迷い人   作:どうも、人間失格です

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※この話は途中から鮮血が飛んだり人が死ぬ等の表現が出てきます。
 ぬるい表現にしたつもりですが、こんなのポケモンじゃない、気分が悪くなった等の苦情は一切受け付けませんのでご了承ください。
 それを踏まえたうえで大丈夫、という方のみどうぞ。


ジムリーダーと彼 前編

 

 

 

 

 

 「それで、マチスが意識不明の重体になり、同じく重傷を負ったライチュウとカスミのサニーゴと共に病院へ搬送されたのだな」

 

 「……ええ、そうですわ」

 

 

 

 エリカは口元を隠しながら暗い表情で、スキンヘッドに丸い黒の眼鏡と白衣を着たおやじ、グレンジムのジムリーダー、カツラの言葉に頷いた。

 

 あの後、サニーゴは主人であるカスミを守る為にミラーコートを展開し、マチスはとっさにライチュウにカウンターを指示してカスミをかばっていた為、カスミは軽傷で済んだが、爆発はミラーコートとカウンターの壁を突き破り、防ぎきれなかった分は容赦なく襲い掛かり二人と二匹を吹き飛ばした。

 その為、サニーゴとライチュウは重傷を負い、マチスは背中に大火傷と建物の破片が突き刺さり大量に出血していた為、ヤマブキシティに乗り込むのを一時中断して急いで引き返したのだ。

 カスミは自分が敵の罠に引っ掛かってマチスとポケモン達に重傷を負わした事に自責の念にかかり、落ち込んでいた。エリカはそんなカスミの様子を見ていられず、カスミの病室からでて、緊急手術を受けているマチスの手術室へと足を運び、丁度ハナダシティの病院に到着したカツラと忍者の様な姿をした男、セキチクジムのジムリーダー、キョウと合流し、今までの出来事を説明し、今に至る。

 

 カツラはヤマブキシティが占拠されている可能性があると聞きつけ、セキチクシティによりキョウに協力を呼びかけ駆け付けたのだが、思ったよりも深刻な事態にトキワジムのサカキもいてくれればと思った。だが、サカキは他地方に出張している為、不在である事を思い出し、そのタイミングの悪さに苦い思いをする。

 重い沈黙を破るようにキョウが口を開く。

 

 

 

 「では、これからどうヤマブキを奪還する」

 

 「恐らく再度ハナダシティからのゲートで侵入し、ジムリーダー二人組と警察のトレーナーを合わせたチームを二つ作り、分かれて一般人の捜索と占拠している者達の捕縛をすると思います」

 

 「うーむ、相手に読まれておるだろうが、それが無難じゃな」

 

 

 

 納得した様にカツラは言ってキョウを見ると、キョウも同じなのか頷く。

 ヤマブキシティへの道で通れるのはいまだにハナダシティから行く道のみで、他の道は復旧作業を続けている為、行く事が出来ない。

 空から行く手もあるが、試しにラジコンのヘリコプターにカメラをつけて飛ばすと、空に鳥ポケモン達で侵入できないようにしているらしく、墜落させられた。

 ポケモンに乗ってポケモンバトルをするのは危険が伴う為、空からの侵入は諦めるしかなかった。

 そうなると、ハナダシティからの道になるのだが、ヤマブキシティを占拠した者達に予測される為、何らかの対策を組まれていると思われる。

 こう考えるとヤマブキシティを占拠した者達のリーダーは中々の切れ者であるとカツラは思った。

 

 三人が話し合っていると、手術室の赤いランプが消え、手術室から医師が出てきた。

 その顔は強張っており、嫌でも不安な気持ちになる。

 

 

 

 「手はつくしました。集中治療室で治療は続けますが後はご本人の体力次第です」

 

 「そうですか、有難うございます」

 

 

 

 医師の言葉にエリカ達は表情を暗くしたが、マチスなら乗り越えられると信じ、医師に頭を下げた。集中治療室に運ばれていくマチスを見ながら、エリカはポケモン達はどうなったかを聞いた。

 

 

 

 「あの、ライチュウとサニーゴは」

 

 「ライチュウとサニーゴは重傷で治った後にリハビリも必要でしょうが、体調は安定し回復に向かっていますので大丈夫です」

 

 

 

