ソードアートオンライン《仮面の行商人》   作:Gissele

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25 徒花

目の前では、キリトとヒースクリフの激闘が繰り広げられていた。二刀流の圧倒的な火力を持つキリトと、攻防一体の神聖剣を使うヒースクリフ。最強の矛と最強の盾の戦いに観客のボルテージは既にMAXだ。

 

 

「これはハイレベルな戦いですね…………」

 

「そりゃあ、《黒の剣士》と《聖騎士》の戦いだからな」

 

 

出番を待つ俺の周りでは、今話しているシリカとエギルを始め、リズ、アルゴ、アスナ、そしてクラインといったいつもの面子が揃っていた。各々が思いのままに、キリトの戦いを見守っていた。

 

あ、ちなみにクラインとはキリトの紹介で知り合ってさ。討伐作戦とかグリームアイズのこととか全部キリトの野郎がぶちまけて、それを聞いたクラインが滅茶苦茶熱く絡んできたって流れで知り合ったが、今ではうちの常連って感じかな。

 

 

「キリト君、大丈夫かな…………」

 

「アスナは心配しすぎなのよ、あいつが負けるなんて考えられないし」

 

「今回は相手が相手だ、アーちゃんの気持ちも分からなくはないけどナ」

 

 

心配するアスナにリズとアルゴが話しかけるも、アスナの曇った表情は変わらない。真っ直ぐキリトを見つめながらギュッと手を握りしめている様子から、不安な様子が滲み出ているのがわかる。

 

 

「ねえ、あんたはどっちが勝つと思う?」

 

「んあ?」

 

 

するといきなりリズが俺に話題をふってきやがった。試合を見ていた皆の視線が一斉に俺に向けられた。そこまで気になるのかが疑問だが、まあ答えるだけ答えるか。

 

 

「正直、キリトが勝つのは厳しいだろうな」

 

 

そう言ってキリトを見る。二刀流の連続攻撃も神聖剣の圧倒的な防御を破るには至らず、剣と盾の攻撃で少しずつHPが削られていく。ヒースクリフに傷一つつけられない様子を見ると、どちらが有利なのかは一目瞭然だ。

 

 

「ホロウさんは、キリトさんが負けると思ってるんですか?」

 

「それは違うぜシリカ。別に負けるだなんて思ってないよ」

 

 

確かにこのままだとキリトは負けるだろう。でも、キリトに勝算がないというわけではないのだ。

 

 

「確かに、このままだとあの防御は突破できないだろうな。でも、一瞬でもその防御を崩せたなら」

 

 

そう、一瞬さえあればキリトがヒースクリフを倒すのも不可能ではない。だがその一瞬をヒースクリフが許すとは思えない。キリトの猛攻を受けながらも平然としている様子を見ると、そんな瞬間は永遠に訪れないのではないか、とすら思えてくる。

 

だが、その瞬間は突然訪れた。

 

 

「ぐっ……………………」

 

 

キリトの攻撃がヒースクリフの頬を掠めた。その瞬間、ヒースクリフの動きが一瞬だけ遅れる。奴の顔に焦りが見えたような気がした俺は、ほぼ反射的に叫んだ。

 

 

「キリト、今だっ!!」

 

 

俺が叫ばずとも、キリトはそのつもりだったようだ。キリトが全ての防御を捨て、二刀流のソードスキル《スターバースト・ストリーム》を発動する。グリームアイズ戦にも使われた連続十六回攻撃が、流星のごとき輝きとともにヒースクリフに襲いかかる。

 

 

「ぬおっ………………!」

 

 

ヒースクリフは盾で防ぐが、青い悪魔を沈めた連続攻撃が容赦なく防御を剥がそうとする。その猛攻に、ヒースクリフの反応は少しずつ、しかし確実に遅れていった。

 

 

「らあああああ!!」

 

 

15回目の攻撃を耐えきれなかった盾が右に大きく振られた。当然、この一瞬をキリトが見逃す訳はなく、最後の一撃をヒースクリフに振り下ろす。

 

 

勝った。

 

 

俺はキリトの勝利を確信した。この一撃でヒースクリフの体力は半分を切り、デュエルが決着する。キリトも、きっとそう思っていたに違いない。そしてキリトの剣が奴を切り裂く─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───その瞬間、世界がブレた。

 

 

「なっ…………………」

 

 

時間が止まったような感覚に襲われながらも二人へと視線を向ける。すると、そこでは有り得ない光景が広がっていた。

 

