ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

108 / 110
ついに本編は100話まで来ました。
デュエル開始の宣言をしろ! 磯野ぉぉぉ!!!

デュエル開始ぃぃぃぃ!!!!

では100話、始まります。



第百話 リンドブルム

空都ラインの一角に点在する工房。

リズベットとエギルが経営する店の奥にある喫茶店にキリトとユウキ、ソラ、アスナ、そしてリズベットの5人が集まっていた。

傍ではシリカの相棒である子竜が丸まって寝息をたてている。

会話はなく、店内は沈黙が支配していた。

今日はシリカがジュンとデュエルを行う約束の日。

彼女はすでにヴォークリンデに向かっている。

時刻はすでに午後6時を過ぎているのでデュエルは始まっているだろう。

 

「……大丈夫かな?」

 

沈黙を破るように呟いたのはユウキだ。

 

「僕達に出来る事は全てやった。後は彼女次第だよ」

 

彼女の呟きにソラがそう応えた。

なおも彼女はシリカを案じている。

それは勝敗というよりも、シリカの心の方だろう。

そんなユウキに

 

「大丈夫よ。アンタが思ってるほどシリカはヤワじゃないわ。大人しそうにみえて、度胸はとんでもないんだからあの子」

 

そう言って来たのはリズベットだ。

彼女はSAO時代からシリカを妹分として可愛がっている。

その為共に行動することも多い。

故に誰よりも彼女はシリカの事を認めているのだ。

そんなリズベットに同意するように

 

「リズの言う通りだよユウキ。シリカちゃんならきっと大丈夫」

 

「俺達はただ信じて待てばいいさ。彼女がいい結果を叩き出せるように。そうだろ?」

 

アスナとキリトが言う。

 

「そう……だね。うん、信じるよシリカを」

 

そう言ってユウキは笑顔を見せる。

そんな彼女らのやり取りを見ながら

 

「頑張んなさいよ、シリカ」

 

リズベットはヴォークリンデの方角へ目を向けながらそう呟いた。

場所は変わりヴォークリンデの浮島。

ここで2つの影がぶつかり合っていた。

 

「はぁ!」

 

「せぃ!」

 

突き出される短剣を躱し、空かさず横薙ぎによる斬撃が放たれる。

迫り来る紅の刃を少女────シリカは右手の短剣『クリスタルダガー』を逆手に持ち替え、根本の部分で受け止めた。

衝撃が奔り、彼女のHPが減少する。

直後、シリカは短剣を紅の刃に滑らせながら前進。

ジュンの二歩手前で深くしゃがみ込み、逆手持ちから順手持ちに素早く切り替えて勢いよく斬り上げた。

迫る斬撃をジュンはバックステップで回避。

しかし完全に躱しきれなかったようで、彼のHPが僅かに減少した。

体勢を立て直し、素早く引き戻したフレスヴェルグを振り上げ上段から斬り下ろす。

それをシリカは左側に躱した。

だが刃は地面に向かわず彼女の方へと軌道を変えてくる。

『モーションキャンセル』によって斬撃の軌道を変えたのだ。

その追撃を逆手持ちに切り替えたクリスタルダガーで防ぐ。

再びHPが減少したシリカは素早く獲物を引き戻し、ステップを踏んで大きく後退。

構え直してジュンを見据える。

対するジュンは構え直しながら思考を巡らせている。

 

(……元々弱いとは思ってなかった。けど、まさかここまで出来るようになると思ってなかったな。短剣の使い方が以前より上手くなってる。それに回避力も向上してるな。この数日で相当な荒業を熟したんだろうっていうのがよくわかる。けど……)

 

思考を切り、ジュンはフレスヴェルグを握る両手に力を込めて

 

「それでも、オレには届かない」

 

