「君たちは、螺旋のようなものだね」
「いや、いきなり何言ってるのか分からないんですがそれは」
「本当に、運命というものは不思議なものだ」
「話聞けやコラ」
勝手に喋り出すヒースクリフに突っ込むが、自分の世界に浸っているのかこちらの話を聞いていないのか、勝手に頷いてやがる。うん、普通に腹が立つ。とはいえ、こちらも用事があるので帰れないので暫くはこの面倒なおっさんの相手をするしかない。ああ、ユイちゃんと戯れてた日々に戻りたい。だが現実は非常なもので、目の前にはおっさんしかいない。辛い。
ここは血盟騎士団の本部にある、とある個室。デュエルの前に呼ばれた大部屋とは違い、こぢんまりとした会議室のような場所だ。少し小さめの円卓に、簡単な椅子が並べられただけの部屋は、どこか圧迫されるような感覚に陥れる。人が好んで入るような部屋でないのは、誰が見ようと明らかだ。
では、どうしてヒースクリフはここに呼んだのか。と言っても、理由はとても簡単なものだ。会話の性質上、一目につく場所では会えないのだ。
考えてみてほしい。SAOのラスボスであり実質的な支配者のヒースクリフと、その事実を知っているただ一人のプレイヤーである俺。そんな二人が、堂々と一目のつく場所で話したらどうなるだろうか。そんなのアポのキバオウでも「なんでや!!」……今のはカットで。
ネタバレと混乱を避けるために俺たちはこうしてこそこそと会っているのだが、「なら本部じゃなくて外で会えばよくね?」と思う人もいるだろう。しかし、奴はこの血盟騎士団の団長でもある。そのヒースクリフが自由に行動できると思ったら大間違いだ。団長としての役割を果たすため、ここに残らなければいけない。なので外で会うことは不可能。よって、こんな狭くて狭い場所で会うしかないのだ。
「本当、他に部屋とか空いてないのか?さすがに狭いし暑苦しいんですけど」
「私の事情は知っているだろう。他のプレイヤーにこの事実が露見するリスクを避けるために、ここが一番なのだよ」
ほら、本人もこう言ってることだし、部屋についてはもう諦めよう。と一通り今の状況を整理し、このふざけた男をどう貶してやろうかと、俺もまた自分の世界に入り込むのだった。
俺がヒースクリフと会うことになった理由は、はっきりとさせておかなければならないことが多数あるからだ。
一つは、俺とヒースクリフのデュエルでの出来事。俺がMyosotisで攻撃しようとした際に、突然Myosotisが解除された件だ。これについてはもう答えは出ているし、本人に確認したところ正解のようだった。
ぶっちゃけて言えば、「管理者権限による能力の強制解除」…………だそうだ。
あの瞬間、俺の剣は間違いなくヒースクリフを貫くはずだった。しかし奴は、Myosotisを管理者の権限によって、強制的に解除したのだ。そうすることで俺の手にあったMyosotisは、その力を失い霧散。まんまとヒースクリフに逃げられたのだ。
まあ、この事実を聞かせれた俺からは、「あ、そっすか」みたいな反応しか出てこなかった。だってあの時点でもう答えには辿り着いていたのだから。ヒースクリフもそのことは理解していたのか、詳しい説明はほとんどしなかった。変わりに出てきたのは謝罪だった。頭を下げ、「申し訳ない」と謝罪している様子は、これ以上なく素晴らしいものだった。だってあのヒースクリフが頭下げてるんたぜ?クッソワロタ。とりあえず精一杯煽っといたので、保存した写真は後でアルゴに売りつけておこう。今から楽しみでしょうがない。
そしてもう一つは、「このゲームのクリア条件」について。これも簡単に答えを得ることができた。
このゲームのクリア条件は、「ヒースクリフの撃破」である。
…………いやいや、ラスボスを倒せばクリアなのは普通じゃね?とも思うけど、冷静になって考えれば問題点は多いのである。
