ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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シリカVSジュン

決着の時

では102話、始まります。


第百二話 一緒に歩いていく

 

「……終わった……」

 

目の前に広がる爆炎。

ソレを見ながらジュンは脱力する。

 

────これでいいんだ

 

 

────これで俺は─────

 

 

勢いよく燃え盛る炎から目を背け、ジュンはその場を去ろうとした。

が、ふとある事に気が付いた。

 

「……ウィナー表示が……出てない?」

 

そう、すでに彼の最大の攻撃が炸裂し、シリカを呑み込んでから30秒近く経過してた。

だが未だにウィナー表示は現れない。

振り返ると未だ炎は勢いよく周囲を燃やしている。

揺らめきは大きくなり、さらに勢いを増しているようにも見えた。

 

(もう30秒以上経ってるから炎は段々縮小されて消えるはず……なのになんでまだ勢いを増してるんだ……? ……まさか……?!)

 

そう思考を巡らせた直後。

風が吹き、大地を燃やす炎が─────爆ぜた。

大きな衝撃音が響き、散った炎がポリゴン片となって消えていく。

大気を震わす風の奔流の中、見えてくる人影。

両の腕を広げ、真っ直ぐにジュンを見据えている。

耐久値を削られ装備の至るところは欠損していた。

けれども膝をつく事なく少女─────シリカはそこに健在している。

それだけでも驚くべき事なのだが、ジュンがそれ以上に信じられなかったのは彼女のHPとMPが半分以上にまで回復していた事だ。

 

「バ……カな……あり得ない……」

 

あまりにも信じ難い光景にジュンは只々驚愕するばかりだ。

 

(どういう事だ? どうしてシリカのHPが……いや、HPだけじゃない。MPも回復してるなんて絶対におかしい!)

 

思考を巡らせながらシリカを凝視しているジュン。

その時、彼女を観察していてある事に気が付いた。

大きく左右広げた両腕。

その右手には瓶を握っている。

中身は空である事を見るに、すでに使用しているのは確かだ。

 

(最後の、3種類目のアイテムを使ったのか?! けど、HPとMPを同時に即時大回復出来るアイテムなんて結晶系にもないぞ……それに今のシリカには全属性耐性と状態異常無効のバフまで付いてる)

 

そう、現在シリカのHPバーの隣には全属性耐性と状態異常無効のバフアイコンが表示されていた。

 

(HPとMPを即時大回復して尚且つ耐性や異常無効のバフまで与えるアイテムなんて存在するわけ──────)

 

そこまで思考してふと、ジュンは一つの可能性に行き当たった。

 

(いや、ある。一つだけ存在する……超高難易度クエストや期間限定イベントでしか手に入らない……正真正銘のS級レアアイテム)

 

「まさか……『世界樹の霊水(ユグドシール)』を使ったのか?!」

 

世界樹の霊水(ユグドシール)

それは一部の超高難度クエストや期間限定クエスト等の初回報酬で得られる事のあるS級レアアイテム。

その一切の曇りなき水は飲んだ者の傷と精神を癒し、強靭な肉体を与え、死者をも蘇らせるという。

シリカはジュンの大技が放たれた瞬間にポーチからこのアイテムを右手で取り出し、その存在を悟らせない為に左腕のみを突き出した。

そして着弾するほんの一瞬、僅か1秒にも満たない間に使用。

HPとMPを全回させ、さらにその後の継続ダメージを得られた属性耐性及び異常無効のバフと己が風の能力で凌ぎきったのだ。

 

「そんなS級レアアイテム……一体何処で……?」

 

「これはこの前の限定クエストの報酬の一つです。……託されたんです、シウネーさん達から」

 

「?!!」

 

シリカの言葉に目を見開くジュン。

前日、今日のデュエルの為に調整を行なっていたシリカの元にシウネー達が訪れたのだ。

ジュンとのデュエルの事はキリト達以外には言ってなかったが、おそらく彼女達はジュンから聞いたのだろう。

訪問して来た理由を彼女達に訊ねようとしたが、それより早くシウネーが代表して前に出て『世界樹の霊水(ユグドシール)』を差し出して来た。

戸惑うシリカに、シウネーは微笑んで

 

「リーダーを、ジュンの事をお願いします」

 

ただ一言そう言ってきた。

後ろの3人は何も言わずにシリカに向け笑いかけている。

それだけでシリカは理解出来た。

シウネー達もまた、ジュンに諦めて欲しくないのだと。

シリカは差し出された『世界樹の霊水(ユグドシール)』を受け取り

 

