ソードアートオンライン《仮面の行商人》   作:Gissele

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29 これが、あたしの想い

「それじゃあ、また」

 

そう言ってあたしは彼に背を向けて歩き出した。彼はいつものように「んじゃまたー」と適当に返事をしていたが、きっとあたしが見えなくなるまで見送ってくれていると思う。試しに振り返って見ると、

 

「………………」

 

ほら、あいつがいる。いきなり目を逸らされたけど、別にあたしを拒絶しようとしている訳じゃないと思う。…………今までのことを思えば、それも当然のことだろうと思う。あたしも、今目を逸らしているし。それでもこうやって見送ってくれるところは彼の優しさなのだろう。今までは見逃していた、ホロウの優しさ。

 

「…………………………ふぅ」

 

そろそろ帰ろう。そう思い一歩踏み出す。そしてまた一歩。交互に左右の足を踏み出す簡単な作業が、どこかぎこちない。しっかりと意識して歩こうとしても上手くいかない。…………いや、意識すらできてないのにできるはずもないか。

 

昨日から今日にかけての二日間。一見短い時間は、あたしのいろんなものを壊して、いろんなものを見せた。分かりづらいだろうけど、こうしか言い表せないのが現状なので許してほしい。あたし自身、まだ頭の中を整理できてないんだ。だから何だか変になってるんだと思う。それほどに、あの時間は異質なものだったんだ。

 

このままというのもアレだし、一度立ち止まって頭の中を整理しようと思う。丁度いいベンチを見つけたので、そこに腰掛ける。疲れていたのだろう、自然と溜め息が出た。…………うん、本当に疲れた。本当に。

そしてあたしは空を仰ぎ、これまでの出来事を整理し始める。何時の間にか偽りの太陽は沈んで、夜の暗さが街を覆っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は、彼の依頼。《フェイカー》を直してほしいというあたしへの依頼だった。

フェイカーとはホロウのしている仮面で、彼のユニークスキルである《ミオソティス》を抑えるためのものだ。本人曰く、「これが無いと死ぬ」らしく、それはヒースクリフとのデュエルや75層のボス戦の様子を聞くと頷ける。

そのヒースクリフとのデュエルの際、Myosotisを使ったら仮面が壊れたのだ。だからあたしに直してもらおうとしたというのは分かる。もちろんあたしは直そうとした。でも、できなかった。

 

 

 

直し方が、わからないのだ。

 

必要な素材とか、何回叩けばいいとか、もうそんな次元じゃない。何をすればいいのかが全く分からない状態。直せるのか直せないのかすら全く知ることのできない状態に、あたしもお手上げだった。どうやっても直せないとなると、いよいよ手の打ちようが無いんじゃないかという時に、あたしは一つだけ可能性を見つけた。

 

この仮面を作製したナタリアという人なら、直せるんじゃないか?

 

ナタリアとは、ホロウがお世話になった人で、鍛冶屋で、…………あいつの恋人のニーナという人の母親のことだ。話によると、ナタリアさんはニーナの遺品で仮面を作製したらしい。つまりあの仮面はモンスタードロップではなくプレイヤーメイドの装備。だとすれば、仮面の生みの親であるナタリアさんならどうにか出来るんじゃ?ということだ。

 

あたしがそう提案するけど、彼は首を縦に振らない。きっと、ナタリアさんに会うべきではないと考えているに違いない。ホロウはナタリアさんの娘であるニーナを殺した。そこにどんな理由があったとしても、たとえナタリアさんが許しても、ホロウは自分を許そうとしない。だから、自分はナタリアさんに会えないのだと、考えているはずだ。

 

 

 

まあ、だとしても連れて行くんだけどね。

 

だってナタリアさんはホロウを憎んでなんかいない。むしろ心配しているはずだ。それは彼自身があたしたちに話してくれたことだ。なら、ナタリアさんを傷つけたりとかそういう心配は要らないだろう。

ホロウも、そろそろ自分を許してもいいと思う。彼は十分に苦しんだ。だからもう自分を許してほしい。そのきっかけとして、ナタリアさんのところに帰るべきだと思った。ついでに里帰りもかねてね。

 

嫌がる彼を、あたしは無理矢理引っ張っていった。AGI一極の彼では、あたしのSTRでも容易に引っ張ることができる。いくら足掻こうと無駄無駄ァ!と少し変なテンションになりながら、あたしは彼に案内させながらナタリア武具店へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあたしたちは無事ナタリア武具店に到着した………………のはいいんだけど、ホロウがここまで来たのに腹を括ろうとしない。それを見かねて説得しようとするけど、何時の間にか口喧嘩に。その大声にキレたようで、店の主人が怒鳴りながらその姿を見せた。

