あの戦いの後、俺たちはメディカルチェックを受けて傷はIS普及による不思議パワーで直してもらった。
それから俺たちはぐっすり眠り、翌日会談することになった。
「ふぅ。実にいい運動になった」
「俺……僕も久々に本気で戦えて実に有意義でしたよ。いやぁ、こんな強い人がたくさんいるなんて世界はまだまだ広いですね」
何故か武藤さんは心からホッとしているけど、たまには休まないといけないのではないだろうか。……最近、俺もかなり引っ張り回しているからなぁ。少しは自重するか。
「………血を出しながら戦うことが良い運動ですか?」
「そうだ。最近、ISの普及で生身で強い人間も少なくなってきておる。彼のような人物が少しでも増えてくれればこちらとしてもありがたいことこの上ない」
「それはこちらの言葉ですよ。本当に最近の女ってほとんどがISを使わないとまともに戦えない雑魚ばっかりで」
「………」
ボーデヴィッヒが冷や汗を垂らす。……冷静に考えてみれば、こいつは最初は生身で戦おうとしていたからまだ及第点だと思うけどな。どっちかと言うと防衛本能で展開したって感じだし。
「……それで、この部屋に俺とこいつだけを呼び出して一体何の用ですか?」
「……真実を話そうと思ったのだよ。舞崎静流、君はラウラ・ボーデヴィッヒがどういう存在か知っているか?」
「あなたや他の優秀な軍人の遺伝子の元である精子と卵子を組み合わせてさらに優秀な軍人を生み出すためのプロジェクトで作られた1人、という認識でしょうか? 確か、遺伝子強化素体でしたよね?」
俺はかつての黒歴史を紐解きながら説明すると、ボーデヴィッヒはあまり驚きもせず言った。
「……やはり知っていたのか」
「やはりって……」
「…私は、お前の記憶を見た。両親に攻撃されている記憶と、お前が大人に対して否定的な目で見ていた記憶だ」
「………やっぱりお前も見ていたのかよ」
こいつの人生の回想みたいなのを見せられたからまさかとは思っていたが、というか何でピンポイントで俺の黒歴史を直撃してるんだ? いじめか?
「……ふむ。どうやら君は妹の方でも相性が良いようだ」
「…はい?」
「ラウラはクロエの双子の妹だ」
……………へー。
なるほど、双子か。それは確かに似るはずだ。あそこまで似ているのは偶然か必然かないしな。
「……私に姉がいるのですか?」
「………まぁ、諸事情で死んだが」
「いや、生きている」
俺は反射的にレイング・クロニクルに近づいて怒鳴るように言った。
「そいつは本当か!?」
「…ああ。あの子の体には発信機が備わっていてな。時折だが微弱な反応を見せている。死んでいればそのような反応が送られてくるようになっていて―――」
「どこだ!? 今どこにいる!?」
「待ちたまえ。今はアメリカの方に移動しているようだ。ここから追うのは難しいだろう」
「じゃあその受信端末を―――」
「落ち着きたまえ。これは私の物だ」
ドサクサに紛れて借りるのは失敗した。次はどんな手で行くべきか考えていると、レイングのオッサンはおかしなことを言いだした。
「さて、ここからが本題なのだが……舞崎静流君、君はラウラと婚約しないか?」
頭は大丈夫なのだろうか?
僕は思わず本人にそれを聞きそうになった。どうしてそこでそういう話が出てくる?
「……姉がダメなら妹をっていう考えは好きじゃないんだが……っていうか、それじゃあ俺にドイツに付けってことか?」
「……流石だな。もちろん、それなりの待遇は用意するつもりだ。例えば、彼女を大尉に降格して君を中佐にするか、もしくは君を中佐待遇で彼女が所属する部隊の隊長をしてもらってもいい」
「………どっちかと言うと、俺は一番槍向けだと思うんだが」
「以前は人を率いて不良共を倒していっていたと聞いたがね?」
「喧嘩の集団と軍人の集団を一緒にすんな」
思わず口調が外れてしまったが、この男の発言は突っ込みが必要なはずだ。
「なに、人を率いる手段はラウラから教わればいい。それに部隊員は女性で構成されている。良い話ではあると思うがな?」
「絶対嫌です勘弁してくれ」
手を出すとかの話ではない。そんな状況で受け入れられるかとかの問題でもなく、そんなことで責任を負いたくないのだ。部隊員を殺さないように指揮を執るとか、どっちかと言えばそれは早坂の得意な領分だろうし。
「そこまで嫌かね? 一応、年上から年下まで様々なタイプが部隊員にいるのだが―――」
「悪いが俺はどちらかと言えば単細胞なタイプだ。暴力的な意味で手が早いし、やめておいた方がいいと思うぜ」
どう考えても、先陣切って敵を潰すか混乱させるかの二択しか存在しないんだが。
ところで、ボーデヴィッヒはさっきから何でだんまりなんだ……?