ヒースクリフの盾が、コマ送りのように瞬間的に引き戻され、何事もなかったようにキリトの一撃を弾いたのだ。そしてスキル発動後の硬直時間をヒースクリフは見逃さず、キリトに向けて一突き。その一撃で勝負は決着し、ヒースクリフの勝利を告げるシステムメッセージが無情にも輝く。

 

 

「あちゃー、キリトのやつ負けちゃったかー」

 

「でも、キリトさんも凄かったです!」

 

 

周りではそれぞれ違った反応を見せる。そのほとんどが二人の実力に対する賞賛だったり、高レベルな戦いへの感嘆だった。アスナはキリトの元へ走っていったようだ。

 

 

「どうして、あいつは」

 

 

あの瞬間の違和感を感じたプレイヤーは他にいないようだが、俺にははっきり見えた。キリトもそれは同じだろう。試合が終わったのに呆然としているのがその証拠だ。

 

しかし、あれが何なのかははっきりとへ分からない。ヒースクリフが咄嗟に引き戻したと言えばそれまでだが、あれはそんなもんじゃない。文字通り時間が止まったのだ。その中で奴が一人だけ動いていただなんて、普通なら有り得ない。しかし、俺には分かってしまった。あれが一体何だったのか。

 

 

「……………オーバーアシスト」

 

 

奴の言うとおり、ヒースクリフがこのゲームの管理者である茅場晶彦だとしたら、システムのアシストを使うことは可能なはず。もしそう仮定するならば、あの瞬間に起こった全ての事象の説明が付く。だとすれば。

 

 

「マジかよ……………」 

 

 

あいつの言ってたことは全て真実ということになる。ヒースクリフ=茅場晶彦という事実を聞かされた時は半分疑っていたものだが、その疑いも吹っ飛ばされた。奴は茅場晶彦であり、このゲームの

 

 

「ちょっと、ホロウ!」

 

 

怒鳴るような声が、俺の意識を無理矢理引き戻してくる。その声の主は相変わらず怒ったような表情をしていた。

 

 

「あんたの出番だって、何回も呼ばれてるのにいつになったら気づくのよ!」 

 

 

何時の間にか、俺の出番となっていたようだ。考え込んでいたせいで全く気づいてなかった。

 

 

「わ、悪い。少し緊張してきてさ」

 

「あんたが緊張だなんてらしくないじゃない。もっと気楽にいきなさいよ」

 

 

何とか誤魔化せたようだ。流石に、今から戦うのがこのゲームのラスボスだとは言えないし、もし言ってしまったら、ヒースクリフが何かしてきそうで怖い。なので、このことは暫く黙っておくことにしよう。

 

 

「ホロウさん、頑張ってください!」

 

「期待してるゾ、仮面の行商人」

 

「全力で戦わないと、後で許さないわよ?」

 

「まあ、気楽にいってこい」

 

「頑張れよ、ホロウ!」

 

「サンキューな、シリカ、アルゴ、リズ、エギル、……………誰だっけ」

 

「クラインだよ!忘れんじゃねぇ!!」

 

 

クラインが叫ぶも気にしない。持ち前のスルースキルを発動し、決戦の地へと向かう。その途中で、先程戦いを終えたキリトとすれ違う。

 

 

「惜しかったな、キリト」

 

「気をつけろよホロウ、あいつは………」

 

「心配すんな、あの瞬間のことは全部見えてたから。」

 

「本当か!?なら、あいつは何を」

 

「わり、急がないと。ほなまたー」

 

「お、おい!」

 

 

キリトはまだ何か言いたいようだったが、とりあえずそれはまた後で話そう。今は、目の前の強敵のことだけ考えなければ。

 

 

 

「待たせたな、ヒースクリフ」

 

「待っていたよ、ホロウ君」

 

 

キリトとのデュエルの後だというのに、こいつは息切れひとつしていない。平然とそこに立つ様子は、まるで鋼鉄の城のようだ。

 

 

「というか、連戦だなんて大丈夫か?かなりのハンデだろうけど」

 

「君を倒す程度なら、全く問題ないさ」

 

「うぜぇ」

 

 

そんな話をしながら、ヒースクリフからのデュエルメッセージを受託。オプションは初撃決着モード。

 

 

「私が言うのも何だが、ここで全損にすれば私を殺すことだってできるぞ?」

 

「ここでお前を殺したとして、ゲームが終わるとは限らない。というかこんな大勢の前で殺しなんぞできやしないっつの」

 

「それもそうだな」

 

 

カウントが進んでいることを確認し、お互い戦闘態勢に。盾と剣を構えるヒースクリフに対し、俺はナイフを持つ手をだらんと下げ、脱力した状態になる。そしてカウントは減り続け─────

 

