ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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お久しぶりの更新です。ちゃんと生きてましたよ^^
いよいよロストソングのキーキャラが本格的に登場します




では90話、始まります。


第九十話 接触

2026年6月下旬。

黒衣のスプリガン────キリトをストーキングしていたレプラコーンの少女─────レインと出会ってすでに数日が経っていた。

彼女はキリトが言った「勝手について来ればいいさ」という言葉に従い、度々攻略中の彼らの後をつけていた。

初めはキリト達から説明を受けていても、やはり警戒心を持っていた仲間たちだったがキリトやユウキ、リーファの仲介もあって、レインの存在は次第に受け入れられていくようになった。

ヴェルグンデの攻略を進める中で、彼女と共闘することもあり、その時に見せた彼女の戦闘スタイルにはみな驚かされたのは記憶に新しい。

レインのメイン武装は片手剣。

それだけならば別段驚くようなことではない。

が、レインの場合は違っていた。

彼女は同じだったのだ。

彼──────キリトと同じ二本の剣を用いて戦う『二刀流』。

『現在のALOで『二刀流』を行使できるのはキリトだけ』というのがユウキたちを含むALOプレイヤーたちの認識である。

けれどその認識を覆すかの如く、レインは両手に片手剣を持ち、キリト程ではないが二本の剣を連携させて戦っていた。

しかし、レイン自身は自分のスタイルは『二刀流』ではないと言っているのだが。

ともかく、彼女と何度か交流を重ねたことにより、今では女性陣と話す光景をよく見るようになった。

そうして今現在。

キリト達はヴェルグンデ攻略の大詰めに入っていた。

またもや『シャムロック』よりも先んじてヴェルグンデのボス攻略の権利を勝ち取ったのである。

フィールド中央には巨大な特殊フィールドが展開されており、その中には巨大な岩石に顔が描かれ、周囲には同じく巨大な岩の手が浮遊しているモンスターがいる。

このヴェルグンデのボス『Hildisvini(ヒルディスヴィーニ)』だ。

それと相対しているのは、ソラとアスナ、そしてシノン。

今回のボス戦で選ばれたのはこの三人。

因みにレインの姿はない。

どうやら本日は彼らの後をつけてはいないようである。

残ったキリト達は展開された特殊フィールドの近くにある浮島に降り立ち、ソラ達の戦いを見守っている。

すでに4本あるヒルディスヴィーニのHPは二本削り取られていた。

しかし今回も前回同様、3本目に入った途端ボスが特殊スキルを発動してきたのだ。

前回のファフニールはHPの瞬間回復だったが、今回のヒルディスヴィーニは攻守共に大幅に上昇させてきた。

岩の手による攻撃をソラは躱したものの、完全には回避出来ず、少しかすめただけで大きくHPを持っていかれたのである。

更には彼らの反撃である斬撃と刺突、そして矢による攻撃も大したダメージを与えられなかったのだ。

それにより戦闘は膠着状態になり、すでにボス戦開始から10分近く経過していた。

仮想世界では肉体的な疲労は感じない。

けれど精神は摩耗する。

長期戦は確実に彼らの精神を疲弊させ、集中力を切らせてしまうだろう。

彼ら様子を観戦しているキリト達も苦い表情をしていた。

 

「これはちょっとまずいな……」

 

「だね。攻撃力が上がるだけならまだしも、防御まで上がったのは辛すぎるね」

 

「えっと……それはつまりどういう?」

 

キリトとユウキの言葉に疑問符を浮かべているのはシリカだ。

 

「想像してみなよシリカ。下手すれば致命傷になる攻撃を自分達は常に回避し続けながら、ほとんどダメージの通らない攻撃を相手のHPが尽きるまでし続けなきゃいけない状況をさ」

 

疑問符を浮かべる彼女に言うのはジュン。

言われた通り、シリカは自身が戦うその場面をイメージしてみた。

途端に表情が一気に苦いものに変わっていく。

どうやらキリト達の言っていた言葉の意味を理解したようだ。

 

「いつかは終わるけど、先の見えない終わりほど精神を摩耗させるもんはねぇからなぁ」

 

同様にクラインも苦虫を噛み潰したような表情で言っており、その隣にいるリズベットも口には出さないが似たような表情をしていた。

 

「しかし、大きなバフがかかってるのは物理攻撃と防御だけなんだろ? なら、ソラの『エンチャント』なら属性ダメージを付与できるから押し切れるんじゃないか?」

 

その中で特殊フィールドの中の戦闘を見ながら問いかけたのはエギル。

 

