一方通行は楽観的すぎる   作:au revoir

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二十話 癒されますね!

 

 

そもそも夢というのは、最後の方、起きる前の十分から二十分の間に見るらしい。確かに寝てから最初の方は真っ暗な空間にただ一人で、ふよふよと浮いている感覚があるが、いつの間にか夢に変わっていたりする。

馬鹿な、夢と言うのは最初から見るものじゃ無いのか。そう思ったりするけども、初めてその事を知った時は只々、へぇーっと感心した記憶がある。テレビの中にいる脳を研究している研究者がそう言っていたのだから、その言葉は信憑性を帯びていた。

つまり、何が言いたいのかというと、この長い長いこの夢は、長く感じるだけで本当は数分の出来事だという事。だけども、瞼の裏に映る映像は鮮明で、リアルで、本当の事で、早く終わって欲しい。オレはただ、そう願った。

 

『木原くンや、今日の晩御飯は何だ?』

『いつも通りだよ、クソガキ。さっさと栄養不足で死ぬんだな!その時はお前の死体を有効利用してあげるぜぇ?』

『それはそれで光栄だけどさ、栄養不足で死ぬ事はないと思うンだよな』

『そういう事じゃねぇんだよ。空気読めよ、クソガキが』

 

短い金髪に顔に大胆にも刺青を入れている男。木原数多という名前のその男はオレの能力を開発した研究者だった。

同年代がいないこの研究所でクソガキクソガキ煩かったが、唯一のオレの話し相手だった。乱暴で攻撃的な彼を気に入ってたのは事実だ。何せ、話し相手が彼しかいなかったし、彼も彼でオレを実験動物としか見てなかったが、寂しさを紛らせるんなら、別にどうでも良かった。

実験動物として暮らして暫く経った頃、オレの世界は一変した。

 

能力が発現したのだ。

 

ありとあらゆるベクトルを変換する力。それがオレの能力だった。チートだった。

オレの能力を開発する実験は成功。しかも強力なチート能力。研究者共は歓喜するだろうなぁ、と考えていた。けど、その読みは見事に外れた。

超能力者(レベル5)、超能力者序列第一位と書かれた紙を握りしめる。まだ幼いオレの頬は緩みきっていて、ニヤニヤとしていたのだろう。嬉しかったんだ。超能力者、最高の能力者。強度(レベル)の中で一番強く、その中で最も強い。こんな能力を手に入れて嬉しくならないわけがない!

オレは無邪気に木原に近づき、確認するように言った。

 

『オレ!オレは超能力者になったンだよな!木原くンや!』

 

いつもなら、調子乗んなクソガキ、と悪態を吐いてくるはずの口は固く閉ざされていて、乱暴に撫でてくるはずの手も震えていた。首を傾げた。どうしたというのだろうか。まさか、歓喜に震えているのだろうか。

確認する為に木原の顔を覗いたのがいけなかったんだろうか。

 

『ヒッ……!』

 

あろう事か木原はオレを見た瞬間、顔を青くし仰け反った。

その一瞬でオレは理解してしまった。彼がオレを怖れているということを。

当たり前な事だった。小さな子供が、無力だった子供が急に強力な力を手に入れたんだ。怖くないわけがない。人や動物は自分より強い者を怖れる。当然の摂理。木原くんは防衛本能に習っただけで、オレを見る目が化け物を見る目をしていたとしても当然の事なのだ。

 

『……そ、そうだ、クソガキ。だが、超能力者だからって調子に乗んなよ』

 

少し上ずった声。それは嬉しさから来るものではなく、恐怖から来るもの。

木原はぎこちなく自然に振る舞い、オレの前から蜃気楼のように消えた。突然足下が疎かになり、暗闇に落ちる、墜ちる、堕ちる。ここでようやく夢だと、オレは気づいたのだ。

これは夢だと言い聞かせるが、やけにリアルで、現実に忠実なその夢の中の木原くんの言葉は、オレの身体の自由を奪っていった。

 

『バケモノめ』

 

バシャン!と海に落ちる。暗い言葉の羅列が織り成す海は心地が良い訳ではなく、オレは這い上がろうとする。けれど、鉛のようなそれはオレに絡みつき、必死に水をかくオレを、深く、奥底へ、引きずり込んでいく。こぽり、と空気が抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌な夢を見た、と判断したのは起き上がって数秒経っての事だった。右手で顔を抑え、左手で胸の部分のシャツを握る。ドッドッと鳴る心臓はいつもより速度が速い。

