ヒースクリフの剣に貫かれた俺は、殺しきれない勢いとヒースクリフの突きによって、無様に倒れた。HPゲージも半分を割り、デュエル終了を告げるシステムメッセージが表示される。勝者は、ヒースクリフ。
「がぁ………………っ」
Myosotisの反動に蝕まれている俺には、そんなことを気にする余裕なんてなかった。フェイカーが欠けるというアクシデントがあったものの、何とか保った。負荷はグリームアイズの時よりはマシだが、それでもダメージは大きい。フェイカーに関しては早急になんとかしなければ。
「立てるかね?」
ヒースクリフの方を見ると、俺に手を差し伸べていた。倒れてる俺を起こすためなんだろうけど、ギャラリーにはとっても美化された映像が流れるんだなぁ、と思いつつも、自力で立つことが難しい俺は、その手を掴まざるをえなかった。ヒースクリフが俺を起こすと、何故かギャラリーから歓声が聞こえてきた。何だ、「戦いの後に芽生える友情」とか想像してんのか?全く、人の気も知らないで気楽なものだな。
「……………ホロウ君」
ヒースクリフがこちらを見る。その表情からは、どこか謝罪の意志が見られた。
「……………やっぱりな」
ヒースクリフの表情を見て、俺は確信した。俺が止めを刺そうとした瞬間にMyosotisが解除されたあの場面に何が起こっていたのか。結論だけ言うと、ヒースクリフが
じゃあ、どうやって?と思うかもしれないが、ヒースクリフはラスボス兼SAOの支配者だ。奴の権限でMyosotisを解除する程度なら、そこまで難しいことではないだろう。俺が限界に達することなく、且つ奴の盾が弾かれたあの場面から考えると、ほぼ確実だろう。
では、何故このようなことをしたのか。「殺されたくないから」と考えるのが普通だが、何かが引っかかる。奴がそれだけの理由でこんな暴挙に出るとは到底思えない。何か裏があるはずなんだよ、何かは分からないけど。でも、それを突き止めめなければ
「ホロウ君」
ヒースクリフの言葉に、意識が強制的に戻される。
「聞きたいこともあるだろうが、仲間も待っているだろう。日を改めて説明しよう」
「ああ、そうさせてもらう。でも」
「?」
俺にはどうしても引っかかることがあった。そればかりは今聞き出さないといけないような気がして、疑問をそのまま吐き出す。
「これだけは今聞かせろ。お前は、ニーナのことをどこまで知っている?」
「…………………………」
奴が俺からMyosotisを引き出すために使った情報は一体どのようにして入手したのか。何故、ニーナの情報を持っているのか。そして、その情報はどの程度のものなのか。ここだけは、はっきりさせておかなくては。
「私も全てを知っているわけではない。ニーナ君のことも、プレイヤーの位置とHPで殺されたと判断した程度だからね」
……………………なるほど。まあ、全てを知っていても全部見てたわけじゃないし、知っている情報にも限界はあるか。そうなると、頭の中にある仮説は間違ってないことになる。それだけ分かれば十分だ。
「今はそれだけ分かれば十分だ。次は殺すぜ、ヒースクリフ」
「それは楽しみだな。待っているよ」
そして、互いに背を向ける形になり、控え室に向かって歩き出す。次に刃を交えるときは、その全てを殺すと胸に誓いながら。
「─────ホロウ?」
「あっ」
