言い訳させていただくと、レッドが思う様に動かなかった為、難産になっていた事と我が家のお猫様×2が突然大運動会を始め、PCにコーヒーをぶちまけた事によりPCがお亡くなりになった上、書いていた5000字程の文章が消えてしまった事にショックのあまり寝込んでました。
スマホで書き上げるのはやりづらかったです。もしかしたら次の話も日にちがずれる可能性がありますが、ご了承ください。
「ほら、遠慮せずに食べなさい」
「……ありがとうございます」
宇宙猫顔で老人が鍋からお椀によそった雑炊を受け取りながらカオルはどうしてこうなったんだろうか。と思った。
当初、老人に出会ったカオルは警戒し、逃げようとしたのだが老人の後ろから出てきたカオルも知らない茶色い蛇のようなポケモンが目に入った瞬間、逃げる事を忘れ目を輝かせて凝視してしまった。
冷静に考えればポケモンシリーズは終わっていなのでカオルの知らないポケモンがいてもおかしくはなかったのだが、悲しい事にその時のカオルは冷静ではなかった。
「ご老人、そのポケモンは何ですか?」
「この子かい?この子は主にガラル地方にいる砂蛇ポケモンのサダイジャと言ってね。首周りにある砂袋に砂を100キロもためて、敵に向かって鼻の穴から噴射するんだ」
現実逃避する程の自身の異質さに絶望していた事を忘れてカオルはポケモン好きを遺憾無く発揮し、サダイジャを知る為にあらゆる質問を投げかけた。
老人も打てば響くと言う様にカオルの質問に次々と答えてくれる事もあり、ポケモン談議に花が咲く。
そして、カオルがあらかた質問して満足した時、気が付けば老人のキャンプにお邪魔しており、夕飯を頂く事になっていて冷静になったカオルは宇宙猫顔をさらす事となったのだ。
大体、カオルのポケモン好きが仇となっていた。
冷静じゃなかった少し前の自分を呪いながらカオルは老人から受け取ったお椀の雑炊を匙にすくって息を吹きかけ冷ましながら口をつける。
出汁のきいた温かい雑炊にカオルは思わず、おいしい。と呟いた。
カオルの言葉にホッとした様な表情をした老人にカオルは気づいた。
考えてみれば、老人から見ると薄汚れた少年が何の装備もしていない上にポケモンもつれずに森で思い詰めた表情でいる事に何かの事件性を疑い、声をかけたのかもしれない。
だが、声をかけると自分の知らないポケモンに目を輝かせて質問をしはじめて驚きながらもこれ幸いとキャンプに連れてきたのだう。今もカオルがどこかに行かないようにキャンプに来るきっかけとなったサダイジャがカオルの横に寝転がりながらカオルを見ている。
出されたこの雑炊もカオルがしばらくまともに食べていない事を察して、胃にやさしい食べ物をと思って作られたのであろう事はカオルにも分かった。
そして、色々と聞きたいだろうに何も聞いてこない老人の優しさも分かってしまった。
カオルは胸からこみ上げてくるモノと一緒に雑炊をまた一口飲み込んだ。
降りしきる雨の中、カメールの水鉄砲に踊るように避けて距離を詰める機会をうかがうブラッキーの攻防戦を見ながらカオルは先程のリザードンのバトルが尾を引いている様なレッドの消極的なバトルになけなしの罪悪感が顔を出すが、直ぐに振り払い、ブラッキーに指示を出す。
レッドが仕掛けてこないのであればこちらから仕掛けないと何時までもバトルが動かないと理解したためである。
「イカサマで打ち払え」
ブラッキーはカオルの指示を聞いた瞬間、カメールへと突っ込んだ。
カメールは水鉄砲を繰り出すが、ブラッキーは避けずに急所や行動を阻害しそうな水鉄砲のみイカサマで相殺しながら一気にカメールへと距離を詰める。
ブラッキーの強行にレッドは危機感を覚え、カメールに指示を出す。
「高速スピンで対抗しろ!」
カメールは殻にこもり、水飛沫をあげながら高速回転し、ブラッキーに向かっていく。
カオルはレッドのらしくない悪手に内心で顔を歪めながらも、このままではブラッキーに直撃するので手を打つ。
「守るで受け止めろ」
「しまった!カメール!」
