ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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ふぅ、なんとか仕事と私事の目途が立ってきたぞぃ。
このままハイペースで投稿して春までにはファントムバレットを終わらせたいです(願望)
そして気づけば本編はもう60話かー。
幕間を含めたらもうとっくに60話を超えてたけど、幕間はあくまで番外編だしそこは置いておくとしませぅ(゜ω゜)



では60話、始まります。


第六十話 選択

「間一髪だったか……」

呟きと共に、ソラは後方で未だスタン状態になって倒れているシノンに視線を向けた後、目の前の『死銃』に視線を戻した。

対する『死銃』は黒のハンドガンを納め、素早く肩に下げていたL115降ろしてマガジンを交換。

無駄のない動きで長大の狙撃銃を構え、躊躇なくソラへ弾丸を放った。

だが、発射音は無い。

銃の先端に装着されたサプレッサが発射音を抑えたからだ。

迫りくる弾丸。

しかし、ソラはそれを光剣の一振りで斬り落とす。

バァンっ! という音とが響き、澄色の火花が散った。

鋭い視線を『死銃』に向け、ソラは地を蹴って駆け出した。

全速で走り、赤い刃を勢いよく突き出す。

片手剣ソードスキル『レイジスパイク』の模倣だ。

圧倒的な速度で突き出された光の刃は『死銃』に―――突き刺さる事はなかった。

身体を左に捻り、躱したのだ。

そのまま瞬時に体勢を整えて、L115の銃口をソラへと向ける。

彼の頭めがけて狙いを定め、引き金に指を添えた―――瞬間。

今度はソラが身体を捻って光剣を振ってきた。

迫りくるエネルギー刃を、『死銃』は素早く身を引いて躱した。

再び距離を取り、ソラを見据える『死銃』。

「くく……くくくく、はははは!」

すると、彼は突然笑い始めた。

金属めいた不快な声が、廃墟エリアに響き渡る。

やがて笑うのをやめ

「がっかり、したぞ。貴様は、貴様の力は、その程度、だったのか?」

ソラに向かい言う『死銃』。

対する彼は訝しんだ表情を浮かべて

「どういう意味だ?」

「言葉の、ままだ。貴様は、弱くなった」

問いかけると『死銃』はそう返してきた。

「昔の、貴様なら、最初の一撃で、俺を、殺せていた。だが、それが出来なかった。貴様は、堕落したのだ」

そこまで言って、『死銃』は未だ倒れて動かないシノンに視線を向けた。

「あの女を、殺せば、少しは昔の、貴様に、戻るのかな?」

「……させない。彼女を殺させはしない。もう誰も護れず、目の前で殺されるのは御免だ」

『死銃』の言葉に、ソラの眼つき一層鋭くなる。

纏っている雰囲気も怒気を帯びてきた。

出方を窺う様に、獲物を構えたまま動かない2人。

その時だった。

2人の間に何かが投げ込まれてきた。

灰色をしたジュース缶のような物体。

それがグレネードだと認識し、彼らが身構えた瞬間――――それは勢いよく白い煙を噴射し始めた。

どうやら火力の大きいプラズマグレネードではなく、目晦まし用のスモークグレネードだったようである。

煙はたちまち広がっていき、視界の自由を奪っていく。

ソラは動けなくなる前に煙の範囲外に走ろうとした――――その時だった。

「こっちだ!」

聞き覚えのある声が耳に届き、ソラは視線を向ける。

そこには黒い長髪を揺らした人物がシノンを抱えていた。

「キリト!」

「急げ、ソラ!!」

言うや否や、キリトはシノンを抱えたまま全速で走りだした。

次いでソラも駆け出す。

AGIを全開にして煙の範囲外に出る2人。

直後、バァンッと言う音が響いてきた。

おそらく、『死銃』がL115で狙撃したのだろう。

しかし、この濃い煙の中では狙いなど定まる筈もない。

2人は構うことなく、その場を離脱すべく全速力で走っていく。

スタジアムの東側を回り込み、廃墟の北側へと向かっていくキリトとソラ。

後ろからは尚も銃声が聞こえてくる。

『死銃』が追って来ているのだ。

2人だけならともかく、キリトはシノンを抱えている。

ソラもキリトに合わせて走っている為、実際には本来の彼の全速力には及ばない。

そんな二人を力なく見ながら

(もう……私を……置いていって……)

