ここ数週間は、本当に忙しかったです。それと私の力の無さが相まって、このざまになってしまいました。本当に申し訳ありません。
それでは本編です、どうぞ。
二つの刃がヒースクリフに吸い込まれる直前、奴を守る障壁がそれを拒んだ。障壁からは紫色のエフェクトが炸裂し、こちらの腕が吹き飛ばされるのではないかと疑うほどの衝撃が、俺たちを襲った。その衝撃に耐えながら、ヒースクリフの方へと視線を向ける。そこには、紫色の文字でわ【Immortal Object】の文字が。不死存在。システム的に守られた、破壊不能の存在。そんなの、普通のプレイヤーにはあり得ない。だが、この世界の神である茅場晶彦なら、それが可能。そのことが、この場にいる全員に露見した。いくら何でも、隠し切れない。
それだけでも、ここで奇襲をかけた報酬としては十分なものだった。最強の騎士は、忌み嫌われるべき宿敵に成り下がったのだ。最上階のボスとして君臨する奴はずの予定を完全に狂わされ、さぞ悔しいだろう。そう考えるだけでも、この行動には意味があったといえる。まあ、とりあえずは成功ということにしておこう。
しかし、誤算もあった。ヒースクリフに刃を突き付けたのは俺。つまり、突き付けられるのは俺の短剣だけ。一つだけのはずである。なのに、突き付けられた剣は二つ。もちろん俺が二つ、というわけではない。では、誰が?それは、俺が予想していた通りの人物。
「ホロウ、どうして…………!?」
「やっぱりお前か、キリト」
そう、ヒースクリフに攻撃したもう一人のプレイヤーは、キリトだ。キリトも俺と同じように、障壁に阻まれたことによるノックバックを受けていた。その表情は、驚きを隠せていない。彼が驚いているのはヒースクリフのことだろうか。それとも、俺のことだろうか。いや、もうどちらでも変わらないか。結局、全てがここで露見してしまった事実は確定したのだから。
ノックバックを耐え、俺たちとヒースクリフは対峙する。
「驚いたな、まさか二人同時に攻撃してくるとは思わなかったよ」
「嘘つけ、お前の顔はそう言ってないからな」
「ふっ、まあいい。君たちは二人とも、同じ結論に辿り着いたようだしね」
その言葉に、キリトがこちらを振り向いてきた。その目にあるものは驚きではなく、言ってしまえば「お前、ヒースクリフと何話しとんじゃワレェ」みたいな感じだろう。疑心暗鬼とも言える。というかそっちの方が適切だよな。
「同じ結論って、まさか…………!」
「正解だ、キリト。ヒースクリフの正体は茅場晶彦で、このゲームのラスボスだ」
俺が真実を告げると、周囲のプレイヤーは驚愕した。血盟騎士団の団長であり、最強のプレイヤーであるヒースクリフが、俺たちをこのデスゲームに閉じ込めた張本人だという事実を、簡単には受け入れることができないらしい。大きく目を見開いて、絶望に染まった顔でヒースクリフを見る。どこか、「どうか嘘であってほしい」と願ってるようにも見える。だが、そんな望みを茅場は打ち砕いた。
「おめでとう、キリト君。君の予想通り、私が茅場晶彦だ。このゲームの最後に待ち受ける、俗に言うラスボスだ」
その一言は、プレイヤーの気力を削ぎ落とすには十分だった。見てみろよ、皆分かりやすいくらい目が死んでる。いや、見た限りでは分からないけど、そういう雰囲気が気持ち悪いほど伝わってくるので、結局はそうなのだろう。
「なぜ、君は私の正体に気がついたのかな?参考までに教えてもらえるかな……?」
ヒースクリフに促され、キリトは茅場に辿り着くまでの過程を説明する。
結論から言うと、キリトが疑いを持つきっかけとなったのは、ヒースクリフとのデュエルだ。あの時、キリトの攻撃が抜けると俺もキリトも確信していた。だが、ヒースクリフはシステムのオーバーアシストを使用し、一瞬で盾を引き戻し、攻撃を防いだ。結果キリトは負けになったが、それが奴にとって致命的な綻びになったようだ。結局のところあいつも人間だし、ボロくらい出て当然だろう。まあ、それも体験した人間にしか理解できないので、気がついていたのは俺とキリトだけなんたけどね。
そして、キリトはもう一つ疑問に思っていたことがあった。この世界の管理者は、一体どこからプレイヤーを傍観し、世界を調整しているのだろうか、と。彼がそう疑問に思い、そして考えて考えて考えた結果、一つの真理を思い出した。それは、どんな子供でも知っている真理。
