ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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刃雷と閃光のデュエル―――――決着の瞬間。


では48話、始まります!


第四十八話 刃雷(ソラ)閃光(アスナ) 後編

白く輝く光がアスナの目に映った瞬間、彼女は無意識下で思考を巡らせていた。

それは、キリト達から訓練を受け終わった時の事だった。

 

 

 

 

「よし。『目付』も攻撃パターンの改善も及第点と言っていいな。ここいらで終わりにしよう」

「お疲れ、アスナ」

疲労困憊といった様子で座り込んでいるアスナに、キリトとユウキはそう言って笑いかけた。

ここ仮想世界では肉体的な疲労は感じないが、流石に徹夜で動き続ければ精神的に疲れてもおかしくはない。

しかし、目の前の2人はまだまだ元気いっぱいのようだ。

これもまた、二年間のデスゲームの影響なのかとアスナは考えてしまった。

そんな彼女を気にするでもなく。

「じゃぁ、最後に俺から少しアドバイス……になるかわからんが、アスナに一つだけ伝えたい事がある」

少しおどけて見せるも、直に真剣な表情で彼女に視線を向けるキリト。

「アドバイス?」

「あぁ。訓練を受けてもらってなんなんだが、正直な話、君がソラに勝てる可能性はそんなに高くはないだろう。あいつの強さは下手すれば俺やユウキより上の可能性もあるからな」

「ちょっとキリト! それじゃアドバイスにすらなってないよ!」

キリトの言葉にユウキが呆れたように言う。

彼は軽く咳払いし、

「まてまて! 本題はここからだ! アスナ。君もわかってると思うがここは仮想世界……全てはシステムによって設定され、支配されている世界だ。だから、一度判定が出てしまえばそれはもう覆らない。けど……」

そこまで言ってキリトは一度息を吐く。

「全てがシステムで設定されていても、抗う事が出来なかったとしても、決してあきらめるな。強く想い、願いを捨てないでいれば……もしかすると、システムを超える結果を叩きだせるかもしれないから」

そう言ったキリトの表情は何処か、懐かしむように穏やかだった。

 

 

 

 

 

抜き放たれた刃は目にも留まらぬ速さでアスナに襲いかかる。

(終わりだ)

思考を巡らせ、確実に仕留めたと確信するソラ。

だが―――その刹那、大きな衝撃音が鳴り響いた。

それは目の前の相手を斬った音ではない。

金属と金属が激しくぶつかり合った音だった。

ソラは目を見開く。

なぜなら、目の前の少女は斬られていなかったからだ。

自身とソラの剣との間で細剣を掲げ、衝撃に耐えている。

(馬鹿な?! 防御したのか?! あの一瞬で?!?)

そう、アスナはソラのOSSを防いでいたのだ。

確かに彼女には刃の軌道を目で追う事は出来ない。

それでも、抜き放つその瞬間は見えている。

抜剣されるその一瞬の間に、アスナは剣を引き戻して前方に掲げ、更には身体を後ろに仰け反らせる事で致命傷を避け、防御する事が出来たのだ。

必殺といっていい一撃を凌がれたソラは大いに動揺している。

が、それはすぐに収まった。

彼女のHPバーが減少していくのが見えたからだ。

仮令防御していたとしても、ソラが放ったのはOSS―――通常のソードスキルとは比べ物にならない威力を誇った大技だ。

その威力を削ぐ事が出来たとしても、ダメージを受けるのは避けられない。

確実に減少していくアスナのHP。

レッドゾーンに入り、止まることなく減っていく。

視界の端に浮かぶ自分のHPバーを見ながら、アスナは思考を巡らせていた。

 

 

 

 

―――負けられないっ……

 

 

 

 

 

心の奥底からそう願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――負けたくないっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強く、強く、想いを巡らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――絶対に……負けるもんか!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、言い聞かせるように彼女が強く想った―――その直後、信じられない現象が起きた。

