ポケモンタワーにフジ老人達を助けに行ったレッドは下っ端ロケット団団員を蹴散らし、残りは最上階でフジ老人達を見張るロケット団だけとなった。
ライバルであるグリーンと
ポケモン達を確認するとやる気十分と言う感じで、一匹も戦闘不能になってはいないが、レッドは油断をせずに階段をのぼりながら、タマムシシティで起こった事を考えていた。
タマムシシティのロケット団本部で会ったロケット団首領、サカキにシルフスコープを渡された時、去り際に、言われた言葉がレッドにとって印象深かった為だ。
「お前と彼奴は意外と似ているのかもしれないな」
そうサカキに言われた時、レッドは真っ先にお月見山で出会った黒服の自分とそう年も変わらない少年を思い出した。そして、即座に心の中で否定する。
レッドはポケモンを道具と思ってなどないし、少年の様に平気で誰かが不幸になったり死んでもかまわないと言う様に悪事をしたりしない。むしろ、真っ先に悪事をする人を止めて捕まえる方だ。
レッドの表情で思っていることが分かったのか、サカキは似ているさ、と続ける。
「彼奴が
そう言って、サカキはレッドの返事も聞かずに逃げた。
レッドはそれからというもの少年について考えるようになってしまった。
少年がどういう経緯で悪の組織であるロケット団に入ったかはわからないが、今思い出してみると彼の連れていたブラッキーは懐き進化の為、信頼されていないと進化しないし、ピカチュウとのバトルでレベル差のせいでよく見れはしなかったが、バトルの動きで効率的に鍛え上げられている事は一目でわかる程であった。
それは、ポケモンに愛情を持って接しなければできない程に。
だからこそ、レッドは思う。
どうして、彼はロケット団に入ったのだろうか、と。
ゲンガーは岩のでっぱりを器用に使いながらミュウツーのサイコブレイクを華麗に回避し、鬼火であたりを照らしながらミュウツーめがけてシャドーボールを繰り出す。
カオルは弱くなりつつある追い風を見ながら金縛りの効果がなくなる時間はそう長くない事を悟った。
追い風の効果でより早く動けるこちらに対し、ミュウツーは電磁波で麻痺状態になっているにもかかわらず、俊敏に動いている様子にカオルは思わず、素早さVじゃなよね、と考えてしまった。
素早さがVであってもなくとも麻痺状態になってしまえば個体差はあるものの、確実に先制は取れる。
ミュウツーが素早く動けるのはただ単に麻痺状態になっても効果が薄いだけなのだ。
カオルはヤドランの電磁波で麻痺状態にするのではなく、ゲンガーの鬼火で火傷状態にするべきだった、と思った。
火傷状態は下手をすると戦闘不能状態になってしまうが、今の状況だとそちらの方が有利にバトルを進める事が出来た。
後悔しても後の祭りなので、カオルは切り替え、ミュウツーを見る。
ミュウツーは自己再生を封じられてゲンガーのシャドーボールを何発か受け、体力的にはまだまだ余裕がありそうなそぶりだが、確実にダメージは蓄積しているようで、多少は息が上がっている様子であった。
それでも、ゲットできる段階では無いとカオルは判断し、ゲンガーに指示を出す。
「ゲンガー、シャドーボール」
ミュウツーを
シャドーボールを打ちながらあたりを照らす為にばらまいていた鬼火を操作し、ミュウツーの行動を制限して、回避ルートを絞ったのだ。
そして、回避ルート線上にシャドーボールが飛んでくる為、何発かミュウツーに当たった。
危うく地下水に落ちそうな程ふらついているミュウツーにカオルは試しにハイパーボールを投げる。
ハイパーボールは空に綺麗な弧を描き、ミュウツーの背中に当たり、赤い光で包み込みこんだ後、ボールの中に閉じ込めるが、地面に落ちる前にハイパーボールを突き破りミュウツーは出てくる。
カオルはふらつきながらも戦う意欲あふれるミュウツーの目に舌打ちしたところで、追い風が止んだ。
時間がない事を悟ったカオルは、ミュウツーがサイコブレイクを放ってきたのを見て、ゲンガーに指示を出す。
「ゲンガー!身代わりでよけてから金縛り」