例えば、この情報が嘘なら?そうなると俺は茅場晶彦という人間を殺しただけになってしまう。そうなると、俺に憎悪が向けられるのは分かり切っている。それに、こいつはアインクラッド最大の攻略ギルドの団長なのだ。こいつ一人が死んだだけで、ギルドや攻略組は混乱し、分裂してしまう。そういったリスクもあるので、色々と考えてしまうのだ。まあ、実際にはそんなの有り得ないんだろうけど。ちなみに、俺がヒースクリフの情報を誰にも伝えてないのは同じ理由である。
そして、数日後のボス攻略のことも聞かされた。
ざっくり説明すると、要点は三つ。
一つは、10人の偵察部隊が全滅したこと。万全を期したにも関わらずだ。
そして、ボス部屋は結晶無効化空間で、ボス事態もクォーター・ポイントでの強力なものだと予想されること。これは、ボス部屋の前で待機していた団員の報告によるもので、間違いないと考えていいだろう。
それと、俺は独立した遊撃部隊(単独)として参加するらしい。デュエルの時の約束とはいえ、たった一人とは酷くね?とも思う。だって、フォワードとか他の持ち場は大体10人くらいだぜ?それなのに一人て。攻略でもぼっちかよ俺は。………まあ、スイッチとかできないからいいんだけど。
本当にざっくりしているが、一応ボス攻略についても色々聞かされた。
といったように、この狭い部屋の中で色々と情報を聞かされたわけなんだけど、話が終わると「君たちは螺旋みたいなものだ」とか意味分からないことをほざいてやがるし。相変わらずなに考えてるか分からないが、もうそれは諦めることにした。とりあえず、ヒースクリフに説明を求める。
「それで、螺旋ってどういうことだよ」
「ああ、そのことか」
いや、お前が言ったんじゃねーか。というツッコミを何とか抑え込み、ヒースクリフの話に耳を傾ける。
「螺旋とは、ホロウ君とニーナ君のことだよ」
「私も全てを知っているわけではないが、君たちの関係くらいは知っている。少なくとも、お互いに愛し合い、求め合っていたことくらいには」
「だが、ニーナ君は殺人ギルドに殺され、愛する人を奪われた君はそれに絶望した。そうでなければ、君が仮面の下で泣き続けていることの説明がつかない」
「お互いに追い求め、その面影を追っている。だがその二つの糸は結ばれず、終わりのない螺旋のような形をしている。その螺旋は、生と死の中でこれからも続いていくのだろう」
ヒースクリフの話は、ある意味正しい。その場面を見ていないのに、ここまで正確に俺とニーナを把握している。流石はこの世界の創造者、と言ったところか。
そう、俺たちの関係は、お互いに求め合い、そして交わることなく終わった。俺は許されるために、彼女は愛されるために。互いに互いを求めて、俺はニーナに、ニーナは俺に依存することで安寧を得ようとしていた。でも、それはニーナの死によって終わった。俺がいくら求めても、彼女には永遠に巡り会えない。そして彼女も、また孤独の中で怯えるしかない。それでも俺たちは互いを求め、その影を追いかける。でも、死んだ人間と生きている人間が交わることは許されないのだ。それを指して、螺旋という表現を用いたのだと考えられる。
更に、俺が「ニーナを愛していて、だからあの時殺した」ことと、ニーナが「自分が愛されたくて、だからあの時『殺して』と言った」こと。愛しているから殺して、愛されたいから殺されるだなんて、普通の人間から見れば、明らかに矛盾している。その矛盾を、交わることのない螺旋に例えたとも思えてしまう。
ここまで的確に俺たちのことを理解するとは、もうこいつはバケモノとしか言いようがない。ここが劇場なら、観客全員がスタンディングオベーションをすることだろう。名探偵も驚愕の推理に、心の中で賞賛しておこう。
だが、違う。
ニーナを殺したのが、俺だということを。愛する人を奪われたのではなく、俺が奪ったということを、茅場は知らない。