呟き駆け出した。

一気に間合いを詰め、左斜め下から斬り上げた。

それをシリカは躱すも刃は瞬時に軌道を変えてまたも襲いくる。

その追撃もシリカはステップを踏んで回避した。

先程までは武器で受け止めていたが今度は回避に徹してい来るシリカ。

その理由はHPにあった。

現在ジュンのHPは最大値の9割、シリカは7割となっている。

シリカはジュンの攻撃を武器で受け止めていたが両手剣は重い。

対する彼女の短剣は軽い為、両手剣などの重い武器による攻撃を受け止めた場合、他の武器以上にダメージを受けてしまうのだ。

それ故シリカは武器防御から回避に切り替えたのである。

だが『モーションキャンセル』を駆使した変則かつ高速の連続斬撃を全て躱せるわけではない。

幾つかの斬撃は彼女を掠め、そのHPを刈り取っていく。

気付けばHPは最大値の4割にまで減少していた。

対するジュンはHPを減らしてはいない。

変則攻撃に対し回避に徹したシリカは反撃に出る事が出来なかったからである。

圧倒的な実力差。

頭ではわかっていたが改めて体感した事で表情を苦くするシリカ。

次の斬撃を躱したシリカは大きく後退し、腰のポーチから素早く液体が入った瓶を取り出す。

素早く蓋を開け一気に飲み干すとたちまち彼女のHPが全快した。

彼女が使用したのは神聖回復薬(エクスポーション)

HPを使用者の最大HPの7割を即時回復し一定時間自動回復(オートリジェネ)の効果を与える調合で手に入る最高の回復薬だ。

 

(回復したか。けど無駄だ)

 

ジュンは構え直し、地を蹴って駆け出す。

先程以上の速力で間合いを詰め、右斜め下からの斬り上げが放たれる。

アイテムの使用で体勢を戻すのが遅れたシリカ。

回避は不可能と踏んで逆手持ちに切り替えたクリスタルダガーで武器防御の構えを取った。

だが、意味をなさんとばかりに紅の刃は迫り、ガギン! と激しい衝撃音が響く。

クリスタルダガーはシリカの手を離れ、遥か後方に弾き飛ばされてしまった。

彼女の背後で短剣が地に突き刺さる音が耳に届く。

 

「っ!」

 

シリカを地を蹴って大きくバックステップ。

間合いを離して素早く左手を振りメニューを開いた。

 

(武器を変える気か?! だが遅い!!)

 

シリカが後方に飛んでいった得物の回収を諦め武器変更する事を察したジュンはフレスヴェルグを振り上げたまま素早く間合いを詰める。

 

「取った!!」

 

勢いよく上段から斬撃が繰り出される。

迫り来る紅の刃。

それをシリカは何を思ったのか自身の頭の上で両腕を交差させて構えた。

刃は勢いよく迫り彼女の両腕に接触し──────ガギン!と激しい衝撃音を響かせて止まった。

シリカのHPは2割程減少するが、両腕は斬り落とされる事なく健在だ。

何が起こったのか理解出来ず、ジュンの思考は停止している。

次の瞬間、彼女のジャケットの袖が勢いよく破け、ポリゴン片を散らしていく。

現れたのは白銀に輝く手甲(ガントレット)

その形は竜を彷彿とさせる造形だった。

 

「せぁぁ!!」

 

交差させてる両腕を勢い良く振り、フレスヴェルグを弾き上げる。

素早く右腕を引き絞り、ガラ空きになったジュンの胴へと拳撃を繰り出した。

体勢が崩れた彼はその一撃を躱せずに直撃を受ける。

 

「ぐぅっ?!」

 

衝撃が奔り、ジュンのHPが1割程減少。

彼は素早くバックステップで後退し、シリカから距離を取った。

シリカは再びメニューを開き、ウインドウのショートカットアイコンをタップ。

直後に彼女の身体をライトエフェクトが包み弾けた。

袖の破けたジャケットはノースリーブのモノへと切り替わっている。

プリーツスカートもキュロットへと変わり、具足も編み上げのロングブーツへ。

そして左右で束ねていた髪は頸で一纏めに結われていた。

 

「……今の装備変更……クイックチェンジか。しかもガントレットナックル……まさか……スタイルそのものを変えたっていうのか?!」

 

「そうです。これがジュンくんに勝つ為に手に入れた─────新しい力です!!」

 

叫び構えてジュンを見据えるシリカ。

そんな彼女の脳裏には数日前の事が思い返されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって……ナックルですか?」

 

トレードメニューに表示された詳細を見てシリカはキリトに問う。

彼から送られてきたアイテムはナックルだったのだ。

それも並のレアリティではなく古代級(エンシェントクラス)の武器。

固有銘『リンドブルム』

ガントレットタイプのソレは竜の姿を思い起こす造形となっていた。

 

「そのナックルはオリハルコンインゴットに君から預かった『ピナの羽』を合成して作ったモノで、シリカ専用の武器だ」

 

「あたし……専用?」

 

キリトの言葉にシリカはオブジェクト化したナックルを凝視した。

 