レッドは思わず叫んだが遅かった。
ブラッキーは緑色の壁を出し、高速スピンで突っ込んできたカメールを水飛沫をあげ後退しながらも受け止め、ブラッキーが甲羅の上に乗り抑えつけたと同時にカオルはどくどくを指示する。
ブラッキーは牙から出た猛毒を甲羅の隙間から注ぎ込む。
ゼロ距離からのどくどくは避ける事も出来ず、カメールから苦渋の声が聞こえた。
そのままイカサマを繰り出しカメールを吹っ飛ばしたブラッキーに金の輪が体を包むように浮かび上がり、水鉄砲で少なからず受けていた傷が癒えていく。初手に繰り出した願い事の効果により、体力を回復したのだ。
カオルは雨に濡れた服の重みを鬱陶しく思いながらブラッキーのどくどくで動きが鈍くなったカメールを一瞥し、レッドを見た。
レッドは自身の読みの甘さを後悔しているようで、歯を食いしばっている。その様子にカオルはポケモントレーナーとして今のレッドに足りないのは判断力と心の切り替えだと理解した。
リザードンが我を失いかけた時に迷わずにモンスターボールに引っ込めていればバトルの流れが変わり、カオルもゲンガーを引っ込め、後続のポケモンを出していた。そうなれば、今の様にリザードンの事を切り替える事が出来ずに引きずって読みが甘くなる事もなかった。
もったいないと思いつつもカオルはレッドに塩を送る気は全くない。
「願い事」
「バブル光線!」
祈るように眼を閉じ、体に金の輪が浮かび上がった無防備なブラッキーにカメールはバブル光線を繰り出す。
雨の恩恵を受けたバブル光線が寸分違わずにブラッキーに直撃するが、意に介さず願い事を完成させ、目を開けると何事もなかった様にカメールに向きなおる。
その堂々としたたたずまいにカメールは気後れしたのか、一歩下がるが、ブラッキーを睨みつけてバブル光線を放つ。
ブラッキーは横に飛んで避けながらカオルをチラリと見た。
「イカサマ」
視線を受けたカオルは技を指示し、ブラッキーの視線に答えた。
時折、フェイントを織り交ぜながら距離を縮めてイカサマを仕掛けるブラッキーはバブル光線を受けながらも着実にカメールにダメージをあたえていく。
カメールは自身の攻撃を意に返さずに向かってくるブラッキーに翻弄されながらどくどくの猛毒に耐えてバブル光線を放ちながら一定の距離を保とうとする。
「戻れ、カメール!」
レッドは突然、カメールをモンスターボールへと引っ込めた。
カメールはモンスターボールの赤い光線に包まれ、ボール内に戻された事に不満があるのかボールを小刻みに揺らして抗議している。
レッドはそれを無視して、ボールホルダーに戻し、縮小されたスーパーボールを掌大にして一言声をかけて繰り出した。
「最初の子は遅く、次の子は素早く動いて」
出てきたのは黒と白を基調としたまん丸に太った怪獣のようなポケモン、カビゴンであった。レッドの手持ちはカオルが予想した通りシロガネ山の最初期の手持ちである。眠たそうに大あくびをして出てきたカビゴンにブラッキーはカオルの横まで下がり、カオルを見上げる。
カオルはブラッキーの視線を受けつつも、レッドがカメールを引っ込めたのはブラッキーに対して決定打がなかった事とゲンガーに対抗する為だろうと予測した。
ゴーストタイプのゲンガーとノーマルタイプのカビゴンが対峙すると互いのタイプの攻撃が通らない。つまり、レッドのカビゴンはノーマルタイプの攻撃技しかないという情報をカオルに伝えてしまったも同然である。
もし、あのままカメールでブラッキーを倒すならカメールの体力が半分まで削れるのを待ち、特性げきりゅうを発動させ、水タイプの威力を1.5倍にしてからブラッキーが空中に飛ぶように誘導したり、確実に狙うなら避けにくい閉所、例えばゲンガーが破壊した貯水タンクの中などに追い込んで水鉄砲又はバブル光線を連続で放てば雨の天気の恩恵により水タイプの威力が更に1.5倍上がり、合計で3倍の威力効果が加算された攻撃をするとカオルは読んでいた。