落ち着いてくると、視界が安定してくる。辺りを見渡すとつけっぱなしのテレビが目に入った。最近人気だという俳優の出演が決定した映画の宣伝をその俳優と共にテレビキャスターが話し合っている場面。そのテレビの横にあるデジタル時計の数字を見てオレは息を吐く。時間はそんなに経っていない。精々一時間ぐらいであった。

ふと身体からずるりと物が落ちる音がした。慌てて抱えると、スースーと寝息を立てている打ち止め(ラストオーダー)がいた。多分、夢の中の息苦しさは彼女がオレの首の上に腕を乗せて寝ていたからだろう。ハァと今度はため息が出る。

ふわりと花の香りが漂ってきた。発生源はどうやら打ち止めの頭らしく、触ってみると少し濡れていた。風呂に行ってきたのだろう。髪が短く細いせいか、もう完全に乾くのに時間はかからないぐらいには乾いていた。

なんとなく、顔を近づけて髪に鼻を埋もれさせて、スンと吸った。鼻腔に花のいい香りが入ってきて、思わず頬を緩める。この香りはオレの好きな香りに入る部類であった。キツすぎない、爽やかな香り。良い匂いだ。

 

---パシャ。

 

そんな音が聞こえた。花の匂いと打ち止めの指通りの良い髪を堪能していた所だったに、水を差された気分だ。

顔を上げて、不機嫌な色を象りながら音の発信源の方を向いた。そこには、ニヤニヤと笑う黄泉川と芳川が。黄泉川の右手にデジタルカメラがある事から、撮ったのは彼女だと思われる。

 

「良い場面に出くわしたじゃん?」

「ベストショットね」

 

デジカメの中にあるオレと打ち止めが写った写真を見ているのだろう。ふむ、と値踏みをしている。オレは堪らず呆れた息を吐き、打ち止めを起こさないようにソファから立ち上がった。自分にかかっていたブランケットを彼女にかけてやる。

嫌な夢を見たせいか汗が凄く、髪の毛も濡れ、Tシャツも気持ち悪い。シャワーでも浴びようと、杖を突いて歩き出した。

 

「どこ行くじゃんよ?」

「風呂だ。嫌な汗かいちまったからなァ……シャワーでも浴びようかと」

 

オレの言い分を聞いた黄泉川はほほーん?という悪い顔をしている。隣の芳川もニヤリと笑って、二人並ぶと悪人真っしぐらな表情をしていた。

ふと、彼女らの肩にフェイスタオルが巻かれているのが見えた。打ち止めの花の香りを思い出す。彼女達はきっとオレが寝ている間に風呂にでも入ったのだろう。って事はお湯になってるという事で、温め直す必要もなく、つけた瞬間にお湯が出るという快適なことが起きるということだ。ラッキー。

スタスタと歩いて行き、脱衣所の扉へと手をかける。鍵が一応あるんだなー、とぼんやりと考えながら開けると、そこで大人二人に待った!と声をかけられた。全くなんだってんだ。

 

「この写真、打ち止めに見せても良いの?」

「そうじゃん、もっと良い反応見せるじゃん?」

 

そんな事かよ。ハァとため息を吐く。

多分だが、二人はその世間で言う恥ずかしい写真を見せてはなるものか!と奮闘するオレを見たいんだろう。確かに顔を真っ赤にして、写真を消そうとする若者を見るのは楽しいだろう。精神的にオレはおっさんなのでそれは分かる。分かるが、おっさんなオレにそれを求めちゃいけない。

先程の行為、気分は父親が娘に愛情表現をする感じだった。ほら、海外ドラマや映画であるだろ?