 

 

 

彼女が、ナタリアさんだ。

赤黒いショートヘアーにスラッとした体型、そして強気な瞳。ホロウと同年代の子を持つ母とは思えない美貌に、あたしの目は釘付けになった。俗に言う美魔女なのかは分からないけど、それほどに綺麗だった。

 

そのナタリアさんがホロウを見ると、驚きの表情を浮かべた。その表情にあたしは少し不安になったけど、どうやら杞憂のようだった。ナタリアさんはホロウへと駆け寄り、強く抱きしめた。泣きながら「おかえり」と言うナタリアさんは、やはり母だった。ホロウのリアルの名前である「ソラ」を呼ぶあたり、ナタリアさんもそうとう嬉しかったのだろう。ホロウもナタリアさんを抱きしめ返してるようで、とりあえず安心した。ホロウも、きっと安心していると思う。

 

なんというか、家族だなぁって思った。血は繋がっていないけれど、きっとこの二人は固い絆で結ばれている。それがどこか微笑ましくも思うし、どこか羨ましいと思った。彼と心から分かり合えているナタリアさんが羨ましい。なんとなく、そう思った。

 

二人の感動の再会に複雑な感情を抱きながらも、あたしは二人の再会を喜び、見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナタリア武具店の中に案内されたあたしは、キョロキョロと辺りを見回していた。ホロウがどんな場所に住んでいたのか気になったからだ。…………変な想像はしないでよ。

 

ホロウ曰く、「全然変わってない」らしく、仕事のスペースにキッチンとテーブル、そして個室に続いてるであろう階段と、案外簡単なものだったけど、生活感の溢れる部屋というか、そんな感じがした。

 

そして椅子に座ったけど、なんというか緊張していた。もちろんそれが他人の家で、ナタリアさんという鍛冶職人の仕事場兼居住スペースだというのは当然ある。でも、なんというか、それだけじゃない。別の緊張があった。

 

あいつが、ここに住んでたから…………?

 

という有り得ない発想に至るも何とか否定した。しかし、ナタリアさんの発言に再び意識せざるをえなかった。だって彼女とかセ……セフ…………って言わせんなゴラァ!……といった状態に。なんというか、ナタリアさんもとんでもない人だな、と思い知らされた。

 

 

 

 

 

そして、ナタリアさんにホロウが仮面のことを切り出した。

 

ナタリアさんに仮面を渡すと、すぐに答えは出た。直す方法も分かったし、材料も判明した。ならば善は急げ、すぐに出発しようとすると、ナタリアさんに呼び止められた。それもあたしだけ。ナタリアさんはあたしの耳元で、小声でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソラを、奪って」

 

「えっと、どういう」

 

「あの子は、ニーナのことを忘れられないんだ。だから、今もこうして自分を責め続けて苦しんでるんだと思う。もしリズちゃんがよかったら、ホロウの中にあるニーナを消してほしいんだ。まあ要するに結婚してくれないかってこと」

 

「え、えぇぇっ!?」

 

ナタリアさんの口から出た言葉に、あたしは動揺した。いやホロウと結婚!?いやいやいや、何言ってるの!?確かにあいつには世話になってるし、仮面を外せばそこそこの美男子だと思う。普段は適当でやる気がなさそうで、本当にムカつく奴だけど、周囲への気配りもできるし優しいところもあったりする。その優しさに、あたしも結構甘えてたりする。…………いや絶対に違う!あたしが好きなのはキリトであって、こいつは…………というかキリトはアスナと結婚したんだった。え、つまりどういうこと?あたしが好きなのは誰!?というかどうしてホロウのことでこんな混乱してるの!!?Why!?

