一方通行は楽観的すぎる 作:au revoir
八月二十一日。
午後八時四十分。
とある操車場。
そこに二人の少年が対峙していた。
方や、白い髪に赤い瞳。中性的な顔をした、この学園都市で最強の能力者。
「いつか来るとは思ってたが……随分とお早い登場だなァ?三下よォ」
一方通行は気怠げに、はぁとため息をついてから目にかかるほどに長い前髪を掻き上げる。その顔には呆れと、面倒くさいという気持ちが表れていた。
そして、ミサカ10032号に乗せていた足を下ろしもう一人の少年へと向き直った。
方や、黒い髪に黒い瞳。パッとしない顔をした、この学園都市で最弱の能力者。
「なぁ、お前さぁ……」
「あァ?」
髪の毛で目は見えないが、肩を震わせて拳を握っている上条は、小さく静かに一方通行に問いを投げかけた。
「なんで、こんなことしてるんだ?」
ギリィ、と歯を食い縛る。
上条にとって一方通行とは、たまに会う知人だった。同じように自炊している知人。同じように大特価セールで闘う知人。
毎回会う度にその人間性を知り、いつしか友人だと思っていた。
上条は思い出す。自身を笑いながら弄る姿を。とても楽しそうに笑うその姿と、どうしても目の前の人物が同じだと思えなかった。
どうして、そんな平気な顔をしている。
どうして?
上条は理解できなかった。
一方通行の普段の姿を知っているからこそ。あの笑顔を知っているからこそ、理解ができない。いや、しようともできない。本当に
上条は叫ぶように、一方通行に怒鳴りつけた。
「人を殺してんだぞ!?どうして!そんな平気に立ってられんだよ!!!」
血が出そうなほどに拳を握る。
「お前はっ!!何とも思わないのかよ!!一万人も殺して!人を殺して!!」
お前はそんなことする奴じゃねぇと思ってたのに!!
そう叫ぶ上条を鬱陶しそうに眺め、一方通行は欠伸をする。一方通行には、上条が話すことはどうでもいいことであった。
誰が何をしても、誰かに何を思われても、誰かが何をされても、
一方通行にはどうでもいいことだ。
「別に何ともおもわねェなァ」
漸く口を開けたと思えば、ケロリとそう返した一方通行に、上条は目を見開いた。さらに拳を強く握る。
「第一さァ……
「ッ!!!!」
「研究者どももそう言ってたしなァ。それとも何か?オレがこンな事するとは思ってなかったってかァ?」
キヒャヒャヒャヒャと笑い、そしてため息を吐いた。
一方通行はつま先を地面にトンと打ち付け、地面に転がっていた石を上条へ向かって飛ばす。上条は間一髪のところを避け、頬に一筋の傷を付けた。
「で、かかってこないンですかァ?ヒーローさンよォ」
両手を広げ、相手を挑発する一方通行。
普段の彼からは想像できない姿だが、何故か上条の前ではそうせざるを終えない気がした。
上条は足を地につけ、右拳を精一杯握り、そして強く踏み出した。
「アぁあああああクセラレぇえええええタぁあああああああ!!!!」
叫ぶ彼を見た一方通行は、周りのコンテナを能力で浮かし、そして楽しそうに笑う。
「いいねェいいねェ!そうこなくっちゃなァ!!!」
学園都市最弱のヒーローと学園都市最強の能力者の戦いが、今、始まった。
何故、挑発したのか自分でもわからない。
ただ、何故かあいつが激怒するような言葉をつらつらと述べていた。
ベクトルを操作し、蹴りを食らわそうとするが右手で防がれる。一瞬驚くがすぐに距離をとって、先ほど浮かせたコンテナ達を上条サンへとぶつけに行かせる。何百キロ、何トンあるかわからないコンテナ達が勢いよく音を立てて、地面へと突撃していった。
砂埃が舞い、視界を遮る。ここからでは死んだかどうか確認できないが、多分死んでないだろう。あいつは不幸だと言っておきながら、十分幸運な方だ。
「(どうしてこうなったンだァ……?)」
自分で自分に問いかける。
まったく、どうしてこうなったんだろうか。気楽に、何も考えずに生きてきたら、いつの間にか学園都市最強になって、暇つぶしがてら無敵を求めて、最弱を挑発している。
はぁとため息を吐いて、頭を掻く。面倒事はあまり好きではないんだけどなぁ。
「ちっくしょ……」
何処からかそんな声が聞こえた。生きてやがるようだ。
ジャリと地面に広がる石を踏みつけ、立ち上がるその姿に思わず口角が上がる。
…………ン?
