《タイタンズハンド》。
このギルドはオレンジギルド……つまり犯罪ギルドである。要するに社会不適合者の群れ的なあれだ。他のプレイヤーからすれば面倒な存在だ。
というかとうしてオレンジギルドの話してんの?って思ったあなた!いい質問ですねぇ~。これはキリトの用事と関係しているのだよ。どういうことなのかというのはまた後ほど。
そんなこんなでやって来ました35層の迷いの森。こういう自然のある場所はいいね、なんかマイナスイオンとかすごそうだし。むさ苦しいモンスターもキリトがボッコボコにしてくれている。おかげでかなり楽出来てる。シーナに至っては俺の頭の上で寝てるし。
「お前なあ………少しは手伝ってくれてもいいだろ」
「てかそもそも頼み事してきたのはどっちデシタッケー?」
「うぜえ」
ごめんねキリト。真面目にやらなきゃいけないのは分かってるけど、弄りたくなるお前が悪い。まあキリトだけに任せるのも気が引けるし、俺もそろそろ…………
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!」
「っ!?今の悲鳴は!?」
「あっちだ、急ぐぞ!!」
突如聞こえた悲鳴に嫌な予感を感じながら、俺達は声の元へ駆けていった。
そこで見えたのは、2体の『ドランクエイプ』という猿のようなモンスターに囲まれた少女の姿だった。ドランクエイプは迷いの森の中では最強クラス。ぶっちゃけあの少女ヤバい。
「ホロウ!!」
「分かってる…………よっ!!」
俺は槍を取り出し、助走をつけてブン投げた。異常に鍛え抜かれた敏捷度に補正された一投は、一筋の光となり敵を穿つ。その一撃でドランクエイプはポリゴンの欠片となり散った。キリトの方を見ると、あちらも既に終わっていたようだ。
「とりあえず終わったな。だが……………」
そこに残ったのは、水色の羽を抱きしめている少女だけだった。どうやら、最悪の結果になってしまったみたいだ。
「すまない、君の友達を助けられなかった……」
「いえ、あたしのせいだったんです。………………助けてくれてありがとうございます」
キリトの言葉にその少女『シリカ』は嗚咽を堪えながら答えた。やはりさっきのことがショックなのだろう。
シリカはアインクラッドでも数少ないビーストテイマーだった。その相棒のフェザーリドラ『ピナ』を先程の戦闘で死なせてしまった。13歳程の少女にとっての心の支えでもあるピナを失った痛みはかなり大きいだろう。
「あたしがバカでした。そのせいでピナは………」
そもそも彼女は何故1人だったのか。行動していたパーティーと口論になり、単独行動をしていたのだ。珍しいビーストテイマーに容姿も相まって、中層のマスコット的な存在であるシリカは妬みの対象でもあった。同行していたプレイヤーに言われた嫌みで頭に血が上り、「あなたたちとはもう絶対に組まない」とパーティーと別れた。そして迷いの森で道に迷い、先程の状況に至る、ということだ。
シリカにも非があるとは言え、同じビーストテイマーとして見過ごすこたは出来ない。
「ピナの心アイテムがあれば、蘇生することが出来るぞ」
これは以前、アルゴから買った情報だ。47層にある《思い出の丘》には、使い魔の蘇生アイテムの《プネウマの花》が存在する。思い出の丘にビーストテイマーが行くと、そのアイテムが入手出来るらしい。この情報を買ったのはシーナのためだったけど、以外なところで役に立った。
「その情報、本当ですか!?」
「でも47層だとシリカのレベルじゃあな…………。それに制限時間も3日以内だし…………」
キリトの言葉にシリカの顔は絶望に染まる。3日以内にレベルを10以上上げるなんて聞けば無理はない。
そんなシリカにキリトが装備を渡す。どれも高性能で、シリカのステータスは一気に上がる。
「その装備なら5、6レベルは上げられる。それに俺達も手伝うし大丈夫だ」
確かにこれなら何とかなるだろう。しかし、シリカは困惑したような表情で言った。
「なんで………そこまでしてくれるんですか…………?」
まあ確かに彼女からしたら都合の良すぎる話だ。そう思うのは当然だ。そんなシリカに、キリトは答えた。
「君が………妹に、似てるから」