 

「どったの、リズちゃん?」

 

「全部ナタリアさんのせいじゃないですか!!」

 

元凶のナタリアさんは惚けたりケラケラ笑ったりしてるし。本当に何なんだろうこの人。

 

 

 

 

 

いや、待って。

ホロウの中にあるニーナへの恋愛感情を奪うということは、ナタリアさんにとって「娘を忘れさせてくれ」ということだ。そんなこと、母親だったら普通言わないはずだ。彼女の提案は、自分の娘が彼に向けた愛を、全て無かったことにすることと同じなのだ。なのに、ナタリアさんはどうして。

 

「そりゃ、あたしだってニーナのことを覚えておいてほしいよ?」

 

あたしの考えを察したのか、ナタリアさんが切り出した。

 

「でも、そのままじゃあの子は進めない。ニーナに縛られていたままじゃ彼は苦しみ続ける。そんなの、あたしは見てられないんだ」

 

「ナタリアさん…………」

 

「だから、もう自分を許してほしいんだ。また誰かを愛して、幸せになってほしいんだ。それが自分の娘の愛を無駄にすることになっても、ね。あたしもニーナも、何時までもソラの足を引っ張りたくないんだ…………」

 

彼女の思いは、間違いなく本物だ。自分の息子が傷つくのは見てられないし、娘を忘れさせてでも幸せにさせたい。それはきっと、「母親」としての願い。その想いを知ったあたしは、結論を出せなかった。彼女の想いの強さと、あたしの想いの揺らぎが原因で。

 

「…………なんかごめんね、やっぱ今のナシで!それじゃ、行ってらっしゃい」

 

ナタリアさんは明るくそう振る舞うも、あたしはそうやって振る舞えなかった。モヤモヤした心を忘れようと隅へと追いやり、目的のために駆け出した。

 

 

………………のはいいけど、超意識してしまう。ナタリアさんの言葉が、頭の中で何度もリピート再生される。そのせいで、全く集中することができなかった。

 

きっと、あたしは少なからずホロウに対して好意を抱いてるのだと思う。少なくともそれは確かなのだろう。でも彼を好きかと言われると素直に認められない。いや別にツンデレとかじゃないから。

それに、ホロウが愛しているのはニーナだ。彼女への愛はとても強い。それ故に、ニーナを殺した自分を許せないんだと思う。だから、仮にあたしが彼に対してそういう感情を抱き、伝えたとしても。

 

「…………リズ」

 

「なっ、何!?」

 

こんなことを考えていたせいで、ホロウの言葉に上手く返事が返せない。不意をつかれたからではない。完全に、こいつのことを意識してしまっている。今思い返しても、悔しいというか不甲斐ないというか。

そんなホロウはあたしの身を案じ、とある暴挙に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしの額に、自分の額をくっつけたのだ。

 

「っ!?」

 

あたしの額に、ホロウの額がコツンとぶつかる。そこから伝わる熱だったり、間近に迫った顔だったりと、いろんなものが一気にあたしの心を乱していく。心臓がバクバク鳴っているような感じで、顔が熱くなってくる。ナタリアさんの話のせいでもあるが、彼のことを意識してしまっているらしい。

 

「ちょ、ちょっと何やってるのよ!!」

 

「何って、熱がないか調べて」

 

………………はぁ!?

いやいや何言ってるのあんた、バッカじゃないの!?あたしがボーッとしてたり何かとおかしかったのは認めるし、それはあたしのせいだ。きっと、体調を気遣ってくれたのだと思う。だとしても、普通こんなことする!?手でも結構なのにおでこ!?さすがに限度ってものがあるでしょうが!!…………まあ、気にかけてくれたことは嬉しいけどさ。

 

そこから先はもう自分でも何を言ったか覚えてないくらい動揺してた。返事もろくに出来ていなかったし、今考えると当時のあたしはかなり変だったと思う。ホロウに対してもいきなり猛ダッシュで逃げたし。でもしょうがないじゃん、あんな状態だったんだしさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、それが間違いだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全速力で走った後に、疲れて立ち止まった。荒くなった呼吸がなかなか落ち着かないので困っていたところ、目の前にアイテムが落ちていた。

 

《亡者の骸》だ。

 

フェイカーの修理に必要なアイテムの一つで、今探してる真っ最中のものだ。もう一つのアイテムは既に回収済みだったので、これを手に入れれば目的は達成。こうして発見できたのは不幸中の幸運かどうか知らないけど、とにかく回収してしまおう。そう思い手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、背後から何者かに斬られた。

 

「きゃあっ!?」

 

突然襲われたことに動揺し、そしてその事実に恐怖する。すぐに距離をとり、後ろを振り返ると、男が三人、武器を構えていた。

 

全員、オレンジ色だった。

 

つまり犯罪者。そして今自分を襲ったことろを見ると、PK常習犯と見て間違いない。それは彼らの目が物語っていた。人を斬ってあんな恍惚とした表情ができるのは、殺人の快楽に溺れた人間だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

それはつまり、彼も?