だから、俺は否定できる。あの時、茅場がニーナを「徒花」と言ったことを。全てが無駄だったということも。
「なあ、茅場」
「…………何だね、ホロウ君」
「お前は、俺たちのことを螺旋と言ったな」
「そうだ。しかし、それがどうかしたのかな?」
相変わらず、ヒースクリフは怪しげな笑みを浮かべ、こちらを挑発するように覗いてくる。いつ見ても憎くて殺したくなる表情だけど、なんというか今はそう思わなかった。いや、思えなかったのかもしれない。
「俺とニーナを二重螺旋に例えたのはなかなか良いと思うぜ。でもまあ、少し足りないな」
「…………ほう?」
そう、こいつが言っているのはこれまでの話だ。交わることのない螺旋の、その先にあるものを、こいつはまだ知らない。
「俺たちが、決して交わることのない螺旋の中にいようとも、
終着点は、きっと
話も終わり、俺は血盟騎士団の本部を後にした。あんな狭苦しくて居心地の悪い場所で、好んで話したくもない話をするだなんて、どこかのお坊さんの苦行みたいなものじゃないか?と色々文句を頭の中に並べながら、ホームのある第19層の《ラーベルグ》へと歩を進める。なんというか、本当に疲れる。ラスボス兼実質的な支配者兼最強のプレイヤーと話すとなると、少しでも隙を見せると付け入られるから辛い。まあ付け入ったところで何もないんですけどね。
そんなこんなで歩いてると、目的の場所はもう目の前だった。そこは俺のホーム…………という名の空き家だ。とりあえず家具などは一式揃えてあるけど、そこまで広い訳でもない、ただ寝るだけの空間。そんな生活感のない場所に、まともな生活をしている奴なんて当然いない。そんな様子が丸見えな場所だ。まあ、俺の家なんだけど。
だが、それには理由がある。そもそも、この家に帰るのは週に2回程度なのだ。え、じゃあ後は何してるのかって?そりゃあ、他の日は夜中ぶっ通しで商品と素材集めプラス憂さ晴らしのためにモンスターとヒャッハーしている。そんな生活に慣れてしまった今では、もう家の必要性すら疑われる。俺の生活スタイルの中に、元々家なんて必要なかったのかもしれない。でも、こういう避難場所を確保できてるという面では、とても安心できるのだけれど。
また、この家には、今まで殺してきたプレイヤーの武器を全て置いてある。というか刺している。家の前の少し広めの庭みたいな場所に、もう心が硝子のあの人のアレみたいな感じで滅茶苦茶に刺してある。それは自分への戒めだったり、或いは一種の脅しだったりと、俺への罰のつもりで始めたものだ。しかし、住むとなると非常に邪魔で、精神衛生的にもよろしくない。しかし、これを撤去するのはただの逃げだとも思うので、このまま保存して、極力家に帰らないようにしている。それこそ逃げだと言われたらお終いだけどさ。
まあ、普段使わないとはいえ、ゆっくり休める場所は必要なものだ。とりあえず、そういうことにしておこう。シーナが「うわぁこいつ有り得ねぇ引くわー」と言いたげな顔をしているが、とりあえずスルーしておく。今はゆっくり体を休める必要があるのだ。
「とりあえず、ドアを開けたら最短ルートでオフトゥンへとダイブせねば」
頭の中で理想の姿を完成させ、ドアノブに手をかける。イメージトレーニングは完璧だから、後はこのドアノブを捻った瞬間から脳内に描いた通りの行動を
「あ、ホロウさん」………………ハイ?
「遅いわよ、もう始まってるんだからとっとと来なさい」
「邪魔してるぜ、ホロウ!俺が言うのもなんだけどよぉ、この家趣味悪くねぇか?」
「まあ、格好からして変人だからしょうがないダロ」
………………一度冷静になろう。とりあえずドアを閉める。
「なーに逃げようとしてるのホロウ君?」
デスn…………アスナがそれを阻止する。その表情は完全に笑顔だったが、その裏には、確実にバーサーカーが潜んでいる。これは命の危機と感じ俺は走り去ろうと後ろを振り返り「おい」…………あり?