何故なら、ブラッキーが1度は守るで防げても連続での使用は失敗しやすい為、攻撃が当たる可能性は十分あり、大ダメージは避けられない。運が悪ければ、急所に当たりレベル差があるとはいえ、そのまま戦闘不能になる可能性すらある。
ただし、カメールはどくどくを受けている為、体力的に一発勝負になる上に失敗すれば反撃され、戦闘不能になるのは避けられない。
もし、カメールの特性が天気が雨の時、毎ターンHPが16分の1回復するという夢特性のあめのうけざらなら猛毒が回復を上回るので、カオルでもボールに引っ込める。
レッドとしてはカオルの後続の手持ちがフルメンバーなのか何匹か戦闘不能になっているのかわかっていない為、一か八かの賭けよりもゲンガーや後続のポケモンに対抗できる手札として温存しておきたいカメールを引っ込め、耐久力と攻撃力の高いカビゴンで耐久勝負を仕掛けたのだろう。
だが、カオルの調べではシオンタウンまでの旅でレッドはカビゴンを手に入れていなかった。こうして手持ちに加わっている事を考えるとヤマブキシティに至る道でゲットしたと予想される。
そうなると問題はカビゴンとのコミュニケーションが十分にとれているかどうかである。
実はこのポケモン世界は現実世界のゲームの時とは違い、ポケモンを捕まえてもコミュニケーションが上手くとれていないと指示を無視して好き勝手にポケモンバトルをするポケモンが少なからずいる。
ポケモン達はゲームとは違い意思を持った生き物なので捕まえた時に群れの上下関係と同じくトレーナーが上であると認め、従ってくれるのだが、例えるなら臨時で組まされたチームの上司と部下という関係で信頼とは程遠い。
信頼がないと指示してもポケモンが本当にこの指示に従っていいのかと躊躇し、その数秒の間がポケモンバトルでは致命的なミスになりかねないので、ポケモンバトルに出すのはある程度の信頼関係を築いたポケモンである事がポケモントレーナーの暗黙のルールである。
ゲットから日が浅い事を考えると技調整だってできていないはずで、レッドはよっぽど自身があるのか、それともそれ程余裕がないのかカオルには判断しかねた。
「どくどく」
「のしかかり!」
カオルまずはカビゴンの特性を調べる為、ブラッキーにどくどくを指示した。
カビゴンの通常特性には炎、氷タイプの攻撃を受けた時、ダメージが半減するあついしぼうと毒の状態異常にならないめんえきがある。このポケモン世界では体力が半分以下になった時に木の実を使う夢特性のくいしんぼうはカビゴン本来の食欲旺盛な生態が邪魔をし、発見に至っていないようだが、通常特性であるこの2つは発見されているのだ。
これまでの事を振り返るとこの世界のレッドが特性を気にしている様には見えない。だが、特性がめんえきであれば、方針を変更しゲンガーに交代しなければならない為、確認しなければならない。
もし、あついしぼうやくいしんぼうだったとしても猛毒状態にできるので問題は無い。
ゆっくりと立ち上がったカビゴンに素早く近づき、猛毒の牙で噛みつこうとするブラッキーをカビゴンは狙いを定め、のしかかろうとするのをブラッキーはギリギリまで避けず、引き付けてから横に飛んで避ける。
鈍い音を立てながらコンクリートの床に罅を入れたカビゴンはブラッキーが回避した事を悟り、再び立ち上がろうとするが、ブラッキーはカビゴンの背中に飛び乗り、猛毒の牙を突き立てる。
カビゴンは背中の痛みに鳴き声を上げながら体を大きく左右に震わし、ブラッキーを振り払った。1回転しながら綺麗に着地したブラッキーはカビゴンから距離をとり、様子を窺う。
カビゴンはブラッキーに噛まれた背中を痛そうにさすりながらも元気にブラッキーへとのしかかろうとしてくる。
「戻れ、ブラッキー」
カオルはカビゴンの様子に特性はめんえきだと判断し、ブラッキーをモンスターボールに引っ込めて縮小し、ボールホルダーに装着されたゲンガーのモンスターボールと入れ替える。
掌大になったモンスターボールからゲンガーが繰り出された瞬間、レッドはカビゴンに指示を出した。
「冷凍パンチ!」
読み間違った!
