ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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もう10月も半分過ぎたというのに何なんだこの暑さは?
未だに半袖が必要とかワケガワカラナイよ
(゜ω゜)


そんな訳でみなさん体調には気をつけませぅ。



では45話、始まります。


第四十五話 迷い

目を開けると、そこは自身が借りているアパートの天井だ。

つけていたアミュスフィアを外して空人はベッドから立ち上がり、机に置いてある写真立てを手に取った。

写っているのは自身の家族の写真。

その中の女の子―――姉に視線を向けた。

瞬間、姉と明日奈の表情が重なって見えた。

(……僕は馬鹿か。彼女は姉さんじゃない……なのに……)

思考を巡らせ、脳裏に浮かんだのは先程の光景。

襲撃者達の手により、麻痺状態になって倒れたアスナの姿。

それを目にした時、彼の忌々しい記憶がフラッシュバックしてしまった。

血まみれになって倒れる姉の姿。

姉を刺したナイフと、それを握る腕を血で真っ赤に染める男。

そして、姉に守られなにも出来ず……ただ泣き叫ぶ自分自身。

彼は気が付いたらもう駆け出していた。

倒れたアスナの姿が殺された姉と重なって―――自身の無力感を振り払うように剣を握りしめて。

ただ、目の前にいた襲撃者達が、あの時、姉を殺した男に見えて。

確かな殺意を全身から迸らせて斬りかかった。

そんな彼を止めたのは他でもないアスナだ。

懸命に自分にしがみついて止めようとする姿に、そして泣きそうな表情で見てくる彼女に再び姉の影を重ねてしまった。

(頭では解ってる筈なのに……)

自嘲気味に笑う空人。

「僕は……どうしたらいいんだ?」

そう呟いて写真立てを机に置く。

その時だった。

彼のスマートフォンが着信音を鳴らし始めた。

「もしもし?」

電話に出て、相手からの用件を聞いて―――彼は目を見開く。

通話を切ると慌てたように財布をズボンのポケットに押し込んで、空人は自身の部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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二十畳はあろうかというダイニングルームの中央に設けられた、八脚の椅子を備えた長いテーブル。

そこには今日の夕食が並べられていた。

椅子に座ってそれを食べている少女と女性。

丁寧に食べ進めている女性とは対照的に、少女の食は進んではいなかった。

「明日奈、手が止まってるわよ?」

そんな少女―――明日奈に女性はそう言って視線を向ける。

静かだがビンっと張った声が明日奈の耳に届くと、

「あ……ごめんなさい、母さん」

そう返して、明日奈は止まっていた食事を再開する。

彼女の左斜め向かいの席に座っている女性は結城京子―――明日奈の母である。

女性にしてはかなりの長身だ。

痩躯だが、しっかりした骨格の所為で華奢というイメージはない。

顔立ちは整っているが、鋭い鼻梁の顎のラインと口元に刻まれた短く深い皺が冷厳な印象を醸し出している。

いま、明日奈は母である彼女と2人だけで夕食を摂っていた。

彼女の父である彰三と、兄の浩一郎は仕事の為ここにはいない。

本来なら結城家に住んでいる木綿季も一緒に夕食を摂っている筈だが、彼女は本日、桐ヶ谷家へお泊りに行っている。

その為、今ここには明日奈と京子の2人だけだ。

ゆっくり丁寧に食事を進めながら、明日奈は今日の事を思い出していた。

 

 

 

「殺された……?」

「どういうことなの、キリト君?」

黒衣のスプリガン―――キリトが口にしたのはソラの過去だ。

キリトは確かに、ソラの姉が殺されたといった。

「実は、あいつがSAOで出会ったばかりの頃にメンタルカウンセラーを目指してるって聞いたことがあって、理由が気になったから聞いてみたことがあるんだ」

そこで一度キリトは区切りを入れて息を吐き

「ソラの家は、両親の他にソラより五つ年上の姉の4人家族だった。父親が剣術道場の師範代をしていて、ソラ自身もその道場に通っていたらしい。あいつの正確無比な鋭い剣はその経験があったからなんだろうな。母親は普通の専業主婦。姉も優しい人で、兎に角ごく普通の一般家庭だって言ってたよ。けれど……今から十年前、ソラが10歳の時に事件が起きた」

「事件……」

「詳しくは教えてくれなかったんだが、姉と一緒に道場から帰る途中で通り魔に襲われたらしい。姉はソラを庇ってナイフで刺され、ソラも殺されかけたが、騒ぎを聞きつけた近隣住民によって犯人は取り押さえられて難を逃れたらしい。けれど、姉の傷が深くて病院に搬送されて間もなく亡くなったそうだ」

キリトの口から語られる事に、アスナもユウキも言葉が出ない。

「でも……お姉さんの死がどうしてメンタルカウンセラーを目指す事に繋がったの?」

ふと疑問に思った事をユウキは口にした。

「それなんだが、姉が死んだ後のソラの家族は兎に角大変だったらしい。父親は道場を辞めてしばらく塞ぎこみ、ソラ自身も自然に笑う事が出来なくなったって言っていた。中でも、母親が群を抜いて酷かったそうだ。娘の死が受け入れられずに精神を病んでしまったんだ。その所為か、記憶も結婚する前の状態に戻っていて、ソラの事も自分の子供ではなく親戚の子供だと思っているらしい。今は、所沢市総合病院のすぐ近くにある障害者施設に入っている」

