意地と意地
果たして勝つのはどっちだろう?
では101話、始まります。
「リンドブルム……固有能力解放────『
高らかに叫んだ瞬間、彼女の両腕のガントレットが碧のライトエフェクトを纏う。
直後、シリカはポーチから紫色の液体が入った瓶を取り出して一気に飲み干した。
使用したのはMP
一定時間MPを自動回復するアイテムだ。
「ここからが本番です!」
「そうだな。来い!!」
ジュンは逆巻く炎を刃とした焔剣を構え、同時にシリカは駆け出した。
距離を詰めるシリカに向い、ジュンは焔剣による斬撃を放つ。
迫る高熱の刃をヒラリと躱し、さらに間合いに入る為にシリカは足に力を込めて踏み込もうとする。
だか、そうはさせまいとジュンは『モーションキャンセル』を発動。
焔剣は軌道を変えて再びシリカに襲いかかった。
紅の線を描く斬撃を躱すも、炎の刃はまたも軌道を変えて襲いくる。
刀身が無くなり純炎属性の刃となったフレスヴェルグは軽い。
故にこれまで以上の速さで連続斬撃を繰り出す事が出来る。
次々に放たれる斬撃を躱しながら、シリカは懐に潜り込もうとタイミングを測っている。
ジュンが焔剣を右から左へ大きく横薙いだ瞬間、シリカは目を見開いて加速。
瞬時に彼の懐に入り込み、右の拳を引き絞った。
だが、ジュンは焦る様子もなく思考を巡らせる。
(残念だけど、その攻撃、いや、どんな攻撃だろうとオレには届かない。属性を持たない物理攻撃じゃ、この炎の鎧に阻まれて逆にダメージを負うだけだ!)
そう、彼の身体を包むのは純正の炎属性。
攻撃防御に問わず属性は属性でしか対消滅出来ず、物理では決して破る事が出来ない。
彼女の繰り出す攻撃は炎に阻まれ、逆に彼女自身にダメージを返すだろう。
シリカの右拳は勢いよく繰り出され、炎の鎧に接触し────突き抜けてジュンの胴に炸裂した。
「っぐぅ!?」
衝撃が奔り、ジュンのHPが減少。
次いでシリカのHPも僅かだが減少した。
(馬鹿な?! 炎の鎧を突破した??!)
決してあり得ない現象にジュンは驚愕しつつも崩れそうな体勢を堪え、再び距離を取った。
(どうなってる? 物理攻撃の拳撃で属性防御の炎を突破なんて出来るわけがない……考えられるのはシリカがさっき発動させてたあのガントレットの能力……見た感じ攻撃と敏捷に補正が入ってるっぽいがソレ以外にも何かあるのか……?)
先程までの攻防でシリカの速力が上昇しており、また攻撃力も上がっている事をジュンは感じ取っている。
だがソレでは属性防御を突破した理由にはならない。
特殊な能力を除き、属性は属性でしか対消滅出来ないのがこの
そうなると考えられるのはシリカの発動した固有能力がステータス上昇以外にも何らかの効果を持ち合わせているという事になる。
(次の攻防で見極める!)
構え直し、今度はジュンの方から仕掛けるために駆け出した。
距離を詰めて焔剣を振りかぶり、思いっきり振り下ろす。
それをシリカは左側に飛んで避けた───次の瞬間、焔剣は軌道を変えてきた。
先程のシリカがバトルスタイルを変更した直後同様、ジュンはわざと単調な攻撃を仕掛け彼女の行動を誘導したのだ。
シリカは体勢が整っていない。
だが彼女は迫る焔剣に対し、思いっきり左腕を振る。
シリカの左腕が燃え盛る炎の刃に触れ────焔剣の一部が弾けるように掻き消えた。
またしても起きたあり得ない現象。
シリカはそのまま彼の懐に潜り込み、膝を沈めて僅かに溜めて右拳によるアッパーカットを繰り出す。
スプリングが跳ねるような勢いで打ち出されたソレをジュンは寸での処で頭を後方に退く形で回避。
その時、彼は彼女の腕に違和感を感じた。
一瞬だがシリカの腕が揺らめいて見えたのだ。
まるで見えない何かに覆われているかのように───
ジュンは素早く焔剣を戻し、そのまま身体を時計回りに回転させアッパーカットでガラ空きになっているシリカの右脇腹目掛けて焔剣を振る。
それを彼女はジュン同様時計回りに身体を捻り、左腕を焔剣に向けて振る。
そしてまたしても腕が触れた瞬間、炎の刃は掻き消えた。
同時にシリカのHPが僅かに減少。
互いに地を蹴って後退し、距離を取って構え直した。
そしてシリカを見据えながら
