迷い人   作:どうも、人間失格です

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もう一人の部下と彼

 

 

 

 

 

 

 「あのさ、幾つか聞いていいか?」

 

 

 

 ミュウツーは助けられた形になったとは言え、やはり、人間を信用する事は出来ないらしく、攻撃はしてこないが警戒され、レッド達は十メートル以内には近づけなかった。

 それでもレッドは麻痺状態のミュウツーを放っておくことが出来ず、近くの岩に居座り、ピカチュウを使ってクラボの実を届けた。

 岩とカオルのヤドランが作り出した流氷を足場に使い、近づいてきたピカチュウにミュウツーは最初は受け取らなかったが、ピカチュウの説得とレッドが“受け取って食べるまで帰らない”と言って一時間以上も睨み合った結果、ミュウツーがレッドが折れないと理解し、渋々クラボの実をピカチュウから受け取り、食べて飲み込んだ後にレッドはミュウツーにそう話しかけた。

 

 ミュウツーはさっさと帰れ、と言わんばかりにレッドを睨み付けており、グリーンはレッドの行動に内心頭を抱えながら、ミュウツーがレッドに攻撃してきた場合を想定してカメックスに甲羅の上から警戒するように言った。

 カメックスは何気ない動きで二つのロケット砲をミュウツーに向け、何時でも攻撃できるようにしていた。

 勿論、ミュウツーはその動きに気づいていたが、相手にならないので無視する。

 むしろ、大きな岩に背を預け、横からすり寄るハクリュウを撫でながらこちらを自然な仕草で警戒し、苦笑しているワタルの方が厄介である。

 無言のミュウツーに勝手に続けていいと取ったレッドはそのまま言葉を続ける。

 

 

 

 「さっきのロケット団の少年だけどさ、違う世界から来たってそんな事があるのか?」

 

 『……私も“あれ”から聞いた話で、詳しくは知らんが普段は平行に並んで交わる事のない世界同士が百年に一度の周期でぶつかる事があるらしい。その現象でごく希にその世界にあったものがこちらに迷い込んでくる。おそらく奴はそれだろう』

 

 

 

 ミュウツーは警戒している自分が馬鹿らしくなり、もうどうにでもなれと言わんばかりにレッドの質問に投げやりに答える。

 その際、脳裏に聞いても無いのにこの話をしたいたずら好きなピンクのエスパーポケモンがよぎり、苦々しい表情をした。レッドはその話を心にとどめながら少年の事を考える。

 

 ミュウツーの話が本当であれば、ミュウツーに怒り、ポケモンに攻撃を指示した少年の行動にも納得がいく。少年にとってそれは何よりも言われたくない事だったのだろう。

 だが、疑問も残る。

 

 

 

 「その話をアイツにした時、すげー怒ってたけどさ、俺には何でそこまで怒るのか理解できねえな」

 

 

 

 グリーンが頭を掻きながら、レッドとミュウツーの話に加わる。

 グリーンもミュウツーとレッドの会話を見ているとレッドがミュウツーを警戒していない代わりに自分が警戒している事が馬鹿らしくなってきた為である。

 レッドは同じ疑問を持っていた為、グリーンの話に同意するように頷いた。

 

 

 

 「俺は何となく理解できるな」

 

 「わかるんですか、ワタルさん」

 

 「彼が違う世界から来たと言うのが本当ならこの世界は彼にとって全てが未知で溢れていたんだろう。全てが知らない場所、知らない人、知らない物で彼自身かなり戸惑ったんだと思うし、どう生きていけばいいのかさえ、分からなかったと思う。何より、俺もそんな話初めて聞いたからな、誰も信じなかった可能性が高い。そんな辛い時間を過ごしたからこそ、指摘されるのは嫌だったんだろう」

 

 

 

 まあ、あくまでも予想だが。と言ったワタルの言葉にミュウツーはそうだ、とその言葉に頷いた。

 そこまで聞いて、レッドは少年がロケット団に入った理由が何となくだが予想が付き始めた。

 

 少年は帰る場所がなかったのだ。

 

 この世界にいつの間にか迷い込んで、誰にも信じられず、何処にも自分の居場所がない。自分とそう年が変わらなさそうな彼のそんな環境下にもし自分がなったら善悪の正常な判断が出来るだろうか。

 レッドは出来ると断言できなかった。

 自分は何時でも故郷に帰れるし、家族である母に会える。今まで出会った人達やオーキド博士、レッドについてきてくれた手持ちのポケモン達、そして、むかつくがグリーンもいてくれる。

 それが全て突然会えなくなるし、帰れなくなるのだ。

 とてもじゃないが何時もの様に振る舞う事が出来そうにない。

 

 

 

 『奴にとってこの世界は地獄だ。この世界の人間は奴にとって()()()()()であり、決して同じではない上に奴がこの世界に来る前を知る者は誰もいないのだからな』

 

 

 

 そして、少年のその心に付け込んでロケット団が仲間に引きずり込んだのだとレッドは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオルはシルフカンパニー社の小部屋から出た後、ここでの仮の執務室へと帰ってから、部屋にあったソファに横になり、顔を手で覆う。