しかし、俺は忘れていたのだ。約束を破ってしまったことを。そんな俺に天誅を下す皆の表情は、般若面を被ったように見えるほど恐ろしかったとさ。
結局、あの後俺は散々怒られた。「どうして約束破ったんだ」とか「ふざけるのは頭の中だけにしなさいよ」とか言われたし、無理矢理押さえつけられてそこにソードスキルのフルコース。うん、ラフコフ討伐作戦の時よりひでぇや。シーナも顔をズタズタに引っ掻いてくるし、「……………泣けるぜ」とでも言いたくなるくらいにヤバかった。うん、マジでヤバい。
それでも、最後には暖かく迎えてくれた。何があったかについては触れなかったが、「何か考えがあったんだろう」と俺を信じてくれた。そして何より、「おかえり」の一言が嬉しかった。その言葉が、ホロウという存在を許容してくれているように聞こえた。それだけで、満たされた。皆がどれだけ大事な存在か、改めて実感した。
だから、俺は決めた。ヒースクリフを殺し、このデスゲームを終わらせる。皆を、この狂った世界から解放すると。そのためなら何だってやってみせるさ。…………そう、何だって。
今は亡き人にそう誓い、俺は再び始まる日常に身を投じた。
そして、それから2日後のこと。
いつも通り商売を始めようと荷台を引いていつもの場所へ向かう。Myosotisによる脳へのダメージの影響か、頭がガンガン鳴るような感覚に襲われる。しかし前回のように意識を持って行かれることはなく、活動するには問題ない程度だったのよかったということにしよう。うん、そうしよう。それと今日はフードを深めに被ってきた。フェイカーが欠けてしまったので、目から流れる涙を隠さなきゃいけないしね。知らない人から見たらただの頭おかしい人だろうし。
それで、いつも通り商売を始めようと定位置に到着したところ、
「うわ、本物だ!」
「ホロウさんですよね!?この前の戦い凄かったです!!」
「ファンです、サインください!」
「…………………はい?」
あっれー、おっかしーなー。いつもなら客は数名程度かもしくはゼロのはず。なのに今日は、開店(?)早々人の群れが押し寄せてきた。しかもファンだのサインだの、普段の俺からは想像もできないワードが飛び出してくる。仮面とフードのかなり不気味な格好をしているので、俺に話しかけてくる奴はほとんどいない。もしかして、これがモテ期?
「ホロウさん、マジかっけえっす!」
「ボス攻略も凄かったんだろ?《狂花の死神》見たかったぜ!」
「キャー、この猫ちゃんかわいいー!」
「品揃えもいいし、これから通おうかなー」
「やらないか」
何ですかこれ。ヨイショされてる感がハンパない。普段ぼっちだと、こういう状況でどう対応していいか分からなくなるな。俺が呆気にとられてる間にシーナが揉みくちゃにされてるし。というか俺も既に揉みくちゃなんですがそれは。というか最後のやつ誰だコラ。
「この記事、見ました!仮面の行商人って凄いんですね!!」
「…………………記事?」
何となくいやな予感がしたので、その客から記事とやらを見せてもらう。するとそこには、とんでもないことが。
『聖騎士を追い詰めた謎のプレイヤーの正体とは!?』
『グリームアイズを沈めた《狂花の死神》が、ヒースクリフを襲う!!』
『仮面の行商人の数々の功績!目撃者に独占インタビュー!!』
……………ナニコレ?