「……そういう事か。そのガントレットの固有能力……攻撃と敏捷に補正がかかるだけじゃなくてもう一つ、いや、こっちがメインなんだろうな……今、君は両腕に風を纏わせてる。炎の鎧や焔剣を掻き消したのはソレなんだろ?」
問いかけた。
「流石ジュン君。アレだけの攻防でよく見抜きましたね? 固有能力『竜王の息吹』は発動すると攻撃と敏捷にナックルの熟練度に応じたプラスの補正をかけます。そして推察通り、風を自由に生み出して操る事が出来るようになるんです。ただし発動すると効果維持のために常時MP消費と24時間解除不可の防御半減のデバフがかかりますけどね」
その問いかけに対し応えるシリカ。
固有能力『
装備者の攻撃と敏捷にナックルの熟練度に応じたプラス補正をかけ、さらに風を操る能力を付与する強力な能力。
シリカはこの風を操る能力を用い、両の腕に風を纏わせ彼の炎の鎧と焔剣を対消滅させたのだ。
本来、魔法を始めとした属性攻撃の当たり判定はエフェクトの中心に僅かな点でしか存在しない。
だが、その中にもいくつか例外が存在している。
彼の焔剣はその当たり判定が列を成して連なっている状態で発動するタイプ。
そしてシリカの風も同様で、腕の周りに風属性の当たり判定が連なっている状態で纏わせてるのだ。
故にどの部分に触れようと確実に対消滅を起こして穴を空ける事が出来る。
しかし完全に防ぐ事は出来ずダメージは必ず受けてしまう。
さらにはデメリットとして防御能力半減のデバフもあり、通常よりも大きいダメージを受けると事にもなる。
それでも直撃を受けるよりは遥かにマシであり、完全属性攻撃に対してこれ以上ない有効策でもある。
「こんな対処法をしてくるなんて予想外だよ。でも、完全に相殺は出来ない───その証拠に君のHPは減ってるしな」
「確かにそうですね。でも、言いましたよ? 『竜王の息吹』は風を自由に生み出して操れるって!」
そう叫んだ直後にシリカは地を蹴って駆け出す。
距離を詰めてくる彼女に、ジュンは焔剣による横薙ぎを放った。
それをシリカは跳躍して回避。
そのままジュンの頭上に躍り出て左腕を引き絞る。
ジュンは引き戻した焔剣を後ろ手に構え、再び斬撃を放とうとした次の瞬間。
まだ拳が届かない間合いにいるにも関わらず左腕を突き出してきた。
その行動にジュンは疑問符を浮かべるも、すぐにその意図に気付き斬撃を止めて身体を左側に傾けて逸らした。
直後、強大な風の奔流が吹き荒れる。
そう、シリカは風を撃ち出したのだ。
彼女は言っていた『風を自由に生み出して操れる』と。
それはつまりただ纏わせるだけではない、収束、圧縮、放出、炸裂、その全てを行えるという事だ。
風圧波を躱されたシリカはそのまま空中で身体を捻り、右脚による蹴りを繰り出す。
ただの蹴りではない。
風を纏わせた強力な一撃だ。
焔剣で防御しようにも風を纏わせた攻撃故、対消滅によって蹴りが通れば逆にこちらが大ダメージを受けかねない。
ジュンはさらにバックステップでその蹴りを躱し、一気に後方まで退がって距離を取った。
着地したシリカは地を蹴り、後退したジュンへの追撃に出る。
対するジュンは焔剣を振り上げ
「灼き斬れ……『飛焔』!」
叫び勢いよく振り下ろす。
次の瞬間、散った炎の欠片が刃となりシリカ目掛けて放たれた。
飛び交う無数の炎の刃。
シリカは加速を止め減速。
襲いくる炎の刃を次々と躱していく。
だが全てを躱しかる事は出来ず、幾つかの刃が彼女の身体を掠めていった。
刃が掠める度にシリカのHPが減少。
固有能力のデメリット、防御半減のデバフもありその量は決して少なくはない。
まさかの飛び道具使用にシリカはほんの少し動揺するものの、すぐに落ち着きを取り戻し跳躍して後退。
だがジュンは仕切り直しの暇を与えまいと再び焔剣を勢いよく振る。
直後に散った炎の欠片が刃を生み出しシリカ目掛けて飛翔する。
迫り来る無数の炎刃を前にシリカは思考を巡らせていた。
(まさか遠距離攻撃があるなんて思わなかった。属性は属性でしか対消滅出来ない……あたしにはキリトさんのような反応速度もソラさんのような観察眼も無い。だから全てをピンポイントで対消滅は狙えないし、ユウキさんのような速さも無いから全て躱すなんて無理……でも、それなら!!)
