本人もそれを自覚している。
だから、彼は英雄王の力を求めたのだ。
せめてもの、非凡さとして。
凡人の転生
『英雄王・ギルガメッシュ』
Fate/シリーズのゲームをプレイした事のある人なら、誰しもが知る名前だろう。
自分以外の全てを見下している、傍若無人・唯我独尊・傲岸不遜なサーヴァント。
聖杯の泥を呑もうと自我を失わず、逆に受肉して十年間も現世に留まった黄金の王。
『宝具はサーヴァント一人につき原則一つ、多くても三つ』という常識も通用しない、
圧倒的な数・威力の宝具で敵を蹂躙する『8人目のサーヴァント』。
チート設定がゴロゴロ転がっているFate/シリーズの中でも、次元の違う存在。
それが、ギルガメッシュなのである。
「…長々とした説明、ありがとうございます。
で、貴方はどんな力が欲しいのですか?」
「…」
これは、とある少し予定より早く死んでしまった人間の少年が、
傲慢にも英雄王の力を求めてしまった為に、波乱万丈の二度目の生を歩む事になってしまった、
そんな、良くある物語である。
第零章
―――――――――――――――
人は、いずれ死ぬ。
男だろうと女だろうと、貧乏だろうと金持ちだろうと、不幸だろうと幸福だろうと皆死ぬ。
…頭でも、心でも分かっているのだ。
しかし、だ。
「まだ二十歳にも満たないのに死んでしまうのは如何なものか、ですか。」
…。
今言った通り、俺は二十歳にも満たない年齢で現世に別れを告げた凡人である。
はっきり言って、物凄く恨めしい。
「己の死を達観出来ない、正に凡人の思考ですね。」
…頑張ってそこそこ名の知れた大学に合格して、頑張って大学生活にも適応した。
それなのに、死んだ。
「努力は報われなかった、そう思って自身を詰っている。
そもそも、大学に合格するだけの努力しかしていないのに。」
…『現実は非情である』『死を恐れるな』なんて言葉は、所詮生きている人間の戯れ言だ。
死んでいる自分の身からすれば、その言葉の何と空虚な事か。
「死人に口無し、それがこの世の道理です。」
今の俺なら、死後の世界の相違から生じている争いをあっという間に解決出来るだろう。
『天国なんて無い、極楽も無い、地獄も閻魔大王もいない。
死後の世界にあるのは、ただ無限の世界と己と―』
「その独白、格好いいと思って言ってますか?
はっきり言って、くっそだせぇですよ?」
ー超上から目線の神を名乗る女だけである』。
この自称神曰く、今まで俺が考えていた事は全部筒抜けだったとの事だ。
出来れば一生無視してやりたかったが、どうやら奴は死人の頭に直接言葉を叩き込めるらしい。
耳を塞ごうが奴の口を塞ごうが、声は頭の中にがんがんと響いてきたからだ。
まだ試していないが、多分奴の喉を絞めても首を切り落としても声は聞こえ続けるだろう。
「物騒な事を考えてますね。正に凡人。
人間ってのは基本的に野蛮だからある程度は気にしちゃいませんが、貴方はぶっちぎりだよ。
てっきり、神話時代の悪魔が数万年遅れてやってきたかと思ったぐらいだしね。」
自分もまさか、神がここまで俗世にまみれた野郎だとは思っていなかった。
現世にいる何とか教の人達にこいつの姿を見せたら、たちまち大戦争が勃発するだろう。
「人間が抱く神のイメージなんてどうでも良いんですよ。私は私なんですからね。
貴方は私が何者かを考えるより、自分の死の理由について考えるべきなんじゃ無いんですか?」
自分が何で死んだのか、それは全く分からない。
特に病気していたとか、誰かに恨まれてた覚えも無し。
事故に捲き込まれたというのなら、その記憶を鮮明に覚えている筈だ。
覚えていないという事はつまり、俺は実に地味な死に方をしたに違いない。
「そうです、地味です。
寝ている間の心臓発作。一人暮らしのおまけ付きで、死体の発見は大幅に遅れました。
全国新聞処か地方紙の最終ページにすら載らない。それが、貴方の死に様です。」
悪意満載の説明ありがとう。
寝てる間に死んだってんなら、死に際の事を何も覚えていない事にも合点が行く。
大変地味な事この上ないが、凡人としてはこの上無いほど相応しい死に方だなと妙に納得した。
だが、思考がここまで進むと、更なる疑問が鎌首をもたげてくる。
「『凡人である自分の元に、何故神である私がわざわざ現れたのか』でしょう?」
そう、正にその物ずばりだ。
今までのこいつの口調からして、こいつは恐らく死人全てを下に見ている傲慢神だろう。
そんな奴が、何故凡人の自分の元に現れて神経を逆撫でしてくるのか。
「期待している所悪いですけど、別に貴方が特別って訳じゃ無いですよ。」
知ってます。
自分がベストオブ凡人だって事も分かってますから、
何故ここにいるのかの説明をしてくれませんかね、自称神様。
「ぶっちゃけると、転生させる為です。
こんな何も無いくそつまらない空間にいたいって言うんなら、止めませんがね。」
…転生?
転生。一度死んだ生命が、新たな肉体を得て現世に還る事。
だが今の言い方は『突然異世界に飛ばされる』的意味合いを多く含んでいる気がする。
何でそんなニュアンスで『転生』って言葉を使ってるんだ、この自称神は?
「それが目的だからですが?
死後の世界には天国も地獄も無い、あるのは無限の空間だけと貴方は言いましたよね?