 

 

─────《DUEL》の文字が閃く。

 

 

「さあ、始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回、ヒースクリフと戦う際にいくつか決まり事を自分の中で決めた。

 

まず、今回は俺一人で戦うこと。さすがに相手が相手だし、一対一の戦いでは卑怯とも思ったので、今回シーナはお留守番。今頃シリカの膝の上で丸くなってるんじゃないかな。

 

次に、開始3秒で決めること。

というのも、奴の《神聖剣》による防御は、AGIに特化した俺との相性は最悪。いくら速さで翻弄しても、その攻撃が通らなければ意味はない。むしろ競り勝つことも不可能なこの状況では、ぶっちゃけ勝つの無理じゃね?といった感じだ。

だからこそ、開始3秒で決める。奴の不意を突いて隙を作る。そこに最速の一撃を食らわせる。そうでもしなければ、俺に勝算はない。

 

そして、絶対にMyosotisを使わないこと。というかこらは皆から滅茶苦茶釘を刺されてまして、「使ったら1日中サンドバッグな」と脅されてるのですよ。うん、またあの時みたいにエキサイティンされたくないっす。なのであれは使わない方向で。

 

以上のことを踏まえて、俺はヒースクリフとの戦いに臨んだ。そして、デュエルが開始した今、俺がすべきことは──────

 

 

 

 

 

 

「──────そぉいっ!!」

 

「っ!」

 

 

開始早々、予め用意しておいた槍をヒースクリフにぶん投げる。流石に飛び道具は予想していなかったのか、奴は慌てて盾を構える。

 

 

「────次」

 

 

構えた盾によって、奴の視界が狭まる。その瞬間、俺は、右側からヒースクリフの背後に回り込む。奴は左手に盾を構えているため、こちらから回り込めば気づかれないはず。その読みは当たっていたようで、盾に槍がぶつかる瞬間までに奴の背後に回り込むことができた。

 

 

「っ!!」

 

 

馬鹿みたいに上げたAGIをフルに使い、奴の背後へと全力で走り出す。そしてナイフを構え奴の首を狙う。デュエル開始からここまでの所要時間はおよそ2秒。パワーを捨て去り、スピードを極めた俺に許された唯一の戦い方。

 

 

 

「死ね」

 

 

勢いそのままに、奴の首目掛けてナイフを振り下ろす。その首を貫けると確信したその時。

 

 

振り向いた奴の、口元が歪んだ表情が見えた。

 

 

「くそっ!!」

 

 

嫌な予感はしたが、今更中断することは不可能だ。勢いのままにナイフを振り下ろすしかなかった。その嫌な予感は的中し、振り向いた奴の盾がナイフを弾く。

 

 

「ぐっ…………」

 

 

勢いに身を任せ、すぐさま離脱する。おかげで奴の反撃を受けることはなかったが、3秒殺ッキングは失敗に終わってしまった。というかこれしか作戦を考えてなかったから既にオワタ\(^o^)/ってなるじゃねーか。

 

 

「驚いたよ、反応が遅れればやられていた」

 

「ぬかせ、余裕そうな顔してたじゃねーか」

 

 

ヒースクリフは笑みを浮かべると、今度は俺に向かって突っ込んできた。突き出される剣を最低限の動きで回避するも、続け様に盾が迫ってくる。胸元を抉る軌道で突き出された盾に対し、俺はナイフを体に密着させる。そして盾とナイフが衝突する瞬間、ナイフを盾の進行方向へとずらし、攻撃の威力を殺す。うまくいったようで、こちらのダメージは0。

 

すぐさま次の行動に移る。攻撃後の隙を狙ってナイフを突き出すも、これは奴の剣に防がれる。だがすぐに体制を立て直し、周囲を飛び回りながら斬りつける。それでも奴の防御を突破できず、時間と俺のHPだけが消耗してゆく。

 

 

「ちっ……………」

 

 

やはり、最初に決められなかったのは痛かった。そもそも、俺にとってヒースクリフは天敵なのだ。鉄壁の防御を抜く程の火力は持ち合わせていないのもあるが、一番は盾による攻撃だ。剣の攻撃ならナイフで受け流せるし、両手剣や斧は遅いので回避は容易い。しかし、盾の攻撃は“線”ではなく“面”だ。そんなの受け流せと言ったって無理がある。というか無理。現に俺のHPばかりが削られていくし。正直打つ手が見つからない。

 

 

「どうした、その程度か?」

 

 

対してヒースクリフの表情から余力があることが見て取れる。あんだけ攻撃しても全然削れてないし。そりゃラスボスならそのくらいはやるか。

 

