英雄王に憧れた少年   作:印鑑

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古来より人は、その両の目で幾多もの意思疎通を行ってきた。
喜怒哀楽、更には悪意、奇異、羨望、嫉妬。
人は視線に複数の感情を織り交ぜ、直に相手へとぶつける事が出来る。
だからこそ、人は他者からの視線に敏感なのだ。


魔女探索

「じゃあ、また明日ねー!」

 

「ねえねえ、帰りにコンビニ寄ってかない?」

 

「あーあ、塾行くのめんどくさいなー…」

 

 

俺が初めて転生した世界の都市、『見滝原(みたきはら)市』。

その市内にあるやたら未来的なガラス張りの建物、『見滝原中学校』の校門前。

学校内から出てくる学生達に昔の自分を重ねながら、俺はのんびりと三人(待ち人)の事を待っていた。

 

…しかしこうして見てると、如何に自分の中学生時代がアレだったかが分かるな…

登校→勉強→昼食→勉強→帰宅のサイクルを一日も欠かさなかったからな、俺。

 

 

「おっ待たせー!」

 

 

目下五十人程の生徒が通り過ぎた頃、ようやく聞き覚えのある声が聞こえてきた。

そちらの方に顔を向けると、そこには水色髪の少女『美樹さやか』が―――

 

 

「ごめんごめん、待ちました?

いやー、ちょっと女子同士で話が弾んじゃいましてねー。」

 

 

―――金属バットを右手に携えて走ってくる所だった。

 

…何だろう、女子同士でプロ野球の優勝チーム予想でもしてたのだろうか。

 

俺が彼女の持っているバットを喰い入る様に見つめているのに気づいたのか、

美樹さやかは怪訝そうな顔をした後、口を開いた。

 

 

「…ん、私のバットに何か付いてますか?」

 

 

いや、何も付いちゃいない。

何でそんな(物騒な)モノを持っているのか、そこが気になっただけだ。

 

 

「勿論、来るべき魔法少女体験ツアーに備えてですよ!

…あ、まどかにマミさーん、クルさんもう来てますよー!!」

 

 

美樹さやかはくるっと振り向き、大きく手を振りながら残りの二人を呼ぶ。

軽く頭を傾け、彼女が手を振っている方法を見ると。

 

 

「…はしゃぎすぎだよ、さやかちゃん…」

 

「美樹さん、そんなに急かさなくても魔女は逃げな…

いや、逃げるわね。急ぐわよ、鹿目さん!」

 

「ちょっと、マミさんまで…うわぁ!?」

 

 

金髪ツインテール(トルネード)の少女『巴マミ』と、

彼女に半ば引き摺られている様に見えるピンク髪の少女『鹿目まどか』。

二人も美樹さやかと同じく、つい昨日会った少女達だ。

 

 

「ふぅ…お待たせしました、クルさん。」

 

「…えっと、待ちました?」

 

 

いやいや、飛んでもない。

学校の未来的なデザインに二時間程見とれてただけなんで、気にしなくて良いですよ。

 

 

「それって結構待ったって事ですよね…」

 

「まあまあ、クルさんが怒ってないんならそれでいいじゃない。

けど良く良く考えたら、全面ガラス張りなんて変な構造だよねー。

何か有名なデザイナーさんがデザインしたらしいけど、一体何を思ってデザインしたんだろう…」

 

 

…巴マミの家といいこの学校といい、ガラス張りの建物がこの世界での流行りなのだろうか。

この学校に来る前に軽く市内を歩いてみた時も、ガラス張りのビルが結構多くあったからな。

 

 

「そう言えば、まどかの家もガラス張りだよね。」

 

「日がいっぱい入るから、朝起きる時とかに気持ちいいんだよ?」

 

 

…開放感がありすぎるというのも考え物である。

プライバシーもへったくれもない。少なくとも俺は住みたくない。

 

 

