ソードアートオンライン《仮面の行商人》   作:Gissele

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32 犠牲の先の、その先へ

「朝……だな」

 

 賑やかで、楽しくて、ナタリアさんに家を破壊されそうになった決起集会から数日が経ち、とうとう75層のボス攻略当日を迎えた。そんな大事な日だというのに、朝の日差しや鳥のさえずりが重い空気を台無しにしてくれる。目覚めとしてはこれ以上ないほど上出来なのだ。

 

「ほら、さっさと起きなさいよ」

 

 ピンクの悪魔ことリズベットに無理やり起こされたことを除けば。

 

「どうしてお前が家にいるんだよ」

 

「用事があって来たのに、あんたが寝てるのが悪い」

 

 リズは呆れた様子で布団を奪い去る。布団を奪われ、朝の少し冷たい風を全身に感じてしまう。直前まで布団の温もりを感じていただけに、これはかなりの脅威だ。

 

「おふとん……君のことは忘れない…………」

 

「変なことブツブツ言ってないで、さっさと準備しなさいよ。遅刻しちゃうわよ?」

 

 俺のふざけた態度にもう慣れてしまったのか、リズはそっけない返事をして窓を閉める。強く閉めたせいで大きな音がした。そして俺もその音に反応したように起き上がる。まあ、でかい音にビビって起き上がっただけなんだけど。

 

「というか、用事って何なんだよ」

 

「あ、えっとね…………」

 

 リズは何かを思い出したのか、メニューウインドウを開いて何かを探し始めた。

 

「用があるなら初めから用意しとけばいいだろ」

 

「ちょっと黙ってて、今探して…………あった!」

 

 目的のものを見つけたようで、アイテムのリストから一つのアイテムをオブジェクト化した。するとリズが俺の右手を掴み、無理やりそのアイテムを握らせてきた。手を開いて確認すると、そこには透明な結晶を用いたペンダントがあった。

 

「はい、これ。必勝祈願のお守り。あたしとナタリアさんの合作だから効果は保証するわよ?」

 

「ちなみに、そのご利益というのは…………」

 

「ヘイト超絶アップ」

 

「シバくぞこの野郎」

 

「冗談よ、そのくらい知ってるでしょ?本当の効果は『装備の耐久値を肩代わりする』ってとこね」

 

 どうやら、このペンダントを持っていると、武器や防具の耐久値が減らず、代わりにこのペンダントにその負担が来る。という能力らしい。確かに、戦闘中に武器の耐久値が0になって死ぬというのはあり得る話だし、短剣の場合は攻撃回数が多いので消耗も激しい。そう考えると、想像以上の神アイテムなのかもしれない。

 

「まあ、サンキューなリズ。というか、どうしてこれを?」

 

 今までなら、こんなことはしてこなかったはずだ。いや、俺がボス攻略にあまり参加しないってのもあるけど、こういう時に何かを渡されるだなんて今までなかった。ナタリアさんとの合作らしいけど、どういう風の吹き回しなのかが気になってしょうがなかった。

 

「べ、別に何かあるわけじゃないわよ?ただの安全祈願というかなんというか…………」

 

「なるほど理解。というか、他の奴らには?」

 

「いや、あんた以外には渡してないわ」

 

「マジ?もしかして俺のこと」

 

「あんたが一番死にそうだからに決まってるでしょ?」

 

「えぇ…………」

 

 いつも通りのオーバーリアクションを決めつつ、手元にある懐中時計で時間を確認する。時計の短い針は9の手前、長い針は10の位置で停止していたことから、現在の時刻は8時50分だということは容易に推測できる。時間も確認したところだし、これから朝食の準備を…………

 

「…………って、あれ?」

 

 今回のボス攻略は、75層のゲート広場からアイテムを使用し、そこからボス部屋の手前まで直接移動するという予定だ。そしてゲート広場に集合するわけだが、その時間は9時ジャスト。そして現在時刻は8時50分。残り時間は10分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やべぇ、完全に寝坊した。

 

