ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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連続投稿いたしませう。

まさかこの短時間で書き上がるとは・・・

やってみるもんだね私!!


ではどうぞごらんあれ~なのです!


第三十五話 絆

閉じられたドアの前で和人は考え込んでいた。

自分が直葉に言われた事は概ね正しい。

本当の妹ではないから遠ざけていた。それは間違っていなかった。

だが、それは彼が意図的にそうしたかったわけではない。

しばらく考え込んでいた和人だが、意を決した表情で立ちあがる。

ドアに方へ視線を移し

 

「スグ。アルンの北側のテラスで待ってる」

 

そう告げて自室に戻っていった。

再びナーヴギアを被り、ベッドへ横たわり

 

「リンク・スタート!」

 

再び意識を仮想世界へと繋げたのだった。

目を開けば、そこはアルンの最上部。

視界にはウンディーネの少女――アスナがいた。

戻ってきたスプリガン――キリトに気付き、アスナは心配そうな表情で

 

「キリト君。どうだったの?」

 

尋ねてくる。

キリトは何も言わずに翅を広げて飛翔した。

アスナは訳もわからず、彼の後を追う為自身も翅を広げて

 

「待って、キリト君!」

 

彼の後を追いかけた。

キリトが向かったのはアルンの北側のテラスだった。

閑散とした石畳の上にキリトは降り立つ。

次いでアスナも着地して

 

「どうしたのよ? なんでこんな所に?」

 

疑問符を浮かべてアスナは問いかけた。

キリトは振り返らずに

 

「……スグ……リーファにここで待ってるって言ったんだ。だからここに来た」

 

そう答える。

 

「ねぇ、教えて。貴方とリーファちゃんはどういう関係なの?」

 

アスナは真剣な表情でキリトに尋ねるもキリトは振り返らない。

そのまま空を見上げて

 

「妹だよ……厳密には従妹だけどな。俺の本当の両親は物心つく前に死んで、母親側の妹夫婦に俺は育てられた」

 

「そう……なの?」

 

「俺が10歳の時、住基ネットの戸籍表示に抹消記録印があるのに気付いて、今の両親に問いただしたんだ。あの時2人とも呆気に取られてたなぁ。まさか気付くなんて思ってなかったって。でも、その頃から、俺は他人との距離が解らなくなっていったんだ。目の前にいる人は一体誰なんだろうって……いつも一緒にいた家族にさえもそう思うようになった……」

 

告げられるキリト―――和人の過去。

アスナは息を呑んで聞き続ける。

 

「その違和感が、俺をネットの世界に向かわせる理由の一つだった。誰も本当の事は知らない、偽りの世界……そんな心地いい世界に、俺は耽溺していったんだ」

 

そこで一度区切り、息を吐いて

 

「けど、SAOで俺は一つの真理に気付いたよ。現実も仮想世界も本質的に変わらない。その人が誰かという疑問に意味はない。出来るのはただ信じ、受け入れることだけ。自分の認識する誰かが、本当のその人なんだからって。だから、現実に帰還した時、俺は誓ったんだ。スグとの間に生まれてしまった距離を、全力で取り戻そうって……けれど、俺はあいつを傷付けた……見ているつもりで、見えていなかったんだ」

 

言いきってキリトは振り返る。

アスナの目に映った彼の表情は悲しそうなそれだった。

 

「そんな俺が……スグに出来る事……それは」

 

言いながらキリトは視線をアスナの先に向ける。

それに気付いてアスナは振り返った。

視線の先には一人のシルフが飛んできている。

リーファだった。

彼らのいる石畳にリーファは降り立つ。

 

「やぁ」

 

彼女に視線を向けつつ、キリトは強張りながらも笑ってみせた。

 

「おまたせ」

 

同じように、ぎこちない様子で答えるリーファ。

 

「スグ……」

 

「まって。お兄ちゃん、試合しよ。あの日の続きを」

 

何かを言いかけたキリトを制し、リーファがそう言ってきた。

キリトは呆気にとられる。

そんな彼に構うことなく、リーファは腰の愛剣を抜き放った。

 

「ちょ、リーファちゃん!?」

 

アスナは驚いて彼女に駆け寄ろうとする。

しかし

 

「アスナ、止めないでくれ」

 

キリトがそれを制した。

困惑しながらアスナは2人を見る。

キリトは真剣な表情で彼女に視線を送り

 

「これは必要な事だから……止めないでくれ」

 

そう告げた。

その想いが伝わったのか、アスナは頷いて数歩下がった。

キリトは小さく笑って

 

「ありがとう」

 

呟き、背の黒の大剣を抜き放つ。

 

「―――今度はハンデ無しだな」

 

不敵に笑ってキリトは構えを取った。

その構えを見たリーファは、キリトとあの日の和人が重なって見えた。

納得したように微笑を浮かべて

 

「道理でサマになってたわけだね―――いくよ!!」

 