「…さあ、皆揃った事だし、出発しましょう。

これから昨日私達が出会った場所まで行くから、はぐれずに付いてきてね。」

 

 

巴マミは手を叩き、自身の後を付いてくる様に促す。

 

 

「…おっとっと、危うく目的を忘れる所でした…」

 

 

その音で美樹さやかは現実に引き戻されたのか、目線を上げて巴マミの後ろに付いた。

…バットは下向きに持った方が良いと思うんだが。

 

 

「さあいざ行かん、魔女退治へー!!」

 

「わわっ、ちょっと待って~…」

 

 

鹿目まどかは、二人の後を慌てて追っていく。

 

さーて、いつまでもぐずぐずしている訳にもいかんな。

行ってみますか、魔女退治とやらに。

 

俺は足を踏み出し、二メートル程先にいる三人の後を追って歩き始める。

 

―――と思ったらいきなり躊躇なく雑踏に踏み込んで行ったので、危うく見失いそうになった。

流石は都会っ子、大人数の他人に抵抗がない様だな…

そんなどうでも良い事を考えていると迷子になりそうなので、

俺は急いで三人の真横へと移動する。

 

 

「…そう言えば、クルさんは何か持ってきましたか?」

 

 

俺が傍らを歩いている事に気がついたのか、美樹さやかはそう訊ねてきた。

…持ってきたかって、何を?

 

 

「勿論、魔法少女見学ツアー用の何かしらですよー。」

 

 

今持ってるそのバットみたいな物の事?

…残念ながら、持ち合わせて無いねぇ…

 

 

「ちっちっち~。

男の人なら、自分の身は自分で守らなきゃ駄目ですよ。」

 

 

そう言われても…

―――待て、もしかして君は戦うつもりなのかい?

 

 

「そりゃあ、マミさんにあまり迷惑をかける訳にはいきませんからね。

ね、まどか?」

 

「…え!?…あ、うん…」

 

 

…鹿目まどかの方は全然そんな気は無い様に見えるんだが。

 

 

「そんな事無いですよ!

実際まどかは、私よりも気合い入ってますからね!」

 

 

ほーん、バット持ってきた君に比べてどれだけ入ってるんだい?

 

 

「そりゃあもう、自分が魔法少女になった時の衣装を考えてくるぐらい…」

 

「…ちょ、何で言っちゃうのっ!?」

 

「いやぁ、アレを私とマミさんだけの占有財産にしておくのは勿体なーい!

と思った始末でございますぅ。」

 

 

その衣装ってのは、そんなにヤバい代物なのか?

 

 

「…あ、はい!見ない方が良いですよ!」

 

 

自分で言うのか…それを…

そこまで言うなら、遠慮しておくよ。

 

 

「えー、折角あの感動をクルさんとも共有しようと思ったのにー。」

 

「…さやかちゃん、もうその話はしないでくれないかな?」

 

「…仕方無い。

可愛いまどかの頼みとあっちゃ、無下に断る訳にもいかないな。

分かった、もう金輪際この話題は封印ね!」

 

「う、うん!」

 

 

…何か解決した様ですね、良かった良かった。

ところでお二人さん、一つ良いかい?

 

 

「「?」」

 

 

…君らの先輩、もう結構遠くまで行っちまったぞ?

 

 

「あー!もうあんなに遠くに!

クルさん、何で教えてくれなかったんですかー!?」

 

 

いや、君ら二人の会話に割り込むのは失礼だと思ったんだ。

 

 

「…あ、凄く真面目な答え…ってぇ、そんな事言ってる場合じゃない!

まどか、クルさん、走るよっ!」

 

「さやかちゃん、そんな急に走らないでぇー…」

 

 

―――だから何の躊躇も無く雑踏に突っ込んでいくなぁぁぁ!

