなくてはいけない。
だってーーーこれのおかげで今、ボクはここに存在しているのだから。
「おはよー、姉ちゃん。今日は朝ご飯食べたらすぐ出かけるね」
仏壇の目の前で手を合わせ、あたかもそこにいるかのように話し掛ける。
勿論、返事などは返って来るわけがない。
少し時間が経ち、時計をちらちらと何度も確認していると、ある時間になると"いつも通り"に"いつもの音がする"。
呼び鈴の音だ。
「おーい、木綿季ー!」
紅い髮に紅い瞳、顔立ちはまぁまぁイケメン。
けどーーー。
「ぎぇえええああああぁぁああがぁあぁあああっっっ!?」
凄い勢いでボクの家のリビングにヘッドスライディングをしながら入室してきた。
「はぁ………またかぁ。どうしていつも妙な段差に足をぶつけるのかなぁ…………原因は人の家で全力疾走をする事にあるんだけどね」
見ての通り、何処か抜けている所がある。
ボクは食パンを食べ終わると椅子から立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。
そこで、"いつもの物"を取り出す。
左足の小指を抑えながら悶えている純に近付き、手に持ったものを純の頬に触れさせる。
「うぁ、冷てっ」
「ほら、これ食べなよ、ボクは準備するからさ」
純は頬に触れさせている物を手に取ると目を輝かした。
☆★☆チョコモナカ◯ャンボ☆★☆
ボクの家には大量のアイスがある、ボクが食べる用ではないけども。でも、少しは食べる時もある。
二、三年前位からだろうか、ずっと純用のアイスがたんまりと冷蔵庫に入っている。
「はいよ!」
モナカアイスの袋を開け、口に咥えると敬礼をビシッと決めた。
ボクは少し頬が緩み、クスッと笑い、自分の部屋に戻った。
「あ、あちぃ…………」
「少し暑いかもね…………」
ボクと純はショッピングモールに向かっている。
何ていうか…………昨日の謝罪を込めてのお出かけだ。
「俺をデートに誘うだなんて、木綿季も大胆だな」
前言撤回、ボクの目標は家に帰ることだと本能が判断した。
「ごめ、いやいや、ごめんて!」
「はぁ…………そもそも、家に勝手に上がり込んで来てる時点でボク達の関係は異常だと思うんだけど?」
「異常……異常ーーーーお前は俺の半身か!?」
「何でそうなるの……………」
「んー…………あっ、ワトソン君?」
「凄いよ純!ワトソン君が分かるの!?」
「酷くねぇかっ!?」
「もうどうだっていいよ………着いたらどうしよっか」
話に一旦区切りを付け、ショッピングモールに向かったらどうするかを話し合うことにした。
「そだ、その前に寄りたい所があるんだ」
「何処?」
「簡単に言えば刀屋敷?」
「純は剣道部なんだから竹刀でしょ?」
剣道部所属、副部長を務めている純。
県大会ーー優勝
全日本学生剣道大会ーー優勝
世界剣道選手権大会ーーベスト16位
剣道に関しては達人レベルだ。
「本当、頑張るよね」
「ったりめぇよ!でもなぁ…………」
「どうしたの、不満そうだね」
「いやー、昔の事なんだけど、俺より強い人を知ってるんだよね」
「へえ…………純が負けちゃう人かぁ…………和人?」
「違うよ、和人先輩と俺は五分か、もしくは俺の方が少し強い」
「和人ってそんなに強かったんだ」
「小学生の頃は最強って言われてたしなぁ、成績は俺の方が上なんだけどね、ここ重要」
「はいはい、ボクは剣道なんかに興味なんてないよ」
「前に竹刀持った時、『うぅ………重いよぉ………』って言ってたもんな」
「また言ったら社会的に消してやるからなっ!」
「わ、悪かったよ…………取り敢えず、竹刀は竹刀、刀は刀。別々に興味があるって事で、日本刀の展示会を見に行きたいんだよ」
「純の将来の為に言っておくけど、女の子を刀の展示会に連れて行ったら失望されるかもしれないからね」
「知らないであろうお前の為に言っておくけど、日本刀は竹刀より全然重いからな」
純はニヤついた顔でボクの方を見てくる。
「絶対に消してみせる、社会的にっ!」
ボクはガッツポーズを取って一人で前に進んで行く。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
現状、多分ボクだけが歩いて10分くらいだろうか、日本刀展示会を通り過ぎ、可愛い服などが売っている洋服屋さんに辿り着いた。
ショッピングモールということもあり、かなりの人がいる。
割と最近にオープンしたショッピングモールでは色々な所に人集りが出来ている。
一人でいるとーー迷子になりそうだ。
というかーーー。
「ここ何処らへんかな」
もう迷子です。現在進行形です。
こういう時、女の子っていうのは不便だと思うよ。
身長低いからね!