「確かに。あれって所有者の得意属性の初級魔法の威力をそのまま武器に乗せられるからいけるんじゃない? ね、お兄ちゃん?」

 

エギルの言葉に同調するように、リーファがキリトに問いかけた。

すると彼は首を横に振って

 

「いや、それは難しいだろうな。確かにあのボスに属性ダメージは有効だろうし、それにはソラの『エンチャント』が打って付けだ。けど、難点がある」

 

そういうキリトにリーファやエギルは疑問符を浮かべている。

それに応えるように、キリトの言葉を続けたのはユウキの肩に止まっている小妖精のユイだった。

 

「持続時間です。ソラさんの銀竜刀固有能力『エンチャント』を維持するには、ソラさん自身のMPを常に消費しないといけません。現在のソラさんの最大MPをアイテムでブーストしたとしても、もって2分が限界でしょう。それではおそらくですが4本目の半分で効果切れなります。再び使うにしてもMPを回復するのに時間を要しますし、その間に万能型のアスナさんと遠距離型のシノンさんだけで場を支えるのは困難です」

 

それを聞いたリーファたちはハッとしたように目を見開いた。

どうやら『エンチャント』最大のデメリットである維持コストの重さを失念していたのだろう。

 

「それなら決定打が無いじゃない。倒せないわけじゃないだろうけど、最後の一押しが無いとキツ過ぎるわね……」

 

そう言いながらリズベットは特殊フィールドのほうへ目を向ける。

フィールドの中では依然一進一退の攻防が続いていた。

視線を先で繰り広げられる激戦を見ながら

 

「……どうする、ソラ」

 

キリトはポツリと呟いた。

一方、戦闘を継続しているソラ達。

ある程度の攻撃を繰り出すも一向に大きく減らせないHPを見て、このままではジリ貧になると悟ったソラは、アスナとシノンにヒルディスヴィーニから大きく距離を取るように指示を出した。

一度大幅な距離を取ってターゲットから外れ、態勢を立て直すためだろう。

特殊フィールドの中にある岩の浮島の一つにソラ達は降り立ち、気配を殺しながらヒルディスヴィーニの様子を覗うと、案の定ターゲットを見失ったボスは辺りをウロウロと浮遊している。

安堵の息を吐くも、すぐに表情を引き締めるソラ達。

たとえ一時的にターゲットから外れたとしても、いずれ補足されるからだ。

 

「さて、どうするの? このままだとジリ貧よ」

 

最初に口を開いたのはシノンだ。

口調はクールだが、表情には疲労の色が見えていた。

無理もないだろう。

ほとんど攻撃の通らないボスとの戦闘時間はすでに10分を超えている。

精神的な摩耗は想像に難くない。

それはアスナも同様で、その表情には焦燥の色が浮かんでいる。

ソラは数秒考える素振りを見せた後、二人に目を向け

 

「……このままだと確かにジリ貧だな。正直、僕の『エンチャント』でもヤツのHPは削り切れないだろう」

 

「ちょっと─────」

 

言われたソラの言葉にシノンが呆れた様子で言葉を返そうとするも

 

「でも、突破口が無いわけじゃない。ですよね、ソラさん?」

 

遮るようにアスナが言ってきた。

その言葉にシノンは驚くも、対するソラは真剣な表情のまま頷いていた。

 

「なに? あのボスに対する決定打があるって言うの?」

 

疑問符を浮かべながら問うシノン。

 

「ああ、ある。と言ってもそれを持っているのは僕じゃない、アスナだ」

 

その問いに応えながらソラは言い、アスナに目を向けた。

同様にシノンもアスナを見る。

 

「多分アレならいけます。けど、アレを使うにはどうしても時間が必要になるのと、最悪でもHPを4本目の半分ほどまで削らないと倒しきれないかも……」

 

「わかってる。時間稼ぎと下準備は僕とシノンに任せてくれ。シノン、水と氷の矢はあとどれ位ある?」

 

「……どっちも30本ってとこね」

 

返答を聞いてソラは頷き

 

「よし、じゃぁ戦闘再開だ。僕は『エンチャント』を使ってヤツを迎撃、シノンは後方から援護を頼む。その間にアスナは準備を整えてくれ」

 

「仕方ないわね。アスナが持ってる奥の手以外に突破口がないなら乗っかってあげるわよ」

 

「わかりました。ソラさん、シノのん、気を付けて」

 

