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カントーリーグに挑戦する為、チャンピオンロードを通りセキエイ高原へと向かっていたレッドは休憩中にいつの間にかバックから飛び出していたバッジケースを発見し、慌ててバッジが全部そろっているかを確認した。
バッジの紛失は申請すれば再び貰う事が出来るが、下手をすれば一ヶ月以上かかる恐れがある為、カントーリーグの登録に間に合わなくなる可能性があるのだ。
8つ全てあるのを確認し、レッドは安堵の息を吐いた後、先日手に入れたバッジが目に入り、雲一つない快晴の空にそのバッジを掲げた。
レッドは太陽の眩しさに目を細めながらトキワジム制覇の証であるグリーンバッジを見ていた。
トキワジムのジムリーダーがロケット団の首領であるサカキだと知った瞬間、トキワジムから逃亡して警察に通報する事も考えたが、子供であるレッドの言葉を警察が聞くとは思えない上にサカキがロケット団の首領であるという証拠もない。そもそもサカキがトキワジムから逃亡するレッドを何もせずに見送るとは思えないので、レッドはその場にとどまってサカキを睨みつけた。
サカキはそんなレッドを鼻で笑い、トキワジムのジムリーダーとしてではなくロケット団の首領としてポケモンバトルを仕掛けてきた。
激戦の末に勝利したレッドにサカキはトキワジムのジムリーダーを辞するどころかロケット団を解散させるとまで宣言したのには驚いたが、サカキの顔を見て本気で言っているのだと確信したレッドは何も言わずにジムを後にした。
サカキのジムリーダー引退宣言は5日後のポケモン新聞の一面を飾り、カントー地方中の話題になった。ポケモン協会からカントーリーグ参加登録期間後の引退となるという発表があった為、ポケモンリーグに参加するポケモントレーナーはジムバッジが足りなくなるのではないかという心配がなくなり、安堵した者もいれば何故引退する事になったのかを根も葉もない脚色をして噂し、楽しむ者もいた。
唯一事情を知るレッドは気分が悪くなるような的外れな噂を聞いて顔を歪めたが、自分が違うと騒ぎ立てても面倒な事になるだけである事を理解していた為、沈黙を保った。
本当にロケット団が解散するのかレッドには知るすべはないが、あの付き物が落ちたかのようなサカキの顔を思い出し、待ってみようと思うのであった。
グリーンバッジを見ているレッドは突如肩が重くなり、体制が崩れた。
肩を見るとピカチュウがニッコリとレッドに笑いかけている。
如何やらレッドの肩にピカチュウが飛び乗り、その重みで体勢が崩れてしまったようだ。幸いレッドはすぐに体制を整えた為、倒れこむような事態にならなかった。
「出会った時よりも重くなったんだからいきなり飛びつくのはやめた方がいいぞ」
苦笑しながらピカチュウの頭を撫でたレッドは笑顔で固まり、青筋を立ったピカチュウの顔を見ていなかった。
この後、雲一つない快晴に電撃が走ったのは言うまでもない。
後にレッドはオスなのに体重を気にするピカチュウに乙女かよ。と思ったが、口にはしなかった。
トキワの森。
ある森の神が住み、古くから信仰され祭られている為かその森は殆ど人の手が入らず、手つかずの自然が広がっている。
マサラタウンとトキワシティに隣接している影響で時折野生のポケモンが町に迷いこむ事例が後を絶たない為、トキワジムのトレーナーや警察が定期的な巡回をしており、トキワジムのジムリーダーであるサカキも一人になりたい時や息抜きを兼ねて巡回に参加する事があった。
サカキが先日発表したジムリーダー引退宣言により、ジムやトキワシティには連日マスコミや野次馬が張り付いている状態の為、ジムトレーナーがサカキをこっそりトキワの森の巡回に組み込んだ。それによりサカキはマスコミや野次馬だけではなくジムからもロケット団からも離れて一人で過ごせる時間を得る事が出来た。