くそ、都会なんて大っ嫌いだ…

 

もしも将来家を持つとしたら人の少ない静かな場所に建てようと心に決めつつ、

俺は全力で三色の頭を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

 

昨日俺が降り立ち、間髪入れずに劇的な出会いがあった廃ビル内。

 

―――どうやらショッピングモールの駐車場だったらしいその場所に、

俺達は再び立っていた。

 

 

「どうですか、マミさん?」

 

「…ちょっと…待ってね…」

 

 

で、今何をしているかと言うと。

巴マミの持つ不思議な石『ソウルジェム』で魔力の痕跡とやらを探している所だ。

 

因みにその探し方は非常に地味かつ地道であり、

ソウルジェムをあちらこちらに向けてより強く光る場所を探す、という物である。

 

―――やはりこの世界でも、魔法は万能では無いんだな。

 

 

「…あ。」

 

「見つかりましたか!?」

 

「ええ。

弱いけれど、間違いないわ。」

 

 

巴マミの視線の先を見ると、

小さい薔薇とその周りを飛ぶ小さな蝶がいた。

 

…昨日のアレ達を彷彿とさせる組み合わせである。

 

 

「これが、魔女の痕跡…」

 

「…何か嫌ーな感じ…」

 

 

同感だ。

 

 

「…そ、そう言えばクルさんは大丈夫だったんですか!?」

 

 

…え、何が?

 

 

「そうだよ!

昨日私達が襲われた奴らに、クルさんも襲われたんじゃないですか!?」

 

 

―――あ、ヤバい。

 

いずれは言われる事だっただろうに、すっかり失念していた。

まさか「王の財宝と天の鎖で殲滅しましたー」なんて言えるわけも無いし…

 

…良し、ここはとぼけよう。

 

 

「覚えてませんか?

毛玉みたいな顔でハサミ振り回していた化け物なんですけど…」

 

 

…け、毛玉みたいな顔のハサミの化け物ぉ?

君達はそんなのに襲われてたのかい?

 

 

「…あ、はい。

…え、もしかしてクルさんは襲われてないんですか?」

 

 

またまたぁ、そんな化け物に襲われてたらとっくのとうに肉片になってますって。

 

 

「た、確かにそうですよねー。

現に私とまどかだって、

マミさんに助けられてなかったらクルさんの言った通りになってただろうし…」

 

「…さやかちゃん、あんまり物騒な事は言わないで…」

 

 

何であれ、君達も助かったって訳だな。

 

―――さて、魔力ダウジングの進捗具合はどうなってるんだい?

見た所、光り方に余り変化は見られないけど。

 

 

「…うーん、駄目ですね。

取り逃がしてから一晩経ってしまっているので、足跡も薄くなっていますし…」

 

「もしもあの時、直ぐに追いかけていたら…」

 

「仕留められたかもしれないわね。」

 

「…ごめんなさい…」

 

 

鹿目まどかが俯くと、巴マミは笑って首を横に振る。

 

 

「良いのよ、鹿目さん。

魔女は確かに退治しなくてはならない存在だけど、

あの時は貴方達を放っておいてまで優先する事じゃなかった。」

 

「うん、やっぱりマミさんは正義の味方ですね!」

 

「ふふ…ありがとう、美樹さん。」

 

 

―――正義の味方、か。大したもんだ。

良く分からん異形のモノと戦うなんて、

余程の信念と覚悟が無ければやってられないだろうに。

 

 

「…しっかし、マミさんに引き換えあの転校生は…

全く、本当にムカつくなぁ!」

 

 

美樹さやかの言う『転校生』。

恐らく、昨日の黒髪ロングの子の事を言っているのだろう。

 

…そういや結局何者なんだ、あの子は?

 

 

「えーっと、確か…

ああそうそう、『暁美(あけみ)ほむら』ですよ。

今日も何か絡んできたし、かーなーり危ない奴ですよ、あいつは!」

 

 

…随分と酷い言い様だな…

まあ昨日俺と出会う前も一悶着あったらしいし、当然かもしれない。

 

 

「…うーん、本当に悪い子なのかな…」

 

 

…え、狙われてたっぽい君がそれを言うのかい?