シノンが思考を巡らせる。

自分が足手まといになっている。

そう思うとシノンは遣る瀬無くなった。

けれど、たとえ置いて行けと口にしても2人は決してシノンを置いては行かないだろう。

それが判るほど、彼らの表情は必死だったからだ。

そうこうしていると、北側のメインストリートへと彼らはやってきた。

その少し先には、半ば壊れたネオンサインが見えている。

『Rent‐А‐Buggy&Horse』。

首都グロッケンにもあった無人営業のレンタル屋だ。

モータープールにあったほとんどのバギーは全損状態だったが、一台だけなんとか乗れそうなのが残っていた。

しかし、乗り物はこれだけではなかった。

バギーの隣には、金属でできたウマが数匹繋がれていた。

こちらも動きそうなのは一匹だけである。

キリトとソラは一度視線を交わして頷き合うと、迷うことなくバギーに乗り込む。

抱えていたシノンを下ろし、キリトは操縦席へと座り、エンジンをかけた。

ソラ達に視線を向け、彼が頷いたのを確認すると、躊躇いなくアクセルを踏み込んだ。

白煙を上げながらバギーがターンし、フロントが道路の北側を向いたところで停止する。

キリトはシノンに視線を向けて

「シノン、君のライフルであの馬を破壊できるか?!」

「え……」

ようやくスタン弾の効果が薄れ、ソラに手伝って貰いながら左腕に刺さっているスタン弾を抜いたシノンが呆けた声を出す。

背後のロボットホースに視線を向けて、ようやく彼の意図を悟った。

彼は『死銃』があの馬で追ってくることを危惧しているのだ。

ソラに視線を向けてみると、彼も同じ考えのようで、小さく頷いた。

「わ、わかったわ……」

未だ震える両手で相棒であるヘカートⅡを構えるシノン。

銃口をすぐ近くのロボットホースに向け、トリガーに指をかける。

すると薄緑色の着弾予測円が表示された。

後は指に力を入れて、引き金を引くだけ―――――しかし

「あ……れ」

彼女の指は動かなかった。

何度も指を動かそうとするが、ピクリとも動かない。

「引け……ない……なんで……トリガーが引けない……!」

悲鳴じみた掠れた声が、シノンの喉から漏れる。

その時だった。

うっすらと煙の残るスタジアムの東側から、黒い人影が目に映った。

その瞬間、シノンの視界はスッと暗くなっていき、両の脚から力が抜け、全身が冷たくなる。

それは間違いなく彼女が抱える発作の前兆だ。

「ソラ!!」

「わかってる!! シノン!!」

キリトが叫び、ソラがそれに応えてシノンに腕を伸ばした。

彼女の腕を掴み、導かれる様に引かれた彼女はソラの胴へしがみつく。

直後、バギーが大きな音をたて、弾かれたように道路に飛び出した。

何度もシフトペダルを蹴り、加速度が増す度に、シノンはソラから引き剥がされそうになるが、懸命にしがみついていた。

彼から伝わる微かな体温が、シノンの意識を深い暗闇から遠ざける。

あっという間にトップギアに達したバギーはそのまま道路を疾走していく。

(逃げ……きれる……?)