「大事な日に寝坊だなんて、気が抜けてるんじゃないの?」

 

「知ってるなら起こせよ!!」

 

「起こしたじゃない、ギリギリの時間に」

 

 今回は俺が寝過ごしてしまったために、リズに返す言葉も見つからない。というか見つけようとする暇すら無いんだが。朝からこの調子でボス攻略なんて大丈夫かと、今から不安になってきた。

 とにかく、急がないと。右手に転移結晶を準備し、即座に移動できるようにしておく。そして装備を整え、未だにベッドの上で爆睡しているシーナの首根っこを掴み、マントの中に突っ込んでおく。放っておけばいずれ起きるだろうし、起こす時間も惜しい。というか、シーナの寝顔を見てるとなんだかイライラしてきた。今度エサに激辛素材を混ぜておこう。

 何はともあれ、速攻で準備を終えられた。時間を見たときは死を覚悟していたけど、どうにかなるものなんだと少し感心した。

 

「ほら、準備ができたなら早く行きなさいよ」

 

「はいはい、わーったよ。『行ってきます』」

 

「相変わらず口だけは達者ね。『行ってらっしゃい』」

 

 リズが後ろから声を掛けてくれる。『行ってらっしゃい』の一言で、待っててくれる人がいる安心感というか、戦うための活力というか、そういう何かを感じる。おかげで、今日を生き残る決意を固めることができた。

 

 そろそろ行こう。右手に持った転移結晶に、静かに、それでいてはっきりとした声で告げる。

 

 

 

 

「転移…………《コリニア》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論からいうと、ギリギリ間に合った。

 

 転移したのはいいものの、広場への道をど忘れしてしまったので軽いパニック状態に陥ってしまった。それでも素早さには自信があるので、見つけた後は早かった。屋根の上を走り、最短ルートで集合場所へと到着。その時の時間は8時59分47秒。自分でもよく間に合ったと思う。

 しかし、着いた瞬間に盛大にコケたせいで広場にいた全員に笑われた。しかも遅刻未遂をヒースクリフに叱られ、クラインにおちょくられ、アスナに呆れられ、キリトとエギルに笑われた。明日の朝刊には、俺のコケた写真が一面に載っていることだろう。今から気が重くて辛い。ちなみに、今挙げた面子とその他プレイヤーが今回の参加者だ。シリカ、リズ、アルゴ、ナタリアさんは留守番なう。

 

 そんなこんなで、俺たちはボス部屋の手前に到着した。ちなみに、広場からここまでは《回廊結晶》というアイテムを使用した。回廊結晶とは、指定した場所に直接行けるという結構お高いアイテムで、光の渦っぽいやつに突っ込むとあら不思議、目的地に到着しちゃうという便利なアイテムだ。ちなみに、普段の行商での売れ筋でもある。色々な意味でお世話になってます。

 

 辿り着いた迷宮区、黒曜石のような透き通った素材で積み上げられている。そして目の前には太い柱が連なり、その先に扉がある。そこが、ボス部屋の入り口だろう。殺気というか、嫌な空気を感じる。プレイヤーの間からも、妙な緊張感を感じられた。今回の攻略は、一筋縄ではいかなさそうだ。

 

「では、行こうか」

 

 ヒースクリフはそう言うと、扉に手をかける。ゆっくりと扉が開き、それに合わせてプレイヤーは一斉に武器を構える。各々が役割を全うすべく、扉の中へと歩を進める。そして全員が入り終えたその時、扉は固く閉ざされた。次に開くのは、この戦いが終わった時だろう。さて、その時どちらが生き残っているだろあか。それは、誰にも分からない。

 

 扉の中は、ドームのようになっていた。広さはヒースクリフとデュエルした闘技場ほどあり、広さは相当なものだ。そうなると、ボスも巨大だと予想される。もしそうだとしたら、容易に見つけられるはずだ。しかし、辺りを見渡しても見つからない。一体どこに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「上よ!!」

 

 突然、アスナの声が辺りに響いた。その言葉が耳に入り、意味の理解を終える前に、俺は上を見上げた。そして、視認することができた。今回の相手となるクソ野郎が。

 

