ソードアートオンライン《仮面の行商人》   作:Gissele

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第13話目です。
ここから彼の闇が明かされていきます。かなりドロドロしてるので、どうぞ楽しんでいってくださいね。


13 起源

どしゃ降りの雨の日、柊空はこの世に生を受けた。

 

名前の空は、太陽のように明るく、雨のように渇きを潤すような、そんな人になってほしいという理由だと、母から聞いた。自分でも、この名前は気に入っていた。

 

 

俺の両親は医者と看護婦で、生活もそこそこ裕福だった。「お前も医者になれ」とかそういうプレッシャーは無く、「好きなようにやれ」という両親の教育方針の中で自由に育った。

 

俺は家族が好きだった。

 

父は寡黙で厳格だが、何より家族を大事に想っていた。無駄にスペックも高いので、極太の大黒柱だった。

 

母はおっちょこちょいで、よく喋る。とにかく笑顔で、太陽のような人だった。空回りすることも多かったが、それが家族の笑顔の元になった。

 

妹の名前は茜といって、とにかく臆病だった。近所の犬に吠えられて、ガチ泣きすることもしばしば。その分俺にはべったりで、「お兄ちゃん」と慕ってくれた。まあ、とにかく可愛い奴だったよ。

 

 

俺は幸せだった。愛されて生きてきた。その分愛してきた。平和で幸福な時間を、謳歌していた。

 

だからこそ、あれは必然だったのかもしれない。何事も、永遠というものは存在しないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、俺が6歳の時だった。

 

 

 

 

友達の家に遊びに行った俺は、いつもどおり家に帰った。玄関の扉を開ければ、いつもどおり家族がいる。いつもどおり幸せな空間がある。そう思いながら家に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにあったのは、どこまでも深い紅だった。

 

 

リビング一面に広がる紅。足元に視線を落とすと、深紅の液体が俺の足を濡らしていた。それは生暖かく、今まで感じてきた温もりと限りなく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそこにいたのは、ナイフを持った男と、肉片と化した両親と妹だった。

 

 

 

 

 

 

 

そう認識した瞬間、俺の体に男のナイフが沈んだ。

 

 

痛みはなかった。ただ、冷たい感覚がそれを嫌なほど実感させる。為すすべもなく倒れ込む俺は、更なる悪夢を目撃した。

 

 

 

 

 

男が、3人の遺体を燃やしていたのだ。

男のその顔は、どこまでも醜悪な笑顔だった。快楽に溺れたような、そんな顔俺達の幸せを奪ったくせに、嬉しそうに笑ってる。その男が立ち去っても、その表情が頭の中にこびりついていた。

 

 

俺は何とか燃え上がる家から脱出ようと試みる。しかし奴に刺されたせいで思うように体が動かせない。燃え盛る炎が、俺に迫ってくる。少しずつ、しかし確実に、俺の体が燃えていく。

 

 

 

 

 

 

熱い。

痛い。

苦しい。しかし、そんなのどうでもいい。

俺にとって、何よりも大切な家族は、もうこの世にいない。どう足掻いても、戻ってこない。その事実が、俺の心を蝕んでいった。

 

 

「あぁ……………ぐ……………」

 

 

必死にもがく。忍び寄る死から逃げるために。しかし、体が重い。刺された傷と炎が、体の機能を奪っているからだろう。

 

 

「ぐぅ………………………ぁ………………っ」

 

 

きっと俺の顔は涙と憎悪で歪んでいるだろう。

もう足も動かない。左腕も使い物にならない。顔にも火が迫ってきた。もう、助からない。笑える程に絶望的な状況だった。

俺はこのまま死ぬ。大事な物を全て奪われて、家族と同じように死ぬ。あの男に。あんな奴に殺されて。

 

 

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 

……あれ、誰の声かな。知らない人みたいだけど。

まあ、誰でもいいか。どうせ何も変わらない。

 