ゲンガーは多少追い風の恩恵がなくなり素早さは落ちたが、それでも素早く身代わりをしてサイコブレイクを回避し、金縛りを仕掛ける。
金縛りが無事ミュウツーに当たったのか、ミュウツーが続いて打とうとしていたサイコブレイクは形を保つ前に飛散してしまった。
だが、ミュウツーは慌てず瞑想を繰り出す動作をした為、カオルは瞑想積みをさせない為ともうすぐ出来るようになる自己再生対策にゲンガーに怒涛の攻撃をするように指示した。
ゲンガーはカオルの指示に従い、鬼火を出してミュウツーを追い詰めながらシャドーボールをミュウツーに着実に当たるよう調節する。
鬼火とシャドーボールの猛攻にミュウツーもさすがに瞑想を中断し、シャドーボールで対応する。
瞑想二積みのミュウツーのシャドーボールはゴーストであるゲンガーには相性的に一発で沈む可能性があるので、回避させるが、攻撃の手は緩めないように指示する。
何故なら、身代わりで回避または金縛りで封じる動作をしようものならその隙にミュウツーは瞑想か自己再生をしてくる事が容易に想像できるからだ。
それでは今までの意味が無くなるので、沈む可能性が高くともゲンガーの足で回避しながら攻撃を続けさせる。
当たらなかったシャドーボールは洞窟のあちこちに当たり、土煙を上げるが、バトルが見えなくなる程ではなかった。
ゲンガーはミュウツーのシャドーボールに掠りするが、直撃は無い。
だが、掠った程度でもダメージはあるらしく、掠ったところの動きが鈍くなったりしているが、持ち物の黒いヘドロで少しずつ回復する。
一方、ミュウツーは確実に疲弊してきている。
回復技である自己再生が攻撃を受けずに安全に出来るタイミングが無い為である。
自己再生を行うとどうしてもその間、その場にとどまり、回復に専念するので防御も回避もできなくなる。その為、その間に攻撃されやすいというデメリットがあるのだ。
しかも、自己再生をしている時に受けたダメージは回復できない。
だが、ミュウツーはなりふり構っている暇はないと判断したらしい。
ゲンガーの攻撃の中、自己再生をし始めたのだ。
その隙を逃す程、カオルは甘くはない。
「ゲンガー、金縛りをしてからシャドーボール連弾!」
ゲンガーは次の自己再生を封じてからシャドーボールを連続でミュウツーに当てる。
ミュウツーは黒い煙に包まれ、見えなくなった為、一時攻撃を中断し、様子を窺う。
カオルは鬼火を指示し、
再度、鬼火の明かりを利用し、煙の中から攻撃してきたところを攻撃するためだ。ゲンガーは鬼火を出し、煙の中を照らそうとしたその時、煙の中からシャドーボールが
まさかこちらに来ると予想していなかったカオルは驚き、足が動かない。
ゲンガーはすぐさまカオルとシャドーボールの間に割って入り、身代わりで攻撃を防ぐが、その陰に隠れていたもう一つのシャドーボールまでは防げなかった。
ミュウツーのシャドーボールは運悪くゲンガーの急所に当たり、ゲンガーは吹っ飛んだ。
カオルは急いでモンスターボールにゲンガーを戻し、ボールの中を確認すると、案の定ゲンガーは目を回し、戦闘不能状態だった。
唇を噛み締めながら、カオルはすぐさま次のポケモンを繰り出す為、ゲンガーを腰のボールホルダーに戻し、他のモンスターボールに手をかける。
ゲンガーがばらまいていた鬼火に照らされながら、カオルは相性的にはブラッキーが有利だが、即座に却下する。
ミュウツーの今までの戦闘を見ると中距離から長距離型の戦闘タイプ。つまり、典型的な特殊タイプだ。
どくどくで削りながら物理で攻撃する接近戦タイプのブラッキーで接近戦に持ち込めばバトルを有利に進めるかもしれないが、生憎とフィールドが悪かった。
地下水が広がり、水面が多いこの地形では、水タイプ以外のポケモンでポケモンバトルを行う場合、ミュウツーの様に浮かんだり、ゲンガーのような特性ふゆうを使って岩に足をつけ、飛びながら空中戦闘ができない限り自由に動く事ができない。
それ故に、ブラッキーはこのバトルはカオルが選択する手持ちの中で腐っている。
殆ど同じ理由でマリルリもそうだ。