「はい」

 

そう短く返したのである。

 

「このデュエルはあたしの我儘です……けど、託された想いがある……だから……」

 

そこで区切り

 

「あたしは、絶対に負けない!!!」

 

そう叫んでシリカは構えを取る。

 

「っ!」

 

ジュンは動揺を振り払うように左手を振る。

直後にメニュー画面が表示された。

彼のフレスヴェルグの焔剣は既に解除されており刀身無い。

武器を変更して応戦するつもりなのだろう。

だが直後、シリカが弾かれたように駆け出す。

踏み締めた地面が爆ぜ、まるでロケットのように加速する。

足に纏わせた風を炸裂させて推進力として使ったのだ。

今までで最高の加速力。

彼が武器を変える前にシリカはジュンの懐に入り込み

 

「せぁ!」

 

左腕を突き出す。

 

「がっ!」

 

突き出された左手には風が圧縮されており、彼の胴へと直撃した。

しかしそれで終わった訳ではない。

圧縮された風圧弾はさらに勢いよく周囲の大気を取り込んでいく。

 

「切り裂け─────『風刃』!!」

 

言霊を吐いた瞬間、超圧縮されていた風圧弾が炸裂。

無数の鎌鼬を生み出し、ジュンの身体を切り裂いていった。

 

「っ……ぁっ!!」

 

焔剣のデメリットによる火傷でHPがレッド近くまで減少していたジュン。

無数の鎌鼬は容赦なく彼のHPを削り取り、ジュンの身体は爆散、リメインライトと化した。

直後に『勝者 シリカ』とシステムメッセージが表示される。

 

「……勝った?……あたし……勝ったんだ……」

 

呟き、シリカは息を吐いて空を見上げた。

空はいつの間にか薄暗くなりフィールドには月が浮かび始め、星が瞬いていた。

圧倒的実力差がありながらも、それを覆しシリカは勝利を手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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デュエルが終わり、シリカはアイテムストレージから蘇生用アイテムである『世界樹の雫』を取り出し、リメインライト化したジュンへと使用する。

水色のライトエフェクトに包まれた後、揺らめく炎は徐々に人の形を形成していく。

 

「ジュン君、大丈夫ですか?」

 

声が聞こえ、目を開くとそこには心配そうな表情で覗き込んでくるシリカの姿あった。

装備はナックルスタイルからいつものモノに戻っている。

ジュンは軽く息を吐いて

 

「……平気だよ。はは……負けちまったなぁ……」

 

言いながら苦笑いを零す。

突き放すような威圧感は既に無い。

いつもの彼の雰囲気にシリカは安堵の表情を浮かべる。

 

「にしても、『世界樹の霊水(ユグドシール)』は読めなかったな。それだけじゃない……まさかこんなに強くなってるなんて思わなかったよ……完全に君の事をナメてた」

 

「そうですね……あたしも正直勝てないかもって思ってました。でも、やっぱり負けたくないから……頑張りました」

 

ジュンの言葉にシリカは言いながら笑う。

そして彼をまっすぐに見て

 

「……約束、覚えてますよね?」

 

問うた。

ジュンは頷いて

 

「君が勝ったら君の話を聞いて、その上でどうするかを決める。ちゃんと覚えてるし、約束は守るよ。だから……聞かせてくれ、君の話ってヤツを」

 

そう返した。

 

「……ジュン君はあたしが『SAO生還者(サバイバー)』なのはもう知ってますよね?」

 

「ああ。でも、確かナーヴギアのレイディングってR-13だったよな……シリカはオレと歳は変わらないんだろ? なら……」

 

「はい、あたしも今年で16です。つまり2022年────4年前は12歳でした。今から話すのはあたしがどうしてレイディングを破ってSAOにログインしたのか……その理由です」

 

シリカそこで区切り、ジュンに背を向けて数歩歩く。

彼との距離が1メートルくらいになったところで足を止め振り向く。

まるで自嘲するように笑いながら

 

「あの頃あたしは─────イジメられていたんですよ」

 