まあ確かに、生粋の悪人って感じの子じゃ無かったけども…

 

―――といっても、あの驚愕した時の表情から推測しただけだが。

 

 

「あ、クルさんもそう思います?

ちょっと厳しそうな子だけど、悪い子には見えないですよね。」

 

 

…いや、まあ、うーん。

君がそう言うんなら、そうなのかもしれないね。

その子の事を全く知らない俺がとやかく言える事じゃないし。

 

 

「…っ!」

 

「お、どうしたんですかマミさん?

まさか、反応があったんですかー?」

 

「ええ。そのまさかよ、美樹さん。

…やっぱり移動していたのね。」

 

 

…む、どうやら進展があった様ですな。

 

 

「そうみたいですね。」

 

「よーし!

そうと決まれば、魔女目指して全力ダッシュだー!!」

 

「ちょ、ちょっとさやかちゃん!?」

 

 

美樹さやかは此方に駆けて来るが早いが鹿目まどかの腕をむんずと掴み、

そのまま出口へと彼女を引きずっていく。

 

…何と言う戦車…いや、人力車だ…

 

 

「そんなに急いで走ったら転んじゃうよー…」

 

「大丈夫大丈夫!

いざとなったら、私がクッションになってあげるから!」

 

 

…おーい君達、そっちは非常口だぞー。

 

全く、元気なこった。

俺にもあんな頃があっ…いや、無かったか。

 

 

「何言ってるんですかクルさん!

さあ、私達もダッシュで二人を追いますよー!!!」

 

 

『突如、腕を鷲掴みにされた』

 

その事実を頭で処理しきる前に、俺の体は勢い良く地を蹴って走り出す。

…体の平衡を保つ為に必死で足を動かしている、と形容した方が正確な気もするが。

 

 

「私はあの子達の『先輩』なんです!

先輩が後輩に遅れを取っていたら、格好がつきませんからね!」

 

 

前の方で巴マミが何か言っている様な気がするが、全く聞こえない。

いやもしかしたら聞こえているのかもしれないが、

そこに意識を裂いた瞬間に足が縺れそうなので聞き流す事にする。

 

…何か重要な事喋ってたら申し訳ないが、今は足のみに意識を集中せねば!!

 

 

「ほらほらまどか、これしきでへこたれ―――うわっ!?

ってマミさんとクルさ―――」

 

 

美樹さやかの驚いた顔が目の前を通り過ぎ、直ぐ様フェードアウトしていく。

…あれ、おかしいな。俺は確か飛び出していった二人を追って飛び出した筈なのだが。

それ以前に、俺はこんなに足が速かったか―――?

 

疑問が浮かぶたびに地を蹴る音がそれを霧消させ、俺は再び走り続ける。

もう良いや、今は無駄な感情は排除して走り続けよう…

 

 

「…ねえ、まどか。」

 

「…何、さやかちゃん?」

 

「マミさんとクルさん…足、速すぎない?

自転車も目じゃないよ、あのスピード…」

 

「「……」」

 

「…取り敢えず…追おうか。」

 

「…うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、中々反応しないわね…」

 

 

軽く1km以上は走った(引き摺られた)かと思われる後。

巴マミは息一つ乱さず、掌のソウルジェムに目を凝らしていた。

 

―――え、俺はどうなのかって?

殆ど引き摺られてた様な物だから、息切れ一つしてませんよ?

自分でも転ばずにいられたのが不思議だけどね、うん。

 

 

「…はぁ…はぁ…やっと追い付いたぁ…」

 

「…ふぇ…」

 

 

…まあ、美樹さやかと鹿目まどかはぜーはー状態なのだが。

 

しかし冷静に考えれば、彼女達の状態の方が普通だろう。

むしろ何故俺は息切れ処か足の痛みの一つすら無いんだろうか。

 

 

「…で…マミさん…

ま…魔女…は…?」

 

「それが、ねぇ…」

 

 

…これだけ突っ走ってまだ見つからないのか…

目星とか付けられないのか、そう言うのは?