マリルリもブラッキーと同じで物理で殴る接近戦タイプで水のフィールドに強いのだが幾つか対策があるとはいえ、ミュウツーに空中戦を仕掛けられたら苦戦する事は間違いない。
だからと言って、サポートタイプであるピジョットをバトルに戦闘要員として出すのは火力不足。
六匹目は論外である。
そうすると、必然的に一匹のポケモンになる。
「ヤドラン、大文字」
カオルはモンスターボールからヤドランを繰り出した後、
ヤドランは地下水に着水し、黒い煙の中に潜んでいるであろうミュウツーに黒い煙ごと焼き払うという豪快な攻撃を行う。
ミュウツーはその攻撃の範囲外に逃げ切れなかったらしく、大文字をくらう。
すると、青白い光を纏い、大文字は形を変え、ミュウツーに渦の様にまとわりつき、疑似的な炎の渦になる。
ヤドランがカオルの左手の指示に従い、サイコキネシスで大文字を操った為である。
ミュウツーが疑似的な炎の渦から逃げ出そうともがいている間にカオルはヤドランに水面を冷凍ビームで凍らせる様に指示する。
水面は案の定、氷となり、電磁波でヤドランに砕かせた。
ミュウツーが疑似的な炎の渦から出てこれた時には地下水には無数の氷が漂流しており、地下の気温をさらに下げる要因となっていたが、カオルの狙いはそこでは無い。
「ヤドラン、サイコキネシスで氷をミュウツーへ当て給え」
ヤドランはサイコキネシスの青白い光を氷にまとわせ、疑似的な炎の渦から出てきたばかりのミュウツーめがけて投げつける。
ミュウツーは回避しながら、回避できないものはシャドーボールで撃ち落とそうとするが、数発撃ったところで、シャドーボールが形を保てなくなり、飛散する。
PPが切れたのだ。
ゲンガーに封じられたサイコブレイクはまだできないのか回避に徹するミュウツーの様子にカオルはヤドランにたたみかける様に指示する。
ヤドランは細かく小さな氷の粒も利用し、巧みにミュウツーの体力を減らしていき、ついにミュウツーを洞窟の壁に叩きつけた。
ミュウツーが苦渋の表情を浮かべたのを確認したカオルはハイパーボールを投げつける。
ハイパーボールはミュウツーの額に当たり、赤い光で包み込んだ後、ボールの中に入れた。
ボールは岩場に落ちて、一回、二回と揺れ、三回目の揺れが終わり、カオルもゲットを確信した時だった。
「ハクリュウ!ドラゴンテール」
突然、第三者の低い大人の声が響き、カオルがその方向に顔を向けた時だった。
水面から全体的に青く、腹部が白くなっていて体は細長く、四肢に当たる部分は無いポケモン、ハクリュウが出てきてハイパーボールへとドラゴンテールを仕掛ける。
ドラゴンテールは寸分の狂いもなく、ハイパーボールに当たり、破壊された。
すると、ボールの中からミュウツーがフラフラの状態だが脱出し、自己再生を始めた。
カオルは焦りながらも、ミュウツーを守るようにヤドランの前に立ちふさがるハクリュウに攻撃するように指示を出す。
「ヤドラン、冷凍ビーム!」
「ハクリュウ、竜の舞でひきつけてからドラゴンテール!」
ヤドランの冷凍ビームは正確にハクリュウに迫るが、地下水に漂流する氷を上手く利用し、竜の舞でよけながら移動し、ヤドランにドラゴンテールを叩き込んだ。
ドラゴンテールの効果でヤドランはモンスターボールに戻ってしまい、その間にミュウツーも自己再生が完了したらしく多少ダメージが残っていそうだが、動けるようであった。
カオルは邪魔をされた事に憤りを感じながらも、穏やかな表情を保ちながらハクリュウに指示をしたトレーナーの元へと視線を走らせる。
そこにはカメックスの背に乗ったレッドとツンツンの茶髪をした主人公のライバル少年、グリーン。そして、頭には2本の触角と背中には翼を生え、山吹色のボディを持ったポケモン、カイリューの背に乗り、空中で滞空している一人の青年。
「まさか、こんなところで会う事になろうとは思って無かったよ。四天王にして現最年少チャンピオン、ワタルさん?」
「俺としては会いたくはなかったがな」
緋色の髪をオールバックに近い髪型をし、マントを着た青年、ワタルはカオルの言葉にそう答えた。
ワタルさんが出るはずではなかったんですが、いつの間にか出てきてました。
あれ~?