そう考えたが、シノンは後方を見る勇気が出なかった。

今頃になって、自分が震えている事に気がつくシノン。

未だ右手に抱えたままのヘカートⅡを肩に戻そうと、強張った指を動かそうとした――――その時。

「キリト、来たぞ!」

ソラの叫びが耳に届いた。

後ろを振り向くと、遠ざかっていくモータープルからロボットホースが飛び出してきたのが目に映った。

勢いよく駆けるそれの背には、ボロボロのマントをはためかせ、背中にL115を背負って両手で手綱を握る『死銃』がいた。

馬の動きに合わせて身体を上下させている姿は、まさに熟達した騎手のそれである。

闇色の騎馬は、路上に転がる壊れた車両を滑らかに躱し、バギーと同じ速度で追い縋ってくる。

その姿に、シノンは恐怖を抱いた。

「追いつかれる……もっと……もっと速く……逃げて……!」

悲鳴染みた細い声でシノンは叫ぶ。

それに応えるように、キリトは更にアクセルを踏んだ。

その途端、後輪の片側が障害物に乗り上げ、グリップを失い後部が右にスライドした。

「あっ……!」

「シノン!」

バランスを崩しかけたシノンの腕を、ソラが掴んで引き寄せる。

そのまま彼女を左腕で抱え込み

「摑まってるんだ!」

そう叫ぶソラの胴に、シノンは再びしがみつく。

その間に、なんとかバギーの体勢は持ち直され、再び加速していく。

けれど、数秒のロスタイムの内に、『死銃』の操るロボットホースは距離を詰めてきていた。

ソラから離れ、シノンが再び後方を見ると、その距離はすでに100メートル程しか離れていなかった。

その時だった。

『死銃』が右手を手綱から離し、まっすぐとバギーへと向けてきた。

手に握られているのはあの黒いハンドガン『黒星・四五式』。

それが目に映った瞬間、彼女の全身が凍りついた。

ステップに伏せる事も出来ず、ハンドガンを凝視している。

奥歯が不規則にかちかちと音を立てた。

直後、彼女の右頬に赤いライン―――弾道予測線が触れた。

半ば無意識に彼女は首を左に倒す。

その刹那、黒いハンドガンの銃光が発光し、音を立てて銃弾が放たれる。

高い衝撃音を鳴らしながら、死を与える弾丸がシノンの右頬から僅か10センチ程離れた場所を通過した。

弾丸はバギーを追い越し、前方の廃車に命中した後もライトエフェクトの微粒子が空間を漂っていた。

それが彼女の頬に触れた瞬間

「いやぁぁぁっ!!!」

今度こそシノンは大きく悲鳴を上げた。

後方の『死銃』目を逸らし、三度ソラにしがみつく。

その直後、再び飛来した弾丸がリアフェンダーに命中し、固い振動音が足に響いてきた。

「やだよ……怖い……助けてよぉ……」

弱々しく身体を縮め、うわ言のように呟くシノン。

『死銃』はバギーに追いついてから銃弾を命中させる事にしたらしく、銃撃をすでにやめている。

「シノン! シノン、聞こえるか?!」

不意にソラの声が耳に届いた。

視線を向けると、真剣な表情をした彼が彼女を見ていた。

「このままだと追いつかれる。奴を狙撃するんだ」

勤めて冷静な声色でソラはシノンに言う。

しかし、シノンはいやいやをするように首を横に振り

「む……無理よ……」

弱々しく応えた。

「当たらなくてもいいんだ! 牽制するだけでいい!」

彼女の両肩を掴んで叫ぶソラ。

けれどシノンは首を振るだけだ。

「無理……無理なの……だって……あいつは……」

シノンはただ怯えていた。

『死銃』の姿―――いや、彼の持つ黒いハンドガンを目にしたその時から、過去の悪夢が甦り、恐怖が心を支配してしまっている。

 

 

 

――――あいつは亡霊……あの時、私が殺したあの男の亡霊なのよ……

 

 

 

心を支配する恐怖が、シノンにこう思わせる。

たとえ心臓にヘカートⅡの弾丸を撃ち込もうが、奴は止まらない―――――まして牽制など通用する筈ない……と。

だがその時

「なら、その銃を貸してくれ! 僕が奴を撃つ!!」

ソラがそう叫んだ。

その言葉に、シノンの身体がピクリと反応する。

彼女の中の、ほんの僅かなプライドが、シノンを揺り動かしたのだ。

(この子は……ヘカートⅡは私の分身……私の相棒……私以外の……誰にも扱えない)

思考が巡り、シノンはのろのろとヘカートⅡを肩から降ろし、バギー後部のロールバーに銃身を乗せた。

身体を起こし、スコープを覗きこんだ。

倍率が限界まで下げられていたが、100メートル以下にまで迫ったロボットホースの影で視界の3割が埋まっていた。

確実に身体の中心部を撃つ為に、倍率を上げようとしたシノンの手が止まる。

これ以上倍率を上げれば『死銃』のフードの中の顔がはっきりと見えてしまう。

そう考えると、これ以上倍率を上げる事が出来なかった。

倍率をそのままに、シノンは右手をグリップへと移動させ、狙撃体勢に入った。

もちろん『死銃』は気付いている。

けれど動きを止める様子は無い。

つまり停止も回避もする気はないという事だろう。

完全にナメられていると気がつくも、またあの黒いハンドガンが出てくるかと思うと、シノンの心には怒りよりも恐怖が湧いてきた。

(当たらなくてもいい……一発……一発だけなら……)

