ソードアートオンライン《仮面の行商人》   作:Gissele

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22 Myosotis

それは、ナタリアさんにMyosotisを渡されたときのこと。

 

 

「ホロウ、それは剣じゃない」

 

「………どういうことですか?」

 

 

俺が今手にしているのはMyosotisだが、これは明らかに剣だ。というか剣じゃなければなんだというのか。そう思っていたが、ナタリアさんの言葉の意味はMyosotisの詳細を見た瞬間理解できた。

 

 

「…………どうして、片手剣じゃなくてMyosotisなんだ?」

 

 

武器には、通常片手剣とか両手剣とか槍とか、いわゆるカテゴリというものが存在する。それはどんな武器にも例外なく存在するものだ。なのに、このMyosotisのカテゴリの箇所には、ただMyosotisと書いているだけ。

その違和感を拭えないまま、俺はウィンドウを閉じた。そのとき、剣を掴んでいた右手に違和感を覚える。剣の感触とは明らかに違うそれに戸惑いながらも右手へと視線を移す。すると。

 

 

「なんだよ、これ」

 

 

右手には、花のような結晶が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

kirito side

 

 

正直、何が起こったのか理解できていない。

確かに俺は、二刀流を解放してグリームアイズのHPをゼロにしたはず。なのにあいつは倒れなかった。既に限界だった俺は動くことができず、助けに来たアスナも態勢を崩し倒れてしまう。

絶望的だった。もうすぐ俺たちは殺される。この悪魔に切り裂かれ、ナーウギアに脳を焼かれて、その一生を終える。そう考えてしまうほど、死の実感を強く感じていた。

ああ、目の前に斬馬刀が迫ってくる。俺は死ぬ。現実世界の家族に何も言えないまま。このデスゲームに仲間を残したまま。大切な人に想いを伝えられないまま。………………あいつに、謝れないまま。後悔しか残らないけど、俺にはどうすることもできない。ごめんな、みんな。

 

 

 

 

 

 

 

先に逝くことを、許してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに諦めてんだよ、バーカ」

 

 

 

 

聞きなれた声が、耳に届いた。

目の前で悪魔を貫いたのは、仮面をつけた男。手にする剣からは、真っ赤なエフェクトが迸っていた。

正直、何が起こったのか理解できていない。考えようとも頭が働かない。それほどまで、俺は疲弊していた。

そんな俺の目の前に立つのは、いつも通りの格好で、いつもとは違う武器を持ち、何なのかよく分からない光を身に纏った仮面の行商人。彼なら、きっとこの状況を打破してくれる。何故かは分からないけど、そう思えたんだ。

 

 

「………頼んだぜ、ソラ」

 

 

そう呟くと、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

hollow side

 

 

「頼んだぜ、ソラ」

 

 

俺がグリームアイズを斬り伏せると、キリトが消えてしまいそうな声で、それでも確かにそう言った。その声もグリームアイズの絶叫にかき消されてしまったが、それでも確かに想いは届いた。

 

 

「………任せろ、キリト」

 

 

そう言って俺はキリトのいる方向に振り向く。そこには気を失っているキリトと、戸惑いの表情を浮かべる副団長様が。

 

 

「ホロウ………君………」

 

「アスナ、キリトを頼む」

 

 

俺はそれだけ伝えると、再び化け物の方に目を向ける。先程の一撃で確かに殺したはずだが、グリームアイズは再び立ち上がる。なら、俺の推測は正しかったということだ。

カウントが0:00になるまで死なない悪魔。しかも割と強い。そんな化け物が相手なら、普通に考えればもう無理ゲーだろう。実際、俺もそう思っていた。

だが、そんなことは別にどうだっていい。時間が経過すれば死ぬんだ、それまで殺し続ければいいだけのことだ。でもまあ、普通なら無理だろうよ。それこそキリトの二刀流をフルで使うとかそういうことをしなければ。それほどに、奴は凶悪だ。

 

 

「ちゃんと、避難できたか」

 

 

