第八話 一馬(ユニコーン)の休日その4
星香は早速、パンフレットを広げている。最初はどれに乗ろうか吟味をしているようだ。
目が物凄く真剣。少し近寄りがたい雰囲気を出している。
星香、お前どんだけ真剣なんだよ。もうちょっと楽にしろよ、じゃないと肩が凝るぞ。
気が付けば、俺は額に手を当てていた。仕方ねえな。
「星香、行くぞ」
「え、あ! ちょっと!?」
星香の手首を握って、歩き出す。
「星香、こういうのは直感だ。アトラクションの名前でも何でもいい。これだって思ったものに乗ればいいんだ。分かったな」
コクコクっと頭を縦に振った。
「よし、行くぞ」
「お、おおお!」
今日の星香はいつもよりノリが良い。いつもこんな事してくれないのに……まあ、それでもいつも通りの星香が一番いいけどね。
「ユー君。私はあれが乗りたいです」
星香は、とあるマスイィーンを指さしていた。
「マジで言ってるのか」
「はい。大マジです」
即答でスカイ。だが、ここで尻込みしてちゃあ男が廃るってもんだ。
「OK.やってやろうじゃねか」
俺は後々、この選択を公開することになる。
そういって係員に眼鏡を渡して乗り込んだのは、このテーマパークの一番の絶叫マシーン。その名も「dead or alive」生きるか死ぬかっていう凶悪な名前の絶叫マシィーンだ。
早速、先頭に乗った。こうなったら自棄だ!! きやがれ!! ……正直言いますと俺、絶叫系は全くダメなんだよね。生きて居れるかな俺。
隣の星香の顔を見てみると、うん、笑顔で何よりだ。俺も男だ、星香の為に命を賭けるか。只の絶叫マスィーン如きだがな―――――――アハハハハハハ。オレシンダ。
「ユー君、楽しみましょうね。私すごく楽しみです、良くテーマパークのCMが流れた時にこういう絶叫マシーンに一番に乗ってみたかったんです」
ガタンガタンっと動き出すコースター。しかし、俺には星香が何を言っているのかが耳に入っていなかった。
「だから、ありがとうございますね」
屈託の無い笑顔、しかし、俺にはそれを見る余裕すらなかった。今の俺は悟りを開きかけて、
「いるぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううう!!!」
「きゃああぁぁぁぁぁああああ!!」
垂直と言っていいほどの落下。死ぬぅぅぅぅうううう!!! チキンハートの俺。死ぬぅぅぅぅうう!!! 隣で、黄色い声で叫んでいる星香の様子を見る暇なんて全く無い。
そして、とうとう「dead or alive」と名付ける由来になったポイントまで来た。よし、これで最後だ。これで降りれる。
だが、俺はまたも地獄を見たんだ。
コースターが垂直に昇っていく。しかも、相当な高さだ。何でこんな時に限って頭が冷静になってんだよ! 嫌な事を引っ張り出してしまったじゃねえか。この高さ確か、『殺し』って書いて564mって読むんだったよな。それで、頂上まで行ったらそのまま背中向きで落下していくんだよな。グネグネ曲がったり回り捻ったりしながら……ありえねえよ。俺確実に死んだな。
もうありえねえよ、高さ564mってどうやって作った。だれかココの責任者呼んで来い!! 俺が正義の鉄拳制裁パンチを喰らわせてやるからよ!!
