一方通行は楽観的すぎる 作:au revoir
削除、削除、削除削除削除削除削除削除削除削除ッ!
脳内に浮かび上がる無数の数字。
いらないモノ、ウィルス達を削除しまくる。
無数の数列の中から、赤く映し出されたウイルス。それを削除していき、徐々になくなっていく。
うん、上手くいっている。笑えるほどに。
「なンだよ、いけンじゃねェか」
ホント、オレの能力の万能性には呆れ果てる。天才って罪ー。取り柄能力だけだけど。
邪魔しているオレを邪魔するように新たなウイルスも現れるが、その倍の速度で処理していく。これぐらいのスピードならあと一分ぐらいで終わりそうだ。
ミサミサ言っていた
冗談はさて置き、そろそろ終わりそうだ。時間にして約二十秒。やっとか、結構ギリギリだったな。今の時間は……。
---カチャリ。
突然、小さいそんな音が聞こえた。
常人より少し良い耳はその音が何処から来たのかをすぐに判断し、オレは横を向いた。そして見えてきたのは拳銃を構えた天井亜雄。
………………………ゑ?
いやいやいやいやいや!!なんで起きてんの!?天井クン!?!?
その拳銃はなんですかね!?勿論脅しですよね?ねっ???
そうは思っても狂った笑みを浮かべる天井を見てオレは確信する。脅しじゃないですよね、知ってた。
オレが天井の方を見た事で少し驚いた天井だったが、恐怖に打ち勝つように震えた手で此方に銃口を向けてくる。どうやらセーフティは解除しているようなので、あとは引き金を引くだけで銃弾がオレの眉間に吸い込まれていくだろう。打ち止めに集中しているからこそ、反射膜の演算ができないオレは丸裸なのと一緒だ。死ぬのは確実。しかし、それは勘弁願いたい。この歳で死ぬなんて嫌だぞ?前世だってこれより長生きしたんだから。
なら、打ち止めに添えている手を離して倒せば良いと?
そんな事はもうとっくに思いついている。しかしながら、それはできん話だ。今、打ち止めから手を離せば終わりそうになっていたウイルス除去作業が最初っからになるし、もう一度繰り返している時間はもうない。それはそれで御免被る。
ガキ一人、見捨ててもいんじゃないかと思う。だが、このガキはオレを頼ってくれた。それだけで十分じゃないか。一度ぐらい、見返りを求めないヒーローになってみたいもんだ。
悪役のオレが言うのもなんだけどな。
作業終了まであと二秒を切った時、天井が狂気染みた顔で、死ねぇええ!と叫んできた。
あと、0.13秒。
ふと、視界が
撃たれたという事実がオレの中を占めるが、それよりも除去作業が終了した事による優越感が勝っていた。
このまま倒れていても良い。出血は進むが、それでも打ち止めは救われたのだから。
オレはもう用済みだ。しかし、しかしだ。
「くそっ!もうこうなったら!」
聞こえてきた後悔の声。カチャリという先程も聞いた音。おそらく拳銃を誰かに向けているのだろう。
この場にいるのは三人。天井とオレと打ち止め。オレはもう撃たれた。なら次は誰が撃たれる?
そう、打ち止めだ。
こんな事をしている場合ではない。
意識が朦朧としながらもオレは立ち上がった。
「クソッタレが……」
オレがここまでする事なんて今までなかったんだぞ?打ち止めさんはこのアクセラさんに感謝すべきだと思うんですよ。
一歩、一歩と前へ足を突き出し歩く。
天井が引き金を引いたのと同時に、オレは演算ができ能力が使えるようになったので銃弾の軌道上へ手を突き出した。キィインという耳の良い音が聞こえ、銃弾が反射し天井の持つ拳銃の銃口へと見事帰っていった。あ、手撃たれたな。
「まだ生きてッ!?」
血が垂れる手を押さえた天井が驚愕した表情で此方を見る。その顔を内心で嘲笑う。
あぁ生きてるよ。生きてますとも。
額からの出血やべぇけどな。今もダラダラと赤い液体が流れてますとも。右手で押さえていても溢れ出すのだから、相当だ。
これで生きてるって、オレ化け物かよ。……元からか。
打ち止めがスヤスヤと寝息を立てて眠っている姿を見て安堵のため息を吐き、そして天井を睨む。ひぃっ!と悲鳴をあげてドアから出て行き逃げようとする天井の前を、回り込んで塞いだ。
「行かせ、る、かよッ……!」
少なくともお前には地獄への片道切符をプレゼントするぜ?クソ野郎が。
顔を醜く歪ませながらも此方へ銃口を向けてくる度胸は認めるが、それってまだ使い物になるんだな。あの時手が震えていたから、寸分違わず反射した銃弾が銃口に入らなかったのか。なるほど。
となどと一人で感心して、ふざけているが、ぶっちゃけもう限界である。
どこの世界に頭撃たれてこれだけ動ける奴がいただろうか。
……この世界なら結構いそうだけどな。
また意識が朦朧としてきた。
せめて、せめてあと一発。この百流クソッタレ研究者を殴らせてくれないだろうか。
右手で拳を作って、思いっきり振ろうとするが思ったより力が入らず、ポテッと気の抜けるような音がした。
あぁ……くそ、もう限界だ。
オレの視界は暗転した。
これ、前にもあったなぁー…………------。
ポテッと気の抜けた音がし、腹に何か柔らかいものが当たった感触がした後、目の前の白髪の少年が倒れた事を確認した研究者、天井亜雄はハハッと乾いた笑みを零した。
「ハハハッ……」
少し後ろに下がり、白髪の少年……一方通行の頭を足で突いた。動く気配はない。
天井の中に何かが湧き上がってくる。それは勝利への歓喜。超能力者を殺したという事実からの優越感。狂気にも似た笑みが溢れてくる。
誰かがこの状況を見れば呆れ、こう言うだろう。つくづく天井という者は憐れな男だと。
そんな男だからこそ、自分自身の結末がわかっていない。
さて、話が変わるが……。
学園都市第一位の元研究対象であった一方通行が何故ここまでに、この打ち止めという少女を何としてでも救おうとしたか。元の彼であれば、どうでも良いことだと切り捨てていた事なのに……何故だと思う?