「純を探さないと」
「いや、いるんだけど」
「純!何やってるの、迷子になってると思って探しに行こうと思ってたんだよ?」
「迷子はお前だろ」
「いたっ」
流石は剣道部エース、年代のせいで部長ではないとは言え、デコピンの威力も半端ではない。
純なりに優しくしてくれたのだろうけど、ボクからしてみればとても痛い。
女の子は羽根の様にーーー柔らかいだっけ?
「うぅ…………痛い…………」
「あ、マジで赤くなってる」
「痛いんだけど?」
「悪い悪い、今度から優しくするよー、ん」
「割と本気だったんだね…………何、この手」
ボクの目の前には手を差し出したまま動かない純。
行動の意味は大体分かっているけれども、あえて手を取らない。
「こんなに人がいると迷子になるだろ?」
「ボクは簡単には落ちないよ?」
「何の話だよ…………小さいから心配なだけだ、落とそうなんて思ってねぇよ」
内心、『意味分かってるじゃん』と思っていると純の方から手を握って来た。
そして、再び歩き出す。
…………………。
何とも思わないよ。
段々とボクは一言も喋らなくなった。
純がボクの手を握って来ても。
暖かいだけで、純の優しさが伝わってこない。
単にボクが、その優しさを拒絶しているだけなのかもしれない。
夢のせいで。
嫌なんだ。
優しさを、この手を受け入れてしまえば優也が消えてしまう。
そんな気がする。
こんなの、まるで優也の代わりみたいだよ。
ーーーごめんーーー
「え?」
ボクは手を振りほどいてショッピングモールの中を駆け、その場から離れていった。
謝罪を込めてのお出かけだったのに、また悪いことをしてしまった。
その事だけが頭の中を過っていく。
気がつけば、ボクは公園にいた。
「またかぁ…………夢に振り回されて……おーい、ボク。ボクはもう中学生なんだぞー……………」
「珍し………くもないか木綿季」
「誰?」
振り返ってみると全身真っ黒、だが動きやすそうな服を着た人間が立っている。
桐ヶ谷和人。
「和人…………?」
「一応先輩……………ま、いっか」
「どうしてここに?」
「昔、よく遊んだんだ」
「この公園で?」
遊具はボロボロ。
ベンチもかろうじて座れるが座りたくないレベル。
公園自体がもう整備されていない。
昔だったらまだ綺麗だったのだろう。
「今はもうボロボロだよ、見ての通り。昔は人がいっぱいいたんだ」
「……………それはどうでもいいけど、何で一人で公園に?」
「いつか、一緒に遊んだ人が来るって、ずっと信じてたから…………かな」
何故だろう、和人は何処か遠く、最も近い物を見ている。
そんな気がしてならない。
「昔一緒に遊んだ、そうだろ?」
「え?」
"また"前の様に、ボクに向かって言ってくる。
「あの……さ、前もなんだけど。ボクは和人のことあまり知らないし、和人と遊んだ事はないよ?」
「確かにな…………」
「ーーーッさっきからなんなの!」
「
ボクは目を大きく開いた。
驚きを隠せない。
何がどうなったらこんな告白に繋がるのだろうか。
「ふざけっーーーーー」
和人の目は本気だ。
何処に目を逸らせばいいのか分からなくなり、ボクは挙動不審になる。
嘘が全く感じられない。
和人の目は真っ直ぐ、ボクの方を見ている。
「
「
「
何を言ってるんだろ。
もう分かんないよ。
和人の言ってる事が。
「けど、これだけは言えるよ」
『俺はお前が好きだ』