地を蹴った。

一気に距離を詰めて、放たれる斬撃。

それをキリトは体を捻りながら巨剣を振り、受け流した。

小気味いい金属音が響く。

剣が弾かれた衝撃を利用し、2人は地を蹴って飛翔した。

二重螺旋状に軌跡を描きながら急上昇し、交錯点で剣を打ち合う。

爆発にも似た音と光のエフェクトが宙に轟き、世界を震わせる。

どんどん離れていく2人を追うように、アスナも石畳から飛翔する。

無駄のない、舞踏のように美しい動作で攻防一体の剣技を繰り出すキリトにリーファは感嘆せざるを得なかった。

この世界で幾度もデュエルをしてはいたものの、純粋に剣技のみで彼女と渡り合った者はいなかった。

そんなリーファを上回る剣の腕の持ち主が、自分の兄であることが彼女にはたまらなく嬉しく、気持ちを高揚させていく。

たとえ、二度と心が交わる事がないとしても、リーファに悔いはなかった。

何度目か打ち合いで剣を弾かれた衝撃を利用し、宙を跳ね飛んで大きく距離を取った。

浮島の一つに着地し、翅を広げて、高く、高く、大上段に構えを取る。

これが最後の一撃だろうとキリトは悟り、体を捻り、大きく剣を後方に引いていく。

そんな二人の様子を、少し離れた位置からアスナが固唾を呑んで見守っていた。

一瞬、凪いだ水面のような静謐が訪れた。

リーファの頬を涙が伝い、雫となって落ち、静寂に波紋を広げる。

同時に2人は動き出した。

空を焦がす勢いで、リーファは宙を駆けた。

長刀が、眩い弧を描いていく。

正面ではキリトがダッシュしているのが見える。

巨剣が輝き、空を裂いて飛ぶ。

リーファの愛刀が頭上を越えた時―――彼女はその柄から手を離した。

目を閉じ、両手を広げて落ちていく―――――キリトの剣を受け入れる為に。

キリト―――和人を傷付けた罪がこんな事で赦されるとリーファは思ってはいない。

しかし、彼女にはこれしか思い浮かばなかったのだ。

両手を広げ、その時を待つ―――しかし、白い光に溶けつつある視界の中で、飛翔してくるキリトの手の中にも剣は無かった。

落ちてくるリーファをキリトは抱きとめる。

衝撃で2人の身体は回転し、青い空と世界樹をぐるぐると横切っていく。

 

「どうして―――」

 

「なんで―――」

 

2人は同時に問いかける。

一瞬の沈黙。

それを破ったのはキリトだった。

 

「俺――スグに謝ろう思って―――でも……言葉が出なくて……せめて、剣を受けようって……」

 

言いながらキリトはリーファを抱きしめる。

 

「ごめんな―――スグ。俺、ちゃんとお前を見てなかった。自分の事ばかりに必死になって……お前の言葉を聞こうとしてなかった……ごめんな」

 

その言葉を受け止めると、リーファの目からは涙が溢れだした。

キリトの胸に顔を強く埋めて

 

「私……私の方こそっ……」

 

涙声で言うリーファ。

そんな彼女の頭に手を置き、キリトは優しく撫でながら

 

「俺……本当の意味では、まだあの世界から帰ってきてないんだ。まだ終わってないんだよ。彼女が目を醒まさないと、俺の現実は始まらない……だから、今はまだ、スグの事をどう考えていいのかわからないんだ」

 

そう告げる。

リーファは小さく頷いて

 

「私、待ってる。お兄ちゃんがちゃんと私達の家に帰ってくるその時を。だから、私も手伝う!」

いつもと同じ笑顔でそう告げた。

 

キリトはそれに笑顔で返す。

離れた位置で、アスナは目に浮かんだ涙を拭いながら2人の様子を見て微笑んだ。

そんな彼らの下の地上では、黒の大剣と白銀の剣が寄り添うように交差して地に刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に落ちた剣を回収し、キリト達はゲート広場へと飛んでいく。

やがて、広場が見えてくると、視界に2人のプレイヤーがいるのを捉えた。

一人はシルフの少年―レコンだ。

もう一人はウンディーネの男性だ。

身長は180センチくらいで、白のレザージャケットにボトムスを身につけている。

腰には片手剣を装備していた。

見覚えのない人物にリーファとアスナは疑問符を浮かべている。

広場に降り立つキリト達。

レコンの隣にいるウンディーネを見てキリトは目を見開いた。

 

「まさか……ソラ?」

 

「あぁ。ようやく追いついたよキリト」

 

ウンディーネの男性―――ソラは微笑んで答えた。

髪の色こそウンディーネの特有の水色だが、印象的な空色の瞳は変わっていない。

何処までも冷静で、頼りがいのある親友が今、キリトの目の前にいたのだ。

 

「どうして? 大学とかは?」

 

疑問符を浮かべてキリトは問いかける。

 

「大学に顔の利く知り合いがいてね。事情を話したら、大学に時間をくれるように掛けあってくれたんだ」

 

「そうなのか」

 

「ねぇ、キリト君。誰なの?」

 

アスナが小声で問いかけてきた。

 

「あー。詳しい紹介はまた今度するとして、彼の名はソラ。頼りになる親友さ」

 