その言葉に、シリカは思わず吹き出していた。
「わ、笑わなくたっていいじゃないか…………」
「妹に似てるとかwwwwんなベッタベタなセリフ大草原不可避だわwwwwwwwwww」
「お前は黙ってろ!!」
いやぁシリアスがあるならそれを壊したくなる。それが俺の性よ。許せ。そんな俺達のやり取りを見ていたシリカは更に吹き出していた。
「まあ、あれだ。俺もビーストテイマーだし、気持ちは痛いほどわかる。頑張ってピナを生き返らせてやろうぜ」
「………はいっ!」
こうして、俺達はピナを蘇生させるべく行動を開始した。
ひとまず俺達は35層の主街区《ミーシェ》に移動し、宿へと向かうことにした。シリカを勧誘しようとしているプレイヤーは何故か近づいてこない。って俺の格好が不気味なだけか。
「あら、シリカじゃない」
そんな時、赤髪の女がシリカに話しかけてきた。確かあれがシリカが喧嘩別れする原因になった槍使いの「ロザリア」か。ああいうオバサンは守備範囲外です、はい。
「………どうも」
「森を抜けられてよかったわね。どうやらあのトカゲは死んじゃったみたいだけど?」
明らかに愉しんでやがるなこいつ。うわぁ殴りてぇ。しかしシリカは必死に堪えている。俺が手を出すわけにはいかないよな。
「……………でも、必ず生き返らせてみせます!」
「でも思い出の丘をあなたのレベルで攻略出来るかしら?」
もうキレそうですわ。でもそこは大人の余裕を見せつけてやらないとな。
「さほど難しくはないし、この面子なら余裕だ」
「へえ、あんた達もこの子にたらしこまれた口?」
「さあね。まあ、あんたみたいなババアとかババアとかババアにはそんな魅力ないだろうけど」
ババアという単語にロザリアが激怒するも、スルーして目的地に向かう。俺達3人は顔を見合わせて笑った。
宿に着いた俺達は、キリトの所持品の《ミラージュ・スフィア》を使い、47層のマップをホログラフィック化して明日の行動の確認をした。地理、最短ルート、エネミー等の確認をしている時、俺とキリトは扉の後ろの気配を感じ取った。
俺はシリカの口を手で塞ぐ。驚いた様子のシリカだったが、状況が状況だ。
「誰だっ!!」
キリトが声を上げると、ドタドタと逃げ出す足音が聞こえた。やはり盗み聞きされていたようだ。
(迂闊だったな。もう少し警戒すべきだったか…………、いやむしろこの状況は……………)
「んーー、んんーーーーー!!」
あ、やっべシリカの口塞いだままだった。しかも後ろから抱きしめる感じになっちゃってるし。ロリコンに見られてもおかしくない状況に気づき、慌てて離れる。
「ご、ごめん。咄嗟のことで………………」
「い、いえ、大丈夫です………………」
気まずい空気が流れる。シリアスを壊せてもこういうのには手を出せないのが俺の弱点だ。
「あの、さっきの足音って…………」
「完全に盗み聞きされてたな」
「でも、一体何のために……………」
「多分すぐにわかるさ。メッセージを打つから少し待ってくれ」
そう言うとキリトは何やらメッセージの入力を始めた。まあ、俺の考えてることと同じたろう。ほっといても問題ない。
俺はシリカの方へ目を向ける。ピナを失った上に盗聴なんてされたらそりゃ不安だよな。そんなシリカに俺の相棒の黒猫、シーナを渡す。
ピナの代わりとはいかないが、多少不安も和らぐだろう。シリカはシーナを抱いているうちに目を閉じ、すっかり眠ってしまったようだ。
「………………………辛いだろうな」
俺は、シリカに自分を重ねていた。シリカの胸の中で寝ているシーナが、もし消えてしまったら。自分のせいで死なせてしまってら。そう考えていた。ビーストテイマーというカテゴリは関係ない。大事な存在を失う悲しみ、苦しみは痛いほど理解出来る。かつての俺が、そうだったように。
だからこそ、シリカにはその絶望を見せたくない。あんな思いをするのは、俺1人でいい。
───もう誰も、傷つけさせない。
静かに、それでも確かに。誰にも聞こえない声で、そう呟いた。
今回は少し長くなりました。でも3000文字は少ない方なんでしょうか。
少しずつ、物語は進んでいきます。仮面の裏の表情も見れるのでしょうか。どうかボロクソにダメ出しして頂きながらも、、見守っていただけると幸いです。