 

 

 

 

 

一言で言うと、「ほねむかでかまきり」。

 

…………ごめん、自分でも何言ってるか分からなくなった。でも、こう例えるのが一番分かりやすいと思う。

 

 頭部は歪な形をした頭蓋骨で、四つの赤い目が赤く光っている。胴体には百足のような脚があり、もう100以上あるんじゃないかと疑ってしまうほどの数だ。その無数の脚で、天井を這い回っているようだ。そして両腕?の部分には巨大な鎌がついていた。鎌だけでも人の身長を超えていて、しかも全長はもう見ただけでは分からないほどに巨大だ。さすがは75層のボスだと、敵ながら感心してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ほねむかでかまきり改め《ザ・スカル・リーパー》が、脚を大きく広げ、パーティーの真上に落下してきた。

 

「固まるな、距離を取れ!!」

 

 ヒースクリフの叫び声に、度肝を抜かれていたプレイヤー達が動き出す。蜘蛛の子のように散開し、落下予測地点から脱出した。結構ギリギリだが、まあほぼ全員が回避できた。

 しかし、全員ではない。真下にいた三人のプレイヤーが逃げ遅れたのだ。どの方向へ回避しようかと迷うように真上を見上げている。スカルリーパーの眼球から呪縛が発せられているのでは、と疑うほど、彼らは動けなかった。

 ついでに、俺も逃げ遅れた。別に戸惑ってたとかそんなんじゃなくて、ただアイテムウィンドウを操作してたら逃げ遅れただけっていうね。朝から散々でもはや笑えない。というか今死にそうだし。

 

「こっちだ!!」 

 

 キリトの叫び声に、呪縛の解けた三人が走り出す。しかし、このままでは間に合わない。奴のデカさやリーチ、機動力を考えると、あの鎌で刈り取られてしまうのは分かり切っていた。だから、やるべきことも分かってたんだけどね。

 ウィンドウを操作してオブジェクト化した槍を手に、今にも落下してきそうなスカルリーパーを見上げ、体を大きく仰け反らせる。狙いは、上だ。

 

「くたばれ上田ァァァァァァァァ!!!」

 

 仰け反った体を戻す勢いを利用し、クソ百足に向かって槍を投げる。バネのように体を使うことで、真上にも高威力の一撃を放つことができた。この一撃を食らわせれば、それなりに隙は生まれるだろう。そうすることであいつらを逃がし、俺も安心して避けられる。ある意味最善策なのだ。そうやって回避するのを忘れたことを誤魔化してしまおう。

 とにかく、これで大丈夫だ。エフェクトを纏った槍がスカルリーパーへと吸い込まれるのを見て、作戦の成功を確信した。

 

 

 

 

 

 

 しかし、槍による渾身の一撃を、奴はいとも簡単に弾いた。

 

「マジかよっ!?」

 

 今までのボスには通用していたやり方が、全く効かないことを確信した瞬間、俺は全速力で走り出した。俺がいるのは、スカルリーパーのちょうど真下。動かなければ押しつぶされるし、動いたとしても急がなければあの鎌の餌食だ。あの巨大な鎌から放たれる攻撃を想像するだけで背筋が凍りそうになる。とにかく、今は急いで離れなければ。

 

「急げ、来るぞ!!」

 

「ホロウ君、早く!!」

 

 キリトやアスナの呼ぶ方へと逃げる。目の前には先に逃げていた三人がいた。どうやら追い越すくらいのスピードが出ていたようだ。何とかいけるのではないかと少し思ってしまう。

 しかし、スカルリーパーはすぐそこまで迫っていた。そして鎌のついた右腕を大きく振りかぶる。おそらく、次の瞬間には奴の鎌が横薙ぎに振り払われることだろう。この距離では、俺と三人のプレイヤーを刈り取ることは容易だろう。いくら走っても、もう間に合わない。

 

「くそっ…………………!」

 