三人は頷きあい、隠れている岩の浮島からソラとシノンが勢いよく飛翔。

ソラはそのままヒルディスヴィーニに向かって突撃していき、その少し後方からシノンが弓を構えている。

ヒルディスヴィーニも接近するソラに気付いたようで、咆哮を挙げて岩の拳を打ち出してきた。

 

「おぉぉ!!!」

 

高速で迫りくる岩の拳を回避し、ソラは更に速力を上げてヒルディスヴィーニに向かい突撃。

すでに発動させた『エンチャント』による斬撃を繰り出した。

直撃したそれはヒルディスヴィーニのHPを確実に削っている。

付与された魔法属性が効いているのだろう。

しかし、やはり大幅なダメージは与えられていない。

 

「っ、はぁぁ!!!」

 

それでもソラは怯むことなくその巨岩体に連続で斬撃を繰り出していく。

先も述べた通り、『エンチャント』は効果を維持するために使用者のMPを常に消費しなければならない。

MPが尽きてしまえばそこでソラの攻撃力は大幅にダウンする。

それだけではない。

『エンチャント』は効果が終了する武器の耐久値を大幅に減少させてしまうのだ。

そのため耐久値を最大状態であったとしても一気に半分近くまで減ってしまうため、使用できたとしても二回が限度。

更には再発動させてもMP常時消費があるので無くなったMPも回復させなければならない。

少数でのボス戦ではそのための隙を突くのも難しいものである。

故に、ソラは今発動させている『エンチャント』に全霊を賭している。

止まらない連続斬撃はゆっくりだが確実にヒルディスヴィーニのHPを減らしていく。

 

「グォォォォ!!」

 

攻撃の手を緩めないソラに、ヒルディスヴィーニは雄叫びを上げながら大口を開けていく。

開かれた大口に勢いよく空気が流れ込んでいく。

そのまま巨体を旋回させ、ソラの方へと方向転換を開始した。

 

(これは、ブレス攻撃か?!)

 

ボスの特殊攻撃の挙動に気付いたソラ。

回避行動を取るが想像以上に動きが速く、ブレス攻撃の射線上から出る事が出来ず、ヒルディスヴィーニはそのまま溜めて圧縮された空気の奔流を放とうとした───その時。

巨岩に水色のライトエフェクトを纏った矢が次々と命中する。

後方にいるシノンから放たれた水属性を帯びた矢による連射。

大したダメージを与えられず、ブレス攻撃もキャンセルできないが、ヒルディスヴィーニの動きを阻害するには十分だった。

旋回速度が鈍った隙を逃さず、ソラはブレス攻撃の射線上から完全に離れ、直後に砂を纏った空気の奔流が吹き荒れる。

回避に成功したソラは、再びヒルディスヴィーニに向かい連続での斬撃を繰り出し、後方からは再度シノンの属性が付与された矢の連射による援護攻撃。

そうしてヒルディスヴィーニの相手をしている中、アスナはそのさらに後方に控えていた。

いや、ただ控えているわけではない。

彼女は現在スペル詠唱を行っていた。

展開されているスペルの羅列の多さから、詠唱している魔法はかなり高位のものである。

スペルを一つ詠唱するたびに冷たい冷気が作られていく。

やがて詠唱を終えた彼女は閉じていた目を開く。

視線の先で映ったボスのHPバーはすでに4本目の半分に差し掛かっていた。

同時に、ソラの『エンチャント』の効果が切れたようで、彼はヒルディスヴィーニから離れて距離を取り始めた。

これはソラからの合図。

確認したアスナは両手を突き出し

 

「我操るは氷結の息吹。絶対零度に抱かれて、永遠の牢獄で朽ち果てよ! 『アブソリュート・ゼロ』!!」

 

魔法発動の言霊を唱えた────瞬間、周囲の冷気が無数の氷の矢を形成し、ヒルディスヴィーニ目掛けて撃ちだされた。

雨のように降り注ぐ氷はボスの巨体に悉く命中し、ダメージを与えていく。

しかしそれだけではない。

突き刺さった氷はそこからさらに広がっていき、ヒルディスヴィーニの巨体を徐々に覆っていく。

その速度はかなりのもので、あっという間にその巨体を覆いつくした。

 

「フリーズ───エンド!」

 

そう言い開いていた右手をグッと握った瞬間、ヒルディスヴィーニを覆う氷にヒビが入る。

直後、真っ白な蒸気が噴出し、巨岩を覆っている氷が大爆発を起こした。

 

「グァォォォォ!!!」

 