 

 

「…そうですね…

魔女の呪いの影響で多いのは、交通事故や傷害事件なんです。

ですから、大きな道路や喧嘩の多そうな繁華街を優先的にチェックしてみたんですけど…」

 

 

―――腕を引っ張られていた時の記憶が、部分的に思い起こされる。

確かに突っ走ってたのは歩道橋の上が多かった気がするし、

人混みの中を駆け抜けた記憶もあるな…

 

何も考えずに走ってたわけじゃ無かったのか。猛省せねば。

 

 

「ふむふむ…他には無いんですか、魔女が居そうな所?」

 

「…そうね…

自殺に向いてそうな人気の無い場所なんかも、魔女は好むわ。

…それから、病院なんかに取り憑かれると最悪ね。

只でさえ弱ってる人達から生命力が奪われるから、目も当てられない事になるわ。」

 

 

…で、普通の人達には空調の不調による不幸な事故云々にしか見えない訳か…

五次キャスターと言い、何処の魔女も似た様な事してるんだな…

いや、ライダーの方がそれっぽいか?

 

 

「っ!」

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「かなり強い魔力の波動…

どうやら、探索は無駄じゃなかったみたいね…」

 

 

そう言った巴マミのソウルジェムは、

先程までの切れかけの蛍光灯のごとき弱々しい光とは打って代わり、

強い輝きを放っている。

 

 

「この反応、間違いなく近くにいるわ。」

 

 

…え、マジで?

 

今にも異形の何かが襲いかかって来るんじゃないだろうか、という漠然とした不安と、

一体どんな姿形をしているんだろうか、という僅かな好奇心が沸き上がり、

俺は思わず辺りを見回す。

 

 

「…マミさん、あの建物なんか怪しくないですか?」

 

 

俺と同じ様な感情に駈られたらしき美樹さやかが指差す先には、

夕日を浴びた一棟の建物が遠慮なく鎮座していた。

 

距離的に多分百メートルと離れていないであろう、その建物。

一見すれば街の風景の一角として素通りしてしまいそうなそれには、

何らかの違和感が感じられる。

恐らくそれを感じたからこそ、美樹さやかもあのビルに目を止めたのだろう。

 

その違和感は例えるならばそう、本来有ってはならない物がそこにあるかの様な―――

 

 

「…あ…」

 

 

違和感の原因を見つけようと俺が四苦八苦していると、不意に鹿目まどかが声を挙げた。

 

何だどうしたと俺が訊ねる前に、横でビルを眺めていた巴マミが弾かれた様に走り出す。

その顔が余りにも必死だった事に釣られたのか、美樹さやかも走り出した。

 

 

「ど、どうしたんですかマミさん!?

何で急に走りだしたん―――」

 

 

美樹さやかの表情が固まる。

俺は彼女の視線を素早く辿って建物の屋上を見上げ、そこで思考が停止した。

 

フェンスの外側に立ち、今にも虚空への歩みを進めようとしている人がいる。

回らない頭でようやくそれだけの情報を得た瞬間、その人は大きな一歩を踏み出した。

 

―――無論、その先に足場など無い。

 

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

 

鹿目まどかの悲鳴で我に帰り、そのまま俺は無我夢中で駆け出す。

恐らく多分きっといや絶対に間に合わないだろうが、走らずにはいられなかったのだ。

 

そんな俺の健走も虚しく、人影はゆっくりと落下していく。

 

人と地面との出会いが残り三秒まで迫り、思わず目を瞑った次の瞬間―――

 

 

「はっ!!!」

 

 

前方から、気合いの入った巴マミの掛け声が聞こえた。

その声に驚いて思わず目を開けると、彼女はいつの間にか昨日初めて出会った時の姿…

 

「魔法少女」へとその姿を変えていた。

 

 

「っ!」

 

 

変身した巴マミが腕を掲げると、

彼女の周りから伸びた無数の何かが落下している人目掛けて飛んでいき、

その身を優しく受け止めて地面にそっと置いた後、細かい光になって消えた。

 

…今のは…うーむ、リボンか何かだろうか。

ってかそんな事考えている場合じゃない!落ちた人は無事なのか!?