更に語られる事実に今度こそユウキもアスナも愕然とした。

それもそうだ。

穏やかで、冷静で頼りがいのある人物。

優しい言葉と表情でいつも周囲に気を配る。

そんなソラに、これほどの悲しい過去があると判ってしまったのだから。

「メンタルカウンセラーを目指したのも、それが切っ掛けだって言ってたよ。病んでしまった母親をなんとか助けたい……その一心で必死に勉強したって……」

言いながらキリトは複雑そうな表情をする。

ユウキもアスナもなにも言えずに、只々沈黙だけが彼らの辺りに漂っていた。

 

 

 

「明日奈」

聞こえてきた声に明日奈はハッと顔を上げる。

どうやら思考に耽るあまり、また食事の手が止まっていたようだ。

「ご、ごめんなさい」

言いながら明日奈は三度食事を再開しようとする―――が。

「何か悩んでいるでしょう? 話してみなさい」

それを京子が止めた。

驚いて明日奈は母親の方を見る。

「どうして……?」

「貴女は昔から、何か悩みがある時は物事が手に付かなくなるもの。食事が進まないのもその所為なんでしょう?」

未だ驚いた表情をしている明日奈に京子は呆れたように言う。

指摘された明日奈は微かに頬を赤く染める。

が、その熱を振り払う様に首を振って、

「実はね……」

話し始めた。

今日の出来事、ソラの過去の事を―――無論、ソラのリアルネームは伏せてだが。

一通り話し終えて、明日奈は京子に視線を向ける。

当の彼女は

「そう」

といって、グラスを手に取り、注がれているお気に入りのシェリー酒を口にした。

「私ね……わかんなくなっちゃったの。その人はとても優しくて頼りになって……でも、こんなにも重たくて暗い過去があるのがわかったら、自分がその人にどうしてあげたらいいかが……全然わからないの」

母親から視線を外し、俯いて言う明日奈。

その声色は泣き出しそうなほど弱々しい。

彼女は悔しかったのだ。

いつも自分達を気にかけてくれる優しい空人がこんなにも重いものを背負っているのに、自分にはなにも出来ない事が。

明日奈の視界が涙でボヤけていく―――その時。

「明日奈。覚えてるかしら?」

手に持っていたグラスを置いて、京子が口を開いた。

「え?」

「木綿季ちゃんが目覚めて少し後、貴女が私とお父さんに言った事を」

疑問符を浮かべて顔を上げた明日奈に京子はそう問いかけた。

明日奈は頷いて

「覚えてるよ。今はなにが正しいのかわからない。けど、だからこそ自分がどうしたいのかを見つけたい。その為に、2人に言われるままじゃなくて、自分の意思で勉強したいって……」

そう答えた。

「貴女がそう言った時、私は嬉しかった。やっと娘からの言葉を、本心を言ってくれたって……明確ではなかったけれど、貴女はきちんと自分の意思を私達に示したわ」

「母さん……」

「明日奈。大切なのはなにが出来るかではないわ。自分がどうしたいかよ。その為にも、その人の過去を受け止めなさい。人を知るという事もまた『勉強』なのだから」

そう京子に言われた明日奈は目を見開いた。

確かにその通りだ。

それに自分は彼の―――空人の事をもっと知りたいと思っていた筈だ。

だというのに空人の過去を聞いて、知った事を後悔しようとしていた。

何とも情けない。けれど、母の言葉で明日奈は目が覚めたような表情をしている。

「そう……だね。母さんの言う通りだね。私、どうかしてた」

一度言葉を区切り

「ありがとう。母さん」

微笑んで明日奈はそう言った。

京子は小さく、それでも確かな優しさを帯びた目で明日奈を見て

「本当に……いつまでも世話の焼ける娘だわ」

再びグラスを手にとってシェリー酒を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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食事を終えた明日奈は自室に戻っていた。

手には自分のスマートフォンが握られている。

目を閉じ、先程の母とのやりとりを思い出す。

深呼吸して、明日奈は連絡帳を開き画面をスクロールさせた。

表示された『天賀井空人』をタップしてスマートフォンを耳に当てる。

数回コールが鳴って、彼は通話に出た。

『もしもし?』

「あ。空人さん……今、大丈夫ですか?」

『あぁ、大丈夫だよ。今日は、すまなかったね。みっともないところを見せてしまって……』

耳に届く彼の申し訳なさそうな声。

「いえ、気にしないでください」

慌てたように明日奈はそう返す。

『そうか……それより、どうしたんだ?』

「あ……あの、明日……土曜日の夜なんですけど、ALOにログイン出来ますか?」

『明日の夜? 問題ないけど……』

明日奈の問い掛けに、空人はそう答えた。

すると明日奈は一度息を吐いて

「そうですか。実はお話ししたい事があるんです。明日の夜8時に、今日クエストのボスモンスターを倒した森の広場に来てほしいんですけど……」

『夜8時だね。わかったよ』

「すみません。無理なお願いをして……」

『そっちこそ気にしないでくれ。僕は全然構わないから。それじゃぁ、また明日』

「はい、おやすみなさい」

そうやりとりし、明日奈は通話を切る。

大きく息を吐いて

「ふぅ……よし、今度は……」

もう一度スマートフォンの連絡帳を開いて画面をスクロールさせる明日奈。

次いで表示されたのは『紺野木綿季』だ。

名前をタップしてコールを鳴らす。

『もしもし、明日奈?』

「あ。木綿季、今そこに和人君いる?」

通話が繋がった途端に明日奈はそう問いかけた。

『和人? いるけど……どしたの明日奈?』

不思議そうな木綿季の声。

明日奈はそれに構うことなく

「木綿季にもなんだけど、和人君にお願いしたい事があるの!」

そう言った彼女の瞳には、夕食の時に帯びていた迷いは一切なくなっていた。

 

 

 

 

 




向かい合う2人のウンディーネ。


アスナはソラを知るために決意を抱く。


次回「覚悟」
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