だから、オレは別にそれを打ち止めに見せたって精神的に問題は無いのだ。ヒラヒラと手を振って、一歩踏み出す。

 

「好きにしろ」

 

その一言だけ告げて、脱衣所の扉を閉めた。

にぎゃぁあああ!という猫の尻尾を踏んだ時の様な悲鳴が聞こえてきたのは、オレがシャワーの線を緩めた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを十分に浴び、汗を流してホカホカになったオレは脱衣所から出る。元から着ていた服に着替えるのは少しだけ不快感があるが、元々一枚しか持ってきていないため、仕方のないことだ。

リビングのすぐ側にあるキッチンに寄り、冷蔵庫を開けて牛乳瓶を取り出した。百六十八センチという高校生男児にしては些か小さい背をオレはちょっと気にしている。前世じゃ百七十は行っていたはずだからな。カルシウム取らなくては。まぁ、牛乳取るだけで伸びるのなら、全国の低身長の皆さんは苦労してないはずだ。

牛乳を一気に煽ると瓶をゴミ箱に捨て、フェイスタオルでまだ濡れている髪の毛をガシガシと掻く。男にしては少し長い髪だが、それでも細く量も少ないためすぐに乾く。こういう時便利だが、将来禿げそうで心配になる。

やる事がなくなったな。もう一回寝ようか。

そう考えながらリビングへ出ると、黄泉川と芳川が夕方からビール缶を開けながら、テレビを見ていた。ソファーにゆったりと座っている。

 

「(ね、寝れねェ……)」

 

ソファーは二つあり、その一つは空いているがあの二人の目の前で寝ることになるので、それはご遠慮したいところだ。どんな所でも寝れる自信がオレにはあるが、流石に人が眼前にいる状況じゃ寝れない。それならまだ、猛獣の前とかの方が楽だ。

どうしようか、本当にやる事がない。一緒にソファーに座ってテレビでも見るか?

ここまで暇になるとは思ってなかったオレは、困った様に頭をガシガシと掻き、うゥむと唸る。

しかしそこで、はたと気づくのだ。此処にいるはずのもう一人がいないことに。そう、あのガキだ。どこいった?と首を傾げてから、辺りを見渡して他の部屋も見るが、何処もいない。

どうしてこういう時にテレビに熱中するのか、笑っているわけでもなく、ただビールを飲みながら黙って見ている彼女らに少しイラつく。

もし、外に出ていたとしたら?部屋の中にいない時点でその説は濃厚であり、ほぼ確定だろう。何せマンションというのは狭い。

 

「おい、打ち止めはどこいった?」

「え?打ち止めなら、そこにいるじゃん……あれ?」

「……いないわね」

「管理しとけよ、保護者共」

 

一応年齢的にはオレは保護者になれないからな、多分。この部屋に居候させてもらう以上、部屋主が保護者となるのが普通だ。だからこそ、ちゃんと面倒見ろと言いたかった。あいつは頭脳は大人でも、子供なのだから。

しかし、大問題だなこれは。打ち止めは携帯を持っていない。今の今まで必要ないと思っていたし、事実不便だった事もない。なので、連絡手段がないという事だ。どこへ行ったのかも不明。打つ手なし。まぁ、外に少し出て見回るのもありだろうが……打ち止めの性格上、同じ場所にいるとは限らない。はぁ、とため息が出そうになる。

 

「一応、外を見ましょうか。あの子の脚ならそんなに遠くに行ってないと思うのだけど」

「桔梗に賛成じゃん。三人で手分けして探そう」

「チッ、面倒くせェ」

 

何でいなくなった打ち止め、と悪態をつきたい程、面倒くさかった。手がかりが少なすぎる。あるのは容姿と名前だけ。しかも、名前はあまり役に立たないし、容姿はまぁ第三位を小さくしたバージョンと言えば良いのだろうか。……それで行くか。

ただ一つ懸念があるとすれば、この時間帯に人が出歩いているかどうかである。現在昼過ぎ。学校や、会社がある人は外には出歩かない時間だ。

そこまで考えてふと、思い出す。確か今日は休みなのでは。隣にいる黄泉川は教師でもある。なら、学校はない。学生が八割を占める学園都市だ。それなりに人はいるだろう。そして、目撃者も多いはずだ。

希望が見えてきた気がした。

 

「じゃ、行くじゃんよ」

 

それぞれ連絡手段である携帯を持って、重たい扉を潜った。

さて、迷子のお姫様探しでもしてみますかねぇ。面倒くさいが。

 

 




癒されるね、何にとは言わない。
インさんでないね。次に持ち越しだね……あれれぇ?
遅くなってしまいごめんなさい。ただ、ゆっくり更新でも完結は目指しているのでエタるつもりは毛頭無いです、ハイ。
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