 何を血迷ったのか、俺は垂直に飛び上がった。一旦沈み、そこから垂直に大きく跳躍した。高さで言えば約5メートルくらいだろうか。AGIに特化している俺はそこまで重くはないので、とっさの行動でもここまでの跳躍ができたのだろう。しかし、何かを考えて跳んだわけではなく、ほぼ反射的な行動だったので、「やっちまった」とかなり後悔した。

 しかし、その行動が功を奏した。飛び上がった俺のすぐ下を、薙ぎ払われた鎌が通過したのだ。体のすぐ近くを通り過ぎる恐怖を感じながらも、何とか生きている現状にとりあえず安堵した。その安堵も、目の前の光景に打ちのめされてしまった。

 

 

 

 逃げ遅れたプレイヤーが、鎌の攻撃を食らっていた。その一撃は三人の体力をいとも簡単に削り取り、殺される光景を、目の当たりにした。

 

「……………………マジかよ」

 

 今回の攻略に参加しているプレイヤーは全員高レベルのプレイヤーだ。レベルが高い分、HPなどのステータスも比例して高いはず。だから、2、3発程度なら耐えられると踏んでいたけど、予想を完全に裏切られた。これはヤバい。

 そんなことを考えていたら、受け身をとることを忘れてしまっていた。垂直に跳んだだけだったので、そのまま落下することができたけど、後ろに回避していたらアウトだった。コケている間に殺されることだって有り得るのだから。何とか着地し、後方宙返りの要領で骨百足と距離を取る。生きていたことへの安堵から、体の中の空気が全て出てしまう位の溜め息をついた。

 

「あの状況から避けるとは、さすがだな」

 

 どうやら、ヒースクリフの隣に着地したようだ。彼は軽く笑みを浮かべて声を掛けてくる。

 

「あんなのがいるなら最初に言えよクソ野郎」

 

「ネタバレしてしまっては、ゲームは面白くないだろう?」

 

「やっぱお前頭おかしいわ」

 

「ホロウ君こそ。さて、君ならこの状況をどうするかな?」

 

 そう言い残して、ヒースクリフは骨百足と対峙する。奴は素早い動きでヒースクリフに迫り、鎌を振り下ろした。しかし、さすがは神聖剣。巨大な盾で簡単に防いだ。システムなのか奴の力なのかは分からないが、とんでもない奴だ。

 キリトとアスナは、二人で受けることで何とかしていた。しかし、それでも紙一重で、一歩間違えればさっきのように切り裂かれてしまうだろう。本当にギリギリなのだろう。

 

「この状況をどうにかって……………」

 

 ヒースクリフも無茶なことを言ってくれる。自分で設定しといてこれとか、本当に腹が立つ。しかし、今は目の前のクソ百足にもムカついてるんだ。今はこちらを何とかしよう。

 

 

 方法を、消去法で考えてみよう。

 

 まず、俺では鎌の攻撃は受けきれない。俺の得物が短刀であることもあるが、一番は奴の怪力だ。キリトとアスナが二人がかりでギリギリの化け物を、筋力値の足りない俺が受け止めるのは不可能。よってこの案は却下。

 次に、ダメージディーラーとしての参加。キリトとアスナ、それとヒースクリフに攻撃を受けさせ、俺や残りのプレイヤーでHPを削り取るという作戦だ。一見効率的に思えるが、思いのほか穴だらけだ。今でさえギリギリなのに、これ以上キリト達に負担を強いるわけにはいかないし、何よりあの二人が最強のダメージディーラーなのだ。なので、この案も却下。

 ぶっちゃけ、これ無理ゲーじゃね?と思うが、そうも言ってられないのでおとなしく打開策を探し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああでもない、こうでもないと考えること数十秒。俺は一つの結論に辿り着いた。これがうまくいけば、犠牲を最小限に抑えられるだろう。しかし、その分全てのリスクは俺に集中する。下手したら死ぬ。それほどに危険な賭けだ。

 

「それをやろうとするあたり、俺は壊れてるみたいだな」

 