思考を切り、目を見開いたシリカは両腕を振り上げる。
開いた両の手に勢いよく風が集まっていく。
炎刃が目前まで迫ったその刹那
「はぁぁぁ!!!」
両腕を地面に向けて振り下ろした。
瞬間、収束した風が炸裂、強大な衝撃波が巻き起こる。
それは飛び交う炎刃を悉く掻き消し撃ち落としていく。
「な……」
またしても予想外の対処にジュンは驚愕の表情を浮かべている。
そんな彼に
「……ピンポイントで対消滅が狙えないなら……全て躱す事が出来ないなら……纏めて叩き落とせばいい!!」
顔を上げてシリカは不敵に笑い言い放った。
あまりに荒唐無稽な対処法に、ジュンは言葉が出ない。
だが、それもほんの少しの間のみ。
「はは……はははは! なんだよそれ……脳筋すぎじゃんか!」
言葉と共に笑いが込み上げてくる。
その表情はデュエル開始時の時とは違い、心の底から楽しんでいる表情だ。
「むぅ。女の子に対して脳筋は酷いですね?」
ジュンの言葉に頬を膨らませるシリカ。
「だって、まさか全部纏めてなんて思わないじゃん」
なおも笑いならがジュンはそう返した。
だが、その笑顔も僅かな間だけですぐに陰り現れる。
「……ALOは楽しいな……やっぱりVRMMOは楽しいよ……」
彼から出たその言葉は本心だろう。
事実、シリカとのデュエルは今まで彼が経験した対人戦の中でもっとも心躍るデュエルと感じているからだ。
今だけではない。
仲間と共に世界を渡り歩き、旅してきた時も充実していた。
そしてこの
いつまでも仲間達と、シリカと共に旅を続けていたい───と。
だが同時にこうも思っている。
─────でも、楽しいからこそ……好きだからこそ……現実とのギャップが苦しいんだ───
脳裏に過るのは現実での自分。
薬の副作用に苦しみ、いつ進行するかもわからない病気に怯える自分。
俯かせていた顔を上げるジュン。
その表情はデュエル開始時同様の険しいモノ。
次の瞬間、彼を包んでいた炎の鎧が爆ぜる。
焔剣を解いたわけでは無い。
爆ぜた炎は焔剣へと集まっていき収束されていく。
「シリカ……君はオレにとってこの世界での未練だ……だから────」
高密度に圧縮された焔剣の柄を強く握りしめ
「この
叫んだ。
それを聞いたシリカは目を閉じ
「ジュン君の譲れない気持ち、よくわかりました。でも────あたしだって譲れない……だから! あたしも逃げない!!」
見開いてそう叫んだ。
(まさかこの奥の手まで使う事になるなんてな……コイツは使えば焔剣は強制解除されるが、着弾点を中心に数メートル範囲で約30秒間ダメージを与え続ける。シリカのHPはすでに半分を切ってるし、MPも回復薬でブーストしてるが残量はすでに三分の一程度だ。気になるのは3種類目、最後のアイテムを使ってない事だけど、それが仮に属性防御系の補助アイテムだったとして、風の能力と合わせても凌ぐのは不可能だ)
思考を巡らせるジュン。
シリカのHPは先程までの攻防でイエローゾーンに突入しており、MPも残量は三分の一を切っていた。MPは回復薬の効果で少しは待つだろう。しかしすでに神聖回復薬の自動回復は終了しておりHPは回復出来ない。
仮にジュンの読み通り属性防御系の補助アイテムを使い、風によって防御したとしても彼女のHPは尽きてしまうだろう。
彼の握る焔剣の炎はすでに高密度に圧縮されており、迸る余波で自身のHPさえも削っている。
彼の使用した2種の自動回復薬の効果もすでに切れており、HPは徐々に減ってきていた。
超圧縮された焔剣を後ろに引く形で構え、ジュンは柄を握る手に力を込めた。
───戸惑うな……迷うな……
────
─────────終わらせるんだ!!!
目を見開いて一歩踏み出し
「灼き尽くせ──────────『
焔剣を振り抜いた瞬間、超圧縮された炎の刃が巨大な鷲へと形を変えて打ち出された。
周囲の草を焼き払いながらソレは高速でシリカに向かい迫っていく。
「あぁあぁぁぁ!!!!」
迫り来る焔鳥に向い、シリカは咆哮を上げながら左腕に風を纏わせ圧縮。
勢いよく突き出し─────接触した瞬間、巨大な爆音と共に焔鳥は爆ぜ、同時に渦を撒くよう爆炎がシリカを中心に半径数メートル範囲で拡がった。
逆巻く爆炎の勢いは衰える事なく────無慈悲にも
全てを灼き尽くす炎。
勝利を確信する少年。
だが───少女の想いが燃え尽きる事はない。
次回『一緒に歩いていく』