大爆発の直撃を受けたヒルディスヴィーニのHPは瞬く間に減っていき、やがて完全にゼロになった。

ヒルディスヴィーニは大きく断末魔を上げながら、その体躯を爆散させ、ポリゴン片となって散っていった。

同時に『Congratulations‼』とシステムメッセージが表示され、形成されていた特殊フィールドも消失。

武器を収めたソラとシノンはアスナの元へと向かい

 

「お疲れ様、アスナ」

 

「お疲れ。すごかったわね、さっきの。あれって高位魔法でしょ? いつの間に修得したのよ?」

 

労いの言葉をかけ、次いで先ほどアスナが使用した魔法についてシノンが訊ねる。

するとアスナは苦笑い気味で

 

「あはは……ちょっと前にね。私達の中で魔法攻撃がそこそこ出来るのってリーファちゃんくらいで、基本的には私を含めてみんな物理攻撃が主でしょ? だから、いつ物理攻撃が通らない敵と戦うことになってもいいように、魔法関係のスキルも上げるようにしてたんだ」

 

そう応えた。

 

「以前のスリュムヘイムで僕らは物理攻撃が通りにくいボスモンスターに苦戦しだろう? あの時からアスナは魔法スキルの向上を始めてたんだよ」

 

そして補足するようにソラが言う。

 

「なるほどね。確かに物理攻撃主体の私達ならではの弱点、いいえ欠点ねこの場合は。ソラにしてもユウキやキリトにしても、魔法スキル上げようって気はこれっぽっちも無さそうだし」

 

キリト達がいる浮島に降下しながらシノンは呆れたように言う。

その言葉にソラとアスナは苦笑いだ。

 

「三人とも、お疲れさん」

 

「おつかれー。すごかったよアスナー。いつの間に高位の魔法攻撃なんて修得したのさ」

 

降下してきた三人を出迎えながら、キリトは労いの言葉をかけ、ユウキも同様に労いつつアスナにそう問いかけた。

 

「少し前にね。さっきシノのんにも説明したけど、物理攻撃主体の私達の中にも魔法攻撃が少しでも出来る人がいいと思ってね」

 

その言葉にユウキは納得したような表情になる。

ちょうどその時、彼らの目の前にシステムメッセージが表示される。

前回同様、表示された内容は『新たなエリアが解放されました』であった。

 

「これで次のエリアに行けるって訳だな」

 

「そうね。早速行くんでしょ、キリト」

 

クラインの言葉に頷きながら、リズベットがそう問いかけてきた。

 

「あぁ、もちろんだ!」

 

彼女の問いかけにキリトは当然のように頷き、ユウキ達に目を向ける。

ユウキ達もまた、次のフィールドが待ち遠しいようだ。

皆の意思を表情から確認したキリトは羽を広げ

 

「よし、行こうみんな!」

 

『おぉー!』

 

キリトが言うと、ユウキ達も意気揚々と声を上げ、転移門に向かって飛翔を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ヴェルグンデを攻略し、新たに解放されたエリアは氷によって覆われた浮島大陸。

その名は『環状氷山フロスヒルデ』。

辺り一帯が氷山で構成され、しんしんと降り注ぐ雪はかなり幻想的な雰囲気を醸し出していた。

高い場所から見れば絶景だろうが、このエリアではそれは叶わない。

なぜなら高度限界がかなり低く設定されているのだ。

これにより、散策は飛行ではなく足を使って行なう他ないようであった。

ヴェルグンデの時と同じように、彼らは三チームに別れて大陸を散策。

目ぼしいダンジョンや、怪しいギミックに繋がりそうな施設をそれぞれ発見し、とりあえず準備を整えてから攻略に入ろうということでキリト達は一旦街へと帰還、皆それぞれ私用があるということで、今回はお開きとなった。

ユウキやソラ達がログアウトする中、キリトは街のアイテムや武器を見てからログアウトしようと考え、とりあえず武器やに行ってみようと一歩踏み出そうとした時だった。

町の一角が騒がしくなり、その騒々しさが耳に入ったキリトは疑問符を浮かべながら足を止め振り返ろうとした時だった。

 

「きゃっ!」

 

彼の体に衝撃が奔り、小さな悲鳴が聞こえてきた。

どうやら誰かがぶつかって来たらしい。

声から察するに女の子のようだ。

衝撃でよろめいた少女の身体をキリトは咄嗟に手を伸ばして倒れないように支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、あの……えっと……」

 

そう言って問いかけるも、少女は慌てた様子で辺りを見回し後

 

「あたしを隠して!!」

 

キリトに向かってそう言ってきた。

 

「はぁ?」

 

「いいから! あたしは後ろに隠れるからね!」

 