本当に何なんすかこれ。なんかヒースクリフとの戦いとか、グリームアイズの時のこととかが有らん限りの修正やら美化やらを施して、あたかも真実のように報道されてる。他にも、俺の一日の行動が書かれていたり捏造インタビューが掲載されてたりともう手の施しようがない。今からそのことを伝えても、今の様子だと皆信じてくれないだろう。
こんなことしたの誰なんだろなー、おっかしーなー。って知っとるわ、絶対アルゴだろこれ!!ここまで捏造してくるのはあいつしかいないし、そもそもグリームアイズ戦の時だってかなり盛ってたし。インタビューの所に写真が載ってるんだけど、これ絶対リズとシリカだろ!!お前の趣味をシリカに押し付けるんじゃねえ!!え、リズはって?嫌だなぁ、絶対グルだろこれ。
「………………………ん?」
「………………………………………あ」
視線を向けると、遠く離れた場所にアルゴの姿が。そして彼女がこちらを見た瞬間腹を押さえてゲショゲショ笑ってやがった。
そして極めつきは、こちらを見て、白い歯を見せてのウィンク。…………………絶対こいつだ。
「絶対泣かせてやるからな、アルゴ……………」
気づけば、彼女の姿はもうなかった。残されたのは、大量の客とガヤ、そして俺と既に死にかけのシーナのみ。商売人としては嬉しい悲鳴が、個人としてはガチな悲鳴が、アインクラッドの空に響き渡った。
「…………………………働きたくないでござる」
大量の客が押し寄せたため、開始から10分も経たない間に商品は完売。至上最短で今日の営業を終えた俺は、同じく女性陣に揉みくちゃにされて死にかけてるニーナと共に、エギルの店でくたばっていた。なんだろう、一週間の仕事を10分に凝縮した感じの疲れがどっと押し寄せて、ニートになりたいと思ってしまうほどに俺の心は磨耗していた。
「なあ、このゲームをクリアしたら、俺ニートになるんだ……………」
「ホロウ君、なんだかおかしいよ?」
「心配するなアスナ、俺は社畜になんぞならないさ」
テーブルに倒れかかって死んでる俺の正面には、《閃光》ことアスナが座っていた。同じく死んでるシーナをなでなでしている姿は、予想以上に様になっている。どこかのセレブが膝に犬乗っけてる絵が頭の中に浮かんでくる。
「ホロウ君、話戻していいかな?」
「悪い悪い。それで、話ってなんだ?」
「えっと…………キリト君のことなんだけど」
「ああ、血盟騎士団に入ったんだっけ」
キリトは今、血盟騎士団に入団し……………させられた。ヒースクリフとのデュエルの際にした賭けによって、負けたキリトは血盟騎士団に半強制的に引き入れられたのだ。きっと今頃、訓練か任務か何かをさせられているだろう。南無三。
「うん、そうなんだけど……………」
「キリトの制服姿がウケたとか?」
「そうそう、白が全然似合わなくて……………ってそうじゃなくて!!」
うん、さすがにやりすぎたか。
「キリト君が、少し心配で……………」
アスナの声に、不安な様子が纏わりつく。
「大丈夫だとは思うんだけど、何か嫌な予感がして…………」
「あー…………、クラディールのことか?」
クラディールとは、血盟騎士団の団員で、以前はアスナの護衛役(笑)をしていたのだ。しかしその実態は、アスナのホームで監視ともいえる行動をとったストーカーなのだ。そんな変態腐れ野郎と同じ任務かもしれないなら、その不安も当然か。
「それもそうなんだけど、何というか、何かがありそうで怖いの…………」
「何か、ねぇ」
まあ、実際何かは起こるだろうな。あいつには面倒事しか基本来ないし。今回も厄介なことに巻き込まれているかもしれない。キリトの実力があれば大丈夫だとは思うけど、それでも万が一ということもある。
「──────っ、ごめん!私行かなきゃ!!」
「ちょ、アスナ!?」
アスナはいきなり立ち上がり、何処かへと走り出した。おそらく、いや確実にキリトの様子を見に行ったのだろう。でも、あそこまでアスナが焦る様子は見たことがない。………………嫌な予感がする。
「………………追うか」