アスナがキリトを連れて、グリームアイズから遠ざかっていく。これであいつらを巻き込まずに済む。

俺は殺すことはできても、守ることはできない。それは今まで俺が失ってきた人達を考えると一目瞭然。だからこそ、あいつらを遠ざけなくてはいけなかった。

 

 

だが、今なら誰も守らなくていい。何の心配もなく、目の前の敵を殺すことができる。叫び声をあげながら俺に向かい突進してくるあの悪魔を。

 

 

「さあ、覚悟はいいか」

 

 

手の中の剣から赤い光が溢れ出す。この剣は、決して忘れてはいけない俺の罪の象徴であり、俺の愛した人との誓いの証。「絶対に忘れない」という、永遠の約束。それが、この程度の敵に壊されることなど決してない。そんなことなど有り得ないのだ。

 

 

 

 

俺はクラウチングスタートのような体勢になる。目を閉じて息を吸い、吐き出す。目を開き、目の前の敵を捉える。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ殺せ、Myosotis」

 

 

その言葉と同時に、俺は敵に向かって走り出した。そのスピードは、もはや視認することすら許されないほどに速く。およそ30メートルほどの距離は、ほんの一瞬で0へと変わった。

 

グリームアイズが俺に剣を振り下ろす。その一撃は重く、正面から受け止めることなど不可能だ。普通ならね。

振り下ろされる巨剣に向けて、俺は剣を振るう。驚異的な速度でぶつけられた剣は、巨大な剣の一撃を相殺するどころか、敵の体ごと吹き飛ばした。なんとか体勢を立て直し踏みとどまるグリームアイズだったが、俺はその一瞬を見逃さない。今度は左側面に回り込み、再び斬撃を放つ。無防備な奴の肉体に刃が食い込み、腹から肩までを切り裂く。HPが無い状態だからダメージは分からないが、おそらくこの一撃で殺せてるはずだ。

まだ俺は止まらない。怯んでいる隙に何度も斬りつける。何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。グリームアイズは何もできないまま、俺の攻撃を受け続けるしかなかった。時間にしておよそ30秒。約150回の斬撃がグリームアイズの命を何度も奪った。

 

 

「ガァァァァ…………」

 

 

有り得ない。心なしかグリームアイズがそう言っているように聞こえた。きっとこれは奴にとっても予想外だろうし、プレイヤーにも異常な光景に見えているだろう。あんだけの巨体を吹き飛ばしたり、一瞬で接近したり。剣の速度だって人間辞めてるし。

 

 

まあ「どうして」っていう疑問への回答はちゃんとするからさ、もうちょっと待っててくれ。

 

 

 

 

 

「ゴァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

さあ、奴も必死になって襲ってくるはず。きちんと殺すまでがShow timeだ。きちんと殺そう。そして向かってくるグリームアイズへと、再び駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Asuna side

 

 

目の前の光景に、わたしは言葉を奪われた。

そこにあったのは2つ。真っ赤な光に包まれたホロウ君と、そのホロウ君に殺され続けるグリームアイズ。その光景の異常さが平常心を奪い、心を不安定な何かで埋めていく。

 

 

「…………『有り得ない』」

 

 

散った彼の言葉が、口から漏れる。その言葉が全てだった。

 

尋常じゃない速さ。グリームアイズを吹き飛ばす程のパワー。あの斬馬刀を正面から受け続けてなお折れない剣。そして彼を包む紅蓮の極光。その異様な光景を生み出しているのがホロウ君だということが、一層不安を掻き立てる。彼が得体の知れない何かに変わってしまいそうで、怖かった。

 

でも。

 

 

「………ホロウ君は、失いたくないだけなんだよね」

 

 

わたしとホロウ君はほとんど面識が無いけど、それでも理解できる。彼はただ、嫌なだけなんだと思う。キリト君やみんなのように、大切な人が目の前でいなくなってしまうのが、耐えられないんだと思う。そうじゃなければ、彼の目からは涙なんて流れていないはずだから。

 