 

慌てて巴マミの元へと駆け寄る。

俺より先に飛び出した美樹さやかが、地面に横たわっている人を心配そうに見つめていた。

 

 

「…女の…人?」

 

 

後ろから必死に駆けてきたらしき鹿目まどかは、

横たわる人を見て驚きの混じった顔でそう言った。

その声につられ、俺はその人…所謂「OL」風な格好をした女性を見下ろす。

 

靴を履いてさえいれば、倒れている事以外は何の違和感も無い女性。

巴マミはその側に屈み込み、女性の首筋にかかっている髪を退かした。

 

 

「…やっぱり…」

 

 

巴マミの顔が険しくなる。

恐らく女性の首筋についている丸い判みたいの物が原因なんだろう。

 

美樹さやかもその印に気付いたらしく、首を傾げて口を開いた。

 

 

「マミさん、これって…」

 

「『魔女の口づけ』。魔女に操られた人に付く、魔法の印よ。」

 

「…あの、その人は…」

 

「大丈夫、気を失っているだけ。

さぁ、行くわよ!」

 

「「はいっ!」」

 

 

…え、この人置いてくの!?

また起きて自殺しようとしたらヤバくないか!?

 

 

「そうなる前に、魔女を倒します。」

 

「さっ、クルさんも早く早く!

ほら、まどかも!」

 

「う、うん!」

 

 

えぇ、ちょっ…良いのか、それで…

横目でチラッと女性を見る。

 

少なくとも、今飛び起きる事は無さそうだ。

いや、でもなぁ…

 

 

「心配しなくても良いよ、"    "。

近くにある魔法の気配はマミ達が向かっている場所にしかないから、

この女性が襲われる可能性は限りなく低い。」

 

 

―――こ、この声は…そして肩に感じる今一好きになれないこの感覚は…!

咄嗟に首を曲げ、肩を確認する。

 

そこには、白い縫いぐるみらしき生き物・キュゥべえが我が物顔で乗っていた。

…えっと、何時からいたんだ?

 

 

「最初からだよ?

まあ、黒い魔法少女に気をつけてっていうマミの忠告に従って少し離れて歩いていたけどね。」

 

 

アサシンも真っ青の気配遮断っぷりである。

声聞こえてきた時は心臓止まるかと思ったぞ、おい。

 

 

「とにかく、今はマミを追うんだ!

魔女の結界はもうすぐそこだよ!」

 

 

キュゥべえに急かされ、俺は急いで巴マミ達を追って建物の中へと入る。

そこでは今まさに、階段の上に魔女の紋章みたいな物が現れた所だった。

 

 

「あー、遅いですよクルさーん!」

 

 

いやすまん、ちょっと葛藤してたもんで。

…で、そのバットは何だい?

 

 

「え?」

 

 

首を傾げている美樹さやかの手には、かつてバットだったと思われる棒状の物があった。

 

…赤ちゃんをあやすのに使う道具を思いっきり縦に引き伸ばして洋風の装飾を施した物、

と言った方が伝わりやすいかもしれない。

 

 

「ああ、私の魔力を少し注いだんですよ。

気休め程度にしかなりませんけど、身を守る事ぐらいは出来ますからね。」

 

「マミさんパワーを得たこのバットなら、身を守るなんて余裕ですよ!」

 

 

…騎士は徒手にて死なずってか…

しかし、あの洋風バットだけだと何か不安だな。

鹿目まどかは美樹さやかが守るにしても、それで守りきれるかどうか分からないし…

 

 

「心配しなくても、私がまどかとクルさん、纏めて守ってあげますよ!」

 

「…さやかちゃん、それは危ないよ…」

 

 

うむ、流石にそれは遠慮しておく。

…中学生の女子に守ってもらうのは幾ら何でもプライドが傷つくからな。

 

 

「何だよー!私が信頼出来ないっていうのかー?」

 

「相手は魔女なんだよ?」

 

「それがどうした!