俺も立ち上がり、アスナを追うことにした。もう姿は見えなくなっていたが、アスナに撫でられていたシーナが先行して後を追ってくれている。シーナの位置は把握できているので、それを追えば辿り着くというわけだ。
「………何もなきゃいいけど」
もちろん何も起きなければそれでいい。しかし、俺にはそう思えなかった。アスナのあの表情が、とても気のせいとは言えなかったからだ。もちろん、それが何かの兆候というわけでもなく、何かのフラグでもないことは重々承知だ。だからこそ、何もないことを確認して安堵したい。そのことが俺の足を急がせた。
「クソッ…………………」
言いようのない不安を拭いきれないまま、シーナの後ろを追いかけた。
「……………ここか」
シーナに追いついた時、俺は55層のフィールドにいた。岩に囲まれたフィールドの先には、56層へと繋がる灰色の岩造りの迷宮区が見える。
「あいつらは…………」
肝心のキリトやアスナが見当たらないので、歩きながら周囲を見渡してみる。かなり遠くに見えたが、信じられない、あるいは予想通りの光景を目の当たりにした。
そこにいたのは、倒れているキリトと、その前に立っているクラディール。
ここまで情報が揃えば、何が起こったかなんてすぐに分かる。クラディールがパーティーメンバーを何らかの方法で行動不能にし、殺したのだ。アスナの話によると、訓練のメンバーは4人。今いる2人を除いくと、ゴドフリーという巨漢の男ともう一人団員がいたはず。そいつらがいないということは。
「殺りやがったな、クラディール…………」
その証拠に、奴はオレンジカラーになっているだろう。この距離からだと視認は難しいが、そうなっているに違いない。じゃなきゃ、どうしてこんな状況に陥っているのだろうか。
すぐにあいつらのいる方向へ走り出す。しかし、すぐに止まった。いや、止まるしかなかった。クラディールが左のガントレットを外し、露わにされた腕の内側にあるものが、俺にそうさせた。
「笑う……棺桶…………」
そう、そこにあったのは入れ墨。両目と口が描かれた漆黒の棺桶から、白骨の腕がはみ出ているイラストは、俺がよく知るそれだった。
殺人ギルド、ラフィンコフィンのエンブレム。
俺がかつて所属していたギルドで、討伐作戦の時に俺が大半を殺したギルド。俺が気を失った後、死傷者もなく全員を黒鉄宮にブチ込んだと聞いていたばかりに、この光景を受け入れるのにかなりの時間を消費した。あそこにいた奴らは全員捕まえた。あそこにいなかった?いや、それ以前にクラディールが所属した覚えはない。なら、答えは一つ。あの場にいなかった、ラフコフのトップの仕業だろう。
「………………Poh」
ラフコフのトップであり、俺に殺しを教えたイカれた殺戮者、Poh。そいつの仕業に違いない。きっと、キリトとのデュエルに負けた後、何か甘い言葉で誘惑したのだろう。それ以外に、可能性なんて考えられない。
ラフコフ討伐作戦後、本来ならPohを殺しに行く予定だった。しかし、意識を飛ばされたせいでそれは叶わず、それからは奴の行方は分からなくなった。やはり、あの時殺しておくべきだったのか。後悔が今更だが脳に襲いかかる。自責の念に捕らわれそうになるが、今はそんな余裕はない。一刻も早く、キリトを助けなければ。そう思い動き出した瞬間、白い閃光が駆け抜けた。
「……………アスナ」
アスナが、クラディールを跳ね飛ばしたのだ。表情こそ見えないが、どこか安堵した様子を見せている。
「間に合った、か」
大きく溜め息をつく。それが安堵から出たものか、動けなかった自己への嫌悪感から出たものかは分からない。それでも、アスナが来れば問題は解決するだろう。あの不安は解消されたと、勝手に思ってしまった。だから、アスナの行動に驚きを隠せなかった。
アスナが、クラディールを攻撃し始めたのだ。
クラディールも剣を持っているが、無茶苦茶に振り回してるため当たらない。そんな中、アスナの剣尖がクラディールを追い詰めていく。既にオレンジになっているクラディールを攻撃しても、アスナがオレンジになることはない。そのことはよく知っている。俺も、過去にこの方法で人を殺してきたから。
しかし、俺には見えてしまった。起こりうる最悪の結末が。
「─────────っ!!」
