目の前に斧を振り下ろそうとする男が見える。
俺は今、麻痺毒に侵されて動けない。ホロウに打ち込まれたピックによって。
つまり、今俺は絶体絶命。おそらく数秒後に死ぬ。あの男の、斧で首を断ち切られて。
こんな所で終わるのか。信じていた奴に裏切られて。
でもまあ、それが俺にはお似合いだろうな。
優越感に浸り、仲間を騙し、死なせたビーターに罰が下るんだ。妥当な結末だろう。
ああ、アスナの悲鳴が聞こえてくる。きっと、俺の死がそうさせるのだろう。君を守れないまま死ぬことを、許してくれ。
「がっ……………………」
聞こえた呻き声に、顔を上げる。すると。
目の前の男が無数の武器に貫かれ、ポリゴンと化し散っていた。
「キリト君っ!!」
アスナが俺に駆け寄ってくる。その顔は、恐怖と安堵が混じったような表情だった。
「生きてて、よかった………………」
今にも泣きそうな顔で俺の胸に顔を押し付ける。俺はアスナをそっと抱き寄せる。いつの間にか、麻痺も切れていた。
「でも、どうして………………」
「何故だっ!!」
振り向くと、ジョニーが叫びながら武器を構えていた。ジョニーだけじゃない、ラフコフの全員が一人のプレイヤーに刃を向けていた。
「どうして裏切ったんだ、ホロウ!!!」
さて、答え合わせといこうか。
まずキリトを殺そうとしていた奴を殺したのは俺だ。方法は簡単。武器をぶん投げてぶっ刺しただけのお仕事なのでこの話は終了。
次にアルゴの情報だ。
アルゴの情報は間違ってはいなかった。いや、わざと間違えたと言ったところかな。
俺はあの時アルゴに、「キリトの部隊をラフコフの待ち伏せに誘導させる」ことを依頼した。その証拠に、他の部隊にはラフコフのメンバーに遭遇しないルートが提供されている。その依頼をきっちりこなしてくれたアルゴは、流石と言ったところか。
何故このように誘導したか。理由は2つ。
1つはラフコフに俺を信用させるためだ。ラフコフに潜るといっても、余所者を信用するほど馬鹿な集団じゃない。だからキリト達を騙したように見せることで信用を得たってわけだ。おかげで俺を疑う奴らは誰もいなかった。
そしてもう1つは、キリトが俺を襲うように仕向けること。裏切り者の俺を襲ったところを麻痺させ、他のメンバーに殺させる。そうすれば、その直前はそいつ以外のラフコフは手を出さない。その本人も油断しまくってるし、後はサクッと殺すだけ。簡単だろ?
他にも分からないことってあるだろ?例えば「どうしてラフコフに接触出来たのか」とか、「わざわざラフコフを1つの部隊に向けさせたのか」とか。まあそれはまた今度説明するとしよう。
「てめぇ……………俺達を裏切ったのか!!」
「何言ってんだよジョニー。初めからお前らの仲間じゃなかったし、裏切ってなんかねぇぜ?」
ああ、本当に馬鹿だ。面白いくらい素直に引っかかってくれちゃって、脚本家としては嬉しい限りだ。
でももう止めてくれ。じゃないと、もう抑えきれないじゃないか。
「お前の、目的は、何だ!!」
ザザのその間抜けな問いのせいで、俺は堪えることが出来なかった。
「………ハハッ、アハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
俺の笑い声が響き渡る。口元が歪んでるのがはっきり分かる。きっと仮面の裏じゃゲスみたいな顔してるんだろうなぁ、俺。
「お前ら馬鹿じゃねぇのか!?こいつらハメた程度で俺を信用して!!その俺にこんなにされて!!!全く笑う棺桶《ラフィン・コフィン》も堕ちたもんだなぁ!!!!」
その言葉に連中は武器を構える。今にも俺を殺しにきそうだ。そうだ、そうでなくちゃ困る。
「…………で、何だっけ、『何故裏切ったのか』だって?そんなの最初に言っただろ?
《お前らを殺す》ってな」
────さあ、舞台は整った。
やはり、始まりの言葉はこれが相応しいだろう。
「イィィィィィィィィィィィィッツ!!!」
ああ、自然と笑みが浮かぶ。やっぱり狂ってるなぁ、俺。なら、何処までも狂ってしまおう。俺ならもっと狂える。その覚悟はとっくに出来ている。
「ショウタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァイムッ!!!!!」
さあ、虐殺を始めようか。