 

 

 

 

 

 

違う。絶対に違う。あいつは、このクズ達とは違うんだから。

 

頭に浮かんだ邪念を振り払い、目の前の状況を把握しようとするけど、まだ頭がうまく働かない。体の震えが止まらないし、力が入らず、近くの木にもたれかかる形で座り込んでしまう。目の前にいるのは自分よりレベルの低いプレイヤーだというのに、体が命令を受け付けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

怖い。

 

 

恐い。

 

 

こわい。

 

 

今自分は殺されようとしている。目の前の男たちに、殺される。あのナイフや剣で、斬られて刺されて抉られて。ポリゴンの破片になって、ナーヴギアに脳を焼かれて、…………独りで、死ぬ。それが堪らなく怖い。

気がついたら、目を瞑って耳を塞いで、叫んでいた。自分の喉から出ているとは思えないような、断末魔のような声。視覚と聴覚を閉ざし、何も考えないように現状を拒絶する。涙が溢れてくるし、震えも止まらない。目の前に迫った死の恐怖が、あたしを蝕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

助けて。

 

 

 

助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リズベットォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

絶望に飲み込まれそうになるあたしを引きずり出したのは、あたしの名前を呼ぶあいつの声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼は、あたしを助けてくれた。

 

 

あの男たちを、殺して。

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい。

 

あたしがいけなかったんです。あたしが一人で突っ走ったせいで、自分勝手な行動のせいで、こんなことになってしまった。彼に殺しをさせた。あたしが、彼を殺人者に仕立て上げた。罪を背負わせてしまった。あたしが全部悪いのに、全部。ホロウが被害者で、あたしが加害者。全部、あたしが悪いんです。

 

ごめんなさい。

 

それなのに、あたしはホロウを拒絶してしまった。彼が差し伸べてくれた手を見て、後ずさりした。その手で人を殺したと考えると、その手に触れることが怖い。そうさせたのは、あたしなのに。

ホロウは、優しい。罪を背負わせて、なのに拒絶したあたしを見て悲しんでいる。仮面のない素顔の彼は、悲しみで顔を歪めていた。半分焼けた顔は少し怖かったけど、年の割に幼い彼の表情を見るとどこか安心できそうな感じがした。そんな彼をあたしは拒絶したんだ。縋る資格なんて無い。

 

ごめんなさい。

 

違うんです。あなたを拒絶したいんじゃないんです。あたしが弱いだけなんです。あなたを受け入れられないあたしがいけないんです。だからそんな顔しないでください。あなたは何も悪くないんです。あたしが悪いんです。あたしが、あなたを苦しめているんです。

だからもう、あたしはあなたを。

 

 

 

「ごめん…………ごめんね………………」

 

何とか絞り出した声は、風にかき消されそうなほど弱いもので。彼には届かなかったと思う。それもそうだ、あたしみたいな最低な人間に、謝る権利なんて無いんだから。だから、もうきっと会わない方がいい。あたしといると、あなたは不幸になってしまうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでもホロウは、あたしを抱きしめてくれた。「大丈夫だ」と言って。あたしは、その優しさと温もりに溺れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナタリア武具店に戻ったあたしは、ナタリアさんに迎えられた。

 

ホロウはあたしをナタリアさんに任せ、個室に行ってしまった。きっと、あたしに気を遣ってくれたんだと思う。それか、あたしを拒絶しているか。

 

ナタリアさんはホロウから事情を聞いたようで、「おかえり」の言葉の後、優しく抱きしめてくれた。そこであたしの感情を抑えていた何かが壊れた。わあわあ泣き喚くあたしを、受け止めてくれた。なんとなく、ホロウがどういう感情だったのかを実感したような気がする。

 

ナタリアさんに全てを話すと、「ごめんね」と言って涙を流していた。きっと、自分の発言がこの事態を招いたんだと思っているだろう。あたしのせいだというのに、皆優しくしてくれる。嬉しいけど、いけないような気がした。

 

ナタリアさんに不足していたアイテムを渡し、今日は休ませてもらうことにした。以前ニーナが使っていた部屋を借りることになり、二階の部屋に向かうと、ニーナの部屋とは別の部屋から、声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柊空もホロウも、皆死ねばいいのに」

 

間違いなく、これはホロウの声。そして今の言葉は自己嫌悪か、それ以上の何か。扉は開いており、中を覗くと、赤子のように横たわる彼の姿が。

 

きっと、自分を憎んでいるのだろう。かつて愛する人を救えなかった記憶を、今日の出来事に重ね合わせてしまっているんだ。そうやって背負う必要のない罪を背負っている。彼は、何も悪くないのに。