答えは彼自身が変わったからだ。
では、誰が彼を変えた?それは勿論、この世界の主人公だ。
その主人公はありとあらゆる幻想を打ち破る力を持っている。そう破壊する力だ。その力がその彼に宿ったのは偶然かもしれないし、必然かもしれない。しかし彼が、一方通行を変えたという事実は、史実でもこの物語でも変わらない。変わってはいない。
例え、一方通行の中身が違っていても。
例え、実験の理由が違ったとしても。
例え、彼と彼が友人同士だったとしても。
例え、歪んだ物語だとしても、それは史実通りに進んだ。
故に、史実を知っている者からすれば、この物語はつまらないかも知れない。しかし、これは一方通行自身が歩んだ道筋であり、人生なのだ。例え誰がなんと言おうと、これがこの物語であり、事実であることには変わりはない。
天井という男は史実通りにつまらない男だった。だからこそ気づかない、天井の負けだということに。
ここまで彼が執念深く打ち止めを救おうとしてくれたからこそ、文字通りの時間稼ぎが出来ていた。この場所に、ひとりぼっちである彼の今回だけの唯一の救い……協力者が来るまでの。
---カツリ。
ヒールが地面を打ち付ける音がした。
ほら、もう来た。ナイスタイミング。
君の負けだ、天井クン。
「そこまでよ、天井亜雄」
「ッ!?」
手を挙げて、という声に素直に従う天井。
しかしそこで観念する男ではない。それだけ天井は愚かで憐れなのだ。
ゆっくりと振り返った天井が見たのは、同じ白衣を着たやや疲れたような顔をした女性、芳川桔梗。元同じ職場の人間であった。
芳川は一方通行を一瞥するとすぐさま、天井へと視線を戻した。そしてため息を吐く。
「どうやら、彼を侮っていたようね……」
「どうしてお前がいるんだっ、芳川っ!」
天井の言葉に芳川はきょとんと一瞬意味がわからない顔をしてから、呆れたような表情を作った。片手を白衣のポケットへと入れる。
「どうしてって……私が彼、一方通行に頼んだのよ。打ち止めをどうにかしてってね」
「……そうか、お前が」
「ま、その結果がコレ。無様なものね……」
少し肩を竦めた芳川は、拳銃のセーフティをゆっくりと外して、そして彼を助ける為の言葉を紡ぐ。
無様と言いながら何故助けようとするのか……それは一方通行がこんな状態だが生きているから。どれだけ化け物なんだ、と思うかも知れないが、思い出しても欲しい、この世界の主人公が鉄柱に打ち付けられアスファルトへ落下しても死ななかったという事を……アレと比べたらまだマシではないだろうか?…………いや、そうでもないか。
「彼から足を退けて、此方に来なさい」
「誰が!お前の話を「早く来なさい、撃つわよ」…………」
一、二歩と足を進める。依然、芳川は拳銃を突きつけたまま。そのまま、天井が立ち止まり芳川が天井を撃つ……かと思われた。
天井が止まった瞬間、彼は挙げていた手を下ろし怪我をしていない方の手に拳銃を持ち、芳川の腹へと突きつけた。
「ひひっ、油断したな」
「……貴方、誰かにこう言われたことない?しつこいって」
二人が同時に引き金を引けば、ほぼ同時に倒れるであろう距離。一秒以下の速度でタイミングがずれたとしても、共倒れ確実だろう。先に引き金を引いた方が勝ち。早撃ちの決闘のプロでもこう言うだろう、こりゃないぜと。
しかし、そうでもないのが現実。
芳川の怠そうな目線を受けながら天井は、ニヤリと笑いながら拳銃をグリグリと押し付けた。天井はわかっていた。この女が撃つことはないと。天井でもわかる優しい思考の持ち主だからと。
だから脅せばいい。この倒れている少年を使って。
天井はまず、拳銃を捨てろと言った。芳川はそれに素直に頷き、近くのフェンスへと投げつける。ガシャンと揺れる音がした。
「……これでいいでしょ?」
「あ、あぁ……」
潔い姿勢に天井が驚いていると、芳川は手を挙げた。なるほど、言わなくてもしてくれたらしい。