カオルは自身の読みが間違っていた事に気がついた。
レッドはあえてゲンガーに対する札はカメールであるとカオルに思わせる為、ブラッキーを無理に倒さず、カビゴンを出すことによりノーマルタイプの攻撃技しかない為、ゲンガーに対抗できないと誤認させ、特性を利用してゲンガーに交代するように仕向けたのだ。
更にレッドは知らなかったがカオルが事前にレッドの手持ち情報を入手し、情報の無かったカビゴンはゲットして日が浅いと判断し、逆算すると技構成を整えていないのではないかと予想していたのも仇となり、冷凍パンチが飛んでくるとは思わなかったのだ。
のしかかりの時はゆっくり動いてたと思えない程の俊敏な動きでカオルが指示する間もなく、ゲンガーに冷凍パンチが迫る。ゲンガーは咄嗟に身を引いてかわそうとしたが、左の腹に直撃した。
冷気をまとったその右の拳は直撃した左の腹を中心に左手と左足を凍らせ、ゲンガーのその身をコンクリートの床に縫い付けた。
氷の異常状態である。
ここで10%の確立を引くとかどんな豪運だよ!
カオルは心の中で悪態をつくが、レッドが続けさまに指示を出そうとしている為、これ以上攻撃を受けないためにも指示を出す。
「カビゴン、もう一度だ。冷凍パンチ!」
「ゲンガー、身代わりから鬼火!
カビゴンが再びゲンガーに冷凍パンチを叩き込もうと右の拳を振り上げると身代わりである人形が立ちはだかる。カビゴンは邪魔な人形を排除する為、冷凍パンチを人形に叩き込んだ。
身代わりの人形は冷凍パンチによりその身を凍らせ、粉々に砕ける。
無残に散った人形を一瞥したカビゴンはゲンガーに拳を向けるが、その前に鬼火がカビゴンに襲い掛かった。
避けようと身をよじったが、予想していた様に怪しく動くので、冷凍パンチで叩き落とす。
1つ残らず叩き落したカビゴンはゲンガーに冷凍パンチを向けようとして気づいた。
氷の異常状態になっていたゲンガーが氷から逃れていたのだ。
ゲンガーは出した鬼火をカビゴンに半分向け、残りは凍った左手、左の腹、左の足にぶつけて氷を溶かし、氷の異常状態を脱したのだ。
だが、何の代償もなく脱する事はできなかった。
ゲンガーの左手、左足には焦げた後が残り、痛そうに顔を歪める。
鬼火が氷だけではなく体までも焼き、火傷状態になったのだ。
ゲンガーに金の輪が浮かび上がり、傷を癒していく。
ブラッキーの願い事が発動したようだが当然、火傷は癒える事はなく、持ち物である黒ヘドロの回復が無意味になってしまった事は必要経費として割り切り雨が止みつつある中、カオルはレッドのカビゴンが何故、技マシンで習得するはずの冷凍パンチを覚えいるか考えた。
技マシンの冷凍パンチは他の炎のパンチ、雷パンチとセットでシルフカンパニー社から3か月前に発売されたが、その珍しさと技の便利さと扱いやすさから高額で取引され、セレブ層や上位ポケモントレーナー、ポケモン研究所等に流通され、まだ一般には出回っていない。
今は新人ポケモントレーナーの部類であるレッドが手に入れる事の出来る代物ではないのだが、カオルはそこまで考えてレッドの幼馴染兼ライバルを思い出し、戦犯はお前か。と真顔になった。
グリーンはオーキド博士の孫でそういう一般には入手しにくい道具や情報が入りやすい。
大方、オーキド博士に実戦データ等を取引に入手したのだろうとカオルは推測した。そして、もっと多くのデータを取る為にレッドにも渡されたのだろう。本当にグリーンは余計な事をしてくれた。と内心で悪態をつきながらもカオルはポケモンバトルに集中する。
「鬼火」
「冷凍パンチ!」
カオルが
カビゴンは目を吊り上げて、その拳に冷気をまとわせ、鬼火とゲンガーに振りかざす。