 

そんな彼を見ていたからだろうか、不思議と自然に声が出た。

 

 

 

 

 

「何言ってるのよ、バカ」

 

そう言うと彼は振り向こうとする。だからそうさせないために背中に抱きついた。今の状態もすごく恥ずかしいけど、面と向かって話すよりはよっぽどマシだと自分に言い聞かせる。

初めは、あたしを拒絶すると思っていたけど、彼はあたしを受け入れた。そしていつも通り悪態をつきながらの会話をし、その後は二人とも何も話さずただあたしが抱きついているだけ。今考えると、とんでもないことをしたなぁと思う。

 

 

 

ホロウは悪くないんだから、こんなに自分を責めてほしくない。それがあたしの本音。でもそれを素直に言えるほど大人じゃないから、どうしてもこんな言い方になっちゃう。そこは、勘弁してほしい。彼にちゃんと伝わっただろうか。それは分からないし知る術もないから今は諦めよう。でも、こうやってあたしを受け入れてくれている。だから、きっと伝わったと思う。

 

そして彼の背中に抱きついていらあたしだけど、正直ヤバい。ドキドキしてきた。目の前にあるホロウの背中は、いつも見てる以上に大きく感じる。その背中はとてもあったかくて、とても心地がいい。なんだか安心できるような、そんな感じ。きっとこれは、ホロウだからなんだと思う。

 

 

  

この温もりを感じていたい。ずっと傍にいたい。今まで迷惑かけた分、お詫びをしたい。彼が心から笑えるように、助けになりたい。…………この人と、一緒にいたい。今までは気づけなかった感情を知った今なら、きっと素直に自分の気持ちを認められる。…………そう、あたしは────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホロウのことが、好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………あれ、あたし…………」

 

気がつくと、すっかり夜になっていた。ベンチにもたれかかったまま天を仰いで、そのまま回想してしまったようで、こんなに時間が経っていることに全然気がつかなかった。

 

「もう、帰らなきゃ」

 

こんな夜中に出歩くと何があるか分からない。明日からは仕事もあるし、早く戻らなければ。そう思い立ち上がる瞬間、またしても気がつかなかったものに気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

目から溢れる、大粒の涙。

 

「あ、あれ…………………………?」

 

何度拭っても止まらないその涙は、自分の意志とは反対にどんどん流れてくる。何度目を拭っても、止まる気配がない。どこからこの涙は流れているのだろうか。何が、こんなにもあたしを流せるのか。そんなの、あたしが一番理解していた。

 

 

 

 

 

 

それは、ホロウの背中で聞いた、彼の寝言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────ニーナ、好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一言が、原因だったようだ。

 

この一言が表しているのは、今も変わらないニーナへの愛。例え彼女が死んでいたとしても、きっと未来永劫変わることのない絶対的なもの。

 

これを聞いた瞬間、あたしは悟った。

 

 

 

 

 

あたしじゃ、ニーナの代わりにはなれない。

 

どれだけ彼を愛しても、どれだけ彼に好かれようとも、どんなことをしても、どれだけ経っても、きっと変わらない。彼はニーナを愛している。あたしじゃ、届かない。

 

本当に、酷いものだ。告白する前から振られるなんて。しかも当の本人は無自覚だし。なんというか、泣けてくる。いや、今泣いてるのか。

 

こうして、あたしは至上最短と言っても過言ではない失恋をした。

 

 

 

 

 

 

 

それでも、彼とあたしの関係は変わらない。

 

彼は「また」と言ってくれた。なら、これからもあたしたちの関係は続いていく。友人だったり、仲間として、彼といられる。だったら、これからの毎日だってきっと彼といられる。なら、まだ何も終わってないじゃない。

 

もっと、強くなる。彼にこれ以上罪を背負わせないように。いつか、一緒にその罪を背負えるように。これからもずっと、彼の傍にいられるように。彼と一緒に、笑えるように。そのために、精一杯頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てなさいよ、バカヤローーーーっ!!!」

 

夜空の星々が、あたしを照らしてくれているような気がした。




遅くなってすみません。今回もお読みくださりありがとうございました。

今回のやつに関しては書いてる最中も書いた後も不安になりました。いつも通り、批判叱責誹謗中傷暴言非難お待ちしております。私を潰しにくるような感想を心よりお待ちしております。

次回から、どんどん終わらせていきます。その間に一つ話を挟むかもしれませんが。とりあえず今週中を目標に頑張ります。

今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。
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