そう告げた。

2022年、シリカ────綾野珪子は学校生活を謳歌していた何処にでもいる少女だった。

友達もそれなり多く、楽しい毎日を送っている本当に普通の女の子でしかなかった。

それが一変したのは、彼女が1番の親友だと思っていた子に将来の夢を打ち明けた事から始まった。

翌日、その子によって語った将来の夢をクラス中に吹聴され、さらには手の平を返したように集団でのイジメが始まったのである。

初めのうちは無視する等比較的に軽度だった行為も、日が経つにつれエスカレートしていった。

私物は盗まれ見つかった時には壊されていたり、故意に転ばされるなど身体的な害が及ぶ行為にまで発展していく。

仲の良かった筈の友達たちも自分達が巻き込まれないようにする為か、珪子がイジメられているのを見て見ぬふりをする。

家族にも心配かけたくない一心で打ち明けることも出来ない。

無邪気に繰り返される拷問にも似た行為、さらに誰も味方になってくれない絶望。

日々を過ごす内に彼女の心は徐々に磨耗していき、ここではない世界に逃げたいと思うのは必然とも言えるだろう。

桂子は以前ネットのプレゼント企画で限定1名でナーヴギアが当たるという抽選に当選しており、ナーヴギアを手に入れていた。

そして運命のあの日、桂子はナーヴギアのレイディングを破りSAOにシリカとしてログインしたのである。

ログインした直後は辛い現実から解放された高揚感で満たされたが、それもすぐに終わりを告げる。

デスゲーム開始の宣言によって。

最初は取り乱したものの、彼女は内心では安堵していた。

 

『これで辛い現実に戻らなくて済むのでは』と。

 

しかしすぐに現実を再認識し、途方に暮れる事になる。

デスゲームが開始されて数日後には同じレイディング破りのプレイヤーを保護する孤児院が出来た事を知るシリカだが、そこの世話になる事は選ばなかった。

正確には選べなかった。

現実でのイジメの被害経験が彼女に『ここでも同じ事になるのでは?』と考えさせたのだ。

さらに彼女は『幸運と不幸は交互にやってくる』というジンクスをいつの間にか信じ込むようになっていたのである。

こうして彼女は現実(リアル)でも仮想(VR)でも居場所を見失い、自殺する事も出来ずゆっくり腐っていく状況に陥っていった。

だが、そんなある日、『はじまりの街』の一角で現実での飼い猫とそっくりな野良猫を見かけ衝動的に追いかけた。

そして追いかけた先にあった廃屋にある落とし穴にて彼女は赤い鞘に入った短剣と大量のコルを手に入れ、『はじまりの街』で揃えられる最高の装備を買い揃える。

この偶然が(もたら)した幸運がシリカを縛っていたジンクスを振り払い、己が居場所を手に入れるための一歩となったのだった。

 

「こうして、あたしは『はじまりの街』を出ました。いろんな人とパーティを組みながら戦って……死なない為に必死で生きて……そしてピナをテイムしてからはもう1人じゃないって思えるようになりましたよ。といっても、やっぱり人と深く関わるのは怖かったですけどね。特に男の人はすぐに求婚してきましたし……」

 

言いながらシリカは苦笑いを零す。

話を聞いているジュンは表情こそ変えないものの内心ではかなり驚いていた。

それもそうだろう。

いつも明るく、笑顔の絶えないこの少女がまさかそんな経験をしているなんて思わなかったからだ。

だがそれとは別に納得している部分もあった。

以前のグレンデル戦でジュンが焔剣を用いて己を顧みず特攻をした時、彼女は自分に対して『死んだらどうするんだ?』と言葉を投げかけている。

ここALOではHPが0になっても本当に死ぬ事はない。

しかし、SAOというデスゲームを経験した彼女にとってHPが0になるという事は、たとえ頭で理解していても『死』に直結すると思ってしまうのだろう。

さらにレイディングを破ってまでSAOに手を出した原因であるイジメ。

友人だった筈の者達が一斉に敵となり、頼れる者はおらず、また頼りたかった筈の家族にも迷惑をかけたくない一心で頼らない事を選ばざるを得なかった。

その状況は彼女の心をどれほど蝕んでいたのだろうか?