 エリカは安堵した表情をして、そうですかと言って再度頭を下げた後医師を見送り、カツラとキョウに向き直る。

 カツラはとりあえず、カスミと交えてチーム分けを話し合う事を提案したが、エリカはできないのではないかと思った。

 エリカが見たところカスミは当分の間立ち直る事が出来なさそうに見え、尚且つ立ち直ったとしてもこれ以上の失敗をして他の人達を巻き込む事を恐れてプレシャーを感じるのではないのだろうか。そう思ったものの、彼女もジムリーダーだ。心情がどうであれ果たさなければならない義務がある。

 エリカは不安に思いながらもカツラとキョウと共にカスミの病室へと向かった。

 カスミの病室の前に来ると、エリカは二人に気づかれないように深呼吸をして、ノックをしてから声をかける。

 

 

 

 「カスミさん、話さなければならない事があります。入りますよ」

 

 

 

 返事は無かったので、一瞬躊躇したが病室のスライドドアを開け、中に入る。

 そこには頭に包帯を巻き、右頬にシップを張りながらも病院服ではなく何時もの服を着たカスミが気合の入った顔で立っていた。

 エリカは予想していなかった事に驚きの表情を浮かべ、その表情を見たカスミは困った様に笑う。

 

 

 

 「心配かけてごめん。自分が犯した失態に悩むよりも爆弾しかけた輩をぶっ飛ばすわ。そうしないと助けてくれたマチスに合わせる顔が無いもの」

 

 

 

 拳を握りながら話すカスミに何時もの調子が戻ったのを感じ、エリカは安堵したが、カツラとキョウはわかっていたかの様に先程話し合って決めていた事をカスミに伝え始めた。

 その様子にどうやらカスミを信じていなかったのは自分だけだったという事に気が付き、信じていなかった自分をエリカは恥じ、カスミを再度見た。

 ジムリーダーの表情をするカスミに自分ももっと精進しなければと思うエリカであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩れ落ちたゲートの瓦礫をのけて、ジムリーダー達と選抜した選りすぐりの警察のトレーナー二十人は慎重にヤマブキシティの中へと入る。

 町には当然ながら人ひとり見当たらず、まるでゴーズトタウンを思わせる程静けさを保っていた。

 ポケモンをモンスターボールから出した後、ジムリーダー二人と警察トレーナー十人の二チームに分かれ、一般人保護を優先に捜索を開始する。

 カツラとカスミのチームは反時計回りに、キョウとエリカのチームは時計回りに捜索する。勿論、別動隊も後に駆け付ける事になるのだが、その前に出来るだけ相手の戦力を削っておきたいと考えている。

 勿論、そう簡単な事ではないとはわかってはいるが。

 

 あたりを慎重に歩きながら徐々に進んでいくが、何事もなく進んでいける事に不気味な何かを感じ、警戒を強めながら、ビルの角を曲がった時だった。

 何かがくぐもった人の声と警察トレーナーの一人が連れていたトラのような模様が入った犬の様なポケモン、ガーディが火炎放射をビルとビルの間の路地裏に仕掛けた。

 すぐさま他のトレーナーとカスミと駆け付け、カツラは彼らの後ろを警戒するように守る。

 カスミはガーディが火炎放射を放った路地裏を覗くが、そこには何もない。

 少し妙に思いながらも火炎放射を放ったガーディを見ると、以前路地裏を睨み付け、路地裏へと入っていく。

 カスミは慌てて、ガーディのトレーナーにこちらへ戻るように指示してもらおうと声をかけるが、誰もガーディに指示を出す人がいない。

 そこにきてようやくカスミは気づいた。

 合計十二人で行動していたのに、ここにいる人は()()()()()()()事に。

 

 

 

 「カツラ、やられたわ!二人も!」

 

 

 

 カスミのその声にカツラも人が減っている事に気が付き、唇を噛み締める。

 おそらくポケモンの力で二人引き離したのだろう。

 それでもここまで簡単にされるのはジムリーダーとして不覚であった。

 そう考えている間にも路地裏からガーディの苦渋の声が響き渡り、思考を中断して路地裏を見たが、ガーディの苦渋の声以外特に変わった様子は見られなかった。

 まるで、この路地裏に魔が潜んでいるのではないかと言う恐怖が沸き上がるが、もちろんそんなオカルトじみた事は無い。おそらくポケモンが潜んでいるのだろう。

 カツラはこのままこの路地裏に入り、警察のトレーナーとポケモンを助けるか否かで迷っていた。

 敵のポケモンが潜んでいる可能性のある所に飛び込むのは愚策であるが、だからといって見捨てるわけにもいかない。

 

