一方通行は楽観的すぎる 作:au revoir
起きたら知らない天井でした。(二回目)
いや知ってるけど、知ってるけどな。この前も見た気がするよ、この天井。詳しく言えば約一、二週間前に。
ゆるりと胴体を上げる。まずは状況確認だ。例え知らない場所で目が覚めてもパニックにならず、分析、対応して行くのが大人ってもんさ。(ドヤァ
まぁ、うざくして気を紛らわすってのはオレの独自論だけど。
やけに整えられたシーツに手をつき、起き上がる。家にあるベットよりふかふかなコレは結構感触が楽しかった。頬摺りしたいほどだ。
辺りを見渡すと個室なようで、中央にポツンとベットが置いてありその周りに電子機器、そしてオレから見て左方向に一面の窓ガラスがあった。結構良いところではないだろうか。
ここまで言えばわかるだろうけど、ここは病院だ。しかも前にも来たことがある、あのカエル顔の医者の病院。
ふと、額に手を付けてみる。そこには包帯があり、違和感が無いほど妙にフィットしていた。この包帯巻いた人天才かな?
それにしても妙だなー。
「……オレは確か」
額を撃たれたはずだ。
あのドロドロと流れ落ちる血の感触は今でも思い出せるし、生体電気を操って軽い電気ショックを浴びさせた天井の笑える顔も思い出せる。
あの時自分でもわかっていたはずだ。額を撃たれたという事はそれだけ重傷だということ。下手すれば死んでいた。
撃たれた後、
やはりというか、それだけカエル顔の医者が優れているということか。
「あ!ってミサカはミサカ起きた一方通行を見て声を上げてみる。先生、一方通行起きたよ!ってミサカはミサカは両生類の顔をした人を呼んでみたり!」
ガラリとスライド式の扉を開けて入ってきたのは打ち止めだった。
その服装は最初に見た裸に毛布、ではなく水玉模様のワンピース。そしてその上から白衣を着ていた。ちゃんとした服装で安心したが、それ誰に貰ったんだよ。
というか今さらりとあの医者に対して罵倒してなかった?
「おや?もう起きたのかい?」
廊下の方から観察してくる打ち止めの上から、にゅっと現れたカエル顔の医者。うわぉ!?と打ち止めが驚くのを苦笑して見届けた医者は、此方へと歩んできた。
「どうだね?調子は」
「は?……普通だが」
「それはよかった」
ニコリと微笑むと、来客用の椅子を引っ張り出しその医者は座った。
その隣にちょこちょことアホ毛を揺らしながら来た打ち止めを一瞥した医者は真剣な表情で此方を見据えてきた。自然と顔が強張る。
「今の君の状態だけどね?」
どうやらオレの説明をしてくれるらしい。
なんだろうか?今、オレが生きている事で手術は成功しているんだろうけど。終わった事だ、そんな真剣にいう事でもな---
「本当はこうして話せられない状態なんだよ」
……………………………は?
いやいやいや、どういう事なんですか!?
話せてますよね?ちゃんと話せてるよな!?
あいうえお!!!あかさたな!!!!ほら!?ほら!?!?
「落ち着きなさい」
アッハイ。
目に見えるほどに困惑していたらしい。オレのポーカーフェイスはどうしたんだ!一体!
って落ち着けよ!オレ!!これじゃ無限ループでしょうよ。
「君は頭を撃たれた状態で運ばれてきた。重傷だね?けれど脳に到達する前に反射したおかげか命には関わらなかったよ」
呆れたようなため息を吐く医者。うん、やめてオレのライフが今急激に削れていってるから。おもわず胸を押さえたよ。
何を馬鹿な事してるんだい?という風な目線にもダメージを負いながら、オレは医者の話を聞いた。
「けど幾ら脳に到達する前と言っても、脳が無傷だったわけじゃない」
「……それが話せないのと関係あるって言うンだな?」
「そうだね」
うん、普通に話せてるけども??