自身の口元に手を当て、確認する。確かに口角が先ほど言ったようにつり上がっていた。
首を傾げる。
「……まァいいか」
考えるのを放棄し、目の前の敵をどう倒すかを考える。結局考えてるじゃないかって?別だよ、別。
疑問に思ったのは、さっきのオレの蹴りを防がれた事だ。蹴りの勢いが落ちた……いや、
あいつに防がれた途端、オレの能力が消えたような気がした。ベクトルを操作した骨を粉砕するほどの蹴りから、普通の人間の蹴りへと。
第一、オレは運動というものをまったくしていないし、できない。戦闘に関しては能力に頼りっぱなし。強すぎるこの能力がいけないんだ!
反射神経だけは、前世から引き継がれたのか結構あるが。それでも常人の域だ、と思う。
「(能力を打ち消す能力……)」
それだとしたら、とても厄介だ。相性が最悪だと言っていい。能力を消されてしまえば、ただの一般人。はぁ、何回目かのため息を吐く。
まァ考えても仕方ない。とにかく、上条サンを殺す事だけを考えなくては。あの様子を見るに実験現場を見たからではなく、その実態を見て知ってしまったからだと思うし。実験関係者でない上条サンはいずれ消されそうですし、世間的に。うわ、死ぬのよりつらい。
さて、さっさとやるか。
能力が消されようと関係ない。ただ戦う。ただ、戦いたいという願い。
あァなンだ……オレは思ったより血に飢えてるらしいなァ。
能力を使い上条サンに急激に近づき、拳を振るった。しかし、また右手で防がれ、次の手をと考えてもまた防がれる。すべて能力でやっているのにも関わらず、すべて防がれる。……
オレは一旦上条サンから離れる。能力を使ったので一瞬にして、距離を取った。あいつの足ではそうそう近づけることができない距離だ。
ニヤリと笑う。
「なァ、三下ァ?お前、攻撃ぜンぶ右手で受けてるだろ?」
そう言ったオレの言葉に上条サンはわからないという風に首を傾げた。
無意識か……それともそれが当然のことだからか……。
「それがどうしたんだ?」
「良いことがわかったンだよ、三下。お前の能力……おそらくだが……効果は
「ッ……!?」
瞬間、上条サンは驚いたような、それでいて安心したような顔をしたが……その表情から見るに、オレの考えは十中八九間違いないだろう。
「ギヒャギャハッ!その顔は当たりかァ!隠し事が相変わらず苦手ですねェ!」
「うるせぇ!」
右腕を構えて走ってくる。その一辺倒。確かにあいつにはその能力からして、その戦闘スタイルが普通だろう。
何も知らない、無知なやつには効くかも知れないそれはオレにはもう無意味だ。だって、マジックのタネがわかってしまったら、もうそれはつまらないモノへと変わるのは当たり前だろ?
同じように接近して右脚で蹴りを食らわす。上条サンの左腕へと吸い込まれるはずだった足は、右手で受け止められていた。キヒャ。思わず笑みが零れる。右脚を離し、足の先からすぐさま能力を発動させ、周りにあったコンテナを上条サンへ向かわせる。オレはその間に距離を取って、向かってくるコンテナを必死にかわす上条サンを笑う。
暫くしてコンテナの雨が止んだ時、一つのあるものが目に入った。ここは今は無人とはいえ、人の出入りがある場所。なるほどこんなものを扱ってたのか。
上条サンの周りに舞い上がる白い粉。ニヤリと笑う。嗤う。
「なァ、粉塵爆発って知ってっか?」
「?」
何故、今そんな話をするのかわからないというふうに、頭上にハテナを飛ばす上条サンに苦笑し、トンと爪先を地面に打ち付ける。もはや何度目かわからない、コンテナが浮き上がった。
「
「まさかっ!!」
そう、そのまさかだ。
上条サンの近くにあるコンテナでは衝撃でボルトが外れてしまったのか、中身が出てきてしまっている。それは麻袋に入っていて、白くサラサラしたもの。そして……オレ達のように料理をするものにとっては親しみのあるもの。
そう、小麦粉だ。
小麦粉のあるコンテナへと突っ込んでいったそれは、ぶつかると当時に火花を散らし、そして爆発した。
大規模な爆発だが、生きているだろうか。
そんな事を考えるオレも正直余裕はない。急激な爆発によって、周りにある酸素が減っていく。熱や爆風は反射で大丈夫だが、生命維持に必要な一つである酸素が無くなれば、酸欠でオレも危うい。少し小走りで炎の中をくぐり、上条サンがいるであろう場所へと向かった。