減っていたアスナのHPが、僅か数%を残して止まったのだ。

それを目の当たりにしたソラは、今度こそ驚愕する。

有り得ないと思ったからだ。

確実に、アスナのHPはゼロになり、自分が勝利すると確信していた。

けれど、目の前の少女のHPは僅かだが、確かに残っていた。

それはまるで、彼女の想いに応えるように―――システムがそう働いたかのようだった。

否、そうじゃない。

彼女は―――アスナは確かに超えたのだ。

強い想いを、信念をもってシステムという大きな壁を。

「やぁぁ!!!」

ソラの必殺の一撃を凌ぎきったアスナは、反撃の為にソードスキルのモーションを起こした。

それはソラが知る、細剣カテゴリのどのモーションにも存在しないものだった。

嫌な予感が奔り、ソラは迎撃しようとするも身体が動かない。

OSSの技後硬直がまだ解けていなかったからだ。

かつて使っていた『抜剣』の専用ソードスキルの硬直時間は、他のカテゴリのスキルの半分ほどだった。

しかし、今しがた彼が放ったのは、それを模倣し、OSSとして登録したモノだ。

故に、かつてのような補正はなく、他のソードスキル同様の硬直時間が課せられている。

瞬間、アスナの剣が赤い閃光を纏って突き出された。

連撃回数―――五連撃。

その軌道は星型の頂点を辿るようにして繰り出されていた。

これこそ、アスナが編み出したオリジナルソードスキル『スターリィ・ティアー』である。

鋭い赤き剣閃は、ソラの身体を刺し穿つ。

それは彼のHPを見事に削り切り、

「……僕の負けだ」

呟いた直後、ソラはエンドフレイムを散らしてリメインライトと化した。

同時にシステムウインドウが出現する。

デュエルのウィナー表示だ。

アスナは緊張が解けたのか膝をついて座り込んだ。

視線をリメインライトに向ける。

「私……勝ったの?」

呟く。

数秒呆けた様子だったが、左手を握りしめて

「勝った……勝てたよ……ありがとう、キリト君、ユウキ……」

目に涙を浮かべながら、協力してくれた親友の少女と、その恋人の少年に感謝の言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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立ちあがったアスナは剣を鞘に納め、蘇生魔法の詠唱を始めた。

のんびりしていてはソラのリメインライトが消え、セーブポイントに戻されてしまうからだ。

詠唱を終えると青い光が迸り、それがリメインライトを包むと眩い光を放って爆ぜた。

直後に青い炎は人の形を取り戻してゆく。

蘇生したソラは閉じていた目をゆっくりと開いた。

目の前にいるウンディーネの少女に視線を向ける。

「……負けたよ」

そう言ってソラは苦笑いを浮かべた。

耳に届いたソラの声色はいつもの優しい彼のものだった事に、アスナはホッと胸を撫で下ろす。

「正直……負けるとは思ってなかった。どうやら僕は、非礼を詫びると言いながら心のどこかで君をまだ見縊っていたらしい。恥ずかしい話だよ」

「そんな……勝てたのは運がよかっただけで……」

「いや。この勝利は君の実力だよ。僕は確かに全力を出した……君の勝利への思いの方が強かった。そういう事さ」

いいながらソラは肩をすくめて見せた。

その仕草にアスナは釣られたように笑みがこぼした。

「……聞かせて……くれますよね?」

「そういう約束だったからね。とりあえず座ろうか?」

そう促して、ソラは地面に腰を降ろした。

アスナも同じように彼の隣に腰を降ろす。

「キリトからは何処まで聞いたんだい?」

「えっと……四人家族で、お父さんが剣術道場の師範代をしていた事や、お姉さんとお母さんの事を……聞きました。お母さんの事が切っ掛けでメンタルカウンセラーを目指すようになったことも」

「そうか。概ね君が彼から聞いた通りだよ。姉は僕を庇って殺されて、母はその事で心を病んで記憶があやふやになってしまった。メンタルカウンセラーになろうと決めたのもそれが切っ掛けだ。当ってるよ」

