00 prologue
ソードアート・オンライン。
10000人近くのプレイヤーを閉じ込め、多くのプレイヤーに絶望と恐怖をバラ撒いたデスゲームによって、多くの命が奪われた。GAMEOVER=現実での死という環境でのゲームクリアを課されたプレイヤー達は、多くの犠牲と2年近い時間を経て、難攻不落の浮遊城を攻略した。クリア時のプレイヤー数は6147人。本当に多くの犠牲の元、ゲームはクリアされ、生存者は忌々しい檻から解放された。
しかし、未だ300人程のプレイヤーが目覚めていない。でも、それは今すべき話ではない。しかるべき時に、しかるべき英雄によって語られるべきだ。
英雄と聞くと、二刀流の彼が思い浮かぶ。最後まで、愛する人と共に戦い抜いた彼の姿を、その場に居合わせた全てのプレイヤーが目に焼き付けていたはずだ。全ての元凶を討ち、彼らを解放した彼のことを、刻み込んだはず。
彼は実に多くの人を救った。そして、同時に自分を傷つけた。多くを失い、絶望しただろう。自分の無力を嘆いただろう。不条理な世界に憤りを感じただろう。世界の澱みが彼を飲み込もうと、必死だった。
だが、彼には仲間がいた。共に戦い、共に笑い、泣き、支え合い、絆で結ばれた仲間がいた。そして、誰よりも愛した妻……アスナがいた。彼が英雄としていられたのは、彼女や仲間たちの存在があってこそなのだろう。人望がえるというのも、彼を英雄たらしめる要因の一つだ。
そんな英雄によって、SAOは攻略された。英雄の記憶は、彼と関わった多くのプレイヤーにとって、忘れられないものになるだろう。
そして、光には影。表には裏。そういう存在は必ず存在するものです。
その愚か者は、幼き日に罪を犯しました。復讐のために人を殺したのです。許されるべきではない行為に手を汚した彼。復讐を果たしたところで、失った家族は戻ってこない。そんな彼は、何もかもどうでもよくなりました。
そして、その過ちはSAOでも繰り返されました。システムによる免罪符を得て、犯罪者を殺し続けました。そんな彼を、システムは責められません。彼の殺人衝動は、止まりませんでした。
そんな彼は、ある少女に恋をしました。彼女は、名をニーナと言いました。女の子は、人殺しである彼を肯定も否定もせず、そのまま受け入れました。あるがままの自分を見てくれる彼女に、惹かれていきます。
ニーナは、彼の家族を殺した男の娘でした。その事実を知り、彼女は困惑し、罪悪感で心を満たしていきます。しかし、彼は彼女を受け入れました。そして互いに想うようになり、愛を自覚してゆきます。
しかし、終わりは唐突でした。決定された死を目の前に、彼女は一つの選択をしました。その選択が、何を産むかも考えず。どんな悲劇を導くとも考えず。彼も、彼女のため、受け入れるしかありませんでした。
こうして、ホロウはニーナを殺しました。
その日から、涙が止まらなくなりました。
そんな彼も、仲間に恵まれました。傷ついた心は少しずつ癒えて、互いに歩み寄り、彼は救われました。しかし、彼の根底を覆すには至りませんでした。
後に、彼とニーナは再び邂逅しました。愛憎に満ちた物語の中で、彼らは殺し合いました。愛し合いました。傷つけ、傷つけられ、殺し、殺され、殺しました。愛と殺意の二重螺旋は、誰にも理解されることはないでしょう。
しかし、彼らは互いを愛していた。そして、互いを憎んでいた。矛盾を孕む感情を抱えながらも、彼らは答えを見つけ出しました。血に彩られ、殺すことでしか繋がれなかった二人は、今ようやく結ばれたのです。
こうして、彼の戦いは終わりました。しかし、誰にも理解されず、人々の記憶からも消えていくことでしょう。
英雄と殺人鬼。SAOの中で生きた二人も、現在は現実世界。今を生きる一人の人間だ。失われた2年の穴を埋めるべく、日々奔走していることだろう。これからをどう生きるか、それは彼ら次第だ。
本来なら英雄の今をピックアップすべきなのだろうが、それじゃあ味気ない。元々この物語は完成されているのだ。無駄な加筆修正はむしろ物語を蝕む毒だ。蛇の絵に足を付け足すくらいに無駄なことだ。
だから、光によって創り出された影を語ることにしよう。殺人鬼である彼が、どのような人生を描いていくのかを。
「あー、もう!何やってるんスか柊さん!!」
「うるせーな、朝からピーチクパーチクやかましい」
「今日は朝から買い出しに行く予定だって、3日前から言ってましたよね!?なのに未だに朝食すら食ってないとか頭イってるんですかそうですよね!?」
「しょーがねーだろ!2時間くらいで周回終わろうとしたのに、アホみたいにアイテム落とすんだから!!結局5時間周回して寝不足なのも仕方がないって理解できないのかバカが!!」
「あーもう分かりましたから早くしてくださいよ。安売りの卵1人1パックで数量限定なんですから、早くしてくださいねー。あと朝食は行きながら済ませましょ、どうせ車椅子なんだし」
「わかった、わかったから!無理やりトースト口にねじ込むな!!口の中の水分が全部もってかれフゴゴゴゴ…………」
これから語られるのは、ただの蛇足。本来の物語には必要のない、語る必要のない、語る意味すらないものだ。例えどのような過程を経ようとも、
「…………ヴヴヴヴヴヴ」
「マナーモードじゃないんすから……。飲み物お茶でいいっスか?」
呑気なものだ。自分の未来も知らずに、SAOの先の日常を満喫している。幸せそうで結構。今のうちに日常を謳歌するといい。しかし、忘れてはいけない。
それでは、語るとしようか。
柊空が辿る、その後の物語。絶望の前の、ちょっとした
続きます。多分。