「………」
あ、ヤバい。混乱してる。
にしてもリアルで頭から煙を出している人間なんて初めて見たわ。
「……ボーデヴィッヒ? 大丈夫か?」
「うむ……少しわからないことがあってな」
「わからないこと?」
「そうだ。その、お前が知っている遺伝子強化素体と私は姉妹で、何故かクロニクル総督はその強化素体の事をご存じで……」
「……OK、何がわからないのか大まかにわかった」
もしかしてこの子は実はかなりのアホの子ではないのだろうか?
「ぶっちゃけると、この総督さんとお前は親子だ」
「………馬鹿か貴様は。姓が違うだろう?」
馬鹿って言われた。……確かに戦闘馬鹿って意味なら正解かもしれないけど、よりにもよって馬鹿に馬鹿って言われたらダメージキツい。
「あー、そのだね。バレているようだからこの際言うが、私と君は実の親子だ」
「総督、流石にその冗談は笑えませんよ? それに確か総督は結婚していないと聞き及んでいますが……」
何故か自慢げに語るボーデヴィッヒに、俺は説明してやった。
「……だから、このオッサンはその計画で遺伝子を提供していた。で、この反応だとおそらく好きな人の遺伝子が使われていたとかだろ」
「…………何故わかった?」
「冷静に考えてみたんだよ。普通に考えて、そういうのは上層部が決めて優秀な軍人の遺伝子を使用する。精子に限らず髪や血液を使っているとかな。でもそんなのは自分のあずかり知らぬところで普通なら誰だって拒絶する。可能性があるとするなら好きだった奴か気になっていた奴か………軍人であるとしたら、昔コンビを組んで惚れていた相手が戦死して、遺伝子情報を取得した国に自分の遺伝子を使うように恐喝………というところか? 恐喝云々は定かではないが、やろうと思えばできるってところか?」
まぁ、15年前のドイツ軍がどんな状況だったかは知らないが、おそらくなくもない話だ。というか、わかりやすいほどに別の場所を向くのは子どものすることで、オッサンがしても気持ち悪いだけである。
「……その様子なら図星のようだな」
「ふっ。認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを……」
何でそんな有名なセリフを引用しているのかはさておき、だ。
「そうだ。私はかつて愛した女の遺伝子を勝手に使った。本来なら処罰されることだが、軍はそれをしなかった」
……そりゃあ、あれだけ強かったら誰だって処罰できない……抵抗すれば銃弾すら斬りそうな男だからな。
「あの時、私は相手を失ったばかりだった。レジスタンスを蹴散らしていたらそんな話を聞いてな」
思わず俺は内心でそのレジスタンスに黙祷を捧げた。
「で、その相手の性は「ボーデヴィッヒ」だった、と」
「そういうことだ。きっと私は死んだら責められるだろう。だが、どうしても彼女との子どもが欲しかった……というか家庭を持ちたかったんだ」
………そんな理由で生み出されたら、流石にボーデヴィッヒでもキレる―――なんてところではなかった。
「あ、体調が悪いようなので失礼しますね」
俺はお姫様抱っこしてすぐさま総督室から離脱。放心状態になったボーデヴィッヒを介抱することにした。その前に、オッサンには言っておくことがあるな。
目を覚ましたボーデヴィッヒはまだ混乱しているようで、憧れの総督が自分の親だということを受け入れられていないらしい。
「私は……これからあの人とどう接すればいいのだ……」
「誰もいないところで「パパ」もしくは「お父さん」が有効的じゃないか?」
「何故だ?」
「俺の友人曰く「父親は「パパなんて大っ嫌い」と言われるのが一番ダメージが来る」らしい」
あくまで、とある引きこもりのオタクに聞いた話だけどな。
「ま、別に気にしなくていいんじゃないか? これで辞めさせられることはなさそうだし」
「そういう問題か!?」
「これは経験則だがな、伝手というものはプライドを持たずに使ってた方が良いぜ。文句があれば暴力で黙らせればいい。世の中ってのは所詮、やりたいことを実現させたもん勝ちだしな」
特にIS関連じゃ戦闘能力は高い方が有利だしな。そういう意味ではこれまでの人生は無駄になっていないだろう。
「……だが、所詮私はISを暴走させてみんなを危険に合わせた。その責任は取らねばならない……だろう?」
「…ああ、そのことなんだけど、ちゃんと保険をかけておいた」
いやぁ、まさかあのじーさんがそれに快諾してくれるなんて思わなかったな。
■■■
その頃、IS委員会はVTシステムの件についてラウラ・ボーデヴィッヒ並びに証人として舞崎静流を寄越すように言ったのだが、IS学園側は全面拒否した。というか、せざる得なかったのだ。
何故なら両名とも既にドイツに渡っている。こういうことになることは十蔵も予想していたので予め2人を中々手の届かない場所へと移動させたのである。
委員会の面々は十蔵の正気を疑ったが、次の言葉に全員が閉口する。
「ちなみにですが、舞崎君から書状を預かっています。この場で読み上げるように言われていますが?」
「そんなもの破って捨てなさい!」
「では読み上げますね」