 センチメンタルになっている自覚はあるが、カオル自身ではどうにもできなかった。

 

 突然、モンスターボール特有の赤い光がでて、黒いポケモンが出てくる。

 勝手に出て来たブラッキーはカオルの胸の上に飛び乗り、伏せの状態でカオルの様子を窺いながら心配そうに鳴いた。

 カオルは何時も勝手に出てくるブラッキーにイラつき、振り払う。

 ブラッキーは振り払われながらも軽やかに床に着地し、カオルを心配そうに見てくる。

 カオルはそんなブラッキーの様子に複雑な思いを抱く。

 その思いが具体的にどんな物なのかわからないが、少しだけ罪悪感があった。

 

 

 

 コンコンッ。

 

 

 

 突然部屋にノックオンが響き、カオルはソファから起き上がり、入室を許可する。

 失礼しますと言って入ってきたのは飄々とした物腰と紫の髪、タレ目で泣きぼくろが特徴のオヤジ、ラムダであった。カオルの部下の一人である。

 

 カオルは傍まで近づいたラムダに用件を尋ねる。

 

 

 

 「カオル様の指示通り、ヤマブキシティに行ける道路は山崩れや川の氾濫で塞いだのですが、やはり一か月程度で通れる可能性があるようです。水ポケモンで大雨を降らせて空からの侵入と並行して邪魔をしていますが、いかがなさいましょう」

 

 「そのままでいいよ。一か月もあればこちらの戦闘準備はできるし、マスターボールもギリギリ完成できるから。テレポートポケモン対策もできてるよね」

 

 「はい、特殊な磁場をヤマブキシティ全体に発生させています」

 

 

 

 そうかい、それだけなら帰り給えととラムダに退室を促してカオルは考える。

 ボスのたくらみのせいでヤマブキシティの現状をあのままレッドと行動しているとは思わないが、ロケット団の動きを警戒してチャンピョンであるワタルが知る事もある可能性が出てきた。

 そうなれば他の幹部が支部の方にいる今、対抗できるのはカオルただ一人なので、相手をしなくてはならない。

 主人公レッドとライバルグリーンと共に。

 相手の厄介さと仕事の多さにカオルはうんざりした。

 

 ふと顔を上げると、ラムダは報告を終えたのにまだ仮の執務室から出て行っていなかった。

 カオルは怪訝な顔でラムダを見て、話があるならさっさと言えと言う目線を送る。

 ラムダは苦笑しながら言った。

 

 

 

 「本当に幹部補佐であるランスを異動させるのですか」

 

 「ボスの直属の部隊長に推薦したからね。昇進出来て喜んだだろう?」

 

 「喜んだ後にカオル様が推薦したからだと知って落ち込んでいましたが」

 

 

 

 そんな事は知らんとばかりにラムダの言葉を無視してブラッキーの頭を撫でているカオルの様子にラムダはランスに向けて静かに合掌した。

 どうやらランスはもうカオルにとって興味も利用価値も無くなってしまったらしい。

 それでも降格や“処分”よりはましだが。

 

 悪の組織であるロケット団は派閥と言うものがある。

 一番大きいのがやはり首領派である。そのカリスマとポケモンバトルの強さ、部下を指揮する手腕はロケット団団員の誰もが認めており、首領の為なら命も捨てるという者もいる程だ。

 次に大きいのがアポロ派である。主に研究員が殆どを占めるのだが、ポケモンバトルと研究の両刀を持つ者達がいるので、たかが研究員と侮る事はできない。

 その次がアテナ派。ポケモンバトルが強いトレーナーが多く、荒事は殆どこの派閥が行う。面倒見がいい彼女を心底敬愛している。多少、脳筋な人達が多いが。

 そして、ロケット団で一番少数の派閥がラムダが所属するカオル派である。主に潜入や密偵、資金集めな等の暗躍する事が多いが、その分バランスの取れた優秀な人材が多い。元々優秀な部下しか手元に置かないカオルらしい派閥である。だが、敬遠されがちな派閥でもある。

 何故なら、カオルは組織にとって使えない人間はすぐに切り捨ているし、首領がどこからか連れてきた子供なので、近寄りがたいものがある。ラムダも最初は敬遠していた。

 だが、ある時、苛烈な人であるが、案外いい人であると気づいてからはカオルの為に貢献し、今ではランスの次に信頼されているとラムダは思っている。

 訂正、ランスは信頼されていたが、異動するという事はもう、二度と部下になるなと言う遠回しの宣告をされたのだった。

 

 

 

 「ランスが抜けた幹部補佐の椅子は君にあげるよ。好きに使い給え」

 

 

 

 サラッとカオルから言われた言葉にラムダは微妙な気持ちになった。

 カオルにとってはラムダもただの“代わりの駒”でしかない。

 それでもカオルについていく気持ちは変わらないが、やはり何処かで必要な部下として認められたい気持ちが無いわけではないのだ。

 ラムダはカオルに礼を言い、仮の執務室から出ていき、扉が閉まった後ため息をつく。

 

 

 

 目の前の扉がカオルとの距離を表しているかの様だった。

 

 

 




今回あんまり進んでないですね。
でも、ある意味必要な話ですから。
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