少女の言葉にキリトは間の抜けた声を出すも、当の少女は未だ慌てた様子でキリトの後ろに配置しある大樽の中へと飛び込んでいった。

未だ呆気に取られるキリト。

しかし、その直後

 

「おい、貴様」

 

声を掛けられ、その方へと振り向くと、そこには一人の青年がいた。

青い髪をしているので種族はウンディーネである。

 

(こいつ……確か『シャムロック』の……)

 

彼を見てキリトは思考を巡らせる。

が、それを遮るかのように、ウンディーネの青年はキリトに対して問いかける。

 

「この辺りで少女を見かけなかったか?」

 

「え? あ、えーっと……あっちの方に行ったかな……」

 

問われたキリトは少し言い淀むも、応えながら大通りの方に向かって指をさす。

すると青年は少々訝しんだ様子を見せるも、キリトを一瞥した後、指示した方向へと向かって歩いて行った。

姿が見えなくなったのを確認してから

 

「……これでよかったのか?」

 

そう声を潜めて問いかけると、少女は勢いよく樽の中から頭を出し

 

「うん! 助かったわ!」

 

そう言ってキリトに笑顔を見せた。

 

「君を探していた今の男、確か『シャムロック』の……君は、もしかして」

 

樽から出てきた少女を見ながらキリトは彼女に問いかける。

すると少女は笑顔のまま

 

「かばってくれてありがとう。あたしはセブン。貴方の推測通り『シャムロック』のギルドリーダーよ」

 

そう言ってキリトに返してきた。

 

「やっぱり。俺、君に会いたかったんだ」

 

「あら? 貴方、あたしのファンだったの? じゃぁ、お礼にサインでもどうかしら?」

 

キリトの言葉を聞いた少女───セブンは言いながら左手を振ってメニューを呼び出した。

 

「いや、ファンとかじゃなくて、七色博士としての君に話を聞きたかったんだよ」

 

「『シャムロック』に入隊したいって訳でもないのよね?」

 

彼に言われセブンは開いたメニューを閉じて問う。

キリトはそれに対して軽く頷いた。

そして次の言葉を紡ごうとしたその時だった。

近くから騒がしい声が聞こえてくる。

どうやら彼女、セブンを探している『シャムロック』のギルドメンバー達のようだ。

 

「まだ探してる……しつこいわねぇ」

 

彼女を探している彼らの声を聴き、少女はうんざりした様子で言った。

それを見てキリトは

 

「君のギルドの奴らって、お付きの人みたいなもんだろ? なんで逃げてるんだ?」

 

そう問いかけた。

するとセブンはキリトに向かって視線を向け言う。

 

「このセブンちゃんにだって、一人で過ごしたいときもあるわ」

 

「そうなんだ。しっかし学者と歌手の掛け持ちなんて、よく務まるな」

 

「まぁね。ただこっちの活動だって、考えがあってやってるわけだし、面白がられてるのは百も承知よ。そう言えば、この様子をミコシに担がれるって言うんだっけ」

 

「ははは。アイドル様は意外と冷静なんだな」

 

少女の冷静な物言いに、キリトは思わず笑みを零してそう言った。

 

「研究ってお金と時間がかかるのよね。今は幸いパトロンがいるからお金の心配は無いんだけどね。研究費がいつ打ち切られてもいいように、稼げるときに稼げる算段を整えてるだけ。アイドルって弾けると色々と儲かるから」

 

彼の言葉にセブンはそう言って返す。

そうこうしていると、先ほどの喧騒が近づいてくるのに二人は気が付いた。

少女はまたもやうんざりした様子で

 

「もう、しつこいわね……今日はもうログアウトしようかしら。あ、そうだ!」

 

そうごちた後、セブンは思い立ったようにキリトに向かい合い

 

「名前を教えてよ!」

 

無邪気な笑顔でそう言ってきた。

 

「キリト。スプリガンのキリトだ」

 

「いい名前ね。それじゃ、またどこかで会いましょう!」

 

そう言うとセブンは走り去っていく。

それを見届けた後

 

「そうだな、俺もログアウトするか」

 

そう呟いてシステムメニューを開く。

メニューを操作しながら

 

(まさか、こんな形で菊岡の依頼が前進するとはな……後でソラやユウキ達にも知らせておこう)

 

そう思考を巡らせてログアウトボタンを押す。

直後に彼の身体がライトエフェクトに包まれていった。




新フィールドの攻略のため、仲間たちと攻略会議をする少年。

それが終わった後、少年は先日接触した少女と再接触する


次回「音楽妖精の少女」
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