ジムトレーナーの気遣いに感謝しつつもトキワの森の巡回をおろそかにする事はせず、隣に大きな頭蓋と身の丈ほどのこん棒の様な骨を持つほねずきポケモン、ガラガラを連れながらサカキは巡回ルートを巡っていた。
オレも落ちたものだな。
サカキは赤い子共とのポケモンバトルを思い出し、苦笑した。
ガラガラはサカキをチラリと見てきたが、直ぐに何事もなかったかのように辺りを警戒する。
赤い子供、レッドとのポケモンバトルは自身の最高のポケモンで戦った。コンディションも悪くなく、サカキは全力を出し切ったと言い切れるポケモンバトルであったにもかかわらず、レッドに敗北した。
サカキにとって予想外だったのはレッドに敗北した瞬間感じたのは悔しさではなく、安堵だった。
何故、安堵したのかサカキ自身も良く分からなかったし、数日たった今もはっきりとした理由はない。
だが、レッドに敗北した勢いでジムリーダーを辞め、ロケット団を解散すると言った事を後悔していない事を考えると自分は誰かに止めて欲しかったのかもしれないと思う様になった。
散々ポケモンを道具として商品として利用した挙句、誰かにそれを止めて欲しかったなんて口が裂けても言えない上に今更誰かに止められてもサカキは許されない程の罪を背負っている。
これから手持ちポケモン以外の今まで築き上げてきた全てを(会社経営を含め)手放すつもりであるが、今までしてきた犯罪の数々を消せるとは思っておらず、むしろある意味逃亡になるので罪状が重なるだけなのだが、サカキにとっては今更なのでそこはどうでもよかった。
問題はロケット団である。
サカキにとってロケット団はカントー地方の裏社会を牛耳る為の道具である。
カントー地方の裏社会の根本を担っており、ロケット団を解散すると裏社会の秩序が乱れ、表社会にも大なり小なり影響が出るだろう。
サカキは表社会がどうなろうと知った事ではないのだが、立つポッポ跡を濁さずというカントー地方のことわざがあるように勝者であるレッドに一定の敬意を表してなるべく穏便にロケット団を解散させたいという思いが少なからずあった。
だが、どう考えても末端の者が暴走する未来が見えてしまい、サカキは段々面倒になってきた。
尊敬と崇拝も考え物である。
「色々悩んでおいでですね」
突然、声をかけられたサカキは声のした方向に勢いよく向いた。
そこには何時もの黒服を着て木にもたれかかっているカオルが微笑を浮かべて立っており、その隣には護衛なのかブラッキーが座っている。
サカキは隣にいるガラガラを見たが、ガラガラは何故サカキに見られたのか分からない様子で首を傾げていた。
このガラガラはロケット団の幹部やトキワジムの一部のジムトレーナーには警戒することなく近づけさせている事を思い出し、サカキはカオルに向きながら口を開いた。
「珍しいな。オマエが
「いいえ。ただ、そろそろロケット団をどう解散させるか悩んでいるかと思いまして」
カオルの言葉にサカキは驚きはしなかった。
ロケット団の情報を担っているカオルならば表社会のサカキの情報など筒抜けだろうとは予想できる。意外だったのは接触してきたのが予想よりも数日遅かった事だ。
「オマエにしては情報が随分と遅いな」
「何分、ロケット団を解散させるにあたっての準備に手間取りまして」
当たり前の様に語るカオルにサカキはレッドとのポケモンバトル以前にカオルがこうなる事を読んでいたのではないかという考えが浮かんだが、ジムリーダーでもあり、未来予知を得意とするナツメの様な能力はカオルにはないので、サカキはその考えを振り払い、カオルが考えるロケット団を解散させる方法を問いかけた。
「一応オマエの案を聞いておこう。どうやって解散させるつもりだ」
「簡単です。ボスは私が指定する日に解散命令を出せばいいだけですから」
微笑んだままそう言ったカオルにサカキは数年の付き合いからこれ以上説明する気がない事を感じ取り、眉を寄せた。
カオルの秘密主義は今に始まった事ではないが、さすがに説明不足過ぎる内容でサカキも容易に了承する事が出来なかった。