「現実から逃げようとするなよホロウ」
「いい言葉に聞こえるけど意味違うからな!?」
逃げようとする俺の肩を、エギルが掴んでいた。ゴリゴリの見た目通りの高いSTRが俺を掴んで離さない。某ガキ大将が母親に連れて行かれる場面が、今まさにこの場で起こっている。彼の心境が、今ようやく分かった気がする。
「とりあえず、こっち来いよ」
「いや絶対行きたくないんだけど!?」
「心配すんな、乱暴な真似はしないさ」
「現在進行形で乱暴な真似してるんですけど!?」
とりあえず抵抗を試みるも、AGI一極の俺ではこのゴリマッチョには全く歯が立たない。草食系男子が力士に刃向かうようなものだと思えてきて、もうなんかよくなってきた。必死の抵抗虚しく、俺は混沌へと引きずり込まれた。
「……………それで、結局何なのこれ」
「何って、次のボス攻略の決起集会に決まってるじゃない」
「それで、どうしてここなの?というか何故家分かったし」
「理由は特になし。情報に関してはもちろんオレっちダ」
「デスヨネー」
どうやら、俺の家をアルゴが見つけ出し、皆を呼んで決起集会をすることになったらしい。何故俺の家なのかは分からないけど、まあこいつらの悪ふざけってところだろう。まあいいや、もう考えたくない。
ちなみに、今回の参加者はいつものメンツ。キリト、アスナ、エギル、クライン、リズ、シリカ、アルゴだ。なんというか、クラインとほとんど絡んでないのにいつものというのは抵抗があるけど、弄るととても面白いのでおk。そんな中でユイちゃんが居ないことに気がつき、キリトとアスナに話を聞いたが、お茶を濁された。ゲームオーバーてはないらしいけど、事情が複雑らしい。まあ、とりあえず無事ならそれでいい。生きてりゃどうにでもなるし。
そして、決起集会という名のパーティーが始まろうとしていた。場の雰囲気からして、クラインが乾杯の音頭をとるらしい。
「そんじゃ、かんぱー」
「あ、ちょっと待って」
後少しで言い終わりそうなところでリズがクラインの声を遮った。
「おい、俺がせっかく盛り上げようと」
「いや、別に需要ないから」
「サラッと酷くねぇか!?」
リズにノックアウトされたクラインがうなだれる。クラインを弄って煽るいい機会だけど、今はそれよりも、リズが中断させた理由が気になる。
「リズ、どうしたの?もう何もないと思うんだけど」
「何って、全員揃ってないじゃない」
「いや、これ以上人いたか?」
「ゲストを呼んでるのよ、特別にね」
話によると、まだ参加するプレイヤーがいるみたいだ。しかし、アスナが知らない様子を見ると、リズが独断でやったみたいだ。その証拠に、皆頭の上に「?」と文字が浮かんでいるみたいに謎な顔してた。…………なんというか、嫌な予感しかしない。
「というかリズ、呼んだのって誰だよ」
「それは、来てからのお・た・の・し・み♪」
そう言って、ニヤニヤしているリズ。このぼったくり鍛治職人がここまで意味深な笑みを浮かべているというのならば、そのゲストはとんでもない…………。
いや、待て。
リズが呼んだゲストで、俺が聞いたらニヤニヤしながら答えて、尚且つ今ここにいない人。となると、俺の頭に浮かぶのはたった一人。
\(^o^)/
結論から言おう。オワタ。
「それじゃあ、どうぞー!!」
司会もひれ伏すテンションでリズが入り口を指す。すると、ドアが勢いよく…………破壊された。
「Fooooooooooooooooooooooooooooo!!
ウィーッス、元気にしてたかクソガキ共ォ!!」
「いや予想はしてたけど何やってんだよナタリアさん!?」
「おいおい、誰なんだこの綺麗な姉ちゃんは?」
「確か、ホロウさんが言ってた……」
「あたしはナタリア!ソラのお母さんだ夜露死苦ぅ!!」
「嘘つかないでくださいお義母さん」
うん、予想していた通りのナタリアさん。ここまでくると、もう安心するという謎の現象が発生してもおかしくはない。
「というかリズ、何故呼んだし」
「いいじゃない、あたしもお世話になったし。それに皆にも会って欲しかったしさ」
「だとしても、事前に連絡とかしとけよ」
「それじゃあサプライズにならないじゃない」
リズの言いたいことは分かる。皆や俺をビックリさせたかったんだろうな。実際皆ビックリして昇天しそうになってるし、よかったねリズベット。
「それじゃあナタリアさん、改めて自己紹介お願いします!」
「えっと、ナタリアです。鍛治屋やってます。よろしくお願いします」
「そのテンションの差は何なんだよ!?」
思わず突っ込んでしまったが、ナタリアさんは真剣な目をしていた。強く真っ直ぐなその目に、俺たちは何も言うことができなかった。