「お姉さんは通り魔に襲われたんですよね?」

そうアスナが尋ねるとソラは

「通り魔というよりは……ストーカーと言った方が正しいかな。姉さんは、ストーカーに殺されたんだよ」

「え……」

アスナは目を見開く。

ソラは構わずに話を続けた。

「そいつは道場の門下生の一人でね。実力はあったんだけど、性格に難がある男だった。格下の相手はトコトン見下し、自分の実力をひけらかす。父さんが師範代で、僕自身も道場に通っていた事もあって、姉さんはよく道場に顔を出してたんだ。明るく気さくな姉さんは道場では人気者だったよ。その男がそんな姉さんに何度も迫っては姉さんを困らせていたのを今でも覚えてる」

言葉を紡ぐソラの瞳には僅かな怒気が籠っていた。

その男が相当嫌いだったんだろう。

「何度も断られ続けた事にそいつは業を煮やし、ある日……強引に姉さんに関係を迫ったんだ。奴の行動を訝しんでいた門下生たちが直に父さんに報告してくれたから、父さんは直ぐに駆けつけて事なきを得たんだけどね。その事が切っ掛けで、そいつは道場から破門された。元々、門下生たちに嫌われていたから皆口々に「自業自得だ」って言ってたな。けれど、その日からその男は姉さんに対してストーカー行為を行うようになったんだ。どうやって調べたのか、携帯に無言電話やイタズラメールを送りつけたり……学校帰りに尾行したり……おかげで姉さんはすっかり家族や顔馴染み以外の異性が苦手になってしまったんだ」

ソラからの話を聞いていたアスナは胸焼けするような憤りが込み上げてきた。

その男のしていた事はまさに『女の敵』という言葉がぴったりな行動ばかりだったからだ。

「一応警察にも届けたけど、実害が出てからじゃないと警察は動かないからね。兎に角、僕たち家族は姉さんを護る為に出来る事をしたよ。通学中は常に友人と行動してもらって、道場に来た時も、僕と父さんの3人で帰るようにした。携帯の番号やアドレスも変えて、不審な番号やアドレスには取り合わないようにしたりね。そんな風に自衛をしながら過ごしていたんだけど……最悪な出来事はいつも唐突にやってくるって思い知らされた」

一度区切ってソラは目を閉じる。

やがて目を開き、意を決したように語りはじめた。

「その日も、姉さんは道場に顔を出したんだ。いつものように、僕と父さんと姉さんの三人で家に帰って、母さんが用意してくれている夕飯を食べて……いつもと変わらない明日が来るってそう思ってた。……でも、その日、父さんには外せない用事があった。その頃はストーカー行為も鳴りを潜めていたから……父さんがいなくても大丈夫だってタカを括ってしまったんだ。2人で帰る途中だった。あの男が……待ち伏せていて、手にはナイフが握られていた。自分の思い通りにいかない事に苛立って、そいつはついに凶行に及んだんだ……僕を人質にして姉さんに言う事を聞かせようとしたんだろうな。男の持っていたナイフに僕は恐怖してしまって、足が竦んで動けなくなって……そんな僕の前に姉さんが飛び出ててきて……勢いよく走ってきた男のナイフに刺されて……しまったんだ」

「っ……」

「姉さんを刺した事で、男は錯乱して僕も殺そうとナイフを振りかざした……けど、騒ぎを聞きつけた近隣の人達に取り押さえられて、通報を受けて駆けつけた警察に逮捕されたよ。僕自身は怪我らしい怪我はしなかったけど……姉さんの受けた傷は深すぎたんだ。急いで病院に運ばれたけど……その時にはもう……心肺停止状態で……蘇生の見込みもなくなっていて……病院に着いて間もなく息を引き取ったんだ……」