ああ、眠い。もう目を瞑ってしまおう。そうすれば、何も見なくていいから。

そして、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、病院のベッドの上だった。

そこには交番のお巡りさんがいた。話によれば、あの時助けてくれたのはこの人らしい。そして、そこで俺は事の全てを聞かされた。

 

 

両親と妹は死亡。両親に至っては肉体はほとんど残っていないらしい。妹は肉体が残ってるみたいだが、顔以外残っていないらしい。それほど、あの炎は凄まじかったようだ。

 

俺の体は両足が修復不可能のため切断。上半身から顔にかけて左側が中心に焼けていて、痕は一生残るようだ。ナイフで刺された傷は焼けて止血されたため大事にいたらなかった。

 

そして犯人は逮捕された。犯人は40代の男で、父の同僚。犯行の理由は「あいつの活躍が妬ましかったから」とのこと。そんな理由で、3人を殺したらしい。

 

 

正直、何も考えられなかった。足が無くなったとか、犯人とか、正直どうでもいい。

何よりも大事な家族は、もういない。あの暖かい時間は、永遠に訪れない。その事実だけが、俺の頭を支配していた。

 

 

「父さん………母さん………茜…………………」

 

 

今は亡き人の名前を呼ぶ。返事は無く、俺の声だけが病室の中で消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、俺は衝撃の事態を知った。

 

犯人が無罪とされて釈放されたのだ。

 

 

 

犯人の顔は、当事者の俺の証言で確認済み。つまりはこいつ以外ありえないのだ。なのに、どうして無罪なのか。そう思う俺に、刑事が笑顔で言い放った。

 

 

 

 

「坊主、世の中金なんだよ」

 

 

 

 

あろうことか、奴は金を握らせ、事実を揉み消した。そしてこの事件は、火事による事故とみなされた。何もかもが、無かったことにされた。

 

 

「…………………ふざけるな」

 

 

どいつもこいつも腐ってやがる。何の罪もない人達を殺した人間が……………俺の家族を奪った奴が何故赦される?そうまでして、あいつを生かす意味なんてあるのか?俺の家族は、何のために死んだんだ?

 

 

「……………あ」

 

 

ふと、俺が刺された時の事を思い出す。

あぁ、そうすればいいんだよね。そうすれば、俺は。

やることは決まった。方法はもう考えた。あと必要なのは、俺の覚悟だけ。

 

襲いかかる恐怖と狂気を受け入れ、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日、俺は奴との面会が許可された。

「間違った情報のせいで迷惑をかけたので謝りたい」という口実で、5分間の面会を向こうが受理したのだ。奴の勝ち誇った笑顔を想像すると吐き気がする。

 

 俺は手袋を装着し、車椅子に乗る。奴の待つ部屋に到着すると、俺はそこで再会した。俺の家族を殺した、忌々しい男に。

 

 

「よお、体は大丈夫か?」

 

 

歪んだ笑顔で男は言う。「どの口が」と言いそうになり、それをどうにかして飲み込んだ。

 

 

「はい、もう痛みません」

 

「そいつは良かったなぁ!それで、俺に用って何だ?」

 

「…………僕の間違った情報のせいで、ご迷惑をおかけしました」

 

「ああ、そのことか。いいよ、別に気にしてねぇからよ」

 

 

まだだ、ここじゃない。今はまだ耐えるんだ。

 

 

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

「まあ間違いは誰にでもあるから気にしなくていいぜ?」

 

「…………………ありがとうございます」

 

「いいってことよ。それじゃ、俺は行くよ。じゃあな、坊主」

 

 

そうして彼は俺の頭を撫でてくる。蟲が纏わりついたような感覚に耐えながら、俺は言葉を紡ぐ。

 

 

「エエ、ソレデハ──────」

 

 

さあ、罰を与えよう。俺達を引き裂いた、あの忌々しい凶器で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────サヨウナラ」

 

瞬間、男の心臓に深紅に染まった花が咲いた。




いかがだったでしょうか。今回はドロドロになったのではと思います。
彼の記憶は次の幕へ進みます。それは悲劇か、喜劇か。是非、皆様のその目でお確かめください。
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