今の私にはこのバットがあるっ!!」

 

 

…血気盛んですね、うん。

 

さて、と。何か無いかね、武器になりそうな物は…

そう考え、辺りを見回す。

 

丁度良い長さの棒みたいな物があれば良いんだが、なんて思いながら目を凝らす。

 

 

「…クルさん?」

 

 

―――お、壁に立て掛けてあるパイプらしき物発見。

一メートルちょいのそれを持ち、軽く振ってみる。

 

重すぎず、軽すぎない。

錆び付いておらず、機械油で粘つきもしない。

 

よし、君に決めた!

 

 

「お、クルさんも良い獲物を見つけたみたいですね!」

 

 

獲物言うな。せめて護身用の武器と言ってくれ。

 

 

「じゃあ、さっそく…」

 

 

近づいてきた巴マミが俺の手の中のパイプに触れると、

パイプは一瞬流動して膜状に大きく広がり、直ぐに収縮して一振りの剣へと再構築された。

細やかな装飾が施された金色の柄に、射し込む夕日を受けて輝く白銀の刀身。

何処かの英雄が使う剣、と言われてもあっさり信じてしまいそうな見事な剣である。

 

感想・魔法って素晴らしい。

 

 

「おぉ、クルさんの武器、物凄く格好いいですなー!

…そこそこ気に入ってる私の元バットが少し霞んで見えるぐらいに…」

 

「あら美樹さん、その武器はお気に召さなかったかしら?」

 

「いやいや、そんな事無いですよー!

じゃ、そろそろ突入しちゃいましょう!」

 

「ええ、そうね。

けどあまり前に出過ぎたら駄目よ?」

 

「承知の上です!

ね、まどか、クルさん!」

 

「…え!?

う、うん…」

 

 

言われずとも理解してるさ。

―――つーか、魔法少女じゃない美樹さやかが一番血気盛んってどういう事だ…

 

 

「さあ、行くわよ!」

 

「分っかりましたぁ!」

 

「…あ、ちょっとさやかちゃん!?」

 

 

巴マミが魔女の紋様に飛び込んだ後に続き、美樹さやかも鹿目まどかの腕を掴んで突入していく。

良し、俺もいざ往かん魔女の巣窟へ――――――ん?

 

 

「どうしたんだい?」

 

 

ふと後ろを振り向いた俺に、キュゥべえがすかさず疑問を投げ掛けてくる。

 

…というか、お前まだいたのか。てっきり先に行ってるのかと思ったよ。

 

 

「いや、マミに君の側にいる様に頼まれたからね。

それよりも、どうして急に振り向いたりしたんだい?」

 

 

…いや、何でもない。行こう。

ぐずぐずしてると美樹さやかにぼやかれるだろうしな。

 

右手で巴マミソード(仮)の柄を握り締め、魔女の紋様の中に足を踏み入れる。

視界が濁った黄色に染まり、体を浮遊感が包む。

 

―――しかし、あの視線は何だったのだろうか。

つい最近感じた事のあるような視線。敵意ではない、言うなれば―――

 

 

 

 

 

―――興味と奇異が入り交じった、そんな視線の様に感じられたのだが。

 

 

「…。」




巴マミソード(仮)のデザインはほぼ原罪(別名メロダック。
Fate/SNで英雄王が士郎の投影カリバーンに対して使った、"聖権"を象徴する剣)です。
これからの主人公の主力武器になる、かもしれません。
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