「俺の怪我は一生治る事もない」
『生きて帰る事もない」
「お前の笑顔を見る事も」
『二人でアイスを食べる事もない』
「ごめんな」
『いつか、こうなるって、死ぬ事があるって思っちまったら』
『好きって伝えたら、そのあとが怖いんだ。だけど今なら言える』
『木綿季、大好きだよ』
涙が止まらない、言葉の意味が、誰がこれを言っているのかーーーボクには分かる。
震えた足ではその場に立つ事さえ困難で。
泣き出したくても声が出なくて。
「木綿季が見た三つの花、あれは俺が添えていたんだ。優也は、事故にあった時………まだ生きていた。俺は事故現場の近くにいたんだ。車と車の接触事故、初めてその瞬間を見た俺は興味が湧き、誰よりもいち早く確認しようとした。中にいたのは知らない人と…………優也と両親だ、前の席に座っていた両親は即死、後部座席に座っていた優也は病院に運ばれてーーー死んだ」
「う……………うぇ…………えぇ……………」
「昔、俺が一人で家に篭ってパソコンを作ってた時なんだけどさ、久々にカーテンを開けて外を見てみると優也がずっとこっちを見ていてさ。こう言ったんだ『あ、やっと出てきた。いっつもカーテンしてるけど一人なのか?』ってな、イラッとして俺はカーテンをまた閉めたんだ。そしたらカーテンと一緒に閉めた窓から音がするんだ。最初はビックリしたよ、優也がいたんだ、屋根を登ってきたんだよ」
「それ以来、俺と優也は遊ぶようになった。それが俺たちの出逢い」
「話を戻そうか………優也は病院に搬送される途中、俺に言ったんだ」
『頼むよ…………頼む…………カズ…………ゆーぎを…………守っ……てくれよ………俺、おれじゃ無理だから…………クソ………クソぉ……………』
「優也は泣きながら…………死んでいったよ」
「優也ぁ……………うぁあ……………優也……優也…………ゆぅやぁ………………」
泣き崩れるボクに、和人はひたすら一つの言葉だけを言い続ける。
ごめん、と。
和人は悪く無いのに、この悲しみを誰かにぶつけないと収まる事も出来ない。
何回目だろう。
ボクはあと何回泣けばいいんだろう。
何回悲しめばいいんだろう。
痛い。
痛いよ。
背中の傷がズキズキと痛む。
ボクを見て可哀想な子供を見るような目をしないでよ。
惨めだよ。
ボクの心は剣でもない。
すぐに折れてしまうただの屑鉄。
「ありがと………和人………………」
ボクは力の入らない足を頑張って立たせ、来た道を戻っていく。
『ゆーーや♪』
『ん、どーしたー?』
『だーいすきっ!』
『……………はいはい』
これだけは言えるよ
俺はお前が好きだ
嘘じゃねぇよ
本当の事さ
そんなに泣くなよ
お前の心は屑鉄なんかじゃねぇ
お前の心はとても強い、英雄が持てるような剣だ
しょぼくれんなよ
きっと、和人はお前を守ってくれる
昔に交わした"約束"の通り
『俺には大切な奴がいるんだ』
『へー、誰?』
『彼処にいる女の子だよ、名前はゆーき』
『ゆーき…………』
『俺に何かあったら守ってやってくれ』
『え、俺!?』
「俺とお前の仲だろ?またアイス持って来てやるからよ』
『まじか!しょうがないなぁ…………』
『頼んだ、和人』
でも、まだだ
まだ、終われない
木綿季に言わなきゃいけない事がある
俺の口から直接、言わなきゃいけないことがあるんだ
神様
あと少し、少しだけ時間をください
この世界から消えるわけにはいかないんです
大好きな女の子の為に