ジュンは思う。

事情も境遇も全く違う。

しかしそれでも思った。

現実にも仮想にも絶望している自分と同じだ、と。

いや、下手をすれば彼女の方が闇が深いのではないか? とも思う。

薬の副作用や病気の進行は確かに恐怖だし、現実と仮想のギャップに心が削られているのは彼自身にしかわからない葛藤だが、自分はまだ家族に弱音を吐けたし、同じ闘病の苦しみを知っている仲間もいる。

なんとも言えない複雑な感情がジュンの胸中を渦巻いていた。

 

「そうしてなんとか過ごしてたんですけど、ある日パーティを組んだメンバーの1人と些細な事で諍いを起こしてしまって……あたしはパーティを抜けて迷いの森』っていう難所をソロで抜けようとしたんです。そこであたしは油断して……ピナを死なせてしまって……あたしも殺されそうになりました。でも、その時だったんです、キリトさんに助けられたのは」

 

かつてあの場所で起きた事を懐かしみながらシリカは言う。

 

「見ず知らずのあたしの為にパートナーのユウキさんと一緒に、ピナを蘇らせるのを手伝うって申し出てくれたんですよ。最初は警戒しましたけど、すぐにいい人達だってわかりました。諍いを起こした人と街で再開した時、ピナの事で厭味を言われた時もすぐに庇ってくれて、ピナを蘇らせるアイテムがあるダンジョン攻略も手伝ってくれて……まるで本当のお兄ちゃんとお姉ちゃんみたいだってそう思いました」

 

あの日、自身の慢心によって大切な相棒を死に追いやってしまい、助かったもののまた1人に戻ったと悲しみに暮れた自分。

そんな彼女に、優しく手を差し伸べてくれたキリトとユウキ。

2人がしてくれたことを思い出し、シリカの表情が綻んでいく。

 

「でも、やっぱり打算もあったんですよ。実はキリトさん達、ある人を追って中層エリアまで降りてきてた攻略組の人達だったんです。そして、その追っていた人っていうのが、あたしと諍いを起こした人だったんですよ。その人は犯罪(オレンジ)ギルドのリーダーで、あたし達が手に入れたアイテムを奪おうと仲間を引き連れて待ち伏せてたんです。あたしはもうダメだって思いましたけど、2人は違いました。キリトさんは圧倒的な人数差にも怯まずに立ち向かって、ユウキさんはそんなキリトさんを信じて支えて、理不尽な行いを正当化しようとするあの人に本気で怒って……凄いなって思った。あたしも、あの2人みたいになりたい、キリトさんように理不尽な事に立ち向かう勇気を持ちたい、ユウキさんのように大切な誰かを支えられる強さを持ちたいって……そう思えた」

 

そこで一旦区切り、シリカはジュンに歩み寄って

 

「キリトさん達に出会えたから、あたしはまた人を信じられるようになった。もう一度、前を向けるようになったんです」

 

ハッキリとそう言った。

それを聞いてジュンは理解する。

確かに彼女は自分と同じだったのかもしれない。

けれど、シリカはそれを乗り越えたのだ。

キリト達と出会い、その強さに触れ、目標とする事で止めていた足を再び前に踏み出したのだと。

 

「こんなあたしでも、また前を向けた。変わる事が出来た。だから────あたしはジュン君にも諦めて欲しくない」

 

真っ直ぐに彼を見つめながら言うシリカ。

その曇りのない瞳が眩しく見えて、ジュンは目を晒してしまう。

頭ではわかっている。

でも、やはり自分には─────と、諦めが脳裏を過ぎる。

そんな彼に対し、シリカはさらに歩み寄って

 

「でも、これはあたしの我儘でしかありません。どうするかは、やっぱり自分自身で決めないとダメだと思います。だから────聞かせてください、貴方が本当はどうしたいのかを」

 

そう問うた。

言葉に詰まるジュン。

だがシリカは構う事なく続ける。

 

「貴方がどんな答えを選んでも、選んだ答えの先にどんな結末が待っていたとしても、あたしはそれを受け入れます。その為に──────」

 

ジュンの右手を自身の両手で包むように握り

 

 

 

 

 

 

「ずっと─────ジュン君の隣にいます」

 

 

 

 

微笑みながらそう告げた。

その言葉が耳に届いたジュンは晒していた目を彼女に向ける。

 

「貴方の側で、隣で、ずっと貴方を支えていきます。だって────あたしはジュン君と一緒にいる事を諦められないから」

 

「……」

 

「だから聞かせて? ジュン君の本当の気持ちを」

 

彼を見つめながらシリカは再度問う。

ジュンは顔を俯かせ、沈黙する。

やがて

 

「……ぃ……だ……」

 

小さく声が漏れる。

 

「嫌だ……嫌だ! オレは……ALOを、VRMMOを辞めたくない!」

 

顔を上げて叫ぶジュン。

 