俺はすぐに所持アイテムのリストからMyosotisを取り出し、オブジェクト化する。そして起動。冷静に、かつ迅速に。ここまでの作業を最速で終わらせる。だが、その行動とは裏腹に、俺は焦っていた。
きっと、クラディールはアスナを殺す。
自分のHPが無くなる寸前に、命乞いをするのだろう。そうすれば、殺しをしたことがないアスナは、必ず戸惑う。そこを狙うのだろう。奴がラフコフの人間であるのならば、この位は当然のようにやってのけるだろう。
キリトが動けるようになり、クラディールを止めるという未来もあるだろう。しかし、それは「キリトがクラディールを殺す」ことと同義なのだ。アスナを殺させないためには、直ちにクラディールを止める必要がある。しかし、今のキリトにクラディールを制圧する余裕は見られない。だから、止めるには、クラディールを殺すしかないというわけだ。それをクラディールが仕込んだかどうかは分からないが、そういった狙いもあるのだろう。
俺は、それが許せなかった。アスナが殺されることが、キリトを人殺しにさせられるのが、……………ラフコフの人間が、俺の大事な人を傷つけようとしているのが。だから、俺は動いた。この最悪の結末を回避するために。
取り出したMyosotisが赤い光を纏う。そして、迷うことなくその名を呼ぶ。
「────《ブリューナク》」
その名を呼んだ瞬間、真っ赤な槍がMyosotisの結晶の中から出現する。俺はその槍を右手に握る。その槍からは、尋常ではない力が漏れ出していた。
Myosotisの形態の一つ、《ブリューナク》は、投擲専用の槍。一度きりの使用で霧散してしまうが、その一度のダメージはとても大きい。だからこそこの武器を俺は選んだ。確実にクラディールを殺るために。俺が殺したことを、キリト達に悟られないように。
俺が殺したら、きっとあいつらは心配するか、「ごめん」と謝ってくるだろう。今までのことから考えても、そうに違いない。だから、知られてはいけないのだ。そのままこの事実を闇に葬れば、誰も傷つかない。それが、最善策なのだから。
予想通り、アスナが一瞬戸惑った。その隙をクラディールは逃さず、持っていた大剣でアスナのレイピアを弾いた。そして剣を振りかざすクラディール。キリトも動き始めていた。きっと、体術スキルを使うつもりなのだろう。でも、そんなことはさせない。
「消し、飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
助走もせずに、そのまま槍を投擲した。放たれた槍は、異常値に跳ね上がったステータスによって一筋の閃光となった。そしてその槍は、キリトの体術スキルより早く、クラディールのアバターを捉える。雷のようなその一撃は、クラディールのHPを一気に食らいつくした。
槍は霧散し、跡形もなく消えた。そして間もなく、クラディールも消えるだろう。これで、誰も傷つかない。そう思い、再び視線を向けると。
「っ!?」
クラディールが、こちらを見据えていた。岩がこちらを遮っているため、向こうからは俺を視認できないはず。………だとしたら、自分を殺したのが俺だって、気づいているのか…………?
困惑する俺に向かって、クラディールは何かを口にする。その言葉が届くことはなく、口の動きすら読み取れなかった。しかし、俺は理解してしまった。クラディールの最期の言葉を、理解できてしまった。
───────この、人殺し野郎が。
次の瞬間、クラディールは無数のポリゴンと化し、その命は散った。そして訪れる静寂。その静寂が、どこか不気味に思えた。
クラディールの最期の言葉は、一体何を指していたのか。俺がクラディールを殺したことなのか。もしくはラフコフ討伐作戦で殺した奴らの怨念なのか。それとも。
『どうして俺を殺したんだよ、ソラ』
「っ!?」
突然の声に、俺は思わず周囲を見渡した。だが、その声の主はどこにもいない。いや、当然か。その声の主は、俺がこの手で殺したのだから。
「…………帰るか」
