ではでは始まります。
スヴァルトエリアが実装されてから1週間が経ったある日。
キリトは拠点として宿泊している宿の自室でメニューを開き、アイテム欄をいじっている。
今日はメンバーの殆どが私用でログインしていないのでスヴァルトエリア攻略はお休みしており、暇を持て余していた彼は攻略開始からドロップなどで手に入れていたアイテムの中で、要るものと要らないものを整理していた。
ひとしきり整理し終え、要らないものはエギルに売りつけようかと考え、身体をほぐすように伸びをした後ソファから立ち上がる。
その時だった。
コンコンとドアがノックされ
「キリトー、いるー?」
「パパ、私です」
ドア越しに2人の女性の声が聞こえてきた。
「ああ、いるぞ。いま開けるからな」
そう言って鍵を開けドアを開くと、
「パパー!」
「おいおい、どうしたんだユイ?」
入ってくるなり自分目掛けて飛び込んできた女の子─────ユイを抱きとめるキリト。
いつもは
「ごめんね、急に押しかけて」
「いや、構わないよ。で、何かあったのか、ユウキ?」
そう言ってくるインプの少女────ユウキにキリトは笑いながらそう返した。
するとそれに応えたのはユイだった。
「あの、パパにお願いがあるんです」
「ん? なんでも言ってみろ」
「パパとママと私で、写真を撮りたいんです」
問い返してきたキリトに、ユイはそう言ってくる。
彼女の言葉を聞き、キリトは考える素振りを見せてから
「家族写真か……そういえば今まで撮ったことなかったなぁ」
「ボクも三人で写真撮りたいなぁ」
ユウキもユイ同様、家族写真を撮りたいようだ。
期待を込めた眼差しで自分を見てくる2人の少女に、キリトは笑いながら言う。
「いいよ。オレも撮りたいし。じゃぁ、どこで撮ろうか?」
「どうせならさ、景色のいいところで撮りたいよね」
「それなら、街中じゃなくてフィールドの方が良さそうだな。じゃぁ、三人でフィールドに出てみるか」
キリトがそう提案すると、ユイは表情を輝かせ
「三人で空のお散歩ですね!」
嬉しそうに言い、小妖精へと姿を変えた。
楽しそうな愛娘の様子に、キリトとユウキも自然と表情が綻んでしまっているようだ。
キリト達はウキウキしてるユイと共に宿を後にし、ヴォークリンデへと転移。
景色のいい場所を探す為に、高度高めで飛行する。
ヴォークリンデの空を飛び回る事十数分。
一旦地上へとキリト達は降り立ち
「うーん。中々ピンと来る場所がないなぁ」
「この辺り、なんか閑散としてるよね」
言いながら辺りを見渡してみるキリト。
確かに草は生えているし木もある。
しかし聳える木々は殆どが枯れかけており、草原の草も茶色に変色していてお世辞にもいい景色とは言えないほどだ。
キリトは頭を掻いて
「他の場所を探してみるか─────って、誰かいるぞ……」
他の場所を探すために移動しようとした時だった。
閑散としたフィールドに、1人のフードを被った老人らしき人物が立っていたのだ。
「クエストが発生してますね」
ユウキの肩の上に乗っているユイに言われ、よく見てみると老人の頭の上にクエスト発生を意味するハプニングマークが表示されていた。
「なんでこんな人気のないところにNPCが……ちょっと様子を見てくる!」
「ちょ、キリト?!」
興味を唆られたのだろう。
キリトはNPCのいる方へと駆け出していった。
その姿にユウキは両手を腰に当てながら頰を膨らませる。
「もう、キリトってば。ごめんね、ユイちゃん」
「パパはこういうのに目がないですからね。それにみんなで冒険するのも楽しいです。写真はいつでも撮れますし、今はパパのところに行ってあげましょう」
ユウキの言葉に、ユイは笑顔でそう返してきた。
「ユイちゃん……そうだね、パパのとこに行こっか」
そう言ってユウキは指でユイの頭を軽く撫で
「おーい、待ってよキリトー!」
我先にとNPCの元へ駆けていったキリトを追って駆け出した。
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老人NPCからのクエストは討伐系のクエストだった。
話によると、この辺りは元々緑の豊かな自然に囲まれた村があったらしい。
しかし、怪物によって川が堰き止められた事により、土地は痩せて緑は枯れていき荒廃していった。
村人達も荒れた村を捨て他の地へ移ったらしく、今では老人1人がこの場所に残っているようだった。