「今年の3月、特定の合成素材と高位の鉱石を組み合わせる事で固有能力を備えた武器が作れる『魔導鋳造』スキルが追加された事は知ってるよな。俺のフロッティとユウキのガラティーンもそれで作られた剣なんだが、そのナックルもリズが『魔導鋳造』で作ってくれたモノなんだ」

 

「リズさんがこれを?」

 

「ああ。事情を話したら最優先にしてくれたよ」

 

『魔導鋳造』スキル

それは今年の2月、統一デュエルトーナメント後に告知され3月の初めに実装された新たな要素だ。

特定の合成素材を高ランクのインゴットと組み合わせる事で通常のプレイヤーメイド以上の性能を持つ武器が作れるようになる鍛治スキルである。

習得のための条件は鍛治系スキル熟練度を一定数カンストさせ、さらには鑑定系スキル熟練度を5つ500以上にして、その上で専用の高難度クエストをクリアする事で初めて習得出来るというモノだ。

スキル熟練度はともかくこの高難度クエストは読んで字の如く厳しいモノで、失敗すると次に受ける事が出来るようになるまで1カ月の期間を要さなければならなくなり、クエスト内容も受注するたびに変わるというとんでも仕様なのである。

リズベットは元々SAO時代から鍛治系スキルを優先的に上げており、並行して鑑定系スキルも上げていた。

そのデータを引き継いである今のアバターは熟練度の条件は当然の如くクリアしており、実装されてすぐにユウキとアスナ、シノンに助っ人を頼み高難度クエストに挑んだのだ。

悪戦苦闘の末リズベット達はクエストを見事にクリアし、彼女は『魔導鋳造』スキルを手に入れたのである。

ユイ曰く、現在ALOで『魔導鋳造』を獲得しているプレイヤーはリズベットのみだという。

『魔導鋳造』で作成できる固有能力付きの武器は様々だが、中でもテイムモンスターが一定確率で主のアイテムストレージに残す事があるアイテムを用いて作られた武器はその主専用となり他のプレイヤーには装備出来ないユニークになるという特性がある。

故にシリカに渡された『リンドブルム』は彼女専用のユニークウェポンという事なのだ。

 

「コレがあたし専用だっていうのはわかりました。まさか、キリトさん達が薦めるバトルスタイルって……」

 

「そう。察しの通り、ナックルを用いた近接格闘だ」

 

「でも、あたし格闘技なんてした事……なんでそのスタイルなんですか?」

 

 

「それについては僕から説明するよ」

 

未だ疑問を抱いているシリカに対し、そう言ってきたのはソラだ。

 

「実を言うと、君にナックル適性があると思ったのは例の限定クエストの時、君が最後に見せたという動きをユウキ達から聞いたからなんだ。論より証拠という事でシリカ、コレから柔軟測定の長座体前屈をしてみてくれないか? ユウキとアスナもやってみてくれ」

 

「?????」

 

「よーし、やってみよー!」

 

シリカ未だに大漁の疑問符を浮かべ、ユウキは張り切った様子でアスナも疑問符を浮かべながら両足を真っ直ぐに伸ばして地面に腰を下ろした。

ユウキとアスナは一度深呼吸して長座体前屈を開始する。

 

「こんなもの……かな」

 

「これ以上は無理……だね」

 

それぞれ足のつま先からどれくらい両手が出ているかというと、ざっと見てアスナは手のひらが出ており、ユウキは手首から約3cmといったところだ。

ユウキの方がやや柔軟性が高いという結果だ。

 

「へへー。ボクの方がアスナより柔らかいって事だね」

 

「むぅ。私はそんなに硬くないわよ。でもソラさん。これってシリカちゃんの新しいスタイルとなんの関係があるんですか?」

 

上体を起こしたアスナがソラに視線を向けて問いかけた。

すると彼は

 

「シリカを見ればわかるよ」

 

そう言って彼女を指差した。

言われるままユウキとアスナがシリカの方に目を向けると

 

『は、はぁ?!?』

 

揃って素っ頓狂な声を上げてしまう。

目に映ったシリカは言われた通り長座体前屈を行い上体を前に倒していた。

両手首はつま先から10センチ以上出ており、真っ直ぐ伸ばした両足に上体が完全に密着した状態となっている。

 

「ちょ?! 嘘でしょ?!! どうなってんのソレ???!!」

 

「シ、シリカちゃん!?! い、いいい、痛くないの???!」

 