「オレだって諦めたくない! もっとシウネー達と冒険がしたい! 現実だって、病気になんて負けたくない! 健康になって学校にだって行きたい! もっと君と……シリカと一緒にいたい!!」

 

箍が外れたように自分の気持ちを曝け出していく。

辛くて、苦しくて、彼は全てを諦めようとしていた。

けれど、やはりダメだった。

いつの間に涙を溢し、ジュンの蓋をしていた本心が言葉になって現れた。

やがて彼は膝から崩れ落ち、嗚咽だけが漏れていく。

そんな彼をシリカは包み込むように抱きしめる。

あやす様に彼の頭を撫でながら

 

「あたしも、貴方と一緒に居たいです。だから─── 一緒に歩いていこう、ジュン君」

 

そう優しく耳元で囁いた。

その言葉は彼の心の箍を完全に外し

 

「う……うぁ……あぁぁぁ!」

 

声を上げて涙を流す。

泣きじゃくるジュンを、シリカは彼が泣き止むまで優しく抱きしめ続けた。

やがて嗚咽が止み、ジュンは顔を上げる。

一頻り泣いたからか、彼の表情は憑き物が落ちた様に晴れやかなモノだ。

 

「ごめんな、シリカ。みっともないとこ見せてさ……」

 

「そんな事ないです。泣きたい時は誰だって泣くんです。ジュン君の本当の気持ち、訊けてよかった」

 

シリカが微笑みながら言うと、ジュンは照れて様に頬を掻き

 

「シリカ……オレ、新しい薬の治験、受ける事にするよ。ALOも続ける。やっぱり、諦めたくないんだ。だから────」

 

「はい。ずっとジュン君と一緒に、貴方の隣にいます。これからも一緒に─────歩いて行こうね」

 

ジュンの言葉にシリカは最高の微笑みで返す。

2人は額を当て合いながら、照れたように微笑み合う。

互いに想いをぶつけ合い、少年と少女は心を通わせあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===========================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュンとのデュエルから1週間後。

空都ラインに点在するエギルの喫茶店にキリト達は集まっていた。

本日もスヴァルトエリアを攻略予定にしており、皆張り切った様子である。

ただ、そこにジュンの姿はない。

彼は今現在ALOへのログインを一時的にだが辞めている。

シリカとのデュエルを経て、ジュンは新しい薬の治験を受ける事を決めたのだが、薬の効果と副作用がどの様に出るか未知数だからである。

さらにその副作用の苦しみを遮断していた『メディキュボイド』の治験が一時終了した為、出力の弱いアミュスフィアでは万が一も考えられると医者からストップがかかっている為である。

そしてもう1人、シリカの姿も見えない。

彼女はジュンと連絡を取ってからログインするとの事で、キリト達は彼女の到着を待っている状態だ。

 

「にしてもよぉ、シリカちゃんも思い切った事をしたもんだなぁ。ジュン坊とデュエルなんてよ」

 

「そうね。新しい戦い方を身につけて、しかも勝ったなんて」

 

悪趣味なバンダナを撒いたサラマンダーの男─────クラインの言葉にそう応えたのは水色の髪をしたケットシーの少女────シノンだ。

クラインを始め、シリカの特訓に携わった者達以外は事が終わってから経緯を聞かされており、マスコット的存在だった彼女が大化けした事に心底驚いたのは記憶に新しい。

 

「それだけ真剣だったって事じゃないないかなぁ。なんにしてもいい結果になってよかったよー」

 

「レインさんの言う通りかもね。けど、これでホントにシリカちゃんに先越されちゃったぁ」

 

笑顔で言う赤髪のレプラコーン────レインの言葉に同調した後、項垂れながら言うのは金髪のシルフ────リーファである。

そんな彼女にキリトは苦笑い気味で声をかける。

 

「まぁまぁリーファ。素直に祝福してやれって」

 

「そうそう。それにリーファは可愛いんだからすぐにいい人見つかるって。というかレコンとはどうなの?」

 

項垂れているリーファにインプの少女────ユウキが問いかけると彼女は高速で首を左右に振り

 

「んな?! な、ななな、なんでレコンが出てくるんですか?! アイツはただの友達です!!!」

 

力強く返す。

その様子を見てウンディーネの少女と青年は苦笑いになり

 

「あはは……レコン君、がんばれ」

 

「まぁ、今のを聞いてたとしても、彼はめげないだろうけどね」

 

