ソードアートオンライン《仮面の行商人》   作:Gissele

50 / 52
 ペース上げるって言ったのにこのざまだよ。遅くなってごめんなさい。


04 flying

「柊さん、どこにいるんだろ……」

 

 空中から呑気に探しているように見えて、実は焦っている。それはもう、ゲームの発売日に並ぼうとしたらバスの時間を間違えていて少し遅れたせいで買い損ねるかもしれない時ぐらいには焦っている。

 

 原因は数十分前に遡る。柊さんにゲームを渡した後、簡単な説明はした。システムだったり世界観だったり、ある程度の情報を伝え、ALOで合流することを確認した。したのだけど。

 

「なんで、種族と待ち合わせ場所言い忘れちゃったのかなっ!」

 

 己のミスだというのに、他人に八つ当たりするように声を張る。いくら苛立っても飛行するスピードは変わってくれないというのに、気持ちばかりが先行してしまっている。これでは駄々をこねる子どもではないか。

 

 でも、愚痴くらいは言わせてほしい。気づいた後にはもう遅く、一度ログアウトした時には柊さんはALOの中。ナーヴギアを被っていることに驚いたりしていたら結構な時間が経っていたし、こうなってしまっては、こっちにいる柊さんを自力で探すしかない。

 

「ヒイラギさーん!どこにいるんですかー!」

 

 結局のところ、悪いのはあたしだ。ならば、自分でどうにかするしかない。ではどうする?じゃあこうしよう。思考が一貫性を持ち始め、形成から検証、解答までスムーズに行えている。焦ってはいるものの、頭はキンッキンに冷えてやがる。今はそれがありがたい。

 

 まあ、導き出された答えはしょうもないものだったけど。

 

「……結局、順番に潰していくしかないかぁ」

 

 こうして、ゴールこそあれど目的地のない旅が始まった。まずは、お隣さんであるケットシーの地域へ。

 

 

 

*

 

 

 

「すいませぇーん!ちょっといいですかぁー!?」

 

「んあ?」

 

「ニャ?」

 

 久しぶりに再会したシーナとねっとり戯れていると、突然声が聞こえてきた。それも上空から。おかしいと思い目線を上に上げると。

 

「親方、空から女の子が!」

 

「うわっ!な、なんですか?」

 

「いえ、こういう時にしか言えませんから」

 

「は、はあ」

 

 俺の言葉の通り、本当に空から女子が降りてきた。いや、正確には飛んできたと言った方が正しい。蜻蛉のように透き通った綺麗な羽が彼女の背中にあり、それがALOのパッケージの少年少女のものに似ていると何となく考えていた。

 

 そうして降りてきた一人の少女だが、キャラ編成で見た《プーカ》に酷似していた。うねるような金色の髪は夜とは合わないものの、異質な輝きを放っている。大きな碧の瞳はエメラルドを埋め込んでいるよう。青によった緑の衣装に身を包んだ少女は、まさしくこの世ならざる者。妖精と呼ぶに相応しい。とは思うけど。

 

「とりあえず、一つ質問いい?」

 

「はい、どうぞ」

 

 質問が許可されたので、ぶっちゃける。

 

「お前、恵梨?」

 

「あぁ、やっぱり!」

 

 俺の質問が、彼女にとって何かしらの答えになったようだ。それがどう彼女の中で繋がったかは容易に想像できる。

 

「ということは、あなたが柊さん?」

 

「Exactly」

 

「このクソみたいなツラは100%そうですわ」

 

「辛辣ゥ!」

 

 とまあ、目の前の異世界美少女的な彼女は椎名恵梨だったとさ。そういや集合場所とか種族とかプレイヤーネームとか何にも話してなかったし、その状態で合流できたとかかなりの奇跡では。

 

「というか、柊さんの呼び方どうすればいいですか?」

 

「ホロウ。そっちは?」

 

「了解っす!あたしはケイでお願いします!」

 

「かしこまー」

 

 恵梨……以後ケイが、俺の肩に乗っているシーナに気づいた。

 

「あ、この猫ちゃんテイムしたんですか?というか開始早々テイムできるもんなんですか?」

 

「テイムとは少し違うと思うけど……俺自身よく分かってないことが多すぎる」

 