冷凍パンチが当たりそうになると影に逃げ込んで回避する様はモグラ叩きの様でゲンガーは楽しくなったのか先程の不気味な笑みから一転して子供の様に無邪気に笑っている。
カオルはブラッキーの時とは初動の速さが違うカビゴンに素早さをごまかされていた事を悟るが、奇襲が終わり、冷凍パンチというタネが明らかになった以上、特に問題はないのでながした。
カビゴンはゲンガーに再び容赦なく冷凍パンチを叩き込もうとしたが、拳に冷気が上手くまとえず、冷気が拡散した。
ゲンガーがカオルの出したサインの指示に従い、金縛りで冷凍パンチを封じたのだ。
そうとは知らずに首をかしげながら不思議そうにするカビゴンの隙をついてゲンガーは鬼火をその大きなお腹に命中させた。
カビゴンは息を詰まらせて火傷の痛みに顔を歪める。
レッドは驚いた表情を浮かべたが、直ぐに何故、冷凍パンチが放てなくなったのか理解したのか、金縛り?と呟いた。
カオルは微笑んでその呟きを肯定すると、ゲンガーとカビゴンを見ながら思考を巡らせる。
冷凍パンチというゲンガーの対抗手段を封じている為、レッドはこの後、カビゴンを引っ込める可能性がある。カオルもそれに合わせてゲンガーを戻したいが、躊躇した。
何故ならゲンガーを戻すとその後に再びブラッキーを出す事になるからだ。
ポケモンバトルが始まってからゲンガーとブラッキーしか出していない事をレッドに気づかれれば、ポケモンバトルになる前のピジョットを含めた3匹以外は戦闘不能じゃないかと予想される可能性がある。
そうなると、レッドに後続のポケモンが何匹いるかというプレッシャーを与える事ができない。
後続のポケモンが何匹かわからないからこそレッドは残りのポケモンでどう切り抜けていくかと手探りでポケモンバトルをしなくてはいけない。そうなると取れる手段が狭まれ、無茶な攻撃や突拍子もない攻撃が襲いかかる事は少なくなるだろう。とカオルは思っていた。
さっきの冷凍パンチの件は例外である。
ともかく、レッドに後続のポケモンの数を気づかれないためにはゲンガーを引っ込める事は得策ではないように思えたのだ。
「カビゴン、戻れ」
予想通りカビゴンを引っ込めたレッドを見てカオルはどうするんだ。という目線を投げてきたゲンガーに顔を横に振って、戻さない事を伝えた。
ゲンガーは左肩を回し、やる気十分に見えるがカオルには無理をしているのが分かり、内心で顔を歪める。
カオルはここにきてマリルリが使えない事がこれ程レッドとのポケモンバトルに支障をきたすとは思ってもいなかった。一応、マリルリをポケモンバトルに出す方法はあるにはあるのだが、カオルとしては使いたくない手段の1つなので保留した。
モンスターボールから出てきたカメールは着地した時にふらつき、屋上のコンクリートの床に手をついたが、ゲンガーを睨みつけながら立ち上がる。
「水鉄砲!」
「シャドーボール」
カメールは水鉄砲を連続で放つが、ゲンガーはスッテプでも踏むかの様に避け、シャドーボールをカメールに繰り出したが、水鉄砲で相殺される。
ゲンガーはじわじわとカメールに近づいており、カメールもゲンガーが距離を詰めてきている事に気づいているのか少しずつ後退して距離を保とうとしていた。
「カメール、バブル光線を床にばら撒くんだ」
カオルは一瞬、レッドの指示に疑問符を浮かべたが、直ぐにレッドの狙いを理解する。ばら撒かれたバブル光線により、コンクリートの床は泡だらけになり太陽の光を受けた泡の乱反射で影が少なくなったからだ。
影が少なくなればゲンガーが影に逃げ込んだり、影から奇襲す事も出来なくなる。現にゲンガーは困り顔で足元の泡をつついた後、カオルの顔を見ている。