《他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない》ということ。
その真理が彼を真実へと導き、挙げ句の果てにはこのような奇行に至らせたというわけだ。それが正解だから良かったものの、もし外れてたら大惨事だぞ。でもまあ、キリトのそういう所も結構好きだったりする。繰り返し行っておくが、俺はホモじゃ(ry
「なるほど、そういうことか」
キリトの説明を聞くと、ヒースクリフはわざとらしく口角を吊り上げ笑っていた。キリトに正体を看破されたことの驚きというよりは、寧ろ「よくもまぁ、馬鹿みたいに私を信じてついて来たものだ」という嘲笑に近い笑み。侮辱の色の強いそれは、いとも簡単にプレイヤーの怒りを煽っていく。
「この事実は95層に到達するまで明かさないつもりだったのだが、それを看破したのが君だというのなら…………。まあ、ある程度は思惑通りというわけだ」
「…………どういうことだ、ヒースクリフ」
「全十種類あるユニークスキルのうち、《二刀流》は全プレイヤーの中で最も反射速度を持つプレイヤーに与えられるものだ。そして、その二刀流こそが、魔王を倒す勇者の役割を持つ。そう思っていたのだが、まさか本当にその通りになるとはね」
そう話すヒースクリフは、心底この状況を楽しんでいるようだ。それこそ、初めて買ってもらったゲームを起動する少年のような、無邪気とも思える笑顔。そんな笑顔が、ますますプレイヤーの思考を妨げる。
「相変わらず、天才なのか馬鹿なのかはっきりしないなお前は」
「そう言ってくれるなホロウ君。ここまで大掛かりなゲームを作った本人がゲーム好きじゃないわけがないだろう?」
「…………理解できてしまう自分が気持ち悪い」
「ホロウ君には私が先に解答を教えてしまったけど、二人ともよくここまで辿り着いた。本当に、
あくまでも笑みを浮かべ、ヒースクリフはそう言った。一見、労いの言葉をかけているように聞こえるだろう。しかし、実際は大きくかけ離れている。確かに、今ヒースクリフ対峙しているキリトと俺にとっては労いの言葉なのかもしれない。では、他のプレイヤーにとってはどうだろうか。ここまで辿り着けなかったことを、おそらくこう言いたかったのだろう。
「君たちもこの程度か。ご愁傷様」と。
「よ、よくも、俺達の忠誠心を………………」
後方を見ると、一人のプレイヤー…………おそらく血盟騎士団の幹部であろう長身のプレイヤーが、巨大な斧槍を握りしめている。今まで信じてきたものが、今自分たちを嘲笑っている光景を見て、何かが壊れてしまったのだろう。きっと、あのプレイヤーはヒースクリフを殺そうとしている。普通は人殺しだなんて到底許されないが、この場のプレイヤーは誰一人止めなかった。自分でも、同じ感情を抱いているのだから。
「よくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
そして、男は走り出した。獣のような叫び声を響かせ、ヒースクリフの方向へと一直線に向かう。武器を握り締め、大きく目を見開いている様子は、復讐に取り付かれた亡霊の他の何でもない。そんな憎悪の塊が迫っているというのに、ヒースクリフは冷静に、それでいて素早く
「神の左手、とか言うんじゃねえだろうな」
「さあ、どうだろうね」
口と動かしている間も左手は止めず、絶えずウィンドウを操作し続けた。周囲では次々とプレイヤーが倒れていき、終いには俺とキリトとヒースクリフ以外のプレイヤーは全員地面に伏していた。アスナも、エギルも、クラインも、皆。そして、HPバーでグリーンの枠が点滅していた。
「これは、麻痺…………?」
そう、麻痺だ。そのせいで、行動の自由を奪われている。ヒースクリフの権限があれば、この程度は簡単にできてしまう。しかもこのまま37564にしちゃえば何もなかった的な雰囲気にできる。あー殺してえ。ちなみに37564は皆殺しって意味で(ry
「このまま、隠蔽しようというのか…………?」
「物騒なことを言わないでくれ、キリト君。そんなことをするほど、私も腐ってはいないさ」
いや、十分すぎるほどに腐ってますぜ旦那。腐ってるからこんなデスゲームにしたんだろ。呆れて言葉も出ない。