「はえ? もちろん痛みはないですよ? ペインアブソーバーがあるじゃないですか?」

 

問われたシリカは不思議そうな表情で言う。

上体を起こして立ち上がり、ポンポンとスカートに着いた埃を払うシリカ。

ユウキ達も立ち上がり、なおもシリカを凝視しながら

 

「ね。もしかしてシリカって柔軟体操とか得意だったりする?」

 

「はい。昔から身体は柔らかい方なんです」

 

問うとシリカはそう返してきた。

 

「他のはどうなの??? 上体逸らしとか前後と左右開脚とかさ」

 

「やってみましょうか?」

 

「いいの! やってみてやってみて! あ、キリトはあっち向いててね?」

 

「ソラさんもですよ? こっち向いたら刺しますからね?」

 

シリカが身につけているのは丈の短いプリーツスカート。

万が一にも見えてしまう可能性を考えての事だろう。

2人は笑顔だが背後には般若がいるように感じたキリト達は

 

『イエス』

 

と声をハモらせて彼女達に背を向けた。

その後シリカがユウキ達のリクエストに応え、上体逸らしと前後及び左右開脚を披露すると「ちょ、裂ける! 裂けちゃう!!」「ホントどうなってるの?! ネコなの??!」などの絶叫混じりの感想が飛び交うのだった。

 

閑話休題(それはさておき)

 

シリカの柔軟性披露回が終わり、背を向けていたキリトとソラが振り返った。

この行為に何の意味があるのか未だにシリカは理解出来ないでいる様子だ。

 

「いやぁ、凄いモノを見たねぇ。180度開脚なんて映像でしか見た事ないよ」

 

「そうですか? というか、ここは仮想世界なんですからユウキさんとアスナさんも出来るんじゃ?」

 

「ムリムリムリ。流石にシリカちゃんみたいには出来ないよ」

 

シリカの問いかけにアスナが苦笑いで応える。

隣でユウキもウンウンと頷いていた。

未だ疑問符を浮かべているシリカに

 

「確かに、ここは仮想世界。あらゆる法則を無視して現実では出来ない事が出来る。と、思うけど実際にそれはあくまでもプログラムされシステムによってアシストされているからこそなんだよ」

 

キリトがそう言う。

 

「簡単に言うと、俺達のアバターは俺達の脳で動かしてる。仮想世界だろうと脳が出来ると判断していることしか実際には出来ないんだ。さっきの柔軟運動も、シリカは現実で普通にこなせてる。だからシリカの脳は『可能な事』と判断して仮想世界でも再現出来るんだ。逆にユウキ達は現実でそこまでの動きは出来ない。故に『不可能な事』と認識してそれ以上の事が出来ないんだよ。そしてそれは俺とソラも例外じゃない」

 

「このALOはキャラの運動能力はプレイヤーの運動能力に依存する世界。つまりシリカ、その柔軟性は君の最大の長所であり僕達には無い才能だ。そして身体の柔軟性は格闘技に於いて何よりも重要な因子(ファクター)となる。例えば受け身や重心移動。これらの動きに無駄を無くし滑らかで自然な動きを作り出す事が出来るんだ」

 

キリトの言葉に続きソラがそう説明する。

それを聞いてシリカはようやく彼らが自身にナックルを薦めたのかを理解出来た。

ソラの言うように、しなやかな筋肉は滑らかで自然な動きを生み出す事が出来る。

それによって繰り出される攻撃は鞭のように速く鋭いモノとなるだろう。

加えてシリカは短剣を用いたヒットアンドアウェイを重視していたため回避系スキルもそこそこに上げており、装備補正も敏捷寄り。

ナックルによる近接格闘を身につけるには充分な素養を持っているというわけだ。

 

「理由はわかりました。でも、さっきも言いましたけど、あたしは格闘技なんてした事ないですよ? 基礎から学んでたんじゃ……」

 

その後に続くだろう言葉は予測出来る。

きっと間に合わない。

しかし、それはキリト達も織り込み済みだ。

 

「わかってる。だから訓練法もかなりの荒業だ。そして、ここからがソラの出番って訳さ」

 

「僕は子供の頃剣術道場に通っていてね。その時に体捌きの一環として体術も学んでいたんだ。そして訓練法だが、君にはそのナックルを装備し、必要なスキルを使用しながら僕と組み手をしてもらう。実践は何よりの訓練になるし、装備を付けてなら同時に熟練度上げも行える。もちろん確実にスタイルをモノにするならじっくり基礎からの方がいいんだが、今回は時間が限られている。短期間でスタイルを確立出来るかは正直君次第だ。……やれるかい?」