すると、突然。左手に人肌の温もりを感じた。
「ユー君。大丈夫ですよ。私が手を握ってあげますから」
「せ、星香」
あんた、男前やぁぁぁぁああ!! 俺よりも男前じゃん。こんなに良い子、なかなか世の中に居らんよ。
気付けば手足の震えが止まっていた。
「ね」
マジで良い子やぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!! 世界の中心で叫びたい。
突然。ガシャンっという音を立ててコースターが止まった。はて、なんで止まったんだ。まだ、100m位しか登っていないのにな。
乗っている人たちがガヤガヤし始めた。
『うおあ!!!』
と男達は野太い声を上げ、
『キャアア!!』
と女性たちは短い悲鳴を上げた。誰もいきなりのトップスピードに何も心構えも出来ていなかった。
トップスピードで駆け上がるコースター。
さあ、来るならきやがれってんだ。
眺めが、アホみたいに良いなあ。あ、死んだ曾おじいちゃん今からそっちに行くよ。
曾おじいちゃんがこっちへおいでって、手を振っているのが分かる。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
地を砕き、天を裂くような悲鳴が響き渡った。其処からの記憶が全く無い。多分、俺の危険防衛能力が発揮して強制気絶させたんだろう。最後がどうなったか記憶が全く無い。
気づいたら、「dead or alive」の前にあるベンチに座っていた。俺の隣には星香が居た。
他のベンチにも、「dead or alive」で見かけた人たちがたくさん居た。多分全員が、同じ目にあっただろうな。もう、絶対にあれには乗らないぞ。
「星香。大丈夫か?」
「え、ええ。何とか大丈夫です」
言葉はちゃんと出していて、しっかりしているな。
「よし、次に行くぞ」
「行きましょう。次は落ち着いたのが良いです」
「俺もだ」
重たい腰を持ち上げて立ち上がった。そして、歩き出す。
俺は常に、星香の歩幅に合わして歩いている。これぞ、紳士の嗜みだ。
「次はあれが良いです」
そういって、星香が指差したのは、定番中の定番。お化け屋敷だ。
「い、良いぞ。お、おばけなんて、ここここの世に、いい、い居るわけ、ななないないないからね」
「や、止めましょうか?」
「いや、だだ大丈夫だぁぁあ」
「そうですか。では、」
また、右手に温もりを感じた。
「私が、また手を繋いであげます」
顔を赤くして、恥ずかながらも言ってくれた。そんな事されたら、逝くしかねえじゃんか。逝くしかねぇじゃんかよぉぉぉぉおおぉぉお!!!!!!
「良し、逝くぞ」
「はい、字は違う気がしますが、逝きましょう」
そうだね、星香の方も字が違うね。後ね、星香が俺の手を握った時に気が付いたんだけどね、星香の手も震えていたんだ。ここで漢をみせなけりゃあ漢じゃねえな。なあ、一馬(ユニコーン)よ。
作りはメッチャ雰囲気が出ている。建物は元からあった廃病院を使っているらしい。
正直に言おう、ちびってしまいそうです。俺、霊的なもの一切ダメなんです。
マジで、でそうな雰囲気があるんですが……ていうか、マジで出るんじゃないか? 特に深夜とか……ていえるほどのマジでヤバそうなお化け屋敷です。
「い、いいいいい、逝くぞ!! 星香」
「は、はい」
二人して、声が震えていた。さあ、逝ってきます。
「お二人ですね。では、どうぞ」
係員にパスを見せて、暖簾を潜った。
もう、そこから先は思い出したくない。二人して、『ぎゃあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああぁぁ!!!!!』てガンガンに叫びまくった。
怖すぎて、マジで脱糞しそうになりましたよ。割とガチで……そんな事は命に代えてもしないけどな。
何なのあれ、地を這うゾンビ。空から降ってくるゾンビ。外の窓から入ってくるゾンビ。地面から手を突きだすゾンビ。
ゾンビ。ゾンビ。ゾンビ。ゾンビ。ゾンビだらけで、頭が可笑しくなりそうだった。