キリトとユウキはクエストは攻略の為、怪物のいるという川の上流へと向かっていた。
干上がった川の跡を辿って傾斜を歩いていく。
やがて上流へと辿り着くと、目の前には無数のスライムが目に映った。
どうやら老人の言っていた怪物とはこのスライムの群れで間違い無いだろう。
「なるほど、こいつらが川の流れを堰き止めてるのか」
「数は多いですが、強さはそれほどではないようです」
「なら問題ないね。ちゃちゃっと片付けちゃおうか」
ユイからの解析情報を聞き、ユウキは立ち上がって剣を抜き放つ。
統一デュエルトーナメントの時に、愛剣だった『マクアフィテル』は折られてしまったので新しい剣だ。
銘は『
キリトの『フロッティ』同様、デュエルトーナメントの賞品で手に入れた『サンシャインインゴット』と、それよりも以前に受けたクエスト『森の守護者』で手に入れていた『銀竜の爪』を強化素材として組み込み、リズベットが鍛え上げた傑作品の一つである。
「じゃ、やるか。ユイはポケットに入ってな」
「はい。パパ、ママ、頑張ってください」
そういうとユイはキリトのコートのポケットへと入っていく。
それを確認したキリトは背の剣を抜き放ち
「いくぞ、ユウキ!」
「らじゃ!」
キリトの言葉を皮切りに2人は駆け出した。
2人の接近に感付いたスライム達も、一斉にキリト達へと向かってくる。
スライムは液状軟体なので物理攻撃に耐性がある。
並みの物理攻撃では簡単はHPを削る事は出来ない。
しかしながらこのスライム達は然程強くはない上に、今回は相手が悪い。
耐性など御構い無し言わんばかりに、キリトとユウキの剣はスライム達を斬り伏せ、ポリゴン片へと変えていく。
あっという間に半分程のスライムがポリゴン片となって消えていった。
すると、残りのスライム達がキリト達へ向かっていくのを辞め、一箇所へと集まり始めた。
中央の一体が他のスライムを取り込んでいき、ドンドン巨大化していく。
残った全てのスライムが合体した事で、その大きさはかなりのものだ。
「りゃ!」
一体化した巨大スライムに向かってユウキが駆けていき、一太刀の斬撃をお見舞いする。
しかし、先程とは打って変わってあまりダメージが通ってないようだ。
飛びかかってくるスライムの攻撃を躱し、ユウキは剣を引いてキリトのいる場所まで後退する。
「なるほどな。本来は一体だったのが分裂してたって事か。そりゃ一撃で薙ぎ払えるわけだ」
「耐性効果もかなり上昇してるね。どうする?」
「属性効果のあるソードスキルをお見舞いするぞ。俺が奴の態勢を崩すから、トドメは任せた」
「おっけー」
攻め方を決め、2人は剣を握り直し同時に駆け出した。
向かってくる2人に、巨大スライムは体躯の一部を触手のように伸ばして攻めてくる。
回避と斬撃で襲いくる触手を退けながらスライムに向かい駆けるキリトとユウキ。
しかし、捌き切れなかった触手がキリト目掛けて伸びてくる。
それをユウキが斬撃で薙ぎ払った。
「すまん!」
「今だよ、キリト!」
職種による攻撃を掻い潜り、充分に距離が詰まった瞬間、キリトの剣がオレンジのライトエフェクトに包まれた。
高速五段突きから斬りおろし、斬り上げ、そして上段斬り。
片手剣上位ソードスキル『ハウリング・オクターブ』。
火炎属性付きの8連撃だ。
高火力の連撃は緑だったスライムHPを一気に刈り取っていき、たちまちレッドゾーンへと落ちていった。
「スイッチ!」
「でやぁ!!」
掛け声と同時にユウキがキリトの後ろから飛び出てきた。
左手は前へ突き出され、肩の上まで掲げた剣は紅いライトエフェクトを纏っている。
瞬間、剣は勢いよく突き出され、液状の体躯に容赦なく突き刺さった。
片手剣ソードスキル『ヴォーパル・ストライク』。
『ハウリング・オクターブ』同様に火炎属性を帯びた重突進攻撃だ。
強力無比な一撃は、残っていたHPを完全に削り取り、巨大スライムはポリゴン片となって爆散していった。
「やったぁ! これでクエストクリアだね!」
「けど、何も起きないな」
剣を納めながら言うキリト。
確かに標的を倒したのに何も起きる様子はない。
「まさか他にもモンスターがいて、それも倒さないといけないのか……?」
「いえ、その必要はないみたいですよ」
訝しげな表情でキリトが言うと、コートのポケットからユイが飛び出てきてそう告げてきた。
2人が顔を見合わせながら疑問符を浮かべたその時だった。
突然地鳴りが耳に届き、次いで地面が揺れ始めたのだ。