「金縛りからシャドーボール」
リザードン戦から調子を取り戻してきたのであろうレッドの発想や読みに感心しながらもカオルは指示をだした。
広範囲技がない以上、バブル光線を金縛りで封じて地道に泡を割っていくしか方法が無い。ゲンガーは金縛りでバブル光線を封じ、足元の泡を踏み潰して割りながらシャドーボールをカメールに繰り出す。
カメールは息が上がりながらも水鉄砲でシャドーボールを相殺しつつ、ゲンガーにも繰り出した。
ゲンガーは向かってきた水鉄砲を避けようとしたが、火傷した左手と左足に強烈な痛みが走り、一瞬体が硬直した。
その一瞬の隙でゲンガーが避けきれない距離になった気が付いたカオルは指示を出す。
「身代わり」
身代わり人形で水鉄砲から逃れたゲンガーだが、息が上がっており、これ以上身代わりは使えない様に感じたカオルは思った以上に消耗したゲンガーを見て、モンスターボールに引っ込めようとボールホルダーから取り出そうと手にかけた時、カメールがコンクリートの床に倒れた。
カメールは両手足を投げ出して目は回り、息も完全に上がっている様子から猛毒が完全に体にまわり動けなくなったのだろう。カメールが戦闘不能になっているのを確認したゲンガーはシシッ、と笑いながら後ろに倒れ、目を回しカメールと同じように戦闘不能となった。
おそらく、火傷のダメージにより体力が底を尽きたのだろう。このヤマブキシティの作戦で一番働いたのでカオルは説教は無しにする事にした。
レッドはモンスターボールにカメールを戻すと同時にカオルもゲンガーをモンスターボールに戻し、縮小してボールホルダーに収めた後、ブラッキーのモンスターボールを取らずに違うモンスターボールを手に取り、掌大に戻して覗き込む。
モンスターボール越しに見られた中のポケモンは怪訝そうにカオルを見ており、心なしか不機嫌オーラが見える様な気がした。
ゲンガーが戦闘不能になった以上、カビゴンに対して予定していたサイクル戦は出来なくなったので、背に腹は代えられないとカオルは覚悟して取引を持ち掛けた。
「今の任務の事後処理が終わったらボスのポケモン調整に付き合う予定なんだけど」
興味なさげに聞いている様に装っているが、ピン、と長い耳を立て興味深々で聞き入っているのをカオルは長い付き合いで理解していたので、言葉を続ける。
「今、ポケモンバトルして活躍してくれたら彼奴やヤドランじゃなくて、君を出してあげる」
そう言ってモンスターボールを投げたカオルはモンスターボール特有の赤い光から出てきたポケモン、マリルリが目を輝かせながらやる気十分に跳ねている様子を見て、これだから戦闘狂は。と思いつつ、6匹目とヤドランを指名している首領であるサカキにどう言い訳するか後で考える事にする。
テンション高く屋上のコンクリートの床を足で叩いて罅を入れているマリルリの様子を見たレッドは引いた顔をして訳が知りたそうにカオルを見ているが、カオルは無視した。
カオルに会話する気がない事を悟り、カビゴンを繰り出してきたレッドは先手必勝とばかりに指示を出す。
「のしかかり!」
「滝登り」
カビゴンはマリルリの上に飛び、その大きなお腹でマリルリにのしかかろうとするが、マリルリは青く丸い両手を握ると水を纏わせ、振りかざした。太陽の光を受け、キラキラと光る水滴を辺りに飛ばしながらカビゴンの左の脇腹にヒットした滝登りはカビゴンの体の着地点をずらし、マリルリの横に右から倒れた。
平均で460kgあるカビゴンの体の軌道をズラすのはほぼ不可能であり、普通カビゴンにのしかかりを仕掛けられたら避けるしかないので、相当な力がないと出来ないマリルリの所業にレッドは口を半開きにして驚いていた。