 不可解な点が多すぎるせいで一瞬戸惑ったが、一から説明することにした。

 

「かくかくしかじか」

 

「まるまるうまうま。あーだからあたしを椎名って呼ばないんですね」

 

 とりあえず、ケイにこれまでの経緯を説明した。そんでシーナとも顔合わせを済ませた。

 

「SAOのデータとか、結構チートじゃないっすかね?」

 

「ステータスはそうだけど、スキルとか武器とかほとんど死んでるし」

 

 ケイに相談したけど、肝心な原因とかは全く分からなかった。でもアドバイスは貰えたので、その通りに操作していくことにした。GMへの報告と破損したアイテムの破棄をしたわけだけど、あの中にMyosotisが残っていると思うと辛い選択ではあった。たっぷり躊躇った後ちゃんと削除したけど、それだけで心に穴が開いたような感じがした。

 

「それに、この世界の勝手が全然分からないんだよ。空の飛び方とか魔法とか、これからどうするべきか……とか」

 

「まあ、それはそうッスよね」

 

 顎に手を当てて考える姿は、名探偵には全く見えなかった。

 

「とりあえず、飛び方からですかねー。飛びながら領土に向かえばいいし、魔法は最悪後回しでも」

 

「まあ、魔法使うくらいなら斬るし」

 

「うへぇ……これだから脳筋は」

 

 完全に呆れているようだが、こればかりは仕方がない。魔法のない世界を剣で生き抜いてきたとなれば、嫌でも体に染みついているだろうし。

 

「とりあえず、お前の案でいこうか」

 

「言っときますけど、一応この世界ではあたしが先輩ですからね?ちゃんということ聞いてくださいね?」

 

「やだ」

 

「明日の料理にグレープフルーツの果汁ぶち撒けてやろうか」

 

「許してくださいケイ先輩」

 

「よろしい」

 

 自慢げに笑うその姿からは、先輩としての威厳を感じられない。

 

「でもまあ、いつも通りでいきましょうよ。その方がやりやすいですし」

 

「そうだな、賛成」

 

 まずは飛び方から。そう言うケイが差し伸べた手に、そっと手を重ねる。微笑む彼女を見ても、あの日の感情は湧きあがらない。その事実に安堵し、軽く微笑み返した。

 

 

 

*

 

 

 

「たーかくんとんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「ええ飛んでますねなんでこんな簡単に飛べるんですかしかも随意飛行であたしでも1週間かかったのにまじFuc〇」

 

「ちぃぃぃぃぃぃぃぃさなぁぁぁぁぁぁぁおっぱぁぁぁぁぁぁぁぁい」

 

「なに言ってんだこいつ」

 

 奇怪な言語を発するホロウさんは、思いのままに空を飛び回っている。自由を謳歌するように、のびのびと。服の中でシーナちゃんが嫌な顔をするのを気にせず。今日始めたプレイヤーが、それも補助コントローラ無しの随意飛行をマスターするとは思いもせず、驚きと同時に敗北感が残った。口が悪いのはそのせいだ。

 

「ホントに空飛んでる!ヤバい!なんだこれ!」

 

「語彙力が喪失しているのに伝わるの謎っすねー」

 

 奇怪な言葉しか言ってないのに、飛行を楽しんでいる様子がこれでもかと伝わってくる。普段はお面を付けていて表情が分かりにくいから、余計にそう感じるのだろうか。あ、でも子供っぽいところもあるのは以外だった。

 

「でも、何でそんなに飛ぶの上手いんすか?」

 

 これはどうしても気になったので、直接聞いてみた。

 

「え、そんなにむずいの?」

 

「いや、普通はこんな簡単にいきませんから」

 

「そーなのね」

 

 少し考えた素振りを見せると、何かに気づいたみたいだ。

 

「なるほどなるほど」

 

「いやそれだと分かんないっすよ」

 

「まあ、憶測でしかないんだけどさ」

 

 その笑顔に、ほんの少し影が差す。

 

「多分、無いものを有るものとして扱うのに慣れてるんだよ」

 

 言葉が半分に差し掛かるより早く、あたしの目線は彼の脚に吸い寄せられた。

 