 

ソラの言葉にシリカは息を呑む。

シリカにとってソラやキリト達は雲の上の存在。

そんな彼と実践形式での訓練ともなればキツイ等というモノではないはずだ。

だがシリカの答えは決まっている。

 

「やれます。絶対に、やりきります!」

 

真っ直ぐ迷いの無い目でソラを見据えシリカは応えた。

彼女の言葉にソラは頷く。

 

「さて、それじゃ特訓を始める前に、シリカにはナックルスタイル用の防具も送っておくよ。これもリズが用意してくれた物だ。それと、伝言も預かってる」

 

「伝言、ですか?」

 

「ああ。『頑張んなさいよ』だってさ」

 

それを聞いた瞬間、シリカは目を見開いた。

同時に胸の奥が熱くなるのを感じる。

リズベットはいつもネタを見つけては自分の事を揶揄ってくるし、少々過保護とも思えるような干渉の仕方をしてくる。

だが、仲間の中で誰よりも自分の事を認めてくれている、姉のような存在。

そんなリズベットからの応援(エール)はシリカにとって最高の起爆剤となりうるものだ。

シリカは大きく深呼吸をし

 

「ソラさん、よろしくお願いします!」

 

リズベット渾身の装備を身につけ、訓練に臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

========================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きます!」

 

叫び、シリカは地を蹴って駆け出す。

その速度は主武装(メインアーム)が短剣だった時よりも速い。

あっという間に距離を詰め、放たれる右の拳。

ジュンはそれを躱し、横薙ぎによる反撃を繰り出した。

その一閃をシリカはバックステップで後方に退く事で避け、着地した瞬間加速。

素早く彼の懐に潜り込んで今度は左の拳がジュンの右脇腹目掛けて打ち出された。

 

「っ!」

 

その一撃をジュンは引き戻したフレスヴェルグの腹でガード。

弾くように得物を振って瞬時に引き戻し、身体を時計回りに捻って左斜め上から斬撃を放つ。

迫る紅の刃を躱し、さらに距離を詰めて両の拳による連打。

その連打を躱しながらジュンは彼女の戦い方を分析していた。

 

(……短剣の時より確かに速い。体捌きも無駄がない。けど、やはり付け焼き刃だな。攻撃が左右交互で単調すぎるし、ここぞという時は大振りになる)

 

ジュンの分析通り、彼女の攻めは単調だ。

右を打っては左を繰り出し、また右に戻る。

たまにステップを踏み体勢を変えたりもしているがやはり読みやすい動きをしている。

さらには威力の大きい攻撃に至っては完全な大振り。

その証拠に彼女の全ての攻撃は最も簡単に読まれ躱されている。

表情に焦燥の色が浮かび、シリカは一歩下がる形で右の拳を引く。

 

(来た! 大振りの攻撃!)

 

もちろんその隙を見逃すジュンではない。

拳を打ち出した瞬間に左斜め下から斬り上げようとフレスヴェルグを構えた。

シリカの右拳が動いたその瞬間────彼女の表情が変わる。

口角が上がり、笑みが溢れていた。

まるでこの時を待っていたと言わんばかりに。

彼女の表情に疑問符を抱いた次の瞬間────ジュンは斬撃を放つを踏み止まり頭を後ろに下げる。

目の前を編み上げのロングブーツが()ぎり、直後に空を震わせた。

シリカが繰り出したのは右の拳撃ではなく蹴りだったのだ。

読みとは違う攻撃にジュンの思考が一瞬だけ止まり、体勢を立て直すのが僅かに遅れる。

その隙を逃さず、シリカは即座に脚を下げ左の拳を繰り出した。

体勢の整ってないジュンはその一撃をモロに受け、HPが減少。

 

「っの!」

 

顔を顰め、ジュンは無理矢理フレスヴェルグを左斜め上から振り下ろした。

シリカはその斬撃を寸前のところで上体を思いっきり晒すことで回避する。

そのまま両手を地面に突きバック転で後退。

着地し僅かな溜めの後、思いっきり地を蹴って駆け出した。

駆け出すと同時に右腕を引き絞り、ジュンとの距離が詰まったと同時に繰り出す。

その一撃はジュンの胴へと直撃し、またも彼のHPを削っていく。

 