カオルとしては自主的に自身を鍛える為、いくら特性力持ちで平均より大きく筋肉量が2倍近くある個体(平均は高さ78.7cm、重さ28kg。カオルのマリルリは高さ1m、重さ50kg)だとはいえ、サナギラス(平均で高さ1.2m、重さ152kg)を2体俵持ちしてバトルフィールドを端から端まで完走したマリルリを見た時から何をしていても驚かなくなったので、初めてマリルリの鍛練を見た部下と似た様な反応をするのだな。とずれた事を思った。
カオルはマリルリがやる気があり過ぎて“いつもの力加減”が出来ていない事に気がついていたが、指摘してボイコットされては困るので、そのままやらせておいた。
「ばかぢから」
「っ!カビゴン、頭突きだ!」
先程の力を見て弱点のタイプで攻撃されればひとたまりもないと理解し、尚且つ避けられる程の距離ではないと判断してレッドはカビゴンに頭突きを指示した。カビゴンも危険と思ったのかマリルリが力む際に咄嗟に急所に当たらない様に身を捻り、マリルリのばかぢからをその身に受けながらも、頭突きを繰り出した。
激突した両者の技はマリルリの力勝ちとなり、カビゴンの体をコンクリートの床に叩きつけ、大きな罅を作りビルを僅かに揺らした。よく見るとマリルリの額は赤く、傷がありそれなりにダメージを受けた様であった。
頭突きをされた額をさすったマリルリが悪役らしく笑ったのを見たカオルは終わったな。と確信した。
何故なら、マリルリが目で語っていたからだ。
お前、サンドバックな。と。
ばかぢからの効果で攻撃と防御が一段階下がったが、そんな効果なんて関係ねえよとでもいう様にダメージに苦しむカビゴンに再びばかぢからを叩き込もうとするマリルリを見たレッドは慌てて指示を出す。
「冷凍パンチ!」
レッドの無駄な足掻きにカオルはため息をついた。
ゲンガーの様に氷の状態異常を狙ったのだろうとカオルは予想したが、約10%の確率にかけるのはリスクが大きい。仮に氷の状態異常になったとしてもゲンガーとは違い手加減を忘れた今のマリルリがその程度で止まるとも思えなかったからだ。
カオルの予想通りカビゴンの冷凍パンチもろともマリルリはばかぢからを打ち込み、罅割れていたコンクリートの床が限界を迎え床が抜けてしまい、カビゴンの巨体は下の階へと消えていった。
マリルリはカオルの手持ちの中で2番目に破壊力のあるポケモンで6匹目程の広範囲での破壊力はないが、コンクリートの床を2撃で破壊することなど楽勝なので、カオルは驚きはしなかった。
埃がはれ、カオルはカビゴンを確認すると目を回しており戦闘不能になっていた。
カオルの勝利である。
約束だからな、戦わせろよ。とでもいう様にマリルリに付き纏われるカオルは頭を撫でて分かっているから落ち着けと慰める。そうしないとじゃれつくをくらいそうな勢いだった為である。
カオルはまだ死にたくはなかった。
マリルリをモンスターボールに引っ込め、カオルは懐から取り出したスーパーボールを手に持ちながらレッドに向いた。
カビゴンをスーパーボールに戻して顔をこわばらせながら身構えたレッドにカオルは微笑みながら話しかける。
「ポケモンマフィアに負ける意味を君は考えた事があるかな?」
大人が子供を優しく叱る様に話しかけてくるカオルをレッドは睨み、質問には答えなかった。
カオルは返答など最初っから求めてはいなかったので無視して続ける。
「答えは手持ちポケモンを奪われるか、ポケモンを奪われた後、邪魔者として殺されるかだ。私は君には両方ともしてなかったけど、流石に今回は目に余るかな」