「わっ! じ、地震?!」
「いきなり揺れだしたぞ?!」
突然のことに慌てるユウキとキリト。
しかし、ユイだけは慌てる様子もなく
「来ます! 3、2、1!」
彼女がカウントし終えると同時に、キリト達から少し離れた場所に亀裂が入る。
瞬間、大きな音を立て、そこから勢いよく水が噴き出してきた。
「驚いたな。最後にこんな仕掛けがあるなんて……」
「ホントだよー。ビックリして腰が抜けるかと思っちゃった」
「これで川が元通りになってクエスト終了ですね」
ユイの言う通り、キリト達の前にクエスト終了のウインドウが出現する。
次いで獲得した報酬リストのウインドウが表示された。
OKボタンをタップしてウインドウを消したその時
「パパ、ママ! 見てください!」
興奮したように言うユイに呼ばれたキリトとユウキは彼女が指差す方へと視線を向けてみる。
すると、視線の先には
「わぁ……綺麗な虹」
「水が噴き出した時の飛沫で出来たんだな」
そう、噴き出した水の飛沫によって七色の虹が出来ていたのだ。
「私、初めて虹を見ました。すごく綺麗です」
初めて見る虹に、ユイは目を輝かせながら言う。
その様子にユウキとキリトも思わず笑みが零れる。
「確かに、VR世界のものとは思えないくらい綺麗だな。あ、そうだ!」
三人で虹を見ていると、ふと何かを思いついたようにキリトが手を叩き
「ここで家族写真を撮らないか?」
そう提案してきた。
疑問符を浮かべるユウキとユイ。
「もうこんなに綺麗な虹は見られないかもしれないだろ? 記念に丁度いいしさ」
「はい、賛成です!」
キリトの提案にユイは嬉しそうに頷き、小妖精の姿から元の姿へと戻り、地面へと降り立った。
ユウキは呆れたように腰に手を当てながら
「もう。さっきまでクエストに夢中だったのに、調子いいんだから」
言ってはいるがユウキも嬉しそうだ。
「よし、じゃあ2人とも虹が映るようにここに立ってくれ」
「ユイちゃんはボクとキリトの前に来てね」
「はい、ママ」
キリトとユウキが横並びになり、その前にユイが立つ。
ユウキは少ししゃがみ、自身の左手でユイの右手を握ってあげ、キリトも右手を優しく撫でるようにユイの頭に添える。
「撮るぞー。はい、チーズ!」
キリトの掛け声と同時に、カシャリとシャッター音が鳴った。
少しして三人の前にウインドウが開き、先ほど撮った写真が表示された。
「わぁ……パパ、ママ、ありがとうございます!」
綺麗な虹をバックに、大好きな2人と一緒に写った写真を見て、ユイは花が咲いたような笑顔を見せる。
そんな彼女に
「ユイちゃん。これからも三人でいっぱい写真撮ろうね?」
ユウキが微笑みながら言うと
「はい!!」
ユイはますます嬉しそうな笑顔を見せて頷いた。
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家族写真を撮り終えたキリト達は、そのまま街には戻らずヴォークリンデにあるモンスターが出現しない安全地帯となっている浮島へと赴いていた。
大きく伸びた樹の下に、アイテムストレージからオブジェクト化したシートを敷いて、ユウキ特製のサンドイッチを楽しみ、緩く吹く風を身に受けながら、キリト達は空を眺めている。
ユイははしゃぎ疲れたのか、ユウキの膝に頭を預けて眠りに落ちていた。
「寝ちゃったな」
「そうだね」
ユウキとキリトは優しい表情で、眠るユイを見ながら言う。
元来、高度なAIプログラムである彼女だが、こうしてあどけない表情で眠る姿は、何処にでもいる年相応の女の子そのものだ。
優しい手つきでユウキは彼女の頭を撫でており、キリトはその様子を横目で見ている。
すると、不意に自身の右肩に重みを感じて目を向けると、ユウキが寄り添うように頭を預けてきていた。
「ね、キリト」
「ん?」
「これからも三人で、こうやってお出かけしたり、写真撮ったりしようね?」
囁くような声で言うユウキ。
それに応えるように、キリトは彼女の肩を抱いて
「ああ。もちろんだよ」
そう返した。
「……ユウキ?」
返事が返って来ないことに疑問符を浮かべながら、キリトはユウキに声を掛ける。
視線を向けてみると、ユウキは目を閉じて静かに寝息を立てていた。
少し驚くもキリトは彼女の頭を軽く撫で、空いてる手でメニューを開いてスキル画面を操作し、索敵スキルの
穏やかな表情で眠るキリト達を、緩く吹く風が撫でていった。
このお話はサブイベの中で一番書きたかったお話だったり^^