俺の勝ちだな。天井はそう思う。
天井の脳内ではもう既にこれからの人生設計が成されていた。そのためにはまず、ここから立ち去ろう。天井は手も足も出せない芳川を笑いながら、この場を去ろうとする。
「俺は行くぞ」
「ええ、どうぞ」
またもやアッサリとした返答に天井は不安を覚えるが、相手が止めないというならばその言葉に甘えておこう。
やはり芳川は優しい。
為人は良いのだろう。しかし今回それは仇となった。その事を天井は笑う。
「お前は優しすぎるぞ、芳川」
最後に勝者として忠告してやろうではないか、と調子に乗った天井がそう呟いた。
その言葉を聞いた芳川は挙げている手をそのままに暫く思案した後口を開く。ゆるりと首を横に振りながら。
「優しい?違うわ、甘いのよ」
「甘い?」
「えぇ。私は研究者になる前、教師を目指していたのよ」
「は?」
脈絡のない話に天井は瞬きをする。
「生徒達に慕われるそんな教師を……そんな先生に必須なのは優しさ。けど私にはそれはないもの」
「…………」
平気で銃を人へ突きつける。それは本当に優しい人ならば出来ないことだ。
しかし甘いだけの奴ならばできる。突きつけ、撃つことも。何故か?それは自分に甘いからだ。
「誰だって死にたくはない。そう思って人を傷つける行為は、自分を甘やかしているからこそできること。本当に優しいのなら、自身を顧みずに他人を助けるもの」
そう、例えば。
芳川は少し気怠げに感じる表情から、ゆるりと口角を上げた。笑った。彼女は嗤ったのだ、天井を見ながら。
「一方通行に殺られそうになっている貴方……とかね?」
「なっ!?」
天井は突然足首に違和感を覚える。それは誰かに掴まれているような、そんな感触。
目をやると天井の恐れていたことが起こっていた。一方通行がガッシリと天井の足を掴んでいたのだ。
このっ、こいつっ!と足を振っても取れはせず、もう片方の足で頭を踏みつけても外れはしなかった。
「くっそ、いてェンだ……やめて、くれませンかねェ……天井、クン」
「このっ化け物めッ!!」
頭を勢いよく踏みつけられ、アスファルトに顔面を打ち付けられても、意識を保っている一方通行に天井はそう叫ぶしかなかった。
クカカッ、と足下から笑い声が聞こえた。静かな笑い声に背筋がゾッとする。天井は小さく悲鳴を上げた。
「オレも、テメェと同じぐらい、クズでねェ?自分の事が可愛いンだよ」
あァ、これは芳川にも言えることか。
小さくそう呟いた一方通行は地面に伏せていた顔を上げて天井の方を見た。天井は必然的にその顔を見ることになり、目が合った瞬間ひっ!と声が漏れる。
「つゥことでェ?」
血で黒く染まった眼が天井を捉える。
その眼はまるで本当の化け物のようで、黒い白眼と紅い瞳孔が天井を逃しはしないと語っていた。
天井は恐怖に襲われていた。そして同時に後悔にも。
学園都市第一位に無能力の、それもしがない研究者が勝てるはずがなかった。たまたま偶然が折り重なり、あそこまで追い込めただけであり奇跡が起こっただけだ。
また奇跡は起こりはしないだろうか?
非科学的なことをこの学園都市で考える天井だが、それはないだろう。神は何度も人に奇跡を与えはしない。つまりは、天井の負けだ。
そもそもの話、こんなクズに神が味方するとも思えないのだが。
あぁ、世界とはなんて無慈悲なんだろうか。
呆然とする天井に、死神の声が聞こえた。もう、首元まで大鎌が迫っていた。
「一回死ンでこい、天井クン……?」
電気ショックのようなものが身体に走り、天井は気絶した。
一人称ばかり書いていたからか三人称がめちゃくちゃ楽しくて長引いてしまった。
芳川さん怪我なしルート。ってもアクセラさんは重症だけど。
さて次回で打ち止め編終了。次は『0930』事件編だけど、アニメはここまでなんだよなぁ。
外伝のコミック買って長引かせるか、原作買ってその先のロシア編やるか、それともこの事件編で終わらすか……迷うぜ!