この医者め、嘘の事話して金をせびろうとかじゃねぇだろうな?……ないだろうけどさ。
それはそうとして、言語が話せない。脳の傷とくればもうわかるだろう。十中八九、あの天井の野郎が放った銃弾のせいだろうよ。クソが。
にしてもこのカエル顔の医者。よくあるドラマで医者が目を伏せたりしたり、頑張ろう!とか激動したりするわけでもない。ただ冷静に事実を述べて、それでいて自分も真剣だし、最善を尽くすために嘆く時間もないという事をアピールしてる。こういう医者がいい医者なんだろうな。
「ほんの、ほんの僅かなんだけどね?脳ってのはデリケートでちょっとした傷でも支障をきたす」
カエル顔の医者は依然として真剣な表情で話を続ける。
「君が損傷したのは前頭葉前部。特に左側が酷いね。右も少し傷があるけどそれほどじゃない」
あれ?さっきと矛盾してません?先程はデリケートだって。いやいいんですよ、何もなければ、うん。
しかし、前頭葉かぁ。確か脳の前部分だよな?何を司っていたか、忘れたが。
「それで症状だけど、自制心がなくなると言っていいかな?よくわからない事を言い出したり、情緒不安定。言葉も流暢には話せない。つまりは、赤ん坊同然と言っていいかもね?」
ふぁっく。
それが本当なら、オレは障害者になったと言っていいだろう。前世、小学校に通っていた時もそんな奴がいた気がする。常に明るくていい奴だが、ちゃんと聞き取らないと何言ってるかわからないし、急に怒り出す奴。クラスで孤立してたな、そういや。
そうか、何か実感湧かねぇけど。
いや、だってな?普通に喋ってるんだぜ?オレ。普通に考えているし、冷静だ。情緒不安定とも言えない。自制心もちゃんとあ、ると思う……完全に否定出来ないのがなんか悔しいが。
オレってちゃんと自制心あったよな?いやでもいつも買い食いとかしちゃってるし、期間限定とか言われると買いたくなるのが人間のサガだよな??なっ??
そう悶々と考えていると打ち止めがクスクスと笑いだした。そういや此奴最初のとき以外一回も喋ってねぇな?というか何で笑ってるんですかね?
「昨日の一方通行は面白かったよ!ってミサカはミサカは脈絡のない話を切り出してみたり!」
ニヤァーと悪そうな顔をした打ち止めはまたもやクスクスと笑う。
打ち止めの左右に揺れるアホ毛を見ながら、こいつはどこぞのピンクの幻さんか?ってアクセラレータはアクセラレータは一人突っ込んでみたり。
ってか、一方通行二回繰り返すのしんど。語呂が悪すぎんだろ。だってな、一方通行を二回繰り返すだけで、十四文字もあるんだぜ?疲れる。
「おや?言っちゃうのかい?秘密にするって言ってた気がするんだけどね?」
「気が変わったんだー!ってミサカはミサカは決断力の無さをアピールしてみる。いま言った方が面白そうだもん!ってミサカはミサカは目をキラキラさせながら宣言してみたり!」
「……君がいいならいいんだけどね」
また呆れたような表情をする医者と、いやったぁー!ってミサカはミサカは(ryと喜んで飛び回る打ち止めを見て、はて?と首を傾げる。
昨日?生憎様、八月三十一日までの記憶しかなく、昨日の記憶などない。オレが何をするにしても、覚えてないなんて可笑しい。ましてや、今日の今さっき起きたのだから。
そう考えながら、喉が渇いたからと目の前に出された水を飲もうとしたが、次の打ち止めの言葉に危うく吹きそうになった。
「それでね!昨日の一方通行ってば可愛かったんだよ!ってミサカはミサカはミサカにしか知らない秘密を暴露してみたり!」
「ぶふっ!?」
否、吹きました。
霧状に噴射された水がシーツへと降り注がれる。水で良かった。味付きならすげぇ病院に迷惑かけたに違いない。
いや、そうじゃなくて!
「どォいう事だ?あァ?」
「怖い怖い!ってミサカはミサカは不良みたいな一方通行から逃げて先生の後ろに隠れてみたり」
あ、逃げられた。
いやな、女みてぇだなとは言われた事あるが流石に可愛い何て事は言われた事はないから、ちょっと混乱きてしまったんだよ。
それは女性に言うべき言葉であって、間違っても素行不良のネジ吹っ飛んだ
世間的に言うのならば、目の前の打ち止めやそれの
「昨日の一方通行ね、子供みたいで可愛かったよ。ってミサカはミサカは補完してみる。あ、もし良かった見てみる?ってミサカはミサカは提案してみたり!」
は?見る?録画でもしてるわけでもねぇだろ?
