昔々、ある一人の男の子が京都にて生を受けた。
姓は青山、名は――。
退魔の剣術と知られている『京都神鳴流』。
開祖である『青山家』に生まれた彼は幼き頃からその剣術を叩き込まれた。
彼は才を宿した身なのかスポンジのように吸収していった。
その身はなんと奥義である『弐の太刀』さえも軽々と使いこなされた。
宗家にゆかりある者にしか伝承されない『弐の太刀』を分家が使いこなした。
この事実を宗家は危険視し、彼を破門・討伐命令を繰り出した。
彼は差し出される神鳴流の刺客を次々と斬り伏せながら東へ逃亡した。
まだ成人もしてない彼の精神は徐々に病み、同門の者を殺しても何も思わなくなった。
彼の味方は家から持ち出した己のみ名を知る刀のみ。
ついには両親をも斬り伏せ、麻帆良の地まで逃げおおせた。
*
何故こうなったのかと問いかけても、もう誰も答えてはくれない。
「ふふ…」
自嘲めいた笑いを思わず浮かべてしまう。仇敵だと、奪還の地だと学ばされた麻帆良の最奥地に、まさか反逆者となってしまった自分がたどり着くなんて誰も思いもしなかっただろう。
「だがしかし…もうだめだな」
駄目元で駆け込んだ地下には何もなく、ただ異世界への扉が鎮座するのみ。麻帆良を守る戦士も馬鹿ではない。すぐにでも私を討ち取ってしまうだろう。普段なら簡単にやられるわけではない。ただ、瀕死の身となった俺はもう満足に戦う事はできないだろう。
「俺はもうここで死を待つのみ…」
生を諦めた訳じゃない。ただどうしてもできないことはある。破門の理由も問えず、同門の士をただ斬り捨てることしかできなかった。京都には、あのお方の元にはもう戻れないだろう。そして逃亡の日々ももう終わる―――そう思っていた。
「なんだ…?」
突然後ろの魔法陣が光りだす。そういえば今年は麻帆良の世界樹の大発光の年だった。大発光の年は世界樹の魔力が満ちて恋に関する洗脳をふりまくと聞いた。その魔力が今目の前で満ち、異世界への扉を開けた。
「ふっ…神様ってのは、簡単に諦めさせてはくれないのかねえ」
俺は瀕死の体を必死に引きずり扉の向こうに身を預けた。その時声が聞こえたが俺には関係ないだろう。逃げ切ってやったと笑いを堪えながら転移の瞬間を迎えた。
*
光が治まると視界には森が広がっていた。
何もかも地球で見たことがなく―――後に俺はここが魔法世界だと知る―――、逃亡が成功したと確信した。
安堵の気持ちが緊張を解き、瀕死の状態が痛みを発し、極度の疲労と空腹感が理性を奪う。
目も霞み、生きるために俺は無我夢中で目についた生き物を食した。
俺はここで完全に人間ではなくなっていた。
時間軸的には2003年(原作)の43年前です。