一番のインパクトは、ゾンビが壁をぶち破って、そこから全力ダッシュして追いかけられたときは、マジで俺ら二人も全力ダッシュで逃げた。
もう、何ココはラクーンシティかぁぁぁぁぁああぁぁ!!! て叫んだよ。
もう嫌だ。
もう、お化け屋敷なんて入らないぞ。よくギャルゲーの主人公とヒロインがお化け屋敷に入って、主人公は良い思いをするけどな。ここのお化け屋敷はそんなレベルじゃない。
下手すりゃあ、トラウマレベルだ。それほど完成度が高くて、滅茶苦茶怖いお化け屋敷だった。
「せ、星香。だ、だだいじょうぶか?」
「お化け怖い。お化け怖い。お化け怖い……」
ヤバイな、変な意味でトリップしてやがる。困ったぞ。
「こうなったら」
パンっ!! という手と手を打ち合わせた音が響いた。ようは星香の目の前で思いっきり両手を叩いたんだ。
「はっ!」
よし、正気に戻った。まあ、こんなことで戻るのもどうかと思うけどね。
「大丈夫か?」
「私は、一体? 思い出そうとすると、頭が痛むんですが?」
完全にトラウマになってるね。
「大丈夫だよ星香。何も無かったよ。そう、何も……」
「そ、そうですか。ユー君がそういうなら信じます」
「それにしても、腹減ったな」
さっそく話題転換して時間を確認してみると、昼丁度の時間帯だった。
「そうですね。なら、あそこのベンチに座ってランチにしましょう。今日は頑張ってお弁当を作ってきました」
そういって、バックを掲げる。
すぐ傍にあったベンチに腰をかける。星香は中から四段ぐらいになっている弁当箱を取り出して、箸と布巾を取り出した。
「あれ?」
「どうした、星香?」
「飲み物を忘れてしまったようです」
「そうか……よし、俺が買って来よう」
「お願いしますね。ユー君。私は天然ミネラルゥ麦茶でお願いします」
「了解」
俺はベンチから腰を上げて、早歩きで自動販売機を探しに行った。さあ、急ぐぞ。こういう時に展開に限って、戻って来た時に星香が誰かに絡まれている可能性は99%位ありそうなんだよな。
特に、星香がメッチャ可愛いのが一番の理由だろうな。
ベンチから100m位離れた所に自販機があった。思っていたより遠くにあったな。
500円玉を入れて、麦茶と緑茶を買った。
そして、ダッシュ。
「放してください」
「良いじゃんかよ。俺達と一緒に遊ぼうぜ」
「遠慮します。連れが居ますので」
「そんな奴と遊ぶより、俺らと遊んだ方が楽しいよ」
やっぱり、テンプレの如く。ベタなガラの悪いチャラ男に絡まれていた星香。
人数は二人。
俺は重い足取りで近づいていく。
「おい、何勝手に人の連れに手を出してんだ」
チャラ男その1の肩に手を置く。
「ああん、何だてめえ、は……」
「デカ!!」
語尾が小さくなっていく。それもその筈、一応俺の身長は14歳でありながら180cm超えているんだ。しかも、身体つきも悪くはない。
それに比べて、チャラ男その1とその2の身長は170cmあるか、無いかだ。
「おい、何人の連れに手を出してんだって聞いてんだよ!! 聞こえてねえのか?」
自分なりに結構ドスの効いた声で言ってみた。
するとどうだろうか、チャラ男その1とその2は『ひぃぃぃぃぃいい!!』て言いながら逃げて行った。
良かった殴り合いにならなくて。俺喧嘩なんてやったことないし、痛いの嫌いだから。
その証拠に、俺の脚が微妙に震えていたんだ。俺はヘタレでチキンハートだからな、この事は内密にお願いしますね。
「星香、何もされてないか?」
「はい、大丈夫です。ユー君が助けてくれたおかげです」
頬を緩ませている星香。なぜ?
「星香が無事なら良かった。それにほら、コレ」
星香に天然ミネラルゥ麦茶を渡す。
「ユー君。ありがとうございます」
「じゃあ、食べようぜ。星香のお弁当」
「はい」
『いただきます!!』
ジューシーな唐揚げに、トロっとした卵焼き。サクサク衣のエビフライに色々な具があったオムスビ。ポテトサラダと色々な食べ物があった。
どれも、文句なしにすごく美味しかった。
最高に美味いよ星香。
食べ終わり、遊園地も後半戦に移る。
後半戦も面倒事に巻き込まれませんように……割とガチデ……