「初めまして、ソラと言います。キリトが無茶をして迷惑かけませんでしたか?」

 

クスクスと笑いながらソラは尋ねる。

 

「ア、アスナです。えっと……何度か無茶してましたね」

 

返ってきた返答にソラは苦笑いでキリトを見た。

当のキリトはバツの悪そうな表情をしている。

 

「レコン。この人がさっき言ってた人?」

 

「うん。そうだよ」

 

傍らではリーファとレコンが話している。

そんな彼らにソラは視線を向けて

 

「彼にはお世話になったよ。ログインしてみたらバグでホームタウンじゃない森に転送されてね。途方に暮れていた時に偶然彼が通りかかったんだ。ここまで道案内してくれて、色々この世界の事も教えてもらったよ。おかげで随意飛行も、すぐに会得できたしね」

 

「そ、そんな! 僕こそ戦闘面では大いにお世話になりましたし。随意飛行はリーファちゃんから聞いてたコツを教えただけだし。なのに僕はまだ随意飛行できないし!!」

 

「へぇ……やるじゃないレコン」

慌てふためくレコンの肩をリーファが叩く。

改めてソラはキリトと向かい合い

 

「そんな訳で、ここ一番で手を貸すことができそうだ」

 

「あぁ。ソラがいてくれれば百人力だ!」

 

互いに右拳を突き出してぶつけあう。

アスナとリーファも頷きあい、巨大な扉に視線を向けた。

キリト達も扉に視線を向ける。

只一人、レコンのみが事情を呑みこめずにいた。

 

「えっと……リーファちゃん。どういうことなの?」

 

問いかけてくるレコンに視線を向けて

 

「世界樹を攻略するのよ。キリト君とアスナさん、そこのソラさんとあんたと私の五人でね」

 

素敵な笑顔でそう告げた。

 

「へぇ~……って、えぇぇぇぇ!!!」

 

顔面蒼白になってうろたえるレコン。

そんな彼を余所に

 

「ユイ、いるか?」

 

問いかけると、空中に光の粒子が凝縮し、小妖精が姿を現す。

 

「もう! 遅いです! パパが呼んでくれないと出てこれないんですからね!」

 

ユイは頬を膨らませて言いながらキリトの肩に乗った。

突然現れた小妖精にソラは驚いた表情をしている。

 

「キリト……パパってどういうことだ?」

 

否、存在に驚いたのではなく、キリトをパパと呼んでいる事に驚いている。

 

「それは今度説明するよ」

 

「どちら様ですか?」

 

ユイはソラに視線を向けて首を傾げた。

 

「えっと、ソラと言います。初めましてユイちゃん」

 

「はい、初めましてです。ソラさん」

 

軽く挨拶を交わし合うウンディーネと小妖精。

キリトは小さく咳払いし

 

「ユイ。さっきの戦闘でわかった事はあるか?」

 

尋ねてみる。

 

「ステータス的には、さほどの強さではありませんが、出現数が多すぎます。あれでは攻略不可能な難易度に設定されてるとしか……」

「ふぅむ」

 

返答を聞いて唸るように考えるキリト。

やがて顔を上げて、振り返りリーファ達を見る。

 

「すまない。もう一度だけ、俺の我儘に付き合ってくれないか。なんだか嫌な感じがするんだ……もうあまり時間が残されていないような……」

その言葉に一瞬の沈黙が訪れるが

 

「もう一度やってみよ。私に出来る事ならなんでもする。もちろんレコンもね!」

 

リーファが言いながらレコンを肘でつついた。

 

「えぇ~……まぁ、僕とリーファちゃんは一心同体だし―――いだぁ!」

 

「調子にのるな!」

 

レコンの言葉が終わるや否や、リーファの拳が彼の頭に炸裂する。

その様子を見てアスナは微笑み

 

「ここまで来たら、最後まで付き合うよ。私にとっても他人事じゃないからね」

 

言いながらキリトに視線を向ける。

 

「僕は君の力になる為にここに来たんだ。全力で障害を斬り払うさ」

 

ソラも不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「リーファ、レコン、アスナ、ソラ……皆、ありがとう」

 

彼らに向かい合い、キリトは心から感謝の言葉を告げる。

 

「前衛は俺とソラが務める。リーファ達は回復に専念してくれ。それなら守護騎士にターゲットされることはないと思う」

 

「うん。それが一番いい方法だろうね」

 

キリトの言葉にソラが頷く。

リーファ達も同じように頷いた。

キリトは再び大扉に向かい合い

 

「よし、いくぞ!」

 

言いながら黒の大剣を抜き放った。

ソラも同時に太刀型の片手剣を抜き放つ。

表示されたグランドクエストへの挑戦意思を質す、イエス、ノーボタン。

キリトはイエスボタンをタップした。

同時に大きな音を響かせて扉は開いていく。

五人は表情を引き締めて、内部へと入っていった。

 

 

 

 

 

 




再び挑むグランドクエスト。

行く手を阻む守護騎士の壁。

窮地に陥る少年たちを救ったのは、意外な増援だった。


次回「世界の核心へ」
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