「正解」

 

 その言葉で、何となくだけど理解できた。

 

 彼がSAOにいた時の話を少し聞いた際に、現実の姿に変わった時も体はそのままだったと聞いたことを思い出した。その時には脚が無かったらしく、その間()()()()()()()()()()()()()()扱ってきたことになる。きっとそれが、飛行に活かされているんだと思う。

 

 ALOにおける随意飛行は、自分の背中から羽が生えているとイメージすることが重要になる。仮想の骨と仮想の筋肉を動かすと言えばいいかな。尻尾とかイメージしやすいかな。実際には無いものを動かすわけだから、使いこなすのは至難の業。あたしも1週間かかってようやくマスターしたし、相当難しかった。

 

 でも、彼にとっては慣れていることなのだろう。だから、仮想の肉体……もとい羽をこうも簡単に扱えるんだ。無くしてきたから、というのが少し悲しいところではあるけど。

 

「…………そっか」

 

 だから、こうも楽しそうに飛ぶんだろう。

 

 現実での柊さんを考えると自然な答えだった。自分の脚で走ることができなくて、車椅子からの低い視点から物を見ているから、窮屈だったのかもしれない。私の勝手な想像でしかないけど、多分そうじゃないかな。

 

 この世界なら、彼を縛り付けるものは何も無い。それどころか、空を翔けることだってできる。だから彼はこれほどに楽しんでいるんだろう。仮想空間(このせかい)が、彼を満たしてくれるから。

 

「改めて考えるとすげえな!俺達空を飛んでるんだぜ!?」

 

「……そうですね」

 

 もし、彼の感情が私と似ていたら。虐げられるだけの現実から解放されたいと思っていたら。同じ苦しみを抱いていて、救いをこの世界に求めていたとしたら。私と同じ気持ちを、ホロウさんが持っていたら。

 

 ちょっとだけ、嬉しいと思ってしまった。

 

 

 

*

 

 

 

 ケイと共に空を飛んでいると、小さく見えていた街並が徐々に大きくなっていく。

 

「あれが、ケットシーの?」

 

「はい、首都の《フリーシア》です」

 

 目線を下に落とすと、その光景が目いっぱいに広がっていた。石造りの建物、街の灯り、人の営みが織りなすパノラマ。この光景を装飾した箱庭にでも閉じ込めて、部屋で眺めていたいと思うくらいには綺麗だった。

 

 見とれている俺に、ケイが思い出したかのように叫んだ。

 

「ホロウさんすいません!着地の仕方教え忘れてた!」

 

「着地……あっ」

 

 着地することを俺もケイもすっかり忘れていた。ケイは問題ないけども、俺はまだ着地のコツなんて教わってない。勢いこのままに突っ込んで、某社製のヘリみたいに悲惨なことになる未来が容易に想像できた。

 

「わー!ごめんなさいごめんなさい!どうしよどうしよ……」

 

 珍しく焦るケイも新鮮だな、と考えていると、そんなに焦ってないことが分かる。正直着地なんて簡単だし、方法がどうであれ、生きて地面に立ってればそれでいい。

 

「いやそんなに焦らなくてもいいじゃろ」

 

「いやいやホロウさん減速とかできないッスよね!?」

 

「減速する必要ないし」

 

「は?」

 

 まあちゃっちゃとやってしまおう。まずは長めの道を探す。そんで勢いそのままに高度を下げる。地面に対して鋭角に入れば落下ダメージもないだろうし、勢いを殺せずに少し転がるだけで済む。いちいち着地なんぞに神経使ってられるかっての。

 

「おぼ!?」

 

 しかし高速で突っ込んだがために顔面を強打した。まあそのつもりだったけど。そのまま転がり続け、建物の壁にぶつかって静止できたけど、衝撃がすっげえ。面白そうだからやってみたけど二度とやらねえ。

 

「なーにやってんですか」

 

 呆れ顔と笑いを堪えた顔が半々のケイが手を差し伸べてくる。当然着地は普通にしたようだ。

 

「衝動に駆られて」

 

「気持ちはわかるでもバカでしょ」

 

「お前も大概だな」

 