撃てるはず―――そう思って引き金を引こうと人差し指に力を入れる。

しかし、またも妙な強張りによって動かなかった。

どんなに力を入れようと、彼女の指は動かない。

まるでヘカートⅡがシノンを拒んでいる―――――そんな錯覚さえ彼女は感じてしまった。

「だめ……撃てない……撃てないよ……」

シノンから掠れた声が零れる。

「いや、撃てる! 君なら撃てるはずだ!」

そんな彼女に、ソラがそう力を込めて叫んだ。

けれどシノンは小さく首を振って

「無理……無理だよ……私、もう戦えない……」

「そんな事はない! 戦えない人間なんていないんだ! 戦うか、戦わないか、その『選択』があるだけだ!!」

目の前の青年の言葉は、シノンの心の火を僅かに揺らす。

けれど、シノンは俯くだけだ。

 

 

 

――――戦うか、戦わないかなら……私は戦わない事を選ぶ……

 

 

 

 

 

――――だって、もう辛い思いはしたくない……希望を見つけるたびにそれを壊される……そんなのはもう嫌だ……

 

 

 

 

――――この世界なら……GGOでなら強くなれると思った……けど、それも幻想にすぎなかったんだ……

 

 

 

 

――――私はこのまま暗闇の中を生きていくしかない……下を向いて……息を殺しながら……なにも見ず、感じずに……

 

 

 

 

 

そんな絶望めいた思考が彼女を支配しかけた時、シノンは右手に確かな温もりを感じた。

俯かせた顔を上げると、ソラが彼女の右手を自身のそれで包みこんでいたからだ。

驚いた表情をする彼女に、ソラは微笑み

「大丈夫、僕が一緒に撃つ。確かに戦うか、戦わないかの『選択』をしなければならないけど、なにも1人で戦う事はないんだ」

優しい声で言う。

それが耳に届いた瞬間、凍ったように動かなかった指が少しづつ動き出した。

ついにトリガーをとらえ、後は引き金を引くだけだが―――

「だ、だめ……こんなに揺れてたら、照準が合わない……」

「キリト! なんとかならないか?!」

「大丈夫だ! 五秒後に揺れが止まる!!  ……2……1、今だ! 撃てぇ!!」

操縦席からのカウントが終わると同時に、バギーの揺れは確かに止まった。

どうやら何か乗り上げてジャンプしたらしい。

(どうして……? どうしてこの人たちは、こんな状況で冷静になれるの……?)

思考が巡るが小さく首を振り

(違う……冷静でいるとか、そういうことじゃないんだ……この人たちは、ただ全力なだけ。自分に言い訳せずに、最善を尽くして戦う事を『選択』してるだけなんだ。それが、それがこの人たちの……強さなんだ)

前の問いかけるような思考を否定してそう答えを出す。

(きっと、私には出来ない。でも、今だけは私も出来る事をする)

直後に、着弾予測円が収縮する。

(でも、この弾丸は当たらない)

スナイパーとしてのシノンの勘がそう告げる。

刹那、轟音が響き、銃弾が放たれた。

不安定な体勢での射撃で、シノンの身体が後方に弾かれる。

けれど、ソラが彼女の身体をしっかりと後ろから抑え込んだので、倒れる事はなかった。

降下を始めたバギーの上から、シノンは放たれた弾丸の行方を目で追った。

螺旋の渦を穿って翔ける弾丸は、その軌道を『死銃』から僅かに右へと逸れて飛んでいく。

(外した……)

マガジンに弾丸は残っているものの、シノンにはもうボルトハンドルを引く気力は残ってなかった。

しかし、『冥界の女神』自身のプライドが完全なミスショットを拒否したかのように、弾丸はアスファルトではなく、路上に横転する大型トラックへと着弾する。

弾丸が命中した場所から、ちらりと小さな灯が漏れ、丁度その横を通過しようとした『死銃』がそれに気付く。

ロボットホースを道路反対側にジャンプさせようとした―――その刹那、巨大な火球が膨れ上がり、トラックとロボットホースを巻き込んで大爆発を起こしたのだ。

バギーが着地するのと同時に、轟音と衝撃波がメインストリートを激しく揺るがす。

爆発そのものは、ジャンプ台となったであろう廃車に遮られて見えなかったが、大きく上がる火柱の中で、無残にちぎれ飛ぶロボットホースが目に入る。

(倒した……?)

一瞬シノンはそう考えるも、すぐにそれを否定した。

爆発くらいでは、あの死神は倒せないだろう。

せいぜい少しの時間稼ぎが出来たくらいか。

キリトの必死のハンドル操作により、横転しかけたバギーはなんとか安定を取り戻し、そのまま疾走していった。

シノンは後部座席に力なく座りこんで、後方に立ちあがる黒煙をただ見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少女は叫ぶ。


無意識に涙を流しながら、守ってくれと……



次回「罪の告白」
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