 自嘲するように笑い、アイテムウィンドウから一つのアイテムを取り出す。左手にそれを握りしめ、ゆらりと歩き出す。目の前にはキリトがいる。ちょうどいい、彼に作戦を伝えておこう。

 

「ホロウ?」

 

「あいつの攻撃は俺がどうにかするから、その間に全員で攻撃頼むわ」

 

「ちょ、おい!!」

 

 キリトの制止を無視して、比較的人の密集していない空間へと走り出す。そして左手に持っていたアイテム────真っ赤な果実のようなそれを、噛み砕いた。

 

 

 

 

 すると、先程まで認識されていなかったはずの俺を見るように、スカルリーパーがこちらを向く。そして何かに取り憑かれたように、こちらへと全速力で突進してきた。あまりに不自然な挙動に他のプレイヤーは困惑しているようだが、これこそが俺の狙いだったのだ。

 

 先程俺が噛み砕いたのは、《ハインの実》というアイテムだ。このアイテムの効果は至極単純で、「使用したプレイヤーのヘイトを大幅に上昇させる」という効果だ。普通はこんなの使っても敵を寄せ付けるだけなので外れアイテムなのだが、今回のこの場面に限っては大当たりの良アイテムになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり、俺の作戦はこうだ。

 まず、ヘイトを集めてこちらへ攻撃を集中させる。そしてその攻撃を俺がどうにかして、その間に全員でクソ百足を攻撃するという作戦だ。簡単に言えばおとり作戦のようなものだ。作戦自体はそこまで難しくはない。

 

 しかし、その過程が死ぬほど面倒なのだ。だって考えてもみろよ。敵の攻撃を受け止められない俺は、その攻撃を避けることしかできない。しかも相手は攻略組を即死させるほどの化け物だ。一撃食らったらゲームオーバーとか、鬼畜すぎる。我ながら、頭がおかしいと思う。

 更に、味方が攻撃する度に、俺のヘイトが減少してしまう。そうなれば、周囲のプレイヤーに攻撃がいき、壊滅的な被害をもたらすだろう。そうならないように、一定以上の攻撃を常に入れ続けなければならない。当たれば即死の鎌を避けつつ、更にヘイトを稼ぐために常に攻撃しなければならない。無理ゲーを越してこんなのただのクソゲーじゃねえか。しかもそれを進んでやるとか、もうどうかしちまったみたいだ。いや、それは元からか。

 

「さーて、そんな訳だから………………」

 

 百足は一直線にこちらへと走ってくる。タゲを取ることには成功したし、作戦はキリトを通じて全てのプレイヤーに伝達されただろう。となると、後は自分の役割を全うするだけだ。愛用のナイフを右手に、相棒の黒猫を頭の上に用意して準備を整える。これで準備は完了した。あとは、こっちに目掛けて突っ込んでくる化け物と命を懸けたダンスを踊るだけだ。

 

「無様に踊ってろガイコツ野郎!骨の髄まで蹂躙してやるぜ!!」

 

 一人と一体は、死の舞踏会へと身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは、一時間にも及んだ。

 永遠に続くのではないかと錯覚するほどの戦いだった。そしてその果てに、俺たちは勝利を勝ち取った。

 

 訂正、俺たちは勝ててなんかなかった。

 作戦は十分機能し、奴の攻撃を引きつけること自体は成功した。おかげで他の奴らが攻撃に専念し、比較的短時間でクリアできたと思う。散り散りになって攻撃してたんじゃ、もっと時間がかかっていただろう。そういう意味では勝利だ。

 しかし、今回のボス戦での被害は深刻だった。マップを開き、現在の人数と出発時の人数を比較し、犠牲者の数を弾き出す。そこから得られた答えは、14人の死亡。相手が相手だったとはいえ、攻略組の高レベルのプレイヤーが14人も死ぬだなんて普通あり得ない。いや、あってはならない。

 