委員の命令を無視して十蔵は読み上げた。
「『拝啓、IS委員会所属の方々。この書状の内容を知っているということは私は既にヨーロッパに渡っているでしょう。あなた方がこれを聞かされているということは、おそらく今回のISの異常事態の件について話し合っていることでしょう。その件でおそらくラウラ・ボーデヴィッヒを処分する方向に話が向かっているでしょうが、今回の件は綺麗さっぱりなかったことにし、ドイツの機体の整備不良による暴走だと処理すること。この要求が呑めない場合IS学園の生徒をかつての仲間たちに売り、IS学園を酒池肉林の乱交現場にしてインターネット上にアップロードします。そもそも、私の意見を無視して相方の機体が暴走したというだけで勝手に失格したのですから、それくらいの提案を呑むべきです。それを拒否するというのならば、私は今後IS学園に異常があろうと喜んで女たちのレベルの低さを嘲笑って見学します。そもそもこっちにはクラスメイトだろうがなんだろうが雑魚を助ける義理はないし、男より強いんだから別に生身だろうが男相手にタイマン張れるはずなのに、俺が襲われるとなれば大体銃火器所持だし複数だし、挙句弱すぎて話になりません』……だ、そうですよ。ま、彼の考えは理解できますがね。確かに今の女は昔以上に弱すぎる」
十蔵の言葉に主に女たちが舌打ちをした。その音が聞こえた千冬は内心怯えながら十蔵の表情を伺う。
「この条件を呑めと? あなた方よりも上である格上に?」
「立場では、でしょう? 少なくとも彼はIS学園の現状に嘆いているのは確かであり、我々も彼が敵に回るのであれば相応の準備が必要です」
「相応の準備? たかが一生徒如きに準備がいるというのか!?」
「かつて恐れられた轡木十蔵ともあろうものが、耄碌したな」
すると十蔵が着ているツナギから軽快な音楽が鳴り響いた。一言断りを入れた十蔵はすぐに取り、軽く相槌を打つと笑った。
「先程、舞崎静流がレイング・クロニクル氏に勝利したという報告が入りました」
その言葉に全員が驚いた。
レイング・クロニクルの名を知らない人間はIS委員会にまずいない。男として轡木十蔵に並ぶ危険人物であり、かつてたった一人で、そしてサーベル一本で大規模なクーデターを鎮圧したという活躍をした男である。一般的に剣使いでは千冬の名が挙げられることが多いのは、「モンド・グロッソ」という公表された舞台で活躍したからであるが、それはあくまでも表の話だ。
「そう言えば彼はこういうレポートも作成していましたね」
笑みを浮かべながら十蔵はパネルを操作していくつかのファイルを見せる。どれも「IS学園の生徒が弱い理由」や「織斑一夏程度に専用機を与えられているのに俺にないのは上の人間がアホだから」などと明らかに特定の組織を馬鹿にした内容が書かれているものがあるが、その中に1つだけ面々を震撼させるものがあった。
―――そもそもVTシステムをドイツが持っていて得があるのか?
同じく開いた千冬はその文章を読んでいく。
『ラウラ・ボーデヴィッヒはこれまで出会った代表候補生の中ではかなりマシな部類に入るだろう。セシリア・オルコットや凰鈴音とは一線を画していて、場数を踏んでいるためか咄嗟の判断力に優れている。AICという1対1による戦闘ではほとんど無敵を誇る特殊兵装を持っていることから彼女本来の戦闘力以上の能力を見せているとも言える。また、性格に多少の難はあるが精神面もしっかりとしており、ISという兵器を扱うための心構えが他の女生徒とは違うのも好点ではある。そんな他国の代表候補生を倒したドイツの金の卵を早々ドイツがVTシステムを組み込むだろうか? いや、ない。他国の代表候補生に勝ったという証拠があるため、政府がわざわざ捨てるという選択を取ることは難しい。彼女の存在を疎ましく思う候補生の線もないことはないだろうが、VTシステムを用いている以上、可能性は限りなく0に近い。故に、ドイツがではなくドイツの発言力を削ごうとする他国の仕業と断定する』
断定……つまり静流はドイツではなく他国が怪しいと言っているのだ。
「15歳にしてこの推理力。私とて疑問ですが、何故彼が放置され続けているのでしょうね?」
「………だから、あなたは舞崎静流を自由にさせている、と?」
委員の1人がそう尋ねると、十蔵は笑みを浮かべた。
「ええ。それに、これはあなた方を守るためでもありますよ」
「……何?」
「彼の身体能力は織斑先生に匹敵しています。彼にしか反応しないコアを持っていることでいざという時のために織斑先生と同居という体で監視下に置いていますが、おそらく来年には彼女を超えているでしょう。今のままでも女権団を葬る力を持ち合わせていると言っても過言ではないくらいの戦闘能力があることはクロニクル氏を負かせたことで証明済み。ですがあなたは権力を盾に無理矢理連れて行こうとすると思ったので敢えて彼がしたいようにさせています。それとも、あなた方の中で彼を止めることができるのでしょうか?」
その質問に全員が沈黙。さらに静流のレポートによりその場にいる全員が疑心暗鬼となり、会議はお開きになった。
十蔵「雑魚共が……黙ってろよ」