だから、信じてみよう。その力は殺すためのものじゃなくて、守るためのものなんだって。大事な人を守ろうとする、優しいひとなんだって。みんなも、そう信じてると思う。だから。

 

 

「お願い、負けないで………」

 

 

戦う彼の背中に、そっと祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hollow side

 

 

どれだけ奴を殺し続けただろうか。体感的には20回くらいは殺してるはずだ。なのに奴は起き上がってくる。しぶといのかしつこいのかよくわからないけど、いい加減くたばってくれないかな。そろそろこっちもキツいんだけど。

 

 

「でもまあ、それももう少しで終わりか」

 

 

グリームアイズのカウントは残り30秒。つまりその間こいつを殺し続ければ俺の勝ちってわけだ。今までの様子を見れば分かると思うけど、これなら楽に…

 

 

 

 

 

ぐらり。

 

 

「ぐっ…………………」

 

 

一瞬、視界が揺らいだ。そして『代償』が重くのしかかる。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

頭が割れるような、もしくは焼き尽くされるような。それか麻酔無しで脳をスプーンでかき混ぜられるような痛みと不快感が頭を支配する。苦痛のあまり叫び声を堪えきれず、狂った獣のように叫んだ。周りで誰かが何か言ってるようだけど、今はそれどころじゃない。

 

 

「ゴァァァァァァァ!!」

 

 

今がチャンスと思ったのか、グリームアイズが俺に向かって突進してくる。残り時間ももう無いから、最期の攻撃といったところだろうか。

 

 

「………うる、せぇ」

 

 

時間が無いのはこっちも同じだ。早く終わらせなければいけない。じゃなきゃ、こいつに喰い殺されちまうからな。

今回は使わないと思っていたけど、こっちも限界だししょうがない。それに、仲間を傷つけたこいつは、もっと殺さなければ気が済まない。

 

 

「……………《オートクレール》」

 

 

告げるのは、ニーナが使用していた大剣。その言葉に反応して、Myosotisが光り出す。光が溢れ出すその様は、かつて彼女が愛用していた大剣のようだった。

 

直後、グリームアイズに向かって走り出した。その姿を例えるなら、銃から射出された弾丸。そのタイミングを見計らいグリームアイズが剣を振り下ろす。俺を殺そうとしてるのか?残念だったな、その一撃ごと殺してやるよ。

 

 

「ナイトメア・トゥ・イローション」

 

 

解き放つのは、Myosotisの上位ソードスキル《ナイトメア・イローション》。その連撃は止めるまでとまらない。半永久的に続く攻撃は、その名の通り敵を蝕む悪夢。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

脳が溶ける。痛みが全身を駆け巡る。思考も、意識も、既に無いに等しい。それでも攻撃は止まらない。剣が敵を斬る度に飛び散る赤いエフェクトは、ミオソティスの花びらのようで。

 

 

「グォォォォォォォ…………」

 

 

ソードスキルを叩き込み、既に動かなくなった奴のカウントは残り僅か。永く続いた悪夢に終止符を打つべく、無い力を振り絞り剣を構える。

 

 

 

 

 

 

 

────────5、

 

 

 

 

 

 

 

悪いな、グリームアイズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────4、

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、誓ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

────────3、

 

 

 

 

 

 

 

自分の罪を、忘れないって。

 

 

 

 

 

 

 

────────2、

 

 

 

 

 

 

 

 

大事なものは、二度と失わないって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────1、

 

 

 

 

 

 

 

そのために、俺はお前を殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────0。

 

 

「さよなら、グリームアイズ」

 

 

紅蓮の極光がグリームアイズを討つ。そして奴は光の粒子となり、四散した。

 

 

 

 

悪夢が、終わる。




更新が遅れてしまい申し訳ありません。それでも、何とか投稿出来ました。
ホロウのユニークスキルが出てきましたが、意味が分からない部分もあると思います。そこは次回で解説させていただきたいと思ってます。
今回もお付き合いありがとうございました。感想批評をお待ちしております。次回もよろしくお願いいたします。
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