 カツラが判断に迷っている時であった。

 突然、カツラの背後を守っていた美しい九つの尾を持つ、狐の様なポケモン、キュウコンがカツラの影に火炎放射を繰り出した。

 カツラは驚いたが、カツラの影から出てきたポケモンの方が驚いただろう。

 

 カツラの影から出てきたのは紫色のボディに悪い事を考えていそうな顔をしたポケモン、ゲンガーであった。

 

 

 

 <ゲンガー、鬼火>

 

 

 

 ゲンガーの首にかけてあるポケナビから少年程の声に反応し、ゲンガーは紫色の火の玉を繰り出し、カツラ達に襲い掛かった。

 当然、カツラ達も反撃する。

 

 

 

 「スターミー!ハイドロポンプ」

 

 

 

 スターミーのハイドロポンプは鬼火をいともたやすく消して、ゲンガーへと迫るが、ゲンガーはそれをあざ笑うかのように華麗に避ける。

 だが、カスミもそんな事予測済みである。

 避けた先にキュウコンと炎を吹き出し、イタチの様な姿の警察のトレーナーのポケモン、マグマラシが火炎放射を繰り出した。

 

 

 

 <潜れ>

 

 

 

 ポケナビから響く声に従う様にゲンガーはマグマラシの影に潜み、火炎放射をよけるが、すかさずマグマラシが自分の影に向かって火炎放射を放つ。

 ゲンガーは移動してしまったのか、マグマラシの影からは出てこなかった。

 

 

 

 「どうした、マグマラシ!お前の影にいるんだろ、早く倒せ!」

 

 

 

 マグマラシのトレーナーである若い青年は興奮した様子でそう叫んだ。

 戸惑った様な表情を見せるマグマラシになおも怒鳴りつけるので、カツラもたしなめる様に声をかける。

 

 

 

 「落ち着け、もうゲンガーは移動したのだ」

 

 「ですが、カツラさん!あのゲンガーのせいで同僚が二人もいなくなったんですよ!絶対そうです!」

 

 「そうだとしてもいなくなったのであれば何もできん」

 

 「本当にいなくなったという保証がどこにあるんですか!今ここで倒しておかないと、同僚の二の舞になるのは御免です!」

 

 

 

 警察のトレーナーである青年の言葉にその場の空気がだんだんと悪い方向に向かう。

 ゲンガーは人の影に潜み命を奪う危険なポケモンである事は討伐対象になる事例もあったので、此処にいる人達は良く知っている。

 その為、知らない間にゲンガーが影に潜んで近づいてきているという事に恐怖を抱いているのだろう。

 そして、その恐怖が周りの人達も不安にさせる。

 敵の術中にはまりつつある事をカツラは感じ、とにかくチームを落ち着かせようと再びたしなめようとした時であった。

 

 その青年が突然倒れて、路地裏に引きずり込まれていくのだ。

 青年自身も何が起こったのかわからないのだろう。完全にパニックになり、助けを求めて叫んでいる。マグマラシは訳が分からないだろうが、必死に主人を引っ張って路地裏に引きずり込まれないようにしている。

 カスミはよく見ると青年の足に緑色の蔓が絡みつき、路地裏に引き込んでいる事に気が付き、すぐさま指示を出す。

 

 

 

 「スターミー、蔓に冷凍ビーム!」

 

 

 

 スターミーの冷凍ビームで凍った蔓は砕け散り、青年は自由になった足でマグマラシと共に急いで路地裏から出てカスミ達の横を通り過ぎ、何処かへ逃げようと真っ直ぐ走っていく。

 カツラは止まるように声をかけた直後であった。

 

 パンッ、という発砲音が響き、青年は後頭部から血をまき散らしながら糸の切れたマリオネットの様に倒れた。そのそばにマグマラシが駆け寄り、頭をこすりつけ、鳴いている。

 灰色のコンクリートの上に赤い鮮血がじわじわと広がっていく。

 カスミは悲鳴を上げないように口元を抑えながら、後ずさりし、呆然とその光景を見ていた。

 だが、カツラは冷静だった。

 すぐに、狙撃してきた位置を大まかに割り出し、全員にビルに張り付く様に指示する。

 他のトレーナーは慌ててカツラの指示通り、ビルに張り付くように立った。

 