つかれた。疲れた。憑かれた。とにかく疲れた。早く休みたい。ベッドの上で目を閉じれば、胸の中にあるわだかまりは消えるはずだ。だから帰ろう。何も考えずに、いつも通りの日常に戻ればいい。また、毎日を繰り返していけばいいんだ。
「ナー……………………」
突然、シーナが俺の胸に飛び込んでくる。とっさに受け止めると、シーナがこちらを覗いてきた。そして、その無垢な瞳に映っていた俺の表情が、見えてしまった。
笑っている。
笑っていたのだ。何も楽しいわけではないのに。人を殺した後なのに。クラディールの言葉に乱された後なのに。俺の口元は吊り上がって、あの時のクラディールがしていたであろう笑みを浮かべていた。右手で、破れた仮面から露出している口元に触れる。その感触が、俺がどんな表情をしているのかをより実感させる。
どうして。一瞬そう思ったが、その疑問がどれだけ見当違いなのか、すぐに理解した。
愉しい。
楽しいのだ。PKが、人殺しが、殺人が、愉しくてたまらない。殺していく度に、俺の何かが満たされていくような気がした。クラディールを殺した時も、そうだった。どうやら、俺は既に狂っていたらしい。ただのシリアルキラーに成り果てていたのだ。
本当に、自分自身に呆れてしまった。幼い頃に家族を皆殺しにされたというのに、あれだけ人殺しを憎んでいたというのに、愛する人の命をこの手で奪ったというのに。俺は殺戮を求めているようだ。その歪んだ心が、肌を這い回る百足のようでとても不快だ。もしくは蟻が運ぶ虫の死骸のように、ぐちゃぐちゃで汚いものにも思えてくる。しかし、それが俺なのだ。柊空であり、ホロウである俺なのだ。きっと、今の姿を見たら、家族からもニーナからも拒絶されるだろう。それは分かってる。でも、変えられない。だって、殺すことこそが、俺なのだから。それしか、知らないのだから。
シーナを抱きかかえたまま、俺は転移結晶を手にする。こんな場面で使うなんて正気ではないのだろう。実際そうだし。しかし、ここから歩いて戻りたくはなかった。一歩一歩足を進める度に、俺が殺めた人たちの声が聞こえてくるような気がしたから。
「転移……………《リンダース》」
俺は逃げるように転移結晶を使用した。それでも、俺の犯した罪と亡者の怨念からは、永遠に逃れられない。
そして、キリトとアスナがギルドを一時脱退したことを知ったのは、それから一週間後のことだった。
あの件から一週間が過ぎ、俺はいつも通り商売をしていた。ヒースクリフとのデュエル直後のような賑わいはないものの、固定の客は増え、売上もかなり上がった。しかし、あの日のことが頭から離れず、ここ最近はボーッとしていることが多い。だから、
「ねえ、聞いてるの!?」
こんな風に、呼ばれてもなかなか気づかないのだ。
「うるさい、少しボリューム下げてくれ」
「何度呼んでも返事をしないあんたが悪いのよ」
相手はリズベット。こいつは初期からの固定客だし、こうして話すことも自然なことだった。大半は罵り合いで終わるんだけど。
「………………その仮面、まだ壊れたままなの?」
「しょうがないだろ、お前でも直せなかったんだから」
ヒースクリフとのデュエルで壊れた《フェイカー》を直そうと、一度リズを訪ねたのだが、修理は不可能と言われた。「少なくとも、今のあたしじゃ直せない」というのが、彼女の見解らしい。しかし、他に宛もないし、リズ以上の鍛治職人を俺は知らない。…………訂正、いるにはいる。けど、その人には頼めない。
「ふーん………。なら、さ」
「どうした、リズ」
腕を組み、考え事をしているようなリズが、いきなり話を切り出してきた。その内容を聞いた俺は、反発したがどこか納得してしまった。それが、俺が辿るべき運命なのだと。
「《ナタリア武具店》に、連れてってよ」
言いたいことが多いので箇条書きで。
・遅れてしまいごめんなさい。試験が控えてるのでまた遅れると思います。
・UAが10000突破。多いのか少ないのか分かりませんが、本当にありがとうございます。
・ホロウ、リアリゼーションでホロウ&ニーナを再現したいです(イラストは諦めました)。
・評価、感想、苦情をください。お願いします。
そして次回、ホロウとリズがベッドでイチャイチャ(?)します。それでは失礼します。