「くっ……!」

 

ジュンは後退して間合いを取ろうとするが、そうはさせまいとシリカは素早く懐に潜り込んで再び連打を繰り出す。

今度は拳だけではない。

蹴りも織り交ぜた、完全に不規則な高速連打。

一撃一撃が速い上、拳撃と蹴撃のモーションがほぼ同じで見分けが付かずに読むことが出来ないジュン。

辛うじて連打を躱し続けるも、一瞬だけステップを踏み損ねる。

その隙をシリカは見逃さず

 

「せぁ!」

 

身体を捻りながら右足による蹴りが繰り出される。

渾身の一撃であろう蹴撃は段違いの速さでジュンに迫るも、なんとか体勢を整えたジュンはソレを躱しきり、地を蹴って大きく後退。

間合いを空け、ジュンはフレスヴェルグを構え直してシリカを見据えた。

対するシリカは右腕を前に翳し、左腕を後ろに引く体勢で構えている。

ジュンは軽く息を吐き

 

「……やられたよ。装備変更してからの最初の動きは全て、オレに隙を作らせる為にワザと単調にして付け焼き刃のスタイルだと思わせる為のブラフ……だろ?」

 

「武器がナックルだからといって拳だけが攻撃法じゃないですよ? とはいえ、上手くいってよかったです」

 

ジュンの問いに、シリカは小さな笑みを浮かべながらそう返す。

そう、最初の彼女の攻めはジュンの油断を誘う為のブラフだったのだ。

単調かつ大振りな攻撃で攻める事でそれ以外攻撃は無いと思い込ませ、反撃に出ようとした瞬間に本来の攻撃パターンで攻める。

彼女の思惑は上手くいき、ジュンに多大なダメージを与える事に成功した。

現在彼のHPはイエローゾーン、最大値の約4割近くまで減少している。

対するシリカは神聖回復薬による自動回復効果で満タンに近い状態だ。

 

(……ホントに驚かされる……これだけの動きをたった数日で身に付けるには相当な荒業をしたはずだ。それに体捌き。以前限定クエストで見せた時の……いや、あの時以上に柔軟性のある動きだ。繰り出される一撃はまるで鞭のように速いし鋭く重い……)

 

シリカを見据えたままジュンは思考を巡らせていたが、やがて思考を切り、フレスヴェルグを握る手に力を込める。

今まで険しかった表情が少しだけ(ほぐ)れ、小さく笑い

 

「ここまで出来るようになってるなんて思いもしなかったよ。正直、君を甘く見過ぎてた」

 

そこで一度限り、浮かべていた笑みを消して

 

「けど、もうそうは思わない。オレの全力で……君を、シリカを倒す!!!」

 

フレスヴェルグの切先をシリカに向けて構えた。

瞬間、彼の周囲を紅いライトエフェクトが放出。

 

「焔剣────解放!!!!」

 

叫んだ直後、刀身が砕け散り紅蓮の炎が迸る。

ソレは勢いよく収束していき超高温の剣として形成されていった。

その上、彼の身体は鎧の様に炎を纏っている。

奥の手であるフレスヴェルグ固有能力の解放。

シリカを強敵と認め、彼は全力で迎え撃つと決めたのだ。

さらにジュンはポーチから緑の液体が入ってた瓶を3つ取り出して順番に使用していく。

直後、彼のHPが満タン近くまで上昇し、HPバーに自動回復・小と中のアイコンが付与された。

彼が使ったのは上回復薬(ハイポーション)自動回復薬(リジェネポーション)を2種。

彼の焔剣で纏う炎の鎧は使用者に火傷状態を強制付与させる、

その対処策として自動回復薬を2種同時に使ったのだ。

これでジュンは3種全てのアイテムを使い果たしたことになる。

シリカの目に映る全力のジュン。

だが彼女は臆する事なく

 

「なら、あたしも今出せる全てで貴方に────ジュンくんに勝ちます!!」

 

右のガントレットに軽く口付け

 

「リンドブルム……固有能力解放────『竜王の息吹(ドラゴブレス)』!!!」

 

叫んだ直後、彼女の両腕のガントレットが碧のライトエフェクトを纏とい強く輝いた。

 

 

 




勢いよく逆巻く少年の炎。

迎え撃つ少女が両腕に宿すのは────


次回『竜王の息吹(ドラゴブレス)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。