そんな所に死人をぽんぽん放り込んでも何の意味合いも成さない事ぐらい、理解して下さいよ。」
意味が無いなら何故俺はここにいる―
そう問いかけようとしたが、呆れ顔で首を振られたのでそれ以上の詮索は止めにした。
「で、さっさと本題に入っちゃいますけど。
『どんな世界に』『どんな力を持って』『どの様な形で』転生したいですか?」
指を立てて念を押しつつ、自称神様は言葉を紡いでくる。
今までの不躾な態度からしてみれば、信じられない程丁寧な仕草だ。
「貴方に不躾とか言われても痛くも痒くも無いんで、さっさと条件を挙げてくれません?
貴方は凡人でしょうけど、まさか朴念人では無いでしょう?」
俺が知るか、そんなもん。
思わず反論を組み立てようとする思考を静止し、
自称神様の言う『条件』について思案を巡らせる。
言葉通りに捉えるなら、好きな世界に好きな能力を持ち、好きな展開で転生出来る事になる。
そんな上手い話が、果たして本当にあるのだろうか?
「上手い話には裏がある、良くも悪くも凡人的思考ですね。
第一、貴方を騙して私に何の得があるんですか?」
臆面もなく、自称神様はそう言ってのける。
オブラートに包む気なぞさらさら無い様で何よりだ。
あの態度からして恐らく嘘はついていまい。
本人的に言えば、意味が無いからだ。
「で、どうします?
ここには時間の概念なんて全くありませんから幾ら長考しても結構ですが、
仮に転生する気ならさっさと決めて下さい。
考えすぎて人の形を保てなくなった馬鹿な死人を、私は幾度となく見てきましたからね。」
自称神様風に言わせれば、『思い立ったが吉日』という事なんだろう。
まあ兎に角、こんな何も無い空間で消えるのは御免だ。
さっさと希望を言って、転生させてもらおう。
「決心ついたみたいですね。
じゃ、お好きな希望をどうぞ。」
では、と息を整え、希望を言う。
所望した物は四つ。
『
そして『寿命や飢えでは死なないが、首を落とされれば死ぬ程度の不死性』。
前者三つは生前好きだったゲームキャラクター、英雄王ギルガメッシュの持つ力。
後者はぶっちゃけ、その力を楽しむ為に最低限必要であろうと判断した物だ。
「正にテンプレート通りですね。
『生前好きだったキャラクターの能力を欲する』。貴方ぐらいの年齢の死人に良くある事です。」
自称神様は顔色一つ変えず、そう言ってのける。
ここで男のロマンを延々と語った所で奴の心には全く響かなそうなので、
俺は念入りな確認をする為に口を開く。
『果たして、俺が欲しがっている物をちゃんと理解出来ているのか?』と。
「心配せずとも、メイドバイ人間のあらゆる物は全部頭にインプット済みですよ。
貴方の欲する力は『Fate/シリーズに登場するキャラクター・ギルガメッシュの力』でしょう?」
その通り、どんぴしゃだ。
流石は神を名乗るだけあって、そこら辺の知識は凄いらしい。
「で?」
でとは何だ、でとは。
要望は言ったのだ、早く転生させては貰えないだろうか。
「それじゃあ『どんな力を持って』しか言ってないじゃありませんか。
『どんな世界に』『どの様な形で』も述べてくれなきゃ困るんですけどね。」
ああ、そうか。話が上手すぎてすっかり忘れていた。
『どの様な形で』
別にヒーローとか、ラスボスになりたくはない。
力を好きな様に行使して、英雄王と同じ様な愉悦に浸りたいだけだ。
それ以外は、一般人として生きれれば良い。
「あ、そうですか。
で、最も肝心な『どんな世界に』を何で最後にまで引っ張ったんですかね?
私個人としてはそれを最初に決めてから、後の二つを決めた方がよっぽど良いと思いますがね。」
『どんな世界に』
正直言って、どうでも良い。
力を行使して愉悦する事さえ出来れば、何処だって良いのだ。
「『その力を程良く振るえる世界』という事で良いですね?」
うむ。問題ない。
漠然としたイメージを言葉にしてくれるという意味では、この自称神様は実に優秀だ。
「馬鹿みたいな褒め方ですね。
では、貴方には様々な世界を渡り歩ける権限を与えましょう。」
―え、何でそうなる?
一つの世界に安住する、という選択肢は無いのか?
「したきゃして下さい。
今まで、貴方の様な望みを抱いた人間が一世界だけで満足した事は殆どありませんでした。
これは言わば保険の様な物ですが、転生した後でぎゃーすか文句言われるよりはましなので。」
あ、そうでございますか。ならありがたく頂いておきます。
そう言い、所謂社交辞令のノリで自称神様に頭を下げる。
「礼なんていりません、義務ですから。
じゃ、さっさと何処にでも行ってください。」
自称神様はそう吐き捨てる様に言うと、此方にくるりと背を向けて虚空へと消えた。
後には俺と、何も無い空間だけがだけが―いや、違う。
先程までは無かった大きな扉、異世界への門とでも形容出来そうな物が一つだけあった。
この中に入れば、もうこの空間には戻ってこれないと直感する。
別にこの空間が名残惜しい訳では無いが、
それでも一歩踏み出すと、少し長めに座っていたベンチから腰を上げる時の様な感覚に襲われた。
そんな思いを頭から追い出し、扉に手をかける。
―さあ、行こう。新たなる
そう決意して扉を力一杯押した瞬間、俺の視界は眩いばかりの光に包まれた。
そしてそれは、俺という人間の二度目の生が始まったその時でもあった。
主人公が転生する世界は『そうやすやすと俺TUEEE出来ない世界』です。
なので基本、主人公無双はありません。期待してたらごめんなさい。