 血の広がり方と今までカツラ達が狙撃されなかった事を考えるとカツラ達のいる小さいビルの裏手側に狙撃手がいる事になる為、移動されない限りビルから離れずにいる事が狙撃されない一番の方法である。

 だが、何時までもそうしているわけにはいかない。

 

 

 

 「狙撃手はこのビルの裏手にいる。狙撃手をたたくにはどうもこの路地裏を通らねばならんらしい」

 

 

 

 カツラは路地裏に不自然にもかかるトタン屋根を見ながら路地裏で狙撃される事は無いと確認しながら相手がこちらの行動を誘導している事を悟りながらも、乗るしかなかった。

 引き返すという手もあるが、ただでさえヤマブキシティを占拠された事をマスコミにかぎつけられつつあるのだ。これ以上長引かせると面白おかしく取り上げられ、ポケモンリーグに抗議や苦情の電話が届きかねない。人命が優先だが、上は現場の事など考慮してはくれない。早急に解決しなければならないのである。

 

 カツラを先頭、カスミを最後尾にして路地裏を進んでいく。

 キュウコンに先導してもらいながら、先程青年を引きずり込んだのがポケモンだとするのであれば、草タイプのポケモンがいるはずである。

 だからこそ相性のいいキュウコンを先頭にしたのだが、何故かカツラは言いようのない不安を感じた。

 そして、その予感は的中する。

 

 

 

 裏路地の四辻をカツラと数名のトレーナーが通った時だった。

 四辻の右方向の道から蔓が警察の女性トレーナーに絡みつき、引きずり込んだのだ。

 女性トレーナーは冷静に自分のポケモンである茶色と白のシマシマ模様が特徴的なポケモン、オオタチにいあいぎりを指示する。

 オオタチは素早く蔓をいあいぎりで切断し、主人である女性を心配そうに見つめる。

 女性トレーナーはオオタチを撫でようとして、手を伸ばしたがその手がオオタチに届く事は無く、その場に倒れる。

 オオタチは倒れた主人に必死の呼び掛けるが、女性はピクリとも動かない。

 

 オオタチの必死な様子をあざ笑いかの様に女性の影から現れたのはゲンガーであった。

 ゲンガーはそのまま鬼火でオオタチを吹き飛ばし、シャドーボールをカツラ達に向けて放つ。

 路地裏の壁で回避した後、ポケモンに指示を出そうとしたがそれを察知したのかゲンガーは奥へと進んで逃げていく。

 

 今度こそ、逃がすか。

 

 カスミはそう思い、カツラに叫びながら言った。

 

 

 

 「カツラ!私、あのゲンガーのトレーナーを叩くわ!」

 

 「待つんじゃ!カスミ!」

 

 

 

 カツラの静止を聞かず、カスミはゲンガーをスターミーと追いかける。

 後ろからトレーナーが二人程ついてきているのが分かったが、カスミは気にせずにゲンガーを追う。

 真っ直ぐゲンガーを追いかけていくと、いつの間にか晴れていた空を見ることが出来る花壇に美しい花々が咲き誇る広場に出た。暗い路地裏からいきなり明るいところに出たのでカスミは目を細めながら広場を見渡すと、茶色が混じる黒髪黒目の少年がいた。

 

 

 

 「愚策だよ、カスミさん。一人でこんなところに来ちゃうんだから」

 

 

 

 そういってほほ笑む少年にカスミはハッとして後ろを振り向いた。

 そこにはポケモンと共に倒れた警察のトレーナー二人とその二人を見てあざ笑うゲンガーがいた。

 ゲンガーはそのまま少年の元へと行き、少年はそんなゲンガーを撫でながら首にかかったポケナビを回収し、黒いヘドロを持たせてモンスターボールへとゲンガーを戻した。

 

 

 

 「さて、せっかく来てくれたんだ。歓迎するよカスミさん」

 

 

 

 そう少年、カオルはカスミに言いながらモンスターボールを投げた。

 

 

 


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