と口にする。

そんな和気藹々とした空気の中、ただ1人ショートボブのレプラコーン────リズベットは何処か不機嫌そうな雰囲気を醸し出している。

それに気付いたユウキは

 

「どしたのリズ?」

 

問うてみると

 

「いや、シリカ遅すぎない? いくらジュンに連絡入れてからっていってもさ……まさか、また変なのに絡まれてんじゃないでしょうね!」

 

不機嫌そうな表情をしていたかと思えばまた以前の様に厄介なナンパにでも引っかかっているのかと想像し慌てた表情となる。

そんな百面相をしているリズベットを見ながら

 

「心配しすぎだろ、オカンかオメェさんは」

 

と宣うのはクラインだ。

するとリズベットは勢いよく振り返り

 

「誰がオカンよ! うっさいわね!」

 

言いながらクラインを睨みつける。

相変わらずのやり取りをキリト達が微笑ましく眺めていると店の扉が勢いよく開かれた。

驚いて振り返ると、そこにいたのは相棒である子竜を釣れたケットシーの少女────シリカだった。

仮想世界で身体的な疲労はないが、慌てて来たのだろうか息を切らしている。

 

「ちょ、どしたのシリカ?」

 

驚く皆を代表して訊ねたのはユウキだ。

 

「……ジュン君……ジュン君が……」

 

「ジュン? ジュンがどうかしたの? まさか……」

 

顔を俯かせ呟いているシリカにユウキが心配そうに問いかけると

 

「ジュン君の悪性腫瘍……小さくなってるそうです!!」

 

彼女は顔上げてそう叫んだ。

一瞬、何を言ってるのか理解出来ずキリト達はフリーズするも、シリカは構う事なく続ける。

 

「新しい薬が劇的に効いたって、副作用もそんなに辛いものじゃないって────」

 

「ちょちょちょちょーい! シリカ、落ち着きなさいって」

 

興奮気味に捲し立てるシリカをリズベットがどうどうと宥めていく。

やがて落ち着いた彼女は

 

「す、すみません……」

 

そう言ってペコリと頭を下げて来た。

 

「気にしなくていいさ。それで、ジュンの悪性腫瘍が小さくなったって本当かい?」

 

「はい。今日治験の一次検査の結果が出たそうなんですけど、確かに小さくなってるそうです。もう少し小さくなれば手術で摘出も可能だって、上手くいけば年内は無理でも来年には退院して学校にも通える様になるかもって……副作用も以前の様に重いものじゃないそうで、まだ経過観察が必要ですけどアミュスフィアの体感キャンセル機能でも充分遮断出来るレベルだって言ってました」

 

ソラからの問いにシリカはそう返す。

その表情は心の底から嬉しそうだ。

 

「ALOももう少し経過を見て許可が出たらログインしてもいいって言ってました」

 

「そっかぁ……よかったね、シリカ!」

 

「本当にな。シリカの頑張りがいい結果に繋がって何よりだよ」

 

「そうね。これはアレよ! シリカの『愛』がジュンの運命を変えたって事よ! ねぇ、シリカ〜?」

 

素直に皆が祝福する中、やはりと言うかリズベットは意地の悪い笑みを浮かべてシリカに言う。

キリト達は苦笑いだ。

彼女からの揶揄いを受け、シリカはいつもの様に頬を────

 

「そうだと───いいなぁ」

 

膨らませる事なく、逆に朱に染めて恥じらう様に呟いた。

その姿を見たリズベットは一瞬だけ凍りつくもすぐに後退って

 

「あー……ダメだわ。これはダメね……隙がないわ」

 

呟く。

可愛い妹分の戸惑う姿を見ようと画策するも、逆に惚気られるというカウンターを喰らったリズベットの精神的ダメージは計り知れないだろう。

しかしその表情は何処か嬉しそうだ。

なんだかんだ言いいつつも、シリカの頑張りが報われたのが嬉しいのだろう。

 

「さて、みんな揃った事だし、そろそろ攻略に行こう!」

 

気を取り直し、キリトがそう声をかけると

 

『おおー!!』

 

皆は声を揃えて返して来た。

こうして少女と少年の間に起きた問題は解決し、彼らは再びスヴァルトエリア攻略に取り掛かるのであった。




激化する攻略合戦。

巨大ギルドの攻略速度に焦る少年達。

そんな中、音楽妖精(プーカ)の少女が少年達の元に訪れる

次回『クラウド・ブレイン』
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