そして、言葉を続けるナタリアさんの表情は、どこか悲しげな雰囲気を纏っていた。
「…………皆さん、いつもホロウによくしてくれてありがとうございます。本当の親でもないあたしが何かを言う資格なんてないかもしれませんが…………、ソラのことを、よろしくお願いします」
そしてナタリアさんは、深々と頭を下げた。それを、皆は驚いた表情で見つめている。それもそうだろう、さっきまでやりたい放題やってた人が、こうやって自分たちの前で頭を下げ、懇願しているのだから。そして、誰より驚いているのは、他でもない俺なのだ。
今のナタリアさんが、本当の母親に見えてしまったのだ。必死に頭を下げ、見ず知らずの人間にここまでしているのは、誰のためだろうか。そんなの簡単だ。自分の子供のためだ。もちろん、俺はこの人の子供ではない。しかし、彼女は俺を本当の子供同然に接して、何よりも大切にしてくれてる。今までも、今もそうしてくれている。十分に理解していたつもりだったけど、改めて母の偉大さを思い知らされた気がする。この人には、適わないだろうなぁ。本当に、感謝してもしきれない。
でも。
「ドアぶっ壊したのは許さねーからな!?」
「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
不法侵入、器物損害と、好き勝手してくれたことを許すわけにはいかない。なのでとりあえず関節技をキメることにした。ちなみに、今やっているのは……えっと…………コブラツイスト?っぽいやつ。
「ちょっ、マジでストップ!!」
「スピーチは素晴らしかったですよ。思わずウルッときちゃいました」
「感謝してる人に普通コブラツイストキメるか!?」
「愛故に、ってやつですよ」
「絶対に違うよね!?」
うん、感謝してるのは本当なんだけど、とりあえずこの人がこれ以上暴走するのは防がなければいけない。なので申し訳ないが、ここで反省してもらわなければならない。
皆はというと、シリアスとボケが入り混じったカオスの中に捕らわれていた。先程までは真面目に話を聞いていたけど、今はナタリアさんが関節技キメられてる姿を見て爆笑している。
「いいお袋さんじゃねえか、ホロウ」
「つくづく、それは思うよ」
「ギ……ブ………………」
エギルと会話しながらコブラツイストキメてたら、ナタリアさんがとうとうギブアップ。技を解くと、ただの屍のようになっていた。
「とりあえず、いい人…………だよね」
「そうよアスナ、ナタリアさんは本当にいい人よ?それはあたしが保証するわ」
「鍛治屋のナタリア…………か。これは逸材を見落としていたかもナ…………」
「すごく綺麗な人ですね…………」
「お、俺、クラインって言います!24歳独身で」
皆、ナタリアさんにはいい印象を持ってくれたみたいだ。若干テンションの高さには引いているようだが、リズのフォローもあり、とりあえず何とかなりそうだ。あとクライン、いくらなんでも年が15も離れてる人にそれはないと思うぞ?
「全員揃ったようだし、そろそろ乾杯しようか」
キリトがそう言うと、皆手元にある飲み物を手にする。ナタリアさんにも飲み物が渡された。この流れだと、キリトが乾杯の温度をとるみたいだ。
「ねえ、ホロウ」
「ん?」
呼ばれたのでその方向に振り返ると、リズがこちらを覗いてきた。
「ナタリアさん呼んだこと、怒ってないよね?」
「怒ってねえよ、むしろファインプレーだよくやった。サンキューな、リズ」
「どういたしまして、
そうして、軽めのハイタッチをする。何も言ってないのに通じたのは、今まで過ごした時間がなせることというやつか。普段は口喧嘩しかしないのに可笑しな話だ。リズもそう思ったのか、こちらを見て笑っている。俺も笑い返してみる。仮面の裏の表情も、なんとなく分かってくれているような気がした。
ナタリアさんも、リズも、そして皆も、俺をはじめとする優しく支えてくれている。それを、今強く感じている。だからこそ、この瞬間の、皆の笑顔を守りたいって思った。そのためにも、次のボスも、ヒースクリフも絶対倒す。心の中で、そう誓った。
「それじゃあ改めて、75層のボス攻略の成功を祈って─────」
「「「「かんぱーい!!」」」」
硝子のコップが重なると共に、皆の笑顔が弾けた。
「パーティーは無事終わって、片付けも済んだ。なのに…………」
「オラオラ、もっと飲めよ!男のくせに二人ともその程度か!?」
「ナタリアさん、流石の俺ももうギブっす…………」
「悪いなクライン、許せ」
「おい、逃げるなエギルてめぇこの野郎!!」
「何だぁ?あたしの酒が飲めないってんのかぁ!?」
「違う、違いますから!ちょ、マジでやめ…………」
「……………早く帰ってくれ」
この光景は、翌日の昼まで続いた。