そこまで言うと、ソラは立ちあがった。

釣られてアスナも立ち上がる。

数歩前に出てそのまま夜空を見上げた。

「今でも忘れられない……倒れた姉さんの姿を……血を失って段々と冷たくなっていく姉さんの身体の感覚を……今でも……」

「ソラ……さん……」

「あの時、父さんの用事が終わるまで待っていれば……僕にもっと力と勇気があったなら……姉さんは……死ななかったかもしれないって、今でも考える。だからだろうな、昨日も君が倒れた姿が姉と重なって見えてしまって……あの襲撃者達が姉さんを殺した奴と重なって……気が付いたら奴らを斬りつけていた。おかしな話だな、君は姉さんじゃないのに……何故かいつも、君に姉の面影を重ねてしまうんだ……」

「私……お姉さんに似てるんですか?」

疑問に思ったので尋ねるアスナ。

ソラは振り向くことなく、小さく首を振って

「いや……容姿は似てないよ。雰囲気かな? 特に、笑った時の雰囲気はよく似てる……」

「そう……ですか……」

返ってきた答えにアスナは小さく呟き返す。

「姉が殺されてからは本当に酷かった。父さんは「自分が一緒にいれば」って、責任を感じて道場を辞めて、自室に引きこもるようになった。酒に依存しなかっただけマシといえばマシだったけど……僕も、しばらくは笑う事が出来なかった。……でも、一番酷かったのは母さんだった。……姉さんが死んだことを聞いた瞬間、母さんは悲鳴を上げて倒れてね……三日程眠り続けたんだ。目が覚めた時には……精神状態と記憶が結婚する前の状態に戻っていて、父さんの事はおろか、僕や姉さんの事まで忘れていたよ。医者が言うには、娘の死を受け入れられずに、精神と記憶を自分で封じてしまった状態らしい。どんなに家族の話をしても、写真を見せても、母さんは僕たち家族の事を思い出さず、親戚の類だと思い込んだままだった」

夜空を見上げながら語り続けるソラ。

アスナはただ黙って聞いている。

「その時に決めたんだ。メンタルカウンセラーになって、母さんの精神と記憶を取り戻そうって。だから、必死になって勉強したよ。絶対に母さんを救うんだって……」

「そうだったんですね。ソラさんなら……なれますよメンタルカウンセラーに。きっと、お母さんを救う事だって……」

「いや……それはもう出来ないかもしれない……」

アスナの言葉を遮ってソラが口を開く。

紡がれた言葉を聞いて、アスナは疑問符を浮かべた。

「どういう……?」

「母さんが病んでいるのは精神だけじゃない。身体も病んでるんだ。……末期の胃癌だよ。発見されたのは僕がSAOに囚われる一月前で、その時にはもうあちこち転移していて手術でも手の施しようがなかった。投薬と放射線治療で何とか抑えこんでも3年生きるのがやっとだって言われたんだ。昨日……ログアウトしてすぐ後に、施設から母が倒れたって連絡があった。……なんとか一命は取り留めたけど、もう後半年生きられるか解らないって……」

そう言ってソラは振り返る。

アスナの目に映った彼の表情は、脆く、消えてしまいそうなほど悲しく見えた。

「僕には母さんを救えない……あの頃となにも変わってなんかない……姉さんを殺された時と……なにも出来ずに、ただ泣き叫ぶことしかできなかったあの時とっ……」

「ソラさんっ……」

「結局、無意味だったんだ。……僕は……誰も救えない。……弱くて、中途半端で……どうしようもなくちっぽけな人間なんだよ……」

自嘲するようにソラは笑いながら言う。

自分を責めるように、痛めつけるように、ソラは言葉を紡いでいく。

しかし

「違う!」

それを否定するようにアスナが声を上げた。

真直ぐにソラを見つめている。

瞳からは涙が零れそうになり、それでも懸命に泣くのを堪えているのがわかった。

「ソラさんは……弱くなんてない! 誰も救えないなんて、そんな事だってない! だって……だって貴方は、ユウキを助ける為に戦っていたキリト君を助けに来たもの! それだけじゃない! 須郷の部下に捕まった時だって私を助けてくれた。……それに、キリト君もユウキも言ってた。「悩んだ時や辛かった時に、ソラが一番に心配してくれた。ソラの言葉で救われた事もある」って。……だから……だからっ……ソラっ……さんは、ちっぽかなんかじゃないっ……中途半端なんかじゃ……ありませんっ」