しかし、奴の言葉も一理ある。麻痺を付与されたのは俺とキリト以外だし、本当に隠蔽するならボタン一つでできるだろうよ。そうしないというのは、このゲームをクソゲーにしないためか、それとも別な理由があるのか。
「君たちには、私の正体を看破した報酬を与えなくてはならないね。さて、何が欲しいかな?」
「じゃあ死ね。でんぐり返りをしてる最中にひっそりと息を引き取れ」
「…………とんでもない死に方だね、それは。しかし、そう簡単にクリアされるのは面白くないからね」
「戦って、倒せというのか」
「その通りだキリト君。君には報酬として、私に挑む権利を与えよう。君が勝てば文字通りゲームクリア、負ければ君は死に、私は最上階で君たちの到着を待つことにしよう」
ヒースクリフの提示した報酬は、ラスボス戦の先行プレイ権。ここで倒せばゲームクリアで現実世界にバックホームという代物だ。確かに魅力的な景品だ。
「もちろん、ここでは戦わないという選択肢もある。君はどうする?」
「…………やってやる。お前を殺して、このゲームを終わらせてやる」
「そんなのダメだよ、キリト君!」
「あたしの真似しないでよホロウ君!!」
ふざけてアスナの真似をしてみたが、本人にガチギレされたのでこれ以上はやめておこう。
「ホロウ、お前ってやつは…………」
「でもまあ、いくらか肩の力抜けたろ」
「それは、まあ」
そう言うキリトの表情は、呆れつつもいつもの表情になっていた。ヒースクリフと向き合ってた時なんか、阿修羅みたいな顔してたし、そのまま戦ったところで結果は目に見えている。要するに、「気楽に行こうぜ」ってことだ。
「話は終わったかな?早いところ始めたいのだが…………」
「蝶舞ってんか!?」
「…………蝶?」
「いや、ちょっと待てってこと」
「そ、そうか。それで、何か話でもあるのかね?」
キバ○ウのせいで多少混乱はあったが(なんでや!)、とりあえず話を戻そう。
今、キリトが戦う話になっているのは、キリトがヒースクリフの正体を明かしたことに対する報酬としての話だ。キリトにはちゃんとヒースクリフを殺すチャンスを与えられたのに、俺には何もないのかよ。つか俺に殺らせろ。奴に正体を明かされてからずっとファックしたかったんだよコノヤロー。とりあえず、奴にクレームを叩きつけてやる。
「お前への挑戦権は、キリトへの報酬だったよな?」
「それで、間違いはないが?」
「いや、俺にも報酬よこせ。というか殺らせろ」
とりあえず欲望をそのままぶちまけると、ヒースクリフはわざとらしく笑って見せた。「ごっめ~ん、忘れてた!テヘペロ☆」と言われているようで、更に殺意が湧いてきた。
「そんなに、君は私を殺したいのかい?」
ヒースクリフが俺に聞いてきたから、俺は考えてることをそのまま口から吐き出した。
「当たり前だろ、ずっとお前を殺したかった。殺したくて仕方がなかったさ。
お前に正体を明かされたあの日から、目を瞑るとお前の気持ち悪い笑顔が頭に浮かぶんだよ。そのたびに気持ち悪さと吐き気に襲われて、頭の中でお前の目を抉り、指を引きちぎり、歯を砕いて、取り出した内臓でケツを叩きつけないと止まらないんだよ。どうしてくれるんだ、とりあえず責任とって死ね。
それとデュエルの時、強制的にMyosotisを解除したことは根に持ってるからな?あれがなければ今頃お前は死んでいたというのに、本当に腹が立つ。今度こそはあんなセコい真似しないよな?あの神聖剣だもんなぁ!?ラスボス名乗るなら潔く死ね。
それと、キリトにだけ挑戦権与えるってどういうことだコラ。俺だってお前を殺そうと躍起になってたというのに、待遇の差が酷すぎるだろ。それとも、自分が殺されそうな相手とは怖くて戦えないとか言うのか!?ふざけんな死ね。そんでもっかい復活したところを殺してやるよ。
結論から言うと、こっちでも現実世界でもお前をバラして殺すから覚悟しとけよ茅場晶彦」
言いたいことを少しだけ吐き出すと、ヒースクリフは何とも言えない表情を見せていた。しかし、それは先程のような嘲笑ではなく、どこか哀れんでいるような表情をしていた。
周りのプレイヤーも、同じような顔で俺を見ていた。ある者は恐怖し、ある者は嫌悪感を漂わせ、またある者は俺に対する同情の眼差しを向けてきた。そして、全員揃って言葉を失っている。おそらく、俺の異常性に触れておかしくなったのだろう。この程度は異常とも呼べないのにこんな反応されると、あまりいい気分じゃない。俺の根底にある泥は、この程度ではないのだから。