 ケイに手を差し出すと、それを掴んで引っ張ってくれた。不時着の衝撃で混乱している体にこの気遣いはありがたい。胸元にしまったはずのシーナが何食わぬ顔で頭に乗ってたので少し重く感じた。

 

「それはそれとして、この状況どうしてくれるんですか」

 

 ケイの目線を追うと、周囲に人が集まっていた。珍獣を見る目がこちらに向かって刺さってくる。非常に痛い。

 

「それに関してはすまん」

 

「本当ですよ、他種族の領土にこんな入り方するなんて」

 

 溜め息を吐く行為すら、こちらを責めてくるような気がした。

 

「他の種族の領土って入ったらヤバいの?」

 

「敵対してたら無抵抗で殺されてますよ」

 

「まあこんな入り方するスパイもいないでしょ」

 

「そうですね、スパイじゃなくて笑いものですけど」

 

 少なくとも危険な状況ではないらしく、プーカもケットシーと敵対しているというわけでもないらしい。ケットシーは交易が盛んなこともあり、多少の関係はあるようだ。そうでなければ今頃ボコボコにされていただろう。

 

「さっさと移動しようぜ。目線が気になるし装備も揃えたいし」

 

「そですね、とりあえず適当な店行きましょ。あたしは場所知らないですし一から探すことにはなりますけどね」

 

 一から街を探索するのも一興だが、正直チュートリアル的な部分に時間をかけたくはなかった。さっさと短剣でモンスターなりプレイヤーなりを殺したいし。魔法も少しずつ練習したいし、そう考えると時間をあまり使いたくない。

 

 となると、誰かに話を聞くのが手っ取り早いだろうけど、この状況じゃそれは難しい。こんなダイナミック着陸する変態に絡まれたくないだろうし、話を聞いてくれるかどうか。

 

「すごい音がしたから来てみたけド、大丈夫かナ?」

 

 そんな中、一人の女性がこちらに近づいてきた。いや、見た目だけ見れは少女だろうと思うくらいには小さい。小麦色の肌を大胆に露出させている彼女からは、見た目の可愛らしさと共に艶めかしさも感じる。周りの人たちは、ただそれを不思議な顔で眺めているだけだった。

 

「今日始めた初心者なんで、多めに見てくれませんかね」

 

「別に怒ってないヨ~。面白そうな人だナーって思っただけだヨ?」

 

 ウインクする様子はあからさまな感じはするものの、体の運び方からは只者ではないような感じがした。そういう裏のありそうな人が怖いんだよなあ。

 

「始めたばかりなら、街を案内してあげようカ?お友達のプーカちゃんも詳しくないようだシ」

 

「まあ、そうしてもらえるならありがたいですけど」

 

「是非お願いします」

 

 俺もケイも、彼女の誘いに応じた。ここで下手に逆らってもって感じだし、そもそも逆らう理由もない。おいしい話を逃すのもなんかアレだし。

 

「そうダ、名前聞かせてもらってもいいかナ?なんて呼べばいいか分からないしネ~」

 

「私はケイっていいます。こっちが新人兼変人のホロウです」

 

「まあそうですけど」

 

「まさかの肯定」

 

「君たち変わってるネ!そこが面白いんだけどサ」

 

「いやいやこんなやべーやつと一緒にしないでくださいよ!?」

 

 彼女の話し方なのか、動物園でパンダを見ている感覚で俺たちと接しているからかは分からないけど、凍り付いたような空気が温まったような気がした。気が付くと、集まっていた人々も散り散りになっている。

 

「ホロウ君とケイちゃんネ、覚えたヨ~」

 

「そういえば、貴女は?」

 

「そうそう、自己紹介がまだだったネ」

 

 こちらを覗き込むようにして、彼女は口を開く。

 

「アリシャ・ルーだヨ。ヨロシクネ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ケイが青ざめていく。

 

「アリシャ・ルー……あぁっ!?」

 

 急に焦りを感じたケイと、それを見て楽しそうにしているアリシャさん。この意味を知ることになるのは、少し先のことになる。




 今回は少し中途半端になりましたが、次回にはホロウ君に色々殺ってもらいますんで少しばかりお待ちください。

 小説と、それ以外の作業が並行しつつも、少しずつ進めていきますんでどうぞよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。