首を少し傾げ、打ち止めの動向を見守ってみる。打ち止めはぴょんぴょんと飛び跳ねながら、テレビの方へと向かった。
そして打ち止めがテレビにそっとテレビに触れたと思うと、バチッという静電気が走った様な音が響いた。驚いたオレだが、すぐにその仕組みを理解する。腐っても
「そういうこともできンだなァ。便利なこった」
「一方通行ほどじゃないし、これでも
無い胸を張る打ち止めを無視してテレビを見る。
打ち止めがやった事は至極単純だ。自身が発する電気信号を用いて、テレビに伝え脳内映像を見せるということ。体内の電気信号は、脳からの命令を伝達することに役に立っている。それを利用し、脳内にある記憶を映像として電気信号に換算、腕を通してそれを伝えたというわけだ。誠に便利でござるなぁ。
ジジッと数秒砂嵐が走り、少し荒いがまぁ見れないことも無い。暫くして声が聞こえてくる。
『一方通行君、僕のことわかるかい?』
初めに聞こえた声はそれだった。口調や、声色、映像からそこのカエル顔の医者の声だとわかる。
しかし、この映像は打ち止め自身の目線で送られるようだ。まぁ脳の映像だしな、第三者視点では送られまい。
映像の中の打ち止めが前を向いたと思うと、そこにはオレがいた。白髪に白い肌、紅い瞳となれば確実にオレだろう。そのオレはゆっくりと医者の方へ向いたと思うと、プイッとそっぽを向いた。オレらしからぬ反応だ。
そのオレの反応を見た医者は、元より持っていたのだろうカルテに何かを書き込んでいく。その最中やはりと呟いていたので、オレの反応は予想していたのだろう。
打ち止めはそんな医者とオレを交互に見ると、オレの方へと歩み寄って行った。
『あのね、貴方に言いたいことがあったんだ。ってミサカはミサカはしおらしく呟いてみたり……。助けてくれてありがとう。ってミサカはミサカは感謝の言葉を述べてみる』
左右に忙しなく揺れる映像。うぇ、酔いそうだ。
映像の中とは言え、感謝の言葉を言われるとはな……まぁ悪い気もしない。しかし、何だろうか?デジャヴを感じる。気のせい?
オレはチラリと打ち止めを見た後、テレビへと視線を戻した。依然、テレビの中のオレは打ち止めの言葉に答えずそっぽを向いたまま。
『……む、無視はちょっと酷いんじゃないかな?ってミサカはミサカは常識を訴えてみる。あ、見舞いでリンゴ貰ったんだよ!ってミサカはミサカは綺麗な丸いリンゴを見せつけてみたり!』
サッと目の前に取り出したのは丸い紅いリンゴ。それは紅い月のようで、とても美味そうだ。
打ち止めの“リンゴ”という言葉にピクリと反応したオレは、寝たままこちらの方へと振り返る。
『りんご……』
『あ、やっと反応してくれた!ってミサカはミサカは喜んでみたり!食べたいなら剥くけどどうする?ってミサカはミサカは提案してみたり』
『たべる!』
舌足らずな声でそう答えるオレ。顔はパァアアと輝いていてとても眩しい。いつも凶悪な悪役のような顔しかしてこなかったオレの純粋な笑顔は、いろんな意味でオレの心をガリガリと削っていく。うごごごご、痛い痛い。
テレビの打ち止めがリンゴを剥いて、均等に切る。あの小さな手で大きなリンゴを綺麗に剥けるのは感心する。というか何か負けた感が……いやオレもできるよ!?それぐらい!
『打ち止め君』
『先生?何?ってミサカはミサカは言外にリンゴを剥くの忙しいと伝えてみたり』
だから言ってる時点で言外になってねぇよ?