 それも、全てスカルリーパーのぶっ壊れ性能にあった。

 前のグリームアイズのような発狂タイムは無く、変わった行動パターンは見られなかったが、とにかく基本性能が高すぎる。一向に減らないHP、一撃でプレイヤーを葬る火力、こちらの攻撃を通さない防御、高速で立体的な移動を可能にする機動力。そのどれをとっても今までの中では最強の敵だった。今までの敵が、ただの茶番だと感じてしまうほどに。

 俺も、かなり苦しめられた。いくら敏捷度が高く、回避に特化している俺でも、あの攻撃範囲と攻撃速度を相手にするのは厳しいようで、何度も死にかけた。一撃食らったらゲームオーバーという無理ゲー、しかも仲間が比較的少ない場所を選び続け、しかも他の奴らに攻撃をさせないためにヘイトを稼ぎ続けるという、まさに地獄。武器の消耗はリズから貰ったペンダントのおかげで何とかなったし、シーナも助けてくれたおかげである程度は消耗を軽減できたけど、それでも一人で抱え込むのは無理だった。結果、タゲを俺から外された場面もしばしばあり、犠牲者も増えた。ここに関してはしょうがないと割り切るしかないけど、自分でも後悔が無いわけではなかった。

 

 辺りには、消耗しきったプレイヤー達が、膝をつくなり仰向けになるなりして、動けなくなるほどに疲れ切っていた。当たり前だ、死のリスクと隣り合わせで長時間戦ってたんだ。いくら攻略組だからって、普通こうなる。こうならなければおかしい。

 俺自身、未だに呼吸が整えられない。あの死と隣り合わせの緊張感へと対応するべく興奮状態にあった体は、無理矢理意識を高揚させる。それが余計体に負担を与える。こんなの、どうしろというのだ。

 

 

 

 

「……………………」

 

 そんな中、ヒースクリフだけは平然と立っていた。まるで何事もなかったように、さも当たり前のように、その場に立っていた。皆を見つめているのか、見下しているのか分からない表情で、立っていた。でもまあ、当然か。何せ奴は、この世界の神と言ってもいい存在なのだから。

 

「………………………どう、する?」

 

 俺の中では、一つの案が頭に浮かんだ。それが頭の中で「この選択は絶対に正しい!今すぐやるんだ!!」と主張する。しかし、「冷静に考えろ、リスクを犯してあいつらを危険に晒すつもりか!?」ともう一方の主張が頭に張り付く。両者がぶつかり合い、削り合い、怒号を上げる。その衝撃に耐えながら、俺はその一つ一つを整理し、冷静に判断する。そして残った答えは、たった一つ。

 

「………………やるしかねぇか」

 

 結局、ここが限界だったのだ。残り25層もあるのに、いちいちこれほどの犠牲を出すだなんて不可能だ。システム的にも、ここが限界だったのだろう。というか、この先を想像なんてしたくもない。

 それに、現実世界の俺たちも心配だ。以前アスナが、現実世界での俺たちの話をしていた。今はこうして何ともないが、いずれ肉体には限界が来る。それが何時なのか、今どうなっているかなんて、今の俺たちに知る術はない。何時来るのか分からないタイムリミットに脅えながらこの先も戦うとなると、他のプレイヤーはどうなるだろうか。もう、攻略どころの話ではなくなってしまう。

 だから、もう限界なのだ。

 

 

 

 

 結局、こうなってしまったか。いや、必然だったのだろう。そのために奴は、俺に正体を明かし、ここまで導いてきたのだ。きっとそうに違いない。そうでなくとも、今目の前にあるチャンスを掴まなければ、きっと二度と現れない。そんな脅迫観念が、俺を愚かな選択へと導いた。でも、それでいい。きっとそれが、最善策なんだ。

 

 

 

「だから、踏み出せ。ここで、終わらせろ」

 

 

 

 今にも力が抜けそうな足に力を込め、一気に蹴り出す。最高速度まで一気に加速し、右手のナイフを構える。狙うのはただ一点、この世界の創造者の首だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね、ヒースクリフ」

 

 ()()の刃が、創造者へと突きつけられる。

 

 

 

 終わりが、始まる。

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