そう言って懐から拳銃を取り出し、レッドに銃口を向けたカオルにレッドは後ろに下がるが、パラペットにあたり、これ以上下がれない事を理解して冷汗が背中を流れる。
レッドの様子に笑みを深めながらカオルは一歩ずつ近づき、3m程の距離で止まる。
「じゃあ、またねレッド君」
カオルが微笑を浮かべたままレッドに言った瞬間、目の前に見た事もないポケモンが現れた。そのポケモンの眼が怪しく光るとレッドは強烈な眠気に襲われ、暗闇の中に落ちていった。
前に崩れ落ちたレッドを急いで支え、深い眠りに落ちている事を確認するとカオルはレッドを眠りに落としたツインテールの様な頭にスカートを模した様なものと細い脚はバレリーナの様なポケモン、キルリアをよくやったと言う様に頭を撫でる。
キルリアは照れたように笑いながらカオルの手を受け入れ、足に抱き着いた。
懐から取り出したスーパーボールに入っていたのはこのキルリアだった。レッドが拳銃に注目し命の危機に怯えた時、カオルの背後に繰り出し、催眠術をハンドサインで指示したのだ。
レッドにとっては人に殺されるかもしれないという恐怖と怯えでボールの開閉音に気づかないだろうというカオルの思惑は見事にあたり、レッドは訳も分からず眠りに落とされた。起きた時レッドは怒るかもしれないが、大人達の説教が待っていると思うのでカオルはこの悪戯など些細な事だと思った。
全てを見ていたラムダはレッドに同情たっぷりの視線を送っていたが。
そんな事を思っているのを知りながらもカオルの足に抱き着くこのキルリアはポケモンの密輸業者から手持ちポケモンとして育てる為に安くは無い値段で買い取り、カオルが育てたポケモンの1匹なのだが、元々ポケモンバトルが好きではない上に進化を拒む為、どうするか悩んでいた時にヤドランを手に入れたのでカオル専属のテレポート要員として活用している。
「キルリア、シェルター付近にいるグリーンの上に置いてきてくれる?」
レッドにまだ一般に流通していない冷凍パンチの技マシンを渡したであろう戦犯に報復するべく指示する。
カオルが懐から取り出したグリーンが写った写真を見たキルリアはキル。と手を上げて返事をし、レッドをサイコキネシスで持ち上げ、一瞬で消えた。
テレポートで移動したのだろう。
その様子を確認したラムダはまだ見ぬオーキド博士の孫に心から同情し、合掌した。
強く生きろよ、坊主ども。
カオルがラムダに振り返った時には表情を引き締めて何事もなかったように真剣な表情で撤退状況を報告する。
「シルフカンパニー本社と子会社の部下はすでに撤退済みです。ただ、路地裏の部下は7名中4名は捕縛されたようで戻ってきてません。住人を閉じ込めているシェルター付近の部下も応戦しているようで撤退率は3分の2程度です」
「何でそんなにもたつくんだろうね」
ため息をついたカオルにラムダは全員が貴方みたいに効率よく動けませんて。と心の中で突っ込みを入れたが、表には出さなかった。矛先を向けられたくなかったので。
「ラムダ、無線で災害指定ポケモンの使用許可をだし給え。キルリア、悪いけれど路地裏の部下が捕縛されたから回収。出来るね?」
ラムダは無線でカオルの指示を部下たちに伝え、いつの間にかカオルの元へと帰ってきていたキルリアはカオルの次の命令を遂行すべく再びテレポートして消えていった。
それを見送ったカオルはラムダに撤退する事を告げ、テレポートマットを回収し、気絶している部下と共にラムダの持っていたテレポート用ポケモンで撤退する。
シェルターの方角からド派手な音が聞こえ、ラムダはどれぐらいの被害が出るのやら。と現実逃避した。