「ホロウ君、君は…………」
「そういうのいいから、さっさと報酬プリーズ。そんで俺に殺されろ」
「心配しなくても、ちゃんと報酬は用意してある。私とは戦えないがね」
「おい、それはどういうことだよ逃げるなコラ」
この期に及んで、奴は俺との戦闘を避けようとしていた。殺したくて仕方がないラスボスが目の前にいるのに、俺は指をくわえて見てろっていうのか?ふざけるな、それなら俺は何のためにここにいるんだ。
というか、どうして俺には麻痺がかけられていないんだ?ヒースクリフと戦えないというのなら、一体俺は何のために。
「心配しなくとも、ちゃんと報酬は用意してあるさ。それも、君が一番望んでいるものをね」
少し頭がこんがらがっているところに、ヒースクリフは口を開いた。話を聞く限りでは、ちゃんと報酬は用意しているらしい。そういう情報は早めに知らせてほしい。ほら、ゲームのメンテが予告なしに来たら皆ビックリするだろ?それだよそれ。
しかし、気になる点はそこではなかった。奴の言う「俺が一番望んでいるもの」というのは、一体何なのだろうか。今欲しいとなれば、奴を虐殺する権利くらいなんだけど。それでも奴が自信を持って言うので、不覚にも気になってしまった。知らなければよかったかもしれないのに。
「俺が一番望んでいるモノ…………?」
「そうだ。私は君を評価している。だからこそ、君の望むものを与えよう」
ヒースクリフは真っ直ぐ俺の目を見てきた。そのどこまでも無機質で、何かを見透かされているような目を前に、何とか視線を逸らそうと試みた。なのに、目が離せない。まるで、誰かが「目を背けるな」と、俺に語りかけているかのように。されるがままに、悪魔の囁きが耳に響く。
「キリト君の《二刀流》が魔王を倒す勇者だとするなら、君の《Myosotis》は、言わばトランプのjokerのようなものだ」
俺の目を捕らえて離さないまま、ヒースクリフが語りかけてくる。
「本来、このユニークスキルは誰にも見つからず、そのまま消えていくはずのものだった。習得の条件の『ミオソティスを持っているプレイヤーを殺し、その遺品で武器を作ること』は、普通なら有り得ない。もし狙って習得するなら、相手の許可を得て殺すしかないからだ。そんなものどうやっても無理だろう?その可能性の先を見たくて、この能力を実装したわけだが」
「そして、手にしたところで『使う度に命を削る』その能力を、このデスゲームの中で使うプレイヤーなんているはずがない。いたとしたら、それは極度の気狂いだ。まあ、その気狂いというのは君のようだったがね」
「その恐ろしい能力を愛する人を殺めることで手に入れ、自分の死を恐れず、ただ大事な人たちを守るために使う。どこまでも利己的で、どこまでも自己犠牲で、どこまでも狂気的な人間。それが君だ、ホロウ君。だからこそ、私は君を評価しているのだよ」
「そして、私はそれを見合った報酬を与えなくてはいけない。君の一番望むものを、与えようではないか」
そう言うと、ヒースクリフは左手でウインドウを開き、何かを操作する。すると、ヒースクリフの隣に光の粒子が集まり、一つの塊となっていく。
「お前、一体何を…………」
ヒースクリフは、得体の知れない笑みを浮かべて、俺に語りかける。
もし、二度と叶わないと思っていたものが叶うとしたら。
もし、失ったものを取り戻せるとしたら。
もし、幸せだったあの日々を取り戻せるとしたら。
「何だよ、これ」
光の粒子は眩い輝きを撒き散らしながら、一つの形を形成していく。時間が経つにつれてそれは鮮明に、それは細部まで丁寧に形作られていく。しかし、それ自体には何も感じなかった。
しかし、俺は知ってしまった。奴が何をしようとしているのか。奴の言う、「俺が一番望んでいるもの」とは、一体何なのかを。
「ホロウ君。もし」
────愛する人に、もう一度会えるとしたら?
「久しぶりだね。ずっと会いたかったよ」
どうしてお前がここにいるんだよ、ニーナ。
時々、こう思うのです。「ホロウは、こんなに幸せになってしまっていいのか」と。
何はともあれ、読んでくださりありがとうございました。感想苦情、低評価や誹謗中傷お待ちしております。
それでは、また。