「あーァ、こういうのするもンじゃねェなァ。酸素がなくなりゃこっちだって危ねェのに」
回ってきた酸素を十分に吸って、吐く。はぁー空気が美味しい。
ふと上を見上げると、黒煙がもくもくと上へと上がって行っていた。ドクロを描きそうな見事な煙である。それだけ大規模な爆発だったのだろう。……アラホラサッサー。
さてと、と呟き一、二歩と歩みを進めて倒れている上条サンに近づく。やはり、あれだけの爆発を能力を消すだけの能力しか持っていない、一般人が耐えれるものでもなかったのだろう。
ぐてぇと倒れている上条サンの側にしゃがみ、そのツンツン頭をつついてみる。痛ッ!!刺さった!?どれだけツンツンなんだよ!ワックスでもかけてんのか!?ひぇ、血が出てきた。
「(しっかし、妙なもンだなァ……)」
オレは内心首を傾げる。
思い出すのは上条サンとの会話。あの時上条サンは能力はなく、自分は無能力者と言って笑っていた。スキルアウト共みたいに無能力だからって、超能力者や大能力者を恨んだりせず、それが本当の事のように受け止めていた。感心したのは覚えている。
だから、能力なんてないと思っていた。しかし、いざ戦ってみれば、オレの能力を消すわ消すわ……ちょっとうぜぇと思ったのは内緒だ。
あとで一回、
「ン?」
ガシと左腕を掴まれた感覚がした。何事だと目を向けると、上条サンが
上条サンはそのまま腕を掴んだまま立ち上がり、つられてオレも立ち上がる。オレと彼とは同じ身長なはずだが、オレが見下ろす形になるのは上条サンが頭を下げたまま持ち上げていないからだろう。
「…………初めて出会った時」
「あ?」
「ちょっとビビったけど、いい人だなと思った……」
え?何?何の話?爆発で頭やられた?
「前のこと覚えてないけど……会うたびに、話すたびに……納得した」
「さっきから何言ってンだよ」
離れようとしても掴む力が強く、どうしてだか……顔が見えないのに、凄みがあるというかなんというか……離れるなと言われてる気がした。
「なぁ……一方通行はどうなんだよ……」
「は?」
ゆるりと上条サンの頭が上がる。黒いツンツンとした髪が揺れ、やがて顔が見えてきた。
コンテナの雨から逃げ切り、大爆発によって服は殆ど焼け焦げていた。どう見ても、満身創痍。それなのに……なんで、どうして。
「(そンな、力強い目をしてられるンだよ……)」
キッとした目。たれ目なのに力強いそれは、オレをたじろがせるには持ってこいな目だった。
思わず一歩下がる。
「俺は……お前が、こんなことする奴じゃねぇ!……って思ってた」
「ッ!」
目を見開く。きつく握った拳が目に入った。
「お前がどんな思いでこんな事してるのかは知らねぇ」
能力を発動しようとしてもできず焦る。
なんで!どうしてと焦ったところで、左腕が掴まれていることに気づいた。
対象に触れることで効果が現れる上条サンの能力。それはもちろん、相手自身に触れることでも可能で。
「だけど、している事が間違ってる!!」
くっそ、くそ!
焦る。焦って何もできない。
グルグルと、グルグルと視界が回る。
パニックだった。
「お前が……この実験が、間違ってないって言うのなら…………」
どうする。どうする?どうする!?
蹴るか?いや、そんな脚力はない。
殴るか?いや、そんな腕力もない。
能力に頼りっぱなしなのが裏目に出た。
反射神経だけ良かっても、この至近距離じゃ、避けられ……いや避けられる。
けど、体が追いつかない。というより言うことを聞いてくれない……!
「まずはその幻想をぶち殺す!!!!」
そんな叫び声と共に迫り来る硬く握った拳。
それは右手であり、いつの間にか離されていた左腕にやっとのことで気づく。
メキリ。耳に届く音。
視界が反転した。
上条さんのツンツン頭、アニメで見たところフサフサそうなんだけど……実際どうなんだろう。
本当はね、最初に殴られるはずなんだけどね、書いてたらこうなった!やったね!一方さん原作より粘ってるよ!(多分)
幻想殺しの仕組みに気づいたけど、原作の修正力に勝てず、結局殴られる結果に。挑発したのもそれの所為……なのかな?
ミサカ10032号はどうしたって?その辺に転がってるよ。もうすぐお姉様が来るからそれまで我慢ですね。