ついに涙を堪え切れなくなり、嗚咽を混じらせながらもアスナはそう訴えた。

「お姉さんの事を忘れなかったり……お母さんの事も救いたいってそう思って頑張ってきた貴方が、そんな事言わないでください! 無意味だったなんて……悲しい事っ……言わないで……諦めないでっ……」

ポロポロと彼女の瞳から涙が零れ、頬を伝って流れていく。

「どうして……君は……」

目をそらすように俯いて、ソラは呟く。

「どうしてなんだ? どうして君は……そこまで僕を……僕なんかを気にかけるんだ?」

問いかけるソラ。

彼にはわからなかった。

どうして彼女がここまで自分を気にかけるのかが。

そんな彼に、アスナは歩み寄る。

未だに大きな瞳からは涙が零れているが、それを拭うことなく真直ぐに彼の傍まで歩いていった。

目の前で立ち止まり、彼の右手を握って、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が……好きだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想いを口にする。

それが耳に届いた瞬間、彼は驚いて顔を上げた。

目は見開かれ、意識も何処か遠くにあるように感じる。

それでも、目の前にいるアスナの表情はしっかりと見えていていた。

両の瞳に涙を溜めて、僅かに頬を紅潮させながら真直ぐにソラを見つめてくる。

「初めは……ただ、ユウキやキリト君と一緒に戦っていた人っていうくらいの認識でした。でも……一緒に狩りをするようになって、お話しする機会が増えて……いつの間にか、貴方の事をもっと知りたい。もっともっと傍に近寄りたいって思うようになってました……」

握った彼の手を、アスナは自分の胸元まで持ってきて両手で強く包み込むように握る。

「私は貴方が好きです。いつも優しくて、頼りがいがあって……でも、時々消えてしまいそうなほどの儚さを持ったソラさん……空人さんが……好きなんです。貴方の傍にずっといたい……傍で貴方を支えていきたい……それが、偽りない私の気持ちです」

そう言ってアスナは微笑む。

しばらくの沈黙。

「……参ったな」

それを破ったのはソラだ。

真直ぐに見つめてくるアスナに、彼は優しく微笑んでいる。

自分の手を握っていた彼女の手を離させて――――――直後にソラはアスナを抱きしめた。

突然の事にアスナは驚いて赤く染まっていた頬を更に紅潮させた。

強く抱きしめられた事でハラスメント警告が表示されるが、アスナはそれの『NO』ボタンを押して表示を消す。

「いいのか?」

耳に届く彼の声。

「本当に……僕でいいのか? こんなにも弱くて……情けない僕で……」

「貴方がいいです。空人さんじゃないと……嫌です」

彼の問いにアスナはそう応えて、両腕を彼の背に回した。

「……こんな形で……気付かされるとは……僕は……君が好きだったのか。……だからかもしれないな……それを誤魔化す為に……無意識に君に姉の面影を重ねていたのは……でも、気付いたからには……もう目を逸らさないよ。僕も君が好きだ。傍にいてほしい……僕と一緒に……生きてくれ、明日奈」

「はいっ……」

ソラの言葉にアスナは再び涙を零しながら応えた。

軽く2人の身体が離れ、真直ぐに見つめあう。

やがて、どちらともなく2人の顔が近づいていき――――――夜空に浮かぶ月と星の明かりに照らされながら、2人は互いの唇を重ね合った。

 

 

 

 

2人の心が―――――――――重なり合った瞬間の夜であった。

 

 




重なりあった2人の心。

少女の隣には青年が、青年の隣には少女が―――

互いの手を取り合い、2人は前へと歩き出す。


次回「共に」
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