 

「……………アレは使わないのか?」

 

「アレ?」

 

「ユニークスキルだ。74層のボス攻略で使っていただろう?」

 

 

どうやら奴は、俺にMyosotisを使わせたいらしい。しかしそれはできない。使えばそれ相応のデメリットが来るし、皆からキツく言われてる。使わずに負けようと別に問題ない状況で、使う選択肢なんてない。それに、あいつらにはもう不安そうな顔してほしくない。そのためだったら、無様に負けてやるさ。

 

 

「お前に見せる必要もないだろ」

 

「このままでは、君の負けは確実だが?」

 

「勝ってもねーのに調子に乗るなよ。というか別に負けてもそこまで被害デカくないし、それもありかな」

 

「………………ふむ、意地でも使わないか」

 

 

ヒースクリフが俯く。ちらりと見えた表情には、落胆のような、軽蔑のような。「君にはがっかりしたよ」的なものが見て取れた。そして、ヒースクリフはとある言葉を口にする。

 

たった一言だけ。なのに、それだけで十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君と彼女を結ぶその花は、ただの徒花のようだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………徒花?

 

 

「こんな世界を創り、ニーナを死なせた私が憎くないようだな。彼女を愛してるのなら、彼女を殺した世界を創った私を、殺さずにはいられないだろう。つまり、君の想いは偽物で、ニーナの想いは徒花だということだ」

 

「今、何て」

 

「『絶対に忘れない』、か。くだらない。そんなものに何の価値があるというのかね?」

 

 

徒花。

その言葉を聞いた瞬間、自分の中で何かの枷が外れたような気がした。必死に堪えていた何かが、途端に溢れ出すような、そんな感覚。

 

 

「あだ………ばな」

 

 

徒花とは、実を結ばずに散る花のことを指す。転じて、実を結ばないことや、無駄という使い方をする。つまり奴が言いたいこととは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニーナの想いは全て無駄だった、ということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「所詮、この世界はゲームに過ぎない。そこで生まれた感情など、偽物でしかないだろう?」

 

「…………………………」

 

「ならば、全て忘れてしまえばいい。そうすれば楽になれるだろう?自分が犯してきた罪を全て忘れて、のうのうと生き延びればいいのだから」

 

「………………………………」

 

「さあ、こちら側に来るといい。そうすれば、この世界は永遠になる。現実から目を背け、ホロウとしてその生涯を」

 

 

 

 

「黙、レェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

 

自分の声じゃないような、低く、そして重い声。声というより、獣か何かが殺意を剥き出しにしたような。そんな声が、俺の口から漏れる。

 

ニーナの想いは全て無駄だった?ふざけるな、お前にニーナの何が理解できるというのだ。生まれてからずっと傷ついてきて、ようやく望んだものを手に入れたのにそれすら奪われていく。それでもニーナは抗い続けた。そして、システムに殺される運命を否定し、俺に約束と想いを託した。そうやって戦い続けたニーナが徒花だった?ふざけるな!!あいつの想いも、戦い続けたことも、決して無駄なんかじゃない!!!

 

 

「………やる気を出してくれたのかね?」

 

「あぁ、殺る気なら出してやるよ」

 

 

そう、これは徒花なんかじゃない。だってこの花は、今でも紅く咲き誇っているのだから。

 

 

「イイゼ、ヒースクリフ」

 

 

思考は驚くほどに冷静で、なのに体は血が湧くように熱くて。絞り出す声からは、抑えきれない程の殺意が漏れ出す。

 

 

「今、ここで、ぶっ殺す」

 

 

何とか殺意を抑え込み、声の調子も元に戻る。でも頭の中では奴に対する殺意が暴れまわっていて。だからその全てを、この花に乗せて。

 

 

「悪いな、みんな」

 

 

約束を破ったら、皆は何て言うんだろうか。きっと俺は見限られるだろう。だがそれでも、こいつだけは殺さなきゃいけないんだ。

 

 

だから、どうか。

 

 

 

 

 

 

 

どうか、俺を許さないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「It's,show time.」




大変遅くなりました。本当に申し訳ありません。
ニーナを「徒花」と言われたホロウの心は、皆さんにはどう映ったでしょうか。分かりにくいとは思うので、聞きたいことがあれば罵倒や苦情と共にお願いします。
あと、これから更に更新が遅れると思います。前期の試験やら研究協力やらレポートやら、リアルが私を殺しにきてます。何とかそいつらをぶっ殺して、少しでも早く次の話を書く予定なので、どうかご理解ください。
今回もありがとうございました。次の話も、どうか見てやってください。
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