勿論、今までカオルの出した案は全てロケット団、特にサカキには利をもたらしてきた為、上手くやるであろう事は理解しているし、信頼している。だからと言って了承する程サカキも甘くはなかった。
辺りを警戒しているガラガラは近くに強いポケモンの気配がしないのか、警戒を多少緩めてサカキとカオルの様子を見ている。ブラッキーは長い耳だけを動かし、辺りを探っている様子であった。
トキワの森の木の葉が風でざわめく音を聞きながらサカキはカオルの言葉の意味を読み解こうとするが、情報が足りないせいで真意が見えない。
黙り込んだサカキにカオルは警戒されて了承を得る事が出来ないと判断したのか、ようやく口を開いた。
「簡単な事です。先生を利用するんですよ」
「…!確かにヤツと関係が深いロケット団はとばっちりを避ける為に一時期解散せざるを得ないが、そんな事をすれば裏社会がとんでもない事になるぞ」
「裏社会どころか表社会も大きな影響が出るでしょうね。安心してください、そこはもう手を打ってあります。近日開催されるカントーリーグが中止になる可能性がありますがね」
カオルの言葉にサカキの脳裏にレッドの顔がよぎる。
だが、それは一瞬だった。
「……そうかそれだけで済むのであれば進めてくれて構わん」
「いいんですか」
「オレがあのガキに気を使うと思うか?」
サカキの言葉が予想外だったのだろう。少し驚いたように言うカオルにサカキはそう返した。
本音を言えばカントーリーグに影響がないようにしたかったが“ある事情”により今年のカントーリーグは多少の延期があっても中止はないと予想出来たからだ。
その情報を得ていないのであろうカオルは一瞬思考してサカキの言葉の真意を読み取ろうとしたが、サカキからの了承を得ることを優先したのか、そうですか。と返すのみだった。
後で部下も使って情報収集を行うのだろうと予想しつつも止めなかったサカキは話は終わったと木から背を離したカオルに世間話のように言葉を投げる。
「カオル。ロケット団が解散する今だからこそいうが、オマエはあえて暴虐な振る舞いをしてロケット団の統制をはかった。そうだろう?」
「それはボスの考えすぎですよ。私はこの通り見た目で舐められますから畏怖を植え付けておかないと指示に従う者がいないからです」
「それは建前だ。オマエはオレがロケット団の末端の者まで統制できていない事に気づいていた。だからこそ分かりやすい恐怖の対象を作り、その恐怖の対象がオレには従うところを見せる事で、オレに尊敬と崇拝が集まるようにした。オマエが切り捨てたり、処分した者の大半はロケット団に入ったはいいが、従う気もない反乱分子だ」
カオルはサカキの言葉に口を閉ざした。
カオルが珍しく言葉が出てこない様子にサカキはふっと笑い、言葉を続けた。
「嫌われ者になってでもオレとロケット団に尽くすその姿勢が
カオルは何時もの微笑を崩し驚愕の表情を浮かべた。
その時にはサカキはカオルのほうに向いておらず、サカキの表情を見ることはできなかっただろう。
「だが、どんなに信頼と恩を与えてもお前の抱えている秘密はオレにはついぞ教えてはくれなかったな」
「……ボス、貴方はロケット団を解散させた後どうするのですか」
「さあな。だが、これから時間は沢山あるんだ。旅でもしながら考えるさ」
言い終えると同時にサカキはトキワの森の巡回に戻るために足を進め始めた。
何も言わずに見送るカオルが気になるのか何度か後ろを確認していたガラガラだったが、ある程度離れると護衛に集中し始めた。
サカキはカオルの秘密を暴こうとは思っていない。
何故ならカオルの行動を監視する中である程度カオルの目的に検討がついた為である。
サカキにとっても悪くなかったので、ロケット団の幹部としての地位を与え、動きやすくしてきたつもりだった。
それがようやく実るのだろう。
サカキはこれからおこるカントー地方の歴史に残るかもしれない大事件が起こることを確信し、空を見上げた。
雲一つない快晴の空はカントー地方にこれから訪れる嵐を予感させた。