打ち止めのその言葉に医者は少し微笑んだ後、用件を言い始めた。
『今の一方通行君は、簡単に言うと幼児のようなものなんだね?言葉を流暢に話せないし、情緒不安定だ。明日にはチョーカーが届くから、それまで打ち止め君……君に一方通行君の世話を頼むよ』
『ミサカが……?わかった!ってミサカはミサカは元気に手を上げてみたり!』
そこで映像は途切れる。もう必要ないと思ったのだろう。テレビの側から此方へやってきた打ち止めはベットへと座った。
その顔はニヤニヤとていて、ね?可愛かったでしょ?と顔面に書いてあった。ね?じゃねぇわ、ね?じゃ。自分の奇行を見るってすげぇ恥ずかしいんだぞ?知ってるか??
そもそも、オレがあんな事したってのに鳥肌立ったし、寒気もした。うぇ、気持ち悪!
それにしても聞き逃せない単語があったな。チョーカー?それが今のオレの状態と何の関係が……ん?チョーカーってあれだよな?首につけるアクセサリー。首からぶら下げるネックレスと違って、首輪みたいなやつ。ふと首元を触ってみる。
…………何かあるな、おい。
「やっと気づいたね?君って結構鈍感でバカなんじゃないかって僕は思うよ」
え?酷くね?
医者のナチュラルな罵倒に少し怒りを湧きながらも、オレはそろそろと首元のチョーカーを触る。左の方に四角い何かがあり、ボタンのようなものもある。しかもそこから、コードのようなものが伸びていて耳の後ろに付いていた。一見するとイヤホンをしているようなものだが……これはまさか。
「そう、補助デバイス。打ち止め君や
それがあれば普通に喋れるし、自制心も保たれるよ。と笑顔で言うカエル顔の医者。
……よし、何が何でも壊しはしないぞ。あぁいうの見た後じゃ決意が固い。
さらに言うと、前頭葉が少しだけやられただけなのでそれ以外は無事。能力も普通に使えるとのこと。うん、それは良かった。
「搭載しているバッテリーは約四十八時間しか機能しない。こまめに充電する事をお勧めするよ?」
これ、充電器ね。と渡されたのは本当に充電器だった。約三メートルほどの長さのそれは、携帯電話やゲーム機を充電するものとほとんど同じだった。
「いざとなればミサカが充電してあげる!ってミサカはミサカはニヤリとしてみたり。これで一方通行の命は俺が握ったも同然だ!フハハハ!ってミサカはミサカは昨日覚えた悪役のセリフを応用してみたり!」
「何言ってンだ、オマエ」
テンション高ぇな、打ち止め。オレが言うのもなんだけど。
バカな事を口走る打ち止めを冷めた目で見ながら、チョーカーを触る。能力を問題なく使えるのは良いとして、面倒くさいことになったな。
四十八時間……それを過ぎたら幼児退行すると言っていいだろう。待って今までのイメージがガラガラと崩れるぞ!これは死活問題だぞ、あくせられーた!
ん?でもこのチョーカー、無料というかタダじゃないんじゃないか?
「うん、勿論タダじゃないよ?」
ですよねー!
「値段聞きたい?手術代含めて凄いことになってるけどね?」
「は?」
何でこんな意味深に言ってるの?このカエル。
ちょ、待って嫌な予感が絶えないんですけど、いやね、今は聞きたくないかなー?なんて。
ほら、今は生きている事を実感したいというか、喜んでいたいと言うかね?
ね??ね??そこに不幸をぶっ込んで来なくてもいいからさ?それは何処ぞの不幸少年にあげるべきだよ!このオレが受ける事じゃないから!!ね!!!
今じゃなくて後でッ!!!!!
「補助デバイス代、手術代含めての総額は約-----」
この日、病院に声にならない悲鳴が上がることになる。
そして、オレの借金生活の始まりの日だった。
深くは考えてはいけないッ!!!(断言)
説明を付け加えるならば、損傷したのは前頭葉のほんの少しだけ。しかしそれでも生活には支障が出るので、ミサカネットの力を借りて補助。演算機能は依然としてほぼ問題なし。
これを書くために脳の事を調べてたのだけど、原作アクセラさんは多分左の前頭葉から側頭葉まで損傷したのではないかと。この二つが損傷すると全失語になるらしいので。……あれ?演算の話は何処へ???